翌日、つまりは試験最終日の朝、朝日が無人島に差しこむと同時に活動を開始することになった。前日に鈴音さんの膝枕で熟睡をかましたことで体調や余力は万全とも言える状態になっていた。九号が懲りずに俺を毒か何かで昏睡させて添い寝しようと画策しても防げるくらいには集中することができていたと思う。
手慰みに行っていた彫刻も今日で最後となると少し寂しいものがある。新しく作ったデフォルメされた兎の彫刻をその場に置いて試験最終日が始まるのだった。
さてまずは月城さんが用意した武装勢力の制圧だけど、これ自体はそこまで大した脅威じゃない。九号が確認した限りだと凡そ50前後の集団に小型拳銃や刃物を装備させた面子とのことで、練度はそこそこらしい。
遠足に来たのかな? それが九号の印象らしいけど、大人の権力者である月城さんはこちらの想定外の戦力を用意していてもおかしくはないので、警戒は高めておく。
なにせあの月城さんだからな、ニコニコ笑いながら大量虐殺兵器を運用してもおかしくはない。そうでなくても平気で毒とかばらまきそうではある。
なので集中して警戒しながらの行動が求められる。ようやく最終日なのだからここまで来てリタイアもしたくは無い、集中していくとしよう。
「で、どう動くつもりなんだ? 鶚の話だと50前後の武装勢力とのことだが」
テントを片付けた清隆がそんなことを聞いてくる。
「見えているだけの戦力ならそこまで大した戦力じゃね~ですよ」
九号が自信満々と言った感じで自分の胸を叩く。任せてくれと言わんばかりに。
まぁ実際に小型拳銃と刃物で武装した50前後の集団ならば九号にとってはそこまで脅威ではないだろう。彼女は何だかんだでゴリラだからな。
「わざわざ相手の都合や状況に付き合う必要はないかな。そこにいるとわかっているんだからこちらから仕掛けよう」
「そうッスね。戦は先手必勝、これに限るでやがります」
九号的にも反対はないようなので動くことになる訳だけど、清隆はどうするのかという話にもなる。
「月城さんの迂闊な行動はもう釣れた訳だし、清隆はどうする?」
この無人島に50人の武装勢力がいるという状況だけであの人の首を飛ばすには十分すぎる。九号の雇い主に報告すればそれだけで終わりだろう。なので既に決着がついていると言えばそれまでなのだけど、清隆としてはまだ帰るつもりは無いらしい。
「餌の仕事はもう終わったが、月城と話して確認したいこともある。もう少し付き合うとしよう」
「そっか……まぁ月城さんからしてみれば清隆は商品な訳だし、傷つけたりはしないか」
「だろうな、その武装勢力も主にお前を意識した物の筈だ」
ならば清隆が銃で撃たれたりとかは流石に起こらないか? 死なせたい訳ではなく退学させたい訳だし、そんな状況になれば月城さんがただの愚か者というだけの話になってしまう。
「ん……なら月城さんは清隆に任せるとして、俺は武装勢力の処理を始めようかな」
「ご主人、ウチはどうするんッスか?」
「清隆の護衛を任せるよ」
「一応、報告材料としてわかりやすい写真とか動画を残したいでやがります」
「あぁ、そうか……だとすると立場を逆にするって言うのもアリなのかな」
どうしようかと悩むのだけど、そもそも悩む必要もなかった。
「よし、それならもう速度重視で処理しよう。俺と九号でまずは武装勢力を間引く。月城さんも当然処理する。とりあえず動く相手を全員叩きのめせばだいたい解決するって師匠が言ってたしな。清隆もそれで構わないかい?」
「構わないが、やりたい放題はしてくれるなよ。後々面倒ごとになるのはごめんだ」
「俺も同感だ。可能な限り静かに目立たず退場して貰うつもりだよ」
変な噂をされても困るし、大事になっても面倒である。
幸いにも月城さんの迂闊な行動を釣り上げることはできている。九号も証拠を押さえて上司に報告すればあの人は確実に処理されることになるだろう。変なことをせずに細かい嫌がらせを続けるだけならばこうはならなかっただろうに、無人島ということで月城さんも開放感を得たかったのだろうか。
だが都合が良い、この失態で月城さんには退場するのはほぼ確定である。権力者がアキレス腱を増やしたりツッコミどころを晒すのは止めた方が良いということだ。
