ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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襲撃

 

 

 

 

 

 

 

 

 三年生たちの動きがようやく止まったのは十日目になった段階だった。ここ数日はずっと追いかけ回したり課題に先回りしたりと、色々とやっていたのだけど、疲労と脱水症状でかなりの数のリタイア者が出たことでかなり落ち着いたらしい。

 

 この試験で大切なのはペース配分だけど、水も食料も体力もこっちのペースに合わせて動き回れば足りなくなるだろうし、やはりと言うか十日目を越えられた三年生はかなり少なかった。

 

 妨害組として動いていた彼らの大半はリタイアしているようだ。最後っ屁のつもりなのか十日目の朝が始まった時に俺たちが扱っているテントに石を投げつけて来たことが最後の妨害となり、今はもう姿すら発見できない。

 

 穴の開いたテントは放棄するとしよう。もう役に立たないし、クラスメイトの誰かから譲って貰って試験を続行すれば良い。それで片付く問題だった。

 

「随分と静かになったようだねぇ」

 

「大量のリタイア者が出たみたいだからね」

 

 この勾配が激しくて障害物も多い無人島でフルマラソンをすればそうもなる。多分南雲先輩はこっちが先に力尽きるという考えだったんだろうけど、見通しが甘すぎる。

 

 こっちは師匠に数百キロの仁王像を背負わされてずっと山の中を走り回る生活だったんだ。この程度で疲れるような改造は受けていない。

 

「フッ、だがまぁ、諦めの悪い男だろう、彼はね」

 

「まぁ諦めて二位や三位狙いに甘んじる人ではないだろうね。南雲先輩は」

 

 正直、そうするのが一番賢い選択だけど、鈴音さんが教えてくれるサーチによる情報収集によると、三年生の一部が各学年やクラスの代表者と接触しているとのことなので、頭数を揃える段階なんだろう。

 

 サーチ機能は本当に便利だな。誰がどこにいてどんな行動をしているのか一発だ。退学のリスクもないので使いたい放題だからな。

 

 まぁ、頼り過ぎて見えすぎるが故の盲目にならないように注意しないといけないけどな。腕時計を壊せばタブレットには表示されなくなる。サーチ機能を完全に信用する訳にはいかない。

 

「六助、もうすぐレスリングの課題が見えてきそうだ。お、あれかな」

 

 朝一のエリア移動で無事一位を取り、その足で近場の課題に参加する為に森の中を進んでいると、大型のテントが見えて来る。中にはマットを敷き詰めて作られた簡易のレスリング場が作られており、既に半分ほどの定員が埋められているらしい。

 

 三年生の妨害が激しかった時は先回りされて課題を受けられなかったから、少し距離のある場所まで走る必要があったんだけど、今は落ち着いているので普通に参加できそうだ。

 

 それにここに来たのは課題に参加することもそうだけど、クラスメイトからの支援を受ける為であった。三年生からの嫌がらせで石を投げつけられてテントが破れてしまったからな。

 

「あ、お~い!! 天武くん、高円寺くん、こっちだよ」

 

 レスリングの課題が行われる大型テントの近くでは、桔梗さんのグループが待っていてくれた。王さんと井之頭さんの姿もある……そして篠原さんの姿もだ。

 

「お疲れさま桔梗さん、悪いねこんなこと頼んじゃって」

 

「もう、無線でも聞いたけど良いんだよ。天武くんが頑張れるように支援するのがクラスの方針なんだから」

 

 ニコニコと笑う桔梗さんは早速とばかりに俺と高円寺に食料と水が入ったリュックを渡してくれた。彼女のグループがこれまで節約して貯めてくれていた物資である。

 

「王さんも、井之頭さんも、篠原さんもありがとう。とても助かるよ」

 

「い、いえ、そんな」

 

「うん、まぁ私たちのグループだと上位入賞は難しいだろうしね。それなら笹凪くんたちに譲った方が良いだろうしさ」

 

 王さんと井之頭さんはそう言って少しだけ照れたような顔をしている。

 

「篠原さんも沢山手伝ってくれてね、魚を釣るのが凄く上手で節約が捗ったんだ、ね? 篠原さん」

 

