ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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普通に生きればいい

 

 

 

 

 

 

 

 ある程度の参加申請を捌くと少し余裕が出て来ることになった。レクリエーションに参加する生徒は既に大半が船内に散っており、生徒会役員は彼らの報告を待つだけの状況だ。

 

 中央ホールに作られた受付所の椅子から立ち上がり、近くにある自動販売機から三人分の飲み物を購入すると、その内の二つを同じく忙しく奔走することになった帆波さんと鈴音さんに渡すのだった。

 

「ありがとう」

 

「ごめんね、いつも気を使わせちゃって」

 

「気にしないで良いよ、俺は生徒会のお茶汲み係だから」

 

 橘先輩ポジションだな、何かいい感じのタイミングでお茶を差し入れることに全力を出す所存である。

 

「ようやく落ち着けたけど、生徒会の人手不足は深刻だね」

 

 渡したミルクティーで喉を潤し、一息ついた帆波さんがそう切り出すと、俺と鈴音さんは同意するしかなかった。

 

「今回はなんとかなったけれど、その内、破綻しそうではあるわね」

 

「うん、やっぱり人を集めないとダメだ」

 

「貴方はさっき葛城くんを誘っていたけれど、どうだったのかしら?」

 

「残念ながらその気はなかったようだ、集めるなら一年生にしろって言われたよ」

 

「そっかぁ、葛城くんが入ってくれるなら即戦力なんだけどね」

 

 残念そうに溜息を吐く帆波さんを追いかけるように、俺と鈴音さんも溜息を吐くのだった。

 

「そもそも意欲のある生徒は四月の時点でその意思を示している筈、今更と思うのかもしれないわね」

 

「帆波さんと鈴音さんは一年生の知り合いとかいないのかな?」

 

「う~ん、いるにはいるんだけど、生徒会に入りたいって人はいないんだよねぇ」

 

 視線を帆波さんから鈴音さんに向けると、いるはずがないでしょと視線だけで伝えられてしまう。

 

「俺も知り合いに頼んでみたけどイマイチ手ごたえがない。返事は保留だから完全に望みがない訳でもないけどさ」

 

 天沢さんと九号はどうするんだろうか、できれば生徒会に入って欲しいけど強制するものでもないのでなんとも言えないか。

 

「八神くんが復帰できれば良いんだけど……」

 

「彼もかなりの大怪我よ、体育祭の参加すら怪しいわ。長く離れることになるでしょうし、最悪そのまま復帰しないということも考えられるわね」

 

 南雲先輩と桐山先輩は怪我で事実上の引退であるが、まだ一年生の八神はその限りではない。怪我が治れば生徒会役員として活躍する時間がまだまだ残されているからな。

 

 ただ彼は櫛田さんを介してこっちに攻撃をしかけようとしている。可能ならば大人しく学園生活を満喫して欲しかったのだけれど、脅威になるというのならばどうしたって対応しなければならない。

 

 清隆も同意見なのか、様子見をしながらも排除の選択肢を視野に入れているようだ。こちらの敵にならなければホワイトルームだろうと大した問題はないのだけれど、そうでないのならば話は変わる。

 

 もし八神の暗躍でこっちに被害が出て見ろ、せっかく順調なのに面倒なことになるだろう。

 

 普通の高校生として学園生活を満喫して欲しいもんだ、何も難しいことでもないと思うけど、ホワイトルーム生は変な執着を清隆に向けているからそう簡単にはいかないんだろうな。

 

 清隆に勝った所でなんの意味もないと気が付いていないのが面倒だ。妙な執着に捕らわれた所で天才になんてなれはしないと理解して欲しい。

 

 八神はどうなるだろうな、退学はさせたくないのが本音だけど、こっちに被害を出そうとしている以上は対処しなければならない。

 

 櫛田さんを操っているつもりのようだけど、彼女は初手でこっちに情報を流しているので無意味なリスクになっている。ホワイトルームは天才を作る施設とのことだけどリスク管理は教わらなかったのだろうか。

 

 スパイを作ったつもりで二重スパイを傍に置くとか間抜けにもほどがあるぞ。遠回りなことなんてせずにさっさと清隆と戦えば良いと思うのは俺だけなのかな。

 

「天武くん、聞いているの?」

 

