ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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リハーサル 6

 

 

 

 

 

 

 

 

 帆波さんがどこかに行ってしまったことで無人となってしまった屋台は放置することにした。余所者の俺にはどうしようもないことである。避けられつつある俺がどこかに行けばその内に帰って来るだろうと考えたこともある。

 

 ずっとこのままというのもアレなので、彼女とは話す機会が必要だな。

 

 だがとりあえず今は偵察……ではなくデートだ。リンゴ飴を持って鈴音さんが待っているベンチへと戻っていく。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 鈴音さんもあまり食べた経験がないのか、興味深そうに小さなリンゴ飴を見つめている。俺も似たようなものなので気持ちは凄くわかってしまう。

 

 被せられている透明のビニール袋を剥ぎ取ると真っ赤な飴が露わになった。なるほど、まさにリンゴ飴だな。

 

「美味しいね。流石は三種の神器」

 

「そう言えばこんな味だったわね、思い出したわ」

 

「前にも食べたことが?」

 

「子供の時の話よ、兄さんと一緒に参加した地元のお祭りで食べたことがあるの」

 

「あぁ、堀北先輩と一緒にか」

 

 小学校の頃の話だろうか? さぞ可愛らしかったことだろう。

 

 せっかくなので思い出話を聞きながらお祭り気分を味わうとしよう。追加で近くの屋台から焼きそばやたこ焼きを注文して昼食をするのだった。

 

 うん、どれもこれもお祭り価格で、飛びぬけて手間がかかっていたり拘りがある訳でもないけれど、お祭りという環境が最高のスパイスとなっているのかとても美味しい。

 

 いつか卒業したら他のお祭りにも参加したいものである。修業時代はそんな暇が無かったので楽しみだ。

 

 2人で屋台料理を楽しみながら昼食を終えると、校舎に戻って偵察を行っていくことになる。他学年もそうだけどやはり意識するのは同学年なんだよな。

 

「あれは……八神くんかしら?」

 

 校舎に戻る為に下駄箱で靴を履き替えるのだけれど、その時に一年生の下駄箱付近に八神の姿があることを鈴音さんが気が付いた。

 

 彼は外に出ようとしていたのか靴を取り出していたのだけれど、その動作が止まって中を何やら覗き込んでいるのが見える。

 

 そして八神は中から手紙らしき物を取り出すのであった。古典的だがラブレターと言う奴なんだろう。尤も、中身はかなり怪しいんだろうが。

 

「やぁ八神、ラブレターでも貰ったのかい?」

 

「え、あ、笹凪先輩、それに堀北先輩も……なんだかお久しぶりですね」

 

「貴方は怪我で長く離脱していたもの、そう考えてしまうのも仕方がないわよ」

 

「そうですね。あ、堀北先輩、生徒会長就任、おめでとうございます」

 

「ありがとう……尤も、他に候補がいなかったから滑り込めただけだけどね」

 

「あぁ、そう言えば一之瀬先輩は生徒会を辞められたんでしたか」

 

「えぇ、だから相変わらず人手不足なの……見た所怪我は順調に治っているようだし、八神くんの復帰も願いたい所なのだけれど」

 

 鈴音さんはコルセットの取れた八神を見てそんなことを言った、目立つギブスは全て取れており松葉杖も手放しているのでかなり回復しているんだろうことがわかった。

 

 まだ本調子には遠いだろうが、リハビリを繰り返せば完全復活となるだろう。そんな様子である。

 

「そうですね、リハビリがてらそろそろ生徒会に復帰しようと思います。その時は宜しくお願いしますね」

 

「待っているわ……所で、貴方が持っているものなのだけれど」

 

「あぁ、これは、何と言いますか……ラブレターという奴なんでしょうかね?」

 

 苦笑いと共に照れた顔をする八神ではあるが、その内心までは測れない。もしかしたら本当にラブレターである可能性も否定はできないからだ。

 

 何だかんだで人気のある奴だからな、生徒会役員で成績も優秀、紳士的な所もあるので一年ではかなり女子からの評価が高いらしい。ラブレターを貰っても不思議ではないんだろう。

 

「しかし下駄箱のラブレターとは、随分と古典的だな」

 

