ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

175 / 227
忙しい中でも語らいを忘れない

 

 

 

 

 

 

 九号と天沢さんと一緒に朝食を終えた俺は生徒会の業務を遂行していくことになる。賑わい楽しむ生徒たちに気がつかれないようにQRコードを張り付けて行く作業だな。

 

 わかりやすい場所は鈴音さんがやってくれているそうなので、俺は主に難しい場所担当であった。自動販売機を動かしてその裏側に張り付けたり、シャンデリアの上であったりとこれまで張り付けていたが、今度は廊下の天井にある通気口の蓋を開けてそこに張り付けることになる。

 

 こんな場所にあるQRコードを誰が見つけるんだと何度も思うような場所が多いけど、何となく九号ならあっさり見つけそうだなと考えることもできた。最高報酬である100万プライベートポイントはもしかしたらあの子が見つけるかもしれない。

 

 それならそれで良い、レクリエーションは特別試験ではないし参加に関しても完全に自由、しかも運勝負でもあるので本当に気楽な催しだ。誰が勝とうとも恨みっこなしだ。

 

 南雲先輩の発案だったけどこういう物は多ければ多い程良い。殺伐としたこの学校では特にそう感じるのだから、貴重で大切な時間なんだろう。

 

 堀北先輩の世代ではこんなレクリエーションは無かったとのことなので、南雲先輩らしさが出ていることになる……まぁその本人が裏方すら参加できず引退してしまったのは残念ではあるが。

 

 南雲先輩は大丈夫だろうかと思い悩むのだが、傍らには朝比奈先輩がいるので大きな心配はないだろうか。

 

 もしかしたらあの人は体育祭にすら参加できないかもしれないけど、良い機会なのでもう少し自分の近くにいる人と交流した方が良いのかもしれない。後、地盤固めも大切だけど。

 

 俺が心配するようなことでもないか、こっちはこっちで大変なのだから。

 

 OAAを開いて今朝告知したアルバイトの件を全体チャットで確認してみるのだが、やはりこれといった生徒は名乗り出ない。そもそも生徒会に興味がある生徒は四月の段階で動き出しているだろうし、今更やる気を出す者は少ないらしい。

 

 そうなると有望そうな生徒に一人一人声をかけて口説いていくしかないのだが、それはゴリラと思われている俺よりも帆波さんがやったほうがまだ可能性が高いだろう。どうにも無人島試験が終わってからは三年生の集団を叩きのめしたことが全校生徒に広まっているらしく、いよいよ一年生からも恐れ混じりの視線を向けられることが多くなったのだ。

 

 曰く、三年生を悉く叩き潰して笑いながら手足を折ったとか、南雲先輩を捕まえて崖の上から蹴り落としたとか、桐山先輩を小枝のように振り回したとか、あることないこと色々混ざって噂されているのは間違いない。

 

 今も、豪華客船の廊下を歩いていた一年生が、俺を見た瞬間に飛びのいて壁に張り付くようにして道を譲って来るし、前方から歩いて来た三年生が悲鳴を上げて逃げ出したりもしている。

 

 一年生はともかく三年生は幾ら何でも失礼な反応ではなかろうか、そちらから襲い掛かって来たというのに怪物扱いされるだなんて。

 

 誤解を解こうにも三年生の中ではもう関わってはいけない相手だという考えや価値観が広がっているらしいので手遅れなんだろうな。

 

 今度こそ勝てるとすら思われていないのは我ながらやり過ぎたのかもしれない。もう少し加減するべきだったか。

 

 一年生からも三年生からも異常に恐れられて道を譲られる生活はちょっとやり辛いんだけどな。

 

 居心地の悪さを表すように憮然としながら、隙を見つけてQRコードを張り付けていく作業を繰り返すこと一時間ほど、このペースならば本番まで問題なく作業を終わらせられるだろうなと希望が見えてきた頃だ、俺の視界に一人の一年生を発見できたのは。

 

 声をかけようと思っていた一人であったこと、そして四月頃に行われた一年生とペアを組んで行うテストの試験で全体のOAAを確認していたことで、一方的にではあるが知っていたこともあり、名前と能力がすぐさま頭に思い浮かぶ。

 

 石上京、一年Aクラスの生徒であり、高い学力を持っている生徒であった。

 

 彼は友人と一緒に遊戯室で過ごしているようだ。丁度、去年の俺と清隆のようにビリヤードを楽しんでいるのが見える。

 

 この遊戯室にもQRコードを張り付ける為に訪れたのだが、せっかくなので声をかけておこう。一年生を中心に生徒会に誘いたいからな。

 

