綾小路視点
結論から言えば、七瀬の目的とオレの目的は別にぶつかり合うことはなかった。
いや、正確には、戦う理由が無かったと言うべきだろうか。七瀬翼という少女の目的はある種の敵討ちであり、それはオレを排除したとしても叶うことのないものであったからだろう。
七瀬が言うには松尾栄一郎という人物、オレがこの学園に来る前に一時期だが世話になった執事の息子と知り合いであり、その仇を取りたいというのが目標であったらしい。
絶望している所を月城に上手く付け込まれたのか、それとも親しかった相手の死を見てやり場のない思いを向ける相手が欲しかったのかは知らないが、今はオレを排除した所でその目的が達成することもできなければ、敵を討つことにも繋がらないと理解しているようだ。
まぁ、もっとも、その言い分が全て真実であるとするのならばという話でもあるが、少なくとも現状では敵対する理由はない。
もしオレが本当に七瀬翼という人物を信用する時が来るのだとすれば、それはきっと松尾親子の墓を暴いて亡骸を確認したその瞬間なのかもしれない。だが今はこれで良かった。
信用や信頼云々は横に置いておき、現状で敵対する理由がないのならば様子見で良いだろう。奇妙な関係ではあるのだが、こればかりは仕方がない。
七瀬翼と、今は敵対する理由がない。それがぶつかり合って出した結論であった。未来のことはその時に考えるとしよう。
幼馴染の仇を討ちたいという話が本当なのか嘘なのか、この学園にいる間はどうしても確かめようがないからな。落とし所としてはこれで良いのだろう。
仮にもし、もしだ。七瀬の言い分と目標が事実であり、松尾の息子の無念を果たす為にオレの父親に頭を下げさせたいという願いが真実だったその時は、天武に頼んで力づくで下げさせてしまおう。
うん、それで良いな。勢い余って頭が外れるかもしれないけど、その時はその時だ。何も問題は無い。
「我儘を言わせて貰うなら、この学校を去るなんて言わずに協力して欲しい。今も月城はオレを退学させ父親の手土産にしようとこの特別試験で画策しているだろう。オレに協力するのは七瀬にとって目的を達成する為の近道になる筈だ」
もし本当に敵討ちが目的だとするのならば、オレではなくその憎悪は父親に向けて欲しい。
「私がすべきことは……先輩を追い込むことじゃなく、助けることだったんですね」
「手を貸してもらえるか? もし協力してくれるのなら、必ずあの男に頭を下げさせる」
天武に頼めばやってくれるだろう。あの男の後頭部を掴んで地面にめり込ませてもくれる筈だ。
そんな光景を想像してみると、七瀬の目的がどうのこうのではなく、単純にオレ自身が見てみたくもなった。
七瀬は涙で潤んだ瞳でオレを見上げながらも、差し出された掌を掴み取ってくれる。
一先ずはこれで良いだろう。どのみち月城やあの男の都合は全て無視するつもりなので、最終的に七瀬が敵側であったとしても関係がない。正直なことを言わせて貰えばどちらでも良かった。この試験で敵にさえならないのならば。
「――約束します。私は綾小路先輩の力になると」
その言葉が本当に純粋なものであることを、オレも期待しておこう。
「このまま雨に濡れたままだと体を冷やす、行こうか」
「……はいッ」
七瀬の手を引いて立ち上がらせると、いつものように強い意思を宿した瞳に戻っていた。
そんな七瀬は暫くオレの顔を見つめていたのだが、その視線を背後に向けて少し慌てたように瞼を見開いてしまう。
「先輩、下がって。誰かが近づいてきます」
その言葉に従って振り返ってみると、少し離れた位置から全身迷彩柄の怪人がこちらに近づいてくるのがわかった。
「そこで止まってくださいッ!! 貴方は一体誰ですか、それに、その手に持っているのは天沢さんですよね」
迷彩柄の怪人、鶚銀子は右手に天沢を持ってズルズルと引きずっている……いや、お前、そんな水揚げされたマグロみたいな扱いはどうなんだ?
