試験はもう十三日目となりいよいよラストスパートである。二週間というとても長丁場な試験であったのだが、集中して全力で行動しているとあっという間だったと思えるのだから不思議なものである。
試験の序盤は様々な課題をこなして点数を積み上げて行き、後半でもそのペースが途切れることはなく、既に俺たちのグループは他の追随を許さないほどに圧倒的な点数を記録しているのが十二日目終了時点で確認することができた。
二位との差は既にトリプルスコアを記録している。やりたい放題やってるなと自分でも思うけど、どれだけ点数を高めてもリタイアすれば一発で水泡に帰すので油断はできない。
これまで通り点数を奪い去りながらラストスパートの間は今まで以上に冷静に安全面も考慮しながら行動する必要があった。
どれだけリードがあろうとそれは油断する理由にはならない。ここで油断するような者はタダの愚か者である。
師匠曰く、安心するのは勝った後とのこと。
なので今日も俺は六助と一緒に課題を進めながら点数を稼ぎ、特に安全面を考えながら行動していた。
食中毒には細心に注意を払う、水だって同じ、不意に蹴り飛ばされないように常に警戒をして、念には念をいれて六助とは十メートルほどの距離を維持しながらの移動である。
2人固まって移動した状態で万が一蹴り飛ばされて斜面を転がってみろ、リスクは排しておきたいのである程度の距離は必要である。
勿論、背中から蹴り飛ばされるつもりはないし、もしそうなったとしても怪我をするつもりはないけど、そんな自信は油断する理由にもならないのでここは安全策だ。
どちらか片方が怪我で欠けたとしてももう片方が生存していれば大きな問題はない。
今は距離を空けて移動しているが、目的地まで来ればそれも必要はなくなる。
「フッ、港が見えてきたようだねぇ」
十メートル前方を歩く六助がそう言った通り、鬱蒼とした森から一気に視界が開けて白い砂浜が確認できる港エリアまでやってきた。
視界も十分確保できる。そして何より学校側の監視が常にあるのでこの無人島で一番安全な場所とも言えるのかもしれない。坂柳さんもだからこそここを拠点にしているのだろう。
俺たちがここに来た理由、それはラストスパートを乗り切る為の最後の安全策の実施であった。
怪我を防止する、食中毒などに注意する、周囲を警戒する、第三者の視線が常にある場所を確保する。これら全てを満たせる場所がこの港エリアである。
この場所には教師が常にいるので学校側の監視がある。もし誰かに襲撃されても公平な判断材料が確保できる上に常に新鮮な水がタダで貰えるのだ。
つまりこの場所では毒を忍ばせることも暴力的な手段に出ることも難しい訳だ。
だからこそより一層の警戒が必要なラストスパートでは、グループメンバーの一人をここで過ごさせることが一つの安全策となるだろう。
つまり、ここから先は俺と六助は別行動となる。
俺は無人島でこれまで通りエリアを踏んで課題を受けて点数を稼ぐが、六助はこの港エリアで最終日まで過ごす訳だ。指定エリアでの点数稼ぎは最低値となるだろうがリードが巨大なのでそこまで心配する必要はない。寧ろ俺が何かの理由でリタイアした時に備えて六助はここで過ごしておいて欲しいのだ。
別に俺は師匠と違って無敵な存在ではないので、何らかの理由で落とされる可能性は十分にある。例えば月城さんがミサイルをぶっ放してきたら流石に焦るし場合によっては死ぬことだってある。
だから保険として六助は港エリアで最終日まで過ごす訳だ。念には念を入れてという考えは大切だという意見で一致した。
安全策を取りながらも俺は俺で追加の点数を稼ぐつもりなので、より大きなリードを目指すつもりである。
「ではマイフレンド、私は優雅に休ませてもらうとするよ」
「あぁ、ここならば安全だろうからね。ただ水を飲むときは必ず学校側から提供された物で頼むよ」
「言われるまでもないとも、ここまで来てつまらない理由でリタイアするつもりもないのでね」
「まぁ六助ならその辺は大丈夫だろうね」
2人で砂浜を歩いで港付近まで近づいていく。そこで俺と六助は余っていた初期ポイントを購買を担当している真嶋先生に支払って、シートとビーチチェアとパラソルを購入した。
六助は早速とばかりに水着になってビーチチェアに背中を預ける。それだけ見るとどこかのリゾート地に見えるな。
隣にいる坂柳さんは「え、何で?」という顔をしているけど。
「やぁ坂柳さん」
「え、えぇ、どうも……天武くん、調子はどうですか?」
「悪くはないよ。まぁ俺はこれからも課題でポイントを稼ぐつもりだけどさ。悪いんだけど坂柳さん、六助の話し相手になってあげてよ」
「え?」
「フッ、恥ずかしがる必要はないともリトルガール。これもまた一興だ。最終日まで共に語らおうではないか」
「……え?」
坂柳さんは隣にビーチチェアとパラソルを並べた六助を見て、次に俺を見て来る。その後も何度か視線を右往左往させている……何故だろう?
