ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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試験最終日 3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鶚視点

 

 

 

 

 

 

「今時人斬り家業とか流行らないでやがります。時代劇に帰りやがれッス」

 

「あぁん!? 忍者がそれを言うんかいな!!」

 

 白刃が煌くと、無人島の様々な場所にある森が切り開かれていく。構えた大太刀がブンブンと勢いよく振り回されるとその度に太い木や頑丈な岩が両断されていくッス。

 

 ウチが足場にしていた巨木も真っ二つにされて地上に降りるしかなくなる。気が付けば鬱蒼とした森は切り開かれていた大量の丸太が転がって視界が広がっていた。

 

 だからゴリラと戦うのは嫌なんッスよ。自分のやりたい放題するから。

 

「そもそも身分も不確かな相手に雇われるとかアホのすることッス」

 

 身を隠せる遮蔽物が全て切り倒されてしまったので、懐から取り出した発煙筒を投げつける。改造されたそれは大量の煙を吹き出して再び視界を閉ざす。

 

「そっちこそアホかいな、出所がどこやろうが札束がそこにあるんならそれでええねん」

 

 煙の中からそんな声が聞こえて来るッスけど、こっちはその声を頼りにマントの裏側に隠していた刃物を投げつけた。正面から三つ、弧を描き背後から襲い掛かるように三つ、しかしそれらは煙の中から聞こえてきた金属が弾かれる音によって届かなかったことを知らせて来るッス。

 

 煙幕で見えない筈なのにしっかりと弾き落とす辺り、良い感覚を持ってるのは相手も同じ。

 

「しゃらくさいわ!!」

 

 次に豪風が巻き起こるッス。大太刀を一閃するだけでそこに漂っていた煙幕が吹き飛ばされる。

 

 次に暴漢たちから鹵獲した銃を腰のホルスターから抜き放って引き金を弾く。連続して放たれる弾丸は、やはり大太刀で防がれてしまッス。まぁ銃口と指の動きを見切ればどうとでもできるので驚くことでもない。

 

 要は射線と自分の間に障害物さえあれば銃は怖くはない、超人と呼ばれる存在の中では常識とされることでもあるッスね。

 

 銃は雑魚を処理するのに便利ッスけど、超人を殺すにはせめてバズーカでもなければ話にもならない。

 

 月城の足をぶち抜く為に鹵獲した銃でしたけど、八号相手には何の意味もないので重しにしかならない、これも投げつけておくと簡単に弾かれてしまった。

 

 結局、超人は殴り殺すのが一番簡単で話が早い、そういうことでやがります。

 

 潜ませた武器の全てが殴り倒す為に必要な過程でしかない。最後には全力の殴打が一番だとご主人も言う筈ッス。

 

「因みにどれくらいの額を提示されたんッスか?」

 

「前金で一億、成功報酬でもう一億や」

 

「つまり実質一億ッスね。どうせ成功なんてできね~んですから。ご主人に勝てると思ってるんッスか?」

 

 会話しながらも次々と手裏剣や拾った石を投げつける。それら全てが太刀で弾かれるとわかっているので、僅かに生まれた観察の隙間を見つけて八号が切り開いたことでそこら中に転がっている丸太を二つ掴みあげる。

 

 太く分厚いそれを八号に投げつける。まずは右手に持った丸太を、少しタイミングをずらして左手に持った丸太も投擲した。

 

 全力も全力、渾身の力を込めた投擲は、軽く百キロは超えるであろう二つの丸太が投げやりのような速度となるのだけど、それは八号が肩に担ぐ大太刀の切っ先が届く位置にまで近づいた瞬間に一瞬で賽の目状に切り刻まれてしまう。

 

 そうッスよね、これで倒せるようなら超人なんて呼ばれちゃいない。手裏剣も石も丸太も全ては牽制、目くらまし程度にしか最初から期待してね~です。

 

 賽の目状に細切れにされた丸太の残骸がボロボロと降り落ちる中、地面を割り砕いて一気に肉薄していく。その途中でまた丸太を掴むことも忘れない。

 

