綾小路視点
随分とあっさり通されるものだと考える。
鶚の報告ではI2エリアには50前後の武装勢力がいるとのことだが、そいつらがオレの行動を阻むことはなかった。気配は感じるのだがそれだけであり、やはり「商品」という立場であることから丁重に扱われているらしい。
月城に辿り着くには都合が良くもある。少なくとも銃で武装した連中に追いかけ回されたりしないのは楽ではあった。
こちらの目標は月城だ、余計な相手は天武に丸投げで良いだろう。銃で殺せるような相手でもないのでその辺の心配はいらないだろうからな。
I2エリアに広がる森を抜けて視界に海と砂浜が広がった。目立つのはこのエリアに人を運んだと思われる中型ボートだろうか。そしてそこには二人の人物が確認できる。
一人は月城、もう一人は一年生の担任教師である司馬だ。愛里の言う通りこの二人はグルで間違いないらしいな。
「随分と強引な手段を取ることにしたんですね月城理事長代理、天武が言っていましたよ、ツッコミ所とアキレス腱をわざわざ増やすのは間抜けだって」
「返す言葉もありませんよ、本当に無意味なリスクを背負う羽目になりました」
どこか疲れたようにそんなことを言った月城は、中型ボートから下りて砂浜まで歩いてくる。司馬もそれに続いており、どうやらこの二人を相手にすることになりそうだ。
ただ、あのボートにはまだ変な気配がある。奥の手は残しているということか?
「しかし綾小路くん、君も随分と大胆に動きましたね。一年生が試験初日にリタイアしたのですから退学のリスクは無くなったのです、船でゆっくりしているという選択肢もあったのでは?」
「それだと餌にならないだろう」
「なるほど、ホワイトルーム生や私たちを敢えて釣りだす為に動いていたということですか」
「おかげで随分とわかりやすい失態を晒してくれたようで満足だ」
「失態ではありませんよ、貴方を連れ帰ればそれで私の仕事は終わりなのですから。学校での立場など大した意味は持ちません」
「理事長職がどうのなんて話は最初からしていない、何を勘違いしている。アンタの進退と身柄がどこに行くのかという話をしているんだ……気が付いていないのか、もう詰みだということに」
「続けなさい」
「凱旋するつもりなのかもしれないが、アンタが向かう先はホワイトルームでもあの男の下でもない、もしかしたら東京湾の底か檻の中かもしれないな」
「ほう、貴方にそれができるのですか?」
「オレがやるまでもないことだ」
そこで月城は考え込む。自分の与り知らぬ所で何かが動いていると想像しているのかもしれない。
「迂闊すぎたな、あの男がこの学園に介入しているように。政敵が同じように介入するとは思わなかったのか? そちらの弱点を知りたい相手は存外に多いようだぞ」
「……なるほど、それは困りましたね」
少しだけ月城の眉が動く、どうやら鶚の存在は把握できていなかったらしい。
「それで、だとしても何の問題が? 今更私が大人しく帰るとでも?」
「そんな筈がないだろう、そうなれば困るのはオレだ」
何故ならオレは、ただ面倒事を持ち込んで来る相手を叩き潰したいだけなのだから。
「いい加減、面倒だ。二度と逆らえないように徹底的に粉砕して、オレの視界から消えて貰う為にここに来た。ホワイトルームだの、あの男の思惑だの、お前の考えや目標だの、今更何の興味もない」
それが本音である。次々と面倒事を持ち込んで来る目の前の男を、ただ純粋に叩き潰しただけなんだろう。立場だの思惑だのは後付けでしかない。
この苛立ちを、ただ叩きつけたいだけである。その為に俺はここにいると言っても過言ではなかった。
