ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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夜の語らい

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験が激化するのが四日目以降、そして他者の位置がわかるサーチ機能が解禁されるようになる六日目以降だという推測はそこまで的外れなものでもなかったらしい。

 

 それがわかったのは昼間の試験中だ。課題であったり基本移動であったりとポイントを稼ぐ手段が色々とある訳だけど、どのグループも様子見とペース配分を意識しているようにも見える。

 

 長丁場な試験なので当然の判断でもある。こちらのグループはそんなことは知ったことかとばかりに常に全力であるが、ペース配分は普通に大切なことだろう。

 

 そんな全体の意思もあってかまだまだ穏やかな雰囲気が感じられる。試験二日目なので余裕もあるだろうし焦りだって感じる必要はない。

 

 なのでそんな空気を利用して俺と六助は全力疾走である。序盤の様子見と余裕を突いて一気に他のグループを突き放す方針であった。

 

 不可能ではない。基本移動は早いし、課題に関しても常に一位と二位を独占できている訳だからな。

 

 妨害が激しくなるであろう六日目までは徹底的かつ貪欲にポイントを得ていく方針であった。

 

「ではこれより課題を開始します」

 

 時刻は午後五時前、時間的にもそろそろこれが最後の課題となるだろう。この日も複数の課題を六助と一緒に受けたのだが、その全てで一位と二位を独占することができたので、本日最後の課題でも同じような結果を残したい。

 

 生徒たちに渡されるのはサイコロだ。なんの変哲もないそれを投げて出た目の合計を競い合うという完全に運勝負な課題であった。

 

 運動だったり勉強だったり雑学だったりと、この無人島で行われる課題は様々だけど、まさかサイコロを振るだけの課題があるとは……ただまあ運も実力の内ということなんだろう。一つくらいこういった試験があっても良いか。クイズなんかもあるみたいだし面白くはあった。

 

 渡された三つのサイコロを茶碗の中に転がす。三つのサイコロが転がって弾き合って最終的に出た目は18だった。三つのサイコロの全てが6の目を出したということだ。

 

 他の参加者たちは残念がるように溜息を吐いているので、どうやら俺が出した目が最も高い数値であるらしい。

 

「ふふん、児戯にも等しいようだねぇ」

 

 いや、六助がこっちと同じ数字を出しているな。彼もどうやら全ての目を6で揃えたらしい。

 

「やるな六助、狙ったのか?」

 

「フッ、言っただろう。この程度は児戯だとね」

 

 サイコロ賭博に長けた者の中には狙った目を意図的に出せる者もいるらしい。六助が実際にそれができるのか、それとも只の偶然であったかどうかはわからないけど、こうして一位と二位を独占できたのだからどちらでも構わないか。

 

 重要なのはただ一つ、この日も最高の結果で終えられたという点である。

 

 サイコロで得た課題の報酬はまたもや肉だった。あって困る物ではないけれど保冷材のない状態では長く持たないので今日中に食べてしまいたいな。リフティングの課題でも同じく肉を貰ったので少々過剰供給気味であった。

 

 捨てるのは流石に勿体ない。今晩はちょっと贅沢に焼き肉だな。調味料が無いのはアレだけど素材の味わいを楽しむとしようか。

 

 午後五時を越えたので本日はもう課題が行われることはない、なのでどこか水場の近くでキャンプでもしようかと考えて川近くまで移動すると、対岸に俺たちを呼ぶ者が現れた。

 

「お~い笹凪、それと高円寺、お前らもこの辺で休むのか?」

 

 その相手とは山内である。彼の近くには同じグループの池と須藤の姿もあり、どうした訳か清隆と七瀬さんの姿があった。清隆はともかく七瀬さんはどうしてここにいるのだろうか。

 

 そして清隆がここにいるということは、近くに九号もいる筈だが――いたな、木の上で枝に座って身を隠しながらもこちらに手を振っている。目立たないように顔には迷彩ペイントを塗り、服も迷彩仕様とは、徹底しているな。流石忍者だ。

