ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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雨の日

 

 

 

 

 

 

 

 

 現段階の順位が発表された四日目になったことで、この無人島に集った生徒たちは様々な思惑や考えを走らせることになった。特に動きが顕著だったのはやはり三年生たちだろう。

 

 南雲先輩も流石に序盤で遊び過ぎたと思ったのか、手下の三年生たちを積極的にけしかけながら自分のグループを勝たせる為に色々な課題に参加しては八百長をしてポイントを稼いでいるようだ。

 

 タブレット端末で細かく順位は確認しているのだけど、四日目、五日目、六日目と徐々に点数を上げて来ているのが確認できる。慌ててエンジンをかけたといった所だろうか。

 

 四日目に発表された時は上位十組には入っていなかったけど、七日目の朝には七位に食い込んで来た所を見ると、かなり急いでいるらしい。

 

 学年全体を動かしているので課題を独占して八百長で勝てばそれだけで一位が取れる作戦は、誰もが一度は考えるが実際に実行するのは難しいだろうけど、それをやれるのが南雲先輩であった。

 

 ポイントには余裕があるので1点を消費して試しにサーチ機能を使ってみると、南雲先輩を中心に魚の群れのように動いている三年生の集団が確認できる。そして南雲先輩と距離を取っている三年生グループの大半が俺と六助の妨害組のようだ。

 

 六日目にサーチ機能が解禁されたことでこっちの動きが手に取るようにわかったのだろう。進路を塞いだり、課題に先回りしたりと色々とやっているようだけど、あまり成果は上げれていないのが現状だった。

 

 南雲先輩のグループは着実に順位を上げて来ているけど、実は俺たちとの距離もあまり縮まってはいなかったりする。

 

 猛スピードで得点を得ているようだけれど、こっちはそれ以上の速度でポイントを得ているので、いつまでも距離が縮まらない。

 

 試験も折り返しとなる七日目の朝、今現在の順位は一位が俺たちのグループで取得ポイントは375点。しかし南雲先輩のグループは133点と3倍近い差が付いている。

 

 二位の三年生グループが156点であることを考えると、最早趨勢は決したとさえ思えるほどの差が出来てしまっていた。残り一週間と言う折り返し地点である七日目でこれだ。

 

 やりすぎたとは思わない、それどころか足りないとさえ思っておくべきなんだろう。このままのペースを維持して最終的には500点くらいの差を付けた状態で最終日を迎えたいものである。

 

 欲しいのは、文句の付けようがない完全完璧な完膚無き勝利だった。天下無双の漢となるにはそれくらい出来ないと話にもならないんだろう。

 

 ケチのつけられない、どんな言い訳も意味をなさない、圧倒的な勝利、それが必要だった。

 

「長引きそうだな」

 

「雨も悪くはないさ、よく言うだろう? 水も滴る良い男だとねぇ」

 

 試験も折り返しとなる七日目、その日は朝から曇天模様であり、遠からず雨が降るだろうと言う予想であったのだが、やはりと言うべきか豪雨に無人島は包まれることになった。

 

 しかも一時間かそこらで止む気配も無く、タブレット端末を確認してみると学校側から「本日の課題と基本移動は中止とする」という内容の知らせが届いているのが確認できる。

 

 まぁこの豪雨だからな、仕方がない部分もあるんだろう。

 

「せっかくだ、汗を流しておくとするよ」

 

 そして六助はこの豪雨を敢えて身に受けることにしたらしい。シャツを脱ぎ捨てて下着姿となると、雨をシャワー代わりにするのだった。

 

「君もどうかね?」

 

「そうだね、どんな現象も考えようによっては利益にできるか」

 

 せっかくなので俺も付き合うとしようかな。一応、寝る前に体を拭いたり近くに水源があればそこで身を清めてはいるけれど、やはりそれなりの勢いの水圧があった方が気持ちいい。

 

 体を冷やすとかそんな心配はしない。こんなことで体調を崩すような改造はしていないからだ。

 

 なので俺もシャツを脱いで豪雨に身を晒して汗を洗い流していった。

 

