綾小路視点
試験はラストスパートである十二日目となる。十日目に三年生の襲撃が行われて、当然と言うべきか自然と言うべきか、三年生の大半が消滅した結果、それほど多くポイントを稼いでいる訳でもないのに50パーセント圏内が現実的な順位となっていた。
それはオレだけでなく無人島にいる全ての生徒が言えることである。三年生の90パーセント以上がリタイアしているので単純に順位が繰り上がったからだ。
最初こそ三年生は襲撃に関わった男子が中心に大量リタイアしたのだが、男手の大半を失った上に、南雲の軽率な契約によって水と食料を提供しなければならなかった為、残った女子は持っていた物資の大半を奪われたらしい。
それをしないと賠償として大量のポイントを払わなければならなかったので、嫌とは言えなかったのだろう。しかしそのせいで物資は枯渇、男手の消失、士気の低下、指揮官の不在、勝算の低下、それら全てが噛み合った結果、女子からも大量のリタイア者が出たということだ。
こうして三年生の90パーセント以上がリタイアするのだった。十二日目に三年生の姿を無人島で見ることもなくなり、課題でぶつかりあうこともなくなった。
今、無人島にいる三年生は意地でしかない、それだって最終日まで意地を張っていられるかもわからないので、もう三年生グループは脅威として認識する必要はないだろう。
次にオレが考えなければならないのは一年生のグループである。懸賞金がかかっている以上は避けては通れない。
こちら側に立った七瀬からも、教えていた個人周波数に合せた無線機で一年生が大きく動くと報告も受けている。
十二日に勝負を決めに来たのはありがたくもある。最終日までもつれ込んで月城関連の面倒事と噛み合って貰っても困るからな。
坂柳との協力もある。だから、一年生が今日動くと言うのならば、それは都合も良かった。
タブレット端末を確認してみると一年生の動きもよくわかる。今朝の段階で七瀬が言う襲撃グループの動きが顕著であり、その光点の動きはこちらに向かってくるのが確認できる。
『綾小路くん、聞こえますか?』
「あぁ、良好だ」
無線機からは坂柳の声が届く。あちらも一年生の動きを把握したのか、動くべき所だと判断したのだろう。
『こちらで一年生の動きは押し留めます。しかし本質はそこではありません』
「理解している。お前にとっては一年生グループに損害を与えたいんだろうからな」
葛城グループを三位にさせる為には一年生連合に損害を与えることが絶対条件だ。壊滅とはいかなくても人数を減らせばそれで問題はない。
オレという餌に集中している間に、南雲がそうであったように後ろから損害を与えるつもりなのかもしれないな。
「別に動きを制限するつもりはない。そちらは好きにやってくれ」
『勿論、そのつもりですよ』
不敵な笑い声と共に無線機での通話を終える。改めてタブレット端末を確認してみると、一年生と二年生の光点が接触しようとしているようだった。
ただしこれは表面的なものでしかない。南雲がそうであったように画面に映った情報だけが真実とは限らないので、ずっとそこにだけ集中することはできない。
「鶚、そっちはどうだ?」
無線機のメモリを弄って周波数を鶚が持っている無線機に合わせて連絡を取ると、抑揚のない声が届いた。
『問題ね~です、目標を視界に入れた状態で監視中ッス』
「適当に頼む。無理そうならばそれで構わない」
『パイセン知らないッスか? 忍者に不可能はね~です』
そうは言うがオレはお前の実力を細かく把握はしていない。天武と同じ常識を外れた存在であるとは理解しているが、何が出来て何が出来ないのかを完全にはわかっていない。
なので無理なら無理で構わないのだが、忍者に不可能は無いらしいので問題はないんだろう。
タブレット画面を確認してみると幾つかの一年生グループと二年生グループが複数のルート上でぶつかり合っているのがわかる。殴り合いに発展している訳ではないだろうが、足止めや睨み合いが続いていると思われる。
そんな衝突を横に、単独でこちらに突っ込んで来る光点が一つだけあった。
背後を警戒しながらもそいつが近寄って来る方向に視線を向けてみると、草木を掻き分け……いや、踏み砕くように近づいてくる大柄な生徒の姿が確認できる。
「宝泉か」
まぁ来るだろう。獰猛なという表現が良く似合う男なのだ、他の一年生と足並みを揃えるのではなく、寧ろ都合良く二年生を押し付けられる存在として扱い、自分だけは単独突破だ。
一学期の大半を病院で過ごすことになったので鬱憤も溜まっているらしい。その怒りを天武ではなくオレに向けて来る辺り、相手を見て殴り方を変えられるくらいの思考力は持っているらしいな。
「見つけたぜ綾小路センパイよう!!」
興奮を宿した表情がこちらからも確認できる。邪魔そうに枝葉を踏みつぶして視界を広げた瞬間に力強い視線をこちらに向けて来た。