 

「あぁ、そっちもキャンプかい?」

 

「おぉ、せっかくだしお前らも来いよ、池が魚を釣ってこれから食べようって所なんだ」

 

「だってさ、六助はどうする?」

 

「構わないとも、肉は大量にあるのだから魚もまた欲しかった所だしねぇ」

 

 貰えることを前提に話す六助に少し苦笑いを浮かべながらも、まぁ彼らもそこまでケチではないと思うので、今日の夕飯は豪勢になりそうだと思った。

 

 川を飛び越えてあちら側に移動すると、魚を焼く匂いも漂ってくる。

 

「よう、調子はどうだ?」

 

「やぁ須藤、ボチボチだよ、そっちは?」

 

「悪くねえよ、完璧って感じでもないがな……あ~、お前は高円寺と一緒なんだろ、自分の心配をした方が良いぜ」

 

「問題はないよ、六助はこう見えて情熱的な男だからな」

 

「フッ、よくわかっているじゃないか」

 

 不敵な笑みを浮かべる六助は一切遠慮することなくキャンプファイアーの前にドカッと座ると、そこで焼かれていた串に刺さった魚に手を伸ばして食べ始めた。

 

「あ、高円寺テメエ!! なに勝手に食ってんだよ!!」

 

「おかしなことを言うねぇ、これは客人に振る舞う為にあるものだろう」

 

 魚を焼いていた池が怒るのだが六助はどこ吹く風だ……本当にすまない。

 

「悪いな池、代わりと言ってはなんだがこちらからは肉を提供しよう。ちょっと立て続けに手に入ったから量が多くてさ、でも保冷材もない状態でいつまでも持っていたくはないから、今日中に処理したい」

 

「マジかよ!! 良いぜ良いぜ、一緒に焼こう」

 

 これで問題はないだろう。肉と魚で豪勢な夕飯となった。

 

 鼻歌を奏でながら肉を串焼きにしていく作業は池に任せるとして、こっちはこっちで気になることを確かめるとしようか。

 

「清隆、どんな感じだい?」

 

「ほどほどだ」

 

 挨拶代わりに拳を差し出すと、彼も前に出してくるのでコツンとぶつけ合う。そんな俺たちのやりとりを七瀬さんは興味深そうに見つめていた。

 

「ところで、何故七瀬さんがここに?」

 

「あ、私の我儘で綾小路先輩に同行させて貰っているんです」

 

「そうなのか、何か事情があるのかな」

 

「いえ、深刻なことではないのですが、同じグループの宝泉くんと天沢さんが単独行動を始めて心細かったので、近くにいた綾小路先輩に頼らせて貰いまして」

 

「あぁ、確かに、清隆は頼りになるもんね」

 

 どこまで本音かはわからないけど、清隆的には釣り上げた獲物の一匹みたいな感じなんだろうか。七瀬さんの思惑はどうであれ暫くは付き合うつもりだと小さな頷きで意思を伝えてきた。

 

「お肉が沢山あるから、楽しんでいってよ」

 

「ありがとうございます。気遣っていただいて」

 

「気にしないで、清隆もそうだけど女の子には優しくするものさ」

 

 彼女の対処は清隆と九号に任せるとしよう。よく鍛えられているし不自然な思惑の全ても見通すことはできないけど、それくらいならばどうとでも対処するだろう。

 

 とりあえず須藤グループのキャンプから少し離れて、俺は自分のテントを組み立てていく、丁度九号が身を隠している木の下辺りで。

 

「七瀬さんのことどう思う?」

 

 テントを組み立てながらも皆に聞こえないようにそう独り言を零すと、樹上の九号はこう答えて来る。

 

「それなりに鍛えてるんじゃないッスか」

 

「君からしてみれば大半の人間がそれなりの括りになるだろうに」

 

