綾小路視点
どうやら坂柳は一皮むけたらしい。オレはそれを体育祭の始まりと同時に知ることになる。
第一回目の百メートル走で自分以外の参加者は一年生で固めて、完全な出来レースで勝利することで勝ち点を稼いだのは素直に感心したほどであった。良くも悪くもプライドが邪魔をしそうではあったが、一年生最後の試験で月城の助力があってなお敗北した経験がアイツを変えたらしい。
出来レースだと非難して、八百長だと笑うことは簡単であるのだが、それでも最終的な勝利を得るのが坂柳であるのならば、それは意味のある行為であった。
勝利への渇望を以前よりも大きくしたとするならば、それは間違いなく強敵となることだろう。
開き直ったとも言えるし、一皮むけたとも言えるし、羽化したとも表現できるのかもしれない。
つまらない意地やプライドよりも先に勝利を目指す、それは正しく戦う者の姿勢である。そして事実として坂柳は初手で王手をかけてきたのだから、その行いはしっかりと結果に結びついている。
強敵だな、改めてオレはそう思った。
坂柳が走った後の百メートル走、二回目のそれに参加して二位という結果になる。その時に生徒用のテントの下で待機していた坂柳が声をかけてきた。
「二位、おめでとうございます。綾小路くん」
「あぁ、そちらも一位だったな、見ていたぞ」
「フフ、褒め言葉と受け取っておきましょう」
「皮肉ではない、本心だ」
なりふり構わず勝利を目指す姿勢は素直に評価できる。それができない者も案外多いからだ。
「だがそう簡単には進まないだろう」
「それはそうでしょうね、龍園くんも天武くんも座したままなどありえないでしょうから……貴方はどうですか?」
「どうだろうな、天武や堀北がクラスを導くだろうから、オレの出番はないかもしれない」
実際、あの二人に任せておけば最善の行動はしてくれる。入学したばかりの頃のクラスではないのだ、それぞれが成長して戦いに挑む覚悟は全員がある程度は整えられた。
「それに、こっちはこっちでやらなければならないことがあるんでな。体育祭を純粋に楽しめないだろう」
「それは残念なような気もしますが、綾小路くんが個人的な都合を優先して動くというのはこちらにとっては喜ばしい展開なのかもしれませんね」
生徒用のテントの下で休んでいた坂柳は、いつもの不敵な笑みを浮かべて立ち上がると、そのまま二百メートル走に参加する為に杖を突いて歩き出す。
「あぁそれと、どうやら招かれざる客人が来ているようです。どうかお気を付けください……今もずっと、綾小路くんを見つめていらっしゃいますよ」
「そのようだな」
「手が足りないのであれば、少しは助力できますが」
「問題はない、最初から排除する方向性で行動するつもりだし、段取りも整えていた」
「フフ、余計なお世話であったようですね」
「そうだ、一つ訊いておきたかった。最高の負け方を求めていた七瀬クラスを味方に付けたお前たちは、一体どれだけの報酬を渡したんだ? 満場一致試験で救済に動いた以上はそれほど懐に余裕がある訳ではないと思うが」
考えられることはそう多くはない、だが坂柳が安易に不利な条件を提示するとも思えないので、やはり学年が異なることを活かしたものになると睨んでいた。
これで一年生の頃の葛城のように定期的にポイントを渡す契約を結んでいたとするならば、Aクラスは資金難に陥るだろうし坂柳がリーダーになった意味もなくなってしまう。
「ご安心を、葛城くんと同じミスはしませんよ。確かに私たちは七瀬さんたちに相応の報酬を渡す契約になっていますが、それは卒業手前のことですので」
「なるほど、Aクラスで卒業できたとしても、できなかったとしても、卒業手前ならば何も困りはしないか」
三年生最後の特別試験で勝とうと負けようと、その時点で順位が決まる以上は、ポイントなど持っていても仕方がないだろう。
卒業式の日にでも七瀬たちにくれてやればいい、下手しなくても1000クラスポイント以上が手に入るかもしれないと考えれば、確かにこの体育祭で敗色濃厚な七瀬たちからしてみれば最高の負け方なのかもしれない。
「だが、そんなことを学校が許すのか?」
「さて、どうでしょうね。ダメならダメで、何か問題でも?」
卒業するのだから渡せなかったとしても何も問題はないか、本当に開き直っているな。