「すまない、ちょっと構わないか」

 

「あ、やべ……ち、違います、お、俺たちは何もしてませんッ」

 

「ほ、本当ですッ……本当なんですッ、許してください!!」

 

「メカゴリラとか思ってません!!」

 

 ビリヤードに興じていた一年生たちは土下座でもするかのような勢いで頭を下げて許しを請うてくる……俺が恐れられていることに加えて、龍園がやりたい放題やったことで二年生全体が恐怖の対象として見られているからこその行動だ。

 

 つまり龍園が悪い、俺の責任ではないと断言させて貰いたい。

 

「落ち着いて、別にケチを付けに来た訳じゃない。そして君たちを叱りに来た訳でもない。石上に少し話があってね、問題が無いようなら時間を頂戴したい」

 

 そんな提案をすると一年生たちの視線が石上に集まった。

 

「どういった話ですか、笹凪先輩」

 

「俺のことは知っているんだね」

 

「入学した直後の試験で学力の高い二年生の名前と顔は大体覚えました……それに、いえ、なんでもありません」

 

 気になる言い方である。まるで試験以外の何かで俺を知る機会があったかのようにも聞こえる。

 

 石上はこちらを注意深く観察しながらも、クラスメイトに断りを入れてから話をさせてくれるのだった。

 

 少し離れた場所まで移動する。遊戯室の端っこにあるベンチまで。

 

 石上のクラスメイトはこちらを心配そうに見つめている辺り、二年生全体の評価が窺えるな。生徒会は生徒に頼られる存在でなければダメだというのに、悲しいことだった。

 

「話というのはなんですか」

 

「長々と遠回りしても仕方がないから単純に伝えるけど、実は生徒会は人手不足でね、新しく一年生から何人か勧誘しようという話になっている。それで君に声をかけた」

 

「なるほど……どうして俺を?」

 

「偶々ここを訪れたら君がいたから、OAAで高い能力を持っていることがわかっていたから、クラスメイトの様子を見ると慕われているように思えたから……色々と理由はあるけれど、一番の理由は君の瞳かな」

 

「瞳?」

 

「あぁ、恐れるでもなく、侮るでもなく、ましてや遜るでもなく、良い意味でも悪い意味でも強い意思が宿った瞳だと思った。それが決定打になったから声をかけたんだよ」

 

「……」

 

 こちらを観察する瞳と真っすぐ見つめ合う。結び合った視線はそのまま暫く続き、最終的には石上の方から視線を逸らされてしまった。

 

「それでどうだろうか、生徒会に興味はないかな?」

 

「俺は参加するつもりはありません」

 

「ん、なら仕方がないか」

 

「あっさり諦めるんですね」

 

「瞳を見ればわかる。謙遜している訳でも、恥ずかしがっている感じでもない、本当に興味が無いんだろう」

 

 残念ではあるが、こればかりはどうしようもない。強制するようなことでもないからな。

 

「時間を取らせてしまったね、もう行っても良いよ。クラスメイトも君を心配しているようだ」

 

「では、俺はこれで」

 

 踵を返して友人が待つビリヤード台まで帰っていく石上だが、その途中で足を止めてこちらに振り返る。良い意味でも悪い意味でも強い意思を宿した瞳で真っすぐ見つめられる。

 

「またどこかで」

 

「あぁ、君も何か困ったことがあれば遠慮なく生徒会を訪ねてくれて構わないからね」

 

「意外ですね、二年生は頭のおかしい人ばかりだという噂ですけど」

 

「誠に遺憾ながら否定することができない。ただそういった人たちばかりではないということだ」

 

 無人島試験の結果を見る限り、石上の評価は何も間違いではない。普通は他学年の大半を物理的に退場させたりはしないからな。

 

「せっかくなので一つ訊いても構いませんか?」

 

「答えられる範囲でなら」

 

「笹凪先輩は自分より強い人と戦ったことはありますか?」

 

「あぁ、あるよ」

 

「負けたこともありますか」

 

「当然、数え切れないほどある」

 

 師匠とか師匠とか師匠とかな、俺のこれまでの人生はずっとあの人に負けるだけの人生であったと思う。

 

 師匠曰く、鋼は叩いて不純物を削ぎ落とすのだそうだ。

 

「それも意外ですね」

 

「別におかしなことでもない。俺は最強にも最優にも程遠いからな」

 

「謙遜も過ぎれば嫌味になりますよ……それではまたどこかで」

 

