ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

185 / 227
お金があれば大抵のことは上手く行く

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つ目の課題、そして二つ目の課題、これら二つを大きな問題も無く乗り越えて俺たちのクラスは上々の滑り出しとなった。どちらも深刻に迷うようなものでもなく、クラスメイトたちも本質は意見を一致させることであると理解しているので試験はスムーズに進むことになる。

 

 ここまで一時間も消費していない、簡単な課題であったこともそうだがまだ本番ではないということだろう。

 

 インターバルを挟んで初めてのトイレ休憩となる。ただ試験は始まったばかりなので誰も席を立つようなこともなく、乗り越えた二つの課題について話し合っているのがわかる。

 

 拍子抜けだと思ったのか気楽な雰囲気も広がっているのが感じ取れた。

 

 俺は軽井沢さんと平田、桔梗さんと清隆、そして鈴音さんと視線を結び合って改めて意思を共有していく。それぞれわかっているのだろう、ここからが本番なんだと。

 

 それぞれと頷き合っていると茶柱先生がインターバルの終了を知らせる。次の課題が俺たちの前に立ち塞がるのだった。

 

 

 課題3 毎月クラスポイントに応じて支給されるプライベートポイントが0になる代わりにクラス内のランダムな生徒3名にプロテクトポイントを与える。あるいは支給されるプライベートポイントが半分になり任意の1名にプロテクトポイントを与える。そのどちらも希望しない場合、次回筆記試験の成績下位5名のプライベートポイントが0になる。

 

 

「いきなり性格悪くなったな」

 

 それは三つ目の課題を聞いて俺が感じた印象である。ここまでの二つはやはりジャブであったらしい。生徒たちを本気で惑わせようとしているのを感じ取れてしまう。

 

 クラスメイトたちもざわざわと困惑した様子であり、どうすべきか迷っているのがよくわかった。

 

 前の二つと違って明確にクラスにメリットとデメリットがある課題であり、今まで以上に意見が分かれることが容易に想像できるだろう。

 

 さてどうすべきかと思考を加速させる。事前の予想と想定でこういった展開があるだろうことはわかっていたが、いざ意見を一致させるとなるとこれがまた難しい。

 

 どのルートを選んでも行き着く先は変わらないと言い切れるだけの準備は前日に済ましたのでそこまで心配はいらないか……まだ本番でもないだろうしな。

 

「投票の前に選択肢2、つまり特定の生徒に付与する選択肢で満場一致になった場合のケースを話しておく。この場合は誰にプロテクトポイントを与えるのかを議論して再度投票となる。当然ながらそこで満場一致とならなければ課題が突破されることはない」

 

 二回連続で意見を一致させなければならない訳か、時間がかかりそうではあるが話の流れ次第ではそういった展開もあるだろう。

 

「どうしようか? 前二つと違ってハッキリとメリットとデメリットがある課題だ。一旦気を引き締めて挑むとしよう」

 

 どこか簡単で浮かれ気分であったので緊張感を持つべきだろうと主張しておく、それも師匠モードでだ。すると皆の意識と集中が高まっていくことがわかった。やはり師匠モードは便利である。

 

 まずはクラス全体の意思を確認する為に投票という流れとなった。当然ではあるが意見は分かれることになるのだろうという推測は、事実そうなる。

 

 

 投票結果 ランダム3名に付与12票 一名を選び付与6票 付与なし22票

 

 意外にもランダム3名に付与が多い結果になったな。もう少し付与なしに偏るかと思ったんだけど。

 

「一回目の投票は手探りとして……皆はどう思うかな?」

 

「選択肢3になるとめっちゃ困るんだけど!?」

 

「俺も困るって!!」

 

 まず最初に声を上げたのは成績下位付近にいる生徒たちである。佐藤さんと池が絶対に嫌だと主張してくる。もし選択肢3になれば貰えるプライベートポイントがゼロになるので必死らしい。

 

「池、佐藤さん、そう焦る必要も無いよ。そうだろう、鈴音さん?」

 

「そうね、仮にもし選択肢3が選ばれて成績下位5名がプライベートポイントを貰えなかったとしても、クラス全体で……いえ、毎月集めているクラス貯金から支給することだって可能だもの。一人の負担はそこまで大きなものでもないわ」

 

 クラスの財布を預かっている鈴音さんは、毎月集めているクラス貯金から支払う方法を提示する。このクラスでは毎月生徒たちからポイントを徴取しているので、プライベートポイントが持って行かれて負担になるのは今更である。

