ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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遂に始まってしまう……よう実で最も長い上に複雑な二次創作泣かせの無人島編が。果たして私は破綻させることなく書けるのだろうか。


無人島試験再び
また夏がやってくる


 

 

 

 

 

 

 

 一年生を巻き込んだ裏特別試験は空振りで終わることになった。宝泉が病院送りになったことで冷静になれたと思う。

 

 彼に関しては暫く病院生活だ。一カ月か二ヵ月か、もしかしたら復帰は夏休みに入ってからかもしれない。一年生の中にはあまりにも宝泉が学校に来ないものだから、ヤンチャ過ぎて退学になったのではと疑う者すらいるらしい。

 

 既に彼が使っている病室にはオンラインで授業が受けられるようにする為に、色々な機材が持ち込まれている。特別扱いをしているような気分になるけれど、こっちも少しの負い目があるので積極的に動いた。退学になられるのも心が苦しい。

 

 彼は犠牲者だ、月城さんとホワイトルームの都合に巻き込まれただけ、なので俺は月城さんを必ず海に沈めると誓いを立てるのだった……宝泉、お前の仇は俺が討つ。

 

 宝泉と言う尊い犠牲によって一先ずは落ち着いた裏特別試験ではあるが、清隆に賭けられた懸賞金は未だに残っている。冷静になった一年生たちはこれから先、様々な手段に出て4000万を取りに来るだろう。

 

 4000万か、人の人生を狂わせるには十分な額なのかもしれない。けしかける方もそうだけど、参加する側も必死になる訳だ。

 

 良い歳した大人が子供を操って何をしているんだか、仕事であることはわかっているけどちょっと呆れてしまうというのが本音であった。

 

 清隆のお父さんも海に沈めないとな、海水で頭を冷やして貰おう。

 

「退学者は出なかったみたいね」

 

「ん、そこは一安心だよ」

 

 黒板代わりの大型モニターに二年生最初の特別試験の結果が映し出されている。OAAでも確認できることであり、きっと今後はテストの結果だったり誰が何点取ったかなんかを簡単に調べることができるんだろうな。

 

 宝泉のアレとか、清隆の懸賞金とか、九号との接触とか、色々とあった特別試験だけれども、本題はテストなのでこうして結果を確認している次第である。

 

 少し不安だった須藤と天沢さんのコンビも無事突破している。流石に関係のない相手をワザワザ退学にさせたりはしないか、天沢さんも今は清隆の信頼を得るターンだろうからな。

 

 隣にいる鈴音さんはモニターに映し出された結果を素直に受け止めているようだ。彼女はあのテストで平均九十点を超える結果を出している。ウチのクラスだと幸村がそれに続く結果を出していた。

 

 学年全体で見てもトップクラスの結果である。ただ本人は嬉しがるというよりはまだまだ満足していないという顔をしているので、本当に頼りになる人だと思う。

 

 因みに清隆はどうかとモニターに映し出された名前を探してみると、平均で75点前後で調整したらしい。九号も似たような点数なので、危なげなく試験を突破することができたようだ。

 

 一安心である。これが八神であったり天沢さんがパートナーになっていれば、頭を抱えていたかもしれないからな。

 

「貴方はまた満点なのね、ここまで来ると少しズルいような気がするわ」

 

 モニターの一番上には俺の名前が記されている500点満点という結果であった。その下に坂柳さんの名前があるな。

 

「今回のテストは本当に難易度が高かった、いつまでも底が見えない人ね」

 

 隣にいる鈴音さんがムスッとしたような、それでいた感心したような表情を見せて来る。

 

「沢山勉強したから」

 

 師匠に高校教育範囲は全て教えて貰ったし、大学範囲もそれは同じだった。頭の中ではいつも寝る前くらいに師匠モードの俺が予習復習をしているので忘れることも無い。そしてこの学校に来てからも細かな情報や知識も吸収していたので、この結果である。

 

 師匠に数学を教えてもらいながらボコボコにされている時は、どうしてこんな知識が必要なのかと思っていたけれど、こうしてテストで良い点数を取れると誇らしい気持ちになれるので、あの地獄の鍛錬も無駄ではなかったということだろう。

 

「まぁ良いわ……でも、次は負けないわよ」

 

 そして彼女は僅かに笑ってそう言ってくれた。美しい表情だと思う。彼女は友人であり仲間でありライバルでもあるということだ。きっと鈴音さんも同じように思っているんじゃないかな。

 

 だとしたら、少し嬉しい。テストの結果に一喜一憂して、次は負けないと意地を張る、凄く青春的な時間なのだから。

 