だが直接的に渡すことが難しくてもやりようは幾らでもあるか、この学校は規則を多く設けているがどれも穴だらけだから遠回りしての譲渡なら可能だろう。
例えば、賠償金代わりにするとかだろうか。なんであれ卒業間近でのポイント譲渡ならばAクラスの財政や戦略は今現在は何も脅かすことはないか。
怪しく微笑む坂柳は、そのまま杖を突いて遠ざかっていく。そしてそのまま出来レース要員の一年生と合流した坂柳は二百メートル走に参加して、杖を突きながら長い時間をかけて一位を取ることになる。クラスで最も運動面で足を引っ張るであろう坂柳だが、今回ばかりはその弱点を完全に塞いでいるようだな。
余裕綽々で勝利を得ることができるままならば、きっとあのようなことはしなかった。これもまた成長ということなのだろうな。天武的に表現するならばこれも戦いの作法と言う奴だろう。
アイツは、生物としての強度が高すぎるせいで、どんな戦略や不意打ちや罠であってもそれで片付けてしまうからな。そこは天武の良い所であると同時に弱点でもあるのかもしれない。きっと今回の坂柳の戦略も普通に受け入れる筈だ。
それで自分が殺されてしまっても満足した顔をしそうなので、それはちょっと困る。生物の強度が高すぎるのも考えものなのかもしれない。
天武はきっと、背中から刺されても戦いの作法だとか言いそうだ。なら坂柳の戦略など大した問題とも思わないだろうな。
困った親友である。もう少し心が狭い方がいいだろう。
坂柳の出来レースでグラウンドは混乱の極みではあるが、オレはそんな中でさっさと次の競技であるハードル走に参加することになる。さっきAクラスの生徒が出来レースで一位を取っていたが、二回目には主に三年生が固まっていたので問題はない筈だ。
オレとしては外から来る刺客の対処に全力を出したいのでクラスへの貢献はほどほどにするつもりだった。そしてこのハードル走も二位という結果で終わることになる。
最低限五種目には参加義務があるので次々と終わらせるとしよう。坂柳が出来レースと八百長で勝負を決めに来た以上はクラス順位ではおそらく一位を持って行かれるので全力を出す意味はない。
可能性が低いのならば、次善の策であるチケットの確保にリソースを割くべきだな。
ある程度様子見をしながら、個人賞の一位を狙える相手とマッチングするように立ち回れば良い。全ての競技を出来レースで終わらせることはできないだろうからどこかでそういった機会も巡って来る筈だ。
そんなことを考えながらとりあえず三種目目の競技として事前に参加申請をしていた砲丸投げに参加して勝ち点を確保する。
ずっと背中に感じる視線は今は気にしないことにしよう。どうせこれだけの衆人環視の中で大胆な行動などできないのだから。
「随分と涼しい顔をしているじゃないか」
四種目目に事前申請していた競技は綱引きだった。何名かの生徒が二手に分かれて引っ張り合うことになる集団戦であり、この体育祭は様々な学年が一緒になって挑む性質上、他学年や他クラスと状況次第では協力することもありえる。
この綱引きなどはまさにその最たる例だろう。オレたち側の綱には一年生から二年生、そして三年生も満遍なく集まっており、それは反対側の綱にも同じことが言えた。
その仲間の内の一人、三年生の鬼龍院と桐山が味方なのは幸運と言うべきなんだろう。
鬼龍院はどこか天武と似た眼差しでこちらを眺めて来る。目つきはさっぱり似ていないのに、その視線だけは重なる所があるな。
「どうも、鬼龍院先輩、それと桐山先輩……貴方はドクターストップがかかっていたのでは?」
南雲ほど酷い状況ではなかった筈だが、桐山は全身打撲で体育祭の出場が危ぶまれていた筈だ。
「九月時点ではな……今も軽度の筋肉痛のような症状があるが、参加できないという訳ではない。体育祭の前に学校側に申請してしっかりと許可も取った。元生徒会役員として学校行事を盛り上げない訳にはいかないからな」
「フッ、よく言う、とうに心は折れていただろうに」
鬼龍院の嘲笑いに桐山は憮然とした顔になる。
「聞いてやってくれ綾小路、情けないことに南雲が入院している今だからこそクラス移動のチケットを得ることも現実的だと思ってやる気を出したのだ。現金なものだろう?」