 それこそオリンピック選手であっても九号からしてみれば「それなり」という表現に収まるので何の当てにもできない表現であった。

 

「ん~……嘘つきの匂いはしやがりますね」

 

「へぇ」

 

 俺には匂いまではわからないけど、九号的には黒らしい。

 

「月城とも接触してたんでホワイトルーム関係者だと判断して動くッスよ?」

 

「やりすぎちゃダメだからね」

 

「当然でやがります、そういう命令ならば」

 

「後、ちょっと気になる情報が入って来たんだけど、君って略奪してるよね」

 

「えぇ」

 

 特に悪気もなく、寧ろそれが当然といった雰囲気で返事をするんじゃありません。

 

「でも奪わないとウチが飢えます。空腹はパフォーマンスを落とすので補給は重要ッス」

 

 そう言われるとあまり強くは言えないな。月城さんは強敵だろうから万全の状態で迎え撃ちたくもある……難しい問題だ。

 

「……怪我だけはさせないようにね」

 

「安心してください、堅気さん相手にそんなことしね~です」

 

 嘘をつくな嘘を、君たち鶚衆はその辺の配慮をどこかに投げ捨てた側の集団だろうに。覚えてるからな、俺との模擬戦で色々と持ち出した結果神社が半壊したことを。

 

「まぁほどほどに頼むよ」

 

「了解ッス」

 

 その言葉を聞き届けると同時にテントは完成する。そして池たちも肉が食べごろになったと呼びかけてくれた。

 

「肉も魚も焼けたぜ、塩焼きばっかだけどな」

 

「いや十分だよ。しかし池、塩を持ってたのか?」

 

「おう、初期ポイントで買える物資の中に味付け塩があったしな」

 

 なるほど、調味料と言う選択肢も悪くはなかったのかもしれないな。効率重視で栄養バーばかり選んでいたから見落としていた項目である。けれどこうして肉や魚が手に入ると塩味だけでもありがたく感じるので、池の選択も間違いではないんだろう。

 

「ん、美味しいね、沢山動いたから塩を体が欲してたみたいだ」

 

「まぁお前らはずっと走り回る感じだったろうからな。ほら魚も食えって」

 

 池は串焼きになった魚も渡してくる。その姿に試験開始前に僅かに見せていた暗い雰囲気は無かったのでとりあえず落ち着いたらしい。

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「まぁな……七瀬ちゃんに言われてこのままじゃダメだって思ったんだ。今は試験を乗り越えることに集中しなきゃダメだってさ」

 

 池は試験が始まる前は少し悩んでいた様子だった。それというのも篠原さんが龍園クラスの生徒と組むことになって心が落ち着かなかったのが原因らしい。

 

 あの覗き暴露による学級裁判からこっち、池はなんとか信頼を回復しようと奔走していたのは知っていたし、何だかんだで篠原さんも許す流れというか譲歩もしていたのだけれど、売り言葉に買い言葉で喧嘩をしてしまったのだ。

 

 しかし今は悩むよりも行動だと考えを改めたらしい。肉と魚を焼く動きもキビキビしておりやる気が感じられた。鍋将軍ならぬ焼き将軍だな。

 

「俺的にはちょっと意外だけどな、池が篠原のこと好きなんて。お前らいつも喧嘩してたじゃんか」

 

 山内が魚を食べながらそんなことを言ったので、話題は恋愛方面に舵を切ることになる。男六人と七瀬さんという面子でやるのはちょっと違和感があるけど、これはこれで合宿の夜みたいで面白いのかもしれない。

 

「そ、そりゃまぁ、なんていうか……貰い事故? みたいな感じだ」

 

 池、それはどんな表現だ、ちょっと失礼ではなかろうか。

 

「だがよ、あの盗撮での学級裁判からずっと女子たちからは冷めた目で見られてるだろ? どうやって仲直りしたんだよ」

 

