ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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それぞれの夜

 

 

 

 

 

 

 

 文句の付けようがない滑り出しによって多くのポイントを稼いだ初日、全ての基本移動と課題で上位を独占した満足感と共に夜を迎えることになった。

 

 テストであっても運動であっても一位と二位を独占する結果になったのだから文句も付けようがない。この学校は色々とあれだけど教育機関という枠組みなのだから当然ながら生徒の実力は最高で100点までしか測れない。

 

 そして常に100点以上を叩き出せる戦力がいるのだから、当然とも言うべき結果なのかもしれない。

 

 このままグループの順位がわかるようになる四日目までは問題なく突き進んでいけるだろう。タブレットを使って1点を消費すれば相手の場所もわかるようになるので戦いが激化するのはそこからだと推測できる。

 

 それまでに大きなリードを作りたいものだ。やっぱり南雲先輩が一番の強敵になるのかな。まぁどこか余裕綽々な感じがまだ抜けきっていないようだったからどうなるかはわからないけど。

 

 何であれ初日の滑り出しは最高だ。この調子なら四日目まではこの勢いを維持できるだろう。そんなことを思う無人島での初めての夜だった。

 

 さてテントはどこに設置するかとか、明日はどうするのかと考えながら、薄暗くなった森の中でリュックを漁って中から栄養バーを取り出して口に含む。

 

「食料は先行のカードで多めにあるし、水も同じだけど、効率を重視してカロリーメイトばかりにしたのは失敗だったかな。もう少し味気のある物も用意すれば良かったよ」

 

「それは何味だい?」

 

 六助は篝火を挟んで向こう側に座り、同じくリュックから取り出した食料を口に運んでいた。彼はその辺のことを色々と考えていたのか缶詰を中心に持ってきたらしい。

 

「チョコ味、普通に美味しいけど、栄養バー特有のパサパサした感じが喉を乾かすね」

 

「クッキー生地だからそれも仕方あるまい。その点、缶詰ならば心配はいらないさ」

 

 そんなことを言いながら六助は俺にリュックから取り出した桃の缶詰を投げ渡して来た。

 

「ありがとう……缶詰か、一応候補には入れてたけど、栄養バーよりも高かったから見送ったんだよね。でもこうしていざ食事の時間になってみると、ありがたい存在になってくるんだから、効率重視も考え物だ」

 

 受け取った桃の缶詰の蓋を指先で引きちぎって中身を取り出す。蓋を開けた瞬間に桃と缶を満たしていた甘い蜜汁が零れそうになったので慌てて吸い込む。少し行儀が悪いけど許して欲しい。

 

「ん、美味いな」

 

 カロリーメイトが悪い訳じゃないけど、二週間ずっとあのパサパサが喉に張り付くと考えれば、桃の缶詰のなんと美味なことか。

 

「栄養バーだろ、それで果物の缶詰……肉類も欲しくないか?」

 

「ふむ、道理だねぇ」

 

「肉類は高かったからなぁ、どこかの課題で手に入れられたら良かったんだけど……まぁここは現地調達だな」

 

 地面に落ちていたゴルフボール程の大きさの石を拾い上げて、暗闇に包まれている森の中に投げつける。

 

「何かいたのかね?」

 

「兎だ」

 

 無人島だけど小動物がチョロチョロしているのはわかっていた。流石に大型の猪であったり熊であったりはいないようだが、小さめの生物は生息している。

 

 午前中の明るい時も、蛇だったりをよく見かけたので、あれも機会があれば捕獲して食料にするとしよう。

 

 石を投げ飛ばした方向に進み、その先にいた絶命した兎の耳を掴んで篝火の近くに戻る。

 

「すまないな、血肉となってくれ」

 

 自分勝手な都合ではあるが、せめてもの謝罪をしてから兎の解体を始めていく。キャンプナイフで血抜きを行ってから皮を剥いで余分な部分を切除していけばあっという間に準備が整う。

 

 これが猪や熊の解体ならもっと手間がかかるんだけど、兎ならこれくらいで捌ける。

 

 それにしてもこの兎はどこからやって来たのだろうか? 無人島ということだから人気はないけど、もしかしたら以前は人が住んでいてそこで飼われていたのかもしれないな。それが野生化したんだろうか。

 

「ほう、随分と手慣れているじゃないか」

 

「以前に、俺を育ててくれた恩師にジャングルに放り込まれたから、そこで覚えた」

 

 後、師匠と暮らしていた山奥の神社には偶にだけど猪や熊も出没したので、よく戦わされていた。命を奪った以上は血肉に変えろと言われていたのでしっかりと腹に収めたな。

 

