ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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満場一致試験
迫るイベント


 

 

 

 

 

 

 

 綾小路視点

 

 

 

 

 

 

「ふむ、なるほど」

 

 オレは今、とても重大な仕事を任されている。調べることは膨大であり、知らなければならないこともまた山のように多い。

 

 とりあえずスマホで色々な情報を検索していく。主な検索ワードは「メイド」である。

 

「メイド喫茶……コンセプト喫茶という業務形態があるんだな」

 

 これらはホワイトルームでは教えてくれなかった情報である。メイドと聞くとどこかの金持ちに使える従者のような存在だという認識であったのだが、西暦も2000年を軽く超えた現在、メイドという存在は大きな変化を経ているらしい。

 

 単純な労働者ではなく、どこかアイドルめいた職業になっているのは少し不思議な気分だ。そしてシンプルな奉仕作業ではなく中には歌って踊ってサイン会などを開いたりもすると検索結果には出て来る。

 

 次にオレがスマホで調べたのは各地にあるメイド喫茶のホームページだ。これがなかなか面白い。各店の推しであったりランキングであったりと様々な情報があり、中にはサイン会の告知やコンサートのチケット販売なども行っているらしい。

 

 オレが知るメイドとはとても古い物であったということだ、既にメイドはアイドルと言っても過言ではないのかもしれない。

 

「しかしスカートが短すぎるんじゃないか?」

 

 なんとなく開いたメイド喫茶のホームページの一番上にある、最も人気の高いメイドのプロフィールを見てみる。全身が映る写真付きで手でハートマークを作る姿勢と共に抜群の笑顔を浮かべているのがわかる。

 

 眩しい太ももが露わになっており、ともすれば下着が見えてしまうのではないかと思う程に危機感の無い姿をしていた。これではメイドとしての職務を果たせないだろうというツッコミを入れたいのだが、既に現代においてメイドとはアイドルと大差が無いのでこれで良いのかもしれない。

 

 本当の意味で労働者としてのメイドを求めている訳ではないのだ、オレが知りたいのはこれから行われるクラスでの催しを勝ち抜く為に必要な情報、そして売り上げを確保する秘訣であった。

 

「エロティシズムを感じることが重要なのか……なるほどホワイトルームでは教えられなかった情報だ」

 

 エロは大事だ、古くから芸術的な分野において深く根ざしており、美しさを語る上で切っても切れない分野だろう。

 

 そしてメイドにはそういったエロティシズムをいかに巧みに、しかし下品にならない程度に表現するかが大切であることがメイド喫茶を調べて行く内に理解することができた。

 

 大胆に、だが行き過ぎず、清楚さと潔癖さを表現しながらも、肉体美や容姿を曝け出し、あくまでアクセントの一つとしてエロスというものを添える。

 

 しかし別に長く商売をしたい訳じゃない。何だったら全面的にエロスを押し出す形でも……いや、やりすぎれば学校側から制裁があるかもしれない。やはりほのめかす位が一番か?

 

 今度はメイド、性癖、という検索ワードで色々と調べてみる。するとどのスカート丈が一番であるのか激しく議論されており、フリルの量や髪色との調和などもメイドを語る上では外せないらしい。

 

 とりあえず身近の女子、愛里にメイド服を着させた想像をしてみる……ふむ、これは強力だ。

 

 波瑠加などはどうだろうか? こちらはこちらで悪くない。

 

 クラスメイトの女子を次々とメイド服にしていき、オレが客として訪れた場合どこに目が行くのか、どこを評価するのか、そしてどんなことを印象に残すのかをシミュレートしていった。

 

 チェキ会なるものもあり、中にはツーショット写真を取るだけで結構な売り上げになるそうだ。

 

 ウチのクラスだと誰の人気が出そうだ? 櫛田やみーちゃん、佐藤や松下に軽井沢、そして波瑠加や愛里も人気を得そうではある。特に愛里に関しては芸能人なので普通の生徒よりもずっと慣れているかもしれないので無双する可能性すらある。

 

 後は、堀北はどうだろうか……いや、こいつはダメだな、想像ですらメイド姿にできない。きっとアルバイトの面接に来たとしても速攻で不合格になることだけは簡単にわかってしまった。

