ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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師匠曰く、気遣う必要のない相手は大切とのこと

 

 

 

 

 

 

 

 龍園との協力関係の構築と契約書の成立によってとりあえず体育祭での一つの懸念であったあのクラスの妨害や攻撃を回避できる目途が立った。

 

 加えてチケットを集めることでそれをのっぴきならない三年生に売りつける方針もある。上手いことやればクラスポイントもプライベートポイントも大量に得られるかもしれないのは大きい。

 

 こういう盤外戦術を考えさせたら龍園は本当に上手いと思う。三年生すら骨の髄までしゃぶり尽くすつもりなのだから質も悪いけど。

 

「そうか、チケットを三年生に売りつける作戦か」

 

「あぁ、悪いものではないだろう?」

 

「面白くはある、三年生の現状を考えれば飛びつく可能性も十分だ……龍園は本気で8億を貯めるつもりなのかもしれないな」

 

 昨日に龍園とした話と作戦を清隆に伝えると、彼はとても感心した様子を見せた。

 

 体育祭も目前に迫ったこの日、最終的な打ち合わせと作戦会議を放課後に俺の部屋に集まって行っていた。

 

 清隆としては外部から来るであろう来客が気になっているのだろう。あれだけ月城さんをボロボロにしてメッセンジャーにしたけれど、ホワイトルームとしては諦めていない可能性もあるので警戒するに越したことはないということである。

 

「チケットは鶚が取るってことで良いんだな?」

 

「そうッスよ、ラクショーでやがります」

 

「忍者が目立って問題ないのか?」

 

「月城の内偵は終わったんで、ウチはもう学園生活を楽しむだけッス。なので認知を上げても問題はないかと、それに卒業すれば皆忘れるでしょうから」

 

 そしてもう一人、この作戦会議に参加する為に俺の部屋には九号の姿もあった。何故かタンスを開いて俺の下着を漁っている忍者は、清隆の質問に気楽に言葉を返すのだった。

 

「九号にはもし刺客がいた場合に備えて動いて貰う役目もある」

 

「……大丈夫なのか? 死体が出てきたとかになればそれは厄介なことになるぞ」

 

 この反応、清隆も九号の存在を懸念しているらしい。こいつならやりかねないと思っているのだろう。忍者への変な信頼が芽生えているということか。

 

「九号、大丈夫だよね?」

 

「それが主の命令ならば、御意のままに」

 

 流石プロの忍者である。命令には基本的に従ってくれるので本当に助かる。

 

「ご主人、綾小路パイセン、とりあえず言われていた通り来場者の情報を入手したッス」

 

 俺の部屋のタンスを漁って下着を物色していた九号は懐から書類の束を取り出した。おそらく教師側にいる協力者から入手したものだろう。

 

「大半が学校を支援しているスポンサーであったり、政府関係者であったりでやがりますけど、その内の何人かはちょっと臭いッスね」

 

 書類の束を俺の部屋にある机の上に並べて、その中から何枚かを取り出して見せつけて来る。

 

「三号にちょろっと身元を洗って貰ったんですけど、こいつらだけ政府関係者でもなければスポンサーでもなかったみたいッス。綾小路パイセンの父親の息がかかった奴でやがります」

 

 清隆は机の上に置かれた書類を手に取って、そこに張り付けられていた顔写真と情報を確認していった。

 

「何人か知った顔がいるな」

 

「そうなのかい?」

 

「あぁ、この男はホワイトルームでボクシングの教官をしていた、こっちは総合格闘技の教官だ、どちらも現役時代にオリンピックでメダルを取ったらしい」

 

「へぇ、そういう人たちが教官をやってるんだね」

 

 ホワイトルームの内情なんて殆ど知らないけれど、その道のプロが指導しているということか。

 

「こっちの軍人崩れも見た顔だな、主に武器術の対処を教えていた」

 

「武器かぁ、俺も師匠からよく教えられたよ。刀にナイフに槍に銃器に、色々と」

 

