ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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一人より二人の方が強い

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、なんでリタイアしてないんだ?」

 

 無人島の中にある森を駆けながら、俺の後ろを付いてくる六助に素直な疑問をぶつけると、彼はいつものように優雅に笑いながらこう返してくる。当然とばかりに。

 

「不思議なことを訊くものだねぇ、私は一言もリタイアするとは言っていないというのに」

 

 確かに言っていないな、グループを組むことを申し込んで来た時も不敵に笑うだけだったか。

 

 大岩を踏みしめ、そこを足場に樹上に飛び移り、最短ルートで指定エリアを目指す。

 

 たった今、先頭を走っていたであろう一年生を追い抜かした所だ。

 

「いや、俺はてっきり速攻でリタイアするものだと思っていたからさ。ちょっとびっくりしたんだ。いつもの君なら面倒事は避けるだろうし、そうだと思ったからこそグループを組むことを受け入れたんだけど」

 

 六助もまた俺が通ったルートをなぞるように追いかけて来る。一年生の悲鳴交じりの驚きを背にしながらだ。

 

「ふむ、私がここにいる理由はただ一つ、興が乗ったというそれだけの話さ」

 

「なるほど、そう言われると君らしくはあるけれど……」

 

「不満なのかね?」

 

「そうではない……いや、う~ん」

 

 月城さんだったりホワイトルームだったりと、面倒事に巻き込む可能性があるので一人の方が身軽に動けるという事情がこちらにはある。

 

 ただまぁ、六助ならば大丈夫なのか? もし月城さんが荒事を彼に向けてくるとするのなら、俺が対処すれば良いだけだと受け入れるしかないか。

 

 しかし確認しておかなければならないこともある。

 

「六助、付いてこれるのか?」

 

 川を飛び越えて中州にある岩に着地して、そこから対岸までジャンプすると、六助は同じように付いてくる。

 

「ふッ、愚問だねぇ。私に不可能はないのだよ」

 

「茶化すな、真剣に訊いているんだ」

 

「ならば証明してみせようじゃないか」

 

 そう言って彼は加速して俺の隣に並び立つ、それどころか追い越して自ら先導を始めた。

 

 

 速くなっているな、去年よりもずっと。

 

 

 六助とはよく手合わせするし、師匠から教わった改造鍛錬も教えているので肉体的には去年よりも遥かに強まっているということだろう。

 

「ふふんッ、私は常に進化しているのだよ。君を観察して、その鍛錬を身に着けてわかった。肉体とは鍛えるものではなく改造するものだと」

 

 改造こそ人生、師匠の言葉である。それが六助にも受け継がれてしまったか。

 

「見たまえ、去年一年で改造した私の肉体を、美しいと思わないかい?」

 

「うん、良い筋肉だと思う」

 

 今ならオリンピックで平然と金メダルでも取りそうだ。それくらいの雰囲気はある。つまり俺寄りの肉体になっているということだ。

 

 同じように手合わせをして鍛錬をしている清隆も、圧縮された筋肉を持った肉体となっているので、彼もまた同じ成長をしたということか。

 

「これでもまだ不足かね?」

 

「いいや、無粋な問いかけだったな」

 

「そうとも、何一つとして不足など無いのだよ」

 

「よし……やる気があるのなら結構だ。六助、力を貸してくれ」

 

「私はいつだって己に従うだけさ」

 

 六助は不敵に笑ってフリーランニングで最短距離を駆け抜けていき、学校が指定したエリアに踏み込んだ。その瞬間に腕時計がポイント獲得を知らせてくれる。

 

 どうやら無事一位で到着することが出来たようだ。基本移動でのポイント獲得は本当に楽で助かるな。

 

「それにだ、私は――」

 

 何かを言いかけて六助は口を閉ざす。彼にしては珍しい反応だと思いながら続きを待つのだが、そこから先の言葉は伝えられることはなかった。

 

「まぁ良いだろう、今はね。それよりもマイフレンド、この試験の方針はどうするのだね?」

 

