ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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人員勧誘

 

 

 

 

 

 

 

 審議も終わってレクリエーションの準備もある程度は進められたと思う。ただやはり人手不足感は拭えない。朝起きたら豪華客船だというのに生徒会の仕事をどう進めるのかということをまず考えてしまう辺り、俺も結構な仕事人間なのかもしれない。

 

 やっぱり人手不足は深刻である。三年生は実質引退、一年の八神は重傷で復帰が不透明、生徒会の活動に参加できたとしても体育祭が終わったくらいになると思われる。

 

 なので現状は二年生三人で回すしかない……まぁ難しいだろうということで新しい人員を探す必要がある訳である。

 

 朝起きる、そして考えるのは生徒会のことなのだから、学生らしくない生活をしているのかもしれないな。

 

「波瑠加がプールでもどうかと言っていたんだが、どうする?」

 

 顔を洗って今日も仕事だとうんざりした気分になりながらもOAAを確認していると、同部屋の清隆がそんなことを言って来た。

 

「プールかぁ……良いね、夏っぽくて」

 

「そんな捨てられた犬みたいな顔をするのは止めてくれ、こっちとしても忙しそうなお前を置いて遊ぶのも申し訳ないと思っていたんだ」

 

「気遣いありがとう……でも忙しいんだよね」

 

「難しいか」

 

「顔を出せそうならちょっと寄らせてもらうよ」

 

「そうしてくれ、偶にはゆっくり休むのも重要だぞ。夏休みなんだからな」

 

 清隆にも気遣われるくらいに俺は忙しそうに見えるらしい。それもこれも八神と南雲先輩を重傷に追いやった誰かが悪いのだろう。

 

 夏休みを満喫したい気持ちもあるが生徒会の仕事を放置もできないので動くしかない。なのでまず確認するのはOAAである。そこの全体チャットに生徒会業務を手伝ってくれるアルバイトの募集をかけるのだ。

 

 問題が無いようならばこの募集で集まったアルバイトの中から新しい生徒会役員を探すという流れである……来ればの話ではあるが。

 

 ただアルバイトに参加した生徒はこの後予定されているレクリエーションに参加できなくなるから、大金を逃すことにもなってしまう。そこを納得してくれれば良いんだけどね。

 

 プールに行くらしい清隆を見送って俺も部屋を出る。今日もまた生徒たちの視線を避けながらQRコードを張り付ける作業であった。

 

 事前準備に大きく時間を割いていたので進捗自体は問題ない。寧ろ問題なのはレクリエーション本番の受付である。そこにアルバイトたちを投入したい考えである。不正防止の観点からもしっかりと申告させたいので人手がいるからな。

 

 宝探しに参加した大勢の生徒の申告を捌く為にも人手がいる訳だ。

 

 OAAの全体チャットでの勧誘で釣り上げられれば良し、それがダメでも足での勧誘も大切だろうな。

 

 鈴音さんや一之瀬さんも勧誘に励むとのことなので、俺も頑張るとしよう。そんな訳でQRコードの貼り付けと勧誘を同時並行で進めていくことになるのだった。

 

 生徒の視線が多いので昼間は大っぴらに張り付けることはできないので、隙を見つけて一枚一枚丁寧にだな。もし本番までの全ての作業が終わらせられない場合は前日の深夜に駆り出されると思うので安眠の為にも早めに終わらせたいものである。

 

 とりあえずまだ早朝なので食堂だったりデッキにあるオープンスペースにはチラホラ人がいるだろうと思ったので顔を出してみると、そこには見知った顔が発見できた。

 

 穏やかな海風を感じられる船のデッキでは、そこに用意された椅子や机を使って外で朝食を楽しむ者がいる。後輩女子も当然ながら発見できる。

 

 なので声をかける。これもまた勧誘であった。

 

「んぁ? どうしたんッスかご主人」

 

「たまたま見つけたから声をかけたんだ」

 

 デッキの上にあるオープンカフェで朝食をしていたのは九号、そして天沢さんである。何だかんだでこうして一緒にいるのだから仲良くなれたらしい。ちょっと色々とアレな部分にある九号だけでちゃんと友達ができたようで俺は安心している。