「見てくださいッス、捕ったどぉ~」
鶚は掴んでいた天沢の足首をそのまま持ち上げて、捕った魚でも見せつけるかのように前に出す。
足首を掴まれて逆さ吊りとなっている天沢はプラプラと揺れていて、意識を失っているからされるがままの状態である。
せめてもの情けだろうか、折れていると思われる腕は添え木がされていてしっかりとマントの切れ端で固定されている辺り、配慮があるのか無いのかわからない状況である。
だが死んではいないらしい、そこは安心できる所であった。これで死体を見せつけられた時はどうしようもなくなってしまうからな。
「き、危険です綾小路先輩。間違いなくホワイトルームからの刺客です!!」
「七瀬、気持ちはわからなくはないが少し落ち着け……こいつは天武の部下だ」
「え、笹凪先輩の?」
「あぁ、アイツの命令で動いている」
「……」
すると七瀬はそれはもう疑わしそうな顔と視線で迷彩柄の鶚を見つめるのだった。
「えっと……この人は誰なんでしょうか?」
「鶚銀子だ」
「……」
そこで暫く考え込む七瀬だが、名前と顔が一致することがなかったのか、やはり警戒心は解くことがない。
「とりあえず天武の部下だという認識で大丈夫だ」
「わかりました。あまり上手く納得はできませんけど……それより、天沢さんは大丈夫なんでしょうか? 随分とボロボロのようですけど」
「死んじゃいないッスよ。それよりも綾小路パイセン、一夏ちゃんはやっぱりホワイトルーム生でやがりました」
「確定したのか?」
「はい、カマかけたら認めましたよ。確信してるのなら誤魔化しても無駄だと」
そうか、鶚の手で逆さ吊りになって水揚げされたマグロのようになっている天沢はホワイトルーム生だったのか。
おそらくは厳しい訓練を繰り返して来たのだろうがこうもボロボロとはな。天沢が底辺なのか、それとも鶚がゴリラなのか……おそらく後者だったが故の結果だろう。
「尋問をして情報を吐かせたいとは思ってるんッスけど、流石に重症なんで船に戻そうと思ってるッス。別に構いませんよね?」
「あぁ、それで構わない」
「そんじゃあ暫く離れるんで、後は宜しくッス」
「船まで直接運ぶのか?」
リタイアした生徒がそんなことすればどうしたってことが露見するだろう。鶚は最悪退学になっても構わないと言う身軽なスタンスなのだが、出来る事ならばそうなって欲しくはない。
「いえ、誰か通りそうな所に転がしておくッス。その内見つかって船まで運ばれるでしょう」
どこまでいっても雑な扱いである。人を人とも思っていないようではあるが、一応は応急処置などもしているので、もしかしたら複雑な感情でも向けているのだろうか。
「それに、船にいる教員側の協力者に動いて貰いたくもあるんで。一夏ちゃんが意識を失っている間にスマホとかに盗聴アプリとか仕込んでおきたいんッスよ」
「天沢がホワイトルーム生ならば、迂闊な情報をスマホに残すとは思えないがな」
「それならそれで良いんッスよ。手段と方法は百通り用意して一つか二つ成果が出れば上々なんッスから」
なるほど、確かに無駄となるかどうかは成果で語るべきだろう。元よりオレがどうこう言えることでもないので好きにさせておくとしよう。
「あぁそれと、天沢さん以外にも綾小路パイセンをこっそりと付けていた相手がいましたよ。倉地という生徒ッス。そこらへんに寝かしてあるんで好きになさってください。ウチの仕事は護衛と月城の排除なんで、一般生徒を追い詰めるのはご主人に怒られそうなんでやりませんけどね」
それだけ言い残して鶚は一旦船に戻ることになる。相変わらず天沢を雑に運びながら雨が降りしきる鬱蒼とした森の中を進んでいくのだった。
「……恐ろしい人でした」
「まぁ、見た目があれだからな」
「はい、それもそうですけど。片手に天沢さんを持っていたのに一切の隙が無かったんです。恐ろしい程の手練れです」
「そうだな」
ホワイトルーム生をあそこまでボロボロにする相手なのだから、やはり天武と同類ということなんだろう。
そしておそらくだが、こうして姿を七瀬の前に晒したのは「警告」の意味もある筈だ。計算の外にいるのは天武だけでないという主張でもある。