「食べるかい?」

 

「せっかくだから頂こう」

 

 兎肉を枝に刺した状態で六助に渡す。缶詰のお礼としてだ。

 

 そして俺と彼は共に篝火で兎肉を焼き始める。こうしていると、いよいよサバイバルっぽくなってきたな。

 

 別に食料が不足している訳ではないけど可能な限り節約はしたいし、バランスの悪い食事ばかりだとこの二週間のどこかで体調を崩す可能性もある。何事も節約としっかりとした食生活を心がけるべきだろう。

 

 肉、野菜、果物、栄養バー、長丁場な試験なのでこのローテーションが理想的である。

 

「思っていた以上に悪くない。なかなかワイルドな味わいじゃないか」

 

 兎肉がそれなりにお気に召したのか、六助はいつものように高らかに笑ってくれた。

 

 もっと優雅に洒落た感じで食事をするのかと思っていたけど、思っていた以上に適応能力が高いのかもしれない。食堂で普通に肉類は食べれても、目の前で解体した肉は食べれないという人は結構多いから、抵抗なく口にできる側の人間ならば今後の食糧調達でも文句は言わない筈だ。

 

 2人して串に刺した兎の肉を焼き、果物の缶詰を食べる時間は悪くない。なんだかキャンプでもしている気分になってくる。

 

「……皆は大丈夫かなぁ」

 

 こうして落ち着いて食事をしていると気になるのはクラスメイトたちである。そして同じ試験に参加しているライバルたちだって心配になった。

 

「君はよく父性を感じさせる表情になるねぇ、それは長所でもあるのだろうが、短所でもあると私は思うよ」

 

 篝火の向こう側で丸太に腰かけた六助はパイナップルの缶詰を開けながらそんなことを言って来た。波瑠加さんにもよく言われることではあるけど、またそうなっていたらしい。

 

 しかし、短所か、そう言われるのは初めてだな。

 

「一つ訊いてもいいかな?」

 

「何かね」

 

「いや、どうして急にやる気を出したんだろうなって思ってさ」

 

「言っただろう、興が乗ったと」

 

「本当にそれだけなのかい」

 

 すると彼は肩をすくめて、まるでハリウッド映画のアメリカ人のようなわかりやすいポーズを見せる。多分俺がやってもどこか似合わないのだろうけど、彼がやると様になるのだから不思議だ。

 

「そうだねぇ……実は目的というか、ちょっとした思惑はあるさ」

 

 だから今回に関してはやる気があると……しかしその理由が俺にはわからなかった。

 

「ふむ、まぁ良い機会だ、伝えておこうか」

 

 六助は新しく焼いた兎肉を頬張って暫し思案するとこう切り出す。

 

「マイフレンド天武、君はいつも常に他者に気を使っているようだが、疲れはしないかね?」

 

「ん……疲れるということはないけど」

 

「そうかな? 窮屈で不自由な生き方をしているようにも思えるがねぇ」

 

 六助からしてみれば俺はそう見えるのだろうか。

 

「鳥は羽ばたいて自由に飛ぶから鳥なのだよ。鎖で雁字搦めになって地べたに張り付いていては意味がないだろう」

 

 なんだろうな、前にも鬼龍院先輩から似たような表現を聞いたことがある。

 

「多くの者が君に頼り、多くの者が寄りかかる、君を地上に縛り付けるかのように。強者の義務と言えばそれまでだがね……生憎と私はそれを良しとは出来ない性分なのさ」

 

「つまり?」

 

 

「私は君に守られるほど弱くはない、それを証明したいのさ」

 

 

 それが、六助が今回の試験でやる気を出した最大の理由であるようだ。なるほど、どこか納得できてしまう。

 

「強者の義務をただ淡々と遂行する精神には敬意を表そうじゃないか。しかしだ、いつかどこかで君は疲れて倒れてしまうのではないかと危ぶんでいる。この高円寺六助がそれを良しとするとでも? 断じて否だ」

 

「だから手伝ってくれる訳か」

 

「YES。お荷物ではなく、背中を預けられる者がもう一人くらいいても贅沢ではないだろう」

 

 もう一人か、もしかしたら彼は清隆の存在や実力をある程度は察しているのだろうか? もしかしたら俺との協力関係も見透かしているのかもしれない。

 

「なるほど……つまり俺は、君に気遣われている、そういうことだね?」

 

「そうさ、光栄に思いたまえ。この私にそこまで気遣わせたことを」

 

 いつもの高笑い夜の森に響かせる六助を見て俺は自然と笑みを浮かべていた。

 