 それだけ言い残して石上はクラスメイトたちがいる場所へと帰っていくのだった。

 

 別に謙遜している訳じゃないんだが……俺より強い人なんて世の中沢山いるし実際に何度か戦って殺されかけたこともあるからこれは真実だ。

 

 そして同じように俺より賢い人もまた世の中には沢山いる。知識量では清隆の足元にも及ばないだろうし、師匠だってそうだ、超人連中も明らかに普通の人と頭の作りが違う奴もいる。なので謙遜ではなく純然たる事実である。

 

 しかしあれだ、彼の中でなんの納得があったのかはわからないが、やはり石上の中では俺に関する情報があったようだな。学校の外で何かを知る機会があったのだろうか。

 

 肉体的には普通の高校生そのものなのでホワイトルーム生とは考えられないが……どうだろうな。

 

 考えても仕方がないことか、敵対するならばその時に対応を考えるとしよう。

 

 俺は遊戯室に置いてある自動販売機で飲み物を購入すると、取り出し口から缶を取り出す。ついでにその裏側にQRコードを張り付けてからその場を後にするのだった。

 

 スマホにダウンロードされた船内のマップと、QRコードの張り付け予定場所を確認して問題がないこともチェックしておく、これで遊戯室にもう用は無くなる。

 

 石上には振られてしまったが、まだ候補者は他にもいるので問題はない、問題はないのだが……男子がいなくなるのはちょっと困るな。

 

 いや、女子ばかりになりそうだからちょっと気が休まらないというのが生徒会室にはある。男子一人だけだと色々とアレだからな。一人か二人くらい新しい生徒会役員は男子であって欲しかったのだが、初手から躓いてしまったか。

 

 八神の復帰も不透明なので一年生からは三人くらい生徒会に勧誘するつもりなのだが、それら全てが女子となるといよいよ肩身が狭くなる。

 

 無理を押してでも八神を復帰させるか、石上を無理やりにでも参加させるか、新しい男子生徒を何としてでも捕まえるか、どうすべきだろうな。

 

 どうしたもんかと後頭部をガリガリ掻いて船内を歩いていると、豪華客船の中にあるプライベートプールが近くにあることに気が付いた。

 

「確か皆が遊んでいるんだったか」

 

 清隆たちはプールで遊んでいる筈である。羨ましいことだと考えていると、そう言えば俺も誘われていたことを思い出す。

 

 受付でプライベートプールを利用するメンバーの名前を確認してみると、そこにはしっかりと俺の名前も残されていた。どうやら俺が来ることも想定していたようだ。ありがたい話である。

 

 せっかくなので顔を出そうか、夏休みなのだから息抜きも必要だった。

 

 プライベートプールに顔を出すとそこではグループのメンバーが過ごしているのが確認できる。夏らしい光景でとても良いと思う。

 

「あ、テンテン、顔出せたんだ」

 

「やぁ、ちょっと暇を作れてね。せっかくだから顔を出したんだ」

 

 中に入るとすぐに波瑠加さんがこちらを見つけてくれた。プールの水を掻き分けてこちらに近づいてくると、他のメンバーも声をかけてくる。

 

「顔を出せたのか、良かった」

 

「せっかく誘ってくれたんだ、何とか暇を見つけたよ。明人たちはバレーをしてたのか」

 

「少し体を動かそうと思ったんだ」

 

「……体力的には結構キツイがな」

 

 明人と啓誠もプールバレーを中断してこちらに近寄って来る。啓誠は相変わらずちょっとバテているようだ。プールは思っている以上に体力を消耗するからな。

 

「天武くん、生徒会は大丈夫なの?」

 

「仕事中ではあるけど、少しくらいは息抜きしたくてね」

 

「うん、良いと思う。天武くんは、いつも色々なことを頑張ってるから」

 

 愛里さんの気遣いがとても嬉しい……というか俺はそこまで誰かに心配される生活をしているのだろうか。

 

「どうする? テンテンも来たし仕切り直そうか?」

 

「波瑠加、負けた方がジュースを奢る約束だろう。天武を巻き込んで挽回を狙うんじゃない」

 

「む、バレたか」

 

 どうやらバレーの勝敗で罰ゲームがあるらしい。今の感じだと清隆チームが優勢なのだろうか。

 

「悪いね、本当に顔だけ出しに来ただけなんだ、すぐ戻るから皆で楽しんでよ。俺は雰囲気だけで割と気楽になれるからさ」

 

