体育祭が迫る九月、ほぼ設営や段取りと打ち合わせも終わっており、生徒会としても少しだけ暇を作れるようになったので放課後に時間を作ることができた。
後は本番に備えるだけ、最終確認は前日に行う、なので生徒会は久しぶりの休みとなり、そろそろ各方面と打ち合わせが必要だろうということになったので、俺はまずは九号と接触することにする。
彼女はこの学校から支給されたスマホを財布以外の用途で使うつもりがないらしく、未だにアドレスも電話番号も知らないという状態だった。メールや通話が盗み聞きされることを危惧しているのだろうけど、連絡を取りたい時にすぐに話せないのはちょっと不便だな。
仕方がないので一年生のクラスに顔を出して、そこにいないことを確認してからケヤキモールに向かう。
師匠モードに移行してから研ぎ澄まされた感覚で九号の気配を探ると、彼女はカフェの一角でお茶をしていることがわかった。その近くには天沢さんの気配もあり、どうやら放課後に一緒に遊びに来ているらしい。
良い傾向である。あの世間知らずな忍者が人間社会に溶け込めるだなんて素直に驚きでもあった。天沢さんに感謝だな。
「九号、天沢さん、ここ構わないかな」
「せぇんぱい、おひさしぶり~」
「あ、ご主人、どうしたんッスか?」
「相談さ、体育祭のね」
2人が使っていたカフェの席に座ってココアを注文しておこう。
「九号、次の体育祭では外部から人が来るって話は聞いていると思う」
「またとない機会ッスね」
「その通り、坂柳学園長もちょっと脇が甘い人だから、俺たちで対処する必要がある」
「脇が甘いって言うよりは、もしかして繋がりがあるんじゃないッスか、ホワイトルームとかその辺と」
「それがどうかは知らないが、事実だとしてもやることは変わらないよ」
「そりゃそうでやがります」
「君の伝手で入場者リストを入手しておいて欲しい、臭い人がいたら体育祭期間中に襲撃して眠っておいてもらおう」
「無人島であれだけ派手にボコボコにしたんッスから、ここでも突っかかってくるようならそれはもう只の馬鹿でやがりますよ」
「さっき言っただろう、やることは変わらないって」
注文したココアが届いたので味わう。苦めの珈琲はあまり飲めないのでやっぱりこれくらいが丁度良いな。
「そんじゃあ入場者リストは精査しておくでやがります。怪しい奴がいたら海に沈めておくッス」
「そうではなくて、間違っても殺さないようにして欲しい」
「海に沈めたら証拠も残りませんよ?」
「ここは平和な学園だぞ、事故で動けなくするくらいが限界だ。階段でこけるとか、残暑で熱中症になったとか、何故か気分が悪くなったとか、競技中にボールが飛んで来て顔面に直撃したとか、そういう感じで頼む」
俺も一時期は月城さんをとにかく海に沈めたいと思っていたけれど、アレは反省すべきことだったんだろう。若さゆえの過ちだったということだ。海に沈めるのではなく手足を折るくらいで留めるのが冷静な判断だし、普通の学生の対応と言えただろう。
「了解ッス、ご主人がそう言うのなら気を使いましょう」
「君が対処することが難しそうな相手が出てきた場合は俺に知らせてくれ、こっちで処理するからさ」
「ちょいちょ~い、二人とも良いかなぁ?」
九号と体育祭の打ち合わせをしていると、これまで黙って聞いていた天沢さんが話に加わって来た。
「ん、なにかな天沢さん?」
「どうしたんッスか、一夏ちゃん?」
「いや、あのね、放課後のカフェで滅茶苦茶物騒な話してるなって思って。そもそもそう言った話を敵側のあたしの前でするのはどうなのかなって?」
「君を支援する月城さんはもういないじゃないか。ホワイトルームからも追放されたって聞くよ」
