ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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これでこの章は終わり。次は小話となります。


勝利とは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 坂柳視点

 

 

 

 

 

 

「この課題に関しては、敢えて退学者を出してからプライベートポイントで救済する形にしましょう」

 

 五つ目の課題が提示された時、教室では少なくない混乱と困惑が広がりました。

 

 当たり前と言えば当たり前のこと、ここまで明確に生徒を篩にかけているのですから学校側の思惑通りとも言えるのでしょう。

 

「まぁこの100ポイントを逃して泣くなんて羽目になるくらいなら、それが一番だろうなぁ」

 

 橋本くんが予定通りこちらに意見を合わせて来ます。そして真澄さんも頷きを返す。

 

 事前の打ち合わせでこういった展開も想定できたことなので一部の生徒は冷静そのものですね。

 

「プライベートポイントに関してはごっそりと無くなることになるけど、大丈夫な訳?」

 

「そうですね、真澄さんの言う通りでしょう。けれど問題はありませんよ、私たちのクラスは大きな収入がありますので」

 

「でも龍園と笹凪にも毎月払ってるじゃない」

 

 チクリと、真澄さんがかつての葛城くんのミスを責めると、クラスメイトたちの視線が葛城くんに集中していく。

 

「今更責めても仕方がないことでしょう。それに何とかプラスで抑えられています。そう考えると成果は出ていますよ、一定のね」

 

 まさか私が葛城くんをフォローする日が来るとは、人生とはわからないものです。けれどそれもここまで来てしまえば仕方がないこと、内紛を長引かせてしまったことで一定の配慮が必要になってしまう。

 

 それになにより、彼を切り捨てれば綾小路くんや天武くんのクラスに勝てるとは思えない。どんな戦力であろうとも運用して勝率を1パーセントでも上げなければならないのですから。

 

 戸塚くんにも同じことが言えますね。どれほど錆て短い刃であろうとも、捨てるのではなく研ぎ澄まさなければ彼らには届かない。

 

 果たしてしっかり磨いた所で戸塚くんが役に立つかはわかりませんが、ほんの僅かにでもクラスの力になるのならばやるしかないのです。

 

 全てを力に変えてなお届かないかもしれない相手が同学年にいるのですから、どんな生徒であろうと鋭くしなければならない。

 

 私が戦おうとしている相手はあまりにも巨大、武器は幾つあっても足りないでしょう。ならば私は戸塚くんですら戦力として運用できるようにしなければなりません。

 

「葛城くん、何か意見はありますか?」

 

「いや、無い……退学者を選んでから救済する、これ以上の結果はないだろう。だが少し意外でもあった、お前ならばすぐさま特定の生徒を切り捨ててプライベートポイントを消費しない判断をすると思っていたが」

 

「確かにそれも一つの方針でしょう。ですがそれほどの贅沢は許される状況ではありませんよ。以前ならともかく、今はね」

 

「贅沢?」

 

「えぇ、私たちの学年には常軌を逸した実力者がいます。彼と戦い、凌駕する為には、ありとあらゆる努力と戦力が必要です。葛城くんには成績下位者を中心に放課後に勉強会を開いて貰っていますね、それもまた必要なことだと判断したから任せました」

 

 Aクラスは高い平均学力を持っていますが全ての生徒がそうではない。戸塚くんや他にも何名か学力が低い生徒がいる。そんな生徒たちを葛城くんに任せているのは勝利の為でしかない。

 

「既に使えるか使えないかという状況ではありません、どんな刃であろうとも勝率がほんの僅かにでも上がるならば研ぎ澄まさなくてはならない、違いますか?」

 

「いや、その通りだ」

 

「ですので退学者を選んだ後に救済します。たとえそれがどれほどの鈍らな刃であったとしても、最後に彼の喉元に突き立てるのはそれである可能性がほんの僅かにでもあるのならば守らなくてはなりません」

 

 こちらは既に総力戦の構え。あらゆる武器を集め、あらゆる手段を模索して、あらゆる戦力を鍛え上げる。ただそれだけのこと。

 

 最後の一撃がもしかしたら戸塚くんであるかもしれない……可能性としては極めて低いでしょうが、もしかしたらの展開を捨てれるような余裕も贅沢も許されない。

 

 私が戦おうとしている相手はそういう存在、綾小路くんと天武くんは己の全てを賭して挑まなければならない。

 

