ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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ホワイトルーム「育成とは徹底と管理」

師匠「育成とは破壊と再生」


傷害事件 3

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら佐倉さんは事件の目撃者であったらしい。ならばどうして茶柱先生に言われた時に名乗り出なかったのかと言うと、彼女はとても引っ込み思案で積極的な人間ではなかったからだろう。

 

 実際に、綾小路相手でも緊張で固くなる場面も多く、審議の場に立たせることに不安を覚えるくらいには恥ずかしがり屋であった。

 

 仮に彼女を目撃者として審議の場に放り込んだとしよう、緊張で何も言えなくなってしまうのではないか、そんな不安を覚えてしまう。

 

 綾小路も、そして堀北さんも同じ結論に至ってしまうくらいには、佐倉愛理という少女は緊張に弱かった。

 

 絶対に人を殺してそうなランキング一位なんていう不名誉極まりない栄冠を勝ち取ってしまった俺では近づくだけで涙目になってしまう始末である。なのでここは何とか対話が成立させることができた綾小路の出番だろう。

 

 君の持つ巧みな話術と安心感で相手をしっかりエスコートして、どこに出しても恥ずかしくない女性に導くんだよと綾小路に伝えると、彼は宇宙に投げ出された猫のような顔をしていたのが興味深くもあった。

 

 貴重な、おそらくは二人といない目撃者、加えてBクラスではなくDクラスという客観性を持った証人であるので期待したい所である。

 

 上手くやれるだろうか? カメラ映像という文句のつけようがない完全完璧な証拠という訳ではないので不安もあるが、彼女だけに頼るのも申し訳ない気分になってくるな。

 

「綾小路、おはよう」

 

「あぁ、おはよう」

 

 朝の登校中、綾小路を見つけて挨拶して並んで歩く。

 

「佐倉さん、調子はどう?」

 

「まだ説得はしていない、今の佐倉を審議の場に立たしてもな」

 

「ん、難しいだろう」

 

「言ってしまえば他人事でしかない、知らぬ存ぜぬを決め込んでも、責められない」

 

「まぁね、平穏無事に過ごしたいのならそれも悪くはないよ」

 

「笹凪としてはそれだと困るんじゃないのか?」

 

「だからって嫌がる相手を無理矢理連れていくこともできないさ。尊重は大事だって師匠が言ってたからな」

 

「そうか……因みに、そっちの進捗は?」

 

「説得材料はさっぱり集まらないね。堀北さんも言ってたけど、ポイントを渡すからってのは実質敗北だ」

 

「だろうな」

 

「なので発想を飛躍させて、説得とは別のプランも考えてみた」

 

「ほう」

 

「まず、訴えを起こしているCクラスの生徒を秘密裏に処理する」

 

「うん?」

 

 綾小路が宇宙に放り出された猫みたいな顔になった。どうしてだろう?

 

「あぁ、言い方が悪かったね。具体的なことを説明すると、彼らは謎の暴漢に襲われて重傷を負い、暫く入院することになる」

 

「……うん?」

 

「そうなれば審議がどうのこうのとか以前の問題だろう? 訴えを起こした人たちがいなくなるんだから、うやむやにできる。仮にそれでも審議が開かれても欠席裁判になるし、もし先送りにされても退院は数か月後だ、時間は稼げるから色々と工作はできるだろう……証拠さえ残さなければ色々な面倒がこれで片付く」

 

「……」

 

「ごめん、ちょっと疲れてたみたいだ。短絡的に考えすぎていたのかもしれない」

 

「そうみたいだな」

 

 説得材料を集めるといっても簡単なことでもないからな。俺に湯水のように使えるポイントでもあれば別なんだろうが、無い袖は振れないのだ。

 

「だが、あ~、なんと言うか……方向性というか、そういうのも悪くはないんじゃないか」

 

 綾小路がたどたどしく説明しようとしている。なんだろう、ヒントを与えたくて話しているようにも見えて、しかしドンピシャな表現は使わない、煙に巻きつつも尻尾だけを見せようとしているような、そんな感じである。答えを教えたがってる先生のようだ。

 

「力で解決することがかい?」

 

「もう少し柔軟に考えた方が良いと思うぞ……」

 

「ん……ならCクラスを参考にしてみようか」

 

「それも良いかもな」

 

 俺の返答に満足したのか綾小路は頷いた。手間がかかるので避けたかったことでもあるが、彼らの方法を参考にするのも悪くはないだろう。

 

「ん?」

 

 校舎に続く玄関付近で綾小路がとあるものを見つける。それは情報提供を呼びかける張り紙であった。有力な情報には報酬を与えるとも書かれている。

 

