ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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 綾小路視点

 

 

 

 

 

「で、私たちの心配を他所に二人で何してた訳?」

 

 愛里を引き連れて港に戻ると、波瑠加が私は不機嫌ですと主張するかのように腕を組んで仁王立ちをして出迎えて来た。

 

「ご、ごめんね波瑠加ちゃん」

 

「本当にごめんだってば、どれだけ心配したと思ってるのよ。サーチ機能を使ってきよぽんを追い回してさ」

 

 どうやら愛里はグループのポイントを無断で使っていたらしい。

 

「まぁ別に私たちは上位入賞を狙ってる訳じゃないからそれは良いんだけど、こんな無人島で一人で移動するとかやっぱり心配になる……私何か間違ったこと言ってる?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 シュンとする愛里を見つめて波瑠加は深い溜息を吐いてから、濡れタオルで汚れた頬を拭い去った。

 

「こんなに泥だらけになって……ほら、シャワー浴びてきなよ。幸いにも今は空いてるからさ」

 

「……うん」

 

 愛里の背中を押して個室シャワーの申請を進めていき、そして今度はこっちを見つめて来る。

 

「それで、結局なんで愛里はきよぽんを追いかけ回してたのよ」

 

「黙秘する、とても個人的な理由だからな」

 

「ほぉ~、誤魔化しますか」

 

 納得がいかなかったのか波瑠加は不機嫌になってしまった。

 

「本当に個人的な話なんだ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「少しだけ、愛里とわかりあえたと思う」

 

「え、なに、もしかして惚気られてる?」

 

「そんなことはない」

 

 納得はできていないのだろうが、波瑠加は何だかんだで他者との距離感を常に意識している部分がある。こちらが頑なだとわかれば踏み込んではこないだろう。

 

「まぁ良いけどさ。何かさっきの愛里、吹っ切れた感じになってたし、やる気みたいなのが感じられたかな」

 

 落ち込むのではなく、開き直れたのならば良かったと思う。今後どうなるかはまだ不透明ではあるが、より成長してくれるのかもしれないな。

 

「ゆきむ~もみやっちも心配してたし、後でちゃんと謝らせるつもりではあるけどね」

 

「そうしてやってくれ」

 

 一人でこの無人島を、それも女子が移動するのは叱られて当然の行動ではある。そこは間違いない。危険すぎるからな。

 

「ところで、明人と啓誠はどこにいるんだ?」

 

「近場の課題にさっき参加するって言ってた。そろそろ食料が足りなくなってきたしさ。それになんか三年生が大量にリタイアしたから上手いことやれば上位50パーセントの報酬も狙えるんじゃないかって話してたしね」

 

 この港エリアをキャンプ地にしていると水はタダで手に入るが食料はそうもいかない。そして天武が暴れ回った結果、確かに大きく順位に変動があったのだろう。既に試験はラストスパートの段階だが、上手く動けば報酬も得られるかもしれないな。5万ポイント程度は今更ではあるが、無いよりはあった方が良い。

 

「きよぽんはどうするの?」

 

「腕時計が壊れたから交換に来たんだ。それとシャワーも浴びておきたい」

 

「そっか、予定が無いんなら今日もここで過ごしていきなよ」

 

「あぁ、そうするつもりだ」

 

 月城も最終日に動くつもりらしいので、ぶっちゃければそれまで暇になる……いや、懸賞金のことを考えれば一年生が派手に動くかもしれないな。

 

 天沢がホワイトルーム生だとほぼ確定したが、まさか一人だけということもないだろう。そう考えると餌としての仕事をしっかりと進めていかなければならないが、まぁ今日くらいは構わないか。

 

 この港エリアにいる坂柳とも、色々と調整しておかなければならないからな。

 

 まずは南雲の持っていたタブレット端末を海に沈めておくべきだろう。指紋を採取されても困るのでこういった所は徹底しておきたい。既に粉々に砕いてポケットに入っているので、機会を窺って海に撒いておこう。