三年生の親玉が入院しており、指揮系統がグダグダであり、積極的に協力して勝とうという勢力も皆無、それならば出来レースにもならないだろうし三年生はクラス闘争がもう終わってしまっているのだ。桐山がチケットを取ることに意欲を出すのも自然な流れなのかもしれない。
既に心は折れているが、目の前に餌をぶら下げればやる気を出すくらいの余裕は残っているらしい。
なにより、南雲の手ではなく自分の力でチケットを取ったという実感は、面従腹背に徹するしかなかった桐山にとっては蜜のように甘いのかもしれないな。
「それで二人は協力して挑んでいる訳ですか?」
確かチケットの転売作戦にはこの先輩も巻き込んだと天武は言っていたな。こっちの懐が潤う訳ではないが、それでも南雲の財布を削れるならば儲けものだと。
そしてこの体育祭では個人競技よりも集団競技の方が稼げる特典が大きい、もしチケットを狙うつもりならば鬼龍院と桐山の利害が一致したとも考えられる。
「協力とは違う、ただ互いに利用しているだけだ」
「そうだな、俺たちにそんな殊勝な心はない」
これが照れ隠しでもなんでもなく、本心からの言葉であることは観察していればわかった。
「俺としては鬼龍院がやる気を出していることの方がよっぽど意外だがな。もう三年生も後半になって、いよいよ焦りだしたのか?」
「さてどうだか、だが私の思惑など桐山にはなんの関係もないだろう」
「それはそうだ……だが、もっと早くやる気を出してくれていれば、また違う結果になったと思わないか?」
「そうは思わないがね、君だって内心では足手まといと変人しかいないクラスだと蔑んでいるんだ、そんな連中で何ができる」
「……そうだな」
これほど冷めきった関係でありながら二年半もクラスメイトとして過ごして来たとするのならば、さぞ教室は嫌な雰囲気が広がっているのかもしれない。
「なんであれだ、足を引っ張らないでくれ」
「そっくりそのままお前に返してやる、これまでずっとダラダラ過ごして来たお前と違って俺はずっと努力してきた、この二年半ずっとだ」
「だとしたら残酷なことだ、桐山の二年半と、私の二年半では価値が違ったらしい」
そういえば鬼龍院は三年生では唯一、学力と運動能力の数値がA+だったか。別にその二つの項目で凌駕していようと総合力では大差ない筈だが、絶え間ない努力をしてきたと自負している桐山は食いしばって苛立ちを露わにするのだった。
こんな調子で本当にチケットを得られるのだろうか? まぁ得られなかったとしてもこちらに損害はないので別に気にする必要もないのだが。
何であれ今は味方、同じ綱を握って同じ方向に引っ張るのだから、それさえ問題ないならばオレから言うことは何もない。
第三回目の綱引き競技が開始されることになり、何の苦労もなくこちら側が二本先取したことで勝ち点を得ることができた。
「次は二人三脚だぞ、急ぐといい」
「黙っていろ、俺に命令するな」
「そう言うな、命令されるのは慣れているだろう?」
最後の最後まで二人は険悪な雰囲気を和らげることはなく、おそらくずっとこのままなのだろうなと確信できるくらいには両者の間に亀裂があることが窺える。
「ではな後輩、君も頑張るといい」
「えぇ、そのつもりです」
鬼龍院は天武と似た眼差しでオレを観察した後に、桐山と一緒に二人三脚に向かうのだった。
桐山の苦労がなんとなく察することができるが、最初から何も期待するべきではないと見切りも付けているのだろう、互いに信頼関係など皆無であることがわかる。
だが他にライバルもいない上に南雲も不在、出来レースで終わることもないだろうからあの二人がチケットを取る可能性は高いか。
桐山はおそらく売ることなどせずにさっさとAクラスに移動するのだろうが、鬼龍院の方はどうだろうな。何かしらの契約を結んでいる訳でもないのでどちらに転ぼうとこちらに損害はないので気にするほどでもないだろう。
願わくば朝比奈にチケットを売却して南雲の資金源を削っておいて欲しいものだ。今後が楽になる。
気にしても仕方がないのでオレは五種目目となる立ち幅跳びに参加して、そこでも二位を得ることになった。これで参加義務のある五種目は終えられたので必要最低限の仕事はしたことになった。