 

 困惑することも多いだろうけど、天沢さんにはどうか九号を見捨てないであげてほしい。

 

「天沢さんも久しぶりだね。あ、ここ座っていいかな?」

 

「やっほ、どうぞどうぞ、座っちゃってよ」

 

 許しも得たので二人が使っていた机を俺も利用させて貰おう。ついでなのでここで朝食を取る為にカフェの店員にモーニングセットを注文した。

 

 このカフェはデッキにあるので屋内とは違って随分と開放的である。海風が心地よく日差しを遮るパラソルもそれぞれの机に設置されているので過ごしやすくもあるので朝食を楽しむなら持って来いだろうな。

 

「天沢さん、怪我は大丈夫かい?」

 

「ん~、まぁね、あたしが弱かったからこうなったんだし、そこに文句はありませんよぉ」

 

「一夏ちゃんはクソ雑魚ッスからね、腕一本で済んだのは幸運ッスよ」

 

 サンドイッチを食べながらそんなことを言う九号に、天沢さんはピクリと頬を動かす。

 

 そして彼女はギプスが付いていない方の健在な腕で朝食に使っていたフォークを逆手に持つと、そのまま躊躇なく九号の顔面めがけて振り抜く。

 

「おっと」

 

 だが九号はそんな凶行に瞬き一つせず、平然と天沢さんの手首を掴んで止めてしまうのだった。フォークは眼球に届くことはない。

 

「危ないじゃないッスか、一夏ちゃんはもうちょっと常識を知るべきッス。ここはフォークじゃなくて最低でも手榴弾を使う所でやがります」

 

 違うそうじゃない、君も常識的に考えなさい……天沢さんが使うべきだったのは戦車だろうに。常識的に考えればそうなるぞ。

 

「仲が良さそうで安心したよ。天沢さん、この子はかなり常識外れで世間知らずな所はあるけれど、根はとても良い子……とは口が裂けても言えないが、道理は弁えている。どうかこれからも仲良くしてあげて欲しい」

 

「えぇ……やった私が言うのもなんですけど、いきなりフォークで刺そうとして出て来る言葉がそれって」

 

 何故か天沢さんには呆れられてしまうのだった。

 

「ていうかせぇんぱい、もしかしてあたしのこと、殆どわかってたりします?」

 

「君のことか……ホワイトルーム関係者であったり、月城さんからの刺客であることなら理解しているよ」

 

「ふぅん、因みにですけどいつから気が付いてたんですか?」

 

「違和感を覚えたのは入学式の時だ」

 

「最初も最初じゃないですか……あ~あ、なら全部無意味だったってことかぁ」

 

「八神に関しても疑っていた、後はもう何人かも候補だったかな」

 

「……拓也のことも把握してるんだ」

 

「月城さんが教えてくれたからね」

 

「なにやってんのよあの人、あたしらのバックアップなのにさ」

 

「責めないであげてくれ、月城さん的には仕方のないことだったからさ」

 

「拷問でもしたんですか?」

 

「いや、吐かないと死んでただろうから」

 

 具体的には清隆か俺が海に沈めて放置していたかもしれない。こちらの本気も伝わっていたのか月城さんも口が随分と軽かったな。

 

「そんな訳で俺は君の事情や背景は理解しているよ」

 

「それを知ったからどうするつもりなんですか?」

 

「別にどうとも、君がどこの誰でどんな人間であるかは最初から興味はない。こちらの脅威にならないのならね」

 

「もし脅威になったら?」

 

「さぁ、その時に考えるよ……まぁそうなったとしてもホワイトルーム生であるかどうかはあまり関係もない」

 

 俺にとってはホワイトルーム生であるかどうかは大した意味はない。何もしないのなら普通にそれで良いとさえ思っている。大人の事情に振り回されるよりも学園生活を謳歌して貰いたいとさえ考えていた。

 

「まぁ、君たちを監督している月城さんはもう学園長を辞めさせられるんだ、いっそここから先は開き直って高校生活を楽しむと良いよ」

 

