二週間、生徒たちはこの無人島で過ごしてそれぞれが最善を目指して切磋琢磨したことだろう。一年生も二年生も三年生もそれは変わらない。きっと俺が把握していないだけで様々な思惑や努力があったのだろう。
結果的に一年生と三年生がほぼ壊滅するという、おそらく学校側の予想を良い意味でも悪い意味でも裏切る形になったのは間違いない。
今思い返してみても長い二週間であったと思う。同時に、いざ振り返ってみるとあっと言う間とも考えられるのだから、とても不思議な感覚であった。
長いようで短く、大変なようで楽しくもあった二週間は、遂に終わりを迎えたのだ。
最終日も最後の最後まで全力で挑み、思い残すことが何一つとしてない試験であったと胸を張れるくらいには頑張れたことだろう。
タブレット端末に試験の全てが終了したとメールが届いたことで、生徒たちはそれぞれ港に停泊している船に戻ることになるのだった。
港に集まって次々と乗船していく生徒たちはそれぞれ安心した様子である。一年生と三年生が壊滅したことで報酬の全てを独占できることに加えて、退学者が出ることもないとわかっているので気が休まっているのだろう。
その代わりとでも言うべきか、完全敗北とさえ言っても過言ではないくらいに徹底的に追い込まれた三年生と一年生はお通夜のような顔をしているのだった。
俺も船に戻り、学校側が生徒たちへの労いとして用意してくれたジュースで喉を潤して、結果発表が行われる食堂へと足を運ぶことになる。
「お疲れさま、笹凪くん」
「そっちもお疲れさま」
広い食堂では既にBクラスの生徒たちが集まってチラホラと席に座っていた。それ以外にもそれぞれのクラスの生徒も集まっており、自然とそれぞれが固まって結果発表を待っている様子だ。
こうして全体を眺めると二年生は和気藹々としているのだけれど、一年生と三年生は誰もが視線を下げており、葬式でもするのかと思えるほどに沈んだ様子である。
「三年生と一年生は、なんというか、数が少ないね」
そんな彼ら彼女らの様子を見た平田はそんなことを言ってくる。確かにこの食堂に集まった一年生と三年生は数が少ない。
怪我人が多いので医務室から動かせないのだろう。自力で歩ける生徒であってもガーゼだったり包帯だったりがよく目立つ、大乱闘でもあったかのような有様である。
対照的に二年生は絶好調と言った感じなのだから、本当にギャップが凄いことになっている。こっちは祝勝気分全開だけど、他の学年はお通夜状態なのだから、既にこの場の主役は俺たち二年生であるかのような雰囲気さえあった。
だが事実その通りなのだろう。50パーセント圏内にすら入れなかったのが一年生と三年生である。どんな言い訳も通じないくらいに徹底的で完全完璧な敗北である。
「笹凪くんは何があったのかわかるかな?」
「実は俺もハッキリとは把握していないんだ」
「そっか、それなら仕方がないね」
平田は深くは訊いてこなかった。実際に俺もどうしてこうなったのか全てをわかっている訳ではないのでありがたい対応である。
他のクラスメイトもどうしてこうなったと知りたいようではあるが、きっと全容を理解している生徒は殆どいないのだろう。俺だってその一人だ。
まぁ今はお通夜状態の他学年よりも、結果発表に集中するとしよう。
しかも学校側からのサービスなのか食堂には既に豪華な料理がこれでもかと用意されていた。バイキング形式なので色々と手を伸ばして試験の疲れを癒すとしようか。
なにせ我慢我慢の二週間だったからな、食べたい物を好きなだけ食べられるとか、あの無人島では絶対に不可能だったことでもある。
なのでまずは肉を皿の上に置く、次に魚、野菜も少々、そしてデザートも忘れない。足りなくなったらまた追加で持ってくるとしよう。バイキング形式なので好きなだけ持ってこれるからな。
そんなこんなで皿の上に大量の料理を載せてBクラスが集まっている一角に戻ると、丁度鈴音さんと視線があったので隣の席に座ることとなった。
彼女もこんな時くらいは贅沢をしたかったのか、皿の上には豪華な料理が載っていた。
「お疲れさま、ようやく一息つけるわね」
