ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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リハーサル 4

 

 

 

 

 

 

 色々と波乱もあったものの、リハーサルは平穏無事に進められたと思う。俺たちのクラスも大きな波乱もなく、無事に本番に向けて経験値を蓄積できたのは間違いない。

 

 俺もメイドという経験や接客業は初めてであったので本番に向けて上手く調整できた訳だ。

 

 これも社会経験、この学校を出た後にこの経験が役に立つかどうかはかなり微妙な所ではあるのだが、何が活きるかわからないのでこれで良いんだろう。

 

 被っていたかつらを取り去って、メイドを服を脱ぎ去ると同時に思考を戻す。師匠モードで作った女性人格は頭の奥深くに沈めておくとしようか。また本番に使うことになるんだろうけどそれまでは見なかったフリをするしかない。

 

 さて、かつらとメイド服を脱ぎ去って普段の制服姿に戻るとやはりシャキッとするな。スカートはどうにもなれない、こうしてズボンとジャケットのありがたみを感じる瞬間でもある。

 

 軽く施していた化粧も落として鏡を見る……なんだろうな、メイド姿に慣れてしまっていたので鏡に映る俺の顔が以前よりも女性寄りになったようにも思えてしまう、いや気のせいではあるんだろうけど。

 

 後、クラスメイトが俺を見る瞳に大きな変化があるようにも思える、特に男子はサッと視線を逸らしてきて恐怖を宿しているようにも見えてしまうのだ。

 

 どうやら彼らは天子に恐怖を感じているらしい……南雲先輩といい龍園といいクラスメイトといい、どうしてあんなに可愛らしいメイドを怖がるのだろうか、解せないな。

 

 まぁ彼らのことは気にしても仕方がない、須藤も平田も啓誠も明人も俺を戦慄した表情で見て来るけどこればかりは時間が解決してくれる筈だ。

 

「お疲れさま、天武くん」

 

「あぁ、ようやく休憩に入れたよ」

 

 リハーサルでの俺の出番は終わることになる、これから先は休憩になりせっかくなので各クラスの偵察へ行こうという話になった。

 

 偵察という形ではあるが、要は鈴音さんとの文化祭デートだ。

 

 今日は本番でもないしリハーサルでしかないけれど、当日はそこまで大きな暇が作れないだろうからこの日がベストであった。

 

 鈴音さんも慣れない接客業を頑張っていたな、ただ厨房や受付を担当していてお客さん相手はなかなか難しかったみたいだけど。

 

 そんな彼女も制服姿に戻っている、名残惜しくはあるがやはり見慣れた装いが一番である。

 

「では鈴音さん、よろしければデートして頂けませんか?」

 

 ちょっとおどけたようにそう言って彼女を誘う、すると鈴音さんは少しだけ照れたような顔になるのだけれど、そのまま雰囲気に流されることなく冷静になるのだった。

 

「あ、あくまで偵察よ、それを忘れないで頂戴」

 

「勿論、でも純粋に楽しむことも大切だよ。何を面白いと思うのかが重要だろうからさ。同時に、俺たちが楽しいと思えない出し物ならそこまで脅威じゃない、違うかい?」

 

 当たり前のことだな、面白いと思えたり興味深いと思えないとどうしても人気は低くなる、なので難しく考えずにとりあえず純粋に参加して経験してみるべきであった。

 

「ほら、楽しもう。当日はきっとそんな暇ないだろうからさ」

 

「……そうね」

 

 照れて恥ずかしがりながらも何だかんだでデートを受け入れてくれるので可愛らしいと思う。

 

 そんな訳で鈴音さんとデートである。ついでに偵察だ。

 

「鈴音さんはどこが気になる所はあるかい?」

 

「やはり三年生かしら、大規模な出し物があるのよね」

 

「ポイントの使い方をわかってる感じだよね、借りている場所も広いしさ」

 