 八神をどうするかで思考の海に溺れていた俺の意識を鈴音さんが引き戻す。

 

「ごめん、えっと、なんだっけ?」

 

「生徒会役員の件よ、考えてみたのだけれど、私が知る一年生で一番可能性が高そうなのは七瀬さんだと思ったのよ」

 

「あぁ彼女か、確かに真面目だし社交性もある。適任かもしれないね」

 

 一年生に親しい知り合いはいないと言っていたけど、そういえば彼女とはそれなりの交流があったと思い出したのだろう。宝泉の印象が強すぎるけど彼女はDクラスの顔役として接していたな。

 

「もしかしたら七瀬さんがDクラスであることを問題視されるかもしれないけれど、それを言ったら私たちも同じ立場だったからどうとでも出来ると思うのだけれど、どうかしら?」

 

「うん、良いと思うよ。後は彼女にその意思があるかどうかだけど」

 

「この後にでも誘ってみるつもりよ。一之瀬さんはどう?」

 

「反対意見はないかな、七瀬さんは審議の時にDクラスの代表として参加してたけど、凄く真面目で話しやすい印象があったしね」

 

 なるほど、例の審議で帆波さんと七瀬さんは接する機会があったのか、だとしたら話しやすくもあるのかもしれない。帆波さんがなんとか一年生に配慮する努力は見ていただろうからな。

 

 問題なのは彼女の意思次第か、ここは要相談である。彼女としても生徒会に入ることで色々と便利なこともあると口説く感じだろうか。

 

 ただ七瀬さんが生徒会に入ると俺はまた肩身が狭くなる。男女比の偏りが凄いことになるからだ。

 

 八神も最悪は処理しないといけないし、そうなってしまえばいよいよ男は俺一人である。ハーレム生徒会とか言われる前に辞表を出すべきかもしれない。

 

 葛城もそっけない感じだったし、八神は先行きが不透明、石上は興味を示してくれなかった。おいおい、男は俺一人とかもの凄く気を遣うじゃないか。

 

 最悪清隆を引っ張り込むしかないか、彼はラノベの主人公みたいに色々な女子から好意を寄せられる男なので、意外にもハーレム生徒会に馴染むかもしれない。

 

 そして俺はしれっとフェードアウトする……うん、それで行こう。あまりにも居心地が悪くなった場合はだけど。

 

 

「フッ、私だ」

 

 

 三人で今後の生徒会について話し合っていると受付に六助が姿を現した。その隣にはどうした訳か王さんの姿もあった。どうやらこの二人でペアを組んでQRコードを探したらしい。

 

 どうしてそうなったと思わなくはないけれど、楽しめたのならば何も言うまい。

 

「六助、王さん、成果はどんな感じだい」

 

「じ、実は、50万ポイントを得られまして」

 

「おぉそりゃ凄い、見つけるのが大変だっただろ」

 

「い、いえ、見つけるのはそれほど苦労しなかったんですけど……その、場所が大変だったから」

 

 50万のQRコードは食堂の天井付近にあるシャンデリアの裏に張り付けられている。あのどうやって読み取るんだよとツッコミが入りそうな場所であった筈だが、こうして報酬を得られたということは上手いことやったんだろう。

 

「参考までに訊くけど、どうやって読み取ったんだい?」

 

「高円寺くんが……その、凄く頑張ってくれまして」

 

 苦笑い気味に、しかし感心もするような表情で王さんは六助を見る。まぁ彼ならばあの難易度の高い場所も上手いことやれたんだろうな。

 

「なぁに、ただジャンプしただけさ。私にかかれば造作もない」

 

「なるほど、確かにジャンプすればいいだけだ」

 

「……えっと、はい」

 

 王さんは俺たちの会話に色々と思う所があったようだが、ツッコミを入れることなくただ肯定するだけである。

 

 きっと六助がシャンデリア付近までジャンプをした段階でもう匙を投げたのだろう。そういう生き物だと受け入れてしまったんだ。

 

 しかし六助はあのシャンデリアのQRコードを読み取れたのか、三角飛びだったのか垂直飛びだったのかはわからないけど、いよいよ超人っぽくなって来たな。多分だけど純粋な身体能力ならもう二十号を超えているかもしれない。

 

 恐ろしい話である……この学校にはゴリラが多い。

 