「この分だと今日は一日休みになりそうだ。大人しくしていようか」

 

「ふむ、では緩やかに過ごすとしようじゃないか」

 

 課題もなく、基本移動も無い、することがないので七日目の午後の段階でテントを組み立てて本日は休みとなった。

 

 この一週間日中はずっと動きっぱなしだったので、偶にはこんな午後を過ごしても罰は当たらない筈だ。

 

「さて六助」

 

「何かなマイフレンド」

 

「今現在、俺たちは圧倒的な点差で二位以下を突き放しているけど、ここまで差が開いた以上は他のグループがやることは一つだと思うんだ」

 

「チマチマポイントを稼いで追いつくよりも、リタイアさせた方が手っ取り早いだろうねぇ」

 

「うん、南雲先輩は手下をけしかけてくると思う。これまでみたいに追い回したり進路を塞いだりとか温い対応じゃなくて。それこそ失格覚悟での特攻すらしてくるだろう」

 

 学校側に露見すれば問題となるんだろうけど、この無人島でどうやって「客観的な事実」を用意するんだという話にもなる。月城さんも生徒間のイザコザも仕方がないという姿勢だったからな。

 

 事故として処理することさえできれば、どんな文句も言い訳も通用しない。それが学校側の、そして月城さんの言い分なのだ。

 

 ならやるだろう。現状でポイントを稼いで追い抜くよりもリタイアさせた方が話が早いのだから。

 

 そしてそれは南雲先輩だけでなく、他のグループも同じことが言えるのかもしれない。正攻法での逆転よりもずっと楽だろうからな。事故という形さえ整えられるのならばそれもまた作戦であり戦いの作法と断言できる。

 

 水も滴る良い男をその身で表現しながら体を洗う六助も、当然ながらその方面の妨害を想定している筈だ。

 

 雨をシャワー代わりにして体を洗い流してから、タオルで水気を拭き取ってテントの中に戻る。隣のテントに入った六助は何やら考え込んでいるらしい。

 

「来るとわかっている作戦ほどイージーなものはないさ。仮に来るのだとすればそれはそれで良し、達成することもできない条件に無意味にリソースを注ぐだけの結果となり、ただ恥を晒すだけとなるだろう」

 

「まぁ六助の言う通り止められるつもりはないんだけどさ」

 

 仮に来るのが九号ならば真剣に悩んだと思うけど、三年生たちと他のグループならば大きな問題もないと判断できる。これは慢心ではなくて純然たる事実として、三年生が全員で挑んで来たとしても制圧できるという確信があるからだ。

 

 学生が百人で襲い掛かってくるよりも、九号が一人で来るほうがずっと脅威だからな。

 

 ただ南雲先輩はこちらの戦力を正確に把握しているかは不明である。無茶な命令だけはしないで欲しいものだ。

 

 

 リタイアさせたからって別に退学になる訳じゃないけど、怪我人は少ない方が良いからな。

 

 

「まぁ来るとすれば本当にどうしようもなくなった時になるよ、自分たちのグループが二位となり、最終日が近くなっても逆転不可能だと判断すればね」

 

「ふむん、随分と余裕のある振る舞いではないか。彼は焦りというものを知らないようだねぇ」

 

「いや、焦っているからそんな行動に出るんだと思うけど」

 

 すると六助がいる隣のテントからいつもの高笑いが届く。

 

「ハッハッハッ。もし本当に彼が焦っているのならば、現時点で三年生全員を使って襲撃をかけてくるさ、何故なら既に逆転不可能なのだから……しかし彼らは来ない、様子見をしている? それとも準備を整えている? ノンノン、彼らはこの期に及んで戦いに真剣になれていないのだよ」

 

 だから俺たちは今現在、呑気にこうして会話をしていられるというのが六助の考えらしい。

 

「サウスクラウドボーイはもっと焦るべきだと思うがねぇ。我々に勝ちたいのならば今この瞬間すら無駄にすべきではないとも。最終日だと考えるでもなく、意地や面子でもなく、恥すら捨てて今なのさ……それができていない時点で、彼は随分とスローペースな生き方をしていると私は思うのだよ」