「まず訊きたいんだけど、ポイントで何を揃えたんだい?」

 

 エリア到着ポイントは奪い去れたので次の指定エリアが開示されるまでは移動する必要はない。なので目標となるのは課題なのだが、その前にしっかりと確認して調整しておく必要があるだろう。

 

「基本的には君と変わらないさ。水に食料、モバイルバッテリー。あぁ、手鏡と美容液などもある」

 

 その辺は六助らしいと言えるのかもしれない。

 

「今回の試験はクラス全体が一つのグループを支援するのだとクールガールは言っていたからねぇ、足りない部分は提供して貰えばそれで解決さ、だろう?」

 

「その通りだ」

 

 それで物資不足に陥っても最悪リタイアすれば良いだけの話だ。既に下位5組は確定しているので何の憂いもない。

 

「ん……よし、なら方針を伝えておこうか。しかし別に複雑な作戦なんて何もない。俺たちは基本移動でも課題でも一位と二位を独占する。それだけだ」

 

「グレィト、シンプルかつベストだ」

 

 ただそれだけで勝てるのだけれど、そう上手く進ませてはくれないんだろうということは予想できる。

 

「とりあえず近場の課題をこなそうか、道中で三年生や一年生の動きを教えるよ」

 

 タブレットを確認してみると、島の地図には幾つかの赤い点が確認できる。その場所で課題が行われる訳だが、セオリー通り一番近い場所にまずは向かうべきなんだろう。

 

「英語テストの課題が近いみたいだ、これに参加しようか?」

 

「問題はないとも」

 

 だろうな、どんな問題が出てくるのかわからないけど、やる気のある六助なので大した障害にはならないはずだ。

 

 この試験は基本移動での競争もそうだが、課題での競争も存在している。定員を満たせばその課題は受けられなくなるので素早い移動が必要となる訳だ。

 

 なので俺と六助はまたフリーランニングを駆使しながら無人島を駆け抜けることになる。無数の木々や岩や高低差のある地面なども多い土地であるのだが、それを障害物として認識できないのはありがたい。

 

 師匠と暮らした山奥を思い出す。平坦な道なんて無くて、この無人島のように広大で複雑な森が広がっていた中を、数百キロを超える仁王像を背負って走り回っていたな。

 

 それに比べれば、リュックに入っている大量の荷物のなんと軽いことか。

 

 一人で挑むつもりではあったけど、まさか六助の力が借りれるとは思っていなかった。彼ならば平然とついてくるだろうし、あらゆる課題でも一位を取ってくれるだけのポテンシャルもある。

 

 一人よりも二人の方が強い、とても当たり前で、そしてこれ以上ないくらいに完璧な理論であった。

 

「今回の試験で一番厄介なのは三年生でね」

 

 いや、本当は月城さんなんだけど、あの人は別枠として一番試験で厄介な相手となるのは間違いなく南雲先輩だ。

 

 川を飛び越えて向こう岸に着地すると、同じように着地した六助にそんな情報を伝えた。そしてまた森の中を駆け抜ける。

 

「三年の南雲先輩は学年全体を支配しているから、結託して一つのグループを勝たせようとしてくるだろう。三年全体が手足となってこちらの妨害をしてくるということだね」

 

「ほう」

 

「ただ、買収している人たちも多いし、全てが全てあの人の手足って訳じゃない。だからといって油断はできないんだけどね」

 

「フッ、何も問題はないさ、既に綻びがあるのならば砂上の楼閣に過ぎないのだから」

 

「ああ、それに不安は他にもあってさ」

 

「ふむん? 心配事があるのかね?」

 

「いや、具体的な指示を出した訳じゃないんだけど……う~ん、寧ろ自重しろって止めた側なんだけど、どうなるかなぁ」

 

 この試験で心配なのはそれぞれの学年の動きや月城さん関連もそうだけど、実は俺が一番危惧しているのは敵の動きではなく味方の動きであった。

 