 二人の報酬申告を受け入れて帳簿に数字を書き込む。この二人が受付に来たということはそろそろ生徒たちも帰還する頃だろうな。

 

 中央ホールの入口に視線を向けてみるとチラホラ生徒たちの姿が見える。良い表情の者、トボトボと歩く者、もの凄くはしゃぐ者、様々な反応を見せており、この催しが生徒たちの間でも好評であることの証明のようにも思えた。

 

 いいレクリエーションである。南雲先輩の引退式としては最高の結果なのではなかろうか。

 

 六助が温まった報酬に満足しながら、そのまま流れで王さんをデートに誘って連れ去っていったことを見送りながら受付の席に座った。俺だけでなく帆波さんや鈴音さんも一緒だ。そろそろ生徒たちが帰って来て得た報酬の申請をしてくるからだろうから備えている訳である。

 

 微笑みを隠し切れない生徒もいれば、不機嫌さを隠そうともしない生徒もいる。明暗がわかれた形だけど楽しんでくれたのは間違いなさそうなので嬉しい限りであった。

 

 受付の獲た報酬の申告をしてくる生徒を次々捌いていると、今度は清隆と軽井沢さんペアが姿を現す。とても満足そうな顔をしているのでどうやら上手くいったらしい。

 

「その様子だと高額報酬を得られたのかな?」

 

「あぁ、予想以上に変な所にあったが、何とかなった」

 

「それは良かった」

 

「凄かったんだよ、なんかもう、完全にゴリラだったッ」

 

 軽井沢さんは興奮したような、そして呆れたような顔をしてそう言ってくる。

 

「二人はどこのQRコードを読み取ったのかな?」

 

「自動販売機の裏にある奴、綾小路くんが軽々と持ち上げちゃってすっごく驚いた」

 

 その時の光景を思い出したのか軽井沢さんは戦慄した様子を見せる。そりゃ普通の人はボルトナットで固定された自動販売機を持ち上げたりはしない、そんなことするのはゴリラだけだろう。

 

 六助もそうだけど清隆もいよいよだな、二十号に勝ってた時点でもう完全に超人である。

 

 二人は30万ポイントを得たと申告してくれた。参加費を差し引いても大金である。満足そうなのでこちらとしても嬉しい限りだ。

 

 六助、王さんペアが50万。清隆、軽井沢さんペアが30万を得ているのでウチのクラスが結構な勝率なようにも思えたけど、俺を避けて帆波さんや鈴音さんがいる受付に申告する生徒たちにもチラホラと高額賞金を得たと言う話があった。

 

 しかし5000ポイントしか得られなかった生徒も多く、やはり酸いも甘いもあるゲームであるということだろう。全員が全員、高額報酬を得られていればゲームが破綻してしまうからこれで良いんだろう。

 

 さて最高賞金を得るのは誰だろうかと考えていると、ニコニコ顔の九号と少し呆れた様子の天沢さんが姿を現したことで確信を得る。

 

 どうやら100万ポイントはこのペアのようだ……本当によく見つけられたと思う。

 

「ご主人、見てください。100万を貰えたッス」

 

「おめでとう。天沢さんも大変だっただろ」

 

「いやぁ、あたしは別にそこまで苦労してませんよぉ……この子が勝手にQRコード読み取って勝手に報酬を得ただけなんで」

 

 きっと幾つかの候補を見つけて厳選するつもりだったんだろうな、けれど九号がここしかないと独断専行したという感じか。

 

 けれどそれでキッチリ100万を得たのだから大したものだ。九号の鼻も天狗のように伸びている。

 

「ていうかぁ、あんな所にあるQRコードとか見つけられる訳ないですよね? もしかして最初から学校は報酬を渡す気が無かったんじゃないかって邪推したんですけど」

 

「天沢さん的には納得できなかった感じか、でも実際にそこにQRコードはあったし、読み取れば報酬だって得られただろう?」

 

「そりゃそうですけど、普通の生徒は絶対取れませんって」

 

「九号は取ったじゃないか」

 

「この子がおかしいだけですよぉ」

 

 100万のQRコードはこの豪華客船の屋上デッキに隠されていた。最高報酬なので当然ながらただそこに足を運んだだけで手に入る物ではないけれど。

 