「ようやく来よったか、待ちくたびれたわ」

 

 切っ先がこちらに向けて揺れ動く、その意識も集中も視線も……そんな八号に向けてウチはまた手に持った丸太を投げつける。

 

 やはりそれは八号が持つ太刀の切っ先により先に進むことはできない。刃の結界とでも言うべきものがそこにはあり、丸太も石も手裏剣も銃弾も、全てが逸らされてしまうッス。

 

 見た目や言動の荒々しさとは異なり丁寧に賽の目状に切り刻む辺り、思っていたよりも几帳面な部分もあるよ~です。

 

 こちらにとっても都合が良い、あれだけ太かった丸太がサイコロ状にカットされた結果、それがまた無数の目くらましになって視界を遮る。

 

 本命はあくまで拳、そして最後の牽制として口の中に隠していた針を八号の眼球向けて吹き放つ。

 

「プッ」

 

「ちょこざいな」

 

 斬撃によって無数のサイコロが転がり吹き飛ぶ中での細い針、しかも八号の集中の全てがウチに向けられている状態、眼球の一つくらいは奪えるという計算だったんッスけど、八号は吹き飛ばした針を見切っていたの前歯で挟んで受け止めてしまう。

 

 そう楽にはいかね~ですか。

 

「ようやくぶった切れるわ、おら首寄こさんかい!!」

 

 口から吹き出した針で眼球を潰してからぶん殴る、そういう段取りであったので八号の太刀がこちらに届く距離になっていた。

 

 ここで足を止めて躊躇するようならば、そもそも近づいてはいないッスよ。

 

 迫る太刀を回避する為に足を止めるのではなく、敢えて踏み込む。前かがみになるように。すると上段切りは空振って肩甲骨付近を太刀の柄が打つ感触があった。

 

 でも刃は当たっていない、それだけで全てが良しッス。

 

 その長物で懐に入られればやり辛いのは当然の理屈、全力でぶん殴るだけの状況はこれで作れた。

 

 指先を真っすぐ伸ばす、刃の如く。そして呼吸法で大量の酸素も取り入れる、何かを爆発させるように。

 

 狙うのはへそ、その小さな穴に指を突っ込んで内臓を引きずり出す。それで九割方の相手は倒せるって師匠は言っていたッス。

 

「……」

 

 一瞬の躊躇は、死なせないようにというご主人の言葉を思い出したからなのか、それとも伸ばした貫手が両断される予感があったからなのか、どちらにせよウチの貫手は八号のへそを穿つ寸前で引っ込むことになる。

 

 次の瞬間、そこに白刃が煌いたのだから、手を引っ込めて後方に飛びのいた判断は間違いではなかったようでやがります。

 

 八号の袖から伸びるのは短刀……なるほど隠し武器を忍ばせてたのはウチだけじゃないってことッスか。

 

 右手に太刀、左手に短刀、二刀一対の姿はまるで……。

 

「ははッ、宮本武蔵みたいやろ?」

 

「そうッスね」

 

「ほんならここは巌流島やね、無人島やし。楽しみにしとったんやでぇ、ようやく決着付けられると思うとったのに、なんで鶚の子燕と戦ってんねん」

 

 あぁ、そう言えば八号の名字は宮本でしたっけ? やけに意識していると思ったらそういうことみたいッスね。騙りなのか子孫なのかは知らないッスけど。

 

 忍者の末裔がここにいるんッスから、侍の末裔がいてもおかしくはない。

 

 また鹵獲した銃を取り出して牽制代わりに乱射する、けれど二刀一対になったことでさっきよりも楽々と防がれてしまう。

 

 射線を見切り、気配を見切り、タイミングを見切り、後は射線上に刃を置くだけ。やっぱり意味がないッス。

 

 まぁ銃を撃つよりぶん殴った方がウチの場合は威力があるので、最初から期待もしていなかったでやがりますが。

 

