ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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刺客は段ボール箱がよく似合う

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベンチから立ち上がって空になったプラスチックタッパーをゴミ箱に入れてから歩き出す。サーカスは大盛況、引っ張られるように屋台も大盛況、大きな問題はなさそうだ。

 

 なのでまた看板片手に宣伝を行うのだが、それは本命ではない。

 

 こうやって徘徊していると一応は仕事をしているという雰囲気は出せる上に、一人になれる機会が多くなるのがとても都合が良いので宣伝役を買って出ただけだ。

 

 愛里と違って広告塔としてどれほどの意味があるのかはわからないが、とても目立っている様子だったのでオレが頑張らなくても大差はないんだろう。なので体裁だけ整えながら本命の処理を進めようと思う。

 

 ホワイトルームからの刺客が紛れ込んでいる上に、息がかかった生徒もいる訳だからな、こうして一人で動いていればすぐに接触があるだろうと睨んでいたが、想定よりも早く相手が釣れたらしい。

 

 粘つくような視線と、こちらと常に一定距離を意識した立ち回りをしている来賓の存在には気が付いている。この辺で処理しておこう、何よりもオレの安全の為に。

 

 看板を持って宣伝を頑張ってますという雰囲気を可能な限り演出しながら徐々に人気のない場所へと移動していく。

 

 屋上か、それとも体育館裏か、頭の中にある監視カメラの位置を思い浮かべながら死角となる場所の候補を一つ一つ調べて行き、生徒や来賓がいない場所を探していくのだった。

 

「ん?」

 

 人気のない場所を探している途中に、ポケットの中に入れていたスマホが震える。取り出して画面を見てみるとそこには誰の名前も記されてはいなかった。これは以前にも覚えがあるな。

 

「なんのようだ?」

 

 スマホを耳に当ててそう問いかける、すると暫くの沈黙の後にこう返って来た。

 

『月城を排除して、後はホワイトルーム生を排除すれば平穏が戻って来る。そんな勘違いをしているんじゃないかと思って助言でもとな』

 

 この謎の相手との通話は初めてのことではない、一年の時に一度だけ今回と同じように宛名不明の電話があり、その時にも要領を得ない会話が行われたことを覚えている。

 

 あの後、鶚の協力もあって色々と調べた結果、ある程度は把握することができたのだが、この場で連絡してきた意味がわからないな。

 

「確かお前は一年の石上だったか? 無意味な連絡を入れている暇があるようで羨ましい限りだ、そちらのクラスの出し物を手伝わなくて良いのか?」

 

『……驚いた、こちらのことを把握していたとは、閉鎖環境のこの学校でどうやって情報を得たんだ?』

 

「気にするな、お前に落ち度はない……ちょっとしたズルをしただけだからな」

 

 理事長室に盗聴器を仕掛けたりパソコンを勝手に掌握している忍者が知り合いにいるだけだ。挙句の果てにそいつは教師にも協力者がいて外と好きなだけ関わりを持てると来ている上に、高い確率でホワイトルームより上の権力者と関わりがある。

 

 学校の中からでは得られない情報を無数に持っているし、好きなだけ引っ張っても来れる、色々と突飛でふざけた忍者ではあるのでこの手段を頼るのはズルと表現できるだろう。

 

 つまり相手が悪かったというだけで、石上になんの落ち度もなかった。ただそれだけの話である。この現代社会でよくわからない忍者を警戒しろとか無茶にも程があるしな。

 

「それで? ただ助言とやらをしたいだけか? 生憎と間に合っているぞ」

 

『ほう、大層な自信だな、今この学園にどれだけのホワイトルーム関係者が混ざっているかもわからないのに』

 

「言っただろ、ズルをしているとな、完璧ではないがある程度の情報は入っている……それにだ、ホワイトルームの関係者がこちらの想定を超えていたとして、何の問題がある」

 

 オレはこの学校に来て一つの真理を理解したのだ。

 

「十人だろうと百人だろうと千人だろうと、全て叩き潰して二度とこちらに関わりたくないと思わせれば……オレは自由だ」

 