もし七瀬が最終的に敵側になったとしても、いつでも寝首をかけるという自信の表れでもあるのかもしれない。
だってまだ、鶚は全力を誰にも見せていないのだから。それは派手に暴れまわる天武と同じくらいに抑止力となる。天沢を倒した程度で実力の全てが露呈することもないだろう。
ホワイトルーム側は、手塩にかけて育てた生徒が軽く粉砕されるくらいの戦闘力があるという認識を持つだろうが、そこを限界と定めるかもしれない。
天沢は倒せるけど、総力を注ぎ込めば倒せるかもしれない……そんな風に思わせた時点で鶚の勝ちが確定するのかもしれないな。
なんであれ、頼りになると同時に厄介な味方でもある。オレは改めてそう思うのだった。
「天武に報告だけはしておくか」
初期ポイントで購入した無線機を鞄のポケットから取り出して、メモリを動かしてクラス共通の周波数ではなく、オレと天武との間でだけ使うことを事前に示し合わせていた周波数にしてから話しかける。
天沢がホワイトルーム生で確定したこと、嘘か本当かはわからないが七瀬が一先ずは味方側になったこと、そして天沢以外にもオレをつけ回していた倉地という生徒のこと、しっかりと報告しておくべきだろうな。
七日目、試験も折り返しとなるこの日はこうやって過ぎ去っていくことになるのだった。
どうやら上手いこと九号が天沢さんを仕留めたらしい。そんな報告を受けた俺なんだけど、よくやったと思う前に心配してしまう辺り、九号への信頼のほどが窺えてしまうな。
いや、凄く優秀な子なんだけどさ、やっぱりゴリラだから勢い余って……いや、余らなくても敵対した相手が粉々になるかもしれないから、実はとてつもなく不安でもあったんだよね。
でもまぁあれだ、あの子だってもう高校生なんだ。流石に木を引っこ抜いて相手をぶん殴ったりとかゴリラ全開な方法とかじゃなくて、もっとスマートに対処してくれている筈だ……そうだと言ってくれることを期待しよう。
清隆側のそんな動きを報告されてあっちはあっちで大変だなっと、まるで他人事のように思ってしまうのは、こっちはこっちで大変な状況だからだった。
「いたぞ、アイツらを止めろ!!」
俺と六助は今、三年生たちに追い回されている状況である。それもここ数日はずっとこんな感じの時間が続いているので、清隆側の動きにそこまで構っている余裕が無かったりもしている。
「ケツに火が付いて来たって感じかな」
「ハッハッハッ!! 優雅な表現ではないが、まさにその通りなのだろうねぇ」
雨の七日目を越えて今は八日目、つまりはこの試験もいよいよ後半戦なんだけど、ここまで来ると流石に南雲先輩も余裕綽々とは行かなかったのか、それはもう盛大に焦りながら手下を仕掛けてきた。
これまでも付け狙ってきたり進路を塞いだりと言う妨害はやってきていたのだけど、今回は随分と数を増やしている。おそらくフリーの三年生グループはこちらに総動員しているらしい。
その三年生たちのグループは主に二つの組にわかれているようだ。まず俺と六助を追い回す苦労組、そしてもう一つは俺たちの動きを先回りして課題の定員を満たすグループである。
追い回して追い詰めて肉体的にも精神的にも疲弊させること、そして先んじて課題の定員を満たすことでそもそもポイントを稼がせない、こっちに回されている三年生たちの主な仕事がこの二つであった。
『聞こえるかしら? 相撲の課題はもう空きが三枠しか残っていないわ。三年生の一部がもうすぐ辿り着きそうだからそこはもうスルーして頂戴』
「ん、了解、それじゃ指定エリアのこともあるからこのまま東に向かってエリアを踏んでから別の課題に参加するよ」
リュックサックの外ポケットに収まった無線機からは、鈴音さんの指示が届いている。彼女は遠く離れた位置からこちらの動きをサーチ機能で把握しながら情報を与えてくれていた。
やってることは単純で、サーチ機能を使って全てのグループの動きを把握して貰って、随時情報を更新するだけのことである。もし参加しようと思っている課題が三年生たちに先回りされて定員を満たされてしまえば無駄足になってしまうので、確実に参加できる課題にのみ挑むことを心がけよう。