「ほら行くでぇ、これから大将首を取らなあかんねん」

 

 二刀一対、手数が増えたことで八号の前進は一気に激しくなった。一歩踏み出すごとに地面を蜘蛛の巣状に割り砕き、それだけの脚力で生み出される勢いの全てを二刀の刃に乗せる。

 

 阻む者は無し、そんな表現が良く似合う前進だった。分厚く頑強な岩も、人の胴体よりも遥かに太い木々も、全てが目にも止まらぬ連続切りで丁寧に賽の目状に切り裂かれて道となっていく。

 

 後退しながら試しにとばかりに口の中に含んでいた針を吹き出す、当然ながら切っ先の内側には入れない。

 

 鹵獲した銃も弾が尽きるまで放つけどやはり阻まれる。

 

 マントの内側に隠してあった手裏剣などの暗器類もありったけばらまくがやっぱり届かない。ブルドーザーのように全てを押しのけて、強力な裁断機のように細切れにされていくだけッスね。

 

 あの手の脳筋は毒か、それとも薬品か、もしくは罠で嵌め殺すのがセオリーッスけど、この無人島ではそこまで簡単な話でもない。

 

 今も後退しながらも手製の手榴弾をポロポロとばらまいてるッスけど、爆風も破片も物ともせずに突き進んで来る様子は戦車のようにも見えやがるです。

 

「カカカッ!! ほれほれどこ行くつもりなんや、ピョンピョン跳ねまわりよって、八艘飛びのつもりかいな」

 

 ザクザクとあらゆる物を切り捨てながら突っ込んで来る。この鬱蒼とした森を八号が走り抜ければそこに道ができる。重機いらずッスね。

 

 銃はダメ、刃物もダメ、手榴弾も効果無し、やっぱり全力でぶん殴るのが一番でやがりますが……。

 

 切っ先が届く範囲に入ればその瞬間に賽の目状に切り刻まれてしまう。

 

 今も木々を飛び移る内を追いかけ回して爛々と輝く瞳を向けて来る八号は、簡単には落とせない。

 

 右腕一本犠牲にすればまた懐に潜り込めるッスかね? いや、それだと最終的にご主人に怒られそうで怖いでやがります。

 

 怖いとは……忍者が感じちゃいけない感情ではあるんッスけどね。

 

 まぁ今はウチを追いかけて来る八号の対処が大事、猪突猛進に見えて刃の内側に入るのは至難の業、さてどうしたもんかと木から木へと飛び移りながら爆薬をポロポロと落としていると、いつのまにか視界が開けて白い砂浜にまで辿り着いていた。

 

 う~ん、障害物が無い場所はそれはそれで困る。いや、あっても結局は切り刻まれるので意味がないと言ったらそれまでッスけど。

 

 青い海と白い砂浜だけがあるこの場所は木を飛び移っての移動ができない。剣士相手に平地で戦うような鍛錬は積んでいないので再び森を戦場にしようと考えていると、森を切り刻んで道を作った八号も浜辺にやってくる。

 

「子燕がぁ、ようやく追い詰めたでぇ!!」

 

「しつこいッスね……まぁ逃げ回るのもずっと続けても意味がないんで、そろそろ決着をつけるでやがります」

 

 ここまで来れば仕方がない。手か足を一本捧げて心臓か内臓を抉り抜く。

 

「忍道とは、敵を殺すことと見つけたり……畏れよ我ら鶚忍軍の戦いを」

 

「はッ、ようやくやる気になったんかいな……実家の門前にお前の首を飾ったるわ」

 

 浜辺で向かい合い覚悟を決める、二刀を躱して懐に飛び込むには腕か足を犠牲にする必要があるのは間違いない。せめて愛用の手甲か足甲でもあればと思わなくはないが、無い物ねだりをするほど馬鹿じゃね~です。

 

 指先を真っすぐ伸ばして貫手の片手に、左手は切り落とされる前提で伸ばす、内臓さえ無傷なら何も問題はない。

 