 意外な特技である、篠原さんは釣りが上手かったのか。

 

「ベ、別に上手って訳でもないけど、ほら、池が色々やってて教えてくれたから」

 

 なるほど、確かに池も釣りが上手かったな。確か釣りの課題では一位を取っていた筈だ。

 

「私たちはポイントを得るよりも食料を貯めることを中心に動いてたから、篠原さんがいてくれて本当に助かったんだよ。おかげで食料は沢山あるからきっと役に立つと思うな」

 

 ニコリと笑う桔梗さんはずっしりとした重みのあるリュックを渡してくれた。

 

「本当にありがとう。大きくポイントが貰える課題は報酬で食料や水を貰えることが少ないから大真面目に助かるよ。多分だけどこれだけあれば最終日までは無補給でいけそうだ」

 

 それの何が良いって、食料の報酬を無視して高得点の課題を狙い撃ちできるということだ。つまりここから先はラストスパートである。水や食料を得る為にポイント報酬の低い課題を受ける必要がない。

 

 桔梗さんたちもかなり節約していたんだろうな。もしかしたら篠原さんが釣った魚だけで過ごした日だってあるのかもしれない。

 

「まぁ、何もできないままリタイアにならなくて良かったかな。リタイアするにしたって多少は仕事したって思いながらじゃないとね」

 

 篠原さんもどこか満足そうなので、あそこでリタイアしなくて良かったと思ってくれているようだ。

 

 彼女たちは俺たちに物資を渡したことでここでスッカラカンとなってリタイアすることになるのだけど、彼女たちの物資は俺たちを活かす。素晴らしい連携であると思う。

 

 三年生たちの投石により穴の開いたテントも、桔梗さんたちが使っていたものを使えば問題ない。

 

「フッ、見ていたまえ、私の躍動をッ!!」

 

「え、えっと、頑張って、高円寺くん」

 

 レスリングの課題を受けることになった訳だけど、六助が王さんの前でサムズアップしてやる気を迸らせている。

 

 急にどうしたんだろうか? これまでもやる気はあったけど、ここまで元気なのは初めてのことだ。何だったら試験初日よりも気合が入っているかもしれない。

 

 まぁやる気があるのは大いに助かるのでありがたいことだ。レスリングの課題に参加した一年生たちを薙ぎ払って同着一位を得たことで女性陣からも感心されることになる。

 

 レスリングの課題で得られる報酬は食料と水、或いはポイントの増大なのでここは後者を選んでおく。もし前者を選んだ場合は得られるポイントが少なくなるという課題なんだけど、桔梗さんたちのおかげで物資は潤沢なので何も問題はない。

 

 この試験、やっぱり変に気取ったり細かな作戦を立てるよりは、リソースを一つに纏めて真面目に進めるのが一番勝率が高そうだよな。

 

「わぁ、凄いね二人とも、あっという間に勝っちゃった」

 

 桔梗さんは死屍累々となったレスリング場を見て感心するやら呆れるやら、色々と複雑な表情をしながらも褒めてくれた。

 

「強敵もいなかったから楽だったよ」

 

「そう? 天武くんなら龍園くんや山田くんが相手でもポイポイ投げちゃいそうだけど」

 

 できそうだ。特に山田は投げごたえがありそうな体をしているけど、この試験でまだ一度も戦ってないんだよね。

 

「でも良かった。もう十日目だから流石の天武くんも疲れて来てるかなって思ってたけど、この分ならこのまま一位を取ってくれそうだね。ふふふ、船に帰ったらクラスでお祝いしよっか?」

 

 ニコニコと笑ってそう言って来る桔梗さんは、自分たちが使っていた折り畳みテントを渡してくる。

 

「まだ気が早いって、安心するのは試験が終わったその瞬間だろうからね。ただ、こうして桔梗さんも力になってくれたんだ、全力で勝ちに行くよ」

 

「ふふふ、そうだねぇ、天武くんは私のおかげで勝てるんだよねぇ」

 

 ニコニコとした笑顔からニヤニヤとした笑顔へと変わった桔梗さんは、俺の耳元に顔を近づけてこういった。

 

「これは貸しだね。うん、間違いなく」

 