『……』

 

 スマホの向こうで石上が絶句したのが伝わって来る。オレとしても脳筋全開な思考になっていると理解はしているが、結局のところそれが一番だと天武と鶚が教えてくれた。

 

『こちらが思っていた以上に暴力的な男のようだな』

 

「勝手な妄想をしていただけだろう、オレとしてもこの学校に来てから色々と思い知ることや学んだことも多いし、悩んだこともあるが……全てを叩き潰せば良いと結論を出したのは無人島での一件だ」

 

『……』

 

「月城と司馬の骨を砕いて地面に転がした瞬間に、悩んでいたのが馬鹿らしくなった、あぁこれで良かったんだなと納得もできた、そういうことだ。だからお前からの助言は何の役にも立たないし完全に無意味だ……全てを叩き潰す、もう結論が出ている」

 

『そ、そうか……まぁそれも良いだろう』

 

「石上、お前はまだ知らないだろうが人間よりもゴリラの方が自由に生きられる」

 

 何故かスマホの向こう側にいる石上はドン引きしたような声を出している。不思議な奴だ。

 

「そうだ、お前は来ないのか? 今も特別練の屋上からこちらを覗いているようだが、ズルズル引き伸ばされても困る、来るならさっさと来てくれ……オレを自由にする為に」

 

 スマホを耳に当てながら視線を特別練の屋上に向けると、そこには石上の姿があった。校舎の中庭にいるオレとはそれなりの距離があるが確かに視線は結び合っている。

 

 この距離から感づかれたことに驚いているようだな、無理もないだろう。

 

 無人島で二十号と戦った後くらいからより体や感覚が研ぎ澄まされたことがわかる。それも異常な程に。天武に相談してみるとアイツは「強敵に勝利するとそういうことがよくある」と頷きながら言っていたので、超人連中にはあるあるらしい。

 

 強敵に勝つ為に限界を超えると、今後はその限界が基本となるそうだ。

 

 だから石上にも気が付けた、今もこちらに注目する刺客たちの存在にも。

 

『いや、遠慮しておこう。俺はお前の敵でも味方でもないからな』

 

「そうか、その割にはオレの父親と近しい関係のようだが……まぁいい、そういうことにしておこう」

 

 そこで一方的に通話を切ってスマホをポケットに戻す。最後に特別練の屋上から中庭にいるオレを見下ろしてくる石上を眺めてから歩き出す。

 

 アイツがどう思ったかなど大した興味がない、来るなら来るで構わないし、宣言通り敵にならないというならそれでも問題ない。立ち塞がったその時は黙らせればいい。

 

 武力とは、この世界で最も重要な力だ、オレはそれを学んだからな。

 

 あれほど煩わしかった月城も、ぶん殴って沈ませればなんとも静かになった。つまり武力こそが大切だったのだ。

 

 入学したばかりの頃、一撃で自転を狂わせるようなパンチが出せたらと冗談交じりに思ったことがあるが、今現在のオレはそこまではいかなくても大真面目に武力で物事を解決することに一定の重きを置いている。

 

 楽だからな、月城を叩き潰して謝罪させた瞬間にこんなに簡単なことだったのかと理解したということであった。

 

 石上から視線を外してまた看板片手に人気のいない所を探して校内を徘徊していく。さっきの石上を見てわかったことだが屋上にはどこのクラスも出し物は指定していなかった筈なので、あそこならば人気は少ない筈だ。

 

 オレをつけ回しているホワイトルームの関係者も、接触したくて仕方がないといった感じなので、そちらに向かうとしようか。

 

 校舎の中に入って屋上へ、その途中でクラスの様子を見に行ったのだが教室の前には行列ができ始めていたので一安心すると、それだけ見送って階段を昇っていく。

 

 上に進むに連れて人気がなくなっていき、屋上の踊り場付近まで来ると喧騒だけが耳に残る。途中で石上とすれ違うようなこともなく、屋上へは平穏無事に辿り着くことが出来るのだった。

 