「笹凪先輩もそう思いますか……やっぱりそうですよね、寧ろ僕はラブレターよりも挑戦状のようなものなんじゃないかと思ってますけど」

 

「挑戦状?」

 

「えぇ、まぁ中身を見てみないことにはなんとも言えませんけどね」

 

「ラブレターだったらしっかりと考えた方がいいぞ」

 

「そうします、これがどちらであったとしてもね……ふふ、楽しみですよ、ようやく僕も本気になれそうだ」

 

 流し目で意味深そうなことを言った八神は、微笑と共に靴を履き替えて外に出て行くのだった……まるでこれまでは手を抜いていたかのような言い方だったけど、肝心な時に突き落とされているようでは本気がどれだけ凄くても意味がないぞと言ってやりたい。

 

 彼に関しては色々と悩みどころではあるんだよな、天沢さんのようにもう少し自重してくれたらいいんだけど、友達でも見つけて学園生活を楽しんで欲しい。

 

 だけど彼の執着や執念とでも言うべきものはずっと清隆に向いている、そこにしか視線を向けられない為にかなり面倒事になっているんだよな。できることなら退学なんてさせたくはないけれど、桔梗さんだったりこっちのクラスメイトを利用して攻撃して来るのは正直迷惑でもある。

 

 可能ならば動きを封じる形で終わらせたいのだけれど、だが果たしてそうなったとして八神が大人しく天沢さんのようになるのかと想像してみると……まぁ無理だろうなという結論になってしまう。

 

 何をどうしようが最後には八神は清隆と戦う為にこっちに迷惑をかけてくる。それ以外の執着が存在しないようにも見えてしまった。

 

 どうしたもんだろうな、一度その執着と感情と信仰の全てを完全に踏み砕いて二度と立ち向かえないように粉々にしてからリセットできれば良いんだけど、そうなると彼の生きる意味が無くなってしまう。

 

 友人がいれば、或いは夢のような物がホワイトルームの外にあれば……まぁ、それが見つかるよりもこちらの動きが早いのかもしれない。

 

 せめて少しでも幸福な未来を思い描いて欲しいものだ。清隆に執着した所でなんの意味もないということを知れば話は違うのだが、それは彼の存在理由の全てなのだからまた話がややこしくなる。

 

「八神くんが生徒会に復帰してくれれば少しは楽になるわね」

 

「あぁ、そうあってくれることを祈るばかりだ」

 

 八神が生徒会としてこれからも活動して卒業まで進む未来はあるのだろうか? あいにくと俺にはそこまで先の未来は読めないので祈ることしかできなかった。

 

 青春を楽しんでくれ、こちらにちょっかいかけずにそれで良いと思う。どうせ卒業と同時にホワイトルームは無くなるんだからそこで悩んでも仕方がないだろうしな。

 

 どうなるにせよ八神の今後を祈るしかない、せめて少しでも幸福であってくれと。

 

「どうやらAクラスはこんな時でも手札を晒さないつもりのようね」

 

 下駄箱から校舎に入ってまずはAクラスの偵察をという流れになったのだが、坂柳さんクラスの催しは確認することができなかった。なぜなら「二年Aクラスの出し物はトラブルが発生した為、本日は行われません」と書かれた看板が立てられており、しっかりとロープまで張られている始末だ。

 

 あからさまに入って来るなという姿勢は、この特別練の三階をAクラスが全て貸しきっているからこできる暴挙だろう。

 

「坂柳さんクラスはリハーサルでの最終調整の必要がないと判断したのかしら?」

 

「当日まで出し物を晒さないという戦略なんだろうけど、それはリハーサルで得られる経験を無視できるほど利益を見込めるものなのかは判断に迷うね」

 

 実際の所どうなんだろうな、Aクラスの出し物がわからないのは不安だけどその不安こそが坂柳さんクラスの目論見なのかもしれない。だからといって今こうしている間にも経験値という点で確実な差が生まれている。

 

「とはいえ坂柳さんのことだ、無策でもなければ無謀でもないんだろう。当日を楽しみにしておくとしようか」

 

「今はそうするしかないわね」

 

 当然ながら坂柳さんクラスは強敵である。体育祭の時もそうだったけど勝利というものに貪欲で徹底的でもあるのでまさに強敵だ。龍園とは異なる方向性の強さなんだよな。

 