「そんな簡単な話でもないんだけどなぁ」

 

「難しく考える必要はない、天沢さんにはもう友達だっているんだ。きっとあと一歩の話だと思う」

 

 天沢さんの視線が同じ席に着く九号に向けられる。するともの凄く複雑そうな顔になってしまう。友達と認めたくないとでも言いたそうである。

 

「んもう、恥ずかしがる必要はないでやがります。ウチらはもう親友じゃないッスか」

 

「銀子ちゃん知ってるかなぁ、親友は腕を折ったりしないんだよ」

 

「それは一夏ちゃんがクソ雑魚だからそうなるんッスよ」

 

 また九号が煽るようなようなことを言うので、天沢さんはイラッとした顔をしてまたもやフォークで刺そうとするけど、それはフェイントで本命は机の下からの脛への蹴りだったらしい。

 

 だがそれも見切られており、九号は天沢さんの足先を踏みつけたようだ。

 

「ちょっとぉ、痛いんだけど」

 

「ざ~こ、一夏ちゃんのざ~こ」

 

「このッ、こら、動くなッ」

 

 机の下で次々と足を動かして踏みつけ合おうとしているようだ。仲が良いな……うん、そういうことにしておこう。

 

「そうだ、二人にちょっと相談があるんだけど、生徒会に興味はないかな?」

 

「生徒会ッスか?」

 

「あぁ、三年生が大怪我で事実上引退することになって、一年の八神も同様だ。新しく人を集めようという話になって声をかけているんだ。天沢さんもどうだい?」

 

「え~あたしですかぁ、それよりも今はやりたいことがあるんですよねぇ」

 

 未だに机の下では足の踏みつけ合いが繰り返されている。だが九号の瞬発力と先読みには勝てないのか、天沢さんの爪先はずっと先手を取られているようだ……いや、足だけどさ。

 

「何かやりたいことがあるのならそれで良い。清隆もそうだけど、そういうものを見つけるのは大切だ……俺はホワイトルームのことは良く知らないし、軽々しく語ることもできないけれど、この学園にいる間は一人の生徒として楽しんで貰いたいからさ」

 

「それは脅威にならなかったらって話ですよね?」

 

「ホワイトルーム関係なくそれは当たり前のことだ……まぁ月城さんも辞めさせられるんだ、開き直って楽しむくらいで良いと思う。天沢さんは帰りたい気持ちはあるのかい?」

 

「どうだろ、割とあたしは自由に生きたいかなって……でも実際の所難しいかも。そもそも卒業してからどうするんだって話でもあるしねぇ」

 

「う~ん、それは目標の話なのか、それとも戸籍とかそういう話かな」

 

「どっちもですよ」

 

 ホワイトルーム生が戸籍だったりその手の権利を持っているのかどうかは怪しいか。もしかしたら商品としてある程度の価値を示せば与えられるのかもしれないけど、脱走者みたいな扱いだとよくわからない。

 

「そもそも天沢さんはご両親とか知っているのかい?」

 

「いや、知りませんよ。あたしってほら、試験管ベイビーって奴だし」

 

「そうか、だとすると卒業してから後見人のような人を見つけるしかなさそうだけど……どうしたもんかな」

 

「いや、そりゃそうですけど……笹凪先輩、引かないんですか?」

 

「試験管がどうのという話ならそこまではね……別に珍しい話でもないし」

 

「あぁ、確かに、割と聞く話ッスよね。超人量産計画とか、新人類育成計画とか、サイボネティック計画とか、その手の施設は何度か潰したこともあるでやがります」

 

「あったなぁ、とある研究施設で皆同じ顔した兵士がいたりとか」

 

「あれは大変だったッスね……皆腹の中に爆薬を隠してて、一人倒したら誘爆したッス」

 

「後はあれだ、十一号のサイボーグ化事件とか」

 

「あのイカレ科学者ッスか、懐かしいッスね」

 

 九号と一緒に潰した研究所の話である。今思い出しても嫌な仕事だったと思う。

 

 大きなガラス管の中に同じ顔をした人間が大量に並べられている光景はカオスだったな。しかも一人一人が滅茶苦茶強かった。

 