「あぁ、もちろん俺だって負けるつもりはないよ」

 

 鈴音さんにそう伝えると、彼女はまだ僅かに笑ってくれる。

 

「さて、私はもう帰るわね。テストで間違った所の確認と調整もしておきたいし、今日は生徒会もないもの」

 

「そういえば今日は生徒会がお休みだったっけ」

 

「用事が無いのなら……その、一緒にテストの復習でもどうかしら?」

 

「いや、この後グループで集まろうって話があってね」

 

「なら構わないわ、私は一人寂しく過ごしているから」

 

 そんな寂しいこと言わないで欲しい。俺が鈴音さんを除け者にしているみたいじゃないか。

 

「夜にちょっと答え合わせしようか。鈴音さん、パソコン持ってたよね? リモート会議みたいにして、間違った問題を中心に小テストでも作ってお互いにやってみるとかさ」

 

 すると彼女はしてやったりといった顔をしてくれる。以前よりもずっと接し易くなったというか、距離が縮まったような気がするので嬉しい限りである。

 

「えぇ、約束よ」

 

「ん、そうしようか」

 

 そんな約束をしてからケヤキモールに向かうことになる、ここ最近は物騒な上に一年生と月城さんに振り回され気味だったので、何だかんだで疲れもあるので羽を伸ばしたい気分であった。

 

 同じことを思っているのは俺だけではなく、同学年もそうだが同じように初めての特別試験を乗り越えた一年生たちもそれは同様なのか、校舎から出ていく生徒たちの足の多くはモールに向かっているのがわかる。

 

 彼ら彼女らに交ざってとりあえず待ち合わせ場所のカフェに向かっている途中だ、波瑠加さんと愛里さんが物陰に隠れてとある人物を観察しているのを発見したのは。

 

 この二人は何をしているんだろうかという疑問は、波瑠加さんと愛里さんの視線の先に清隆がいることで納得するのだった。

 

「二人とも、清隆を覗いて何をしているんだい?」

 

「あ、テンテン見てよ。きよぽんがさ、一年の女子となんか仲良さげなの」

 

「あわ、あわわわわわッ」

 

 ケヤキモール内にある店舗の陰に隠れて友人の逢瀬を窺う波瑠加さんはどこか楽しそうな顔をしている。慌て切っている愛里さんとは正反対である。

 

 俺も試しとばかりに隠れて覗き込んでみると、そこでは天沢さんに纏わりつかれて少しだけ困った様子の清隆が確認できた。

 

「天沢さんか」

 

「あれ、テンテンはあの子のこと知ってるの?」

 

「須藤とパートナーを組んだ子だよ。清隆が料理で口説き落としたんだ」

 

「へぇ、なんか色々やってるなって思ってたけど、そんなことまでしてたんだ……というか何で料理?」

 

「料理が上手な男子が好きなんだってさ。だから清隆がごちそうして口説き落としたんだ」

 

「おぉ~……きよぽんもなかなか隅に置けない、まさか料理で後輩女子を引っ掛ける手法を確立しているとは」

 

 何故か戦慄した様子でそんなことを言う波瑠加さんは、改めて視線をケヤキモールの広場にいる清隆と天沢さんに向けた。

 

「う~む……顔良し、スタイル良し、そして愛里にはない積極性、これは強力なライバルの登場かなぁ」

 

「あわわわわわ……腕まで、組んでる」

 

 ただただ困惑するだけの愛里さんは、天沢さんが清隆と腕組をした段階で遂に直視できなくなったのか、パッと視線を逸らしてしまう。刺激が強かったらしい。

 

「愛里~、これは拙いって、後輩から告白されてどうしようか悩んでる場合じゃないよ」

 

「ん? 愛里さんは後輩から告白されたのかい?」

 

「入学してから三人くらいにね、先週にも告白されたって凄く慌てて相談してきたの。どう断ればいいかわからないって言ってくるもんだから」

 

「は、波瑠加ちゃん、それは言わないでよぉ」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

 そんなことがあったのか、しかも三人って……まぁ愛理さんは一年の頃に比べるとかなり垢ぬけて来た感じがある。波瑠加さんと並んで歩いていると思わず視線が引きつけられるくらいに美少女コンビとなっている。告白してきたという一年男子の気持ちもわからなくはない。

 

 しかもモデルまでやっていたので、もしかしたらそっち方面の愛里さんを知っている人もいたのかもしれないな。

 

「一年生が入って来たことで色々と荒れる、学校あるあるだねえ」

 

 そうか、これも学校あるあるなのか。

 