話し相手がいて暇しないと思うのだけど、六助は何だかんだで話していて面白い相手だし、坂柳さんも会話が弾むものではないだろうか。
何故か助けを求めるような瞳をしているけど、俺はこれから課題を受けないとダメなので頑張って貰うとしよう。
「ではリトルガール。まずは上腕二頭筋の美しさについて語ろうか」
「……え?」
うん、何だかんだで会話は弾みそうではある。六助は最終日までここで安全に過ごして貰う形で良さそうだな。
とても楽しそうに話している二人をその場に残して、俺はせっかく港まで来たのだからタダで貰える水で喉を潤しておこう。
よくわからないけど三年生と一年生がほぼ壊滅するという状況らしい。いや何でそうなったんだと思うんだけど……。
こちらに襲い掛かって来た三年生は返り討ちにしたからまだわかる。でもそこからどうして一年生がほぼリタイアするような状況になるのかわからない……あれだろうか、襲撃の際に二年生の姿もあったので、カモにされた結果物資が枯渇したとか。
仮にそうだとしても南雲先輩が対処しそうだけど、あの人は今どこで何をしているんだろうか? リタイアするタマでもないと思うけど。
まぁ考えても仕方がない。三年と一年がほぼ壊滅したので試験で得られる報酬のほぼ全てが二年生で独占することができた。今後も全学年合同で試験があると考えれば大きな意味を持つだろう。他学年に利益を与えないと言うのはとても重要だ。
「後は月城さんか」
タダで貰える水を受け取って喉を潤しながら次の脅威に備える。三年も一年も壊滅、リードは膨大、保険として六助は安全圏で待機、後は俺が気を付けるだけか。
月城さんが兵器を引っ張って来るという想定して構える必要がある。そうでなくてもこの無人島ならば色々とやれることもある。
「もし俺が月城さんなら、戦略級の弾頭で無人島ごと吹き飛ばす」
そうすれば俺は為す術なく殺されることになるだろう。絶対に勝てる方法である。
それが難しくても最低でも戦車やミサイルを用意していると覚悟するべきだろうな。
師匠曰く、最悪を考えて行動するべきとのこと。
この場合の最悪とは無人島ごと吹き飛ばされること、最善とは戦車やミサイルを引っ張って来られること、それ以下の戦力ならば良かったと思うだけの話なので、強く警戒することに損はない。
これから戦う相手は自分よりも強い、そう考えながら備えることは重要である。
喉を潤してから港を後にして無人島の中に入っていく。多くの生徒が移動したことによってこの無人島にも道が出来ており、序盤よりも動きやすくなったな。
タブレット端末を確認して一番貰える点数が多い課題に向かうとしよう。もう必要ないとも言えるけど、それは油断であり慢心だと戒めておこう。
安心するのは全てが終ってからだろうな。油断してミスしましたでは笑い話にもならない。
一番点数が貰える課題は数学オリンピックであったので生徒たちが作った道を進みながらそちらに近づいていく。高難易度で貰える点数が多い課題は食料や水が貰えないのだけれど、桔梗さんから貰った物資があるので最終日まで補給は必要ない。このまま進もう。
課題が行われる場所まで近づいていく足取りは緩やかなものであった。ライバルがほぼ壊滅したことに加えて、二年生も既に試験が終わったものだと認識しているから課題への参加も積極的ではない。
課題を担当している職員もあまりにも参加者がいないのでどこか暇そうである。欠伸をしていたので本当に参加者がいないんだろう。
もう試験の順位付けはほぼ確定したから生徒の動きも穏やかだ。おそらくこの無人島で積極的に動いているグループは葛城たちくらいのものじゃないだろうか。