「本当にね、やっとだよ」
無人島にいる間は休まる時間も無かったので、船の中に入ってこうして腰を落ち着けて食事を出来る段階になってようやくゆっくりできる。
「自信のほどはどうかしら?」
「人事は尽くしたよ、後は待つだけだ」
少なくとも大きなミスはしていないし、つまらない余裕に浸ることもなかった。本当に全力で最後まで走り抜けられたと認識している。
これで勝てないのならば、俺はより強くなる為に鍛錬を積みあげる必要があるだろう。未熟であるということなのだから。
「鈴音さんもありがとう。色々と助かったよ」
改めてお礼を伝えると、彼女は少しだけ照れてはにかむのだった。
「クラスの勝利の為に当然のことをしただけよ」
「うん、そうだね」
勿論鈴音さんだけでなく、クラスメイトたちからはそれぞれ支援を受けた。最初から割り切って一つのグループを徹底して勝たせると言う方針は上手くいったということだ。
「鈴音さんのおかげでグッスリできたし、最終日はとても動きやすかった」
少し恥ずかしい思い出ではあるが、あのゆったりとした時間はとても貴重であった。
彼女も無人島での膝枕を思い出したのか、ほんの少しだけ頬を赤くして視線を逸らす。今になって恥ずかしく感じるのならばやらなければ良かったのにと言葉にするのはきっと野暮なんだろう。
「そう言えば、船でもまたしてくれるって話だったけど」
「……馬鹿なことを言うのは止めなさい」
耳を引っ張られてしまった。どうやらそう甘い話は何度も来ないらしい……いや、時と場所を弁えればワンチャンあるのだろうか。
女性に膝枕されるのは健全な男子高校生として至福の時間であったので、また機会があれば味わいたいものである。鈴音さんの気まぐれに期待するとしよう。
そんなこんなで鈴音さんと食事を続けていると、食堂にマイクから響く大きな声が広がった。この場に集まった生徒たちの視線が自然とそちらに引き寄せられる。
三年Aクラスの担任である佐々木先生が立っており、幾人かの教員の姿が確認できた。どうやら結果発表が行われるらしい。
「一時食事、会話を中断してください」
佐々木先生に注目が集まったことで二年生を中心に騒がしかった食堂が静まり返った。ある意味生徒たちにとっては待ちに待った瞬間でもあるんだろう。
「無人島特別試験、まずはご苦労様でした。三百名近いリタイア者を出しながらも無事に……えぇ、無事に試験を終えられたことを嬉しく思います。下位五組のグループに関しては退学と言う形になりますが、既に救済のポイントを支払っているので、今回の試験での退学者は一人もいません」
わかってはいたことだが、学校側から改めて宣言されるとやはり安心できるな。
「では、これより無人島試験の結果、上位三組の発表を行います」
生徒たちに緊張が走る。順位を確認できていたのは十二日目までだったので、それ以降は確認できなかったのだ。一体誰が入賞したのかは気になるのだろう。
固唾を飲んで佐々木先生の発表を待つことになる。ただある程度の予想はできた。
「第三位――二年Aクラス葛城グループ。302点」
そんな発表と同時に、Aクラスが固まっている食堂の一角からは大きな嘆きの声が広がった。声の主はどうやら戸塚であるらしい。
奮戦したようだが一歩届かなかったか、葛城は腕を組んでどっしりと構えた姿勢で静かに現実を受け入れているようだ。坂柳さんとの戦いに敗れてしまったことで遂にリーダーとしての立場を失うことになる。内心はどうなんだろうか。
もしかしたら、全力で挑んでなお負けたのだから、受け入れているのかもしれないな。
そして葛城グループが三位であるのならば、やはり二位はこのグループになる。
「第二位―― 二年Aクラス坂柳グループ。326点」
またAクラスからざわめきが広がる。ただ嘆きの声ではなく安心したような、歓喜交じりのものなので、あのクラスの内部でも色々な緊張や思惑があったということだろうか。
坂柳さんはいつものように不敵に微笑んでいる。葛城を三位に食い込ませたことも全ては計算通りと言った顔であった。