 今回の文化祭では店を出す場所はポイントを支払って確保することになる。良い所はやはり高いという訳だ。

 

 そんな中で三年生は立地もそうだが広い場所を主に確保している印象があった。つまりそれだけ大規模な催しを考えているということだろう。俺も気になるのでまずは三年生の偵察に赴くことになる。

 

 まず三年生の催しの中で一番目を引くのは迷路とお化け屋敷を融合させた場所だろうか、どこかの遊園地にでもありそうなその場所は、しっかりきっちりホラーテイストを全面に押し出しており、かなり凝っているのがよくわかった。

 

 なるほどな、これだけ大規模な出し物だともっとチープになるかもと思ったけど、流石は三年生と言うべきかしっかりと仕上げて来ているな。

 

 これはAクラスの出し物なのでそう思うのかもしれない、ポイントも潤沢で他のクラスと違って余裕もやる気もあるからだろう。逆にAクラス以外のクラスはどこか投げ槍な雰囲気もある。

 

 どれだけ頑張っても今更覆らない差というのもあるのだろうが、Aクラスへの移動も名言されていないから余計にと言った感じか。

 

 理由は単純で金欠だからだ、体育祭で5000万ほど吹き飛んだので幾ら南雲先輩でも余裕がない。餌をぶら下げることもできない状態なのでAクラス以外はやる気が無いのだろう。

 

 そんな背景を俺が気にしても仕方がないので、この迷路型お化け屋敷の受付に申請して鈴音さんと一緒に体験するのであった。

 

「せっかくだから手を繋ごうか?」

 

「あら、怖いのかしら?」

 

「いや、こういうお化け屋敷だと怖がる彼女と寄り添って歩くのがお約束かなって思ってね」

 

「ふん、この程度で怖がると思わないことね」

 

 まぁ確かにお化け屋敷でガタガタ震える鈴音さんというのもちょっと想像できないけど、そんな姿も可愛いと俺は思う。

 

「なら、俺が怖いから手を握ってくれるかい?」

 

「……仕方がないわね、そこまで言うのなら構わないわ」

 

 可愛らしい人である。

 

「何かしらその顔は」

 

「いいや、なんでもないさ」

 

 三年生の出し物である迷路型のお化け屋敷を二人並んで歩いていく、体育館を貸しきって作られたこの出し物は最高学年が運営していることもあって既に多くの生徒が偵察に来ている。

 

 通路の先から悲鳴のようなものがこちらに届く、俺はお化け屋敷に入った経験が無いのでちょっと新鮮な気分になるのだった。

 

 繋がり合った指先が少しビクッと反応したのはとても微笑ましい気分である。

 

「これは別に怖がっている訳ではないわ、少し悲鳴に反応してしまった……ひゃんッ!?」

 

 いつも通りのキリッとした表情でそんなことを言うのだけれど、その途中で鈴音さんは大きな反応を示す。

 

 何があったんだろうと足元を観察してみると、通路の下側から冷却したタオルを先端に巻き付けた棒のような物が隙間から出ており、それが鈴音さんの足首辺りに引っ付けられたらしい。

 

 薄暗い通路、お化け屋敷という環境でそんなことをされればなかなかビックリすると思う。

 

 その冷却したタオルが巻きつけられた棒はすぐさま隙間の向こう側に引っ込んでしまう。ああやって驚かす役の人が色々な場所に潜んでいるということか。

 

「……」

 

 さっそく驚かされてしまったことで鈴音さんはもの凄く悔しそうな顔をしていた。

 

「お化け屋敷、良い所だ」

 

「怒るわよ?」

 

「すみません」

 

 心なしかさっきよりも結び合った指先にこめる力が大きい、どうやら彼女も余裕綽々に挑める場所ではないと考えを改めたらしい。

 

「ふん、あんな単純な仕掛けで驚かそうだなんて子供だましも良い所ね……ッ!?」

 

