ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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来るとわかっているのだから当然対処する

 

 

 

 

 

 

 

 月城さんに一年生が振り回されているように思える。大量のポイントをチラつかせて行動を過激にさせようという思惑も感じ取れてしまう。

 

 大人が勝手な都合で若者を惑わせるのはどうなのだろうか、その辺はしっかりと反省して欲しいものである……海に沈んでいる間にだ。

 

 

 だがまぁ、一年生の一部だけで情報が出回っている裏特別試験とでも言うべきものは、来るとわかっていればどうにでも出来るというのが正直な感想であった。

 

 ホワイトルーム生と清隆がパートナーを組むという最悪の事態は既に避けられ、だとすれば一年生が取るべき手段はプロテクトポイントも貫通する犯罪行為の演出と押し付けしか残されていない。

 

 清隆も同意見であり、天沢さんの行動に不可思議な点や違和感を持っているようで、警戒心を高めているようだ。

 

 しかし月城さんも大判振る舞いである。プロテクトポイントを剥せば2000万、退学させれば更に2000万、これだけ大きな大金を動かしているのに学校側は不審に思わないのだろうか?

 

 もし違和感や不信感を持たれても無視できるのが理事長という立場なのかもしれないけど、九号から言わせて貰えばわかりやすい位の隙となっているらしい。

 

「いや、内偵対象の不透明な金の流れなんで、当然政府に報告してるっスよ」

 

 月城さんの戦略を不審に思っていると九号がそんなことを言った。考える間でも無く彼女は動いていたらしい。

 

 しかし自分の弱みとなる情報を政府に流されていることに月城さんは気が付いているのだろうか、いつかどこかのタイミングで黒服の人たちに囲まれてどこかに連れ去られたりしそうだなあの人……最後は俺が海に捨てる形になると思っていたけど、そんな結末もあるのかもしれない。

 

 

 あの人を海に沈めるのは、政府じゃなくて俺の役目だというのに……。

 

 

 

 今、俺がいるのはカラオケルーム、別に遊びに来た訳ではなく一年生との話し合いを控えているので足を運んだだけである。

 

 宮本武蔵でも気取っているのか、件の一年生――宝泉は遅刻しているようだが、こちらは余裕があるのでゆっくりとさせて貰おう。

 

 カラオケ店の内部にあるドリンクバーの前で何を飲もうか悩んでいると、九号が見計らったかのように背後からそんな報告をしてきたのだ。

 

 政府の影響下にある学園で、政府の息がかかっていない人が理事長をやっている現状を快く思っていない勢力や派閥に雇われた九号は、しっかりと月城さんを調査していたらしい。

 

「そっか……こっちで処理する前に政府に処理されそうだな、あの人」

 

「珍しいことでも無いッスよ」

 

 彼女からしてみればそうなのだろう。俺よりもずっと政府寄りの超人だからな。チラリと声がした方に視線を向けてみると、九号は俺とは違う場所にあるドリンクバーでコーラをコップに注いでいた。

 

 彼女は別にいつでもどこでも俺の後をつけ回している訳でもなく、今回はこちらから呼び出して仕事を与えている。こちらに忠実な後輩がいるというのは便利なものである。

 

「あれから、天沢さんからの接触は?」

 

「目立ったものはね~です」

 

 まあそうだろう。パートナーは一度結べば解除はできない。どれだけ天沢さんや八神が頑張ろうともそこだけは変わらない。そして九号を懐柔して仲間にしようとしても、既にこちら側である。

 

 なので一年生たちの取れる手段はそこまで多くない。だからこそ動きや出方も読みやすい。

 

 4000万という大金を前に出されて、興奮を隠しきれていない彼ら彼女らが取るべき行動はそこまで多くない。少し冷静になれば自重する行為であってもやはり大金に目が眩んで拙い行動に出るものだ。

 