「ウチもッス」

 

「どこも似たようなものということか」

 

 酷いよね、この現代社会で世間と隔離されて滅茶苦茶な訓練に身を置くだなんて、俺たちの人権はどこにあるんだろうか。

 

 まぁそのおかげで強くなれたとは思うし、師匠のことは神だと思っているけどさ。

 

「この人たちは表向きの身分としては政府関係者ってことになってるッス。現役時代の情報を見る限りでは雑魚なんでそこまで脅威でもないでやがります。サクッと処理して梱包してホワイトルームに送り返しましょう」

 

 これくらいの戦力しか用意していないということは、今回の面倒事に月城さんは関わっていないということだろうか? あの人の立場が外でどうなっているかはわからないけれど、月城さんが指揮するならば最低でも武装勢力は用意する筈だし多分ノータッチだな。

 

「そうするしかないね」

 

「学園で大っぴらに排除すれば目立つと思うが?」

 

 清隆の尤もな疑問に、九号は自信満々でこう返す。

 

「ウチがこの学園に入学してもう半年近いんッスよ。セキュリティーシステムや監視システムはもう掌握済みッス、ドンとお任せあれ。こんなこともあろうかと理事長室のパソコンや学校のメインコンピューターにも裏口を作ってます。監視カメラの映像を差し替えるくらい余裕ッスよ」

 

 九号への信頼がそこまで無いのか、清隆は俺に視線を向けて確認を取ってきた。

 

「この子はそういうのが得意だから安心して良いよ」

 

「わかった、天武がそこまで言うならば信用しよう」

 

「そんじゃあ体育祭で見つけ次第始末するってことで問題ないッスよね?」

 

「殺さないようにしなさい」

 

「手足を折って段ボールに詰めて送り返すってことッスね」

 

 ホワイトルームにね。誰がそれを開けるのか知らないけれど、中身を見たら腰を抜かしそうだ。

 

 そんな感じでざっくりとした打ち合わせを終えることになる。せっかくだから夕飯も俺が御馳走することになり、台所で調理を開始することになった。今日はおでんを作ろうと思う。

 

「ほうほう、ホワイトルームではそんな鍛錬や勉強をするんッスね」

 

「あぁ、近代スポーツ科学を中心としてカリキュラムが作られていた。効率と数字と言うものをとにかく妄信していたな」

 

「でもそれだとスポーツ選手しか作れないでやがります」

 

「それで良いんだろう。別に超人を量産しようって訳じゃないんだ。オリンピックでメダルを取れるくらいの身体能力と、海外の一流大学を難なく突破できるような頭脳を併せ持った個体を量産できればそこがゴールラインだからな」

 

「ん~……そうなるとホワイトルームは二十号が理想的な存在なんッスかね」

 

「オレはあの男のことはよく知らないが、今言った条件に合う男だったのか?」

 

「そうッスよ。確か滅茶苦茶良い大学を飛び級で卒業して、その後従軍して幾つか勲章を貰ってましたから。最も人間に近い超人なんて呼ばれてるでやがります」

 

 台所で料理を作ってると清隆と九号の会話がこっちまで聞こえて来る。

 

 なんというかアレだな、ホワイトルーム関連の情報を知っている九号相手なら清隆もとても気楽に会話ができるのかもしれない。変に気を遣う必要も無いだろうし、ここまで深入りしてしかも狙われたとしても返り討ちできるくらいの力を持っている相手なので、凄くリラックスしているようにも思えた。

 

 実際に楽なんだろうな、俺相手でもそうだけど背景を知っている相手なら言葉を選ぶ必要も無い。同情されることもなければ気遣われることもなく「へぇ」で済ませる相手というのは清隆にとっては実は貴重な存在ではなかろうか。

 

 もしかしたらあの二人は相性が良いのかもしれない、俺は台所で夕飯を作りながらそんなことを思うのだった。

 

「ん?」

 

 いつの間にか清隆と九号は将棋で遊び始めていたのだが、そんな時に彼のスマホが震えて着信を知らせる。

 