「そりゃそうですけどぉ」
「それともこの話を聞いて俺たちを妨害するのかな? 何の意味があってそんなことするのさ、君はもうそんな理由も執着もないだろう」
「後、一夏ちゃんが何をどうした所で大した意味は無いッスよ。邪魔するにしても、死体が一つ増えるだけでやがります」
「だから殺さないようにしなさい。君はもう少し普通の学生という物を学ぶべきだ」
「フッ、フッ、フッ。大丈夫でやがります。一夏ちゃんに色々教えて貰ってるので、ウチはもう完璧なJKって奴ッス」
「すまないね天沢さん、九号と一緒にいるのは苦労するだろう」
「はぁ、もう良いや、二人が私なんて眼中になっていうのがよ~くわかったから」
「そんなことはない、何が阻んで来てもやることは変わらないと言うだけの話さ」
「そうッスね、一夏ちゃんがと言うよりは、一夏ちゃんも含めて全部を叩き潰せば良いだけの話ッス。敵の数なんてチマチマ数えてなんていられね~です」
良いこと言ったぞ九号、確かにその通りだ。敵の数が百だろうと千だろうと最後に立っていればそれで問題はないからな。強さや数ではなくどんな結果を求めるかが重要なのだろう。
外部からもし刺客が来るとして、そいつらが戦車に乗っていたとしてもやることは変わらない。ミサイルをぶっ放してきたとしても最後に立っているのがこちらである為に全力を尽くす。妨害だろうとなんだろうと踏み砕いてだ。
「ところで天沢さんは何か訊いてたりしないのかい?」
「月城さんが学校からいなくなっちゃったんでわかりませんよ」
「いや、一人か二人くらいホワイトルームの息がかかった人は残してるだろ。月城さんと司馬先生は処理したけど、他にいてもおかしくはない……いや、その方が自然な考えだろう。ホワイトルーム生だけに丸投げとか幾ら何でも雑すぎる。九号、そこんとこどうなんだい?」
「教師に一人、生徒にも当然いるッス。ウチが把握している限りはですけど。今の所は派手に動くつもりはね~みたいですが」
「え、そうなの?」
「一夏ちゃんは知らされてないんッスか?」
「知らないかなぁ、だって必要最低限な情報しか回って来ないしねぇ……というか、そこまでわかってるんなら銀ちゃんならとっくに処理してるんじゃないの」
「いや、ウチの仕事は月城の内偵なんで、その仕事も終わったんで報酬以上の仕事は嫌ッス。そんな訳でご主人、体育祭に来るかもしれない刺客を処理する仕事にはポイントを貰えるでやがりますか?」
「当然だ、そこは期待しておいてほしい。あ、天沢さんも手伝ってくれるなら報酬を渡すよ」
「堂々と裏切りに誘ってきますね」
「味方は多い方が良いだろう? 俺も、君もね」
もし天沢さんが敵対するのだとしても、結局俺たちのやることは変わらないからな。九号の言葉を借りる訳ではないけれど、その時が来れば叩き潰すだけである。
逆に言えば、その時が来なければ天沢さんはずっとこちらの味方にできるということでもあるのだから、そりゃ声をかける、当たり前のことだな。
とりあえず味方を増やす、立派な戦略である。これは二年生全体にも言えることだな。今となっては龍園も坂柳さんも帆波さんも、俺の目標を達成させる為に必要な仲間でもありライバルにもなっている。
できることなら八神もそうであって欲しいのだけれど、だいぶ拗らせてるから難しいかもしれない。退学はできることならさせたくないけど、俺にだって優先順位があるので桔梗さんを守る必要があった。
さっさと諦めて普通に学園生活を満喫すればいいと思うんだけど、そう考えられないのが八神なんだろうか。
「実はここ最近、もの凄く不満なことがあってね……ホワイトルームと本格的に敵対することにしたんだ」