 須藤的にはそれが気になるらしい。鈴音さんの名前呼びもまだ許して貰っていないので、池と篠原さんの急接近というか仲直りの方法が知りたいのだろう。

 

「盗撮での学級裁判? なんのことでしょうか」

 

 俺たちにとっては既知の学級裁判であったが、この場にいる唯一の紅一点である七瀬さんにとっては聞き逃せない情報であったのか、目をパチクリとさせて話に加わって来た。

 

「あ、ヤベ」

 

「須藤先輩、盗撮とは?」

 

「え、いや、その、え~っとだな……」

 

 やめろ、助けを求めるように俺を見てくるんじゃない。それなら清隆の方に頼む。

 

「まさか、やったんですか?」

 

 キッと、七瀬さんの強い意思を宿した瞳から発せられる視線が鋭くなってしまう。それによって須藤たちは縮こまるのだった。

 

「七瀬、もう済んだことだ。それに今須藤たちは贖罪の真っ只中だ。とりあえずそれを理解して欲しい」

 

「綾小路先輩……それは、いえ、そうですね。部外者の私が責めることではありませんでした。皆さん、すみません」

 

「頭を下げる必要はどこにもないともセブンガール。彼らが愚かだったというだけの話だからねぇ」

 

「セ、セブンガール?」

 

「七瀬、高円寺に関してもあまり気にするな」

 

 清隆のフォローがうなる夜であった。

 

「そ、それでよ寛治、どうやって篠原と仲直りしたんだ……俺も堀北と色々アレでよ、コツが聞きてえんだけどよ」

 

 勉強は今でも見て貰っているようだけど、名前呼びは許して貰ってないからな。

 

「別に仲直りした訳じゃないって。あの時のことはひたすら謝り倒して、とにかくそれを続けただけだしな。それで、なんとなく、まぁ許してやるかって感じの雰囲気になってさ……でもことあるごとにネチネチ言ってくるからなんか弱味みたいになってるんだよな」

 

 実際に弱味だからな。きっとこれからも篠原さんは池を同じネタで揺さぶって優位に立とうとするのかもしれない。もしかしたら尻に敷かれるような関係になるのかもしれない。

 

 ただそれでも良いんだろう。少なくとも喧嘩してばかりよりは。

 

 池は新しく魚を焼きながら暫く火を見つめてから、大きな溜息を吐いた。

 

「でもよ、だからって小宮たちと組まなくったって良いじゃんか、そりゃ俺も言い過ぎたけどよ」

 

「ん、まぁ根気よく付き合っていくしかないさ。あんなことがあったのに今ではある程度関係も修復できたんだ。交際するのだって絶対に無理な訳じゃないよ。案外、篠原さんも今頃池のことを考えてるんじゃないかな」

 

「……だと良いんだけどな」

 

 慰めたお礼なのか、池は焼き上がったばかりの肉が刺さった串をこっちに渡して来た。

 

「まったくウジウジと、これだからボーイたちは困る」

 

「うっせえ高円寺!! お前と一緒にすんな!!」

 

「ハッハッハッ!! 男はまずは余裕なのだよ、溢れる余裕こそが重要でねぇ。惚れるのではなく惚れられる、レディたちに安心感を与えられなくては意味がないさ」

 

「あ、安心感? そ、そうなのか?」

 

「フッ」

 

 六助は不敵に笑うだけである。まぁ確かに彼には余裕がいつでも窺えるのは間違いない。それを揺るがない大樹のように思うことだってあるのだろう。

 

「こ、これがモテる男の余裕って奴なのか……そう言えば平田も笹凪も常に余裕がある感じだよな」

 

 山内がどこか感心したようにそんなことを言っていた。須藤も少し納得したような雰囲気がある。

 

 みんなでキャンプファイアーを囲みながら肉と魚を食べて、恋愛相談というか悩み相談のような感じになっている。池と篠原さんの関係もそうだけど、今度は話題の矢印がこちらにも向くことになった。