 特に宝泉などはその動きが顕著なのかもしれない。彼は退院してすぐに、ギプスで固定されている体を引きずりながら、七瀬さんとの間で行われる筈だったクラス間の協力関係を否定したらしい。

 

 改めて七瀬さんから宝泉を交えて話し合えないかと言われて、このカラオケルームで待っているわけだ。

 

 ただ彼はまだ来ていない、七瀬さんは申し訳なさそうに頭を下げるだけである。ある意味では龍園以上に面倒な相手がクラスメイトなので、彼女も苦労しているらしい。

 

「それじゃあ、ウチは手筈通り動きますんで」

 

「ん、宜しく頼むよ」

 

 まあ一年生たちの……いや、宝泉が取るであろうわかりやすい動きはどうにでもなる。それが来るとわかっているのでしっかりと対処すれば良い。それだけの話であった。

 

 月城さんに振り回されるだけの一年生が少しだけ哀れに思えた。ホワイトルームの都合に巻き込まれているわけだからな。

 

「天武」

 

 ドリンクバーの前で何を頼むか悩んでいると、カラオケルームの扉が開いて清隆が姿を現す。

 

「ん? 今ここに誰かいたか?」

 

「きっと野良の忍者がいたんだよ」

 

 いつの間にか九号は消えていた。手筈通り配置についているのだろう。

 

「宝泉はまだ来ないみたいだね」

 

「宮本武蔵でも気取ってるんだろう」

 

 しまった、清隆と同じ表現になってしまった。

 

「彼はこちらが準備万端で待ち構えていることに気が付いているかな?」

 

「どうだろうな。お前に病院送りにされて不安もある中で、オレの首にかかった賞金が他の誰かに取られるかもしれないという焦りもある筈だ。冷静、とは口が裂けても言えないだろう」

 

「そりゃそうか……椿さんや宇都宮から接触は?」

 

「無い、少し離れた位置から様子見はされたがな」

 

「そうか、今は見極めようとしているのかな、あの二人は」

 

「どちらも油断できない相手のようだ。ホワイトルーム生と仮定しても良いかもしれない」

 

「ん、結局のところ俺の主観でしかないから、言ってしまえば何の保証にもならないしね」

 

 もしかしたら椿さんや宇都宮がホワイトルーム出身であることも完全には否定できていない。やはり俺の主観でしかなく第三者視点での証拠は何もないからだ。もしかしたら偽造に長けているだけで俺の観察を潜り抜けている可能性だってあるのだから。

 

「確定的な証拠がない以上、誰であれその可能性があると見るべきで、そしてあちら側であるという前提で動くべきだ」

 

「そうするとしようか、警戒して損することはないだろう」

 

 相変わらず警戒心の高い男である。もしかしたら意外にも九号と相性がいいのかもしれない。

 

「まぁ今は宝泉だ、一番短絡的で行動力のある一年生だからな」

 

 彼を追い詰めて他の一年生への牽制として晒す訳だ。効果があるかどうかはわからないが、やって損することもないのでこの話も受けた次第である。

 

 ドリンクバーでコーラを注文してから借りているカラオケルームの個室に戻ると、そこでは七瀬さんと鈴音さんが話をしていた。

 

「本当にすみません。話が纏まりかけていたのに、邪魔をしてしまって」

 

「……貴女も宝泉くんには苦労しているようね」

 

 そんな七瀬さんの謝罪を受け入れる鈴音さんはどこか同情気味である。ヤンチャ枠に振り回されるのは去年一年で龍園から散々学んだことなので、似たような立場にいる七瀬さんに変なシンパシーでもあるのだろうか。

 

「笹凪先輩も、綾小路先輩も、ご迷惑をおかけします」

 

「あまり気にするな」

 

「うん、俺たちはあまり気にしていないからね」

 

 それに、他の一年生たちへの警告と見せしめの為に、宝泉には多少なりとも強引な手段に出て欲しくもある。俺たちがただ狩られるだけの獲物でないと宣伝したいのだ。

 