「あれだけ月城さんをボロボロにしておいてまだ本格的に敵対してないつもりだったんですかぁ?」
「俺にそのつもりはないさ。いつだって火の粉を払っただけだから……ただ、ここから先は先手必勝で処理していくつもりだ」
「……何があったんです?」
深刻な様子を感じ取ったのだろう、天沢さんも小悪魔的な表情を消して真剣に俺を見つめて来る。
「俺はとてつもない屈辱を味わったのさ。最早ここまでくれば戦争をするしかない。徹底的に叩き潰すことで俺の名誉は回復することになるだろう」
それだけ言い残して俺は注文したココアの全てを飲み干すと、改めて決意を固くしてホワイトルーム殲滅を掲げるのだった。
彼らは潰す、だって俺はメイドにならなければいけないからな。この屈辱は必ず晴らさなければならない。戦士の恥は戦いでしか拭えないのだ。
卒業と同時に殴り込む所存である。覚悟と準備を整えてください。俺から言えるのはそれだけである。
九号と天沢さんとの話を終えてからカフェを移動して、次に俺が向かった先はケヤキモール内にあるライブハウスであった。
地下へと続く階段を下りて薄暗い照明が照らす重厚な扉を開く。そう言えば入学したばかりの頃はこの扉のドアノブを捩じ切ったんだったな。今となっては良い思い出である。
そしてあの時と同じように扉の向こうにあるライブハウスには龍園の姿があった。ただガチャガチャと音楽をかけておらず静かなものであり、相変わらず邪悪な笑みを浮かべて待ち構えていた。
「クク、ここに監視カメラはねえ、酒でも飲むか?」
「ごめん、お酒を楽しめるほど肥えた舌は持ってなくてね、コーラをお願いするよ」
俺は別に龍園を呼び出した訳ではない、その逆で龍園が俺を呼び出したのである。この時期なので迫る体育祭に関して何らかの話があるのだろう。
「石崎と山田はどうしたんだい? いつも一緒にいるし、ボディガードなんだろう」
「そりゃ必要ならそうするぜ、だがアイツらを肉壁にした所で一秒後には挽肉にするのがテメエだろうが。意味のねえ護衛をワザワザ連れて来るかよ」
どんな評価だ、それだと完全に化け物じゃないか。
「それで話って何かな?」
「わかってんだろ、体育祭の件だ」
「だろうね、でもこうして話し合いの場を持つんだから何らかの契約を結びたいってことなんだろうけど」
「間違いではねえが、テメエの考えてる共闘とは違うぜ。そもそも次の体育祭ではどれだけ怪我人だらけの一年生を食えるかが勝負になる。共闘なんざ意味がねえよ」
龍園が無人島でやりたい放題したからな、一年生は主力の大半を欠いた状態で挑まなければならない。運動がそれほど得意でもない者たちを中心に動くわけであり、当然ながら狙い目となってしまう。
今年の体育祭は無人島試験のように全校生徒が様々な競技に任意で参加して競うことになるので、学年が異なる相手とも普通に戦うことになるのだ。そして一年生は主力が怪我をして大半が参加できない、どうしたって狙い目になる。
「なら何の話をしたいんだい?」
「なぁに話はシンプルだ。テメエが個人で一位になった時はクラス移動チケットを取れって話だ」
うん? どういうことだろうか? 確かにこの体育祭では個人の順位も記録されていて、一位を取った場合は男女ともに200万ポイントか期間限定のクラス移動チケットのどちらかを選ぶことができると茶柱先生はルール説明の時に言っていたが、俺たちの学年は三年生ほど独走状態になっている訳でもないのでチケットはあまり旨味がない。
だというのに取れとはどういうことだろうか。
「400万だ」
「うん?」
「400万でそのチケットを買い取ってやるよ」
「破格の報酬だね、体育祭で一位になれば200万かチケットかを選べるけど、普通にポイントを取るよりもずっと利益が大きい」
