ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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YAMA育ちのBUJINがいよいよ暴れ始めるサバイバル編となります。


夏の特別試験
サバイバル試験 1


 

 

 

 

 

 

 

 常夏の海、夏の日差し、開放感のある空気。

 

 まさに夏のこの日、俺たち一年生たちは以前から予告されていた通り、学校が用意してくれた豪華客船に乗ってこれまた贅沢なバカンスに招待されていた。

 

 とんでもない金のかかりようである。この巨大な客船は完全に貸し切りであり、中にある施設も完全に使いたい放題の贅沢放題が許されている。

 

 さすがは国のバックアップを受けている学校と思うべきなのか、だとしてもやりすぎだと考えるべきなのかわからないが、恩恵を受ける側としては素直に嬉しいものであった。

 

 レストランに行けば食べたことのないような料理があるし、ジムや映画館などもある。一日二日で飽きるなんてことはまずないだろう。

 

「おぉ、船と聞くと嫌な予感しかなかったけど、こりゃ贅沢だね」

 

「どうして嫌な予感なんだ?」

 

 師匠が船に乗ると何故か必ず沈むんだと言っていたからね。

 

「凄く怖い乗り物だって聞かされてたからさ。ほら、船ってよく沈むし……有名な映画でも氷山にぶつかって真っ二つになってただろ」

 

「さすがにこの辺りに氷山はないと思うけどな」

 

「わからないよ? もしかしたらテロリストが乗り込んでるかもしれない」

 

「どんな想定なんだ……」

 

 隣で呆れたような顔をしているのは清隆だ。彼の視線はデッキで繰り広げられている青春劇に向けられていた。

 

「く、櫛田ちゃんッ、俺たち出会って結構経つじゃん? そ、その、そろそろ名前で呼んだりとか」

 

「お、俺もッ、俺も良いかな?」

 

「うん、じゃあ今日から寛治くんと、春樹くんって呼ぶね」

 

「「うおおおおおッ、桔梗ちゃぁぁぁぁあんッ!!」」

 

 デッキの上ではそんなやり取りがなされている。異性と距離を詰める青春という奴なんだろうな。

 

「なぁ笹凪、堀北の下の名前はなんて言うんだ?」

 

 そう言えば須藤の姿が見えないと探していたら、背後からそんな風に声をかけられた。

 

「堀北さんの名前は鈴音だよ。おや、須藤も距離を縮めたい感じかい?」

 

「おいよせ、照れるじゃねえか」

 

 鼻の下を指でかく須藤は、どうやら堀北さんとの関係を縮めたいようだ。勉強会で世話になったことに加えて、期末テストでも散々手を貸して貰っていたからね、意識するのも仕方がないのかもしれない。

 

 少し言葉が鋭い所があるが、本当の堀北さんは優しい人物だし、何より美人なので気持ちはわからなくない。

 

「雑誌に書いてあったんだ、夏は解放的になるってよ」

 

 自信満々で須藤が取り出したのは、よく池や山内が読んでいるモテる為に必要な色々なことが書かれている雑誌であった。若者のファッションの流行であったりトレンドであったりを紹介しているものである。

 

「どれどれ……なるほどね、夏は開放的な気分になる、異性との距離を縮めるには持って来いか」

 

 正直、この手の雑誌には必ず載っているような一文ではあるが、そこは言わない方が良いんだろうか。

 

 だが前向きなのは良い傾向だと思う。堀北さんも信頼できる相手が増えればクラスでの発言力も高まるだろうし。

 

「良いんじゃないかな、案外お願いしたら許してくれそうだし」

 

「へへ、だよな」

 

「……え?」

 

 俺と須藤の会話を聞いていた清隆が、どうした訳か怪訝な顔をしている。彼の中にある堀北さんはそんなことを許しはしない感じなんだろうか?

