ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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色々な変化

 

 

 

 

 

 

 

 事実上、ウチのクラスの出し物がメイド喫茶に確定してしまった。しかもどういう訳か俺はメイド枠として登録されており、カツラを被って化粧を施しフリフリのメイド服を纏って接客することも確定してしまっている。

 

 味方はいない、親友も恋人も俺を追い込んでメイドにしてしまった。もう頭を抱えるしかないだろう。何が恐ろしいって鈴音さんが嬉しそうだから最後には納得してしまった自分の思考が恐ろしい。

 

 まぁ仕方がない。師匠曰く尻に敷かれるくらいで丁度いいとのことなので、これで良いのだと無理矢理にでも納得するしかなかった。

 

 まだ本決まりではないものの、ほぼ確実にメイド喫茶になる方針で十一月までの準備期間を使うことになった。女子たちは何だかんだでやる気になっており、男子もまた可愛らしいメイド姿が見えるとあって興奮しているのがわかる。

 

 そんなこんなで文化祭に向かって進んでいくことになるのだけれど、まだまだ時間がある上に直近に体育祭も迫っている為に、まずはそちらにということになるのだった。

 

「天武くん、行きましょう」

 

「うん」

 

 放課後になると生徒会の業務が待っている。特にここ最近は体育祭が迫っていることもあって中々に忙しい。

 

 放課後になると同時に生徒会へ向かうことも日常になりつつある訳だ。

 

 鈴音さんとの関係もあの船で大きく変わり、恋人として過ごす時間やきっかけが増えたと思う。

 

 休日に一緒に過ごすようになったり、生徒会役員として働いている合間であったり、もしくは昼休みであったりと、恋人になってからというものの一緒に過ごす時間が自然に増えたということだ。

 

 そんな風に過ごしていると自然とクラスメイトたちにも噂されるようになり、ヒソヒソとこちらの関係を探るような雰囲気や視線を感じるようになった。直接的には訊いてこないけれど好奇心はしっかりと感じている。

 

 鈴音さん曰くわざわざ発表するようなことでもないらしい、尤もな意見であり自然と認知されていくだろうという俺も考えていた。

 

 ただやはり気になる人は気になるらしい、放課後になって声をかけてきた波瑠加さんもその一人であったらしい。

 

「テンテン、ちょっと良い?」

 

「これから生徒会の仕事があるんだけど」

 

 波瑠加さんの後ろには愛里さんの姿もある。こちらを窺うような視線をしているな。

 

「そんなに時間は取らせないからさ」

 

「わかった。鈴音さん、悪いんだけど先に生徒会に行ってくれないかな」

 

「あまり暇はないわよ」

 

 そんな言葉に波瑠加さんがこう返す。

 

「ごめんごめん、十分かそこらだからさ」

 

 それくらいなら問題ないと判断したのか鈴音さんは俺に視線だけ送ってあまり時間はかけないようにと伝えて来ると、そのまま生徒会へ進んで行くのだった。

 

 残された俺と波瑠加さん、そして少し離れた位置でこちらを窺う愛里さんが教室に残されることになる。

 

「それで、どうしたんだい?」

 

「ん~……まぁ訊きたいことがあってさ」

 

 波瑠加さんにしては珍しく言葉を濁す。どう訊ねるべきかと悩んでいる様子であった。

 

「えっとぉ……う~ん」

 

 暫く待ってみるがやはり上手い言葉が見つからないらしい。本当に珍しい反応である。

 

「言葉を選んでも仕方がないか、単刀直入に訊くけど……堀北さんと付き合ってるの?」

 

「あぁ、そうだけど」

 

 わざわざ主張することでもないけれど、だからといって隠すようなことでもないので素直に認めると、波瑠加さんはピクッと体を反応させて難しそうな顔をしてしまう。

 

「……あ~、そっか、そりゃそうだよね。まぁなんとなくそうなるんじゃないかって思ってはいたんだけどさ~」

 

 やれやれと言った感じで肩をすくめる波瑠加さんは、しかしすぐに視線を上げて溜息を吐いた。

 

「波瑠加さん?」

 