 高円寺六助という男は唯我独尊で自由気ままな、それを信条とする人だと思っていたし、実際にそんな評価は間違いではないんだろうけど、同時に己の中にあるルールや誇りを尊重する存在でもある。

 

 そして何より――情熱を内に宿す男でもあるということだろう。

 

「ありがとう、感謝するよ。何度も思うことだけど、一人じゃないってことは、重要なことだ」

 

 どうにも俺は周囲の人たちに、危なっかしいというかどこか心配される傾向にあるらしいので、助けて貰えるのは凄く助かる。

 

 思い出すのは師匠の姿である、誰も並び立てない場所に立つあの人はいつも誰かを求めているようにも見えた。いつか俺がとは思っているけれど、もしその時が来ても俺と師匠の場所が変わるだけなのかもしれない。

 

 師匠を目指しながらも、師匠と同じ孤独の路を歩まない、それが大切なのかもしれない。

 

 背中を預けられる人がいるのならば、きっとそうはならないだろう。

 

 不敵に笑う六助に感謝しながら、俺は人に恵まれていると改めて思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綾小路視点

 

 

 

 

 

 夏の特別試験、無人島でのサバイバルが開始されて初日の夜を迎えた。

 

 天武が一年生を口説いたことで既に下位5組は決定しており、現時点でリタイアしても問題はないのだが、月城やホワイトルーム生を釣りだす為に単独行動をすることになった。

 

 今は夜、もし襲撃をかけるのならば都合の良い時間だろう。事故に見せかけるにしても堂々と襲い掛かるにしてもだ。

 

 薄暗い森から、或いは影に潜んで、いつ来ても良いように警戒は怠っていないが、ずっと張りつめているのはそれはそれで疲労が溜まる。

 

 それでも釣りだし作戦を実行する以上は、黙って耐え忍ぶしかない。

 

「どうもッス」

 

 薄暗い森の中にテントを張り、目印としてランタンを置いておくと、三十分ほどで足音も気配もなくとある一年生が姿を現した。

 

 本当に何の気配も存在感もなく、背後にワープでもしたかのような感じだったので、もの凄く驚いたことは秘密にしておこう。

 

 鶚銀子、リタイアした筈のこの一年生は平然と無人島で活動しているようだ。当然ながらGPSとなる腕時計もタブレット端末も持っていない。

 

「目印用のランタンを置いていたとはいえ、よくここにいるとわかったな」

 

「船から下りる前に教師用の特殊端末を覗いて生徒の位置を大まかに把握してから来たんで、ヨユーッスよ」

 

「そうか」

 

 あの豪華客船は既に無人島を離れて沖合に出ている。鶚の髪が濡れていることからどうやら泳いで無人島に潜入したらしい……天武もそうだが、超人と呼ばれる存在はどこか常識的な行動を放り投げる傾向にあるらしい。

 

 きっと、溺れてしまうとかそういうことは最初から考えないのだろうな。沖から無人島まで平然と泳いで来たということか。

 

「綾小路パイセン、お腹減ってませんか。ここに来る前に調達したんで良ければどうぞ」

 

「……そのリュックはどうしたんだ」

 

 鶚は背負っていたリュックを雑に地面に落とす……それも三つ。

 

「奪いました」

 

 何の悪気もなく、平然とそんなことを言ってくる。それが当然とばかりに。

 

「物資と武器と協力者の現地調達は忍者の基本でやがります」

 

「一応聞いておくが、バレてはいないよな?」

 

「そりゃ当然ッスよ。腕時計も無いんで学校側も誰がそこにいたかなんて把握できてません。このリュックの持ち主も、ちゃぁんと三年生を対象にしましたんで。なんか篝火を作るのに集中してたんで、こっそり拝借しました」

 

「略奪行為はルール違反だぞ」

 

 すると鶚は鼻で笑って見せる。

 

「いや、ウチにそんなこと言われても困るッス」

 

 略奪したリュックの中から食料を取り出して、カロリーメイトと缶詰をこちらに投げ渡してくる。これでオレも共犯になるのだろうか?