 

「よ、よし、さっそく試してみるぜ!!」

 

 やる気を漲らせて堀北さんを捜しに行く須藤を見送る。

 

「良かったのか?」

 

「うん? 何がだい?」

 

「いや、堀北が許すとは思えないんだが……それに、あ~……ほら、天武は仲が良いだろ」

 

「そうだね、親しくしているつもりではあるけど」

 

「……須藤と堀北が仲良くなっても良いのか?」

 

 何故そんなことを訊いてくるのだろうか?

 

「良いんじゃないかな、堀北さんにも親しくしてくれる人が一人でも多くなった方がいいだろうし」

 

「いや、そういうことでは……」

 

「あれ、もしかして俺が嫉妬するんじゃないかって思ってる?」

 

「まぁ、そうかもな」

 

「堀北さんとは親しくしているけど、別に恋慕の感情はないよ。俺はまだそれを知らないからね。正直、嫉妬というのもよくわからない……多分、それはそれで興味深く感じるんじゃないかな、楽しみだよね」

 

「……そういうものか」

 

 何やら清隆は考え込む様子である。この間の一件以来、距離が縮まったことで彼の微妙な表情の変化もわかるようになっていた。

 

「それよりさ、今回のバカンス……どう思う?」

 

「この学校がただ甘やかすばかりじゃないってことは、もうわかってる」

 

「そうだね……やれやれ、何をやらされるのやら」

 

 そんな時だ、客船全体に広がる事務的な放送が流れたのは。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。まもなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義のある景色をご覧頂けるでしょう』

 

「だってさ」

 

「見に行くか……」

 

 どうやら特別試験が近いらしい。島を見せるということはそこで課題でもやらされるんだろう。

 

 清隆と一緒に島が見える位置までデッキの中を移動すると、すぐにそれは見えて来た。

 

 そこそこに大きく、高くも低くもない平凡な島である。ここから見える限りでは鬱蒼ともしておらず獣道なども確認できない。危険度の高い獣はいないのだろう。

 

 熊とか猪みたいな奴と戦えっていう課題ならば、何の苦労もないのだけど。さすがにこの高校がどれだけおかしくてもそんなことはさせないか。

 

「おい邪魔だ、どけよ不良品ども」

 

 色々と観察していると、随分と横暴な声が広がった。

 

 確か彼はAクラスの生徒だったかな? 前に観察していた時にスキンヘッドの男子生徒の傍にいたと記憶している。

 

 そんな彼は横暴な口調をそのままに、行動もまた横暴であった。

 

 見せしめのように俺の体を突き飛ばそうとするのだが、それは失敗に終わってしまう。

 

「ん、あれ?」

 

 彼がどれだけ押そうと引こうとも、こちらの体幹は一切揺らがなかったからだ。傍から見ると妙なパントマイムに見えるのかもしれない。

 

「あぁ、ごめんね。俺たちは見終わったからここは譲るよ」

 

「お、おぉ、わかれば良いんだよ」

 

 このまま口論を続けても仕方がないので場所は譲ろう。見るべきものは全て観察できたので問題は無い。

 

 続々とAクラスの生徒も増えて来ているので長居もできない。そっと離れて消えるとしよう。

 

「笹凪くん、大丈夫だった? 喧嘩になるんじゃないかって怖かったんだよ」

 

 どうやら先ほどのやり取りはDクラスの生徒たちも目撃していたらしい。櫛田さんなどはとても不安そうな顔で心配してくれた。

 

「大丈夫だよ、あれくらいで喧嘩になったりしないさ」

 

「そうだよね、笹凪くんって落ち着いた人だもん、大人っぽいからそんなことしないよね」

 

 俺は櫛田さんからそんな評価を貰っているのか。だとしたら嬉しい限りだ。少なくとも子供っぽいと思われるよりは好意的に解釈できるのだろう。

 

「あの島が目的地なんだね。楽しみだなぁ、南の島でバカンスだなんて」

 

「バカンスならね」

 

「え?」

 

 南の島、豪華な客船、贅沢三昧の夏休み、それが事実であればどれだけ楽しかったことか。

 

 一応、最後の望みとしてもしかしたらこのまま何事もなく夏が終わるんじゃないかと藁にも縋っているのだが、一年生全員を集合させる放送が鳴り響いたことで、無情にも吹き飛ぶのだった。