そして今、その対象が目の前にいる。不思議と晴れやかな気分になるのだから、自分で思っている以上に苛立っていたということだろうか。
「月城、邪魔だ、消えてくれ」
浜辺に立った月城に向かって緩やかに歩を進めていく。背負っていたリュックを地面に放り出し、身軽になった瞬間に拳を固めた。
「やれやれ全く、随分と短絡的な考えをするようになったものです、誰の影響なのやら。私に暴行を加えるのは非合理的だとは思いませんか?」
「どうせ今日でどこかに消える相手なんだ、殴らなきゃ損だろ」
それにどうせ向かってくるんだ、非合理的云々以前に身を守る為の行為でもある。
オレが近づいてくると月城と司馬は警戒しながら身構える。その動作や体幹からもこの二人はよく鍛えられているのがよくわかった。いつも天武に殴られたり蹴られたりしているのでそんな印象は持てなかったが、本来は相当の実力者であるということだ。
比べる相手がゴリラなので弱く見えるだけで、月城が強者であることは間違いない。
そして司馬もまた同様だ。この二人相手だと流石に骨が折れるかもしれないな……そんな風に入学したばかりの俺なら思ったのかもしれない。
ああ、だけど、今なら随分と小さく見えるな。
「左右で挟みます、合わせなさい」
「了解」
月城の指示に従って司馬も動き出す。やはり二対一は避けられないか。まぁそれ自体は構わない。どうせ叩き潰すのだから殴る回数が増えるだけだ。
「武器などの類を使えば綾小路くんの制圧も簡単なのですが、生憎と貴方は商品です。無事に奪還させることが私の義務ですから――――必要なのは己の拳と判断しました」
武術の経験があるのか構えた姿勢は堂に入っている。司馬もまた慣れた姿勢で拳を固めた。
強いのだろう、経験もあるのだろう、才能もあって、それを研ぎ澄ます努力もしてきたのだろう。
だが、天武との鍛錬を繰り返して来た経験があるからだろうか、迫る拳も鋭い体捌きも鈍間としか表現できなかった。
「拳か、天武曰く、どんな場所にも持ち運べる最強で万能の武器とのことだが、お前たちのはそれに遠く及ばないな」
ただ骨と肉を握っただけの塊である。凶器にも武器にも届いていない。ましてや兵器にもなお遠い。
迫る司馬の拳をまずは右手で手首を掴むように受け止める、そして同じタイミングで迫った月城の上段蹴りも左手で受け止める。
これで終わりだな。
「ッ!?」
「……グッ!?」
後は簡単だ、握った司馬の手首と月城の足首を握り砕くだけであった。
肉と骨が折れる音が掌から伝わって来る。確実な骨折に追い込めたらしい。
天武式改造訓練の賜物で、オレの体も入学当初より遥かに強まったようだ。そう考えるとホワイトルームでの鍛錬はなんとも無駄な時間だったな。
まさか人間の手足を小枝感覚で折れる日が来るとは、天武はいつも手加減に苦労している様子であったが、今ならそれがよくわかる。
まぁ今は良いか、別に手加減するつもりもないのだから。
視線は手首を折られた司馬へと向かう。痛みに表情を歪めながらもこちらへの敵意を減らしていないのだからやはり闘争に慣れた人間なのだろう。そういった相手の心を折るには徹底的な暴力しかない。
もう二度と、オレに関わりたくないと思うまで壊す。
健在だった方の腕でこちらに殴り掛かって来たので、その手首を膝と肘の間で挟んで割り砕く。これで両手が使い物にならなくなった。
「グオォッ!?」
ジャージの胸元を掴んで引き寄せて頭突きを食らわせる。鼻が砕かれると同時に鼻血が吹き出るのだが、汚いと思ったので回避しておく。
次は足にしようか、下段蹴りで膝を折り砕き体幹を崩した所で何度も踏みつける。せっかくなので肋骨を幾つか砕いておこう。