 どこまで行っても戦士でしかなく、戦術的な突破力しかない俺には、戦略的な思考で行動する坂柳さんは本当に強敵に思えてしまうな。

 

 鈴音さんも腕を組み坂柳さんクラスの戦略を考え込んでいる、だがどれだけ思考したとしても取っ掛かりもない状況では難しいんだろう。やはり当日の動きを見るしかないか。

 

「次は、あのクラスね」

 

 ある意味では最も警戒すべき相手ではある龍園クラスだ。こちらのメイド喫茶に被せるように和装喫茶を展開しているらしい。共に競い合う関係を演出する為でもあるので止めろとも言い難いのだけれど、俺個人としてはシンプルに面白いと思う。

 

 なにせ和装だからな、あの山奥の神社ではずっと袴姿で生活していたし、師匠も仕事の時はキッチリとしたスーツ姿だったけど平時では好んで和装姿をしていたので慣れ親しんだものなのだ。

 

「やっぱりいいよね、和装……こう、来るものがあるんだよ」

 

「は?」

 

 龍園クラスの和装喫茶がやっている教室まで足を運んで、まずはそんな感想を述べる。隣にいた鈴音さんからは鋭い視線を向けられてしまったけど、嘘偽りない本音であった。

 

「いやさ、メイド喫茶も良いんだよ、良いんだけどさ……やっぱりこう、あるんだよ」

 

 例えるなら故郷に帰って来た時のあの感じ、懐かしさと安心感に満たされる感覚だ。慣れ親しんだ和装を見るとついそう思ってしまうのだ。

 

 やっぱりあれだよね、憧れの人の姿がどうしても重なるので和装は特別な思い入れがあるということなんだろう。

 

「良い……和装喫茶」

 

 なのでそういう評価に落ち着くことになる。まだ店に入っていないというのにだ。

 

「変態」

 

 ただそんな俺の様子は鈴音さんには不評だったのか、ちょっとイラッとした顔で俺の耳を引っ張って来る。まるで目移りを咎められているようだ……いや、実際似たようなものか。

 

「待ってくれ、誤解だ。メイド喫茶も凄く良いと思っている、ただそれはそれ、これはこれと言う奴なんだ」

 

「そうは思えなかったわよ、とてもいやらしい顔をしていたもの」

 

 自分たちのクラスの出し物よりもこの和装喫茶を評価しているようにも見えたのだろうか、ちょっとご立腹である。

 

「大丈夫、鈴音さんの和装も凄く似合うと思ってるからさ、できれば今度着て欲しい」

 

「何を大真面目に提案しているのかしら、そんなことで鼻の下を伸ばしていたことを誤魔化されたりしないわよ」

 

 ダメだ、言い訳すればするほどドツボに嵌っていく。

 

「よし、代わりに天子になって鈴音さんの言うこと聞くからさ」

 

 何が代わりなのだろうか、俺にもわからなかったけれど、鈴音さんはピクッと眉を揺らしたので効果が皆無ではなかったらしい。我ながら天子の存在感が恐ろしくなるほどの反応であった。

 

「和装の天子さん……そう、そこまで言うのならば許してあげる」

 

「ありがとう」

 

 多分俺も自分が何を言っているのかよくわかっていないんだと思う、ちょっと混乱しているのかもしれない。師匠モードによる天子人格を生み出してからというものの、ちょっと精神的な汚染が広がっているのかもしれない、気を付けないと。

 

 何はともあれ偵察である。龍園クラスの和装喫茶へといよいよ足を踏み入れることになるのだった。

 

「お二人ですか?」

 

 喫茶店の入口にある受付ではコンセプト通りに和装姿をした女子生徒がいる、ただし彼女はこんな時でも暇を見つけて読書に勤しんでいるらしい……何を隠そう椎名さんが受付を担当していた。

 

「あぁ、席は空いているかな?」

 

「はい、こちら入場料をお願いしますね」

 

 椎名さんは読んでいた本から視線を上げてそう促して来た。ほう、入場料とな?