「Bクラスも動いているようだな」

 

「そりゃそうさ、こんな面倒事でクラスメイトが停学になるかもしれないなんて嫌だし」

 

 しかもほぼほぼ確実に冤罪だしな。審議で不利になろうものなら絶対に不満が残るだろう。

 

「やっほ!! 笹凪くん、おはよう!!」

 

 綾小路と二人でその張り紙を眺めていると。太陽のように輝く笑顔の女性が姿を現す。一之瀬帆波さんだ。

 

「おはよう、一之瀬さん。今日も君は眩いね」

 

「にゃ!? も、もう、相変わらずだね……えっと、そっちの人は」

 

「俺の友人だよ」

 

 そう言って綾小路の背中を軽く叩くと、彼はぎこちなく挨拶をした。

 

「綾小路だ、あ~、よろしく?」

 

「うん、よろしくね」

 

 おぉ、綾小路も彼女の眩しさに当てられたのか、僅かに目を細めている。

 

「今、この張り紙を見てたんだけど、調子はどんな感じだい?」

 

「決定的なものは何もって感じだよ。動画とか取ってくれてたりした人がいれば良かったんだけど、そんなに都合の良いことは無かったかな」

 

「そんなことがあれば一発解決で楽なんだけどね」

 

「本当にそうだよね……はぁ、千尋ちゃんも参ってきてるし、早く解決できればいいんだけど」

 

「千尋さんというのかい? 今回矢面に立たされてるのは?」

 

「うん、私の友達。凄く優しくて思いやりのある子なのに、こんなことに巻き込まれて、凄く落ち込んでるんだ」

 

 だろうな、しかも冤罪だ。落ち込んで当然だろう。

 

「彼女の為にも、早く解決しよう。俺も助力は惜しまない」

 

「うん、笹凪くんがいてくれたら百人力って感じで安心できるな……なんて言うんだろ、不思議な安定感があるんだよね、笹凪くんって」

 

「過分な評価ではあるが、君に褒められるのは悪い気分にはならないな。つい調子に乗ってしまうよ」

 

 太陽のような人だからな、この子は。俺にはないカリスマ性を持っている。

 

「にゃはは、なら精一杯煽てようかな」

 

 うん、凄くやる気が出ると思う。悲しきかな男の性。

 

 ただ情報収集の進捗は芳しくはないらしい。学校の掲示板でも情報提供を呼び掛けているのだが、決定的な物はない。

 

 綾小路に視線を送ってみると、彼は少し悩んだそぶりを見せながら小さく頷く。

 

「一之瀬さん、実はウチのクラスに事件の目撃者がいたんだ」

 

「本当!? ならこれで――」

 

「ただ、少し問題がある」

 

 そこで説明したのは佐倉さんの性質や気性である。同時に審議の場に立たせることに若干の不安があることも。

 

 審議の場で証言するのに必要なもの、それは理路整然とした主張であり意思だろう。

 

「そっかぁ、そう聞くと確かに証言して貰うのも申し訳なくなっちゃうな」

 

 ここでそんなことを言わないで強引にでも協力して欲しいと主張しないのは、一之瀬さんの善性が見て取れるな。彼女だって焦りがあるはずだろうに。

 

「今、綾小路が説得中……とは少し違うけど、勇気づけてるような感じなんだ。もう少しだけ時間をくれないかな」

 

「うん、もちろんだよ。ゆっくりで良いんだからね」

 

「ごめんね、こちらを急かさないように配慮してくれているのがよくわかるよ。君の優しい気持は俺たちにちゃんと伝わっている、ありがとう」

 

「……そう真っすぐ言われると、恥ずかしくなっちゃうな」

 

 そう伝えると一之瀬さんは少しだけ照れて頬を赤くするのだった。

 

「それと、説得の方だけど、そっちも色々と考えてある。上手く行くかどうかは正直五分五分だけどね」

 

「あ、そうなんだ。詳しく教えて貰えないかな?」

 

「いや、まだ草案段階だからちょっとね、君たちは審議をどう乗り切るかに集中して。こっちは大丈夫だから」

 

 もし詳しく説明したら反対されかねないしな。

 

 そこで俺たちは一之瀬さんとわかれてDクラスの教室に向かうことになる。櫛田さんは色々と聞き込みを手伝っているので忙しそうにしているが、それ以外の者たちにとってはやはり他人事でしかないのだろう。

 

 俺たちがBクラスに協力していることに興味を示しているのは平田くらいのものである。よければ手伝おうかと申し出てくれる辺り、本当に配慮を欠かさない男であった。

 