 

「それならば、そこまで否定的になる必要はないでしょう?」

 

「あ、そっか、確かにそれなら大丈夫かも」

 

 佐藤さんも納得した様子である。池もそれならば安心だと胸を撫で下ろしているのがわかった。

 

 これで選択肢3になったとしても大きな問題は無くなったことになる。この試験で重要なのはどのルートであっても納得があることなんだろうな。

 

 ならそれで投票してしまおうかという雰囲気が流れ始めるのだが、それに待ったをかけるように平田が手を上げて見せる。

 

 

「意見良いかな? 僕としては選択肢1、ランダムにプロテクトポイントを三名に付与するというのは議論すべき選択肢だと思う」

 

「でも平田くん、それだとプライベートポイントがゼロになるんだよ、それも半年間も」

 

 軽井沢さんは否定的と言うよりも、敢えてわかりやすく説明する役を意識しているのかもしれないな。女子側の考えを代弁しているような立ち回りでもある。

 

 役割分担を決めていたのでそれで良い、冷静なようで何よりだ。

 

「うん、けれどそれだけの価値があると僕は思う。ただやっぱりプライベートポイントの支給がゼロになることは大きな痛手でもあるのは間違いない……だけど不測の事態が起こった時に安全圏にいられる生徒が三名増えることになるんだ、これは大きいんじゃないかな」

 

「とても大きなストレスになると思うわよ?」

 

「そうだね、堀北さんの言う通りだ。あくまで意見の一つだと思って欲しい……ただ、クラス貯金を考えれば決して完全な0にはならないと思うんだ。プロテクトポイントは簡単に手に入れられないものだしね」

 

「意見の一つとしては一定の理解を示すわ」

 

「うん、僕も決して押し通すつもりはないよ、ただ選択肢3で決まる前にそちらも議論すべきだと判断したんだ」

 

 仮にもし選択肢1になった場合は貰えるプライベートポイントが半年間0になるが、ランダムに三名がプロテクトポイントを貰えることになる。するとどうなるかというと俺たちのクラスは六名が安全圏に入るということだ。

 

 清隆、六助、俺、これが現在プロテクトポイントを持っている三名、無人島とクラス内投票で得た権利である。更に今回の試験で新しく三名が持てたとするならば、結構な余裕が生まれるだろう。

 

 最悪、この六名の誰かを前にだして一度は自爆に近い手段だって取れる。手段が増えるとも考えられるのかもしれない。

 

「悪いが、俺にも意見を言わせてくれ」

 

 次に手を上げたのは啓誠である。こういった場で積極的に主張するのは珍しいと思いながら意見を待つ。

 

「来月からの半年間、俺たちはクラスポイントを増やしていくつもりなんだよな?」

 

「勿論よ、上のクラスを目指す上で停滞していい時期なんてないわ」

 

「ならばプロテクトポイントを得ることは戦略の一つが広まると俺は考える。それを使用することを前提とした作戦なども取れるかもしれない。言い方は悪いかもしれないが、弾は多い方が良いだろう」

 

「幸村くん、なら貴方は平田くんと同様に選択肢1を選ぶべきだと思っているのかしら?」

 

「いや、俺が推す選択肢は二番目。プロテクトポイントを任意の生徒に付与する方だ」

 

「それは、言葉を選ばず言うのなら貴方に付与してということ?」

 

「そうしてくれるなら素直に嬉しいだろうな。けど、現実的じゃない、自分に付与して欲しいと思うのは基本的に全員そうだろうからな」

 

 特にこの学校だととても貴重なものではある。それは間違いない。

 

「しかしランダムな生徒三名にプロテクトポイントを与えたとしてどれほどの効果を発揮するかわからない」

 

「幸村くんは明確に与えるべき相手が浮かんでいるようね。誰に与えたいの?」

 

「戦略的に考えるのならば天武だろうな。だが無人島試験で一位になったことで既にプロテクトポイントを持っているので、ならば堀北に付与するべきだと俺は考えている」

 

「……私に?」

 

「あぁ、OAAでの実力も不満もない。戦力的にも不可欠な存在でもある。ランダムに与える位ならばこれから必要となる戦力に与えてしっかりと戦略的に運用すべきだ。今後龍園や坂柳が堀北を狙い撃ちにすることだってあり得るからな」

 

「なるほどね」

 

「もう一つ言わせて貰うならば、プロテクトポイントを得ても慢心することはないだろうと判断した」

 

「言いたいことはわかるけどよ、高い買い物だぜ?」

 

