ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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夏休みでも生徒会は忙しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 この豪華客船の中には臨時の生徒会室として扱う為に用意された場所がある。夏休みであっても生徒間のイザコザの解決であったり学校の運営であったりを進めて行かなければならないからだ。

 

 加えて言うのならば、無人島試験を乗り越えた生徒たちへのご褒美というか、労いのようなレクリエーションが準備されていることから、それに関しても生徒会は関わっていくことになる。

 

 ただ悲しいかな、無人島試験があんな結果で終わってしまったことで今現在、生徒会は人手不足という状況にあるのだった。

 

 南雲先輩は医務室から出せない。桐山先輩は部屋で療養を命じられている。八神も同様。高育が誇る生徒会は残念なことに二年生しかまともに動けない状況と言える。本来ならば余裕を持って動かす筈だった催しに関しても今から動いてしっかりと動かせるように準備しろと学校側が急かすのも当然だ。

 

 本来ならば生徒会全員で動く筈の催しだというのに半分が怪我で動けない。ならば残った人員で余裕を持って準備をするべきだという主張に何も間違いはない。

 

 そんな訳で無人島試験が終わったばかりだというのに動ける生徒会役員は早速仕事であった。愚痴っても仕方がないのでサクサクと進めて行こう。

 

「天武くん、来たのね」

 

 船の中にある臨時の生徒会室に入ると、既に鈴音さんと帆波さんの姿があった。彼女たちは手元の資料を眺めながら何やら相談をしていたらしい。

 

 資料の内容はわかる。要は龍園と坂柳さんが連名で出した訴えである。生徒間のイザコザの対処も生徒会の仕事だからな。

 

 全く、タダでさえ人手不足で忙しいのに面倒事を持ち込んで来るとは、休ませるつもりが無いようだ。

 

「二人ともお疲れさま、審議の準備はどうかな?」

 

「ある程度の状況は把握できたよ。ね、堀北さん」

 

「えぇ、問題なく進められると思うわ」

 

 審議の内容は「一年生が徒党を組んで上級生を襲撃してきた疑惑」である。龍園と坂柳さんの訴えであり、これを許してなるものかという意思が書類から伝わって来るほどであった。

 

 また龍園のなりふり構わない犯罪のでっち上げかと思ったが、ここに坂柳さんが名を連ねている辺り、勝算ありと踏んでいるらしい。

 

 ご丁寧に「客観的な襲撃の証拠」まで用意しているとのことなので、あの二人は一年生を骨の髄までしゃぶりつくすつもりなのだろう。

 

 蛇に隙を見せてはいけないということだ。

 

 この審議に関しても人を割かねばならないので、生徒会はそれはもう忙しいということである。

 

「こっちは南雲先輩から引き継ぎの話を受け取ったよ」

 

 南雲先輩が使う筈だった臨時生徒会のデスクの引き出しを探ると、USBメモリを発見できる。それをパソコンに差しこんでパスワードを打ち込むとレクリエーション関連の情報を回覧することができた。

 

 このレクリエーションに関しても人手がいるんだよな。三人で回すのはやっぱり厳しいかもしれない。これまた愚痴っても仕方がないんだろうけど。

 

「どうしよっか? 審議とレクリエーションの準備で二手に分かれる?」

 

 そんな提案に反対意見は無かったのか、鈴音さんと帆波さんは頷きを返してくれる。

 

「私はそれで構わないわよ」

 

「うん、というかそれしかないよね」

 

「人手不足だからなぁ」

 

 せめて八神が動ければ良かったんだけど……いや、それでも三年生が動けないのなら根本的な解決にはならないか。

 

「いっそ、生徒の中から何人か雇ってみようか」

 

「う~ん、できたら楽になるけど、学校側が許してくれるかな」

 

「いえ、人手不足なのはその通りなのだから、今回は特例として認めてくれる可能性もあるかもしれないわよ。その生徒にはアルバイト代を渡して、代わりにだけどレクリエーションへの参加は出来なくなるような形なら学校側も許可してくれるんじゃないかしら」

 

 レクリエーションの手伝いに参加すると、どこにどんなお宝があるのか事前に把握できるからな、その生徒は当然ながら有利になってしまう。

 