 今度は通りかかった壁の向こう側からドンッと叩くような音が届く、普段ならば気にするようなことでもないのだけれど、やはりお化け屋敷と言う環境だと過剰に反応を示してしまう。

 

「……」

 

 そして鈴音さんはもの凄くイラッとした顔をするのだった。こんな単純な仕掛けに驚いてしまった自分に苛立っているらしい。

 

「勘違いしているようだから訂正しておくけど、私は怖がっていないわよ。ただほんの少しだけ驚いただけ」

 

「うん、わかってるよ」

 

「くッ……その顔を止めなさい」

 

「ふふ、ほら進もう」

 

 薄暗い通路を二人で歩いていく。しかし一定間隔で現れる驚かす為の仕掛けは面白いな。BGMなんかもしっかり流されておりより没入できるように雰囲気作りも怠っていない。

 

 後は緩急も上手いと思う、入口付近はとても単純で突発的な仕掛けが多いのだけど、奥に進むに連れて凝った仕掛けになっていくのだ。当日に招待される来賓は家族連れも多いとのことなので、親子で一緒に入ったりもするのかもしれないな。

 

 子供が泣きじゃくって動けなくなるようなラインは攻めない、あくまでいい思い出として残るように配慮しているようにも見える。やはり三年生は強敵であるとこのお化け屋敷を見るだけで感じ取れてしまうのだった。

 

 こういうコンセプトで攻めるのもアリだなと素直に思う。もし来年に文化祭があるようならばちょっと大胆に動いてみるのも良いのかもと俺は考えた。

 

「貴方は、その、あまり驚かないのね」

 

「なんとなく来るなっていうのがわかるからね」

 

 薄暗闇であっても夜目が利くように訓練したからハッキリと見えるし、通路や壁の向こう側にいる驚かせ役の人の呼吸や気配も感じ取れるのでテレフォンパンチになってしまう訳だ。

 

 来るとわかっているのであまり驚かない、それに何より命の危険もないので、驚けないといった方が良いのかもしれない。

 

 流石にいきなりバズーカとか向けられたら驚くし滅茶苦茶怖いと思うけど、幾ら何でもそんな状況はありえないだろう。

 

 自分だけ驚いている状況に鈴音さんはちょっと悔しそうにしている。いや、あれだな、せっかく一緒にいるんだから同じように驚いておこうか。

 

 なので探知範囲を敢えて狭める、感じ取れるのは指先を結び合った鈴音さんだけにすれば突然にやって来るお化けにもしっかり驚ける筈だ。

 

 師匠から常に周囲の気配を探れと言われて来たし、それが常であったのでとても不安なのだけれど、今だけは許して欲しい。

 

 だって同じ時間を共有したいからね、それも大切である。

 

 そんな俺に向かってさっそく冷たい冷気が吹きかけられる。来るとわかっていなかったのでちょっとビクッとしてしまった。

 

「ふふ、ようやく驚いたわね」

 

 いい気味だと言わんばかりに鈴音さんは満足そうにしている。

 

 どうやら指先から伝わる動揺を読み取られてしまったらしい、ちょっと悔しかった。

 

「な、なかなか凝ってるね」

 

 お化け屋敷怖い、単純な仕掛けばかりなのに非日常の空間を作ってそこでやられるととても驚いてしまう。ただこれはこれで面白いんだろうな。

 

 大なり小なりお祭りというのは非日常を楽しむ為にある、ならこのお化け屋敷はしっかりとそのテーマに沿った出し物ということであった。流石は三年生である。

 

「わ、わぁあああああッ」

 

 ただ突然冷気を吹きかけられたり、通路の向こう側から壁ドンされたりするのは驚けるんだけど、ちょっと恥ずかしがりながら可愛らしい幽霊が飛び出てくるのはあまり驚けなかった。

 

「あれ、朝比奈先輩?」

 

 作り物の井戸の中から飛び出て来たのは白装束の朝比奈先輩である。恐ろしいというよりも可愛らしいと思えてしまう装いだな。

 