高い身体能力に、愚かとは言い切れない思考力、何より他者に暴力を振るう行為に躊躇が無い姿勢は素直に脅威と言えるのかもしれないが……比較相手が天武となるとどうしても未熟に思えてしまう。
脅威であることは間違いないのだが、どこまで行っても高校生レベルという表現で落ち着いてしまうのだった。
舐めている訳でも侮っている訳でもない、ただ純粋な戦力評価として、宝泉と言う男は結局は人間という物差しで測り切れてしまうのだろう。
超人と比べると、どこまでいっても普通の人間だった。
「待ちに待ったぜこの時をよぉッ!!」
「そうか、すまないがお前に関わるつもりはない」
「ツレねえこと言うなよおいッ」
「悪いがオレは喧嘩が苦手だ、暴力を振るうのも得意じゃない」
「雑魚丸出しの思考じゃねえか、なら大人しくポイントになれよ」
宝泉からしてみるとオレは4000万を貰えるだけの景品か何かなのだろうか。それほど脅威には思われていないらしい。
そう言えば宝泉と何かしら力比べをすることは無かったなと思い出す。警戒も脅威も実感できなかったのかもしれない。
まぁなんだって良い、宝泉を処理するのはオレの仕事ではないのだから。
オレは接近する宝泉の拳を敢えて受けてから言い訳できる状況を作ると、協力者にこう伝えるのだった。
「そんな訳だ龍園、オレを助けてくれ」
「ククク、同級生が一年に襲われてるのなら、こりゃ抵抗するしかねえよなぁ」
オレは協力者の一人、龍園にそう言ってその場を後にするだけだ。悪いが宝泉と殴り合うつもりは欠片もない。
龍園視点
「お前らが三年から毟り取ったポイントを全部だ」
十二日目の早朝、朝一で坂柳の使いが来て一年生の処理を依頼されることになり、報酬を要求した。
「随分と強気だな。一緒に一年生を……上位グループを追い落とすことが報酬だろ?」
テントの外に出ると待ち構えていたのは橋本だ。相変わらずヘラヘラ笑いながら坂柳の犬をやってるらしいな。
「三年と同じこと言ってんじゃねえよ。そもそも坂柳もあの生徒会長からポイントをふんだくってる筈だ。テメエの財布から出す訳でもねえんだ、遠回りな交渉は止めろ……アルベルト、石崎、お帰りだそうだ見送ってやれ」
「おいおい待てよ、ちょっとした冗談だっての……わかったって、姫さんも報酬を用意するって話だ」
橋本の背後にアルベルトと石崎が立つと慌てて前言を翻す。最初からそのつもりなら変なジャブを挟むな。
「お前さんの言う通り三年からポイントを貰える契約だ、それを全部そっちに渡すって条件で、額は500万。構わないだろ?」
「最初からそのつもりなら変な欲を出すんじゃねえよ」
やはり坂柳も三年からポイントをふんだくる契約を結んでいたか。笹凪の襲撃に参加した二年生の状況は報告を受けたが、どいつもこいつもやる気が無かったらしいが、カモにしたってことだろう。
南雲も追い詰められていたんだろうが、幾ら何でも迂闊すぎるな。笹凪の襲撃といい、勝てないギャンブルが好きらしい。
都合は悪くねぇか。どうせこっちも一年は処理しておきたかったからな。
三年生の大量リタイアに加えて、一年生からもそこそこの人数がリタイアしている現状、後は上位の一年生グループを追い落とせば上位50パーセント圏内に俺のクラス全員がほぼほぼ食い込めることになる。5万ポイント程度でしかないがそれでも40人全員ならクラスには200万が入って来ることになる。
更に見方を変えるなら、二年生という学年全体には多少は前後するにせよざっくりと800万ポイント近くが流れて来ることになる。今後交渉するにせよ毟り取るにせよ、あるとわかっている数字を把握できるのは悪くねえ。他所の学年だとなかなか難しいからな。
南雲との契約で得られる500万、坂柳と協力して得られる500万、加えて上位50パーセントでクラスが得られる200万……まぁ上出来か。
「ただし契約を結ぶ場合は教師立ち合いの下で契約書を作って貰うぜ? 後ろからブスリなんてゴメンだからな」
「ククク、信頼がねぇな」
「この学校で一番そこから遠い相手だろ」
橋本は苦笑いを浮かべてそんなことを言ってきやがる。お前の所の坂柳も信頼という点では大差がないだろうが。
「良いぜ、契約を結んでやるよ。そっちの条件でな」
「そりゃ助かる。俺も姫さんに怒られないで済みそうだ」
「条件は報酬だけか? 細かい指定がねえのなら適当に間引かせて貰うぞ」
「あぁ、いや、確か何人か指定した生徒がいたな。今現在三位を維持してる一年生のグループのメンバーと動きが危険な宝泉は確実に処理して欲しいってよ」
「ハッ、そいつは都合が良いな。契約とは関係なしに処理しておきてえ相手だ」
「お~怖ッ、処理だの間引きだの、会話内容が完全にヤクザだな」
橋本、テメエもその会話に参加している一人だってことは自覚してるんだろうな?