「そうさ、お前にも利益がある訳だ。悪い話じゃねえだろう」
「そんな邪悪な笑みで言われてもね、裏があると言っているようなもんじゃないか」
「クク、そりゃそうだ」
「で、本音は?」
「言った通りだ、個人賞で一位を取る可能性が最も高いのはテメエだ。そしてチケットを取れば俺が400万で買い取ってやる、200万の報酬の倍だ、シンプルだろう?」
「とてもね、だが裏が見えない取引は嫌だ……回りくどいことはせずに目的を話してくれ、場合によっては協力できるかもしれない」
「協力か……まぁはいわかりましたと馬鹿みたいに涎を垂らす訳もないか」
龍園は手元に持っていた炭酸飲料を一口飲んでこんな話を切り出す。
「三年生の現状はどこまで把握してやがる?」
「南雲先輩が大怪我で入院、桐山先輩は実質リタイア、残った三年生は指揮官不在でグダグダって所は把握している」
「そこだ、南雲の統治はもうガタガタ、無人島試験であれだけの醜態を晒した挙句、なんのポイントも得られず終わったんだ。三年生の中には平然とケチ付ける奴もいて、アイツが掲げているAクラス以外の連中を引き上げるという公約もほぼ破綻してるって状況だ」
「らしいね、集金体制があるらしいけど、無人島試験が皮算用に終わったから不信感は拭えないだろう。南雲先輩の計算だと学年中の便乗のカードを自分に注いだ上で七人グループで一位を取るつもりだったんだ、それが全部吹っ飛んだと考えれば、本当にチャンスが与えられるのかと不安に思うんじゃないかな」
「Aクラスは学年中から集めたポイントで勝ち逃げをするんじゃねえかって噂もあるみたいだしなぁ。笑えねえ奴は多いだろうよ」
もし今の集金体制を続けたとして、じゃあどれだけの人数がAクラスに上がれるんだと考えた時、下手すれば一人二人で終わるかもしれない。そんな不信感を持たれた時点で南雲先輩の統治はガタガタということである。
しかもその本人が入院中なので士気は下がる一方なんだ、三年生の間に広がっている不信感は凄まじいだろうな。
今まであんなに尽くして来たのに、ポイントが思うように集まりませんでしたチャンスは上げれませんなんて笑い話にもならない。
「ん、見えてきた。つまり君は三年生にチケットを売りつけるつもりなのか?」
「そういうことだ」
「誰に売るんだい?」
「今の三年は暫定的に朝比奈とかいう南雲の女が仕切ってる、そいつと話をつけるつもりだ」
「ふむ……南雲先輩の支配体制を何とか維持する為には、ある程度は公約を達成しないといけない、か」
「できなきゃ、三年生は即内乱……ククク、今まで尽くして来たのにって奴だ、馬鹿に一線越えさせるとヤべェぞ、場合によっちゃ死人が出るかもな」
出るかなぁ……無いとは言い切れないよな。南雲先輩とか後ろから刃物で刺されたりしそう。そう考えると本当に深刻な事態に三年生はなっているのかもしれない。
そこまでは大袈裟かもしれないけれど無いとも断言できない。そして朝比奈先輩からしてみれば他のクラスが反旗を翻して内乱状態になることを避けたいだろうな。
南雲先輩に良くも悪くも依存して、彼を中心に物事が進んでいた集団なだけに、ここに来て脆さが浮き彫りになっているらしい。
つまり、それを避ける為には南雲先輩の公約通り、一人でも多くの生徒をAクラスに上げて落ち着かせるしかない訳だ。集めたポイントを還元せずに勝ち逃げなんて姿勢を見せたり見捨てたと思われたが最後、龍園が言う通り滅茶苦茶な状況になる可能性だってある。
だとすればだ、本来はクラス移動には2000万が必要だけど、ここで龍園がもし1000万でチケットを売りつけた場合はどうなるだろうか?