 試しにさっき石上が俺を見下ろしていた場所に立って手摺に手をかけて中庭を覗き込んでみると、そこでは文化祭の熱が広がっているのが見える。愛里も上手く宣伝をやっているのが見えるな。

 

 

「私たち二年Cクラスは、今二年Bクラスとコンセプトカフェで売り上げを競い合ってます!! 私たちが負けてしまうと、誰かが責任を負わされて退学するかもしれません!!」

 

 そんな中庭では龍園クラスの生徒も宣伝を頑張っている。物騒な内容に来賓たちはなんだなんだと耳を傾けているのがわかった。

 

 始まったようだな、愛里とは別口の宣伝戦略が。

 

 ああやって対立構造を明らかにすることで注目を集める訳だ。宣伝に於いて何よりも重要なのはまず目立つこと、その為なら不安を煽ることも大切であるし炎上だって一つの手段だ。

 

 龍園クラスの和装喫茶が注目を集めれば集めるほど、対決関係にあるメイド喫茶も注目を集める、そしてその逆だってある。

 

 つまりはそういうことだ、あの必死な主張と対立構造の周知はただの台本ありきのプロレスでしかない。何よりも目立ち注目を集めることが戦略でもあった。

 

「どうか、皆様のご協力をお願いできないでしょうか!! よろしくお願いします!!」

 

 効果があるかどうかはわからない、実際に耳を傾けている来賓の内どれだけの人数が店に足を運ぶのかも未知数ではあるが、宣伝や広告とはそういうものである。

 

 十人の内、一人が興味を持って足を運んでくれるのならば成功とさえ言えるのかもしれない。やらないよりは遥かにマシなんだろうな。その辺は龍園もわかっているんだろう。

 

 そんな龍園クラスの大声はこの特別練の屋上にまで聞こえて来るのだから、中庭付近にいる来賓たちの耳にだって届いている。和装喫茶が目立てば目立つほど対立関係にあると思われているメイド喫茶にも注目が集まる、上手くいくことを願うとしようか。

 

 

 その場で祭りの喧騒を耳にしながら暫く過ごしていると、オレの背後から近づいてくる気配を感じ取ることができた。

 

 

「振り返らず、これを受け取れ」

 

 背後に近寄って来た誰かの声を無視して、オレは堂々と振り返って接近して来た者を視界に入れる。

 

「振り返るなと言った筈だが?」

 

「何故オレがそちらの要求を呑まなくてはならない」

 

 この男にも見覚えがあるな、ホワイトルームで教鞭を振るっていた男の一人だ。まだ子供だった頃に何度も床に転がされたことがある柔道の教官だったな。

 

 その男は俺に白い紙を差し出している。どうやら受け取らせたいらしい。

 

「どうした、受け取れ」

 

「いや、その前に――」

 

「ごッ!?」

 

 とりあえずこの男を処理しておこう。そう思ったオレはすぐさま目の前にいる相手のこめかみに鋭くハイキックを食らわせた。

 

 一瞬で意識を刈り取る一撃をまともに受けて、男は力なく崩れ落ちて行く。

 

 差し出された白い紙を受け取るのは相手を処理してからだ。脅威が目の前にいるのにそちらに視線と意識を向ける馬鹿はいない。

 

 倒れ伏した男が持っていた白い紙を拾い上げて中身を確認すると「迎えに来た、どうするかは自分自身で決めろ、正門で待つ」と書かれており、ご丁寧に電話番号まで記されていた。

 

 意味が分からないな、何故わざわざオレにそんなことを判断させる必要があるんだろうか、選択肢を用意した所で結果はわかりきっているだろうに。

 

 無視しよう、全くもって無意味な提案だな。

 

 白い紙を丸めてポケットにねじ込むと、意識を失って倒れ伏している男の身ぐるみを剥いでいく。懐からスマホを取り出してそれを拝借しておこう。

 

 スマホの中身は後で確認するとして、まずはこの倒れ伏している男を処理しないとな。この男の口さえ封じておけばどうとでもできる。

 

