ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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修学旅行準備2

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行が目前に迫る二年生だけれど、その前に学生らしく期末テストを片付けることになった。しかしここまでの学園生活でしっかりと勉強する癖や時間は作れたし、OAAを確認してみると俺たち二年Bクラスの平均学力は割と高めに評価されているのであまり心配はいらなかった。

 

 一番学力評価が低いのは男子は山内でありC-となっている。

 

 そう、クラスで一番評価が低い山内でも既にD評価を超えているのだ。他の生徒たちは軒並みC-以上の評価を得ているので、そう考えると随分と遠い場所まで来たものだと懐かしんでしまう。

 

 一年生の最初辺りを思い浮かべれば、どれだけクラスが前進したかよくわかるよね。このまま平均でB評価まで行きたいと思っていた。

 

 山内も最近は勉強熱心だし、女子チームも頑張っている。なんだかんだでしっかりと成長できているのは嬉しいことだと思う。

 

 いずれAクラスに相応しい生徒たちになってくれることを期待しよう。四十人の裏口入学者を輩出するのではなく、しっかりと成長した生徒たちになれるかどうかが重要だからだ。

 

 クラスもそうだけれど、学年全体にも同じことが言える。そろそろ二年も終わりが近く三年生にもなるので、卒業だって意識することになる。

 

 既にクラス闘争は俺の中では終わっていて、重要なのはその先にあるものになっているということだ。幸いなことに鈴音さんのおかげで俺がこの学園で必要と思ったものは見つかっているのだ、後はやりたいようにやろう。

 

「では期末テストの結果発表を行う」

 

 茶柱先生が教壇に立ってそう言うと、教室の前方にある黒板替わりの大型モニターにテストの結果が映し出された。

 

「まず最下位を取った生徒は山内だ……67点だな」

 

「俺かよ!! あ、でも悲惨な点数でもないよな!?」

 

「入学当初と比べればな、結果的に最下位になりはしたが、お前の頑張りはしっかりと数字として表れているのは間違いない」

 

「へへ、だよな」

 

「まぁ尤も、他の者たちはそれ以上の点数なので油断しないことだ」

 

 しっかりと茶柱先生が釘を刺す。まぁ山内もかなり落ち着いたので調子に乗るようなこともないだろう。

 

 山内の次は本堂でありこちらは70点、決して悪くはない点数である。そう考えるとこのクラスの平均的な能力の高さが伺えるな。本当に入学当初を考えれば遠い所に来たものだ。

 

 一年後はもっと成長できていると願おう。俺自身も含めて。

 

「学年での順位は二位、元Dクラスであることを考えたらよくやったと褒めてやろう」

 

 あまり生徒を褒めることにない茶柱先生もこれにはご満悦である。一位の坂柳さんクラスとも僅差であることを考えれば先生であっても労いの言葉くらいはくれるということだ。

 

「さて、お前たちが修学旅行を楽しみにしていることはわかっているが、その前にやってもらうことがある」

 

 そう言って茶柱先生は自分の端末を操作して生徒たちの電子端末に幾つかのファイルを送信してくる。それを開いてみると何かのアンケート用紙のようなも物が広がっていく。

 

 これはなんだろうか、アンケートであると同時に学年全体の評価項目のようなものがあるな。生徒同士で評価でもするのだろうか。

 

「今から付けて貰う番号は要するに評価順位だ。クラスメイト、そして学年全ての生徒にそれぞれ評価をして貰う」

 

「あの先生、全く知らない相手とかもいるんですけど」

 

 一部の女子からそんな声が上がった。当たり前のことだけど知らない相手を評価することなどできない。

 

「それならそれで構わん。よく知らないから最低評価であっても問題はない。知り合いだから最高評価であってもな。これらのアンケートの結果は外に流出することはないし、何かしら成績やOAAに影響を与えることもないことは断言しよう」

 

 つまり学校側が行うアンケートということだ。成績にも何ら影響を与えないので気楽と言えばそれまでだが、修学旅行の直前で行うのだから何らかの影響があるのかもしれない。

 

 例えば各生徒への評価の分類でチーム分けされるとか、修学旅行先で不意打ちの特別試験を突っ込んできて何らかの影響を与えるとか……この学校を信頼しない方がいいな。

 

 ともあれやれと言われれば評価するしかない。まずクラスメイトたちの評価だけど……まぁ色々あったけれどしっかりと成長して進んでいると確信できているので全て最高評価でも良いんだけれど、順位付けとのことなのでしっかりと考えておこう。

 

 このアンケートで今後の特別試験に何らかの影響があることを考えれば、敢えて天邪鬼な判断をすることもアリだろうか? いや、重要なのはどんな状況にも左右されない心構えなので、そこまで複雑に考えることはないか。

 