飛びつくだろう、内乱を避ける為に、南雲体制を崩壊させない為に、破格とさえ思うのかもしれない。まさか朝比奈先輩がここまで苦労することになるとは。
今回の体育祭に関しては一位になると200万ポイントか限定的なクラス移動チケットかが報酬で得られるけど、このチケットは三学期になると使えないものである。三年生からしてみれば喉から手が出るほど欲しく、状況が余裕を許さない。
たとえぼったくられているとわかっていても、2000万以下でクラス移動の権利を買えるのならばと考えてもおかしくはない。
「事情はわかったよ龍園、面白い考えだと思う。何より三年生の資金を削れるのは俺としては大きい。幾らで売りつけるつもりなんだい?」
「まぁ1000万くらいになるだろうな、それ以上となれば足踏みするかもしれねえ」
「ん、そんなもんか。だとすると君の手元には俺への報酬を差し引いて600万が残ることになるね」
「そういうことだ……加えて言うのなら、あの面倒な元生徒会長が復帰した時に備えて、三年生からポイントを奪っておきてえからな」
それに関しては同意だ。ポイントが少ないとあの人がやるであろう面倒事の規模も小さくなるだろうし、龍園も上の学年の力を削いでおきたいと考えている訳か。
「ん、足りないな」
「あん? 不満か?」
「報酬の有無じゃなくて、やるならもっと大きく毟り取ろうって話さ。そこで提案なんだけど、君からの報酬はいらないからさ、俺もその商談に一枚噛ませてくれよ」
そこで龍園は足を組み直して机の上に行儀悪く乗せてしまった。人の話を聞く態度じゃないけれど、炭酸飲料を飲みながらも視線はこっちの話を促している。
「君の戦略、凄く良いと思う。南雲政権が崩壊寸前の三年生の現状を考えれば1000万で買えるのなら悪い話でもないだろう。だが君は俺への報酬を差し引けば手元に600万しか残らない。それで終わりじゃあ大した儲けにはならないだろう?」
「もっとデカく稼ごうって話か、当てはあるのか?」
「チケットは多ければ多いほど良い、男女別で一位になると選べる訳だから一つの学年にチケットは最大で2枚、全学年で6枚しか最大で得られない訳だ……実は一年生で高い確率でチケットを得られる戦力に心当たりがある」
「ほう」
龍園の唇が歪む、儲けを大きくできるかもしれないから当然のことだろう。
「その一年は仮にチケットを得たとして、大人しくこっちに渡すのか?」
「Aクラスの生徒だからほぼ確実にね、そういったことに価値も感じないだろうし、何よりこちらに好意的だ」
「勝算は?」
「絶対とは言えないけど、極めて高い確率だ」
「……」
龍園は偉そうに足を机の上に乗せながらも思案顔になる。もし俺たちの学年に2枚以上のチケットを集められれば大きな儲けになることは間違いない。そして三年生の現状なども手伝い、大きな好機になると計算しているのかもしれない。
「悪くはねえか、だがそれだけで終わりじゃねえだろ?」
「あぁ、報酬はいらないと言ったが、チケットの売却金額はそのまま欲しい。首尾よく運べば四枚のチケットを4000万で売却できるかもしれない。折半でどうだ?」
「他には?」
「きっと君は今こう思っているだろう。俺が協力せずに個人で朝比奈先輩と交渉してチケットを売りつけるんじゃないかってね、だから多少譲歩してもこの契約を結びたい、違うかな?」
「遠回しにすんな、さっさと要求を言いやがれ」
「今度の体育祭でそっちのクラスは俺たちのクラスに干渉や妨害をしない、去年みたいに裏でコソコソするのは無しだ。それと可能ならば参加競技が重ならないようにマッチング調整をしたい」
「構わねえぜ。どうせ一年をメインに潰していくんだ、元々テメエらのクラスに干渉するつもりもねえ。坂柳か一之瀬にマイナスを押し付けるのも当然だ」
「契約書も用意できるかい?」
もしここで俺が龍園を無視して個人的に朝比奈先輩と取引した場合は、龍園は全力でこっちのクラスを妨害してくるかもしれない。それはとても面倒だ。ならさっさと利益を山分けにした方が良い