「宝泉もようやく来たようだね」

 

「え?」

 

 カラオケルームの個室で待つこと暫く、上級生ばかりで肩身も狭いだろうと七瀬さんを心配していると、店の入口付近から特徴的な気配を感じ取る。

 

 個室の入口に視線を向けてみると、勢いよく扉が開いて不機嫌な顔を隠そうともしない宝泉が姿を現す。

 

 足と手首はギプスで固定されており、病院から貸し出されたであろう杖を片手に引きずるように中に入って来る姿は同情を誘うのだが……完全に自業自得なので七瀬さんですらそんな視線は向けていなかった。

 

 お姫様抱っこされた一年生男子、それが学校での宝泉の評価になっているそうだ。

 

 彼はカラオケルームの中に入って来て、相変わらず獰猛な表情で俺たち二年生を、正確には俺を睨みつけて来る。

 

「呼び出した割には随分と遅かったわね」

 

「なんだ、不満だとでも?」

 

「いいえ、足を怪我している人に早く来いと言うほど非道ではないと思っているから、問題はないわ」

 

 鈴音さんからの軽い挨拶代わりのジャブに、宝泉は露骨に眉を顰めた。こちらの教室に執拗に絡んで来た以前の態度と余裕はどこかに消えているので、やはり焦りがあるのかもしれない。

 

 プロテクトポイントを剥して清隆を退学させれたら4000万、高校生からしてみれば破格も破格、やる気になるには十分だろうし、誰にも渡したくないと考えるのも自然なことだ。

 

 しかし最初の一歩目で足を踏み外して病院送り、心穏やかにはいられないだろう。その余裕の無さが透けて見えるようだった。

 

「七瀬と勝手に話を進めていたようだが、俺はテメエらのクラスとの共闘を認めちゃいねえ」

 

「意味のない主張ね、仮に貴方が反対したとしても、既に七瀬さんとはある程度の調整が済んでいるわ。今更蒸し返さないで貰いたいものね……それともハッキリとこう言った方が良いかしら、リーダーでない人はお呼びではないと」

 

 鋭い眼光をものともせず、鈴音さんがそう返せば、またもや宝泉の苛立ちが強まる。

 

「そもそも宝泉くん、貴方は誤解しているわ……こちらは組める相手を選べる立場なの、Dクラス以外にも1年Bクラスからも声をかけて貰っている。貴方がどれだけごねようとも、それならそれで八神くんたちと組むだけよ」

 

「ハッ、偉そうだなおい。仮にそっちと組んだとしてもそれなりに報酬が必要だろうが」

 

「えぇ、だから何だというの? 私たちの資金力を知らない貴方が心配するようなことではないわね。一年生だからまだ理解していないかもしれないけど、こちらにはそれなりの蓄えがあるの」

 

 具体的な金額は出さずに、資金力の余裕は主張しておく。後はそちらで勝手に想像しろと言わんばかりに。

 

 そして同時に鈴音さんは自分たちが相手を選ぶ立場だという主張を崩していない。あくまでも余裕を維持しながら接する方針のようだ。

 

 実際に余裕があるし、立場もあるからな。別に俺たちは追い詰められてはいないので、絶対にDクラスと共闘しなければならない立場でもない。

 

 宝泉がこの関係を嫌だと言うのならば、八神のクラスと組めばいい、それで終わる話であり、終わらせられるのは俺たちだった。

 

「もう一度言いましょうか、クラスの代表者でもない貴方が、ここに来てごねないで頂戴」

 

 あくまでも強気に、そしてそう出られるだけの状況であることを意識している鈴音さんは、宝泉の鋭い視線をものともせずにそう言い放つ。

 

 余裕のない宝泉は遂に苛立ちを爆発させて、太く分厚い指先を鈴音さんの伸ばそうとするのだが……その直前に俺を見て動きが止まる。

 