そしてこの時点で一年生と三年生は入賞が絶望的であることが実際に確定することになる。わかりきってはいたことだが、改めて突き付けられるとより一層空気は悪くなっていく。
頭を抱えていたり、はしゃぐ二年生に舌打ちしたり、散々な結果に終わった三年生は特に反応が暗いな。
彼らにはもう時間がない、だというのに何の利益も得られなかったのだから、嘆きは他学年よりもずっと大きいということだ。南雲先輩が有望な人物をAクラスに上げるという方針を打ち出してはいるけれど、そもそもその資金が無ければ話にもならない。
今回の試験で敗北したことで、単純にAクラス行きのチケットの総数が減るということである。内心は穏やかではないだろう。
だからこそ、動かしやすくもあるのだが。
色々と三年生に工作できるタイミングでもあるな。あっちだって南雲先輩に見切りをつける頃合いだろう。動きの速い三年生はもうこちらに重きを向けているかもしれない。
まぁ、三年生を動かすのは状況を見計らってからだろう。今は結果発表である。
三位が葛城、二位が坂柳さん、そして残る一位の発表となる。
佐々木先生は手元にあるメモに視線を落としてから、こう言うのだった。
「第一位、二年Bクラス笹凪グループ……837点」
「流石に1000点には届かなかったか」
そこを目指すくらいには全力で走り回っていたけれど、安全策として六助を港に置いたことや得点が倍になる最終日に月城さんに構っていたことで最後は失速してしまったからな、こればかりは仕方がない。
「全く……素直に喜ぶべきか、呆れるべきかわからないわね。ここまで滅茶苦茶な得点を稼ぐだなんて」
「最強の証明をしたかったんだ」
「確かにこれだけ圧倒的な点数を叩きだしたのだから、誰も文句が付けられないでしょうけど」
隣の席に座っている鈴音さんは呆れたような、それでいた感心したような表情を見せる。俺としてはこれでも足りないくらいなんだけどね。
もし俺と六助と清隆の三人グループを組めて月城さんに構わなければ、もしかしたら1000点も超えられたのかもしれないな。
けれど今はこれで良いだろう、無いとは思うけどもし来年似たような試験があるとするならば、それまでまた徹底的に鍛え上げて今度は1000点超えを目指すだけである。
「貴方の勝利によって300クラスポイントが得られる。だけど流石はAクラスと言うべきなのかしらね」
「あぁ、まさか二位と三位を得るとはね、これでポイント差は生まれない」
「改めて、手ごわい相手だと認識したわ」
一位は取れたけどポイント差は生まれない。坂柳さんにしてやられたということである。
けれどこれはこれで良い傾向なのかもしれない。今はまだAクラスになるべき時ではないだろうから。
クラスメイトはそれぞれ成長しているけれど、追われる側になるのはまだ早い。
「だけど、一位を取ったのは俺たちだ。今は喜ぼうよ」
「えぇ、そうね」
勝ちは勝ちである。お通夜状態の三年生に比べれば遥かに得たものが多かった。
一年生はほぼ壊滅、三年生もほぼ壊滅、二年生で報酬の総取り。
それがこの無人島試験での最終的な結果であるのだった。
月城さんは排除できたし、ホワイトルーム生も把握できた。七瀬さんはちょっと不透明だけど大きな問題は無し、まだまだ油断はできないけどようやく一息付けられる。
流石に疲れたな、肉体的にというよりは精神的にだけど。
食事を終えたら部屋でゆっくり休むとしようか。
色々と考えなければならないことも多いのだが、しっかり結果は出したのでそれくらいの贅沢は許される筈だろう。
長い長い無人島での試験はこうして終わることになるのだった。
最初に予想していた一位の奪取は達成できた上に、二位と三位も二年生で独占できたことでほぼ全ての報酬は俺たちの学年で奪うこともできた。他所の学年に資金があるよりはずっとありがたい状況だ。
つまりこの試験は、二年生の完膚無き完全勝利ということになる。
これでようやく、俺は安心して熟睡することができるようになるのだった。
師匠曰く、安心するのは勝ちが確定した時とのこと。
とりあえず、食事を終えたらぐっすりと眠りたい。それくらいの気の緩みは許されるだろう。