 

「つ~か、良い機会だから訊くけどよ……その、笹凪は付き合ってる奴とかいねえのか?」

 

 恐る恐るといった感じで、怪しむように須藤がそんなことを訊いてくる。するとその場にいた全員の視線と意識がこちらに向けられるのがわかった。

 

「確かに気になる。笹凪ってモテそうだけど誰かと付き合ったりとかそういう話って聞かないよな」

 

「あれじゃねえの、ほらやっぱ堀北とか、それか長谷部とか佐倉とか、桔梗ちゃんともよく喋ってるし、松下も……というか女子チームだいたいと仲良い感じじゃん……アレ、なんか腹立ってきた」

 

 池、ワザと焦がした魚をこっちに寄こすんじゃない。

 

「別に誰とも交際はしていないよ。友人として親しくしているだけさ」

 

 実際に踏み込んだ関係になった人はいない。あくまで友人という枠組みの中での付き合いだ。

 

「あれじゃね、笹凪ってイケメンって言うか美人って感じだし、男と思われてないとか」

 

「ん、もしかしたら山内の言葉が正しいのかもしれない」

 

「え、マジかよ」

 

「なかなか異性として意識されないのかなって思ってはいるんだよね。恋人とかも欲しいと思ってはいるんだけど、女子はやっぱり男前な顔つきが好みなのかなって」

 

 平田のようなお手本みたいな好青年がやはり女子受けが良いんだろう。メイド服が似合いそうなランキング一位を何故か取ってしまった俺には厳しいのかもしれない。

 

「意外だな、恋人とか欲しいって思ってたのかよ」

 

 須藤は少しだけ驚いたような、それでいて怪しむような顔をしている。

 

「そりゃ俺だって男なんだ、青春的な活動には興味があるよ。ただ相手がなぁ……」

 

「ほ、堀北とは、本当になんでもないんだよな?」

 

「友人だよ。交際している事実は一切ない」

 

「でも、これから先はわかんねえだろ」

 

 少しだけ須藤の視線が彷徨う。手元にある肉とキャンプファイアーと俺を行ったり来たりして、最終的には迷いながらもこちらに向けられる。

 

「その、なんつ~かよ……もし仮にだ、仮にだぞ!? 堀北の方からお前にコクって来たらどうするんだ?」

 

「どうするって言われても……う~ん」

 

 鈴音さんと恋人になった自分を思い浮かべる……しかし上手く想像はできなかった。俺には圧倒的にその手の経験が不足しているからだろう。

 

 一般的には恋人同士がする、キスとかそれに準ずる行為は仕事先で知り合った女性によく別れ際にされたりするんだけど、ああいった行為を自分から誰かにするのがどうにも違和感がある。

 

 或いは、恋人が出来たらそういった行為を自らしたいと思うのだろうか。

 

 恋人にキスをする……いや、止めておこう、思い浮かびそうになった誰かの顔を慌てて消し去った。流石に妄想とはいえ失礼過ぎる。

 

「魅力的な女性だと思っているから、素直に嬉しいんじゃないかな」

 

 色々考えたけど結局はそこに落ち着く。恋という感情はイマイチ理解できないけど、鈴音さんが魅力的な人だという評価は覆らない。

 

「くッ、そりゃ堀北は魅力的だけどよぉ!!」

 

 何故か須藤がダメージを受けたかのような顔をしている。

 

「止めとけって健、ライバルがヤバすぎる、次の恋を探そうぜ」

 

「だなぁ、幾ら何でも笹凪相手だと分が悪いっての」

 

 両隣にいる池と山内は須藤の肩を叩いて何やら慰めている。

 

「そもそもレッドヘアーボーイは自分に勝ち目があると思っているのかね? 盗撮行為で盛大な自爆をしたというのに」

 

「うッ……それを言われたら何も言い返せねえけどよ」

 