 

 まぁ鶚は腕時計も付けていない。リュックを奪う時も姿を見られてはいないとのことなので「そこに誰がいたか」を証明できないと言うことだ。それこそ学校ですら把握できない。腕時計がないからな。

 

「しかしまぁ、無茶をするものだ。速攻でリタイアした後に平然と無人島まで来るなんて、ここまで試験に真剣にならない生徒がいるとはな」

 

「ウチは特別試験にもクラス闘争にも、それこそAクラスでの卒業も興味ないんで、もっと言えば退学になっても良いんッスよ。本命は内偵なんで、ご存知でしょう」

 

「そうだな、そこはありがたいと思っている」

 

 この学校でここまで身軽に動ける生徒はいないだろうからな。

 

「腕時計もないんで月城からはずっと綾小路パイセンが一人で行動しているように見えやがります。上手くやりましょう」

 

 オレが一人でいるという前提が腕時計の有無で消滅する。まさか月城も試験を最初から放棄してこちらの駒になっている相手がいるとは思わないだろう。その油断と慢心を鶚がいれば突ける。

 

 略奪したリュックから取り出した食料を頬張る鶚は、相変わらずどこか希薄で存在感が感じ取れない。瞬きすれば姿を見失いそうな感覚すらあった。

 

 月城にとっては予想外の戦力となるんだろうな。天武は意識していてもこの一年生は完全に意識の外だろう。

 

「一応、説明しておきますが。ウチがご主人から受けた命令は綾小路パイセンの護衛でやがります。それとやり過ぎないようにも命令されたッス」

 

「……やり過ぎないように、な」

 

 視線は自然と地面に転がっているリュックサックに向けられる。鶚にとって略奪行為はやり過ぎの範疇に入らないのだろうか?

 

「死んでね~んですから大丈夫ッスよ。最悪リタイアしても退学にはならないんッスから気楽なもんです」

 

 ランタンを挟んで向かい側に座った鶚は、我が物顔で略奪品を口に放り込んでいく。

 

「ウチらにとって重要なのは、試験に勝つことじゃなくて月城の排除、そうッスよね?」

 

「そうだな」

 

「なら、パイセンが一人でいると思ってノコノコ来た所をぶん殴ってやりましょう。そこまでわかりやすい隙を晒してくれる絶好の機会でやがりますよ、この無人島はね」

 

 ご丁寧に撮影用のスマホまで用意しているらしい。月城がどれだけ権力を持っていようが動かぬ証拠を確保すればそれでどうにでも処理できる。そういう算段であった。

 

 鶚は護衛で、オレは餌だ。月城やホワイトルーム生がノコノコ出て来てくれることも期待するとしよう。

 

「ウチにとっても、綾小路パイセンにとっても、共通の敵が間抜けを晒してくれそうなんですから、頑張りましょうよ」

 

 そこに関しては完全に同意できる。

 

「異論はない……ただ気になるのは、お前が船から消えたことを不審に思われたりはしないのかという点だ」

 

「大丈夫なんじゃないッスか。大半の職員は無人島にいますし。ウチは教師側の協力者に体調不良で個室を貰って休んでるって設定を作りましたよ。診断書も今頃作られている筈ッス」

 

「なるほど、お前が今、船にいるという客観的な証拠がある訳か」

 

「そうッスよ」

 

 手慣れているというか、そういった行動に躊躇がないように思えた。騙して嘘をつくことを日常としているかのように自然で当然なことのように思っている人種ということだろう。

 

 やはり、油断はできないな。ホワイトルーム生とは違った意味でそう思う。

 

「わかった……ここから先、長丁場になるだろうが、よろしく頼む」

 

「勿論ッスよ、それがご主人の命令なんッスから、当然付き合います」

 

 その言葉に、ふと鶚と天武の関係が気になった。単純な後輩先輩ではないことはわかるし、所謂超人と呼ばれる存在が関係していることは理解しているのだが、両者の間には不思議な信頼があるように思えたのだ。

 

 良い機会だ、鶚から見た天武を知っておこうか。きっとオレよりも多くのことを知っているだろうから。

 

「鶚は天武との付き合いは長いのか?」

 

「まぁ、それなりッスね」

 

 新しい缶詰の蓋を開けながら鶚は頷く。

 

「最初に会ったのは……何年前だったッスかね? ウチの師匠とあの人の師匠が知り合いなんでそれが縁で顔合わせしたんッスよ。そんでそこで殺し合いました」

 

「……うん?」

 

 何故か話がいきなり別方向にねじ曲がったな? 何で初対面で殺し合うことになるんだろうか。

 

「いや、師匠がやれって言ったんで、とりあえずやろうとしたんですけど、返り討ちにあったんッスよ」

 

「そうか……オレにはよくわからないが、険悪な仲なのか?」

 

「いえ、別にそういう訳じゃないッスけど、手合わせの延長みたいなもんなんで、たとえ負けても後腐れはなかった感じですって。まぁ殺す気で行きましたけど、ご主人はこっちを殺さないように加減してたんで……まぁ完敗ッスね」

 

 何でもないような感じでそう説明してくる。その表情に一切の陰りや不満もないので、殺し合ったというのに何の後腐れもないというのは間違いないんだろう。

 

「ウチはこれでも鶚衆の里では天才なんて呼ばれてたんッスよ? 師匠に負けるのはしゃーなしにしても、同年代に負ける日が来るなんて思っても無かったッス……あれ以来――」

 

 そこで鶚は視線を上に向ける。木々の隙間から僅かに星空が見えており、どこか遠くを羨望するかのような表情となっていた。

 

「ウチは決めたんッス、この人の子供を孕もうって」

 

「……うん?」

 

 また話が吹っ飛んだな、どうしてそんな結論に至ったんだ?