彼らは現在十二日時点で三位となっていた。坂柳さんは二位、差はそこそこ、なのでこのラストスパートに全ての余力を注いでいるに違いない。
後は坂柳さんグループも積極的に動いているだろうな。そしてこの無人島で今動いているのは俺と葛城と坂柳さんグループだけという状況なのかもしれない。
港には結構な数の生徒が集まっていたし、後はのんびりと過ごしながら試験の終わりを待つだけだ。葛城は坂柳さんとの勝負もあるので必死だろうけど。
数学オリンピックの課題を済ませながらそんな推測をする。
参加者が俺しかいなかったので問題なく一位を取ることができた。次はエリアを踏んでおくとしよう。連続でスルーをすると点数がマイナスになるので気を付ける必要がある。
着順順位は六助が港にいるので貰えないが、ここまでくれば何も問題はない。
「ん?」
指定されたエリアを踏んだ時だ、近くにテントが組み立てられていて良く知る人物の姿を発見できたのは。
「お~い、鈴音さん」
その人物とは鈴音さんである、二年生は坂柳さんと葛城グループ以外は殆どが皆と付近でゆったりと過ごしていたのだが、こんな場所でキャンプとは珍しいと思いながらも声をかける。
彼女も俺を認識したのか、振り返ってから少し驚いた顔になり、しかしすぐに穏やかな表情を見せてくれるのだった。
「天武くん、久しぶり……という感じはしないわね」
「何だかんだで連絡は取り合っていたから、確かにそうかもね」
クスっと、穏やかな笑みを見せてくれる鈴音さんは、どこか安心しているようにも見える。
気持ちはわかる。何だかんだで緊張が続くこの無人島では信頼できる人が近くにいると安心できるものだ。それは俺だって同じである。
「ところで鈴音さんはここで何をしているんだい? 二年生は殆ど港にいるみたいだけど」
三年生も一年生もほぼ全滅だからな、もう試験を真面目に続ける意味は殆ど無かったりする。坂柳さんと葛城グループ以外はだが。
「看病よ」
「看病?」
鈴音さんは疲れたような顔をしてテントの入口を開く。すると中で仰向けの姿勢で寝転がっていたのはなんと龍園クラスの伊吹さんであった。
少し呼吸が荒い、体温も僅かにだが高いようだ。腕時計のアラームがなるほどではないだろうが、体調が少し悪いのかもしれない。
「空腹と軽度の脱水症状で調子を崩していたから、私の物資を渡したの……まぁ随分と抵抗したのだけれど」
どうやら彼女は体調不良の伊吹さんを見捨てられずにここから動けなかったらしい。
「こ、これで……勝ったと思うなよ」
テントの中で仰向けで寝ていた伊吹さんだが、こちらの会話は聞こえていたのか、漫画の中の悪役みたいなセリフを放った。その顔を悔しそうに歪められており、テントの入口で腕を組んで見下ろしていた鈴音さんを睨みつけて来る。
「何を言っているのかしら彼女は、勝った負けたなんて話は誰もしていないわ」
「そ、そもそも、アンタが無理矢理私に水を飲ませただけだからな……私は、別に必要無かったのにッ」
「施しを受けておいて何を言っているのかしら」
「施しぃッ!? 誰も頼んでないんだけどッ」
「よく言うわね、あれだけ水も食料も消費しておきながら恩知らずなこと」
「……ぐむむッ」
なるほど、鈴音さんの水や食料を消費した以上は伊吹さんはなかなか強くは出れないか。
「私は貴女のせいでそれなりの損害を引き受けたのよ。その上で文句を言われても呆れるしかないわ。せめて大人しく過ごすくらいのことはできないのかしら」
「……」
とうとう黙ってしまった伊吹さんは、それはもう悔しそうな顔をしながら震えている。
「鈴音さん、あまり苛めちゃダメだよ」