「みっともなく右往左往するくらいならば、さっさと踏み込んだ方がスマートだと思うがねぇ。どちらにせよ勝ち目など無いのだから僅かな希望に賭けるのも一つの手だとも」

 

 なんだろうな、高円寺が煽り交じりの恋愛指南をしているようにも思える。開放的な雰囲気が彼の口を滑らしているのだろうか。

 

「賭けって……堀北にコクるってことかよ。それが出来ねえから困ってるんだろうが」

 

「できないのならば、そこが君の限界なのだよ」

 

 六助の言葉に少しイラッとした顔をする須藤だが、その視線を隣にいる俺に向けてから少し落ち着かせる。

 

「今の俺が堀北にコクったって、上手く行くとは思えねえ……アイツはずっと笹凪を見てるからな」

 

「そうかな?」

 

「鋭いのか鈍いのかよくわからねえ奴だよな。それともとぼけてんのか?」

 

 僅かに苦笑いを浮かべた須藤は、視線を俺から頭上に向ける。そこには都会では見ることの叶わない星空が広がっていた。

 

 そして少しだけ場が静かになる。虫の鳴き声がやけに大きく聞こえるようになった。

 

「堀北には散々面倒見て貰ったのに、アレで滅茶苦茶呆れられただろうな……未練がましいとは思ってるけど、やっぱ簡単に諦められねえんだよ」

 

「諦める必要はないさ」

 

「お前から慰められるとなんか余計に情けなく感じるっての」

 

 また須藤は苦笑いを浮かべてしまう。

 

「まぁ、あれだ、もしお前が堀北と……つ、付き合ったりとかしたら、隠し事すんのは無しにしてくれよ?」

 

「いや、そもそも俺に限らずだけど、鈴音さんが誰かと交際したとして、須藤は納得できるのかい? 好きなんだろ、彼女のこと」

 

「そりゃ、納得できる訳ねえだろ……だがよ、散々馬鹿晒したんだ、俺が呆れられてることくらいはわかってるっての。それにだ――」

 

 そこで須藤は一旦言葉を区切り、俺をジッと見つめて来る。

 

「堀北と同じくらい、笹凪のことだって尊敬してるんだぜ、こう見えてもな。他の誰かならアレだけどよ、お前ならなんつ~か……あぁ、だろうなって納得できるんじゃねえかな」

 

「意外かな……須藤に尊敬されているとは」

 

「凄い奴を認められないほどガキじゃねえっての。そういうのはもう止めたんだよ……勉強でも運動でも笹凪はずっと一番だ、色んな奴に世話焼いて、いつも誰かの為に走り回ってるだろ。憧れるには十分すぎるっての……あぁそうだ、お前はカッコいい」

 

 色々な面で、入学してからここに来るまでに最も成長したのは須藤なのかもしれない。一年生の序盤はここまでの落ち着きはなかった筈だ。

 

 能力面もそうだけど、精神面でも大人になったということだろう。

 

 しかし憧れか……もしかしたら須藤は、夢も恋も憧れも知った、一人前の男になっているのかもしれないな。そりゃ成長する筈だ。

 

「だが勘違いすんなよ、別に負けるつもりはねえ。俺はまだまだ強くなる、馬鹿晒した分を帳消しにして一人前の男になってやるからよ……これは堀北がどうとかの話じゃねえ、笹凪に憧れてるから、そうなりたいんだ」

 

 君はもう十分一人前の男だよ。ある意味では俺以上に。

 

 友人の成長に少しほっこりとした気持ちになった。入学したばかりの頃の須藤はもうどこにもいないようだ。

 

 彼の恋が叶うのかどうかはわからない。もっと言えば鈴音さんが誰と交際するのかもわからない。けれど須藤は俺たちの中で誰よりも早く大人になったことで、一つの余裕のようなものを見つけたのかもしれない。

 

 悩みながらも進んで行ける、そういう男になったのだと思う。

 

 それが素直に嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

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