 

「それは仕方がないんじゃないかな……南雲先輩はなんて言うか、多分これまでの人生で本当の意味で必死になったことが無い人だろうから。どんな時でも余裕綽々で、しかもそれで勝てて来たんだと思う」

 

「弱者との戦いしか知らないと……ふむ、だからこうもスローペースということなのか」

 

 納得したような雰囲気となった六助はそのまま瞼を閉じて眠ってしまったらしい。今日はやることがないので俺も適当な石でも拾って彫刻でもしておこうかな。

 

 どこかに良い感じの石はないかと、テントの外に出て豪雨に身を晒していると、師匠に改造された耳が異音を拾い上げた。

 

「――――」

 

 誰かを呼ぶ女子生徒の声だ。それも少し切羽詰まった感じのものであり、ハッキリとは聞き取れないがそれなりに慌てた様子だと判断すべきだろう。

 

 誰かはわからないが困っているのなら動くべきだ。なので豪雨の中、雨に打たれながら俺は声が聞こえた方へ進んで行った。

 

 ある程度まで近づくと声も鮮明になり、どういったことを言っているのかもハッキリと聞き取れた。

 

「麻子ちゃん!! 待ってて、今行くからね!!」

 

 少し離れた位置から帆波さんの声が聞こえる。俺からは無人島の鬱蒼とした木々によって姿までは見えないが、声が届いた角度からして斜面の上から叫んでいるようだ。

 

 だとすると救助対象がいると思われる、さてどこだと探していると青色のジャージ姿は緑の多いこの場所ではよく目立つのですぐに発見できる。何よりその人物も声を上げていたのでよく目立ったからだ。

 

「ダメだよ帆波ちゃん!! 滑りやすくなってるから!!」

 

 その人物とは一之瀬さんクラスにいる網倉麻子さんであり、帆波さんとも仲が良い人物である。

 

 帆波さんがいる方角には滑り台くらいの斜面があるのが見える。物凄い角度という訳でもないのだけれど、豪雨でぬかるんだ状態だと滑り落ちてしまうこともあるだろう。多分、今の網倉さんのように。

 

「大丈夫かい?」

 

「え、誰……あ、笹凪くん」

 

「何やら声が聞こえてね、切羽詰まっているようだから来てみたんだけど……怪我は?」

 

「だ、大丈夫、そこまで酷い感じじゃないかな。寧ろ私よりタブレット端末を壊しちゃった方が大変かも」

 

 網倉さんの傍らには確かに画面に罅が入った端末が転がっている。

 

 体の方は……足首が軽度の捻挫のようだな。骨折はしていないようだから暫くゆっくりしていれば問題なく復帰できるだろう。ただ少し痛みはあるようなので今すぐは難しいだろうけど。

 

「帆波さん!! 俺が網倉さんを連れてそっちに行くから、君たちは待機していてくれ!! もしかしたら二次被害が出ることだってある、ここは任せて!!」

 

 斜面の上にいる帆波さんに聞こえるように声を張り上げてそう伝えると、もの凄く驚いたような声が聞こえて来る。あちらからしてみればまさかと言った感じなんだろうか。

 

「て、天武くんッ!? どうしてここにいるの!?」

 

「いや、何やら困ったような声が聞こえて来たもんだからさ」

 

 なら動くしかない。当たり前のことだった。

 

「網倉さん、ちょっと失礼」

 

「きゃッ!? ちょ、あの、笹凪くん……これは流石に」

 

 足首が軽度の捻挫状態だった網倉さんをお姫様抱っこの姿勢で抱き上げると。流石に抗議の声が届いてしまう。女性の体に気安く触れるべきではないとわかってはいるけど、緊急事態なので許して欲しい。

 

 あの斜面の上から帆波さんたちが救助に来るとして、転がり落ちることだってありえる。救助において大事なのは怪我人を増やさないことである。なら俺が網倉さんを運んで届けた方がずっと安全である。

 

「すまないね、失礼だとは思うけど今は許して欲しい」

 