 

 そんなことを考えながらシャワーの申請を済ませてから汗を流し、着替えてからジャージの中に入っていた端末の残骸を海へとこっそりと投げ捨てる。万が一の可能性もあるので異なる場所に少しずつ。

 

 そして全ての残骸を処理すると、この港で打ち合わせをしておきたかった人物、坂柳が陣取るキャンプ地も近くなっていた。以前に話した時もそうだったが相変わらずパラソルの下でグループの指揮を執っているようだ。

 

「おや、綾小路くん、また休憩ですか?」

 

 あちらもオレに気が付いたのか、手に持っていた無線機とタブレット端末を置いて視線こちらに向けて来る。

 

「そんな感じだ」

 

「フフ、のんびりと過ごされているようですね」

 

「退学の心配がないからな」

 

 餌として振る舞いながら獲物がかかるのを待っているだけだ。今のところは七瀬と天沢くらいのものだが、他の一年生や月城の動きも現状では待つしかない。

 

「それより、契約通り処理しておいた」

 

「ありがとうございます」

 

 坂柳はそう言いながら瞳を港に停泊している小型船に向けた。そこではピストン輸送で沖にある豪華客船に負傷者を運ぶ作業が続けられているのが確認できる。

 

 オレがシャワーを浴び終わって外に出た辺りから学校側の職員が担架で運んでいるのは主に三年生だ。やはり天武と高円寺には勝てなかったのか誰もがボロボロでありリタイアしてしまうようだ。

 

 その中にはオレが突き落とした南雲の姿もある。職員が持つ担架に乗った状態で小型船に乗せられてそのまま豪華客船へ運ばれることになるのだろう。どれくらいの負傷かはハッキリとわからないが、あの角度の斜面ならば深刻な事態にはならない筈だ。

 

 全身打撲といった所だろうか、なんであれ復帰は不可能と判断できる。

 

「南雲先輩も不憫ですね。事故に遭わなければ二位になれたかもしれないのに」

 

「そうだな、だがこんな無人島なんだ、足を滑らせることくらいは別に珍しいことでもないだろう……運が無かったってことだ」

 

 南雲の背中の感触はなかなか悪くなかった。きっと小宮たちを蹴り落とした誰かもさぞ気分が良かったことだろう。

 

「それよりもだ、代わりと言ってはなんだが一年生たちの動きに対処したい。手を貸してくれ」

 

「構いませんよ、そういうお約束ですから。それに、私たちにとっても一年生の処理は都合が良いので」

 

「それは、葛城を三位にする為か?」

 

「フフフ、お気づきでしたか」

 

 坂柳の最終的な目標は二位と三位をAクラスで埋めることなんだろうな。便乗のカードを天武に注いでいると推測できるので、クラスポイントもプライベートポイントも今回の試験で大きく稼げるはずだ。

 

 タブレットを確認してみると、今現在葛城グループは四位の位置にいる。三位にいるのは一年生連合のグループだ。差はほんの僅かでしかないが安心はできないか。

 

 パラソルの下で日差しを避けながら、ビーチチェアの腰かける坂柳は怪しく微笑んでいる。三年生を処理したので次の獲物を見定めている顔だな。

 

 上手いこと一年生を処理できれば全体の50パーセントの報酬も二年生で埋められる可能性もある。既に三年生たちは壊滅状態なので不可能でもない。

 

「今現在、三位の位置にいる一年生連合を追い落としたいと思っています。しかし彼らは何故か綾小路くんを意識して動いているようですね、何か理由がおありなのですか?」

 

「ちょっとした報酬を狙っているんだ」

 

「それなら、彼らが綾小路くんを意識している間にこちらも動きましょうか」

 

 坂柳の協力が得られるのならば問題はないだろう。鶚がこちらに指示に従う戦力として動かせはするのだが、天沢の様子を見る限り勢い余って死人が出る可能性もあるのであまり素人にぶつけたくはなかったりする。

 