「坂柳の父親からだな」

 

「清隆、理事長先生の連絡先を知っているのかい?」

 

「あぁ、娘の方に教えて貰った、少し話す機会が欲しかったからな」

 

 なるほど、それで連絡を取り合っていたのか、そして今度はあちらから連絡をしてきたのだから、体育祭関連の話でもあるのかもしれない。

 

 清隆はスマホを耳に当てて坂柳理事長と何やら話し合う。けれどそれは長く続くことはなく、こんな言葉で通話を終えるのだった。

 

 

「いえ、不要です。オレはこの学校で、敵対者が泣いて謝るまで徹底的に叩き潰すべしと学びました。なので寮で大人しくしているつもりはなく……えぇ、段ボールに詰め込んでホワイトルームに送り返します、なので大丈夫です。暴力こそこの世で最強の力だと考えを改めましたので、コソコソ隠れるつもりもありません」

 

 そうして通話は途切れることになる。坂柳理事長は唖然としているかもしれないな。

 

 

「おでんでんででん、おでんでんででん……はい、今日はおでんだよ」

 

 

 とある有名なサイボーグ追跡者SF映画の特徴的なメロディーをおでんで再現しながら、俺は鍋を机の上に置くのだった。

 

「それで、なんの話だったんだい?」

 

「刺客が来るかもしれないから、坂柳理事長は体育祭の当日はオレを寮で隔離したかったらしい」

 

「断ったんッスか?」

 

「あぁ、相手がもう関わりたくないと思うまで戦おうと思う。体育祭に刺客が紛れていたとしたら、寧ろこちらの姿勢を示す良い機会だ」

 

「なるほど、綾小路パイセンもわかってきたようッスね。その通りでやがります、暴力こそ至高ッ、ウチの師匠も言ってました、とりあえずぶん殴ればだいたい解決するって」

 

「ん、俺の師匠も言ってたなぁ、難しいことは全部叩き潰してから考えれば良いって。話し合いはその後の方がスムーズに済むらしいから」

 

「この世の真理だな、オレももっと早く気が付くべきだった」

 

 変に勝ち目があるとか思われたり、自分たちは優位なんだって勘違いされるから面倒事が増えるということだろう。圧倒的な暴力でまずは一撃を叩きこむ、話し合うにしろ交渉するにしろ、まずはそこからであると師匠は言っていたな。

 

 暴力が全てではないが、暴力は大切なことでもある。清隆もその辺を理解してきたのか、とりあえずホワイトルームの息がかかった相手を叩き潰して自らの姿勢を示したいのだろう。

 

 ぶん殴って立ち塞がる者がいなくなれば、それはつまり自由ということだからな、とてもシンプルである。

 

 遂に清隆もこの境地に至ったか、順調に成長しているようで俺はとても嬉しくなった。お祝いとしておでんの煮卵は一つおまけしてあげようじゃないか。

 

「まぁ細かく打ち合わせした所でどうやっても当日はアドリブが求められる訳だから、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に行こうか」

 

「了解でやがります」

 

「相手がドン引きするくらいの状況にするとしよう」

 

 清隆のお父さんは自分の息がかかった人たちがボロボロになって送り返されて来たらどう思うんだろうな。それで諦めることはなかったとしても、同じことを百回くらい繰り返せばもう関わりたくないと思うのかもしれない。

 

 そうなって欲しいものだ。いつまでもこんなことに頭を悩ましたくもないからな。普通に高校生らしい青春を送りたいものである。どうせ卒業したらメイド姿になる腹いせに潰しに行くんだからもう余生の送り方を考えるべきだ。

 

 田舎で畑でも耕しながら静かに暮らす、そういう老後も悪くはないと思う。ホワイトルームなんていう費用対効果が絶対に吊り合わない上にそれほど強くもない人間を大量に作ったって意味はないのだから。

 