 別に食料や水やテントを分けてくれたのは桔梗さんだけの功績でもないんだけど、ここでそれを指摘するのは野暮なんだろうな。

 

 師匠曰く、男は女に翻弄されるくらいで良い。何だかんだで下手に出るくらいで丁度良いらしい。

 

「あぁ、桔梗さんのおかげで戦っていける」

 

「素直でよろしい」

 

 まぁ何だかんだで機嫌は悪くなさそうなので俺は嬉しくある。イライラしているよりも笑顔の方が素敵な人だからな、彼女は。

 

 まだ清隆や鈴音さんを退学させる気なのだろうかという疑問はあるんだけど、多分だけど桔梗さんはそういった話題をすること自体を嫌う人なので放置で良いだろう。

 

 何かするつもりなら阻めばいい、その上で俺は彼女すらも守ると決めているんだ。結局の所、俺はただやるべきことをやればそれで問題ないというだけの話だった。

 

「六助、そろそろ次のエリアに向かおうか」

 

「ふむん? これからが本番なのだがねぇ」

 

 王さんと井之頭さん、そして篠原さんにサイドチェストを見せつけて、変な感心を集めていた六助を呼び戻して移動するとしよう。圧倒的な大差を二位以下と付けてはいるけれど、それで油断するとただ間抜けなだけなので全力で挑むしかない。

 

 とりあえず桔梗さんたちのおかげでおそらく最終日まで食料も水も補給せずに進んでいけそうなので、ここからのラストスパートは問題なく走っていけるだろう。

 

「それじゃあ皆、支援ありがとう。必ず勝つから船で休んでいてね」

 

「頑張ってね笹凪くん、高円寺くんもね」

 

 篠原さんがそう言うと、女性陣の激励が続いた。

 

 そんな彼女たちの声援を背に受けて走り出す。試験も十日目となり、いよいよラストスパートの始まりである。

 

「やっぱりアレだね、女の子から応援されると元気が出る。不思議なものだ」

 

「ほう、マイフレンドにも年相応な部分があるじゃないか」

 

「そりゃあるさ、俺はサイボーグでもなければアイスマンでもないんだ。単純なもので女の子の前でカッコつけたい気持ちもあるし、応援されれば調子にも乗るさ」

 

「ハッハッハッ、それで良いのだよ。君の場合は多少幼稚なくらいで丁度良さそうだ」

 

 共に無人島を駆けながらそんな会話をして、ランダム指定された指定エリアに踏み込むと、無事に一位を得られたことを知らせてくれた。

 

 試験も十日目に入りそろそろラストスパートだ。そして現状で二位とはダブルスコアを超えるほどの差があるのでここから正攻法での逆転はまず不可能だ。

 

 七日目の雨の日に試験と課題が中止になったことで、最終日の得点が倍になると学校側から発表があったのだけど、そういう問題ではないくらいの差である。

 

 他のグループはこう考えるだろう。もう勝てないからリタイアさせて逆転を狙うしかないと。

 

 誰だってそう考えるし、現実的にそれ以外の方法で今から勝つことは難しいだろう。

 

 俺だってそう思うのだから、当然ながら他の人たちだって同じことを考える。

 

 特に、二位に甘んじている南雲先輩からしてみれば、その手段で戦えるだけの立場と命令を下せるので、より現実的に思えるのかもしれない。

 

 もしかしたら今頃、一人でも多く頭数を揃えようと交渉しているのだろうか? うん、普通にありそうだな。

 

 後半戦になると基本移動で一位を取れることが多くなったと思ったけど、別に前半戦でもそれは変わらなかったか……けれど人の動きは明らかに鈍くなったと感じられる。

 

 やはり疲労が濃くなってきたということだろう。基本移動で一位を取ることを目指すよりは、あまり体力を消費しない課題などでポイントを稼いでいくことにシフトするグループが多くなってきたということだろうか。

 

 それはそれでありがたい話である。こっちはまだまだ元気一杯だからな。

 

「ふむん?」

 

 さて近場の課題で一番ポイントを稼げるのはどこだろうかとタブレットの画面を確認していると、六助が顔にかかる前髪を掻き上げて整えながら何やら視線を険しくしている。

 