「あ、いや良いんだけどさ……でも帆波ちゃんに悪いし」

 

「いや、君を安全に届ければ帆波さんも安心してくれる筈だ、悪くもなんともない」

 

「そういう話じゃないんだけどね」

 

 少し会話が噛み合わないまま、網倉さんをお姫様抱っこしたまま斜面の上に向かって移動していく。豪雨でぬかるむ足場はとても不安定な上に角度もあるので、もし帆波さんたちが救助する為にこちらに来ていた場合は本当に怪我人が増えたかもしれないな。

 

「わ、ちょ、ひょわッ」

 

 剥き出しになっている岩や、比較的頑丈そうな足場を探しながら移動すると、自然とピョンピョン跳ねながらの移動となる。その度に抱きかかえている網倉さんが変な声を出すので不謹慎ではあるけど少し面白かった。

 

「よし、到着」

 

 最後に勢いよく岩を蹴って斜面の上まで飛び上がり着地すると、帆波さんのグループが驚きながらも迎え入れてくれる。

 

「麻子ちゃん、怪我は?」

 

「網倉さんだけど足首が軽度の捻挫だ、少し休ませた方がいい」

 

「うん、それだけ。大丈夫だよ帆波ちゃん」

 

「そっか、大事になってないのなら良かった。すっごくビックリしちゃったよ」

 

「ごめんね、まさか私もいきなり足場が崩れるなんて思わなくて」

 

 斜面の上には幾つかのテントが設置されている。どうやら彼女たちはここで豪雨を凌ぐつもりだったらしい。既に学校側からは本日の課題が中止と知らされているので慌ててテントを組み立てていたのかもしれない。

 

 その間に脆い足場で滑ってしまい、滑り台みたいに斜面を落ちて行ったという感じだろうか? だとしたら足首の捻挫で済んだのは幸運だと思う。

 

 とりあえず彼女をテントの中に下ろす。後は様子見だな。

 

「麻子ちゃん、保険のカードを持ってるから、酷いようなら一旦船に戻ってしっかり休むのも良いと思うよ?」

 

「大袈裟だって、本当にちょっとだけ痛むだけだよ。今日はもう課題も無いって話だから、一日ゆっくりすれば大丈夫」

 

「そっか、無理だけはしちゃダメだからね」

 

「うん、心配してくれてありがとう」

 

 網倉さんは暫く休息だろうな。本当に幸いなことに今日は課題が中止になっているので休む時間は幾らでもある。

 

「笹凪、救助に感謝する」

 

 網倉さんをテントに入れて休ませて外に出ると神崎が声をかけてきた。序盤は帆波さんグループと別行動をしていたようだが、どうやらこちらも上手いこと合流の権利を得られたらしい。

 

「助かったぜ笹凪、ありがとな」

 

 柴田の姿もあるので帆波さんクラスの精鋭を揃えたグループということなんだろう。今現在の順位は9位なので十分に入賞を狙える位置取りである。

 

「あまり気にしなくていいよ、誰かが困っていたら助けるのは当たり前のことだ」

 

「……そうだな」

 

 神崎は少し悩みながらもそう返してくる。

 

「テントに入れ、体が冷えてしまうぞ」

 

「ありがとう」

 

 帆波さんグループのキャンプ地には足長の大型テントが設置されていた。体育祭などでも使われるそれの下では食事が作られている。

 

 ずっと雨に打たれている訳にもいかないので、そこに入ってタオルで水気を拭き取っていく。

 

「天武くん、本当にありがとう。すっごく助かったよ」

 

 帆波さんは俺の前で両手を合わせてもの凄く感謝している。当然のことをしただけなのでそこまでガッツリと感謝されても実は困ったりするのだけどね。

 

 なんて言うのだろうか、当たり前のことをしただけでもの凄く持ち上げられると居たたまれない気分になってしまう。

 

「あ、お礼に食事でもどうかな?」

 

「いや、遠慮しておくよ」

 

「え……迷惑かな?」

 

「いや、流石に他所のクラスのグループから食料を分けて貰うのはね……真剣勝負の途中だからさ」

 