まぁ良い、健気に儲け話を持ってきたんだ。契約を結んで邪魔な一年どもを処理するとしよう。
動きを牽制して黙らしておきたい一年もいることだ、ここは坂柳に乗ってやろう。
「石崎、クラスの男どもに集合をかけとけ」
三年生は九割がリタイア、一年は今日でトドメを刺す、そしてもうリタイアによる退学の心配はない。
つまり、必死にポイントを稼ぐ理由は無くなったということだ。寧ろここまで大量のリタイア者が出た状況だと、残りの参加者をどれだけ間引くかのほうがずっと重要だろうな。
坂柳も似たようなことを考えてるんだろうぜ、一年生を追い込んで上位50パーセントや70パーセント圏内から弾きだせれば、この試験で得られる全ての報酬をほぼ二年生で独占できると。
一位で得られるプライベートポイントは一人当たり100万、二位は一人当たり50万、三位で25万だったか。そこに上位50パーセント圏内に入れば一人当たり5万、70パーセント圏内で1万。便乗のカードを的中させれば更に大きなポイントが動くことになる。それら全ての報酬をほぼ二年生で独占するのならば文句はねえ。
今後集めるにしても、素寒貧のクラスからはどうやっても奪えねえからな。俺たちの学年が儲かるってことは、つまり俺の目標にも近づくことになる。クラスにあるポイントの総額もそうだが、同じ学年にあるポイントの総額も意識する必要がある。
南雲もそうだが、ポイントはそこにあるから奪うことができる。袖も振れない貧乏人を増やしても意味がない。
俺が他人を儲けさせるか、つくづく笑えねえな。まぁ今は乗せられてやるとしよう。
Aクラスを代表して坂柳が、こっちは俺を代表にして教師立ち合いの下で契約を結ぶ。幾人かあっちのグループから動ける奴を引っ張って来るとして、まず最初に処理すべきはあのクソ生意気な一年か。
クラスの男連中が全員集まったことを確認してタブレット端末を確認してみると、宝泉は綾小路に接近してるのが確認できた。
「……意味がわからねえな」
宝泉が綾小路を狙う理由がハッキリとしない。言ってしまえば無意味だ。それによって得られる利益が欠片もねえ。まだ私怨で俺を狙うか、それとも上位三組のグループに襲い掛かる方が納得できるが……何か理由があるのか?