 なんだ、やらないのか? そのオシャレな腕時計を粉砕して代わりにギプスで固定してあげるのに。

 

 宝泉の指先が空中で揺れ動く、鈴音さんの胸倉を掴みあげるべきか、それとも何も無かったかのように戻すのか観察していると、迷った末に彼の手は膝の上に戻っていった。

 

 流石に、両腕を粉砕されるかもしれないリスクは避けたようだ。何だかんだで理性は残っているらしい。

 

 それに、宝泉の目標はクラス協力にケチを付けることでもなければ、鈴音さんに暴力を振るうことでもない、清隆なのだから無駄なことに注力すべきでもないとわかっているのだろう。

 

 腕も足も骨折しているのだ、4000万を確保しないと割に合わない。

 

 そして、その焦りと余裕の無さが、そのまま行動の拙さに繋がっていることに、彼はまだ気が付いていないらしい。

 

「七瀬さん、最終確認だけれど、私たちと協力する形で問題はないのよね?」

 

「それは……はい、私はそうでありたいと思っています」

 

「ならば問題はないわね、この話はこれで終わりにしましょう」

 

 まるで宝泉など存在しないとばかりに話を進めていく鈴音さんだが、七瀬さんはそうはいかないのか、凄まじい苛立ちを発している宝泉にチラチラと視線を送っている。

 

「宝泉くん、ここは一歩引くべきです。先輩たちには余裕がありますので、別に私たちと組む必要もない。冷静になりましょう」

 

「俺は冷静だ」

 

「そうは見えません……もしこれ以上、話を拗れさせるのならば、ここでアレを周知させることも視野にいれますよ。貴方の思惑と、クラスの方針を混ぜないでください」

 

「俺の思惑だと? よく言うぜ、どの面下げて言ってんだテメエは」

 

 アレ、とは清隆にかけられた懸賞金だろうか? 確かに周知されれば色々と動きにくくなるだろうし、ライバルが増えるのでこれまでどおり腰を据えてとはいかないかもしれないな。

 

 ただそちらが持っている情報はこちらも既に把握しているので、色々と見えて来るものもある。七瀬さんがこの裏特別試験とでも言うべき物の情報を把握している立場であるということだ。

 

 どちらかと言えば穏健派で、こちらとの関係を重視している形であったが、懸賞金狙いだと考えると七瀬さんも危険な存在に見えて来る。

 

 暫く視線をぶつけ合って睨み合っていた二人だが、最後には宝泉が不機嫌そうに鼻を鳴らして逸らすことになった。勝手にしろと主張するかのように。

 

 或いは、クラス共闘を七瀬さんに丸投げして、自分は本命である清隆に狙いを定めることにしたのだろうか。

 

 だがそちらも意味はないぞ。君は自分で選んでいるつもりなのかもしれないが、冷静さを失って一本道に誘い込まれていることに気が付いた方がいい。

 

 自分が一年生の広告塔になることに、気が付いて欲しいという思いと、絶対にそのまま真っすぐ進んで落とし穴に足を囚われて欲しいという考えもある。何だかんだで後輩だから可愛く感じてしまうのだ。

 

「協力関係を続けるのならこちらに不満はないわ。話は以上ね、そちらの問題はそちらで片付けなさい。いくわよ、綾小路くん、天武くん」

 

 カラオケルームの椅子から立ち上がって鈴音さんは個室を出て行こうとする。それに俺と清隆も続くのだが、そんな俺たちをいつまでも宝泉は睨みつけて来る。

 

 あぁ、わかりやすい位に余裕が無いな。こちらと大違いだった。

 

「七瀬さんの苦労が窺えるわね、宝泉くんという戦力を重要視しながらも、随分と手を煩わせているもの」

 

「宝泉は龍園と須藤を混ぜたような戦力だ、使い方次第では強力な武器にもなる。気持ちはわからなくはないがな」

 