 

 まぁ櫛田から愛里あたりが鉄板の戦力か、だがそれが通じなかった時に備えて切り札を用意するのは戦略の基本でもある。

 

 だからこそ堀北にはしっかりメイドをこなして貰いたいのだが、アイツが上手いことメイドとして接客できるとは思えないので別案が必要だろう。

 

 こちらのクラスの女子はレベルが高いとは言えるが、他のクラスだって突出した者はいる。櫛田と愛里の二枚看板で有象無象を処理できるかもしれないが、それは切り札を用意しない理由にはならない。

 

「考えろ……戦いとは始まる前に終わらせるものだ」

 

 通常戦力以外にも誰かいないか? 戦車のような突破力を持った誰かを用意することが重要だ。

 

「いっそ茶柱をメイドに……いや、アラサーには酷な話か」

 

 良い案かと思ったが即座に却下する。そもそも協力してくれるとは思えない。

 

 ならば誰だ? 切り札足りえるのは誰だ……深く深刻に考え込みながらオレはまたメイドに関する情報を次々と調べて行く。検索履歴はもうメイドだらけになっていた。

 

 そしてメイドに関する情報を調べること三十分ほど、オレのスマホに映ったとある情報に天啓を得ることになる。

 

「女装メイド、だと?」

 

 ありえるのかそんなことが? ホワイトルームでは教えてくれなかったぞ。いや、だが、調べてみるとそこまで的外れな性癖ではないらしい。しかし男をメイドにするくらいなら普通に可愛らしい女子をメイドにする方がずっと楽だろうに。

 

 そもそも体も大きく骨格や声などが女子とは大きく異なる男子をメイドにした所で映えるとは思えな――――いや、待て。

 

「天武なら或いは……一考の価値はありそうだな」

 

 オレの親友の姿を思い浮かべる。長めのかつらを被らせれば完全に女子だ。それもとびっきり可愛らしいのは間違いない。なにせ混合合宿の風呂場では色々な相手に避けられてたくらいだからな。

 

 体の線を隠すようにロングスカートとフリルだらけのメイド服も頭の中で着させてみた……おいおい完璧じゃないか。我ながら戦慄するしかない妄想だ。

 

 後は声だが、こちらに関しては何も問題はない。多少の声帯模写くらいはできるだろうし、そもそも天武は高い声を元からしている。

 

 茶柱をメイドとして運用するくらいならば、こちらの方がまだ可能性を感じるのは間違いない。

 

 そうと決まればさっそく行動あるのみ。とりあえず企画書の中にある予算見積りに追加分のメイド服とかつらの予算も加えておくとしようか。

 

「とりあえずはこれで良いか……本番が楽しみだな」

 

 そもそもオレがこうして一人でメイドのことを調べているのには理由がある。別にそういった存在に性的な興味を抱いた訳でもなければ、良からぬ欲望を抱いている訳でもない。

 

 時間は少し巻き戻る。どうしてメイドを調べる必要があったのか、そして何故こんなことを企画しなければならなくなったのか……それは夏休み明けの新学期で、茶柱から告知されたとある催しにクラスが動き出したからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この二学期、お前たちには幾つか大きなイベントが控えている。まずは去年も行われた体育祭だ。10月に行われる学生たちの身体能力を試す試験になるだろう。去年と異なるルールもあるが、必要とされている能力に大きな違いはない」

 

 夏休みも終わって二学期が始まり、最初のホームルームで茶柱先生が開口一番にそう言った。まだまだ残暑が残る季節ではあるけれど、そろそろ秋の目玉イベントである体育祭に向けて動いていくことになっている。

 

 それに加えて今年は去年には無かったある催しが開かれることになっているのを、生徒会役員たちは一足早く知っていた。

 

「そして11月には高度育成高等学校としては初の試みとなる文化祭の開催が決定した。細かい内容は体育祭同様改めて告知していくが、これも9月から並行して時間を取っていく」

 

 するとクラスメイトたちからは色めきだった声や気配が広がった。文化祭と聞いて興奮する気持ちはよくわかる。凄く青春っぽいので俺も楽しみだからだ。

 