 足元が砂浜なので少し踏み込みが浅くなってしまう。なので近くに転がっていた石を踏んずけて簡易の蹴り込み台とする。

 

 可能な限りの準備を整えてもぎ取る、一秒後の生存と勝利を。

 

「……」

 

「……」

 

 互いに無言で睨み合う、不可視のフェイントを数え切れないほど織り交ぜながら前かがみとなって……いざ勝負。

 

 

 畏れよ、我ら鶚の戦いを。

 

 

 

「いや、止めなさい、なに決死になってるのさ」

 

 

 

 いざと覚悟を決めて踏み出す直前でご主人からの待ったがかかった。そう言えば一足早く浜辺に走って行ったのを今になって思い出す。特に大きな問題もなかったのか怪我した様子もなく、浜辺の一角では既に制圧された月城たちが並べられているのも今になって気が付く。

 

 あっちが問題なく終わったので、浜辺で睨み合っていたウチらに声をかけてきたよ~です。

 

「九号、下がれ。決死で挑まれてもこっちが困るんだ」

 

「了解ッス」

 

 ご主人がそこまで言うのなら引くしかね~ですね。いやぁ、大切に扱われてるようで照れるッス。

 

 ウチと代わるように前に出たご主人は、八号と向かい合いながらも脱力した様子を見せる。それでも深く根を張るような体幹を感じれるので、やっぱりウチとは正反対の体作りをしているようですね。

 

「大将首のお出ましかいな、待ちわびたで。カカッ、楽しもうや」

 

「すまないね。女性を相手に武力を行使するのはどうかと思うけど、君は強いから手加減が出来そうにない、無傷で制圧できない未熟を責めてくれても構わない」

 

「ハッ、紳士なことやな、そやけど余裕ぶるんは勝ってからにしい!!」

 

 八号の姿が掻き消える。そして瞬きする間に刃の結界の中にご主人が包まれることになった。

 

 逃げ場はない、あの森を切り開いた時と同じように賽の目状に切り裂かれて終わる、そうなる筈だったけれど――。

 

「ん、ごめんね」

 

 ご主人は迫る刃を人差し指と中指の間で挟んで横に動かした。するとパキンと薄氷を踏んだかのような音と共に太刀は半ばで綺麗に折れてしまう。

 

 逆の手に持っていた短刀も同様ッス、人差し指と中指で挟まれて綺麗に折れている。

 

「あぁ?」

 

 驚いたような、信じられないような声を漏らす八号の姿は、次の瞬間に海に吹き飛ぶことになる。ご主人の右掌打が鳩尾に刺さったからだ。

 

 何かが破裂したかのような重低音が広がると同時に八号は吹き飛んで、そのまま海を水切りされた石のように二度三度四度と跳ねまわって最終的に十回ほど跳ねてから海に浮かぶことになった。ピクリともしないので意識を失ってしまったよ~です。

 

 

 い、一撃ッスか……いや、ウチが知ってるのは高校に入学する前のご主人なので、今のご主人とは大きな差があるとはわかるんッスけど、以前は八号と互角程度だった筈なのに、知らない間に鎧袖一触できるようになっているとは。

 

 

 ヤバい、カッコいい!!

 

 

「九号、足止めご苦労だったね、お疲れさま」

 

「……」

 

「どうしたんだい、顔が赤いけど」

 

 やはり男は腕っぷし、圧倒的な膂力でねじ伏せてこそ価値がある。徹底的に蹂躙して敗北を植え付けて子種を注ぎ込んで征服してこその男、いや漢!!

 

 想像する、あの膂力で押し倒されて孕まされる瞬間を……ヤバいッス。

 

「大丈夫ッス……ただ子宮がキュンキュンしてるだけなんでッ!!」

 

「あ、ハイ」

 

 何故かご主人はドン引きしている様子ッスけど、こればかりは仕方がない、ウチは悪くない!!

 

 ふへへへ、最強の忍者が生まれる日が楽しみッス。

 

 

 

 

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