南雲先輩は手下の三年生で課題に参加して、八百長で一位を取っているようだけど、俺と高円寺は参加することさえできれば正攻法で一位を取れるので、やはり差は縮まらない。
「鈴音さん、まだポイントは大丈夫そうかい?」
『まだ60ポイントほど残っているから大丈夫よ。もし底を突いたとしても他のクラスメイトに役目を譲るから安心して』
彼女は自分が稼いだポイントを全てサーチ機能による情報収集に注ぎ込むつもりのようだ。仮にそれで0点になってしまったとしても退学のリスクはもう排除してあるので何も問題はない。
上位50パーセントの報酬も得られなくはなるだろうけど、5万ポイントくらいは今更惜しむような額でもないので、こうして援護して貰っている。
おそらくだが、南雲先輩も他のグループのポイントを消費して常にサーチ機能を使って情報を更新している筈だ。俺たちが相撲の課題をスルーして別の課題に向けて走り出した状況も把握しているんだろうな。
退学のリスクがないという事実は、ポイントを消費するサーチ機能を好きなだけ使えるということ、何も俺たちだけじゃなくて三年生や一年生だって同じということだ。
『三年生の一部が先回りを始めたわ』
「距離は?」
『一番近い位置にいる三年生は握力測定の課題に移動しているようね。500メートルくらいかしら』
「よし、それなら問題ない。こっちの方が早く着きそうだ」
先に課題が行われる場所に辿り着かれると定員を満たされてしまうだろうけど、彼らよりも早く到着すれば良いだけの話だ。500メートルくらいの距離ならば全力で走ったこちらの方が素早く参加できる筈だ。
全力で無人島を走り抜けて、あらゆる物を踏み砕いて進んで行けば、課題まであと100メートルほどの距離でその三年生たちのグループに追いつくことができて、一瞬で置き去りにしてみせる。
「クソッ!!」
そんな三年生男子の声が背後から聞こえてきたような気もするけど、今は課題に参加することが重要になので聞かなかったことにしよう。
こうして俺たちは握力測定の課題に参加することになり、何も問題はなく一位と二位を奪い去ることになった。
『天武くん、周囲にある三つの課題は既に三年生が向かっている。少し離れた位置にある課題に向かいましょう』
「おっと、南雲先輩も動きが速いな。握力測定を受けている間に他の課題を埋めに来たか」
『余程、貴方の背中を見るのが嫌なようね……今、順位が更新されたみたいよ、坂柳さんのグループを追い越して二位にまで浮上したわ』
ここ数日、流石に焦ったのか凄まじい追い上げを見せているようだけど、それでもまだこちらとの差は圧倒的なものがあるどころか徐々にだが離されてもいる始末だ。
余裕を消して、盛大に焦りながら次々と課題に参加して八百長で上位を独占しているようだけど、上位を奪っているのはこっちも同じことが言える。そして基本移動でのポイント稼ぎに関してはこちらが圧倒的な優位を維持しているので、そこで差が生まれているのだろう。
あちらは既に増員のカードで七人体制だろうけど、全員が俺や六助や清隆みたいな身体能力を有している訳でもないのだ。ペース配分を誤った瞬間にリタイア者が続出することだって考えられる。
つまり、七人体制を維持するにはどうしても細かな休憩を挟まなければならないのだけど、こっちは俺と六助だけなのでその必要がない。
全力で走り続けられる俺たちと、ペース配分を意識しないといけない南雲先輩、その差がそのままポイントをジリジリと広げることに繋がっているらしい。
『天武くん、今はまだ南雲先輩は貴方にポイントを稼ぐことで追いつこうとしているようにも見えるけど、もし逆転不可能だと判断すれば大胆な行動に出ることも考えられるんじゃないかしら』
六助と一緒に次の課題を目指して駆け抜けていく。近場は既に三年生が埋めてしまっているので少し離れた位置まで走らないといけないな……体力を消耗させる作戦なんだろうけど、悪いがこの程度では息も上がらない。
「だろうね、まだそこまで振り切れてはいないみたいだけど、最終日辺りまで様子見してもうダメだって思ったら仕掛けて来そうだ」
『……対策は考えているのよね?』
無線機の向こうから心配したような声が聞こえて来る。誰かにそう思われるのはそこまで悪い気はしないな。