 去年は無かったからな、なおのこと期待に胸が膨らむというものだ。きっと楽しめる筈である。

 

 茶柱先生の説明によると体育祭や文化祭では外部から人を呼んでお客として扱うらしい。この学校にしては珍しいことだとは思うけれど、どうやらこれは月城さんの置き土産であるらしい。

 

 月城さん、色々と損な役回りに奔走していたけれど、最後の最後でとても嬉しいプレゼントを置いてくれたようでほっこりした気分になる。今なら笑顔で握手できそうだ。

 

 たとえ外部から来る客に刺客がいたとしても笑って許せるくらいには、俺は文化祭を楽しみにしているのだった。

 

「何の出し物が良いかな?」

 

「貴方は随分と楽しそうね」

 

「そりゃそうさ、文化祭なんだから楽しまないと」

 

 この夏休みから晴れて恋人関係になった鈴音さんは、俺がワクワクしている様子を見て少し呆れたような顔をして……しかし唇の端は少しだけ緩んでいるのがわかる。

 

「文化祭の定番ってなんだろ、中学ではどうだったの?」

 

 そんな質問を後ろの席の清隆と、その隣の席の鈴音さんにすると、二人はどちらも首を傾げてしまう。

 

「いや、わからない」

 

 まぁ清隆はそうだろう。ホワイトルームで文化祭が催される筈もないのだから。

 

「中学の時は、確か郷土歴史のレポートだったかしら」

 

「うん? お祭りなんだよね?」

 

「そんなことよりも勉強を優先していたわね。文化祭も一応はあったけれど自由研究の発表が主だったのよ」

 

 それはそれで楽しそうな文化祭なのだろうか? イマイチお祭り感は無いけれど自作ロケットとか作ってそれの発表とかすれば面白そうではある。

 

「なら今年はお祭り気分になろうよ、お化け屋敷とか開いてさ」

 

「お化け屋敷ね……予算の兼ね合いもあるからクラスと相談しながらにしましょう」

 

 それもそうだ。俺の意見だけでクラスの出し物が決まる訳ではない。茶柱先生の説明を聞くとしよう。

 

 因みに生徒会役員は予めある程度の情報は開示されている。出し物を行う教室はプライベートポイントで確保したりとか、部活動や生徒会としての活動が評価されて予算が多くなるとかだな。

 

 最終的には各クラスで売り上げの順位を競うことになる訳だ、そこはこの学校らしくもあり、文化祭も体育祭も特別試験の一部であると言えた。

 

 まずは楽しもう、せっかくの青春イベントなんだから。

 

 ただ文化祭の開催までまだ2ヵ月ほどの準備期間があるのでゆっくりとで良い。どんな出し物でも何だかんだで楽しめそうではあるしな。

 

「とりあえず、思いつく限りで催しの一覧を出していこうか」

 

 放課後になり迫る文化祭に向けての話し合いが始まることになる。平田が音頭を取ってそう言った瞬間にクラスメイトたちから次々意見が飛び出していく。

 

「文化祭と言ったらやっぱり食べ物系じゃない? ほら、クレープとか」

 

 軽井沢さんの言葉に頷く者が何名か、やはり定番は強いよな。

 

「お化け屋敷とか劇とかも外せなくね?」

 

 そして池の提案に賛成する者が何名かいる。こちらはこちらで定番中の定番なんだろう。

 

「カフェとかも良いかもね」

 

「食い物系は1ヶ所に纏めて提供すりゃいいじゃん」

 

「それはそれでグチャグチャにならねえか?」

 

 クラスメイトからも次々意見や提案が出て来て、平田はそれらの主張を一つ一つ教室の前に設置されている黒板代わりの大型モニターに羅列していった。

 

「気を付けなければならないのはまず予算との兼ね合いだね。何をするにしても上限を意識しなければならないよ。あまり大規模なものだと難しいかもしれない。例えば飲食系だとあまりにもメニューが多いと準備するだけで疲れ切ってしまうだろうしね」

 

「平田くんはどう思うの?」

 

「まだ本決まりではないけれど、もし飲食系にするのなら僕としてはメニューはある程度絞るかな」

 