 そんな訳でズボンを捲り上げて足だけ露出させると、そこだけをプールに浸けてひんやりとした感触を楽しむとしよう。

 

 あまり時間がないので水着に着替えて本格的に遊ぶことはできないが、これくらいは許される筈だ。

 

 皆のバレーを眺めているだけでそれなりに楽しい。清隆が大きくプールから飛び上がってアタックを決めた時は思わず笑ってしまったほどだ。

 

 どうやらジュースを奢る役目は波瑠加さんチームとなったらしい。

 

「はい、テンテンも」

 

「ありがとう。気を使わせちゃったかな」

 

「別に良いって、いつも頑張ってるテンテンにご褒美だよ」

 

「それじゃあ遠慮なく」

 

 受け取ったコーラで喉を潤す。無人島では飲めなかったからつい求めてしまう刺激なんだよね。気づいたら飲みたくなってしまう感覚であった。

 

 明人はまだ体力が余っていたのか、啓誠と一緒にプールを泳いでいる……と言うより、泳ぎを教えているようだ。

 

「ゆきむ~、泳げないことがちょっとコンプレックスなんだってさ」

 

「それで明人に教えて貰っているのか」

 

「後、愛里もね」

 

 そっちは清隆が面倒を見ているようだ。明人と清隆が啓誠と愛里さんの手を支えて泳ぎを教えているらしい。

 

「別に二人ともそこまでカナヅチって感じでもなさそうだけど」

 

「ちょっとくらいはね、でも50メートルを泳ぎ切れるくらいには最低でもなりたいみたい」

 

「あぁ、プールの授業でもそこが一区切りだったか」

 

 息抜きにバレーをしたりしながらも、泳ぎの練習もしているのか。無人島でも勉強をしていたし、ストイックな生活をしているようだ。

 

「ねぇ、きよぽんと愛里、どう思う?」

 

 波瑠加さんはプールから顔を出した状態で、楽しそうに唇を歪めながら清隆と愛里さんを眺めてそんなことを訊いてくる。

 

「ん、前よりも距離が縮まったようにも……見えるかな」

 

「でしょ~、なんかよくわかんないけど、無人島で何かがあったみたいなんだよね」

 

「その何かとは?」

 

「さ~っぱり、でもなんか愛里も吹っ切れたと言うか開き直ったというかさ、前よりも積極的になったように思うんだ~……ほら、水着とかさ」

 

 波瑠加さんと愛里さんが身に着けている水着は、なんというかもの凄く大胆な感じだ。似合っているけど色々な意味で危機感が足りないようにも思えるが……まぁプライベートプールだからな。

 

「確かに艶やかな装いだ。とても似合っているし愛里さんの魅力を際立たせている」

 

 波瑠加さんやグループの影響もあってか、イメチェンだったり勉強に積極的になった愛里さんは今は学年でも注目の的でもあった。以前ならばそういった視線に怯えていたり不安になったりしたのだろうけど、前向きになれるきっかけはとっくに掴んでいたらしい。

 

 上級生や下級生に告白されることも多いとは波瑠加さんのタレコミであったか。

 

「しかしちょっと大胆かな、いや、清隆も意識してるみたいだからこれはこれで」

 

 2人を観察しているとプールに浸けていた足にチョップが振り下ろされた。

 

「じっくり観察しすぎだってば」

 

「あぁ、すまない、無遠慮だった」

 

「邪な感じはしなかったので許す」

 

「ではなぜ叩かれたのだろうか」

 

「ん~、なんとなく? イラッとしたから。それと、私にも何か言うことがあるんじゃない」

 

「そいつはすまなかった……波瑠加さんもよく似合っているよ。美しく艶やかだ、君の魅力を際立たせている」

 

「お、おぉ~……そこまで真っすぐに言われるとそれはそれで困るな」

 

 愛里さんと同じく大胆な水着を身にまとった波瑠加さんだが、こちらの評価に照れてしまったのか、プールの中で身動ぎして肩まで浸かって体を隠してしまった。

 

「ただやっぱり大胆だね、公共の場では自重した方が良いと思う」

 

「そりゃそうでしょ、こんな水着ここでしか着られないって」

 

 プライベートプールだからこそといった所か、後は愛里さんに触発されたのかもしれない。

 

 俺たちの視線は再び清隆たちに向かう。

 

「あの二人、どうなるかな」

 

「なるようになるさ、ただ今の関係を楽しんでいるようにも見えるから、外野がとやかく言うもんでもないよ」

 

 ああ言うのを友達以上恋人未満というのだろうか? 確かに前よりも心理的な距離が近くなったようにも思えるな。

 