「そんなことしていないわよ、ただ彼女が現状を正しく理解せずに絡んで来るだけ……はぁ、困ったわ」
そういう言い方をするから伊吹さんが悔しそうな顔になるんだろう。まぁ別に鈴音さんに落ち度は無いしやってることは素直に素晴らしいので、多少はマウントを取るくらいは問題ないか。
もしかしたら長い無人島生活でストレスが溜まっているのかもしれないしな。伊吹さんをチクチクと責めながら鬱憤を晴らしているのかもしれない。
「ごめんね伊吹さん、鈴音さんも悪気はないんだ、許してあげて欲しい。ただ体調が悪いのならやっぱり安静にしておくべきだと思う。アラームが鳴るほどではないにしても、悪化すれば煩くなることも考えられる。ここまで来たんだからしっかりと試験を乗り越えよう」
「言われなくたって、わかってるっての」
最後に伊吹さんは不貞腐れたようにそっぽを向いてしまう。子供っぽい反応でありどこか可愛らしく感じられた。
「まるで子供ね」
だから鈴音さん、そういうことは口にしなくて良いんだよ。
また伊吹さんの機嫌が悪くなっちゃうよ。安静にしておかなければならないのに。
このままテントの入口に立って話しているといつまでも口喧嘩が終わりそうにないので、鈴音さんの背中を押してやや強引にだが距離を取らせておこう。
張り合うのはお互いに万全になってからでも出来るんだ。別に今じゃなくても問題はない。
まぁ伊吹さんはテントの中で放置しておけば良いだろう。腕時計もなっていないのでそこまで深刻になる必要もないだろうから。
「はぁ、まったく、世話がかかるのだから」
「うん、でもまぁ、嬉しくはあるよ」
「どういうことかしら?」
「鈴音さんの優しい部分が見れたからさ。何だかんだ言いながら世話してるんだから、嬉しくなったんだ」
素直な気持ちを伝えると彼女は照れたように頬を赤く染め、それを隠すかのように俺の耳を引っ張って来る。
「痛いじゃないか」
「そういうことを言うのは止めなさい、わかったわね?」
なんだかこういうやりとりも久しぶりな気もするので、安心出来てしまうな。やはり俺も長い無人島生活で疲れていたということだろうか。
後、やっぱり鈴音さんと直接会えたので安心できたらしい。通信越しではなく面と向かってはここが初めてだからな。
「天武くん、昼食はもう終えたの? まだなら食べて行きなさい。さっき課題でお肉を手に入れたの」
「ありがとう、でもそっちは大丈夫なのかい? 伊吹さんにも物資を提供したのに」
それ以前に鈴音さんはまだ課題を受けていたのか、ストイックなことだ。
「問題ないわ、そもそも生肉なんて長く持たないのだから早めに処理しておきたいの」
「そうか、なら遠慮なく頂こうかな」
肉は大切だ。桔梗さんから貰った物資で最終日まで無補給で行ける計算だけど、節約するに越したことはない。
小さめのキャンプ用のフライパンで焼かれた肉を分けて貰う。味付けは簡単に塩だけだ。それでもとても美味しく感じられるのだから、疲れと空腹が一番の味付けということか。
「高円寺くんはどうしているの?」
「港で待機して貰ってる、万が一に備えてね。俺はラストスパートをかけてる状態かな」
「そう、十二日目に確認した順位は、二位の坂柳さんとダブルスコア以上を付けていたからある程度はゆったりしても良いと思うけど」
「それで負けましたじゃ格好がつかないだろう。やると決めたのなら最後まで油断なく全力を尽くすだけさ」
「そうね、貴方ならそうするでしょうね」
これから月城さんも処理しないといけないからな、大人の権力者を侮るほど馬鹿ではないつもりなので、俺が負けることだって十分にありえる。そうなったとしても六助が港で待機してくれているので一位は死守できる筈だ。