 なので雇った生徒は参加することは出来なくなる。アルバイト代だけで我慢することになるけど、それで良いと言ってくれる人がいてなおかつ学校が許可してくれるのなら行けなくもないか。

 

「まぁその辺は学校と相談で良いか、今すぐは無理だろうからレクリエーション前日の最終的な下準備の時や受付で頑張ってくれるだけでもありがたい。それまでは今の人員で進めて行こうか……振り分けはどうする?」

 

「それなら、私と天武くんでレクリエーションの準備を進めましょう」

 

「審議を俺が引き受けても良いんだけど」

 

「レクリエーションの準備では力仕事も必要だから貴方はこっちよ」

 

「ん、了解」

 

「……ぇ、ぁ」

 

「一之瀬さんは審議の対応をお願いしても構わないかしら?」

 

「あ……うん」

 

 鈴音さんの言葉にどこか歯切れ悪く返事をする帆波さん、何か不満があるのだろうか?

 

「もしかして審議の対応はやり辛かったりする?」 

 

 それが気になったので問いかけてみると、帆波さんは慌てて手を振った。

 

「そ、そんなことないよ」

 

「そっか、出て来るのは龍園と坂柳さんだし、やり辛いなら俺が代わっても良かったんだけど」

 

「大丈夫、本当に何でもないから。こっちは私に任せて、二人は準備を頑張ってよ」

 

 時間は有限な上に人手不足である。早速動くとしようか。

 

 審議は生徒会歴が俺たちよりも長くて慣れているだろう帆波さんに任せて、俺と鈴音さんは雑用とでも言うべきレクリエーションの準備を進めていくことになるのだった。

 

 このレクリエーションだが、要は宝探しゲームである。

 

 船内の色々な所に張り付けられたQRコードをスマホで読み取ることによって報酬が貰えるというシンプルな催しだ。

 

 特別試験ではないので参加するしないも自由であり退学の心配もない。本当にただのレクリエーションである。

 

 宝探しゲームに参加すれば大小様々な報酬が貰える上に、何のリスクもないのだから純粋に楽しめるだろう。こういう催しは凄く良いな、とても面白い上に気楽に参加できるのだから。

 

 見つけることが難しいQRコードを探して生徒たちが船内を動き回ることになる訳だ。ただしどのQRコードが大きな報酬を貰えるかはわからない。

 

 苦労して発見することが難しい場所にあるQRコードを見つけてもちょっとしか報酬が貰えなかったり、或いは凄く目立つ場所にあるQRコードが思っていた以上に高い報酬であったりと、推理力や決断力が求められたりする。

 

 こういう催しを用意できるのは南雲先輩の良い所であると純粋に思う。まぁあの人的には少しでも独占できるポイントを増やしたいと言う思惑もあるんだろうけど、それ込みでも素晴らしい。

 

 変なストーカー気質を発揮しないで、こういう方面のやる気を全開にしてくれたら素直に尊敬できるんだけどな。

 

 まぁ難しいか、本当に残念である。

 

「そうだ鈴音さん、無人島試験の報酬だけど、全部クラス貯金に回すのかい?」

 

 生徒会室から出てQRコードが記された紙を張り付ける下準備の始まりである。ただずっと黙々と話していてもアレなので色々と相談しておこうと思った次第だ。

 

 周囲に生徒がいないことを確認して、ベンチを僅かに動かしてQRコードを裏側に張り付けて元の位置に戻す。その途中でしっかりと読み取れるかどうかもスマホでチェックしておく。

 

 レクリエーションの準備とはつまりこれの繰り返し、中には力仕事も必要な場合もあるのでやっぱり俺はこっちの仕事の方が良いんだろう。

 

 次は自販機の裏かな、そちらも力仕事である。

 

「全てをクラス貯金にするつもりはないわね。50パーセント圏内の報酬に関してはクラスメイトたちの自由にさせるつもりよ。何もかもを貯金するというのもね」

 

「そりゃそうか、夏休みだもんな」

 

 鈴音さんは椅子の裏にQRコードが記された紙を張り付けている。探せば簡単に見つけられるけど、日常生活の中でまずそこにQRコードがあるとは思わないだろう場所だ。

 