 清隆のそんな表現に、鈴音さんは考え込む。須藤と龍園が混ざった姿を想像しているのかもしれない。何とも言えない表情になっていた。

 

 カラオケ店から出てそんな会話をしていると、背後に七瀬さんと宝泉の気配を感じ取る。あの場で今後のことを話し合うのかと思っていたが、どうやらこちらに話があるらしい。

 

 これは……いよいよ焦りを行動に移して来たのか? だとしたら話が早くてありがたい。

 

 スマホを弄って九号に指令を送っておけば、後は勝手に宝泉が自爆してくれるだろう。この学校は基本的には中立的な立場を崩さないが、決定的な証拠があればその限りでもなかった。

 

「待てよ」

 

「何かしら?」

 

 杖を突きながらも速足でこちらに近づいて来た宝泉の言葉に、鈴音さんは動揺することもなく冷静に対応する。こちらが優位な立場であるという姿勢は宝泉の前では絶対に崩さないつもりのようだ。

 

「このまま黙って帰らせるとでも思ってたのか? テメエと七瀬がどれだけ話をつけようが、こっちにはそれなりの手があるんだぜ」

 

「不毛ね、その手の話をどれだけしようとも結果は変わらないわ。お得意の暴力でねじふせようとでも言うの? その体では不可能よ」

 

「ならウチのクラスの連中に意図的に点数を下げさせるって手もある」

 

「くだらない上に、無意味な駆け引きね。なら私たちは八神くんのクラスと組む、それで話は終わりよ」

 

「ハッ、よく舌の回る女だ……いいぜ、気に入った、ちゃんと交渉に乗ってやるよ。俺がクラスの連中の邪魔することも脅すこともない。お前らがこっちの話を聞くのならな」

 

「ここから先、貴方は邪魔をしないと言いたいのかしら?」

 

「そいつはお前ら次第だ」

 

 彼からしてみれば特別試験で誰がどこと組もうとそこまで興味はないということだ。やはりその辺を七瀬さんに丸投げして清隆に狙いを定めたか。

 

「ついて来い、ここじゃ人目があるからな」

 

「……宝泉くん、やっぱり」

 

「黙ってろ七瀬、テメエはクラス協力だの同盟だのを勝手に進めたんだ、ならこっちは俺の好きにさせて貰うだけだ」

 

 宝泉に案内されたのはケヤキモールから離れて学生寮がある一角だった。丁度一年生の寮の真裏であり、わかりやすいくらいに監視カメラの死角である。

 

 あぁ、ここでやるつもりだな、一年前の龍園がやった一之瀬さんクラスへの攻撃を思い出す。

 

 やった、やってない、ハッキリとした証拠がない状態での水の掛け合いに持ち込むつもりのようだ。そういう所もヤンチャ枠は共通しているのかもしれない。

 

「天武くん、いざという時はお願いね」

 

「勿論、君の危機に俺が動かない訳がない」

 

「綾小路くんは……」

 

「オレに出来ることはなにもない」

 

「……まぁ、貴方はそれで構わないわ」

 

 頼りにならない発言に鈴音さんは少しだけ呆れたようだが、深く追求することなく視線を寮の裏まで案内してきた宝泉に向ける。

 

 腕と足がギプスで固定されて杖を支えにしているとしても、獰猛な気配は隠しきれていない上に、油断もできない気配を纏っている宝泉を警戒しているようだ。

 

「苛つく面してやがるな、そっちが優位だと決めつけて疑ってねえ」

 

「それは事実よ、私たちは選ぶ立場だから。そしてその上で七瀬さんとの協力を視野に入れている。彼女もそれに納得してくれているの……反対しているのは貴方だけよ」

 

 今更、宝泉が何を言った所でこの結果が覆ることはない。もっと言えば批判されるべきなのは彼の方である。今はまだクラスも従っているのかもしれないが、このような状況がいつまでも続くのならば、批判的な意見だって出て来る筈だ。