 いや、だってね、ほら……あの子ってゴリラだからさ。

 

 別に侮辱するつもりもないし、尊重もするし、一応の主従関係を結んでいるとはいえ他所様の子だから強くは言えないからさ、無茶苦茶するなって忠告するのが限界だったんだよね。

 

 あの子、九号は……この学校で一般常識から最も離れた位置にいる子だから、とても心配であった。

 

 大丈夫だよね? 試験が終わったら死屍累々とかなってないよね? 俺はそうならないように忠告した側なんだけど、イマイチそうならないと自信が持てないのが九号である。

 

 心配だ。ゴリラ過ぎる味方がいるせいで敵を心配しなければならないという不思議な状況にいるのが俺なのだ。どうしてこうなってしまったんだろうか。

 

 そう考えると九号はとても有能で強力だけど、使い辛い所があるのかもしれない。相手が月城さんやそれに準ずる勢力ならば積極的にけしかけられるけど、学生相手だとそうはいかないのかもしれない。

 

 そんなことを考えながら森を駆け抜けて課題が行われる地点まで辿り着いた。それほど接点がある訳ではないが、三年生の担任をしている先生が取りまとめている場所のようだ。

 

「すみません。課題に参加します」

 

 申請をするとあっさりと受け入れられる。詳しいルールを確認すると学年によって問題は違うが難易度は変わらないように配慮されているらしい。

 

 俺と六助が参加の申請をして暫くすると他の生徒たちも集まって来た。一年生から三年生まで様々な参加者がいるようだ。その内の一人に知った顔がいたので声をかける。

 

「葛城、君もこの課題を受けるのかい?」

 

 その人物とは葛城であった。同じグループの戸塚と同じ派閥のメンバーもいる。

 

「そのつもりだったが、気が変わった」

 

「え?」

 

「皆、参加する課題を変えるぞ」

 

 しかし彼は俺を見た瞬間に踵を返してしまう。

 

「葛城さん、参加しないんですか?」

 

「笹凪がいる以上は旨味がない。他の場所で一位を狙った方がまだマシだ。勝てない戦いで時間を浪費する必要はない」

 

「ですが二位は狙えるのでは?」

 

 戸塚のそんな指南に葛城は六助に視線を向けてからこう言った。

 

「高円寺の実力は不透明だが、以前の特別試験では高い点数を記録していた。三位狙いをするくらいならば他の課題に向かった方が得だ。行くぞ」

 

 勝てないから他の場所に向かう。どうやら葛城はこの課題を放棄して別の場所で得点を得ようとしているらしい。

 

 冷静かつ素早い判断だと言うべきなのだろうか。情けないと笑う者もいるのかもしれないが、そういった決断もまた試されているということなのかもしれない。

 

 勝てる戦いで確実にポイントを稼ぐ、無意味な時間は使わない。クレバーな判断は流石と言うべきなんだろう。

 

 急ぎ足で別の課題が行われている場所へ移動していく葛城を見送ることになる。彼は彼で坂柳さんとの決着をこの試験で付けなければならないので、注目している一人であったりもした。

 

「規定人数に達したのでこれより課題を開始する」

 

 葛城たちに代わって三年生の何名かが参加したことで規定人数が埋められて、俺と六助は英語テストを受けることになった。学年によって出される問題は異なるようだが、難易度自体は大差がないように配慮されているらしいので、そこで優位性が発揮されることはないようだ。

 

 以前に一年生と組んで行った難易度の高い試験のように、高校範囲から逸脱したような問題が出されることもなく、何の障害にもならない試験である。

 

 終わってみれば、俺と六助は二人とも100点を記録しており、一位と二位を独占する形となっていた。

 

「ん、この調子で課題を埋めて行こうか」

 

「容易いものだ。少し退屈にすら思えてしまうよ」

 

 やる気のある六助は本当に頼りになる男である。何の気まぐれでこうして参加しているのかは知らないけど、ありがたい存在であった。

 