 

「師匠も笹凪流の高弟なら問題ないって言ってくれましたし、あっちの師匠もまぁ良いんじゃないかって言ってくれましたんで、何も問題はないッスよね」

 

「いや……え~と」

 

 オレはどう答えるのが正解なんだろうか? こんな問題はホワイトルームでは習わなかったぞ。

 

「つまり、鶚は、天武と交際したいと言うことか?」

 

「いや、なに言ってるんッスか?」

 

 何故首を傾げる、そしてそれはオレのセリフだ。

 

「あの人とウチの子供なら最強の忍者が育てられます。それもウチの仕事なんで相手を探してたんッスけど。やっぱご主人が一番かなって」

 

「交際とか、結婚とか、そういう話ではないってことか」

 

「うん? まぁそういう契約体系が必要なら別に構いませんけど、子種さえ貰えればウチは満足っすよ」

 

 女子高生が子種がどうのと発言するのはどうなんだろうか、恥も慎みもあったものではない。

 

「それにウチら鶚衆はどんな時代でもそうやって血を繋いで来た一族ッスから。強い男を選別して強い子供を作る、そうやって血と肉をアップグレードして戦国の世からここまで続いた。その最先端にいるのがウチなんッスよ」

 

 よくわからない集団というのが、鶚の説明でよくわかった。

 

「その言い分だと、別に天武のことは好きじゃないのか?」

 

「好きッスよ。強いし、金払いも良い。懐も深いので主として仰ぐ存在として完璧ッスから。英雄に付き従って血を分けて貰うのが鶚衆の生存戦略ッス。ご主人がこの学校にいるって知ったからこの仕事を受けたと言っても過言ではないッスね」

 

「そうか……まぁ頑張れ」

 

「当然ッスよ。血を強く強靭に、生物の基本ッス」

 

 こうして鶚と話して理解したことは、目の前にいる少女は一般や普通から大きく逸脱した考えや価値観を持っているということだった。ホワイトルーム出身のオレが言うのもなんだが、鶚銀子はどこかおかしい。

 

 天武もどこか一般的な感性や価値観からズレた所は度々見せるが、アイツはそれを不自然だと自覚して修正しているようにも思える。

 

 しかし鶚は違った、自分の中にある柱となる価値観を絶対としており、他者との違いに違和感を覚えることはない、そんな印象がある。

 

 ある意味では、この学校で一番の異常者であるのかもしれない。

 

 ホワイトルームも常識というものを蹴り飛ばしていたが、外の世界には同じように当たり前の日常や常識から逸脱した誰かがいるということだろう。天武もそうだし鶚もそうだ。

 

 世の中にはホワイトルームでは学べない色々な非常識がある。オレはまた一つ賢くなったようだ。

 

 一抹の不安もある相手だが、鶚は貴重な戦力なのでしっかり働いて貰うとしよう。月城が把握していない戦力というだけでもの凄く貴重だからな。

 

 それに、一人の夜でないというのは、心強くもあった。

 

 同行者はちょっとアレだが、一人で月城やホワイトルーム生に挑むよりはずっとマシなのだろう。そう思うしかなかった。

 

 とりあえず色々と話しておこう。鶚を知ることも重要であった。

 

「そう言えば、鶚は一年生たちの懸賞金狙いに参加しないのか?」

 

「いやしないッスよ。払われるかどうかもわからない4000万でご主人を敵に回すくらいなら、そのご主人の味方になって確実に4000万貰った方が効率的で勝算が高いんッスから」

 

「なるほど」

 

「ウチからしてみれば、一年生たちのやってることは手の込んだ自殺でやがります。正しくご主人の力を知っていれば、あんな無謀なことはしないッスよ」

 

 鶚の中で天武はそれだけ高い評価と脅威があるということか。

 

「忍者はいつだって強い人の味方でやがりますから」

 

 わかりやすくてとても単純な理論と言えるのだろう。鶚のことが少しわかったような気がする。

 

 長丁場の試験なので、観察する機会はこれから幾らでもあるだろう。鶚銀子という人間をもっと知って理解したいと思った。

 

 

 

 

 

 

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