 

 宝泉が怖くとも、調子に乗って二年生に手足を折られてお姫様抱っこされたというのが、一年生の宝泉への評価なのだから。

 

 そんな焦りが、余裕の無さが、何よりも目の前にぶら下げられた4000万という大金が、こちらがしっかりと舗装してその先で落とし穴を掘った一本道へ進むことを強制させることになる。

 

 すまない宝泉、恨むなら馬鹿な条件を出して一年生を無駄に振り回した月城さんに言って欲しい。

 

 強気な姿勢を崩さな鈴音さんだが、宝泉が懐から取り出した刃物を見て流石に顔色を変えた。

 

「宝泉くん、それは……」

 

「今更ビビったのかよ? 俺はポイントを得る為にここまでする男だ」

 

 

 ハッキリと言わせて貰うのならば、宝泉の考えた戦略は拙いの一言である。

 

 

 清隆から説明されたが、今宝泉が持っているナイフは調理用の高級品、清隆が天沢さんに料理を振る舞う前に、彼女の勧めで購入したものであった。

 

 そう、清隆が買ったナイフであるのだが、それは天沢さんの所有物であり、今は宝泉の手にあるものなのだ。それに気が付いた清隆は、そのナイフが今回の戦略に繋がるだろうと予期していたらしい。

 

 自分にかかっている賞金と、自分が購入した履歴の残っているナイフ、さて行き着く先はどこだろうと考えて、今日この日になった訳である。

 

 事前に来るとわかっているのだから、当たり前のように対処する。この拙い作戦を上手く利用することになった訳だ。

 

 

「グッ!?」

 

 

 宝泉が持つナイフは俺たちに向けられることはなかった、鋭い切っ先はそのまま彼のギプスをしていない方の足に突き刺さり、鮮血を滲ませる。

 

「宝泉くん!? なんて無茶を!!」

 

 七瀬さんが慌てて駆け寄るのだが、そんな彼女の体を突き飛ばして宝泉は痛みに耐えながら邪悪に笑う。これで勝ったと確信するかのように。

 

「イテェじゃねえか!! ははッ、やってくれたなぁおい!! 交渉が決裂した腹いせにこんなことするなんてよ!!」

 

 自分で自分の太ももを突き刺しておきながら、全てをこちらに押し付けて来るのが彼の戦略である。この寮の裏には監視カメラはないので、ハッキリとした証拠を突きつけられない。

 

 やはり戦略が龍園に似ている……だけど残念だ、似たようなことを去年にやった奴がいるので、実はそこまで面倒な策という訳でもなかったりする。

 

 来るとわかっているのだから、こちらは当然のように対処するだけ。だから彼の戦略は拙いとしか言えないのだった。

 

「宝泉」

 

「あん、なんだよ? 言い訳なんざ通用しねえぞ」

 

「悪いが、撮影中だ」

 

「……」

 

「そちらの動きを、こちらが何も把握していないと思っていたのならば、それは勘違いだよ。君が思っているほど、俺たちは馬鹿じゃない」

 

 

 この状況を隅っこの方で撮影していた九号から、録画された一部始終がメールで送られてくるので、それを彼に見せつける。

 

 骨折り損のくたびれ儲けと言うべきなのだろか? 彼の行動の全てを封殺するのに、別に大層な仕掛けや作戦は必要なく、動画があればそれで終わりだった。

 

 

 

 こうして宝泉はまた入院することになる。彼は病室で授業を受けることになるのだが、ここまで来ると教室で授業を受けるよりも病院でモニター越しに学ぶ回数の方が多くなるのかもしれない。まだ入学して一カ月も経っていないからな。

 

 

 月城さん、一年生を振り回すのはもう止めてください。

 

 

 

 

 




宝泉は病院に送る、月城は海に沈める、きっとそういう運命なんだと思う。
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