問題なのはここからだ、オレにとってクラスの順位は正直どうでもいい、坂柳が開き直った以上はここからの挽回が厳しいということもある。そして何よりも集中すべきはホワイトルームからの刺客だ。
今もねっとりと絡みつくような視線を貴賓席から向けて来る相手が何人かいる。流石にグラウンドのど真ん中で襲い掛かって来るようなことはしなかったが、ずっと隙は見計らってはいるらしい。
そんな視線を背中に受けながらも、丁度昼時であったことからグラウンドの設置された配給所に向かって昼食を取ることにした。
「綾小路くん、そちらは順調かしら?」
お弁当の配給所には堀北の姿もある。自分の分のサンドイッチともう一人分のカツ丼を受け取った状態で目が合ったので話しかけられてしまう。
「問題はない、勝ち点もある程度は稼いだ」
「そう、後半も頑張りなさい……それと、坂柳さんクラスの動きだけれど」
「把握しているが、今更どうしようもないと思うぞ。天武や須藤たちでAクラスの生徒から勝ち点を奪って、協力関係にある龍園たちと協力して五分といった所だからな」
「五分ね、意外と高いと思うのだけれど」
「甘く見積もってだ」
「なら、より一層勝ち点に拘らないといけないわね」
「チケット確保のことも忘れるな、クラス順位で負けたとしてもチケットを確保できれば最悪にはならない」
「勿論そのつもりよ、でもクラス順位の一位だって諦めるつもりはないわ。クラスメイトにも午後からは可能な限りAクラスの生徒とマッチングして勝ち点を奪うように指示を出している」
「ならオレから言うべきことはなにもない」
いっそこちらも開き直って、Aクラスの生徒を一人一人追い詰めて再起不能にする方針を打ち出しても良いのだが……いや、止めておこう、戦いの作法に反するという奴だなこれは。
オレ一人ならともかく、そこまで開き直れる集団ではないだろう。
堀北はサンドイッチとカツ丼を持ったままテニスコートがある方向に進んでいく。こちらも配給所でカツ丼を受け取ると、そのまま敢えて一人になれる場所へと移動することになった。
最終確認としてポケットの中に入っていたスマホに届いたメールを確認する。そこには昨晩に鶚から届いたメールがあり、監視カメラの映像をダミーに入れ替えられている場所が記されているのがわかる。
鶚の言葉を借りるならば学校のセキュリティーは好きに弄れる状態であるらしいので、今現在この学校には幾つかの死角が存在するということだ。
向かう先は校舎の中、その中に鶚が作った死角の一つである。
保健室近くの廊下に近寄った瞬間に、ここぞとばかりにホワイトルームの刺客たちは動き出してくれた、こちらの都合良く。
まぁ体育祭を行っている現状、校舎の中であった方があちらとしても動きやすいのだろう。わかりやすくもあって助かった。
この保健室近くの廊下にはしっかりと監視カメラがあるが、もうダミーの映像を走らせてある。処理するには絶好の場所なんだろうな。
「久しぶりだな、綾小――」
人気のない廊下でこちらに声をかけてきた瞬間に、全てを言い終わる前に進路を反転させて一気に肉薄すると、その首に手刀を落とす。
「え? あれ?」
この男は確か元自衛官だったか? まだ幼い頃に何度も模擬戦をしたことがあったな。とてつもなく苦戦した記憶があるが、今となってはどこか小さく頼りなく見えるのだから成長というものは恐ろしい。
突然の攻撃に脳を揺らされて体幹が崩れたことに困惑しているのがわかった。どれだけ踏ん張ろうとしても膝は崩れて立ち上がれないのだから混乱しているらしい。ボクシングなどで偶に見られる光景だ。
意識はハッキリしているのに体が踏ん張れない、だから困惑しながら床に転がるのだろう。
そんな倒れ伏した男を観察していると、ホワイトルーム時代の配慮の欠片もない訓練を思い出して少し苛立ったので、追撃として両足を踏み砕いておく。
悲鳴を上げられても面倒なので顎先も蹴り飛ばして意識を飛ばしておこう。これで何も問題はない筈だ。
重傷を負って意識を失った男の襟首を掴んで引きずり回しながら向かう先は近くにある保健室である。そこの扉を開くと薬品や消毒液の独特な匂いが鼻孔を擽った。
ここにいる保健医は鶚の協力者であり、ホワイトルームから来た刺客の処理を任せることになっている筈だが……姿が見えないな、どこかに出向いているのだろうか?