「何を寝てるんだ。立ってくれ、壊し辛いだろ」
「ぇ……ぁ」
倒れ伏した司馬は手足が砕かれた状態なので立ち上がれないようだ。仕方がないのでこのまま踏みつけておくとしよう。
ある程度砕いたらその内飽きるだろう。いや、それよりも前に月城の処理をしないと。
足首を砕いて動きを封じた月城は、ズルズルと体を引きずるようにしながら接岸されていた中型ボートへと移動しようとしていた……いや、何を逃げようとしてるんだお前は。
まだオレの苛立ちは収まってはいないぞ。もう少し手伝ってくれ。
月城がボートへ逃げようとしていたので、足元に転がっていた司馬を投げつけて阻止することにした。
数十キロを超える成人男性を「軽い」と感じられるようになったことに少し驚きながら、キリモミ回転して月城にぶつかる司馬を見ると胸の奥にあった苛立ちが少し和らいだのがわかった。
気兼ねなくサンドバックにできる相手は貴重だな。つくづくそう思う。
「どこに行くんだ月城、そこは足場が悪いからこちらで話そう」
接岸された中型ボートの近くは波もあり股下くらいまで海に浸かってしまうので話し合いには向かない。いちいちそんなことを説明させないで欲しい。
投げつけた司馬と倒れ込んだ月城の襟首を猫のように掴んで岸へと引っ張っていき、砂浜の上に放り出す。
「……」
司馬は無言だ、いや、意識を失っているようだな。両手と両足は圧し折ってあるのでこいつはこれで良いだろう。
次は月城である。こちらはまだ足の一本が使い物にならなくなっただけなので、まだまだ話し合える。
「妙ですね……ホワイトルームに残された貴方の数字は確かに馬鹿げたものでしたが、ここまで異質異常ではなかった筈」
足首が折れていることからまともに立ち上がれず、砂浜に転がるだけの月城は時間稼ぎのつもりなのかそんなことを言ったが……問答に付き合うつもりはないので顔面を蹴り飛ばす。
「おごッ!?」
「抵抗されても面倒だ、腕も一本折っておくか……利き手は、右だったか?」
構えから利き手は右だと判断してそちらを踏み砕く。五つの指の全てが砕ける音が靴の裏から伝わって来る。
足と手が片方ずつ動かなくなった月城はもうまともな抵抗はできないだろう。
「ッ!? 容赦の、ないことだ……少し、話し合いませんか……ここまで大胆に暴行を加えると、それはそれで、問題も大きくなりますよ」
「オレも聞きたいことや訊ねたいことは色々あるが、まだ余裕があるから煙に巻かれそうだからな、そちらの口がよく回るその時まで痛めつけるつもりだ……あぁ、こちらの質問に素直に答えたくなったら言ってくれ、それまでオレは適当に憂さ晴らしをしておく。それと、さっきも言ったが、そちらを追い込める証拠は幾らでもある、まだ気が付いていないのかもしれないが、首に縄をかけているのはこちらだ」
最初にこの男が関わって来たのはクラス内投票だったか? なかなか面倒なことをしてくれたものだ。天武がいなければ更に面倒になっていただろう……イラッとしたので顔面に踵を落とす。
その次はなんだったか、あぁ、一年の最終試験だったか、坂柳との対局に悪気も無く介入してきたんだったか。またもやイラッとしたので鳩尾を踏みつける。
ホワイトルームに帰れ帰れと煩わしい男だった。挙句の果てには一年にホワイトルーム生を紛れ込ませてオレに懸賞金までかける始末だ……もしかしてオレは月城から怒らない男だと思われていたのだろうか。
それとも、自分は殴り返されないと思っていたのか?
こんな風に何度も蹴り飛ばされる自分を想像できなかったのだろうか?