「男女関係なんかまさにそんな感じな訳、マンネリ気味の二年生カップルが入学式の後に別れてそれぞれ別に一年と付き合うとかさ」

 

 恋愛方面の話やゴシップが意外にも好きな波瑠加さんは、清隆と天沢さんを見てどこか興奮気味だ。まぁ見ていて面白いという気持ちはわからなくはない。

 

「ここでずっと見てても仕方がないんだ、声をかけようじゃないか」

 

「あ、天武くん、まだ心の準備がッ」

 

 愛里さんは波瑠加さんに背中を押される形で押し出されることになる。そしてそのままケヤキモールの広場の前にやってくる。

 

「やぁ天沢さん、清隆とデートかい?」

 

「そうなんですぅ、先輩ったらしつこくってぇ」

 

 ニヤニヤと笑いながら清隆の左腕に寄り添う天沢さんは、面白くて仕方がないといった顔をしている。内心は知らないがその顔は嘘が見えない。

 

「冗談は止めてくれ……天武、正直持て余してる。どうにかしてくれないか」

 

「俺に言われても困るんだけどね」

 

「せっかく可愛い後輩にこうして迫られてるんですから、もっと素直に楽しめばいいんですよぉ。せぇんぱい」

 

 甘い猫撫で声と共に天沢さんは指先を伸ばして清隆の顎に触れていく。そんな男女の距離感を無視したスキンシップにもの凄く嫌な顔をしていた。

 

「き、距離が近すぎる、と思うのッ!!」

 

 愛里さんが困惑しながらも普段の消極性を投げ捨てて詰め寄る。珍しい光景だなっと思っていると、そんな愛里さんの天沢さんは挑発的な視線と表情で迎え撃つ。

 

「えぇ~、これくらい普通ですよ、だってあたしと綾小路先輩は、もう部屋にお呼ばれするくらい爛れた関係なんですから」

 

「へぁッ!?」

 

 奇妙な声を上げた愛里さんは、強烈なボディブローを食らったかのようによろめいて、倒れる寸前で波瑠加さんに支えられることになる。

 

「きよぽん……知らない間に大人の階段を上ってたんだね。私は悲しいよ、後輩女子とにゃんにゃんするなんて」

 

「にゃんにゃん? 待て波瑠加、酷い誤解が生まれている」

 

 助けを求めるかのように清隆はこちらに視線を向けて来るのだが、残念なことに師匠から修羅場の解決方法は教わらなかったので俺は無力だ。すまない。

 

 もしかしたら天沢さんはこうして大胆に清隆と接触することで、自分との関係を周囲にアピールしているのだろうか? 確かにこうしてべったりしているとあの二人は交際しているのかと他の者たちは思うだろう。

 

 それが狙いだとすれば、なかなかに効果は大きい。だって愛里さんも波瑠加さんも完全にそんな印象を持っているのだから。

 

「もう、せぇんぱい……恥ずかしがらなくて良いんですよぉ、今日もにゃんにゃんします?」

 

「頼む……誰か助けてくれ」

 

 ホワイトルームの最高傑作も、ハニートラップを上手くやり過ごす方法は知らないということか。

 

 纏わりつく天沢さんはやや強引に引っぺがそうと四苦八苦する清隆を、愛里さんと波瑠加さんは何とも言えない表情で見つめている。特に愛里さんはものすごく動揺しているのがわかる。

 

 そんな彼に救いの手を差し伸べたのは、俺でも無ければ波瑠加さんたちでもなく、驚くことに九号であった。

 

「一夏さん、何してるでやがります?」

 

「あ、銀子さん、やっと来たんだ」

 

 霞のような希薄な雰囲気の九号は、気が付くとそこにいた。こうして声をかけられるまで誰にも気が付かなかったのかもしれない。彼女はそういう存在である。

 

「天沢さん、そちらの彼女は知り合いかな?」

 

「うんそうだよ、あたしのクラスメイトでお友達。鶚銀子って子」

 

「そうか、初めまして鶚さん。俺は笹凪天武です」

 

「どうもッス。笹凪パイセンのことは知ってます。OAAで凄い数値だったので」

 

「あれ、言われてみれば、君って清隆とパートナーになってたっけ」

 

「あぁ……綾小路パイセンと知り合いなんですか」

 

 そんな、まるで事前に示し合わせていたかのような会話をする俺たちは、さて天沢さんにはどう映っているんだろうな。

 

 九号は次に清隆に視線を向けて来る。そしてぺこりと頭を下げた。

 

「綾小路パイセン、試験お疲れさまッス。また勉強教えてください」

 

「あぁ、機会があればな」

 

 同時に清隆との関係も天沢さんの前でさりげなく主張していく。自分と清隆がそれなりに交流があることを匂わせているようだ。

 

 天沢さんもわざわざ九号と友人関係を結んでいる辺り、やはり狙いは彼女経由での接触だろうか?