 因みに、これらは適当に張り付けている訳ではなく、事前に見つける難易度や読み取った報酬などの違いをしっかりと調整して場所が指定されているものである。あのUSBに入っていたデータは全て俺たちのスマホに移してあるので確認しながらの作業だ。

 

 この船の至る所にこうして張り付ける訳だから、そりゃ時間もかかる。今日一日でやりきるのは不可能だな、しかも人手不足だし早めにアルバイトを雇うとしよう。

 

「便乗カードの報酬で1000万ほどのポイントが入って来るのだから、そちらは全てクラス貯金に回すつもりだけれどね」

 

「あぁ、便乗カードもあったか……ん、今ってどれくらいの貯金があるんだっけ?」

 

 今、クラス貯金に関してはリーダーの鈴音さんに任せている状況である。その為細かい数字まで把握はしていない。

 

「今回の報酬も合わせれば3000万と少しかしら」

 

「おぉ、結構な額だね」

 

 毎月Aクラスから振り込まれていることになっているポイントに関しては俺が補填しているので、今は表向きは継続されていることになっている。そのポイントに加えて毎月クラスメイトから集めているプライベートポイント、そして今回の便乗カードによる大量獲得を合わせればかなりの大金となる。

 

 3000万か、クラス皆で貯めた額と考えれば、なんだか額面以上に貴重に感じる数字である。

 

「資金に関してはかなり余裕が出てきたわね、今回みたいな試験が何度もあれば良いのだけれど」

 

「あったとしてもそう上手くはいかないさ。正直、今回の無人島試験の結果は出来過ぎたと思う」

 

 便乗カードによる報酬だって俺が一位にならなければ得られなかったものだ。それこそ一歩間違えれば全て無駄になっていたことだって考えられる。

 

 また同じように莫大なポイントを得られる試験があったとしても、同じように甘い蜜だけを舐めれるとは思えないしな。

 

 生徒がいないことを確認しながら自販機を動かしてその裏側に紙を張り付ける。果たしてここまでやってQRコードを探す生徒はいるのだろうか? 普通の思考をしていたら自動販売機を動かすと言う発想にならないと思うんだけど。

 

 しかしこのQRコードに関しては難易度が高いことから結構高額のポイントが貰えたりする。挑戦する人は頑張って欲しいと思う。ナットで固定された自動販売機をどう動かすのかという話にもなるけど。

 

「大丈夫よ、またクラスの力を集結すれば結果も伴うわ」

 

「そうあれるように努力するしかないか」

 

「それしかないでしょうね」

 

 食事時を終わったことで静かになって人気も少ない食堂にもQRコードを張り付けて行くことになる。スマホで場所を確認しながら色々とだ。

 

 本当に気楽なレクリエーションなので楽しんでもらえれば幸いである。俺たちは参加することはできないけど、運営側の楽しみもまたこれはこれで良いのかもしれない。

 

 最初は生徒会にそこまで興味が無かったのだけれど、こうして活動してみると何だかんだで忙しくも楽しい。これもまた青春か。

 

「一之瀬さんに任せた審議は大丈夫かしら」

 

「俺たちよりも生徒会の経験は豊富なんだ、任せて正解だと思うよ」

 

 幸いにも一年の時と違って今回は中立的立場である。帆波さんが訴えられている訳ではなく、あくまで生徒会役員として出席するだけだ、何も問題なんてない。

 

 問題なのは寧ろ一年生たちである。龍園と坂柳さんが連名で訴えるとか泣きたくなるだろう。隙を見せたら最後必ず食らいついてくる二人である。

 

 まだ一年生なのだからもう少し手加減して上げて欲しい。帆波さんも難しいバランス感覚を求められるかもしれないな。

 

「こっちはこっちで大変なんだ、まだレクリエーションの開催まで時間はあるけど、しっかりと進めて行こう」

 

「まぁ、部屋にいても休むだけだし、こうして働いているのも悪くないわ」

 

「せっかくの豪華客船なんだ。満喫すれば良いじゃないか」

 

「ワザと言っているのかしら?」

 

 そう言えば去年の豪華客船でも鈴音さんはあまり積極的に施設を利用していなかったな。贅沢すれば良いと思うけど、そもそも一人で利用するほど積極的ではないのかもしれない。