 自分に付与されることが無ければただプライベートポイントが半分になるだけの課題だからな、本堂のような意見が出ることも自然な流れだろう。

 

「これは投資だと考えればいい、勝つために必要な過程だとな。重要なのは毎月の小遣いじゃなくて最終的な勝利、そして堀北ならば貰えなかったポイント以上の利益を齎してくれると判断しただけだ」

 

「随分な買いかぶりね……暴落するかもしれないのよ?」

 

「リスクを取らないで勝てるとは思っていない」

 

「フッ、フッ、フッ。いいんじゃないかね? 今の提案には私も賛同だよ眼鏡くん」

 

 これまでずっと黙って不敵な笑みを浮かべていただけの六助が初めて会話に参加した。そして意外にも啓誠の主張に賛同する。

 

 いや、別に意外でもないのか、六助にはマネーロンダリング用の会社設立のお礼として1億ポイントほどを渡しているし、無人島試験でもプロテクトポイントを得ているのだ。安全圏な上にAクラスでの卒業も既に確定しているので後はただ学園生活を楽しむだけの立場である。もしかしたらさっさと終わらせる為に意見を誘導しているのかもしれないな。

 

「プロテクトポイントを与える分、堀北ガールには誰よりも必死に頑張ってもらえばいい。君もそう思うだろう、マイフレンド」

 

 同意を求めるかのように六助がそう訊いてきたので、俺は頷きと共にこう返すことになる。

 

 個人的な私情になってしまうけれど、鈴音さんにプロテクトポイントが渡るなら俺としても安心できるからな。

 

「あぁ、確かにランダムでプロテクトポイントを受け取るよりも戦略的な判断だと思うよ。貰えるプライベートポイントは半分になるけれど、それだってクラス貯金を一時的に停止すれば毎月皆が使えるポイントと大差がない額になる。言ってしまえばこれまでと何も変わらない収入と生活になるだろうしさ」

 

 代わりにクラス貯金は半年間の間は増えることは無いのだが、それだって既に十分な額が貯まっているので惜しむようなものでもないだろう。

 

 もしここで反対意見があったとしても、なら別案があるのかという話にもなる。安定的かつ戦略的でもある判断なので、それは投票結果にも反映されることになる。

 

 

 第二回投票結果 ランダム3名に付与0票 1名を選び付与40票 付与なし0票

 

 

 そしてすぐさま誰にプロテクトポイントを渡すのかという投票になり、特に波乱もなく鈴音さんが選ばれることになったので俺としても一安心である。

 

 今後もプロテクトポイントを貰えるような展開があれば積極的に狙っていくのも悪くないかもしれないな。平田や桔梗さんだったり、啓誠や須藤のような生徒にも保持して貰いたい。より安心できる筈だ。

 

 これが有効活用できるか否かは現時点でわからないが、未来の為の布石の一つになれば儲けものと考えるべきなんだろう。投資とはそういうものである。

 

「ここまでは余裕だな」

 

 徐々に性格が悪くなって来ているようにも思えるけど、まだそこまで致命的でもない。しっかりと話し合えばどうとでもできる内容ばかりでだからな。

 

 強い意思で、譲れない何かを固く守らなければならないような選択肢はまで出てきていない。本番はまだ先であるということだった。ここまではどちらかと言えば様子見の段階なのかもしれない。

 

「課題3は以上で終了となる。これより先半年間、プライベートポイントの振り込みは全員が等しく半額となるが、堀北へのプロテクトポイントを今の時点で付与とする」

 

 茶柱先生の宣言にクラスメイトたちは納得するのだった。プライベートポイントが半年間の間半分になるということではあるが、毎月行っていたクラス貯金を停止すれば使える金額はこれまでと大きく変わらないことも大きな理由だろう。

 

 そして先生はタブレット端末を操作して接続された大型モニターに次の課題を映し出した。

 

 

 

 課題4 二学期末筆記試験において、以下の選択したルールがクラスに適用される

 

 

 

 三つある選択肢は難易度が上昇、ペナルティの増加、報酬の減少であった。

 

 これに関しては全ての選択肢でデメリットがあるものだな。利益は一つもない。逆に言えばどれを選んでも大差がないとも言えるものなのかもしれない。ならば少しでもリスクを排する選択肢を選ぶべきだろう。

 

 そして同時に、何を選んだ所で真面目に勉強してしっかりと前に進んで行けば怖くないものである。そんな力説を鈴音さんがした後に行われた二回目の投票でペナルティの増加という選択肢で満場一致となる。