「まぁいいか、こっちでしまっておこう」
幸いなことに保健室には事前に配置しておいた段ボール箱が置いてある。中身の入っていない空っぽのそこに刺客の男を入れておこう。後は勝手に処理されるだろうからな。
「おや、先客かな」
引きずっていた男を持ち上げて段ボール箱にギュッと押し込んで蓋をしていると、保健室の扉が開いて教員の一人が姿を見せた。
「丁度良い、君、彼らも運ぶのを手伝ってくれたまえ。あぁ、君たちはもう良いよ、グラウンドにある臨時医務室に戻りなさい」
その保健医は担架を両手で持っており、同じく担架を手に取って重傷者を運んでいた職員にそう告げると強引に話を打ち切って保健室から追い出してしまう。
残されたオレに押し付けて来るのは段ボール箱だ。そういう段取りであったので困惑もなかった。
担架の上には何がどうなったのか鼻が潰れてしまっている男が一人、そしてもう一つの担架には怪我こそ見受けられないものの、意識を失っている男が一人。
どちらもホワイトルームから送られて来た刺客たちである。どうやってこの状況になったのかはわからないが、流石に相手が悪すぎたらしい。
「ではこの者たちも送り返すという形で問題ないのだよね?」
「あぁ、段ボールに詰めておこう」
「ただ押し込むだけでは途中で意識を取り戻してしまうよ、ここは鶚特製の眠り薬でぐっすりと眠ってもらってからの方が良い」
この保健医は鶚の関係者とのことなのでもしかしたら忍者なのだろうか? 懐から見るからに怪しい薬、或いは毒を取り出すとそれを刺客たちに注射針で打ち込んで行った。
「これで暫く目覚めることはないだろう」
「それではしまっておくとするか」
治療するつもりもなければ尋問するつもりもない、ただ段ボール箱に入れて配送するだけである。
刺客たちを一人一人段ボールに押し込んでいき、しっかりと梱包しておく。一応空気穴も作っておこうか。配送中に死なれても困るからな。
そうやって段ボール箱に押し込めて蓋をすると、配送票を貼り付けておく。届け先は当然ながら埼玉にあるホワイトルームである。
配送票にホワイトルームの住所を記し、受け取り相手にあの男の名前を書き込んでおく。せっかくだから着払いとかにしておこうか?
「それじゃあ後は宜しく頼む」
三つ並んで配送票が張り付けられた段ボールは鶚の協力者に任せておけばいいか。
これが送り届けられて中を開けた瞬間のあの男の顔を思い浮かべると、オレは少しだけ気分がよくなるのだった。
何度でもこれを続けよう、あちらがもう関わりたくないと思うまでずっとな。
鶚や天武曰く、全てを殴り倒して最後に立っていればそれが自由であるらしい。オレとしてもこの世の真理だと思うので相手が折れるまでこれを繰り返すとしよう。
自由って奴はこんなにも簡単なことだったんだと気が付いたのは最近だ。あの無人島で月城をぶん殴って破壊した時に爽快感と共に実感したことでもある。
面倒事はぶん殴って段ボールに詰めて送り返せば全部解決するって、入学した頃のオレに教えてやりたい。