世の中、真面目に生きるのが一番である。それができない人が権力者になっても長生きできないということだろう。
「正面は俺が、九号は回り込んで背後から順次処理していこう。ただし注意点として死人は出さないように配慮すること。面倒事はごめんだ、良いね?」
「了解ッス」
別にわざわざ複雑な指示にする必要もないのでこれで良い。
九号は早速とばかりに岩肌を巧みに下って森の中に姿を消していく。この無人島という環境は彼女にとって動きやすいだろうな。
「それじゃあ俺も行こうかな、清隆は月城さんとゆっくり話すと良いよ」
「そうさせて貰おう」
あの武装勢力の目的はこちらだろうから清隆は案外すんなりと月城さんに辿り着けるかもしれない。後は適当にぶん殴って話しやすい状況にすれば良いだけだ。
幾ら月城さんでも対話以外の選択肢しか無くなったら唇も軽くなるだろう。
「問題なのは、月城さんがどんな奥の手を残しているかだけど……」
「そこが気になるのか? 50前後の武装勢力でも限界ギリギリだと思うが。日本でそれだけの集団を作るのがどれだけ危険で難しいことかわかるだろ?」
清隆の言い分は尤もである。銃社会でもないこの国では確かに難しい上に、それを集める上でのリスクの大きさを考えれば普通はそんなことはしない。銃刀法違反どころか下手しなくても国家転覆罪とかになるだろうから、露見すれば一発死刑である。それどころか超人を嗾けられて人知れず闇に葬り去られることだってありえるだろう。
月城なんていう男は最初からいなかった、そういう話にだって普通になると思う。
だから清隆の言うように現状でも相当なリスクを抱えているのに、それ以上のリスクを抱えるのかと言う疑問も確かにある。
けれど俺はこれまで幾度か月城さんと戦って来たんだ、あの人が中途半端な戦力で挑んで来るとは思えない。
戦車か、それともミサイルか、或いはバイオケミカル兵器か、それとも――。
まぁいつまでも警戒していても仕方がないので動くとしよう。丁度清隆の移動エリアがI2に指定されたので、それを挑戦状と受け取るとしようか。
「多分だけど、その指定エリアって清隆だけがそうなってるって感じだよね?」
「だろうな、あちらもわざわざ他の生徒を巻き込む理由もないんだ。タブレットで確認した所、I2には課題もない。生徒が立ち入る理由はないだろうな」
「やってるなぁ……でも何でこんな遠回りなことするんだろうね。清隆を退学させたいならこんなことしなくても難癖付けてさっさと追い込めばいいのにさ」
「そこはオレも気になっていた。ここまでリスクを抱えるよりもずっと賢い方法もあった筈だからな。それこそ試験中でなくとも罪状をでっち上げれば良いだけの話だ」
清隆が万引きしたとか、暴行したとか、監視カメラの映像を掌握できる立場にいるんだからそうすればもっと早く仕事も片付いただろう。けれど月城さんはそれをしなかった、この無人島にわざわざ武装勢力を集めると言う意味不明なリスクを抱えるという途轍もない遠回りな方法を取っている。
「シナリオありきのプロレスでもしているのかな?」
「かもしれないな、どちらにせよ話を聞いてみないことにはわからない」
「そりゃそうだ」
なので月城さんをぶん殴ろう。口しか動かせない状況になったら色々教えてくれるかもしれないからな。
そんなことを考えながら俺は清隆を置いて先行するようにI2エリアに移動するのだが、その道中で意外な人物に出会うことになる。現状の無人島では珍しい三年生である鬼龍院先輩その人である。
彼女は単独で試験に挑んでいたのか、南雲先輩のあれらや、やりたい放題する二年生と関わることもなく自由に過ごしていたらしい。
「やぁ、可愛らしい後輩」
「どうも美人な先輩」
すれ違ったのに無視するというのもアレなので挨拶をすると、不敵な笑みを浮かべてくれた。美人さんなのでちょっとした動作や表情でも絵になる人であった。
「鬼龍院先輩、ここで何をされているんですか?」
「食料が尽きそうなのでね、近場の課題を受けていたのさ」
俺たちがいるのは現在H4、このまま北東に移動して月城さんを殴ろうと言う計画なのだけれど、割と近くに一般生徒がいるのはちょっと危険だな。