 

 九号は今現在、清隆と最も交流している一年生という立場である。ホワイトルーム生にとっては色々と利用することができる存在なのかもしれない。

 

 何の打算や思惑もなく天沢さんが九号と友人になる訳もないので、その考えは間違いではないのだろう。

 

 そんな思惑を逆手に取って、自分を操ろうとしているホワイトルーム生を逆に誘導して情報や方針を掠め取ろうとしているようだ。流石忍者汚い。

 

「ね、きよぽんって意外に年下にモテる感じ?」

 

 波瑠加さんが耳元に口を近づけて小声でそんなことを言ってくる。天沢さんではないけれど距離が近いのは考え物である。

 

「いや、清隆って結構モテるよ」

 

「……確かに、言われてみればそうかも」

 

 佐藤さんとか、軽井沢さんとか、愛里さんとか、色々と好意は向けられているのは間違いない。

 

「き、清隆くん……一年生に人気なんだね。にゃんにゃんなんだね」

 

「愛里……だから誤解だ」

 

 人の修羅場は見ているだけで面白い。少し下世話ではあるけれど。

 

 ただずっと眺めているのも趣味が悪いので、俺は九号に視線をやってウインクで指示を伝える。天沢さんを引き剥すようにと。

 

「一夏さん、買い物に行くんじゃないんッスか?」

 

「あ、そうだった。じゃね先輩たち」

 

 やっと清隆が解放されることになる。大きな溜息を隠そうともしない辺り、本気で困っていたようだ。

 

「今日は何を買いに行くんッスか?」

 

「服だって、ずっとジャージとスウェットじゃ女子高生とは言えないしさ」

 

「アレは動き易くて好きなんッスけどね」

 

「そんなんだからクラスメイトから芋女って思われるんだって」

 

「……芋?」

 

 天沢さんと九号はそんなことを話しながらケヤキモールの女性向け衣服店に向かう。きっと打算塗れな上に上辺だけの関係なのだと思うけど、あの子が誰かとああいったやり取りをしているのは少し嬉しい気分にもなる。

 

 誰の思い出にもならない彼女だけど、誰かの思い出になって欲しいと思うものである。俺がこうして高校生活を楽しんでいるのだから、九号だってそうであって欲しい。

 

 同じようにホワイトルーム生だって同様であって欲しいと願っている。

 

 師匠曰く青春は大切とのこと……きっとホワイトルームでは習わない分野だろうな。

 

 九号と天沢さんの関係に注目して、清隆を取り巻く人間関係にも注目して、クラスメイトたちの変化や関係を観測するのも何だかんだで楽しかったりする。

 

「テンテン、また父親っぽい顔になってるよ」

 

「おっと、ダメな癖だなこれは」

 

 また波瑠加さんから父親っぽい雰囲気になっていると指南されてしまう。別に意識してそうしている訳でもないのに、彼女からしてみるとそういう雰囲気になることが多いらしいので気を付けないと。

 

「俺たちも羽を伸ばそうか」

 

「だね、きよぽんの尋問はカフェでもできるしね」

 

「……尋問されるのは確定なのか」

 

「そりゃ勿論、愛里も気にしてるし」

 

「は、波瑠加ちゃん、私は別に……」

 

 愛里さんは清隆にチラッと視点を向けてから、これでは駄目だと自分の考えをすぐさま翻す。

 

「うぅん……清隆くんがにゃんにゃんしてるのか気になる」

 

「だからにゃんにゃんとは何なんだ?」

 

「明人は部活終わりに合流するそうだし、啓誠はテストの復習を軽くやってから顔を出すそうだよ」

 

 スマホにはそんなメールが届いていた。全員が合流すればカラオケにでも行こうかな。それともボーリングとかでも良いのかもしれない。何であれ友人と遊ぶ時間は大切だ。ある意味では勉強や鍛錬以上に。

 

 月城さんとか、ホワイトルームとか、懸賞金とか、そういうのは出来るだけ考えたくはない。

 

 もうすぐゴールデンウィークだからそこでも息抜きできるだろう。それが終われば夏も見えて来る。そんな時期までやってきた。

 

 高校生になって、二度目の夏がやってくる。

 

 

 

 

 

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