 その施設出身の最高傑作は何を間違ったのかメイド狂いだし、八神は視野が狭いし、天沢さんはほぼほぼ裏切ってるし、もう諦めた方が良いと思う。

 

「おでん、うめ~です」

 

「それは良かった。清隆はどうだい?」

 

「美味いぞ、初めて食べたがこういうものなんだな」

 

「えぇ……おでんなんてそこまで珍しいものでもないと思うけど」

 

「いや、いざ作るとなると手間がかかるだろう。一人暮らしではまず作らないんじゃないか?」

 

「あ~、言われてみればこうして何人か一緒に食べる時くらいか、鍋物なんて」

 

「前からコンビニには売っていたから気にはなっていたんだが、なかなか機会が無くてな」

 

 お惣菜とか弁当とか日用品は買うことはあっても、レジ横にあるおでんは見ているだけだったということか。まぁ絶対に買いたいって感じでもなかったんだろう。

 

「パイセン、ホワイトルームでは、おでんは出なかったんッスか?」

 

「基本的に化学目線の食事ばかりだったからな。より効率的に必要な栄養を取る為の食事に加えて、錠剤やプロテインなどが基本だった」

 

 それを聞いて九号は目をパチクリさせた。

 

「やべ~ですご主人、この世の終わりみたいな場所ッス」

 

「食事が味気ないのは俺も嫌だなぁ」

 

「あぁ、あの場にいた時はそれほど気にならなかったんだが、この学園に来てからはそう思うようになったな。決して食えないほど不味くはなかったんだが、なんて言えば適切なんだろうな……効率重視で熱が無かったというか」

 

 そう言いながら清隆は出汁をたっぷりと吸い込んだ大根を食べる。

 

「お前たちはどうなんだ、幼少期から特殊な訓練を積んでいたんだから、食事制限とかもあったんじゃないのか」

 

「いや、ウチはないッス。喰って寝て鍛えて死にかけてを繰り返しただけなんで。そもそも鍛えるんじゃなくて改造ッスからね、寧ろその為に沢山食べたでやがります」

 

「俺も似たようなもんだな、化学目線なんて鼻で笑う人だったから、改造する為に栄養をとにかく蓄えろって言われたよ」

 

 なので滅茶苦茶食べまくってた。それでも日頃の改造訓練のおかげか太ることはなく、寧ろ空腹に悩むくらいで更に食事が多くなるという繰り返しだったな。それが落ち着いたのはある程度体の改造が終わってからだったか。

 

 一日十食とかの生活だったのに脂肪がつくことはなく、全ての栄養は改造に注がれたということだろう。

 

「綾小路パイセン、他にはなんかホワイトルームの面白トークとかないんッスか? むかつく教官の靴に画鋲いれたとか、同僚に変な奴がいたとか」

 

 九号は煮卵に箸を伸ばしながらそんなことを聞こうとする。やはり清隆の背景だったりホワイトルームのことを知っても大袈裟にするでもなく同情するでもなく、ごく平然と世間話の延長みたいな感じで話てくるな。

 

 そんな九号に清隆も気負った様子や言葉を選ぶこともなく、こちらもまた世間話の延長のような感覚で話す訳だ。

 

 

「面白いかどうかはわからないが、一度だけ教官の股間を――――」

 

 

 気兼ねなく、互いの背景を知りながらも大袈裟になる訳でもなく、同情することもなければ、配慮を感じることもない、まさに勝手知った仲の世間話のようなものはそのまま一時間ほど続くことになる。

 

 やっぱり何だかんだで清隆は大抵のことを「へぇ」で終わらせる九号と相性が良いのかもしれない。

 

 彼にはもっとそういう相手がもっと必要なのかもな、見つけるのは難しいだろうけど。俺はおでんを食べながらそんなことを思うのだった。

 

 

 

 

 

 




綾小路パパ「月城からの報告だと清隆は大きな成長をしているらしいな、細かいデータが欲しいが……そうだ、ホワイトルーム時代のアイツを知る教官を送って比べさしてみよう、これなら差もわかりやすい筈だ」
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