「ん~?」

 

 そして物凄く面倒そうな返事をしてくる。これはこれで珍しい反応だと思う。

 

 ただそれも一瞬であった。彼女はすぐに頭を振って思考を切り替えると、軽くだが自分の頬をぺちぺちと叩く。

 

「はぁ、こればっかりはどうしようもないか……因みに訊くけとどっちから告白した訳?」

 

「鈴音さんからだけど」

 

「で、ほいほい受け入れたんだ」

 

「その表現はあれだけど、その通りだ」

 

「ほ~、それで最近はよく目と目で通じ合っていたんだね」

 

 そんな感じに見えていたのだろうか? 確かに鈴音さんと視線が合うことは増えたと思うけど。

 

 少しおかしな様子の波瑠加さんではあるが、最終的には唇の端を上げて俺を見つめて来る。

 

「まぁ良いんだけどさ。でもこれで付き合いが悪くなるのはちょっと嫌かも」

 

「そんなつもりは毛頭ない。グループでの交流は俺にとってもう日常だよ。学園生活の中に当たり前に存在していて欠かせないものだ」

 

「そっか……うん、ならいいや。ただ誤解が無いように言っとくけど、別に堀北さんとの時間を減らせって言ってるんじゃないからね?」

 

「別に束縛するようなグループでもないんだ、そういうことだろう。俺にとってはどっちも大切だよ、だからこれからも参加したい」

 

「わかってるならよし、それじゃあ彼女持ちのリア充は置いて、私たちも帰ろうかな」

 

「今日はグループの集まりは無いのかい?」

 

「ん~……ちょっとそんな気分じゃないかも」

 

 そう言って波瑠加さんは鞄を肩にぶら下げて帰る支度を始めた。話は終わったようなので俺も生徒会に急ぐとしよう。

 

「波瑠加ちゃん、行こう?」

 

「うん……じゃあねテンテン、また明日」

 

「あぁ、また明日」

 

 少し離れた位置でこちらの会話を聞いていた愛里さんは、帰宅しようとしている波瑠加さんに寄り添うように立っている。

 

 そしてこちらに視線を向けて少しだけ困った顔をしながらも「大丈夫です」と小声で言うのだった。

 

 二人はそのまま教室を出て帰っていくことになる。俺もじっとはしていられないので生徒会に急ぐとしよう。

 

 放課後になると生徒会役員は忙しくなる。それは目の前に迫った体育祭の準備もそうであるし、更に文化祭も立て続けに迫っている為にその対応に追われているのだ。

 

 しかも三年生は事実上の引退、残った二年生と新たに加えた一年生だけで進行していかなければならない。中々に忙しい日々がここ最近は続いていた。

 

「お待たせ」

 

 生徒会室の扉を開くと一足早く来ていた鈴音さんと目が合う、そして視線を結び合う。多分だけどこういう機会が多くなったから波瑠加さんには目と目で通じ合っているとか言われるんだろう。

 

「それほど待ってはいないわ、それにまだ私たちだけみたいよ」

 

「そっか……あ、お茶でも淹れるよ。それとも珈琲が良いかな?」

 

「なら珈琲を頂こうかしら」

 

 生徒会のお茶係は誰にも譲れない、定期的に俺がお茶を用意しているのですっかり橘先輩ポジションが確立されたと思う、いい傾向だ。

 

 鈴音さんと自分の分、そしてこれから来るであろう二人分の珈琲を用意していると生徒会室の扉が控えめにノックされる。そして廊下側から姿を見せたのは新たに生徒会に入った七瀬さんであった。

 

 人手不足が深刻であったことに加えて、長く生徒会に入って活躍できる時間があるであろう一年生はいないのかという話になり、それならばと白羽の矢が刺さったのが彼女である。

 

 他にも石上だったり候補はいたのだけれど確保できた一年生は七瀬さんだけであり、文句も言えないくらいに優秀な子なので一先ずはこれで良いのだろう。

 

 八神の復帰も不透明なのでもう一人くらい一年生を加えたかったのだが、贅沢は言えない。

 