 勢い余って前のめりになり倒れそうになった朝比奈先輩を鈴音さんと一緒に支える。お化けをお客が助けると言う構図に余計に恐怖感が吹き飛ぶことになる。

 

「大丈夫ですか朝比奈先輩?」

 

「あはは、ありがとう、助かったよ」

 

「天武くん、知り合いなの?」

 

「三年Aクラスの朝比奈先輩、ほらチケットを買い取ってくれた人だよ」

 

 そんな説明に鈴音さんは納得したらしい。

 

「その説はお世話になりました」

 

「気にしないでよ、私たちにとっても都合が良かったからさ」

 

 おかげで南雲政権が決定的な破綻を回避できた訳だからな、お互いにとって良い取引であったのは間違いない。

 

「あ、そうだ、どうかな私たちの出し物?」

 

 それは演者と客側が通路のど真ん中でする会話なのだろうか? いや、アンケート用紙みたいなものが無いから顔見知りに直接聞きたいのかもしれないな。

 

「良いと思いますよ、非日常というものをよく表現できていますし、家族連れをターゲットにしているのでやり過ぎてもいない、良い催しだと思います」

 

 素直にそう伝えると朝比奈先輩は喜んでくれた。

 

「仕掛けは単純ですけど、予算の上限を意識しながら苦労しているだろうことも伝わっています、その上でしっかりと驚かせてくるので三年生は流石ですよ」

 

 これも本音である。嘘偽りなく面白いと思っていた。

 

「そっかぁ良かった、何だかんだで不安もあったからね」

 

 リハーサルをしておいて良かったということだ、おそらく俺たちに把握できない部分できっと三年生にもミスや問題点が浮き彫りになったことだろう。

 

「まぁ尤も、こうして通路のど真ん中で演者と客が話し合うのはどうかと思いますけどね」

 

「それもそうか、それじゃあ続きをどうぞ、ここから先も沢山お化けがいるからね」

 

 朝比奈先輩も楽しんでいるようでなりよりである。生徒会冥利につきると言うものだ。

 

「あ、最後に訊きたいんだけどさ、何か雅の奴がゲッソリした顔で寝込んでるんだけど、何があったか知らない?」

 

「さぁ、俺にはわかりません。変な物でも拾い食いしたんじゃないですか」

 

「う~ん、そっか、なら良いや」

 

 南雲先輩、体調を崩しているのか、一体何があったんだろう。天子と夢のような一時を過ごした後に体調を崩す何かがあったのかもしれないな。俺は関係ないだろうから理由は知らないけど。

 

 まぁ大人しく寝込んでくれているのならこちらとしても何も言うまい、妨害とかいらないちょっかいを出してこないだろうからな。

 

 そのまま俺と鈴音さんはお化け屋敷を全て踏破して出口に辿り着くことになる。その瞬間に鈴音さんは結んでいた手を解いてしまったのは残念であった。

 

「三年生はやはり強敵ね」

 

「あぁ、上手いよね、色々と」

 

 俺たちのメイド喫茶も決して負けていないけど、インパクトや凝り具合はこのお化け屋敷だってしっかりしている。限られた予算内で最高のパフォーマンスを発揮できるように趣向が凝らされていた。

 

 他の三年生クラスはやる気がイマイチ感じられないけれど、三年Aクラスは立派なものである。それが俺と鈴音さんの感想に落ち着いてしまう。

 

「鈴音さん、次はどこに行こうか?」

 

「グラウンドかしら、少し気になる場所があるのよね」

 

 お化け屋敷がある体育館から今度はグラウンドへと移動する。そこでも様々な生徒が色々な店を開いている光景が広がっていた。

 

 別に一つのクラスで一つの出し物と決まっている訳ではなく、生徒たちは各々が自分の予算内で出来ることを懸命に実行しているということである。ウチのクラスからも主戦力であるメイド要員以外の手空きの生徒たちが個人で出店をしたりしている。