 

 わかっていたさ、別に期待もしていなかった。

 

 やると決めたのならば、しっかりと勝ちに行こう。下手な真似をすると清隆が退学になるかもしれないし、目指すは他の追随を許さない圧倒的な勝利だろう。

 

「よし、やるか、清隆」

 

「あぁ」

 

 拳と拳を重ね合わせる。こういうのって凄く高校生らしいよな。

 

 

「随分と、親しくしているのね……」

 

 

 師匠から聞かされた高校生らしさを堪能していると、客船の中で聞くことのなかった堀北さんの声が届く。どうやら彼女も放送を聞いて部屋から出て来たらしい。

 

「そりゃそうさ、俺と清隆は友人だからね」

 

「そうだ、友人だからな」

 

 珍しく綾小路が自慢するかのような顔でそう言った。まるで堀北さんに見せつけるかのように。

 

「……」

 

 すると彼女は見たことのない奇妙な瞳と表情で、俺と清隆を見比べて来る。視線が右往左往していてちょっと可愛いな。

 

「そう……」

 

 そして最終的には、何故か綾小路を睨みつける形で落ち着いた。

 

「堀北さん、もしかして体調が悪かったりする?」

 

 そんな彼女を眺めていると、普段よりも顔色が悪いことがわかってしまう。客船の中でもずっと部屋に閉じこもっていたのは、もしかしたらそれが原因かもしれない。

 

「え、いえ……大丈夫よ」

 

「薬は? 熱は?」

 

「だから、大丈夫よ……そんな心配しなくても問題ないわ」

 

「そうか、もしまずそうならちゃんと相談するんだよ?」

 

「えぇ、わかってる……もう、本当に面倒見がいいんだから」

 

 ここでそんな必要はないと拒否しなくなった辺り、堀北さんのハリネズミモードもかなり鳴りを潜めたよな。既に入学当初が懐かしくすらある。

 

 期末テストでも勉強会を開いて赤点組の面倒を見ていたことから、クラス内でも堀北さんを認める人は多くなったと思う。

 

 あともう一歩、必要なのはただそれだけだ。

 

「それより、二人とも、これからおそらく試験が行われると思うんだけど……どう思うかしら?」

 

「一筋縄とはいかないんじゃないかな」

 

「だろうな」

 

「そうね、でも好機でもあると私は思ってる。南の島という立地でわざわざ筆記テストのようなこともする訳ない……もっと別の形態の試験だと考えているのだけど」

 

「ん、同意するよ。だとしたら総合的な学力の低いDクラスにもチャンスはある筈だ」

 

「えぇ、どうなるにせよ、勝ちに行くわよ」

 

「でも無理しちゃ駄目だからね?」

 

「わかってるわよ……もう」

 

 強い意思と覚悟を宿した瞳に、少しの照れを隠しながら、生徒たちの前に立つ先生の一人を見つめる堀北さん。やる気は十分のようだ。

 

 釣られるように俺の視線も拡声器を持った先生に向かうと、一年生たちは入念な持ち物検査を受けて島に上陸するようにという指示が出るのだった。

 

 Aクラスから順に島に上陸していき、そこで待っていた先生の言葉を待つ。

 

「今日、この場所に無事つけたことを、まず嬉しく思う。しかしその一方で一名ではあるが、病欠で参加できなかった者がいることは残念でならない」

 

「いるんだよなぁ、病気で旅行に参加できない奴。かわいそ」

 

 池が言うように可哀想ではある。俺は遠出と言えば師匠の仕事を手伝うだけであったので、旅行に欠席するという感覚はあまりわからないが。でも「まだ早い」って言われて置いていかれた時はとても寂しかったのを覚えている。

 

 昔を懐かしみながら、拡声器を使って話している真嶋先生の言葉を待つ。この贅沢な夏休みに水を差すであろう決定的な言葉を。

 

 

 

 

「ではこれより――――本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 

 

 よし、熊でも猪でもかかってこい。

 

 

 

 

 

 

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