やはり苛立ちが募ったので脇腹を蹴り飛ばす。
「そろそろオレの質問に答えたくなったか?」
「……」
「寝るな、起きろ」
鎖骨を踏みつける。折れる感触が伝わって来た。
「……うぁ……ぁ」
「お前がどうしても質問に答えたいと言うのなら、聞いてやらなくもない……どうだ?」
意識が朦朧としているのか、月城は呻き声を漏らすだけだ。しかしその視線が接岸している中型ボートに向けられると、絞り出すようにこう言い放つ。
「やり、たくは無かったのですが……仕方が、ありません、ね……宜しくお願いします……できるだけ、怪我をさせないように」
誰に向けての言葉であるかはすぐにわかった。視線の先にある中型ボートがガタっと揺れたかと思えば、船内から一人の男が飛び出て来たからだ。
どうやら船に残っていた気配の正体であるらしい。ここまで動く様子が無かった辺り、動かしたくはない駒ということか。
「私は保険とのことだったが? それも七号用の」
船内から飛び上がって砂浜に着地した男はどこにでも居そうな普通の男であった。黒いスーツにしっかりと絞められたネクタイ、そして整髪剤で固められた頭髪、それだけ見れば生真面目なサラリーマンと言った印象である。
しかしただ立っているだけなのに、そこから発せられる迫力は凄まじい。この男に比べれば月城や司馬はへなちょことさえ表現できるほどだ。
なるほど、あっち側の人間だな。
「……誰だ?」
「別に名乗るほどの者じゃない……あぁ、いや、これは謙遜でも遠慮でも侮りでもなくて、心からの本音だ。私は何も成せてはおらず、何も守れてはいない」
少し会話が噛み合わない感じもあっち側の住人と言った様子である。堂々と出てきたにも関わらず視線はずっと下げられており白い砂浜を舐めるだけだ。
やる気が感じられない、そして覇気もない、なのに鋭い刃物を突き付けられているようにも思えるのだから不思議だな。
「超人なんて持て囃されていようともね、本物の怪物とは異なるのだよ。私は彼らとは違う、そう違うのだよ」
「アンタも超人なのか?」
「超人二十号、そう呼ばれることもある……しかし不相応な称号さ、私はただ――――」
会話の途中で目の前の男の姿が掻き消える、気が付くとその拳が迫っており、オレ鼻先を潰そうと伸ばされているのだった。
鋭すぎる一撃は完全に回避することが叶わず、頬を掠めるようにこめかみを通り過ぎていくことになる。
「オリンピックで金メダルを総舐めできる程度の男でしかないのだから」
拳が掠った頬からは僅かに血が流れているのが確認できた。避けれたのは実力半分、幸運半分と言った所か。
なるほど、天武ほどでは無いにしても、極めて高い身体能力を持っているのはよくわかった。
目の前の男、超人二十号は、ホワイトルームにいた誰よりも強い。そんな確信を抱けるくらいには、強者であるのは間違いない。
「その程度の男になにを成せるというのか、私にはわからない」
また拳が伸びる、途轍もない速度で。しかしそれはフェイントであり、本命は脇腹への膝蹴りであったのでこちらも足を上げて迎え撃つ。
車に撥ねられたかのような衝撃を感じるが、この程度ならば体幹を崩すほどでもなかった。
「七号は良い、あれはまさに怪物だ。ヘラクレスと呼ぶに相応しい。しかし私はどうだろうか……才能と言うのはなんとも残酷なものだ。私が凡人の究極ならば、あれは天才の究極なのだろうな、さて君はどうだホワイトルームの最高傑作よ、どちら側だ?」
「おしゃべりな男だな」
「そう、私はおしゃべりな男なんだろう。いつも何かを問いかけている」
マイペースな雰囲気はどこか鶚に通じるものがある。自分の中で何かが完結している様子は会話というよりは自問自答に近い。
「あぁ、なるほど……どうやら君はあちら側の住人のようだ」
幾度かの猛攻を全て防ぎ切り、掴まれて崩されそうな体幹を維持して、不吉を宿した拳を回避すること数十、全てクリーンヒットを避けることは出来たが、掠める攻撃も多かった。
今も脇腹を掠めた貫手によって、ジクッとした痛みが広がっている。
そんなオレを見て超人二十号を名乗った男は、何かに納得したかのように頷く。
「遅咲きのようだがよく鍛えられている」
このまま相手のペースに合わせるのは危険か、こちらから前に出るとしよう。
天武の動きをトレースして動き出す。何かを毟り取るように立てられた指先を前にだして肉薄するのだが、当然ながら防がれてしまった。