 

 

 これまでにかかった時間は一時間ほど、まだ四時間近い時間が残されていることになる。

 

「次が最後の課題となる。心してかかるように」

 

 あぁ、来るな、この試験の一番性格の悪い部分が。顔を緊張で青くさせている茶柱先生を見ていると、ようやく本命が来たのだということがわかった。

 

 これまでの四つは全てチュートリアル、最初からこの試験はこの課題に向かわせる為だけにあるとさえ思えるものであった。

 

 

 

 課題5 クラスメイトが一人退学になる代わりに、クラスポイント100を得る。

 

 

 

 うん、まぁ、想定の範囲内にあった課題だな。こういった展開が無ければわざわざ特別試験と銘打ったりはしないだろう。

 

 モニターに映し出された課題にザワつくクラスメイトたち、しかし一回目の投票に関しては相談や議論が禁止されているのでとりあえず投票するしかなかった。

 

 困惑と、緊張と、大きな不安と共にそれぞれが指先でタブレット端末を動かして、賛成か反対かの投票を行っていく。

 

 

 

 第一回投票 賛成1 反対39

 

 

 

 今度こそクラスの騒めきがハッキリと耳で感じ取れるものとなった。

 

「誰だよ、賛成に投票した奴は……お前か、高円寺?」

 

 少し苛立った様子で須藤が愚痴り、矛先を六助へと向けてしまう。

 

「おやおや、何の根拠もないのに責められるなんてねぇ」

 

「ふざけんなよ、お前くらいだろうが、こんなひねくれたことすんのはよ」

 

「全くもってナンセンス、そもそも私の中では既に特別試験やクラス闘争などと言うものは決着がついているのだよ。誰が何をしていようが関係のないことだとも。私の心情を教えてあげよう、素早く終わって欲しいの一点なのさ」

 

 億単位のプライベートポイントとプロテクトポイントを持っている六助からしてみれば、何もかもが茶番にしかならないということか。本人が語ったようにさっさと終わらせたい一心なのかもしれないな。

 

「須藤、すまない。賛成に投票したのは俺なんだ。意図しない形で課題を突破することを防ぐ為に敢えて投票を散らすようにこれまで動いてたんだ」

 

「んだよ、それならそう言ってくれよ」

 

「悪かったね、さてこの課題もしっかりと議論していこうか」

 

 クラスメイトたちを見渡してそう宣言してから話を次に進める。ここからが本番なので気合を入れて行くとしよう。たとえ結論ありきの議論であったとしてもだ。

 

「議論って言っても、反対以外ありえなくない?」

 

「いや、もし賛成にした場合はクラスポイントが100貰えるんだ。思考停止して決めて良いことじゃないと思う」

 

 軽井沢さんの言葉を啓誠が否定する。

 

「はぁ? それだと退学する人が出ちゃうじゃん」

 

「わかっている。俺だってそんな展開を望んでいる訳じゃない。結果的に反対で満場一致したとしても、賛成の選択肢を議論して意見をぶつけあってからでも遅くはないと思っただけだ」

 

 誰も退学になりたくはないし、そんな決断をして責任を背負いたくもない。当たり前のことであった。

 

「皆の考えや意見はあるだろうけど、とりあえず俺の話を聞いて欲しい」

 

 このまま放置すると喧嘩になりそうだったので皆の意識と視線をこちらに引き戻す。

 

 俺がやるべきことはいつだって変わらない、どんなときでも自分勝手な目標を目指すだけである。

 

「結論から言わせて貰うけれど、賛成の方向に話を持って行きたい」

 

「おい待てって、それだと誰かが退学することになるんだぞ!?」

 

「落ち着いてくれ、まだ話は終わっていない。賛成で票を固めた上で退学者を選ぶとクラスポイントが100貰える、この特別試験の突破報酬と合わせれば150ポイントが増えることになる。決して少ない数字じゃない」

 

「そりゃそうだけどよ」

 

 須藤の困惑は自然な反応ではある。彼だけでなく他のクラスメイトだって同様だ。

 

「もしこの100ポイントで泣く羽目になったら後悔するだろう。だが退学者を出すだなんて苦々しい経験はしたくはないし誰だってそんな方針には賛成したくはない。そこで提案なんだが、退学者を選んだ上でプライベートポイントによる救済をするのはどうだろうか?」

 

 この学校は性格が悪いけれど「お金さえあればどんな理不尽も吹き飛ばせる」というこの世の真理を看板に掲げている。ポイントで買えない物はないと断言するくらいだし、有事の際にはポイントを払えば退学を回避できるとルール説明にもあった。