「何をしているのかと言えば、君も同じだろう。どこに行くのだね?」
「俺たちも近場の課題を受けようと思いまして」
「ほう、既に三年と一年を壊滅させて、上位50パーセントを独占した挙句、圧倒的なリードを持つ君がか、試験を真面目に受ける理由もないだろうに」
「そうは思いませんよ、どれだけリードがあろうと最後まで全力で走り抜けるだけですから。安心するのも油断するのも全てが終わってからです」
「なるほど、尤もな意見だ」
納得してくれたのだろうか? この人の瞳は師匠に似ているのでちょっと緊張するんだよね。
「しかし二年生は随分とこの試験で大胆に動いたものだ。一年も三年も無人島から追い出すとはね」
「俺はほぼノータッチですけど」
「そんなことは無いだろう? 十日目くらいに南雲から私に連絡があったぞ、一緒に君を排除しようとな。まぁ興味が無かったので無視したのだがね……その後南雲がリタイアして三年も殆どが無人島を去った、私はてっきり君が処理したものだと思っていたのだがね」
「降りかかって来る火の粉は払いましたけど、それだけです。正直、俺もどうして南雲先輩がリタイアしたのか知らないくらいなんですよ」
「そうか、君が蹴り落としたと推測していたんだが、存外、二年生には曲者が多いらしい」
まるで二年生が南雲先輩を処理したと確信しているかのような言い分である。事故の可能性だってあると思うんだが。
まぁなんだって良い、リタイアした真相なんてわかる筈もないのだから。
「鬼龍院先輩はリタイアされなかったんですね? もしかして上位三組を目指しているんですか」
すると彼女は少し大仰に両手を挙げて肩をすくめた。
「それも一つの手ではあるが、ここまでやりたい放題動いた二年がそれを許すとは思えないしね、ここは無難に上位50パーセント圏内で満足しておくさ。二年生全体が入っているが、席の一つくらいは空いているだろうからね」
確かに三年生の一人くらいは50パーセント圏内に入れるだろう。上位三組さえ脅かさなければ放置する筈だ。
「しかし今回の試験は予想以上に面白い結果になった。まさか二年生がここまでやりたい放題するとはね。今頃、船に戻った三年がどんな気分で過ごしているのか興味があるよ」
「悔しがっているんじゃないですか」
「いや、お通夜状態だろうな。まぁ、これまで殆ど八百長しかしてこなかったツケでもあるんだろう、南雲の命令でしか動けない集団なんだ、その南雲がいなければこうもなる」
南雲先輩のワンマンチームであり競争心もハングリー精神も皆無な集団ということか、司令塔一人がいなくなれば烏合の衆にしかならないということだろう。
俺たちも気を付けないといけないな。まぁ最悪俺が死んでも清隆に丸投げで良いんだろうけど。
「私は私で何もしなくても50パーセント圏内に入れたんだ。後はのんびり過ごすとするよ」
「上位三組も狙わないと?」
すると鬼龍院先輩は顎に指を当てて考え込む。
「或いは上位三組が団子状態ならばそれも良かったかもしれないがね、今更足掻いた所で君との距離は詰められまい」
二位や三位ではなく一位を狙えるのならばそれも良かったということだろうか。
「だが、そうだな、このまま終わるのはそれはそれでつまらないかもしれない……ふむ、せっかくこうして顔を合したんだ、どこかの課題で一つ私と勝負しないか?」
「俺とですか?」
「君以外に誰がいる」
「えっと……この後ちょっと予定がありまして」
「やれやれ全く、せっかく女性からの誘いだというのに袖にするとはな」
「いえ、嫌と言う訳ではないのですけど、優先しなければならないことがありますので、その後で構いませんか?」
「ほう、逢瀬よりも優先すべきことなのか」
「女性との時間も大切ですけど、友情もまた大切なので……すみません」
そう言って頭を下げると鬼龍院先輩は大きな溜息を吐くのだった。
「そこまで言われたらどうしようもないか、ここは引くとしようか」
「ありがとうございます。余裕が出来たらその時はご一緒しますので」
ここで変な執着を見せないのは良いと思う。南雲先輩みたいにストーカーみたいな感じになられても困るからな。
勝負は健全に行うのが一番である。月城さんを無事に処理できたら鬼龍院先輩と勝負するとしようか。