 一人確保できただけで御の字である。三人と四人では大きな違いがあるからな。

 

「こんにちは堀北先輩、笹凪先輩。今日も宜しくお願いします」

 

「あぁこちらこそ、はい珈琲、ミルクと砂糖はお好みで頼むよ」

 

「わぁ、ありがとうございます」

 

 七瀬さんは元気で礼儀正しい子である。こういう子が一人いると場が華やかになるよね。ウチのクラスの桔梗さんなんかも似たようなタイプだ。社交力があるのでとても話しやすい。

 

 さっそく生徒会にも馴染んでくれているようで安心である……清隆からは注意深く観察して警戒しろと言われているけどね。

 

「今日は何をするんでしょうか?」

 

「後二週間もすれば体育祭だから、そろそろ設営を始めて行かなければならないでしょうね。去年と違ってグラウンドだけで完結せずに学園全体で様々な競技が動くことになるからとても手間がかかるのよ」

 

 その段取りと備品チェックがここ最近の主な仕事であったな。南雲先輩の発案を学園が承認したことで今年の体育祭は鈴音さんが言うように同時並行で競技が進んでいくことになるのだ。

 

 グラウンドでは百メートル走が行われている裏で体育館ではバレーが行われたりと、学園全体で色々と動くことになる。グラウンドだけで完結しないので準備もまた大規模になってしまう。

 

 この大規模な体育祭の提唱者である南雲先輩が指揮を取れないのは何とも言えないな。本来ならば生徒会長として今も手腕を振るっていた筈なのだが、まだまだ怪我は治っていないらしい。

 

 南雲先輩よりは軽傷であった筈の桐山先輩はもう復帰した筈なのだが、生徒会に顔を出すこともなく、完全に意識を受験勉強に切り替えたらしい。図書室に行くと参考書を広げてクラスメイトと勉強している姿がよく見られるようになった。

 

 そんな訳でこの大規模で複雑な体育祭を残された生徒会役員で動かす訳である。そりゃ忙しくなる。

 

「詳しくは一之瀬さんが来てから役割分担を決めるけど、ここからは本当に忙しくなるわ。七瀬さんも頼りにさせて貰うわよ」

 

「はい、任せてください」

 

 幸いなのは七瀬さんがいることだろう。もし二年生三人だけで準備をするとなるとどこかで破綻していたかもしれない。

 

 とりあえず力仕事はこちらに回されるんだろうなと考えていると、生徒会室の扉が控えめに開かれることになった。

 

 姿を現したのは最後の生徒会メンバーである帆波さんである。南雲先輩と桐山先輩は席がまだ残されているが事実上の引退なので、これが現在の生徒会役員ということになるだろう。

 

 せめて後一人くらいは一年生が必要だよな、どうしようもなくなったら九号を報酬で釣って加入させるとしようか。

 

「帆波さん、珈琲で良かったかな?」

 

 生徒会室に入って来て落ち着きなく視線を彷徨わせている帆波さんにそう訊くと、彼女は何故か焦りながらコクコクと頭を揺らす。

 

「う、うん……ありがとう」

 

 ここ最近の帆波さんはいつもこんな感じである。何か言いたいことがあるのか俺をチラチラ見て来るのだけれど肝心な所までは踏み込んでこない。

 

 何か気に障ることでもしてしまっただろうかと悩むのだが、もしかしたらメイド姿で女装していることがどこからか漏れて不審に思われているのかもしれないと考えると怖くて聞けなかったりする。

 

 内心では「こいつメイドになってるんだよな、気持ち悪い」と思われているとしたら、俺はもう立ち直れないかもしれない。

 

 やはりホワイトルームは滅ぼさなければならない、メイド姿の屈辱を思い出す度にそう覚悟するほどであった。

 

「え~っと……今日は、どうしよっか?」

 

 とりあえず全員が珈琲で一息ついた段階で帆波さんがそう切り出す。

 

「ある程度前準備は終わったし、もう二週間もすれば体育祭なんだ。そろそろ設営に入らないとね」

 