リスクを排して後顧の憂いを断ち、全力で挑むとしよう。
頂いた肉を腹に収めて心地いい満足感に満たされていると、ほんの少しだけ気が抜けるような雰囲気になってしまった。
別に疲れてはいない、けれどこの無人島での生活はどうしたって負担がかかる。どちらかと言えば精神的な疲れの方が大きいかもしれないな。
熟睡しないようにして、襲撃に備え、背中から刺されないように警戒して、課題では常に満点を取り続ける。そりゃ疲れるか。
肉体的には何ともないのだが、精神的には少し疲労が感じられる。師匠のように植物のような落ち着いた境地にはまだ辿り着けていないということだろう。
近くにあった大きな木に背中を預けて、そのままズルリと滑るように腰を下ろす。食事を終えたばかりということもあって心地いい熱が腹から広がっていた。
「流石の貴方も疲れているようね」
「そう見えたかい?」
「えぇ、少しだけ。普段はそんな溜息なんて吐かないもの」
どうやら無意識の内に溜息を吐いていたらしい。
鈴音さんはそんな俺をみながらこちらと同じように木に背中を預けて腰を下ろした。
「少しくらい休んでも良いのよ。リードは十分だし、今からどう頑張っても逆転は不可能だと思うわ」
「かもしれないね、けれどやると決めた以上は全力で最後まで駆け抜けるだけさ」
安心して良いのは結果が出たその瞬間だけである。過程で勝った負けたを語っても意味がない。
なので一位での突破が確実となっていたとしても手を緩める理由にはならない。これで良いと納得するのではなく限界を目指し続ける、それだけだった。
ただまぁ、疲れてしまうのは事実である。
別に限界ギリギリという訳でもないけれど、ほんの少しの疲労が精神的にあるだけだけど、このままの状況が一カ月も続けば苛立ちも感じるのかもしれないな。
やはりまだまだ未熟である。もっと凪の精神を鍛えなければ。それこそ植物のように自然体であることが重要だ。
そんなことを話していると、突然に俺の頭が掴まれる。
「休みなさい。これはクラスリーダーとしての命令よ」
「……えっと」
そのまま両手で包まれた頭は隣に座っていた鈴音さんの膝へと置かれることになる。
俗に言う膝枕の姿勢であった。
「俺はこれから課題を受けに行くんだけど」
「二度も言わせないで、休みなさい。今日一日くらいなら何も問題はないわよ……寧ろ、明日の最終日に備えて気力も体力も備えておくべきね」
「そう言えば、最終日は貰える点数が倍になるんだったか」
「えぇ、だから今日は休みなさい。これが妥協ではなく戦略的な行動よ」
なるほど、そんな言い訳で休もうということか。
鈴音さんは逃がさないとばかりに、膝に頭を乗せた状態であった俺の眼前に掌を置いた。アイマスクでもしたかのように視界が閉ざされてしまう。ほんのりと暖かい彼女の掌は心地いい。
そのまま俺の瞼は強引に閉ざされることになる。すると不思議なもので、目の奥にあった重さと眠気が一気に膨れ上がってしまう。
いや、この無人島で熟睡するとか、殺してくれって言ってるようなもので……。
そんな意識と反発するように瞼の奥からはじんわりと心地よさが広がっていき、最後には逃れ難い眠気と共に意識が遠ざかっていく。
「ふふ、おやすみなさい」
「うん」
最後に俺に膝枕をしていた鈴音さんがそう囁いたことで、まぁ今日くらいはいいかとあってはならない認識を抱いて、深い眠りに落ちるのだった。
間抜けだけど、後頭部に感じる柔らかさは何とも心地いい。
これは仕方がない、誰も抗えないので俺は悪くない。そういうことにしておこう。