「仮に一年生連合を処理できたとしても、今度は龍園が上位三組に食い込んで来る可能性もあるが、そこはどう考えているんだ?」

 

 龍園グループの順位は五位である。葛城グループとも一年生グループともほぼ差が無く、それこそどこかの課題で一位を取れば簡単に順位は入れ替わる程度の差だ。

 

「それはそれで困ります。彼は容易に背中を見せる相手ではないでしょうから。ですので利益を提供して一時的な協力関係を作ろうかと、三位を譲っても構わないと思えるくらいのね」

 

「随分と気前が良いな」

 

 すると坂柳は唇を歪めてやはり怪しい笑みを見せる。

 

「フフフ、三年生から臨時収入が得られることになっておりますので。それを龍園くんに渡そうかと」

 

 今現在、担架で次々と港に運ばれてくる三年生から毟り取る算段があるということなんだろう。

 

 坂柳としては増員のカードを得たマイナス分さえ今回の試験で補填できればそれで満足らしい。二位と三位を得られれば利益としては十分ということか。

 

 三年生から得られるプライベートポイントは余剰資金のような感覚なのかもしれない。龍園を動かす餌にしても問題はないという判断なのだろう。

 

 なにせ資金の捻出先は三年生だ。坂柳は何も損はしていない。南雲のポイントで龍園を動かせるとでも考えているらしい。

 

「おそらく一年生は近い内に動くだろう。その時は宜しく頼む」

 

 これはオレ自身の身を守る為と言うこともあるが、坂柳にとっては葛城を三位にする為に必要な行動でもある。もしかしたらオレの要請が無かったとしても勝手に動いたかもしれないな。

 

「えぇ、お任せください。綾小路くんもどうかお気を付けて、順調そうに思えても背中から蹴られてしまうこともあるでしょうから」

 

「そうだな、そうならないように気を付けるとしよう」

 

 南雲の立場になる可能性も否定はできない。それはオレだけではなく坂柳や天武にも同じことが言えるので、最後の最後まで気を抜くことはできない。利確するまで警戒を緩めないのは当たり前のことだった。

 

 南雲があれだけ派手に転がっていったのを見たからな、同じように転落しないように気を付けるべきだ。

 

 普通の生徒ならばリタイアすれば船に戻されるだろうが、オレの場合は月城が迎えに来てそのまま拉致される可能性が高いので、間抜けに転げ落ちることだけは避けなければならない。

 

 一年生の襲撃も懸賞金がある以上は十分に考えられるので、二年生で報酬を独占したい坂柳とも話が通しやすかった。

 

 龍園に関しては、まぁ坂柳が上手く誘導するのだろう。南雲の財布から出るであろうポイントを使って。

 

 坂柳との交渉と確認を終えてオレはグループが作っているキャンプへと戻る。既に啓誠と明人も帰って来ており、昼食の準備を行っているようだ。

 

「き、清隆、来ていたのか」

 

 啓誠がぐったりした様子で浜辺に用意されたブルーシートの上でぐったりとしていた。

 

「オレも休憩だ……それにしても随分と疲れているようだな」

 

「あぁ、運動系の課題に参加していたからな」

 

 割と運動が得意な明人はそこまで疲労している様子はなく、今も昼食の準備をしているのが見える。

 

「参加賞の食料は手に入れたから、まぁ良かったんだがな……それより、愛里も帰って来たようで安心したぞ」

 

 やはりグループのメンバーには不安を与えていたらしい。気持ちはわからなくはないので、こればかりは愛里が悪いと言えるのかもしれない。

 

「深くは聞かないが……問題はあるのか?」

 

「いいや、大丈夫だ。特に問題はない」

 

「そうか、ならば良い。ただ何かあれば相談してくれ。別に俺に限った話ではなく、波瑠加や明人でも構わない」

 

「あぁ」

 

 人との距離感を意識する者が多いグループなので、深く踏み込んで来ないのは過ごしやすい理由の一つでもあるんだろう。

 