「マ~イフレンド」

 

「あぁ、空気が変わったね……匂いもだ」

 

 眺めていたタブレット端末をタオルにくるんで壊れないようにリュックの中に押し込む。

 

「ん……来るね」

 

 それはほんの僅かな異変だった。この無人島に生息する小さな虫や小動物の動きの変化であったり、風に乗って届く匂いや音であったり、或いは肌で感じ取る何かであったりと理由は様々である。

 

 耳に届く草木を掻き分ける音、荒い呼吸音、土と葉と小枝を踏む足音、人が人である以上は隠すことのできない気配は俺たちを囲むように近づいてくるのがわかった。

 

 九号のような隠形能力を持たない生徒たちの集団移動は、確かな異変となって俺と六助の索敵範囲に踏み込んで来たらしい。

 

「50、60……いや、70前後って所かな」

 

「だとすれば数が合わないとは思わないかね? 三年生は男子は既に多くが脱落しているのだからねぇ。レディを荒事に動かしたという訳でもないだろうし……ふむ、援軍を引っ張って来たということかな、サウスクラウドボーイは」

 

「まぁ俺たちに消えて欲しいのは何も南雲先輩だけじゃないだろうから、不思議なことでもないけど」

 

 一年や二年だって共通の敵という口説き方をすれば引っ張って来れる可能性は十分にある。

 

 タダ働きは嫌だという坂柳さんや龍園の姿が思い浮かぶ。そもそもあの二人は俺に一位を取って貰わないと困る戦略だという推測ではあるんだけど、その辺はどう思ってるんだろうか。

 

 南雲先輩の協力者は誰で、その共同戦線を作る為にどれくらいの出費を受け入れたのかは知らないけど、下手しなくても家計は火の車になるんじゃなかろうか……もしかして南雲先輩は勝てれば全て支払えると考えている可能性もあるのかな。

 

 学年全ての便乗のカードを一点集中している筈なのでまぁ間違った認識ではない。勝てれば大損にもならない。勝てればな。

 

 パキッと、小枝を踏み折る音がハッキリと耳に届く、いよいよ来るか。

 

「六助、覚悟は?」

 

「フッ、愚問だとも」

 

「よし、悉くを凌駕して叩き潰す……あぁ、でも、大怪我だけはしないように、そしてさせないようにして欲しい」

 

「やれやれ甘いことだと思うのだが……いや、そもそもそれは私のセリフだとも」

 

「それはどういう意味だい?」

 

「勢い余って、という状況を心配しているのさ」

 

「おいおい、そんなことある訳ないだろう。俺はそこまで乱暴者じゃない」

 

「……」

 

 六助は何を言っているんだ君はと言いたそうな顔をする。

 

 まぁ良いさ、俺への誤解はこの局面をスマートに乗り越えることで証明するとしよう。

 

 俺は九号みたいにゴリラ全開な感じで物事を解決することはない。一人の成熟した責任感のある男として冷静かつシンプルに解決するだけだ。

 

 そう、俺は冷静な男、一年生だった頃よりもずっと成長して大人に近づいたのだ。

 

 去年は色々あった、その様々な経験が成長させてくれたのは間違いない。そもそも何もかもを暴力で解決しようというのはあまりにも幼稚で短絡的だと思う。

 

 

「ふんッ」

 

 

 けれど、そんな俺の決意は、こちらに投げつけられて来た石を受け止めて、頭で考えるよりも早く師匠モードの俺が勝手に投げ返してしまったことで、無に帰してしまうのだった。

 

 六助からは、ほれ見たことかと呆れたような顔をされてしまう。

 

 いや、違うんだ……師匠がこうしろって教えて来たもんだから、それに師匠モードの俺が勝手に……。

 

 言い訳だな……もう開き直ろう。結局俺はゴリラってことなんだろう。

 

 

 まぁあれだ、大怪我をさせたり死なせたりしなければ、それはきっとスマートな解決ということなんだと思う。

 

 師匠曰く、結果良ければ全て良しとのこと。

 

 とりあえず襲い掛かって来る全員を叩きのめしてから反省しようか。

 

 

 

 

 

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