「テメエが俺を信用するというなら作ってやるぜ」
「何も問題はないよ、龍園。敵の数よりも味方の数を多くすることは戦略の基本だからね。俺はそうしてきたつもりだ、これまでも、そしてこれからも」
「それで、敵になったらさっさと潰せば良いってか? ハッ、相変わらず余裕ぶった野郎だ……だが良いだろう、三年の力を削ぐって目的と、体育祭で他のクラスを追い落とすって目的は一致してるんだからな」
やはり龍園はツンデレである、全然可愛くないけど。
なんであれだ、これで体育祭での懸念事項の一つをほぼ潰せたことになる。上手くやれば俺たちの学年に大量のポイントが入って来ることになるので満場一致試験での出費を全て補填できそうだ。
「なら俺と君は協力できる……それともう一つ、男子のチケットは俺が取るとして、女子の方はどうする?」
「ある程度の調整は必要だろうな。大人しくチケットを渡す奴を勝たせねえと」
「特に指定が無いのならば、鈴音さんでどうかな? それか君のクラスの誰かでも良いけど」
そこでまた龍園は思案顔になる。
「アイツならチケットの売却計画に乗って来るか」
「前の特別試験でクラス貯金が減ったから渡りに船と思うかもしれないね」
「いいぜ、なら鈴音を勝たせてやるよ……妨害もしねえし干渉もしねえ、なんだったらアイツが参加する競技には雑魚を宛がってやってもいい、協力関係を作ってやるよ」
「宜しく頼むよ。あぁでもそこまでの八百長は必要ないかもしれないね」
「あぁ?」
「鈴音さんはそんなことしなくても勝ってくれる」
「……今のは惚気か?」
「そう聞こえてしまったかな?」
「テメエも女の趣味が悪いな」
「万が一ということもあるから、状況次第では他の女子生徒に一位を取って貰うこともありえるだろう。その辺の調整と打ち合わせはそっちとこっちでしっかりしておこうか……後、鈴音さんは魅力的な人だよ」
「ハッ、多少は同意してやりてえところだが、ここ最近はそうも思えなくなってきやがった。一年の頃はまだ可愛げがあったんだがなぁ」
うんざりした様子でそんなことを言う龍園は、惚気てしまった俺を見て気持ちの悪いものでも見たかのような顔になる。
「せっかくだから訊くけど、龍園ってどんな子が好きなんだい? 恋人とか作らないの?」
「何が悲しくてゴリラと女の趣味を話さなきゃならねえんだおい、女の自慢がしてえなら俺の視界の外で壁にでも話してろよ」
つれない奴である。俺はいつか龍園と恋愛トークとかしたいんだけど、ライバルとそういう話をするのって凄く青春っぽいからな。
この様子だと先は長そうだ、まぁなんであれ体育祭に向けて準備はまた進んだということである。上手いこと三年生にチケットを売りつけないとダメだな。
俺個人としては、大きなポイントを得られることよりもこの段階で三年生の資金に大ダメージを与えられることの方が大きい。南雲先輩が退院する頃には財布が空になっているかもしれないし、そうなれば今後優位に立てるだろう。
その上で俺たちの学年に大量のポイントが流れてくるならば万々歳だ。ポイントは十分にあるけれども、また面倒な試験を挟まれた時のことを考えて学年全体に余裕を持たせておきたいからな。
そんな訳で三年生たちから毟り取るとしよう。たとえ元手が足りなかったとしても毎月の分割払いとかでも問題ないからな。悪い展開にはならない。
なので頑張らなければならない。少し申し訳ない気もするけれど、三年生たちにとってみれば2000万以下でクラス移動の権利が買えるかもしれないのだから悪い話でもないだろう。
こちらの思惑とは別の人が一位になってチケットを得ることがないように、龍園と協力することになった訳だ。
少なくとも三年生のポイントをこっちの学年に引っ張って来ると言う目的は一致している。相変わらず話の早い男である。
色々な意味で体育祭が楽しみであった。