 しかしできることもあまり多くはない、俺がやろうとしていることにも巻き込めないからな。

 

「笹凪くん、昨日、色々と考えたのだけど」

 

 席につくとさっそく堀北さんが声をかけてきてくれた。昨晩にCクラスを説得する方法を彼女なりに考えてくれたらしい。

 

「ん、ぜひ聞かせてくれ」

 

「それは、うん……勿論そうなのだけど」

 

「どうして言い淀むんだい?」

 

 彼女にしては歯切れが悪い、ズバズバと鋭く切り込んで来るのが堀北さんなのに。

 

「考えた結果、一つ、方法が思い浮かんだの……ただ」

 

「ただ?」

 

 綾小路も堀北さんの考えに興味があるのか、耳を傾けている。

 

「引かないと約束してくれるかしら?」

 

「約束しよう」

 

「本当に? その……呆れたりしない?」

 

 彼女はそこまで念入りに警戒するようなことを口にするつもりなのだろうか? 俺が考えた秘密裏に処理する作戦よりも非道な手法とかだろうか?

 

「勿論だ、君なりに考えて出した答えを否定したりしないさ」

 

「そ、そうよね」

 

 もしかしたら堀北さんは自分が考えた作戦を説明することで、俺や綾小路に嫌われてしまうことを恐れているのだろうか? 友人関係が壊れてしまうことを憂慮しているのかもしれない。

 

 だとしたら可愛らしい、失いたくないと思われているということだから。

 

「わかった、説明する……以前にも言ったけど、Cクラスの説得は簡単じゃない。下手に交渉の場に着いたとしても必ず理不尽な要求を通してくるはずよ。ポイントを払ったり、謝罪をするのは実質的な敗北となってしまうわ」

 

「だろうね」

 

「えぇ、だから譲歩させるのではなく、相手にこのまま続ければ出血を強いられることを示唆する方が良い……言い方は悪いけど、その、脅したりね」

 

 チラッと、堀北さんがこちらをうかがって来る。大丈夫、別に引いたりしてないよ。

 

「なるほどね、堀北さんは相手の弱みを握ってそれを交渉材料にすべきだって考えた訳だ」

 

「そういうことになるわね……私は、別に、その」

 

「わかっているよ、堀北さんの考えも間違ってはいないし、それで君を嫌ったりなんてしないさ。そうだろ? 綾小路」

 

「あぁ」

 

 綾小路も少し感心したような顔をしているしな。確かに真面目でお堅い印象があり、まさにその通りの堀北さんが、こういった絡め手を考えて来るのは驚いたし感心もした。

 

 彼女なりの良心と言うか、善性みたいなもので迷っているようにも思えたけど、交渉の手段としては全然アリだ。寧ろ基本とさえ言っても良いだろう。

 

 正面突破でなにもかも解決できるのは、圧倒的な実力がある者だけ、師匠もそう言ってた。

 

「ん、良い考えだと思う」

 

「そ、そうかしら?」

 

「正攻法で説き伏せるよりは遥かにね」

 

 意外でもあった、彼女がこういった方法を思いつくなんて。

 

「Cクラスは叩けば幾らでも埃が出てきそうだし、その感じで行ってみるよ。まぁ審議で勝てるのならばそれが一番なんだけど」

 

「それは難しいんじゃないかしら。佐倉さんがそういった場で理路整然と発言できるとは思えないもの、対話力が致命的だと思うわ」

 

「……え」

 

 こらこら綾小路、そんな「お前が言うのかって」顔は止めなさい。俺も思ったけどさ。

 

「そこは綾小路の手腕に期待するしかないね。佐倉さんをしっかりエスコートして勇気づけるんだよ?」

 

「あまり期待してくれるな、正直、自信はない」

 

「仮に駄目そうでもこっちのプランも動いてるからさ、気楽にやってくれ」

 

「あぁ、わかった」

 

 佐倉さんは綾小路に丸投げで良いだろう。怖がられてる俺よりはずっとマシな筈だ。

 

 問題なのはCクラスだな。彼らの弱みというか、脅しの材料をどう調達するかっていうのは考えているけど、協力者が必要になる。

 

「堀北さん、俺たちは協力関係、そうだよね?」

 

「そうなるわね」

 

「じゃあちょっとお願いしたいことがあるんだけど、良いかな?」

 

 彼女は力を貸してくれるだろうか? 素直に納得してくれれば良いんだけど。後で凄く怒られそうなのでちょっと怖い。

 

 

 

 

 

 

 

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