「それでは俺は移動します、課題が全て終わる時刻までには何とか暇を作りますので」
「そうしてくれ、それまで私はのんびり過ごすとしよう……深くは聞かない方が良いのだろう」
俺が向かおうとしている場所は課題もなければ指定エリアでもない。どうやら見破られているらしい。
「ご配慮ありがとうございます。鬼龍院先輩は理解のある女性ですね」
「フッ、なんだ、今更気が付いたのか」
不敵に笑って彼女はその場を移動することになる。こちらに背中を見せたままヒラヒラと手を振る動作はとても様になっており、女性にこんなことを思うのは失礼なのかもしれないけど男前な人であると思うのだった。
「ふぅ、大人しく移動してくれて良かった」
ここで下手に行動を共にするとか言われると面倒なことになったのは間違いない。可能な限り堅気の人間を遠ざけたいという考えは俺も月城さんも共有できていると信じたい。
鬼龍院先輩と分かれて向かう先はI2である。清隆と九号は上手いことやっているだろうかと心配しながらも、俺は俺で油断はできないのでしっかりと対処に集中しよう。
月城さんを格下と思うなど愚か者である。大人の権力者とはただそれだけで警戒すべき相手なのだから。
こちらを倒す為に相応の戦力を有していると考えるべきである。楽観視はできないだろう。九号が見落としているだけで奥の手の一つや二つは用意していると見るべきだった。
「さてと、やるか」
I2エリアの手前でリュックを下ろしてまずは体の調子を確認する。熟睡したので体調は万全、疲労も無し、怪我も無し。
天気は快晴、地面はぬかるんでいない、鬱蒼とした森があるので障害物は多い。
まずは鼻で深呼吸、すると森の匂いに交じって僅かに人の匂いが漂ってくる。ほんの僅かな鉄臭さと整備油の匂いも届く。
次に耳を澄ます。自然の中に人間と言う不自然な存在がいるのだから様々な異音が混じっていた。土を踏みにじる音、小枝を折る音、或いは獣とは似ても似つかない呼吸であったりと様々な気配を感じ取れる。
師匠に改造された体は無数の情報を受け取ってくれる。そして森の中に潜む無数の脅威をざっくりとだが認識することができた。
久しぶりの修羅場ではあるので俺もしっかりと身を引き締めて挑むとしよう。
リュックを下ろして身軽になった体を疾走させて一気にエリアに踏み込むと、拳骨一発を目の前に迫った木に叩きつける。
すると内部から爆発したかのように木は粉々に吹き飛んで、その後ろで身を隠していた暴漢を吹き飛ばす。
手に持っていた小型拳銃は地面に転がったので、誰かに使われたり拾われたりしないようにしっかりと回収しておこう。弾を抜いて銃身は握りつぶしておく。
とりあえずこれで一人目だ。すぐさま応戦されてこちらに銃口が向けられるのだが、こんな障害物だらけの場所で銃はあまり役に立たない。
彼らが引き金を引くよりも早く木々に身を隠して走り出す。樹上に飛び移り、別の木に移動してから飛び降りて着地地点にいた暴漢を死なせないように配慮しながら叩き潰す。
やるべきことはこの繰り返しだ。射線と相手の位置取りをしっかりと意識しながら一人一人丁寧に処理していく。
幾つかの銃口がこちらに向けられていることを意識しながら射線を避ける、つい一秒前まで俺が立っていた所には銃弾が突き刺さるのだけど、当たらなければ意味がない。
もっと開けた場所で火力を集中させればまた話が違うのかもしれないけど、森の中は障害物が大量にあるので楽なものであった。
また木を爆散させて身を隠していた暴漢の一人を吹き飛ばす、足は止めずにまた木に身を隠す、その繰り返しを続けていると大勢の注目が集まるので、そんな彼らの背後から九号が襲い掛かる。
音も気配もないままに近づいて背後から口元を覆い隠して何らかの薬品を浸した布を使って意識を奪っていった。
五十人程度の集団なら何も問題はなさそうだな、
さて月城さん、これで終わりということもないだろう。
戦車を持ってこい、久しぶりにあの分厚い装甲を全力でぶん殴りたいんだけど。
「話にもならないッスね、遠足でもしに来たんですかね」
「小手調べさ、これで倒せれば良し、無理なら本命を動かす、そういうことだ」
「なるほどでやがります」