 

「クラスポイントも稼ぐ、退学者も出さない、これ以上の利益と結果は無いと俺は思うんだ。ポイント的にも心情的にも、最高の結果じゃないかな」

 

 この方針に関しては前日に平田や軽井沢さん、桔梗さんや鈴音さんとも話し合って決めたことでもある。もしこんな展開があればそういう方針で行くべきだと。

 

 幸いにも金はある。この学校は金があれば大抵の融通は利かせられると主張している。何も問題はないな。

 

 もしかしたらこの試験は俺の資金を削りたい為に作られたのかもしれない……まぁ考えても仕方がないことか。

 

「確かにそれならばクラスポイントも得られて退学者も出ないか」

 

 賛成に関しても議論すべきだと言っていた啓誠も納得した様子である。彼だって別に退学者を出したい訳でもないし、心情的には反対だったんだろう。

 

「ポイントに関してはどうするの?」

 

「それなら俺が工面するから――――」

 

 佐藤さんの質問にそんな返答をするのだけれど、そこで待ったの声がかかる。

 

「待って貰えないかしら……その前に少し話したいことがあるわ」

 

 声の主は鈴音さんであった。この展開は事前に想定していたし相談もしていたので文句があるとは思えないけれど、何か意見があるのだろうか?

 

「天武くんの方針に関しては何も問題はないと思う。この課題を超える上で最高の結果でしょうね……けれど、貴方個人のポイントを使うのは反対よ。退学者の救済に関してはクラス貯金を使うべきだわ」

 

 結局2000万ポイントが減るのならば大した差は無いと思うけれど、彼女の中では大きな意味があるらしい。

 

「無人島で言ったかもしれないけれど、このクラスは一人の生徒に大きく依存している部分がある。何かしらある度に負担をかけている……皆の努力を否定している訳ではないけれど、事実としてそう言った側面があるわね」

 

 鈴音さんの視線がクラスメイトに向けられる。

 

「そして私もまたその一人……けれど、そんな状況に甘んじてはいられない。少しづつで構わないから、一人一人が協力して進んで行きたいと考えているのよ」

 

 最後に彼女の視線は俺へと向けられた。

 

「ただ一人に負担を強いるだけではダメ、私たちはクラスメイトで同じ目標に向かう仲間よ……だから、貴方に甘えるだけでは先がないと思うのよ」

 

 無人島でもそう言っていたな。俺の考えを正してくれた言葉でもある。

 

「だからこそ、退学者の救済にはクラス貯金を使うべきだと主張させて貰うわ。これはクラス全員で集めた資金、一人一人の努力と意思の結果だから今この瞬間に使うべきなんじゃないかしら」

 

 毎月鈴音さんの所に集められている資金は結構な額となっているのだろう。それこそ退学者を救済することに何の問題もないくらいには。

 

「堀北さん、クラス貯金って今は幾らくらいあるのかな?」

 

 平田がクラスメイトを代表してそう訊ねると、鈴音さんはこう返した。

 

「毎月Aクラスから送られてくる100万と、皆から毎月集めているポイント、そして無人島試験で便乗カードによる報酬、それら全てで約3200万ポイントよ」

 

「それだけあるのならば、退学者を救済してもまだ戦略的な運用ができるだけの余裕があるね」

 

「えぇ、そこは心配いらないわね」

 

 特に反対意見も無かったのか、クラスメイトたちはそれぞれ納得したような表情を見せる。

 

 

 

「たった一人に依存するのではなく、全員の力でAクラスを目指すべき、少しづつでもね……勝利とは、思いと努力を束ねた先にあるものだと私は考えるわ」

 

 

 

 そんな彼女の言葉が決定打となり、俺たちのクラスは退学者を出すことで満場一致となるのだった。

 

 その後、誰を退学させるのかという投票に関してはクラス貯金を預かっている鈴音さんが指定されることになり、彼女は2000万ポイントを支払って退学を回避することになり、俺たちのクラスは合計で150クラスポイントを得ることになる。

 

 終わってみればあっという間だったな。なんだったらただプライベートポイントをクラスポイントに変換するだけの試験であったと思う。

 

 お金があれば大抵の融通は利かせられる、それがこの学校が生徒に教えていることでもあるので、正しく教育通りの作戦なのかもしれない。

 

 こうして満場一致試験は終わることになる。後は他のクラスがどうなるかだな。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。