 

 このグラウンドにはそういった出店が幾つか並んでおり、なかなか盛況な様子がうかがえる。当日に来賓が来ればまた盛り上がるんだろうな。

 

 せっかくなのでクラスの男子たちが運営している出店を覗いて問題がないか確認するとしよう。ベビーカステラだったり焼きそばだったりとお祭りあるあるな商品が並んでおり、良い匂いが漂ってくる。

 

 こういう雰囲気は凄くいいな、物凄くお祭りって感じだ。

 

「啓誠、どんな感じだい?」

 

「悪くはない、戸惑うことも多いがな」

 

 焼きそばの屋台には啓誠がいた、他にも明人やクラスの男子たち数名で運営しているようである。

 

「幸村くん、衛生面と材料の管理は徹底して頂戴、くどいようだけどね」

 

「わかっている、当然のことだ。食中毒などを出せば大問題だからな、その辺はやり過ぎなくらいに注意するつもりだ」

 

 屋台の裏には冷蔵庫があり、除菌用のアルコールスプレーで定期的に手を清めることを学校側は徹底している。啓誠の言う通りこういうのはやり過ぎなくらいで丁度良いだろう。

 

「包丁だったり調理器具もしっかりと管理して除菌しておこう」

 

 屋台の奥でザクザクと材料を切っていた明人もそう言ってくれた。食品を提供する以上はこういう部分は本当に徹底しないといけない。

 

 見た限りでは大きな問題はないように思える。学校側からもしつこいくらいに衛生面は注意されているので生徒たちはしっかりと対応していた。

 

「明人と啓誠から見てグラウンドで目立つ催しは何かな?」

 

「やはりあれだろうな、どうしても目を引く」

 

「凄い一年がいるぞ、サーカスみたいな動きをする奴だ」

 

 啓誠と明人はグラウンドの中でも特に目立つ出し物に視線をやった。

 

 そこに広がっているのは無数の遊具……いや、竹林であった。いつのまにかグラウンドの一角に幾つかの竹が突き刺さって剣山みたいになっている場所がある。一定間隔で並べられたそれはしっかりと固定されており倒れそうにない。

 

 

「とりゃッ!!」

 

 

 その竹の剣山の上を身軽に飛び回るのは九号だ。彼女は重さを知らない体を駆使してグラウンドに突き刺さった幾つかの竹の上を飛び回り、時に回転したり、時にひねりを加えたりしながら、オリンピックの体操選手もビックリするような動きを見せているのだ。

 

 細い竹の先端から先端へ飛び移る時にクルクルと空中で回転して見事に着地する。平地ならばともかく不安定な足場の、それも先端を斜めに切って尖らせた竹の上でやるのは軽業師も驚愕するだろうな。

 

 ピョンピョンと竹の先端を飛び移りながら空中で回転して捻りを加えて、更には懐から取り出した暗器を両手に握る。

 

「行くよ鶚さん」

 

 すると地上で控えていた九号のクラスメイトと思われる男子生徒が空中を飛び回る九号に向けて幾つかのリンゴを投擲するのだった。彼は確か体育祭でペアを組んでいた子だったな。

 

 投げられたリンゴは空中で軽業を披露する九号の上まで届く、すると彼女は手に持っていた暗器をそれに投げつけてその全てを命中させるのだった。

 

 リンゴは五つ、それら全てに細長い手裏剣が投げつけられて一つも外すことなく突き刺さり、ウニのような姿になってしまう。

 

 そして九号はクルクルと回転しながら別の竹の先端に美しく着地する、見事な軽業と言うしかない。

 

 その瞬間に見物していた他の生徒たちからは「おぉ」と感嘆するような声が広がったのだから、本当に見応えのある動きだったんだろう。

 

「凄いわねあの子……サーカスで働いた経験でもあるのかしら。OAAではそこまで突出した運動能力を持っていなかった筈だけど」

 