 ブルーシートの上でぐったりとしている啓誠は安静にさせておくとして、今日はオレもここで過ごすつもりなので昼食の手伝いをするか。

 

「明人、何か手伝おう」

 

「悪いな、なら魚を捌いてくれ……あの二人に任せると少し不安だからな」

 

 あの二人とは愛里と波瑠加のことである。別に不器用という訳でもないのだが、明人の言い分が何となく納得できるのは何故なんだろうな。

 

 愛里は魚か包丁をすっぽ抜いてしまいそうで……いや、止めておこう。

 

「試験の方は順調か? 一人で挑むのは大変だろ」

 

「絶好調とはいかないが、三年生が大量にリタイアしたらしいから、もしかしたら50パーセント圏内には入れるかもしれないな」

 

「みたいだな、一体何があったんだ」

 

 明人の視線がこの港エリアに次々と担架で運ばれていく三年生たちに向けられる。

 

「オレもわからない。事故にでもあったのかもな」

 

 それかゴリラと遭遇したのかもしれない。三年生たちには同情するしかなかった。

 

 坂柳や龍園からも搾取されるようなので、おそらくあの襲撃に参加していなかった面子には大きな影響が出る筈だ。それこそ物資と水不足でもしかしたら今日中には三年生の90パーセントはリタイアするかもしれない。

 

 上位50パーセントの報酬すら大半が受け取れないまま敗退が確定した状況である。南雲はこの惨状をどう思うのだろうか。

 

 まぁオレには関係がないことだな。蹴りやすい背中を晒す方が悪い。

 

 魚を捌きながら既にリタイアが確定した集団のことは思考の外に追いやる。今考えるべきなのは懸賞金目当てで動くであろう一年生と最終日に待ち構えている月城のことだった。

 

 前者に関しては坂柳もやる気なのでそこまでは心配していないが、問題なのは月城の方だ。愛里が聞いた話ではオレを誘拐することもそうだが、どちらかと言えば天武の排除に重きを置いているような印象を与えてくる。

 

 オレが学校に残るよりも、天武がいる方がずっと何か都合が悪いかのように月城側は考えている可能性もあるのかもしれないな。

 

 つまり天武の存在は完全に計算外だったということだろう。だとしたらオレがこの学園に残ることは計算の内なのだろうか……一度月城から情報を得ておきたいが、簡単に口を割るような男でもない。

 

 まぁ流れ次第だろう。どうせ最終日付近でぶつかることになるんだ。そこで機会があれば情報を得ておきたい。

 

 そんなことを考えると、キャンプファイアーの準備をしていた波瑠加と愛里がこっちに手を振って来た。どうやら後は焼くだけの状態であるらしい。

 

「清隆くん、準備できたよ」

 

 どこか楽し気に、そして朗らかに笑いながらオレを引き寄せる愛里を波瑠加はジッと眺めており、次にオレに視線を向けて「本当に何があった訳?」と聞きたそうな顔をする。

 

 すまない、本当に話せないんだ。

 

 だが波瑠加も最終的には今の愛里を見て納得したのか、オレの脇腹辺りをこっそりと肘でグリグリ押して揶揄ってくるのだった。

 

 なんだそれは、上手くやったとでも伝えたいのだろうか。

 

「波瑠加ちゃん、何してるの?」

 

「ん~、別になんにも……それより魚を焼いちゃおう、ナマモノは足が早いしさ」

 

 誤魔化すようにそう言うと、波瑠加はニヤニヤ顔を隠して調理を開始するのだった。

 

 そこに回復した啓誠と明人も加わり、ちょっとしたバーベキューのような形となってその日を過ごすことになる。試験の最中ではあるが、こんな時間も悪くはないのだろう。

 

「清隆くん、お肉も食べる?」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 隣に座ってキャンプファイアーを眺める愛里を見ながら、オレは天武の言葉を思い出す。

 

 天武曰く、青春は大切とのこと。

 

 

 

 

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