 単純にここまでの成長性と、交流、そしてOAAの数値で決めてしまおう。変にアドリブを利かせる必要はないだろう。

 

 とりあえず鈴音さんを一番に置く、次に須藤、成長の揺れ幅を最も大きな評価項目にするとそういうことになる。そこから順番にクラスメイトたちを順位付けていった。

 

 他クラスはどうするべきだろうか? あまり交流がない生徒も当然ながらいるのでそこはOAAの数値順で構わないか、頭の中に二年生全員のOAAデータを引っ張り出してそれぞれ配置していった。

 

 おそらく何らかの形で今後の特別試験や修学旅行に影響を与えるんだろうけど、重要なのは不動の心構えである。周囲の環境に右往左往するのではなくしっかりとした心構えが大切であった。

 

 そうやってアンケートを書き記していくと、クラスメイトたちも同じように終わらせたのか次々と茶柱先生の携帯端末に送っていくことになる。それを確認した先生は次にこう言ってくる。

 

「では満場一致試験の結果を伝えよう。各クラスの判断を総合した結果、修学旅行先は北海道に決まった」

 

 それを聞いた瞬間に、俺は机の下で拳を握りしめて小さくガッツポーズをするのだった。

 

 これで修羅の国に関わらずに済む。最高の修学旅行になることが決定したのだから、ガッツポーズも仕方がないと思う。

 

 既に楽しみである。もし京都だった場合は高い確率で戦争になるので、これほど嬉しいことはない。やっぱり平和が一番である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やけにご機嫌だな?」

 

「旅行先が京都じゃなかったからね」

 

 そうとも、あんな修羅の国に行く必要がなくなったのだから上機嫌にもなる。そんな俺を清隆は不思議そうな見て来るくらいには機嫌がよく見えたらしい。

 

「京都は嫌だったのか」

 

「あそこにはね、破戒僧とか野良超人が沢山いるんだ。九号の実家もある。この世の終わりみたいな土地なんだ」

 

「そうか、京都にはゴリラが沢山いるのか」

 

 そんな風に納得する清隆。別に間違った認識ではないので何も問題は無い。

 

「楽しみだねぇ修学旅行。旅することはこれまでもあったけれど、クラスの皆や学年でなんて初めてだよ」

 

 小学校も中学校も通ってなかったからな、師匠と引っ張りまわされて色々と旅はしたけれど観光って感じではなかったし、本当に楽しみである。

 

「清隆も旅行は初めてなんじゃない?」

 

「言われてみればそうだな。ホワイトルームではVRで色々な場所を疑似的に体験はしていたが、実際に足を運ぶことはなかったからな」

 

「VR? ゲームでもしてたのかな」

 

「いや、あの場所から出ることがない弊害で社会経験や一般的な常識が欠けていたからな。切符の買い方であったり、信号の横断であったり、そういったものを疑似的に体験していたんだ」

 

 なるほど、ホワイトルームではそんなカリキュラムがあったんだな。お金がかかってそうである。

 

 そんなことを考えながら俺と清隆はケヤキモールにあるカフェの椅子に腰かける。お茶しようと言う訳ではなく、単純にここが待ち合わせ場所であるからだ。

 

 カフェの椅子に座って飲み物を注文して暫くすると、待ち人がカフェに現れることになった。一年生の華やかな女子たちである。

 

「あ、パイセン、お待たせしたッス」

 

 姿を現したのは九号と天沢さん、そして七瀬さんであった。

 

「なんでウチらは呼ばれたんッスか?」

 

「清隆が天沢さんのことを心配していてね、話をしたいそうなんだ」

 

「え、綾小路先輩が私と?」

 

 どこか九号に引きずられるようにこちらにやってきていた天沢さんであったが、清隆の名前を聞いて途端に元気を出した。

 

「八神のことで話が聞きたくてな……七瀬も同席するのか?」

 

「はい、お伝えもせずに同席することをお許しください。鶚さんが先輩たちと話すと聞いて気になってしまって……その、天沢さんはホワイトルームの関係者なので」

 

 警戒するように七瀬さんは天沢さんに視線を向けるのだが、どちらかと言えばその隣にいる九号を警戒しているようにも見えた。

 

 まぁそれは仕方がないことではある。だって九号の方が明らかに不審者だし出所の不明の戦力だし、物理的に一年生の中なら最強だろうしね。

 

 それに七瀬さんの立ち位置もまだまだ不透明である。月城さんが残した布石であるという線もまだ残っているのは清隆と共通した認識であった。

 

「天沢、ここ最近は学校も休んでいたようだな」

 

「よく知ってますねぇ……あ、もしかしてアタシのことが気になってたとか? まぁ綾小路先輩ならストーカーも大歓迎、みたいな?」

 

「いや、鶚と七瀬から報告してもらっていたんだ」

 