「何も心配はいらないよ。大丈夫、ちゃんと決め手を用意してある」
別に複雑なことをするつもりはない。要はあの人たちが暴力的な行為に出れない状況を作れば良いだけの話である。
「心配してくれるのかな?」
『当たり前のことを言わせないで』
「そりゃそうだ。まぁ任せてよ、こっちは完全勝利を目指している。ちゃんと相手の動きも想定しているさ」
『なら安心ね……体力は持ちそうなの?』
「そっちも何も問題はないさ。寧ろ三年生たちの方が先にバテるんじゃないかな。俺たちを追い回しているグループはもう疲労困憊だし、先回りしている人たちだってペース配分が滅茶苦茶だ。全員がマラソンの長距離選手って訳でもないんだから、おそらく10日目を境に妨害も落ち着いてくると思うよ」
南雲先輩の指示でこっちの妨害に多くのリソースを注ぎ込んだ結果、水も食料も体力も当初の計算から大きく外れた状況になっている筈だ。
果たして、このペース配分で10日目を越えられる三年生が何人いるのかという話でもある。
「鈴音さん、南雲先輩の動きはどうかな?」
『課題に参加するのは同じグループの人に任せているようね。あまり大きく動いていないわよ』
「ふぅん、やっぱり指揮官に徹しているってことか」
無線機片手にタブレット端末を睨みながら次々と指示を出す南雲先輩の姿が思い浮かぶ。状況的には今の鈴音さんと同じような感じなんだろう。使っている端末は他のグループのものなのかな。
三年生の思惑としては、長丁場の試験なのでこっちの体力を削っておきたいんだろうけど、これで疲れると思われているのは少し意外でもあった。
いや、まぁ実際に走る距離は増えているのは間違いない。近場の課題は定員を次々と埋められている訳だからな。
けれどこっちの体力がそれで底を突くなんてことはない。既にペース配分をこちらに合せている三年生たちの方がバテて来ているようにも思えた。
「まぁ、これで勝てると思われているのなら、こっちにとってはありがたい話か」
体力が尽きるのを今か今かと願っているのかもしれないけど、こっちはフルマラソンをしても特に疲れることもない体だからあまり意味はない。
南雲先輩がやるべきことは、試験初日から徹底的に自分のグループにポイントを注ぎ込み、自分以外のグループは全てリタイア覚悟の自爆特攻をさせることなのだったけど、そこまでは開き直れるものではないか。
勝つためにあらゆる手段を行使するという評判だけど、初手で相手を殺すという選択肢を取らずに遊び回っていた時点で、覚悟が足りていないと言えるのかもしれない。
変な所で常識を発揮せず、さっさと殺しに来ればもっとギリギリの戦いが繰り広げられたのかもしれないけど、戦力や手段を小出しにするのが最大の敗因なのかな。
なんであれ、これで俺たちを追い込めていると考えてくれているのなら、その状況を精一杯利用して三年生たちのペース配分を乱すとしよう。
走り回り、引きずり回して、水も食料も無駄に消費させてヘトヘトになった妨害組の三年生たちの多くが、十日目を越えることができないままリタイアすることを確認して、やはり戦力の逐次投入は愚策であると判断するのだった。
初手から総力を注ぎ込んで自爆覚悟でリタイアさせる。それが最適解だと思うけど、実際にその判断をするのはなかなか難しいということだろう。
もし仮にこの試験で戦うのが九号ならば、おそらく初手で銃器なり爆薬なり毒なりを引っ張り出して来るんだろうけど、良くも悪くも南雲先輩はそれが出来ない人なのかもしれないな。
いや、まぁ、忍者と一般人を比べるのはアレなんだけれども。
なんであれ試験は折り返しを越えても順調そのものだ。妨害は激しいけどペース配分を乱して水も食料も激しく消費した挙句に最後には体力が尽きてリタイアするだけだし、後半戦まで戦っていけるほど体力のある人は三年生にはいないらしい。
ここまでくれば正攻法での逆転はもう不可能だ……つまり、ここから先は極めて暴力的な展開になるということを予感させるのだった。
月城さんも生徒の安全を守らないといけない立場なのにこう言っていたからな、生徒間のイザコザや衝突は仕方がないって。