九号が樹上からの背後攻撃で右往左往していた男を蹴り飛ばしてそんなことを言った。少し肩透かしをくらったかのような顔をしている。
やる気が感じられないのかもしれないが……さてどうなるだろうな。
また新しく向けられた銃口から逃れるように動き回りながら、月城さんの作戦を考える。
逆に俺があの人の立場ならどうする? 戦車を持ってくるのは流石に難しいと思うのだろうか? 銃とは話が違うのでわからなくもない。
だとすれば代わりに何を持ってくるだろうか、まさか小型拳銃を大した練度を持たない集団に持たせてそれで勝利を確信するほど間抜けでもないだろう。
それともあの人の中で、俺はこれで勝てると思われている可能性もあるのかもしれない。
いや、流石にそれはないか……だってほら、ようやく本命が来たのだから。
銃を持った暴漢たちを三十名ほど叩き潰した段階で、彼らはもう勝てないと判断したのかさっさと逃げ出すのだけど、代わりに海岸付近から誰かがやって来る。
嫌に大きな気配だ。姿形はまだ見えないけど、かなり腕が立つらしい。
「九号、わかるかい?」
「ん~……昨日はいなかったんッスけどね、上手く隠れてたんッスかね」
枝の上にいる九号に確認を取ると彼女も気が付いていたらしい。
「誰だと思う?」
「金にだらしない人じゃないッスか」
「そりゃそうか」
九号は迷彩柄のマントの内側をごそごそと漁って何やら物騒な獲物を大量に引っ張り出している。ようやくやる気を出したらしい。
短刀を片手に構え、口の中に針を含み、鹵獲した拳銃を腰に忍ばせる。鎖がジャラジャラ鳴る音もするし、背中に氷柱を突き立てられたかのよう寒気を感じるほどであった。
さて誰が来ると身構えていると、邪魔だとばかりに前方にあった木々が次々と両断されていくのが見えてしまう。
白刃が煌いたかと思えば、木も岩も草も全てが刈り取られて行って鬱蒼とした森が切り開かれていく。
その先にいたのは……鋭い刃を片手に笑う美人さんであった。
脱力した体に反して体幹はしっかりとしており、肩に担いだ物騒な刃物が体と一体になっていると錯覚してしまうほどに自然で、長い髪の向こうで赤く輝く瞳が印象的な彼女は、通称超人八号。
「あ~……なるほど、戦車を引っ張って来るよりはリスクも少なくて安いか」
木々や岩を切り倒しながら猛スピードで突っ込んで来るので、こちらも応戦しようとしたけれど、それよりも早く樹上にいた九号が足場にしていた太い枝を圧し折るほどの脚力で飛びついた。
「おったなヘラクレス!! 首ッ!! 首置いていきぃ……ッ!? あぁん? 鶚の子燕やないか、何でこんな所におるんや!!」
爛々と輝く瞳と笑顔のまま大太刀を振り回しながらこっちに突っ込んで来た八号は、上空から襲い掛かって来た九号によって阻まれてしまう。
大太刀と短刀が重なり合った瞬間につんざくような音が森の中に響き渡った。
「そりゃこっちのセリフッスよ、なんでアンタがここにいるでやがりますか」
「雇われたからに決まっとるやろ」
「ウチも同じッス」
「あんのオッサン、情報と違うやんけ」
やっぱり月城さんに雇われているようだ。だとすると面倒な事態ではある。
八号はどこにでもいるプロの人斬りだ。頭がおかしい超人連中の中でも割と話が通じる方だけど、報酬を貰って契約している以上は話し合いは出来そうにない。
「まぁええわ、錦の首はなんぼあっても困らんさかい!!」
そんなことを言いながら大太刀を振り回し始める。相変わらずな様子である。
しかし拙いな、彼女がここにいる理由はつまり月城さんなりの俺対策ということである。だとしたら清隆側にもある程度の戦力を用意していると見るべきか。
どうするかと逡巡して、ここは月城さんぶん殴ることを優先すると決める。
「九号、ここは任せる」
「了解ッス」
「おい待て逃げるんか!? いけずなこと言うなや、こんなええ女を袖にする奴があるかい!!」
「悪いね、君と戦うのは嫌いじゃないけど、最優先するほどじゃないんだ」
海岸方面に走り出そうとする俺を阻もうとするけど、九号がそんな彼女の動きを阻止することで楽に逃げられた。
こんな戦力を用意しているとは流石月城さんである。お礼にしっかりと海に沈めてあげないとダメだな。