 予算の都合上それは仕方がない。だとするとそれ以外の部分で勝てるようにならなくてはダメだろう。

 

 出し物をする立地であったり、或いは視線と注目を集めるのに一手間加えたりと、考えられることは色々とある。

 

 まぁまだ先の話なのでゆっくりと詰めて行こう。

 

「一つ提案なのだけれど、いいかしら」

 

「意見は大歓迎だよ堀北さん」

 

「平田くんの言うように文化祭の予算は限られている。けれど机上で幾ら議論してもわからないことは多いわ。仮に屋台でたこ焼きを焼くとしても、どんな材料を使うのか、腕前、様々なものが必要になって来る。それなり、まずはクラスで案を持ち寄ってプライベートポイントを使ってでも繰り返しテストをしていくべきなんじゃないかしら」

 

 プライベートポイントを使ってある程度の形を整えてから主張する訳か。

 

「つまりプレゼンしようってことだよね?」

 

 俺は鈴音さんのそう言うと、彼女は頷きを返す。クラスメイトたちもそこまで反対意見はなかったのか、割と前向きに受け取ってくれているようだ。

 

「ただ気を付けて欲しいのは情報漏洩よ、何をするにしても他所のクラスや学年に注意を払って欲しいの」

 

 こうして俺たちのクラスは11月に開催される文化祭に向けて徐々にだが動き出すことになるのだった。

 

 生徒たちもそれぞれ考えやアイデアはあるようだけれど、誰よりも早く、そしてわかりやすい企画書を出して来たのはやはりというか女子であった。

 

「清隆は何かアイデアは無いのかい?」

 

 体育祭と文化祭を同時並行で準備をしなければならないのでかなり忙しい9月中頃、ここ最近何やら唸っていたり、ブツブツと考え込む様子を見せるようになった清隆に俺はそう訊ねる。

 

「綾小路くん、何か企画があるのかしら?」

 

 鈴音さんも気になっていたのか、放課後になると同時にそう言った。

 

「オレの企画という訳じゃないがプレゼンの準備は進めている」

 

「意外ね、貴方がこう言った催しに積極的になるだなんて」

 

「手伝っているだけだ……佐藤と松下と軽井沢に誘われてな。男子側からの意見も聞きたいと。それで色々と調べている所だ」

 

 そんな彼の言葉に、放課後なので生徒会に向かおうとしていた俺と鈴音さんは視線を結び合った。あの清隆が真剣に悩んで準備を行うプレゼンに興味が出てきたのだ。

 

「丁度いい、天武と堀北にも見せておきたい。今日、これから時間はあるか?」

 

「生徒会の業務があるからそれほど時間は作れないけれど、30分くらいなら問題ないわよ」

 

 すると清隆はスマホで誰かと連絡を取る。問題は無かったのかこれからプレゼンが始まるらしい。

 

「よし、特別練に来てくれ」

 

「構わないが、何をプレゼンするつもりなんだい? 佐藤さんと松下さんに誘われたって話だけれど」

 

「こういうのはインパクト勝負な側面もあるから事前に説明はできない。とりあえずついて来てくれ」

 

 あの清隆がここまで積極的に動くとは、もしかして文化祭が楽しみだったりするのだろうか? 良い傾向だと思うので好きにやらせてあげようか。

 

 そう、清隆にも青春は必要なのだ。文化祭の準備に勤しむのは良いことである。

 

 だから自由にやらせてあげようじゃないか。

 

 

 

 

 そんなことを思っていたのだが、10分後に俺は盛大にこんな考えをしてしまったことを後悔することになるのだった。

 

 

 

 

 

「よし、天武、これがお前の衣装だ。かつらは複数用意しているが、好きな物を選んでくれ」

 

「……え?」

 

 

 特別練にある教室で待っていたもの、それはロングスカートとフリルが沢山付いたメイド服である。

 

 どうやら清隆は佐藤さんや松下さんに誘われてメイド喫茶のプレゼンに協力していたらしい。その企画書の中にはどうした訳か俺がメイド側で接客することになっているようだ。

 

 オッサンにディープキスされそうになったトラウマが蘇ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

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