簡単に倒せる男でもないか、だがある程度の実力はこれまでの攻防で把握することができただろう。
この男はホワイトルームの誰よりも強い、それこそ自身の発言の通りオリンピックで金メダルを総舐めできるくらいには極まっているのは疑いようもない。
一年前のオレならまず勝てなかっただろう……けれど今は違う。
オリンピックで金メダルを総舐めできる? それならオレだってできるぞ。
超人二十号の猛攻が前に出たオレに突き刺さる。鈍い痛みが体中に広がるのだが、被弾覚悟の前進なのでこればかりは仕方がない。
おそらく技術や場数では話にならないくらいの差がある。なので狙うのは殴り合いではなく、単純な腕力勝負だ。
二十号の拳を敢えて腹筋を固めて受け止める。膝蹴りは同じように膝で阻止する。そうして距離を詰めると、一気に踏み込んで腰に纏わりつくことに成功するのだった。
そのまま相手の腰を起点にクルリと回って背後に移動すると、狙うのは首だ。両手を伸ばして一気に背中から羽交い絞めにする。
「見事だ少年……いや、これは一人の戦士に失礼な発言か」
背後からの羽交い絞めが完全に決まれば抜け出すことは難しい。或いは天武ならばオレの両手を強引に引きちぎって脱出するのかもしれないが、この男はどうだろうか。
「返礼は……こちらの全力で構わないかな」
首を絞める腕に二十号は指を立てて掴み取ってしまう。そしてそのまま強引に毟り取ろうと力を込めて行く……おいおい、本気で引きちぎるつもりか。
ならこちらは、そうなる前に落とすだけのこと。
首を絞める腕に立てられた指先は杭のようにめり込んでいく、だがそれに抵抗するようにこちらは力を込めて行った。
天武から教えられたな、改造した力の絞り出し方を。
そのコツを思い出しながら二十号の首を全力で締め上げる。後はコイツの指がオレの腕を引きちぎるのが先か、それとも意識を失うのが先かの勝負でしかない。
そして、その決着は思いのほか早く訪れることになる。羽交い絞めしていた二十号の体がガクッと脱力して倒れ伏すことによってだ。
「……はぁ」
意識を失ったことを確認するとようやくオレも首から腕を離すことができる。貧血のような症状に陥っているのは全力を出した結果だろう。
強いな、この男、少なくともホワイトルーム生が束になっても鎧袖一触されて叩き潰されるだろう。オレも改造訓練を受けていなかったら危なかったかもしれない。
或いは時の運もあるのだろうか、また違う形で戦えば負けることもあるだろう。本当に紙一重の戦いだった。
だが、勝ったのはオレだ。
体中に広がる鈍痛は酷いものではあるし、腕時計はアラームを鳴らしているが、深刻と表現するほどでもないだろう。
音が煩かったので腕時計は壊しておこう。後で言い訳を考えておかないとな……転んだで問題ないか。
それよりも、俺は月城と話し合いの続きがしたい。
「清隆~ッ!! 無事か!!」
さて月城を踏み砕こうと考えていると、森の方から天武が猛スピードで走って来るのが見える。
「そっちは片付いたのか?」
「そりゃまぁある程度は、いや、色々と問題もあって……そうじゃなくて、こっちは大丈夫だったのかい? 面倒な駒を月城さんが用意しているのがわかって慌てて駆け付けたんだけど」
「それはアイツのことか? 苦戦はしたが、なんとか倒せたぞ」
天武の視線は砂浜に倒れこんでいる二十号に向かった。
「あ、この人が来てたのか……清隆、よく勝てたね」
「紙一重だった」
「そっか」
それで納得したのかウンウンと頷く天武は、次に月城と司馬へと瞳を向ける。
「こっちもボロボロじゃないか」
「当然だ、まだやり足りないくらいだ」
「お、おぉ、清隆が怒ってるのは初めて見るかも」
「正当な怒りだろ」
なにせやりたい放題してくれたからな、この程度で苛立ちがどこかに消えたりはしない。そう考えるとオレにも執着する何かが生まれたということだろうか。不思議なものだ。これが怒りと言う感情なのか。
何であれ、月城もこれで口が軽くなることだろう。なのでこう訊ねる。
「月城、オレたちに何か言いたいことはあるか?」
最後通告としてそう伝えると、ボロボロの状態で砂浜に倒れこむ月城は、観念したとばかりにこう言うのだった。
「……そちらに全面降伏しましょう。これまでの行動の全てを謝罪します」
あぁ、そうだ、その言葉がずっと聞きたかった。