 

 豪勢に遊ぶよりも読書や勉強に集中する人なので、この船の中でもそれは変わらないらしい。

 

「船の施設を利用して遊ぶよりも、こうしている方がずっと気分転換になるわよ」

 

「そうなのかい?」

 

「えぇ、貴方といると落ち着くもの」

 

 クスクスと笑ってそんなことを言ってくる。偶に素面で恥ずかしいことを言うので困るな。

 

 少し揶揄うような雰囲気のまま、鈴音さんは食堂にある消火器の裏側にQRコードを張り付けるのだった。

 

 こちらはこちらで天井近くまでジャンプしてシャンデリアの上に紙を張り付けた。さっきから思うけどこんな場所にあるQRコードをどうやって読み取れと言うのだろうか。

 

「ふふ、困惑している天武くんは珍しいわね」

 

 あの膝枕と言い、ここ最近の鈴音さんは俺をよく揶揄ってくるので困る。そして何だかんだで流されている俺もちょっとどうかと思う。

 

 まぁ気安い関係になれたことは良い傾向だろう。入学当初を思えばな。

 

「でもそうね、貴方がそこまで言うのなら暇を見つけて少し気晴らししても良いかもしれない」

 

「せっかくの夏休みで豪華客船なんだ、それで良いと思うよ」

 

「でも一人で過ごすのもね」

 

 またクスリと笑って揶揄うような表情になる。仕方がないのでエスコートをするとしよう。そんな暇が生徒会にあればの話ではあるけれども。

 

「なら一緒に遊ぼうか」

 

「誠意が足りないんじゃないかしら」

 

「どうかお願いします、一緒に遊んでください」

 

「良いでしょう、そこまで言うのならね」

 

 何故か俺が下手に出る感じになってしまった。いやまぁ、良いんだけどさ。

 

「どこでデートしようか?」

 

「そ、その表現は止めなさい」

 

 また耳を引っ張られそうな気配を感じたので、俺は慌てて飛び上がってまたもや食堂の天井からぶら下がっているシャンデリアの上に紙を張り付けるのだった。

 

「何か希望はあるかな」

 

「そう言われると、とても困るのよ」

 

 インドアな人なのでこればかりはどうしようもないか。そして実は俺もこの豪華客船でどうしてもやりたいことは無かったりする。

 

 ならここは去年と同様で問題ないだろう。

 

「図書室にでも行くかい? おすすめの本を教えてよ」

 

「そう言えば、去年も似たような感じだったわね」

 

 豪華客船に来て読書というのもアレなのかもしれないけど、学校の図書室には無い蔵書も多いので退屈はしない筈だ。それに読書デートと言うのは青春っぽいので満足である。

 

「天武くんはあまり読書はしない……ということも無いけれど、読んでいるのは哲学書ばかりよね」

 

「いや、参考書だったり小説も読んでるけど、あぁでもそこまで頻度は多くないか」

 

 俺が読む本の大半は師匠が書いた奴ばかりである、しかも大昔の奴ばかり。そして師匠は哲学書ばかり書いているので自然とそういった分野を読むことが多くなる訳だな。

 

「そんな訳だから新規開拓もしたくはある。鈴音さんのおすすめを教えて欲しい」

 

「わかったわ」

 

「ただ、生徒会役員に休みがあればの話だけどさ」

 

「アルバイトの件、本格的に進めた方が良いかもしれないわ」

 

「寧ろアルバイトと言わずに新しい生徒会役員をこれを機に集める方向性でも問題はないよ」

 

「生徒会長も、副会長も、それに八神くんも復帰がいつになるかわからないものね」

 

「最悪、アルバイトが見つからない場合は先生たちに協力して貰うから深刻になるほどではないんだけどね」

 

 人手不足は本当に深刻であった。南雲先輩と八神を蹴り落とした奴にはちょっと文句を言いたいほどである。

 

 生徒会役員と教師でしっかりと進めていくしかないだろう。

 

 食堂から船のデッキに移動して、こういった船には付き物である緊急避難用の小舟を持ち上げてその裏にQRコードを張り付けながら俺はそんなことを思うのだった。

 

 夏休みだというのに、生徒会役員は大忙しである。

 

 

 

 

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