 だから研ぎ澄ます、戸塚くんであろうともだ。

 

 そうとも、贅沢は許されない。勝つ可能性がほんの僅かにでも上げれるのならば、誰であろうと叩き直してまともな武器とする。

 

 全ては勝利の為に、彼らを凌駕する為に必要なことでしかない。

 

 何よりも、この学校でもし退学者を出さずに全員がAクラスで卒業することができたのならば、それは綾小路くんに勝利するよりもよほど難しい偉業なのかもしれない。天才の証明になるのかもしれない。

 

 一年の最終試験の後に彼と話したことを思い出す。おそらく不可能な目標を、それでもなお目指すと言った彼の言葉を。

 

 これは証明だ、不可能を可能にして真の実力を証明する為に必要なことなのでしょうね。

 

 その上で私は彼らに勝利する。Aクラスで卒業させて貰うのではなく、彼らがポイントで勝手にAクラスに上がればいい。

 

 

今、私の手元には前日に天武くんから渡された8億ポイントがある。しかしこのポイントに手を付けることはできない。

 

 

 もし私がこの8億を使う日が来るのだとすれば、それは完全な敗北を喫した時になるでしょう。

 

 彼は同級生たちの救済を望みながらも、同時にポイントを突き返してくることをどこかで期待しているのかもしれません。その先で余計な不純物を排した闘争を求めているのでしょうか。

 

 

 いつのまにか彼が思い描いている目的に同調している……不思議なものですね。

 

 けれど、その不可能を可能にできたの者こそが真の実力者なのかもしれない。

 

 完全無欠の完膚無き勝利とは、そこに至ること。

 

 そしてそんな彼らに勝利した瞬間に、きっと私はとてつもない甘美な絶頂に震えることになる。

 

 だから挑みましょう、全てを束ねて。

 

 

 

 

「勝利とは、あらゆる者を従え研ぎ澄ました先にあるものです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍園視点

 

 

 

 

「8億だと? お前正気か?」

 

 時任が呆れかえったような、信じられないような声をあげてやがる。まぁまともな感性をしてたらそうなるだろうよ。

 

「俺が酔っぱらってるように見えるのか?」

 

「頭がおかしいってことは間違いないだろうが」

 

「ククッ、そいつはお前が現状を何も理解してねえってことだ」

 

「なんだとッ」

 

 苛立ったようにこちらを睨みつけて来るが無視するように俺は教室の前にある教壇に腰かけた。するとクラスメイト全員の視線がこちらに集中した。

 

「よく考えろお前ら、このクラスは説明するまでもなく脳筋と馬鹿が多い。そんなどうしようもない集団がAクラスになるにはどうすればいい?」

 

「決まってんだろうが、特別試験に勝ってクラスポイントを上げるんだよ」

 

「時任よぉ、そんなもんは大前提だろうが。だから今回の課題でも退学者を選んでプライベートポイントで救済するって言ってんだ。幸いにもポイントには余裕があるからな」

 

「8億貯めるんじゃねえのかよ?」

 

「2000万程度をケチった所でどうこうって額でもねえよ。今じゃねえ、最終的にそれだけあれば良いんだからな」

 

「……不可能だ」

 

「単純な計算だ、今俺たちの学年には毎月どれだけのポイントが学校から流れて来てると思ってやがる。二年だけじゃねえ、一年や三年も考えれば年間で億単位の額は軽く動く」

 

「俺たちの手元には入って来ねえよ」

 

「だが、できれば8億も不可能じゃねえ」

 

 時任以外の反応も見て行く、以前から知っていた伊吹以外はどいつもこいつも間抜け面を晒している。金田は薄々と感じ取っていたのか顎に手を当ててこれからのことを考えているがな。

 

「良いか間抜け共、時任の馬鹿は大真面目に試験に挑んでクラスポイントを上げればAクラスに上がれるなんて儚い妄想をしてるが、現実的に考えれば8億を貯めるのと大差がない夢物語だ。脳筋だけで勝てるほど楽な戦いでもねえからな」

 

「でもアンタはひよりや金田に勉強会を開かせてるじゃない」

 

 伊吹がそんなことを言ってくる、こいつはこいつで脳筋組だから頻繁に参加していたんだったな。

 