 設備や備品のチェックと追加はもう終えている。白線を引いたりとかは体育祭前日にやるとして、問題なのはテントの組み立てであったり貴賓席の用意であったりが特に大がかりなので今から準備すべきだろう。

 

 特に今年は外部から客が来る、その人たちが腰を下ろす場所はしっかりと用意しなければならない。

 

「あ、うん、そうだね……えっと、それじゃあ――」

 

 帆波さんはそこで俺の視線を送る、そして隣にいる鈴音さんを見てから言葉を詰まらせる。

 

「私と……私と、七瀬さんで、体育館での設営をやるね」

 

 そして迷いながらもそう言うのだった。

 

「わかりました、宜しくお願いします一之瀬先輩」

 

 特に不満も無かったのか七瀬さんは笑顔で受け入れる。俺と鈴音さんも問題はないのでこのまま作業を進めるとしよう。

 

 グラウンドには大型のテントを幾つも組み立てないといけないので結構な体力勝負となる。貴賓席にはパイプ椅子も並べて、しかもそれが数百個である。人を呼び過ぎだと思うけど国立の学校と考えたらそれくらいが自然なのかもしれない。

 

 何人くらいいるんだろうね、その中に刺客と呼べるような人が。月城さんたちもあれで諦めてくれればいいんだけど。

 

 なんであれ決まったことは覆せない。来ると言うならば叩き潰すだけである。師匠曰く、相手が諦めてからが本番、二度と立ち向かえないように追撃を叩きこんで後悔させるべしとのこと。

 

「天武くん、行きましょう」

 

「了解」

 

 もしかしたら杞憂に終わるかもしれないけど、外部から堂々と人が来る以上は警戒しなければならないと考えていると、鈴音さんに呼びかけられて思考を戻す。

 

 これからグラウンドで各種設営である。学校側の協力もあるとは言え忙しくなるだろう。

 

 生徒会室を出て俺と鈴音さんはグラウンドに、そして帆波さんと七瀬さんは体育館に向かうことになる。ただその前に帆波さんは俺を飛びとめるのだった。

 

「天武くん」

 

「何かな?」

 

「……えっと、あのね」

 

 そしてまた言葉を濁す。視線を下げてこちらを極力見ないようにしている辺り、俺と視線が合わせられないのかもしれない。

 

 やはりメイド姿がどこからか漏れているのだろうか? 生徒会役員が女装してメイドしているとか苦情が彼女の所に来ている可能性も完全には否定できない。

 

「あの、訊きたいことがあって……」

 

 またもや言葉が詰まる。焦らせるのもあれなので暫く待っていると、俺たちの無言の時間は元気の良い七瀬さんの声で破られることになるのだった。

 

「一之瀬先輩、行きましょう!!」

 

 少し離れた位置まで進んでいた七瀬さんだが、帆波さんが付いて来ていないことに気が付いたのか、振り返ってそう言って来る。

 

「ぁ……うん、すぐ行くよ。天武くん、それじゃあまた」

 

 何か話が、おそらくは生徒会役員がメイド女装なんてするもんじゃないと説教するつもりだったのだろうが、七瀬さんのおかげで助かったことになる。

 

 このまま忘れてくれることを期待しよう。遠ざかっていく帆波さんと七瀬さんの背中を見送ってそんなことを思う。

 

 俺は俺で鈴音さんを追いかけるようにグラウンドに向かうことになるのだった。

 

 生徒会は今日も忙しい、そしておそらく明日も忙しいのだろう。ただ鈴音さんと一緒にいられる時間が多くなるのでそれは良い事なのかもしれない。

 

 俺の青春は順調と言うことだろうか、これがリア充と言う奴なのかもしれないな。

 

 忙しくはあるが、日々充実しているのは確かである。勉強に運動に試験にイベント、そして友人と恋人もいるのだ。

 

 こんな時間がいつまでも続いてくれればとても満足である。

 

 

 

 まぁ尤も、この学校に平穏なんてものを期待するだけ無駄なんだろう。

 

 

 

 そんな確信を現実にするかのように、新しい特別試験が翌日に発表されるのだった。

 

 

 

 

 

 

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