 後は全身を機械化するのが趣味な人の暴走だったりと大変なことばかりである。

 

 そういった施設は意外にも多かったりする、なのでホワイトルームの存在もそこまで驚かなかったと今になって思い出す。

 

「えぇ~……怖ッ」

 

 天沢さんも俺たちの話を聞いてドン引きした顔になっている。世の中、薄暗くてカオスな一面は何もホワイトルームだけではないということであり、天才を教育で作り出す施設なんて可愛いもんだと思えるくらいには滅茶苦茶な奴らが大勢いるのだ。

 

 師匠とかその筆頭だ、あの人は本当に滅茶苦茶で鬼みたいな人である。おかげで俺は機械化もしてないのに何故か改造人間になってしまったんだからな。

 

 九号のご両親……つまりは彼女の師匠も大概だし、世の中まともな大人は案外少なかったりするようだ。悲しいことに。

 

「まぁ困ったことがあれば頼ってよ。もし戸籍が見つからないとかになれば、こっちで用意するから」

 

「え、そんなことできるんですか」

 

「殴られたくなかったら戸籍を適当に用意してくれって政府に言えば、多分」

 

 俺じゃなくても九号がそう言えばそれくらいは政府もやってくれる。超人を敵に回すのと戸籍を一つ作るのと、どっちが楽かという話にもあるのだから。

 

 それくらいのことは押し通せる。政府だって国会議事堂が瓦礫の山になるくらいなら笑顔で用意してくれるだろう。

 

「どうしてそこまでしてくれるんですかぁ? 言ってしまえば敵な訳なんですよね」

 

「俺は別にホワイトルームと敵対している訳じゃないよ。月城さんは俺に実害を出したから処理したけど、別に天沢さんに何かをされた訳でもないからね」

 

「ふぅん……なら実害を出したらどうなるのかなって」

 

「そりゃ対応するよ、月城さんと同じよう」

 

 ホワイトルームとか関係なくそうする。なので敵対するようなことはして欲しくはない。

 

 勿論、八神だって同様だ。現在進行形でこっちに干渉している彼だけど、余計なことをせずに平和な学園生活を送ってくれれば俺としては何の文句もない。

 

 まぁ無理なんだろう。月城さんが処理された段階で動きを止めるのではなく寧ろ積極的になったんだから、戦いは避けられないのかもしれないな。

 

「なんであれだ、自由に生きたいというのならばそれで良いと思う。君がどうであれ俺にとっては後輩の一人だし、生徒会役員としてできることをしよう」

 

「良い人ですね、笹凪先輩は……何の利益もないのに」

 

「利益の話は最初からしていない……いや、そうだな、俺にとっては重要なことなんだと思う。誰かが困っているのならば手を差し出すくらいのことはしないとね。俺が目指しているのは天下無双の漢で、正義の味方だ。俺は俺の為に、誰かの力になるのさ」

 

 すると天沢さんは興味深そうな、それでいて呆れたような顔になって、けれど関心を寄せられるような雰囲気もある複雑な表情を見せる。

 

「天沢さんも遠慮なく頼ってくれて構わない……俺は俺の為に君の力になろう」

 

「……」

 

 こちらの真意や内心を探るように見つめて来る天沢さんだが、そんな様子は数秒後に吹っ飛ぶことになる。机の下で九号が彼女の爪先に踵を落としたからだ。

 

「いったあぁああッ!?」

 

「ウチの種馬ッスよ。色目つかうんなら順番を守れでやがります」

 

「誰が種馬だ」

 

 相変わらずの九号節に苦笑いを浮かべるしかなかった。目の前で起こるキャットファイトを眺めながら注文した朝食を平らげると、手を合わせてから席を立つ。

 

「生徒会の件、考えておいてよ。ダメならダメで構わないからさ」

 

 机の上でも下でも様々な駆け引きを繰り返す二人にそう言い残してから、俺はついでとばかりにQRコードを座っていた椅子の裏側にこっそりと張り付けるのだった。

 

 生徒会は今日も忙しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

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