「言っただろ、クラスポイントを上げるのは大前提だと。実際にそれが実を結ぶのかどうかはともかく、やらねえという選択肢は無いんだよ。いつかどこかで結果が付いてくるかもしれねえからな……重要なのは正攻法でAクラスになること、そしてプライベートポイントでAになること、そのどちらもが保険であるという点だ」

 

「つまり、どっちも進めて行くってこと?」

 

「これしかねえと決めるよりは選択肢が多い方がマシだろうからな。仮にもし8億貯まらなかったとしても、この中の何人かにチケットはやれるだろうぜ」

 

 そうとも、正面突破だろうと裏口だろうと大差はねえ。結局はどちらも可能性は低いんだから、なら勝率を少しでもあげる為に思考と手段を増やすしかねえ。

 

 金田やひよりに馬鹿どもの面倒を見させているのもその一環、ほんの1パーセントでも勝率が上がるのならば御の字だろう。

 

「時任、テメエはことあるごとに俺にたてついて来たが。入学してからこれまで何をして何を考えて来た?」

 

「あぁ?」

 

「どんな作戦がある? 何を基準にしている? どう勝つ? 何を用意してきた? 何が必要だと思う? 展望や戦略があるのかって訊いてんだよ」

 

「そ、それは……」

 

「もしテメエの話が納得できるものならば、ここで俺が退学してやっても良いぜ」

 

 反抗的なこいつはその言葉に目の色を変える。好機だと思ったんだろうな。

 

「べ、勉強して……試験に勝って……それで……協力して、いや」

 

「そいつはつまり、何もしませんて言ってるのと大差ねえよ。どこのクラスも当たり前にやってることだからなぁ」

 

「だがそれ以外にねえだろうが」

 

「あるだろうが、プライベートポイントを集めるって方法がよ」

 

「現実的じゃねえって言ってんだよ!!」

 

「ククッ、馬鹿と脳筋ばかりで連戦連勝するのも現実的じゃねえっての。良いか、さっきも言ったがまともに勝つなんてものは前提条件だ、並行してプライベートポイントを集めて行く、これがこのクラスの戦略だ」

 

 反抗的な奴だがどうしようもない馬鹿でもねぇ、俺の言っていることに最低限の理解を持っているのは間違いない。感情的に認められねえようだがな。

 

「最初から俺はその為に行動してきた。学校側のルール、各クラスの戦力、ポイントの流れに契約、何もかもがそこに至る為の過程だ」

 

「それは、入学当初に一之瀬さんクラスへかけていたちょっかい等もでしょうか?」

 

 ひよりがちょこんと手を上げて質問してくる。

 

「当然だ。学校側の出方に加えて一之瀬クラスの対処能力が知りたかったからな。余計な横槍が入らなければ賠償金を得る算段だったんだよ」

 

「なるほど、手段はともかくその時から龍園くんは8億を本気で貯めるつもりだったんですね」

 

「言った筈だぜ、俺がこのクラスの王だと……言った以上は勝つ、何かおかしいか?」

 

「いいえ、納得しました」

 

 今になっては懐かしいな、あの時もこうして教壇に腰かけながら宣言したんだったか。

 

「だが計算違いもあった、そこは認めてやる。俺にもまだまだ慢心と甘えと妥協があった」

 

 そして想定していた以上に同学年の奴らは強かった。あの常軌を逸した怪物と不気味な男がいる以上は、こちらも腹をくくって全てを賭して挑むしかない。

 

 余裕綽々で勝てるような相手じゃねえ、何もかもを束ねてもまだ届かねえ、だからつまらねえ反発心を抱く時任だろうが納得させて従えねえとな。

 

 最後に笹凪の喉元に食らいつくのがこいつである可能性も、まぁ1パーセントくらいはあるだろうからな。ならば切り捨てることもできねえ。面倒が極まっているが、アイツに勝つにはほんの僅かな可能性ですら見過ごせない。

 

「で、時任、何か素晴らしい戦略が思い浮かんだのか?」

 

「……」

 

 遂には黙ったか、まぁ俺への反発心だけで視野が狭くなっていた男だ、いきなり戦略を語れと言っても大したことは言えねえだろう。

 

「他の奴らはどうだ? 遠慮なく言えよ、このクラスがどうすれば勝てるのかを」

 