例えば、綾小路を落とすことで何らかの報酬が……いや、今は良い、それよりも一年生の間引きだ。
「お前ら、もうポイントを稼ぐ必要はねぇ。ここから先は一年の間引きを中心に動くぞ、上位50パーセント圏内にいる奴らを順次襲撃する」
「おいふざけんな、そんなことが学校側にばれたらペナルティが与えられるだろうが」
「黙ってろ時任、不服だってんなら一人で寂しく魚でも釣ってろ」
こっちに反発的な奴に構ってる時間もねぇ、早めに移動するとするか。
まずは宝泉、次に三位の一年生グループ、そんで50パーセント圏内にいる一年生だな。
なぁに、生徒同士のイザコザはある程度は仕方がねえとあの理事長も言っていたからな、ある意味では免罪符を手に入れたにも等しい。
だが言い訳は必要だ、俺たちの行動を正当化する言い訳が。
そう、例えば、一年生の方から先に襲撃してきて、それを目撃した俺たちが仕方なく応戦したとか、或いは襲われている同級生から助けてほしいと要請されたとかだな。
柄も悪ければ素行も悪い、顔はゴリラで暴力的なイメージもある馬鹿な一年が、とある生徒に殴り掛かって来る映像があれば言い訳の一つくらいにはなるだろう。
「そう言う訳だ龍園、オレを助けてくれ」
宝泉からの攻撃をワザと受けた綾小路は、その瞬間の映像をタブレット端末で録画した俺にそんなことを言ってきやがる。
相変わらず食えねえ男だ、宝泉を処理するのも一人で十分だろうによ。
言いたいだけ言って森の奥に走っていく綾小路を見送って、俺は宝泉と向き合う。
あぁ、悪くねえな、ガンを付け合うなんてこの学校じゃああまり無かったからな、中学時代を思い出すようだ。
「龍園、なんでテメエがここにいるんだ?」
「それはこっちのセリフだぜ宝泉。こんな所に用はないはずだろ?」
「あぁ? ハ、どうやらこっちの動きは筒抜けってことか。他の一年が足止めされてるのも偶然じゃなかった訳だ」
「状況の整理は終わったかよ。脳筋なテメエにでも詰みってことは理解できるだろうよ」
「詰みだぁ? 貧弱なテメエ一人で何ができるってんだよ」
「ククク、理解できてねえなら黙って寝てやがれ。安心しろよ、立てなくなってもまたお姫様抱っこで運んでやる……何せテメエはアンヨもまともに出来ねえみてえだからなぁ」
そう言った瞬間に宝泉の表情が苛立ちに包まれる。どうやらあのお姫様抱っこ事件は相当堪えたらしいな。
あれ以降、宝泉という名前にはお姫様抱っこされたという意味が付随するようになった。そりゃ笑えねえだろ。
別に合図なんざ無かった。ただ俺と宝泉は同時に額をぶつけ合う。
頭が揺れる感覚があるがまぁ良い。こんなもんは挨拶みたいなもんだ。
「オラッ!!」
頭突きの次は右ストレートだったが、悪いが予定が立て込んでいるんでな、脳筋と付き合うつもりはねえよ。
「やるぞお前ら、出て来やがれ!!」
声をかけると周囲を囲んでいたクラスの男子が姿を現した。濃い木々に身を隠していたのでこれまで気が付かなかったようだな。
「ハッ、たかだか二、三人増やした所で、雑魚は雑魚だろうが。わかりやすいな、テメエみてえな奴はやることが昔から相場が決まってっからなぁ!!」
「ククッ、大勢に囲まれたから負けましたって言い訳を用意してやってんだよ」
最初に飛びついたのはアルベルトだった。中腰になって背後から宝泉の腰に抱き着くとそのまま転がそうとする。
「雑魚が何人群がろうが……あぁ?」
次に石崎が、背中に飛びかかり、今度は足にまた一人、圧し掛かるようにまた一人、そうやって宝泉の動きを封じる人数は俺と小宮と反発的な奴を除いたクラスの男出全員だ。喧嘩が得意じゃない奴も中にはいるが、数が揃うと強気になるのは変わらないな。
「悪いな宝泉、テメエに付き合ってやれるほど暇でもないんでな」
一人二人、三人四人で収まらず、無数の相手に纏わりつかれてそれでも暴れまわって抵抗する宝泉に、俺は拾った岩を落とす。
丁度、人間の頭ほどの大きさのそれを落とすのはコイツの膝だ。
「がッ!? テメェ……ッ!?」
「ククク、笹凪に折られた足はこっちだったか? 悪いな、病み上がりだってのに」
大勢のクラスメイトに纏わりつかれて動きを封じられても抵抗は激しかったが、こいつは一学期の殆どを病院のベッドで寝て過ごしたからな、随分と鈍ってるらしい。