 だって彼がいるだけで課題に参加すれば一位と二位が埋められるからな。必然的に他の参加者は三位しか取れなくなってしまう。当然ながら貰えるポイントは低くなる。

 

 更に理想を言えば、三位すらも独占できるような面子がいればほぼ全ての課題で上位入賞を奪い去れるだろう。他の生徒たちはどの課題に出ても俺たちとぶつかるだけで損をするような状況になるな。

 

 まぁそれが出来る相手は清隆くらいなので簡単にはいかないのだけど。

 

「ふむ、次の指定エリアが更新されたようだねぇ。当然狙いに行くのだろう?」

 

「勿論、一つたりとも無駄にするつもりはない。序盤で一気に突き放して余計な小細工や思惑すら引きちぎって最後まで突き抜ける」

 

 正面突破を意識しながらも小技も忘れない。買収した三年生たちもこちらが有利になるように動いて貰うつもりだし、懸賞金狙いの一年生たちだって好きに動かすつもりはない。

 

 最終的に全てを凌駕して一位になることが目標である。王道も邪道もルールの穴も突ける隙も、ポイントも買収工作も全てを使う必要があるだろう。

 

 己が取れる全ての手段と力と意思を持って結果を勝ち取る。南雲先輩のように玉座にふんぞり返っているような立場でもなければ余裕もないので、まさになりふり構わず全てを出し切るつもりだ。

 

 しかも敵は生徒だけでなく月城さんだっている。正直過労死しないか不安な程である。

 

 だからこそ九号に頼ったのだけれど、だからこそ不安で一杯と言うべきなんだろうか。

 

 なんであれ今は目の前にある課題と移動である。幸いなのは六助のやる気があることなので、そこは本当に楽ができる部分なのだろう。

 

 ある程度のペース配分を意識しながらも凄まじい速度で無人島を駆け抜けていく。その速度に彼は特に苦も無く付いてきてくれるのだ。本当に話が早い。

 

 こちらのグループを組める最低条件がこちらの速度に付いてこれるか否かなので、一人で挑むことも覚悟していたし準備もしていたのだけれど、こうして一人頼りになる仲間がいるだけで随分と楽になる。

 

 後ちょっとで追い抜けるとか、そういう次元の戦いにはしないつもりだ。最終日付近では逆転不可能なくらいの差を作ってから、悠々と月城さんを処理するとしよう。

 

 試験で勝つことも大切、そして月城さんを海に沈めることも大切、二つを同時に進めていかなければならないのが大変だった。

 

 新しい指定エリアを後少しで一番乗りする筈だった三年生を追い抜いてから、一位での到着ポイントを奪い取って、すぐさまタブレットを確認して次の課題を探す。

 

「ソフトボール投げの課題が近いな。六助、自信のほどはどうかな?」

 

「見たまえ、この美しい上腕二頭筋を」

 

「よし、なら行くとしようか」

 

 初日の滑り出しとしては上々の結果なのだろう。基本移動での得点は全力で走れば得られるし、課題であっても俺と六助ならば一位と二位を独占できる。おそらく順位発表される四日目までは大きな問題も無く進める筈だ。このグループが持っているポイントがどれだけなのか正確に把握されればすぐさま他のライバルたちを動き出すだろうから、まだ注目が低い序盤で一気に突き放すとしよう。

 

 ありとあらゆる手段と力を持って全てを凌駕する。戦いとは結局の所それが全てであった。

 

 その日、このグループは基本移動でも課題攻略でも抜群の結果を残すことになる。他のグループがどんな動きをしているのかまだ把握は出来ていないが、初日の出来としては完璧に尽きるだろうことはわかった。

 

 勉強系の課題でも、運動系の課題でも、一位と二位を独占すれば他の生徒は三位しか取れない。当然ながら差は開く一方ということになる

 

 手を抜くつもりもない、このまま全てを置き去りにするとしようか。

 

 

 

 

 

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