 そして誰も喋らない、教壇に座った俺を見つめるだけだ。

 

 

「何もねえか……なら、あの時に言ったことをもう一度言うぞ、このクラスの王は俺だ」

 

 

 そしてここから先は、あの時に言えなかったことでもある。

 

 

「だからお前ら、俺に力を貸せ……まともに特別試験で勝つことも、8億を貯めることも、決して楽じゃねえ。あぁ認めてやる、俺一人では不可能だ」

 

 全員が驚いた顔をしてやがるな。まぁ俺がお前らに頼ろうとするのは流石に意外だったか。

 

「敵は強い、こちらは馬鹿と脳筋ばかり。だが嘆いた所で何も変わりはしねえ、今あるカードできっちりしっかり勝つだけだ。そして勝利する為にはお前らが必要だ」

 

 前日に笹凪は俺に8億ポイントを渡してきたが、このポイントに手を付けるつもりはねえ。使った瞬間に俺の敗北が確定するようなもんだからな。

 

 この8億は保険の保険、クラスポイントでAクラスになれなかった時に、そして自力で8億を貯めれなかった時に備えての保険でしかない。

 

 自力でAクラスになり、その上でこんなポイントいるかと蹴り返してやれば良い。それもまた前提条件だろうな。

 

「俺はもう恥も誇りも意地も投げ捨ててるぞ、テメエらの何もかもを俺に貸せ、全部を燃料にして勝ちに行くぞ」

 

 俺の全てを賭してなお敵わない、ならここにいる四十人を全て注ぎ込んであの喉元に食らいつくしかねえ。

 

 だからこの試験でもクラスポイントを稼ぐ、そして戦力も守って磨き上げる。どれだけ小さくて脆かろうが牙にしなければならないからな。

 

 時任だろうが真鍋だろうがそれは変わらねえ、まったくもって面倒だなおい。

 

 徹底的に勝ちにいくしかねえ。それこそ限界ギリギリを攻め続ける必要もある。もしかしたら俺はどこかで潰されるかもしれねえがな。

 

 だが問題はねえだろう、もし俺が一線を踏み外して学校を去ることになったとしても、この馬鹿共の面倒は笹凪に丸投げすれば良いだけだ。

 

 そう開き直れば、俺はよりリスクの高い作戦も取れる。

 

 

 

「勝利ってのはな、恥も誇りも意地も、血も肉も努力も意思も、何もかもを火にくべた先に掴み取るものなんだよ……ゴチャゴチャ喚いてねえで、お前らの全部を俺に賭けやがれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一之瀬視点

 

 

 

 

 

 ふと思い出す。以前にあったクラス内投票を。

 

 あの時は南雲先輩から付き合うって条件でポイントを貸す話を貰ったんだっけ。その後に天武くんが……うぅん、笹凪くんがポイントを貸してくれた。

 

 そのおかげで私たちのクラスは特に困ることもなくこの試験を乗り越えることができそう。入学してすぐに始めたクラス貯金を使うべき時が来たのだと思う。

 

 ポイントが潤沢なら、敢えて退学者を選んでそれから救済すれば良い。クラスポイントも貰えて仲間も失うことはない。多分、これがこの試験で一番の結果。

 

「えっと、それじゃあ退学に賛成ってことで良いよね」

 

「良いんじゃないか? プライベートポイントを払えばクラスポイントも増えるんだ、今までの貯金が役に立つよな」

 

 柴田くんがそう言うとクラスメイトたちは一斉に同意してくれた。これ以上ない位の結果だから反対が出る余地が無いんだけどね。

 

「神崎くんもどうかな?」

 

「……問題はない」

 

 ここ最近、思い悩んでいるようにも見えた神崎くんも反対はしなかった。ただその表情は相変わらず深刻なままだった。

 

 きっと……私が不甲斐ないからなんだろうな。

 

「でも流石帆波ちゃんだね、入学してからずっと続けてた貯金だったけど、こんな形で役に立つだなんて。あの時、皆に提案してくれて本当に助かったよ」

 

「だよな、やっぱ一之瀬がリーダーで良かったって思うよ」

 

「うん、やっぱ帆波ちゃんじゃなきゃダメだよね」

 

 クラスメイトが私を褒めてくれる。大したことはしてない……謙遜じゃなくて、本当に大したことはしていない。今、ポイントがあるのだってクラス内投票で天武くんが……違う、笹凪くんが助けてくれたから。