「あ~、それはわかるかも。こういう男女グループって色々とアレな所もあるし、関係が壊れるくらいなら今くらいの距離感を楽しむのも良いかもね」

 

 納得したように頷く波瑠加さん。何かしら思う所があるようだ。

 

「あの二人に関してはそれで良いさ」

 

 どうなるかなどわからないが、周りが急かすようなことでもない。なんかいい感じに着地してくれと願うくらいで丁度良いんだろう。

 

「いつかもう一歩踏み込んだ関係になれば祝福すれば良いし、ダメならダメでフォローすれば良い」

 

「愛里ときよぽんに限った話でもないけど、それが一番かもね」

 

 清隆はどうするつもりなんだろうな。彼が誰かと恋人になるにしても片付けなければならない問題が山積みである。仕方がないので卒業したらホワイトルームを潰しに行こうか。更地にすれば彼の問題の大半が片付けられるだろう。

 

 別に俺はホワイトルームに思う所は何もないけれど、これから先も色々と邪魔してくるかもしれないので天秤がそちら側に傾いているのも事実だ。

 

 なので卒業までに今よりもずっと強くなって、一方的に勝利できるように準備しておこう。それが嫌ならば俺たちに関わらないと誓って貰うかだな。

 

 何であれ、青春を邪魔するのであれば容赦はしない。八神も余計なことをせずに大人しく学園生活を満喫して欲しいものである。

 

「私もさ、何だかんだで楽しいよ、今の感じがさ。愛里もそうだけど勉強とか授業とか頑張れてるし、結構気に入ってる」

 

「そりゃよかった」

 

「でもさ、いつか変わっちゃうのかな?」

 

「いつかはそうなるだろう」

 

「例えば?」

 

「卒業だったり、もしかしたら喧嘩したり、誰かに恋人ができたりとかして疎遠になったりとか、色々あるさ」

 

「そっか、まぁそうだよね。この学校だといきなり誰かが消えるなんてこともあるだろうしさ」

 

 プールに浸かったままの波瑠加さんはこちらを見上げて来る。少し不安そうにも見えたので安心させるようにこう伝えた。

 

「できることがあれば全力を尽くす。俺も皆との時間は大切に思ってる、ちゃんと守るよ……いや、そうじゃないな、俺も頑張るから波瑠加さんたちも力を貸してくれ」

 

 すると波瑠加さんはプールに浸かった状態でキョトンとした顔をする。

 

「テンテン、ちょっと雰囲気変わったね」

 

「そうかな?」

 

「うん、前はちょっと大人びてたけど、今は年相応って感じ? いや、達観してるのは相変わらずなんだけどさ、同じ目線になったって何となく思った」

 

「ん……ちょっと思う所があってね、戒めたんだ」

 

「そっか、テンテンはそれで問題ないのかもね。ちょっと幼稚なくらいで丁度良いと思うしさ」

 

 前に六助も似たようなことも言っていたな。

 

「まぁ、いつか変わっちゃうその時まで、楽しくやれたら良いね」

 

「あぁ」

 

 何が来ようとも俺は俺の目標に向かって進むだけである。以前ならばそれは俺の中だけで完結していたことだけど、今は友人や仲間の力を借りることもできるのだ。

 

 そう考えると、少しだけ気楽になるのだった。

 

「それッ」

 

「おっと、何するのさ」

 

 波瑠加さんが突然にプールの水を掬い上げて顔にかけて来た。そうするのは事前動作で予測できていたけれど、避けるのもあれなので素直に受け入れる。

 

「ん~、ちょっとくらいはプールで遊んでみて欲しかったからね」

 

「なるほど、ならお言葉に甘えて、そりゃ」

 

「うわ、ちょっとッ!?」

 

 仕返しとばかりにプールの水面に拳を押し当てて寸勁を叩きこむ。すると大きな波となり、波瑠加さんはプールの向こうに流されていくことになる。

 

 波の出るプールみたいで楽しそうだ、そんなことを思うのだった。

 

 クラスメイトや仲間たちとの関係が今後どうなるかはわからないけれど、今はとても楽しいことだけは間違いない。

 

 これから先、誰かと付き合ったり、或いは喧嘩したり、もしくは去ったりすることがあるのだろうか。

 

 未来のことはやはりわからない、なので今を楽しむだけである。

 

 とりあえず寸勁を連続で叩き込んでプールを掻き混ぜて渦を作った。イチャイチャしている清隆たちも押し流してしまおう。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。