 このQRコードがある場所、それは屋上デッキの更に上、この豪華客船で最も高い位置にある電波アンテナに張り付けられていた。

 

 当然ながら人が登れるような場所ではない……俺は張り付ける為に登らされたけどさ。

 

 天沢さんの言いたいこともわかるのだ、そんな所に生徒を向かわせるとか殺す気なのかと。風は強いし細いアンテナに支えはないし、落下すれば痛いでは済まない高さだからな。

 

 報酬を渡す気が無かったと言われても反論はできない。そういう場所である。

 

「せぇんぱい、ちょっとこっちに」

 

 100万が懐に転がって来たことにはしゃぐ九号を他所に、天沢さんはちょいちょいと指先を動かして俺を引き寄せる。

 

 そして頭を近づけた俺に耳打ちをした。

 

「あの子、おかしくないですか? 二十メートルくらいジャンプしてアンテナに着地すると、そのままQRコード剥して普通に着地したんですけど」

 

 物理的に不可能な動きを見せられてちょっとショックを受けているようだ。確かに普通に考えればそんなことはできない……俺だって九号のように蝶のような身軽な体作りをしていないから不可能だ。

 

 どっしりと根を張った大樹のような笹凪流に対して、鶚流は真逆の鍛錬と体作りをするからな。軽やかさで言えば忍者に勝てはしないだろう。

 

「天沢さんだから教えるけど、実は九号は忍者なんだ」

 

「はい? 忍者? この現代にそれって……あれですか、中二病とかそういう奴」

 

「嘘偽りなく完全完璧な忍者だ。戦国時代から続く由緒ある一族で、趣味は遺伝子の改造だ……かなり頭のおかしい所があるけれど呆れず付き合ってあげて欲しい」

 

「……なんかすっごく疲れてきたかも」

 

「ああいう人たちって世の中に結構いるから気にしても仕方がないよ。ホワイトルームなんて大した施設でもない、本当に頭のおかしい人たちからしてみればね……だから君はもっと気楽に生きて良いんだ」

 

 少なくとも超人連中にとってホワイトルームという施設は「だからなに?」で終わる環境だと思う。世の中はカオスなことばかりで、どうしようもないくらいにブレーキが壊れた人たちだっているのだ……鶚衆もそうだし俺の師匠だってそうだしな。

 

 後は自分の体を機械化するのが趣味の科学者とか、クローン戦争を本気でやろうとしている集団とか、趣味で国家転覆を目論む教祖とか、3万人以上の構成員を持つ自称正義のヤクザ集団だとか、女湯を覗く為に軍事衛星をハッキングする人とか、人斬りとか忍者とか、どうしようもない人は多い。

 

 なのでホワイトルームという環境で育ったことをそこまで特別視をする必要はないだろう。君たちはとても普通で平凡だと言い切れるくらいには世の中はカオスなのだから。

 

「学園生活を楽しんでくれ。君はとても普通の学生で、それ以上でも以下でもない……できることなら八神にもそれとなく伝えてくれると嬉しいな」

 

「綾小路先輩が笹凪先輩と仲良くなれた理由がなんとなくわかったかも……でも拓也に関しては無理かなぁ、アイツは正しくホワイトルーム生だから」

 

「そうか、それは残念だ」

 

 本当に残念である……止められないのならば、いよいよ排除を視野にいれなければならないからな。

 

「まぁあたしは言われなくても楽しむつもりですよ……銀子ちゃんをぶん殴るっていう目標もできたし~」

 

 なんて物騒な目標だろうか……まぁ目的があるのならばそれはそれで良い、無いよりはずっと。

 

 八神もこれくらい割り切って過ごして貰いたいものだ。ホワイトルームという環境に拘っても意味はないし、清隆に執着しても得る物なんてない。

 

 ホワイトルームなんて、どこにでもある普通の場所である……本当に頭のおかしい人たちからしてみればそういうことになるのだった。

 

 普通の人たちなんだから、普通に学園生活を楽しめばいい。天才なんてものは、百年先の未来が証明するものである。

 

 俺も清隆も九号も、その理論で言えばただの人間であった。

 

 どれだけ優秀であるかではなく、どれだけテストで百点を取れるかでもなく、どれほど優れた身体能力を持つかでもない。

 

 後の世で語られるか否か、それが重要だと俺は思っている。

 

 

 

 

 

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