 

 あの時、助けてくれたから、今こうして迷うことなく最善の答えを選ぶことができるんだよね。

 

 だから、私にできたことなんて何もない。ただ助けられただけだもん。

 

「ありがとう帆波ちゃん、帆波ちゃんがいればAクラスも間違いなしだね」

 

「……」

 

「帆波ちゃん?」

 

「あ、うぅん、何でもないよ。それより投票しちゃおっか」

 

 ポイントを使って救済するから迷いようがない。皆は退学者を出す選択肢で意見を一致させることになった。

 

 そして次の投票で退学者を選ぶことになる。皆からのポイントを預かっている私を意見が纏まって満場一致となり、ポイントを支払って退学を回避することになり、私たちはこの特別試験を乗り越えることになった。

 

 皆は笑顔だ、特に苦労することもないままクラスポイントが150貰えたんだから、気持ちはよくわかる。

 

 ただどうしてだろ、私の胸の奥には変な感覚があった。

 

 ここ最近はずっと感じている嫌な感覚、痛いような、チクチクするような、不安と緊張が混ざり合ったそれはいつまでも慣れない。

 

 試験も終わったからクラスメイトたちはそれぞれ帰宅を始めていた。今日はこれで授業もないし、一時間で学校が終わったことから急なお休みみたいな感覚なのかな。

 

「帆波ちゃん、これからケヤキモールで一緒に遊ぼうよ」

 

「あ、うん、そうしよっか」

 

 胸の奥にあるモヤモヤに気が付かないフリをするように私も教室を出て行く。すると同じように満場一致試験を終わらせたのか、笹凪くんたちの姿が廊下に見えた。

 

 きっと上手く終わらせることができたんだろう。凄く安心して余裕が感じられた……笹凪くんなら当たり前のことだよね。

 

「……」

 

 声をかけようかと思ったけれど、笹凪くんの隣には堀北さんがいた、二人は何やら話しながら廊下を歩いていき、最後までこちらに気が付くことはない。

 

「行こう、帆波ちゃん、男子も何人か合流したいみたいだし。カラオケで良いかな?」

 

「大丈夫だよ」

 

 何が大丈夫なんだろう、私にもわからなかった。

 

 クラスメイトと一緒にケヤキモールに向かう途中、私はやっぱり胸の奥にある不安やもどかしさに気が付かないフリをするのだけど、どうしても意識してしまう。

 

 そして自分の右手の小指を左手でギュッと包み込む。そこにある温もりを思い出す度に強くなれる気がしたのに、不思議と今は冷たく感じてしまうんだよね。

 

 今回は上手く行った、けれど次はどうだろう? 更にその次は?

 

 クラスメイトたちは私を頼りにしてくれて、けれどその私は何もできていない。いつだって彼に甘えて助けられてばかりだ。

 

 今回だって――クラス内投票で助けてくれたから余裕があっただけ、そうでなければもっと悲惨になっていたかもしれない。

 

 こんな私がこれからも進んでいけるのかな?

 

 二年生に上がる前に笹凪くんとした約束を果たせるのだろうか。彼に挑んで戦っていけるのかな。

 

 色々な考えや思いがグルグルと回っていくだけ、でも答えは出ないまま進んでいく。

 

 私はこの学校で何がしたいんだろう、どうすれば良いんだろう。小指に触れても答えてくれないし、とても落ち着ける背中の熱はもう思い出すことができない。

 

 それでも笹凪くんと結んだ約束を果たそうと必死になっているけど、自信も結果も上手く繋がらないままだ。

 

 昨日、笹凪くんからは8億ポイントが送られてきたけれど、それは使えない。使ってしまった瞬間に私はもう一生彼と隣り合うことができない気がしたから。

 

 自力でAクラスに上がってポイントを返せるような、そんな凄いリーダーになれたら良いんだけど、今の私は五里霧中だった。

 

 どうすればもっといい方向に進めるんだろう? 

 

 どうすれば恥じることなく向き合えるのかな?

 

 どうすれば対等な存在として隣に立てるんだろう?

 

 

 

 

「どうすれば良いのかな」

 

 

 

 

 その答えは誰も教えてくれなかった。

 

 勝利って、なんだったっけ?

 

 

 

 

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