 

「この店では入場料を取っているの?」

 

 鈴音さんもそこが気になったらしい。ウチの店にはない試みだからな。

 

「はい、龍園くんが言うには安定的に稼げるとのことですけど、どうなんでしょうね」

 

「客足は鈍るんじゃないかしら?」

 

「かもしれませんけど、その代わりにお店の中での注文は少し格安となってるみたいですよ」

 

 なるほど、どう転ぶかは現時点では不明だが、店の中に入って来てもそこまで大量に注文する客はいないか、そう考えると事前に入場料を取るのは安定的な稼ぎになるのかもしれない。

 

 場合によってはコーヒーだけで一時間粘られるなんてことも当日はあり得るのかもしれない。入場料という考えや方針も決して間違いではないんだろう。

 

 その入場料だって500ポイント程だ、法外でもないしこれくらいならと考えても不思議ではないか。

 

 受付で二人分の入場料を払ってから店内に入ると、そこでは龍園クラスの女子が和装を身に纏いながら忙しそうに動いているのがわかる。

 

「服装だけでもないようね」

 

 教室の中は畳の上に座席がある形でありそんな所でもどこか和を意識させるものであり、誰かが生け花の心得でもあったのか飾られている花瓶なども同様に雰囲気作りを手助けしていた。

 

 龍園の本気が窺える店構えと言えるのかもしれない。彼はなんだかんだで完璧主義者なのかもしれないな。

 

「なるほど、確かにメニューは私たちの店よりも比較的安くしているみたいね」

 

「入場料の分は差し引いてるか、コーヒーだけで一時間とか粘られたりすると考えると悪くはない判断なのかもしれないね」

 

「そんな人いると思っているの?」

 

「お客さんは千差万別さ」

 

 いないとも断言はできない、龍園だってそれはわかっている筈だ。

 

 メニューもまた和を意識するものになっているのはとても丁寧な仕事だと思う。羊羹でも注文するとしよう、あと抹茶も一緒に。

 

「清掃は行き届いている、内装もしっかりコンセプトに合わせて来ている……店員もしっかり対応もしている、思っていた以上に仕上げて来ているわね」

 

 指先がテーブルや床を撫でて埃の有無を確かめる鈴音さんは、どこか小姑みたいな雰囲気がある。しかしケチの付け所がなかったのか少しだけ悔しそうな顔をするのだった。

 

「偵察してわかったことだけど、どこのクラスや学年も一筋縄にはいかない相手ばかりだ。鈴音さんは印象に残った出し物はあるかい?」

 

 注文した羊羹と抹茶を味わいながらそんな質問をすると、同じようにあんみつパフェを味わっていた彼女はこう返す。

 

「一つに絞るのは難しいわよ、規模で言えば三年生だし、見応えで言えばあの一年生のサーカスね、どちらもインパクト抜群だから客足が伸びそうではあるもの」

 

「おまけに坂柳さんのクラスは何をしているのかさっぱりわからない状況だし、そんな相手たちと競い合わなきゃならないんだから大変だ」

 

「でも負けるつもりはない」

 

「あぁ、それでいい、他人と比べても仕方がない。俺たちは俺たちの戦いをしよう」

 

 その為にできることは色々とやってきた、後は全力を尽くすだけの話である。こちらが相手の動きや戦略を脅威に感じているように、相手もまた俺たちの戦略を脅威に感じているんだろう。後は当日の客の流れ次第といった所か、どれだけ流れを掴めるかのタイミングを見極める必要があるのかもしれない。

 

 店の運営に関しては清隆がやってくれるそうなので抜かりはないだろうし、隙あらば動きを指示することだろう。言ってしまえば丸投げであるがそれが一番である。

 

 色々なクラス、色々な学年の考えや戦略がこのリハーサルを通して垣間見えた気がするし、俺たちのクラスも本番に向けて最終調整をすることができた、後は当日を待つばかりであった。

 

 ここまで来ればジタバタしても仕方がないので、後はどっしりと構えて待つばかりなんだろう。なので難しいことは一旦棚上げにして文化祭デートを楽しむことにしようか。

 

 最近は生徒会長になったこともあって鈴音さんも働きづめだったので、いい息抜きにしないとな。

 

 

 

 リハーサルをしっかり楽しんだ後、いよいよ高度育成高校初となる文化祭当日を迎えることになるのだった。

 

 

 

 

 

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