 どうせ叩けば幾らでも埃が出て来る連中なんだ、大事になる前にお帰り願おうか。体育祭の時のように段ボール箱に詰めてな。

 

 男の体を肩を貸すように背負いあげる、そのままオレは屋上と繋がる階段の踊り場まで移動すると、そこにあるダストシュートの蓋を開く。

 

「こういうのをボッシュ―トって言うんだったか?」

 

 そして気絶している男をそこに放り込む。この時の為に鶚の協力者に頼んで終点には色々と細工をして貰った。こいつを背負って保健室まで運ぶのも大変だろうからこれは楽だな。

 

 こういうのは人が入って落ちないようにできているのだが、半開きになっているダストシュートの金属製の蓋を強引に捻じ曲げて開けば人も落とせる隙間を作れる。

 

 後はゴミ捨て場にいるこいつを鶚の協力者が回収して段ボールに詰めて気が付けばホワイトルームだ。また着払いの嫌がらせもセットにしておこう。当然ながら受取人はあの男である。

 

「よし、次だな」

 

 やるべきことは多い、まずはたった今ダストシュートに放り込んだ男が持っていたスマホを取り出して中身を調べる。情報漏洩の意識が低かったのかスマホのパスワードも設定されていないようだな。これでよくホワイトルームなんていう非合法組織に関われるものだ。こちらとしてはありがたくもあるが。

 

 直近のメールのやり取りを確認すると、やはり何名かの刺客が学園に入っていることがわかった。そいつらにこの男に成りすました状態でメールを送る。

 

 内容は呼び出しだ、緊急事態が起こったので話し合いたい、特別練の屋上まで来てくれ、そんな感じとなる。

 

 後は一人一人処理していくだけだ、二十号でもあるまいに、今更ホワイトルームの教官が何十人来た所で大した脅威にはならない。どこまで行っても優秀な一般人でしかないからな。

 

 

 

「ふ、アイツはやられたようだな、だが所詮はホワイトルーム教官陣の中では最弱の男、私は奴ほど楽にいくと思わないことだ」

 

 なにやら偉そうに語っていたがぶん殴ってダストシュートに放り込む。

 

「この鎖鎌の大山田を他の連中と一緒と思わないことだ!!」

 

 こいつのことはよく知らなかったので、やはりぶん殴ってダストシュートに放り込む。

 

「残念だな綾小路清隆、君のデータは全て頭に入っている。私のデータによれば――」

 

 眼鏡をかけた教授もぶん殴って放り込む。

 

「ほおおおおあっちょおおおおおおッ!!」

 

 誰だお前は? 雇われたのか? 会話が成立しそうになかったのでやっぱりぶん殴って黙らせてからダストシュートに放り込むのだった。

 

 合計五人、刺客の全てを放り込んでから、オレは強引に押し広げたダストシュートの蓋をこれまた力づくで閉めていく。ついでに最初の男から奪ったスマホを捨てておこう。

 

 これで問題はないだろう。事前に刺客を処理しやすいようにと幾つかのポイントは鶚が掌握している監視カメラを掌握して貰っている、この踊り場もその一つである。

 

 ここで何があったかなど、監視カメラが役に立たないので誰も知ることはできない。被害者は皆段ボールに詰められてホワイトルームへ着払いだ。

 

「さて、文化祭を楽しむとしようか」

 

 奪ったスマホを見た限りでは刺客はこれで全員らしい、なのでようやく身軽になることができた。

 

 後、面倒なのは八神くらいだが、うん、どうなるだろうな。おそらくオレが何もしなくても勝手に自爆すると思われるが、そうならなかったとしても大した問題はない。

 

 仮に暴れまわるような事態になったとしても、困るのは学校やホワイトルームだ。オレじゃないのでとても身軽である。

 

 こちらの邪魔さえしなければ放置も一つの手なのだが……難しいか。

 

 祭りの賑わいを耳で聞きながら、もう詰んでいる状態の後輩の顔を思い浮かべる。

 

 最後の最後に踏みとどまってくれればいいんだがな、柄にもなくそんなことを思うのだった。

 

 

 

 

 

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