「また病院で過ごしてくれ、テメエに学校は似合わねえよ」
笹凪に折られた足は完治していたようだが、再び折られることになる。足が一本潰せればもう何の脅威にもならねえな。後は囲んでリンチするだけだ。
顔面を蹴り飛ばし、ついでに鳩尾も蹴っておく。
「大層な喧嘩自慢だったらしいが、こうなっちまえば只の雑魚だな」
「これで勝った気になんな――ッ!?」
何となく面が気に障ったのでまた顔面を蹴り飛ばす。
「まぁテメエは納得できねえだろうな。だが最後に立ってた奴が勝者なんだよ。あぁだが俺は寛容だ、好きなだけ喚いても構わないぜ……人数が多かったからとか、正々堂々とした戦いじゃなかったからだとか、本気になれば負けなかったとか、言い訳は幾らでもあるだろうからよ」
「く、そがッ……こいつらどけろ、タイマンだ、テメエごとき足一本使えないくらいで丁度良いんだよ!!」
「そいつはあれか? 正々堂々戦えってことかよ? おいおい健気なことを囀るじゃねえか――――スポーツがやりてえなら他所でやれッ!!」
今度は顔面に踵を落とす。鼻が折れるような感触があったが、まぁ問題はねえ。
「覚えてろよ……ここでテメエが勝っても、次に会ったら即殺してやるからよ」
「やるなら上手くやれよ? 勝つってのは単純なことじゃねえのさ。もし俺を殴り飛ばせても結果的に退学になったとしたら、それはお前の負けだ」
「何抜かしてやがる」
「それにだ、悪いが俺には超えなきゃならねえ相手がいるんでな。綾小路も笹凪も、アンヨもまともにできねえテメエごときに食える相手じゃねえよ」
誇りを捨て、意地を捨て、己の全てを賭してもなお手が届かない相手に挑もうってんだ、テメエごときに苦戦すらしたくはねえ。
最後のトドメとばかりに、宝泉の顔面をまたもや蹴り飛ばすと。こいつは完全に意識を失うのだった。
あっけない最後だな、笹凪だったならこの場にいる全員に銃器を持たせても不安なくらいだが、人間という物差しで測れる程度の宝泉ならばこんなもんだろう。
「おい、近場の課題にいる教師に宝泉が倒れてるって伝えてやれ。残りは付いて来い、次を潰すぞ」
ほぼ無傷で宝泉を処理できたので次は他の一年生だ……いや、その前に証拠集めだな。
「あぁ、やっぱりありやがったか」
気絶した宝泉の懐を探ってこいつのタブレット端末を引っ張りだす。色々と調べ回ると、そこには録画データが保管されていた。
今回の一連の襲撃を行う上での首謀者とのやり取り……言い方を変えれば責任を押し付けられる相手との会話内容だ。
一年の椿桜子、襲撃の責任はこいつが全て取るということになってるらしい。宝泉は脳筋だが暴れられる言い訳くらいは作ってたか。全てはコイツの命令という録音をしっかりと残していたということだ。
だが、この録画データはこっちの言い訳作りにもなり、一年生が共謀して襲い掛かろうとした証拠にもなる。
つまりは、俺たちが「抵抗」する大義名分にもなる訳だ。
それを確認すると無線機を使って坂柳が使っている周波数に合してこう伝えた。
「坂柳、証拠を手に入れた。どうやら一年は組織立った襲撃を行っているらしいぜ」
茶番だな、だが大義名分は必要だ。
そして無線機の向こう側にいる坂柳もそれを待っていたのだろう。
『おやおや、それはそれは、実は今も私のクラスの生徒がすれ違った一年生に暴力を振るわれているようなのです。困りましたね』
「ククク、そいつは困るな、つい力強く抵抗しちまう」
監視カメラの無いこの無人島で、宝泉の端末に残された録画データはとても大きな意味を持つ「客観的な事実」だ。利用しない手はねえな。
幾らか一年生を間引いて上位50パーセント圏内から蹴り出して、後は三位の位置にいる一年生のグループにも損害を与える。
襲撃を企てた一年生グループからの暴力行為で、仕方なく抵抗するだけというシナリオだ。
あの月城とかいう理事長代理も言っていたな、仕方がないと。
「よしテメエら……山狩りだッ!!」
もう三年は九割近くがリタイアしてる、残った一年も間引けば、この試験は事実上終了することになるだろう。
俺の目標の為に、同じ学年にポイントが大量にある状態の方が都合が良いってことだ。
だから潰れてくれ、なぁに、お前たちがこっちを襲撃してきたんだから、これは仕方がないって奴なんだろうよ。