「お~、そっかストイックだな笹凪は」

 

 何やら柴田は感心したような顔をしている。

 

「麻子ちゃんも助けて貰ったし、本当に遠慮しなくて良いんだよ? お礼をしないと私が申し訳ない気分になっちゃうよ」

 

「それはそれ、これはこれさ、本当に気にしないでよ。網倉さんを救助したからと言って俺が図々しく施しを受ける訳にはいかないのさ」

 

 真剣勝負の場なので一欠片のケチも付けられない結果が欲しい。自分のクラスならともかく他所のクラスのグループなので流石に遠慮するしかないだろう。

 

「そっか、仕方がないね……ならせめて雨が落ち着くまでゆっくりしていってよ、それくらいは良いよね?」

 

「ん、でも余所者がいてもお邪魔だろう?」

 

「そんなこと言わないで欲しいな……はい、タオル」

 

「ありがとう、ごめんね」

 

 テントの下で帆波さんがタオルを渡してくれたので水気を拭き取っていく。まぁこれくらいの感謝を受け取るのはセーフだろう。食料とは違うからな。

 

「それにしてもよ~、笹凪と高円寺のペアってヤバいくらいにポイント稼いでるよな」

 

「こっちのグループも良い位置じゃないか。二位以下は殆ど団子状態だし、十分に上位三組だって狙えるさ。やっぱり運動面は柴田が支えているのかい?」

 

「まぁな、俺は勉強があんまりだし。そっちは一之瀬や神崎に丸投げだよ」

 

「だからこそのグループなんだから、別に恥じることでもない……それにしても、こっちのグループはてっきり七人編成だと思っていたんだけど、六人だけなのかい? 確か増員のカードを得ていたよね?」

 

「あぁ、それに関しては……実は坂柳さんに売ったんだよね」

 

 質問には帆波さんが答えてくれた。

 

「あぁ、そうなのか。プライベートポイントを提示されたってことかな?」

 

「うん、500万ポイントで」

 

 結構な額ではあるけれど、増員の特殊カードは強力なので自分たちで使う手もあった筈だ。

 

「天武くんは、どう思うかな?」

 

「損をしたとは思っていないのならば、それで良いと思うよ。いざという時に2000万があるという安心感は大切だ」

 

「うん、私はそう思ったから受け入れたんだ。やっぱり、保険は大切だから」

 

 帆波さんクラスには少なく見積もっても2000万ポイント以上はある筈だ。クラス内投票で俺が勝手に自分の都合を押し通した結果、ポイントを消費することなく貯金されているからな。

 

 それは他のクラスも同じことが言えるだろう。坂柳さんがポンと500万を払って増員のカードを得たことを考えると、ここぞと思ったのかもしれない。

 

「それにしても500万か……大きな出費ではあるけど、この試験の報酬を考えると十分に取り返せそうだな」

 

「便乗のカードがあるから、だね?」

 

 帆波さんもその辺は察していたようだ。

 

「あぁ、もし十枚の便乗カードを一つのグループに集中させているのなら、余裕で取り戻せるだろう」

 

「だが、試験が始まる前にどのグループが勝つかを予想するのは不可能だ」

 

「その通りだよ神崎、けれどある程度の調整はできる。例えばそうだな、特定のグループを勝たせるように動いたりはできるさ」

 

「それはそうだが……坂柳は自分のグループを勝たせられるだけの自信があるということか」

 

「おそらく坂柳さんは俺のグループに便乗のカードを使ってるんじゃないかな」

 

「なんだと?」

 

「いや、ただの推測でしかないんだけどさ。それなら何となく彼女の動きも察せられる。おそらくだけど便乗のカードは俺たちに注いで、自分たちのグループは二位狙いって感じかな」

 

「二位狙い……だかそれではお前たちに追いつかれることになるぞ。クラスの変動が起こるだろう」

 

「三位も取れば差は生まれないさ。合計で同じ300ポイントなんだからね」

 

「……葛城グループか」

 