 鈴音さんも感心するような、それでいて疑うような感想を漏らしている。

 

 九号も月城さんの内偵が終わったこともあって実力を隠したり敢えて目立たない作戦をする必要がなくなったからはっちゃけてるのかもしれない。まぁあの子が学校生活をしっかり楽しんでいるのなら俺としては嬉しい限りである。

 

 どうせどれだけ認知されても最後には忘れられてしまうのだ、良い思い出であったと九号が振り返る時が来ればそれで良かった。色々とアレな子だけど十六歳の女子高生であることは変わらないのだから、青春は大切だ。

 

「なんであたしがこんなことしないといけないのよ~!?」

 

「ほらほら、一夏ちゃんも頑張るッス。教えてあげた体捌きを披露する時っスよ」

 

「忍者と一緒にすんな!!」

 

 どうやらあの滅茶苦茶なサーカスには天沢さんも巻き込まれているらしい。竹の足場のすぐ隣に作られた大きめの簡易空中ブランコで二人は見事な軽業を披露してくれる。

 

 天沢さんは文句を言いながらも空中ブランコに手をかけて振り子になると、最大まで上昇した瞬間にブランコを握っていた手を放して空中でクルクル回転する。そんな彼女の両手を落下する前に九号が掴むとそのまま二人は別のブランコに移動するのであった。

 

 九号が忍者だし不思議ではないけれど、天沢さんもあんな無茶ブリにしっかり付いていける辺り流石だな、ホワイトルームで運動は散々したんだろうけどサーカスみたいな動きまでは想定していないだろうし、努力の賜物ということか。

 

 学生レベルを超越した見事な軽業に見学していた生徒からはまた感嘆の声が広がる。一流のサーカスにも負けないほどの動きだから見応えがあるんだろうな。

 

「一年生もなかなかやるわね」

 

「まぁアレは一年生というよりあの子たちだからできたことだろうけど」

 

 実際に一年Aクラスは別の催しをメインにしている。アレは完全に九号と巻き込まれた天沢さんと男子生徒が個人でやっていることなんだろう。

 

「それにしても、凄く見応えがあるのだけれど、どうやって料金を支払うのかしら? オープンスペースで堂々とやっているけれどあれでは誰にでも観れることになる、利益が上げられるとは思えないわ」

 

 これが本当のサーカスのように巨大なテントの中に観客を招いてやる形なら入口で入場料を取ったりできるんだろうけど、そんな壁はないので確かに誰でも見放題ということになる。それもタダで。

 

「あ、こっちにQRコードがあるよ。これを読み取ると一定のポイントを支払えるシステムみたいだ」

 

 九号がやってるサーカス会場の付近には看板が立てられており、そこには支払い用のQRコードがあった。

 

「これはつまり、支払いは観客の自由意思に任せるということかしら」

 

「あれだね、おひねりとかそういう奴だ」

 

「……利益が出ると思う?」

 

「どうだろう、でも見応えがあるから、ある程度は支払っても良いと思うんじゃないかな」

 

 タダ観する人もいるだろうけど、支払う人だっている筈だ……そもそも九号に儲けるつもりはないように思える。完全に自分が楽しむ為にやっているんだろう。自己満足で完結しているのでタダ観だって歓迎するかもしれないな。

 

 実際にどれだけの利益を上げられるのかはわからない、その日の流れと来賓のモラル次第では大きな黒字になる可能性だって十分にある。

 

 九号的にはどっちでも良いんだろう、友人と一緒に文化祭を楽しめればそれで満足なのかもしれない。

 

「ほら一夏ちゃんもう一回行くッスよ、次は五回転してから捻りも加えるッス」

 

「……もう好きにして」

 

 まぁ、巻き込まれた天沢さんにはちょっと同情するけど。

 

 彼女には今度何かを奢ろう、そんなことを思った。

 

 

 

 

 

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