 神崎もそこに思い至ったようだ。Aクラスによる二位と三位の奪取。それができるとすれば坂柳さんグループと葛城グループしかない。そして便乗のカードは一位を取ると予想した俺に注ぎ込むことで増員のカードを買い取った出費も補填できる。

 

 おそらくだが、それが坂柳さんの思い描いている結末だ。

 

「なるほど、ありえなくはないのか。葛城グループは今5位の位置に付いている。坂柳は4位、十分に射程圏内だな」

 

「やっぱり強敵だよね、坂柳さんは。敵対している葛城くんたちすら計算の内なんだから」

 

 神崎と帆波さんは難しそうな顔になって悩む。

 

「ただまぁ俺にとっては都合が良かったりするかな」

 

「どうしてかな?」

 

「彼女が二位と三位狙いで、一位はこちらに譲ってくれるのなら。この試験では協力できるだろう? もし俺が一位を取れないとせっかく便乗のカードを集中したのに大損になってしまう。彼女は俺に勝って貰わないと困るのさ」

 

 帆波さんに払った500万を補填しなければならないからな。

 

「まぁ色々と話したけれど、結局は全て推測でしかないけどね」

 

 坂柳さんとはこの試験でまだ一度も接触できていない。港に立ち寄った時にパラソルの下にいるのは確認できているけど、忙しいので喋りかける時間も無かったんだよね。

 

 どこかで意見交換したいものだ。もしこの推測が当たっていればそういった方向性の動きも検討できるのだから。

 

「ん、この推測が合っているのなら、こっちとしてはありがたいな」

 

「悪いが計算通り進ませるつもりはない」

 

 神崎は鋭い視線で俺を見つめてきた。

 

「当然だ。そう言って貰わないと俺も困るよ」

 

「困るだと?」

 

「あぁ、敵は多い方が嬉しい」

 

「……」

 

 どうした訳か神崎は黙り込んでしまう。

 

「俺が目指しているのは天下無双の漢だ。そこに至るには無数の経験と勝利と敗北が必要だ。なら困難も敵も多ければ多いほど良い……そうだろう?」

 

 天下無双を名乗れないのなら正義の味方にもなれないだろう。貪欲にあらゆる経験を得ていく必要があるのは間違いない。

 

「だから帆波さんたちも全力で来てくれ、俺や坂柳さんの計算をぶっ壊すくらいにね」

 

「当然だ、簡単に勝たせるつもりはない」

 

「うん、それでいい」

 

 ライバルが多いのは幸福なことだと思う。南雲先輩を見ていると尚更そう感じるな。

 

「ん、雨も少し弱まったようだ。俺はそろそろ戻るよ。邪魔してごめんね」

 

 少しだけ豪雨が落ち着いたようなのでそろそろ帰るとしよう。いつまでも他所のグループの世話になる訳にもいかないだろう。

 

 この空模様だとまた降りだすだろうけど、自分のテントに戻るなら今しかない。

 

 そんな訳で帆波さんグループのテントから出て帰路を探して歩き出す。だが暫く歩いた所で帆波さんが声をかけてくるのだった。

 

「天武くん」

 

「どうしたんだい?」

 

 自分たちのキャンプから少し離れた位置まで追いかける必要はないけれど、慌ててここまで駆けて来たのか帆波さんは少し呼吸を荒げている。

 

「あ、あのね、こんなこと言うべきじゃないんだってわかってるんだけど」

 

 そして彼女は少し迷いながらも、こちらを上目遣いで見つめながらこう伝えてくれた。

 

「……頑張って、応援してるから」

 

「確かに、ライバルに言うべきことじゃないね」

 

「あはは、やっぱり、そうだよね」

 

「でも、誰かに応援して貰えるのは、悪い気にはならない……だから帆波さんも頑張って、応援している」

 

「うん、もちろんだよ」

 

 少しだけ微笑んだ彼女に見送られて俺はテントに戻ることになる。

 

 試験も折り返しだ。最初と変わらないまま最後まで駆け抜けていくとしよう。クラスメイトだけでなく他所のクラスの人にまで応援されている訳だからな、勝たないとカッコ悪いだろう。

 

 

 

 

 

 

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