「ストーカーはこっちだった!?」

 

「知らなかったんっスか? 忍者は日本最古のストーカーッス」

 

「……そんな凄いでしょって感じで胸を張られても困るんだけど」

 

 ドン引きした様子で忍者を見つめる天沢さん。きっと九号みたいな子はホワイトルームにもいなかっただろうからカルチャーショックでも受けているのかもしれない。

 

「七瀬ちゃんは?」

 

「私はストーカーではありません。堂々と調べて報告していました」

 

「それを世の中ではストーカーって言うんだけどね……あれ、なんでアタシが常識的なこと言ってるんだろ」

 

「まぁまぁ、世の中そんなもんッスよ。ほら頼んだパフェも来たんで食べましょうよ。ほら一夏ちゃん、あ~ん」

 

「むぐッ」

 

「思っていたよりも元気そうだな」

 

「そりゃ当然っスよ綾小路パイセン。ウチと一夏ちゃんはマブダチッスから、ツーカーの仲ッスよ」

 

「そうか」

 

 九号が注文したパフェをスプーンで掬ってアイスやクリームを天沢さんの口に押し込む……こら、マブダチなら毒見役を押し付けるのは止めなさい。

 

 天沢さんにまず食べさせて問題はないと判断したのか九号はパフェを食べだす。相変わらず自由で何よりだと思うしかない。

 

「八神が退学してから不調だと聞いていたが、その分なら問題はないか」

 

「あれ、もしかして綾小路先輩、本当に心配してくれたんですか?」

 

「ダメか?」

 

「……いえ、ダメってことはありませんけど、もっと冷めた人だと思っていました」

 

「そうか……そうか? オレはそれなりに感情豊かだと思うが」

 

 同意を求めるように清隆は周囲を見渡すけれど、誰もが皆困ったような顔をしてしまう。

 

「ん、まぁ清隆は情熱的な男だよ」

 

「そうだろう、天武はよくわかてるじゃないか」

 

 謎のドヤ顔である……うん、確かに感情豊かになっているな。清隆も成長しているということだろう。俺は素直に嬉しくなった。

 

「まぁ何であれだ、天沢が問題ないのならばそれでいい。お前は学園での生活を楽しんでいるようにも見えていたのでな」

 

「え、そんな風に見えましたか?」

 

「あぁ」

 

 すると天沢さんは難しそうな表情を作って自分の隣でパフェを頬張っている九号に視線を送る。

 

「ん~……まぁ、思ってたよりは、そうかもしれませんね」

 

「一夏ちゃんは素直じゃね~です。ウチと一緒にいたいからって言えば良いんッスよぉ」

 

「うざ~、ナルシストすぎないかなぁ」

 

「ナルシストも何も、ウチは優秀な遺伝子の集合体ッスよ。美しいのは当然でやがりますし、最高の肉体と容姿をデフォで持ってるんで、ナルシストなんじゃなくて一緒にいたいと思うのが普通でやがります」

 

 じゃれ合う二人を見て清隆は何やら納得したように頷く。

 

「天沢、お前はこれからどうするつもりだ?」

 

「ん~……まだ悩んではいるんですけどぉ、まぁもう少し楽しもうと思っています。やりたいことも負けたくない相手もここにはいるんで」

 

「そうか、それは何よりだ……八神もお前のように開き直れれば良かったんだがな」

 

「難しいでしょうねぇ……拓哉にとっては人生の全てでしたから」

 

「その割には随分と遠回りして空回りした挙句、何がしたかったのかわからないまま退学したんだが」

 

「あはは、間抜けと言われればそれまでですけど、多分ですけど怖かったんじゃないかな、だからあんなに遠回りなことをして空回りしたんだと思います」

 

 どこか憂いと呆れを混ぜ合わしたような表情を見せる天沢さん。

 

「もっと冷静になって、しっかし足元見れてればまた違ったのかな」

 

「いやそれは違うッスよ一夏ちゃん」

 

「何が違うのかなぁ?」

 

 パフェを食べている九号は「フフン」と不敵に笑って胸を張った。

 

 

「八神は種が薄いんッスよ、だから負けたんでやがります」

 

 

 そして九号は堂々とそう言い放つ。

 

「うん? ねぇ銀ちゃん、もしかして下品な話かな?」

 

「雄は子種がどれだけ強いかが重要なんッスよ!!」

 

「なんで大声で主張したの?」

 

 すまない天沢さん、九号はこういう相手なんだ。

 

「いいッスか一夏ちゃん、七瀬さん」

 

「え、私もこの話題に巻き込まれるんですか?」

 

「まずウチが考える男の3Kを教えるッス」

 

「……3Kって何? 七瀬ちゃんわかる?」

 

「あれですよ、えっと、高収入と高身長と……後は、なんでしたっけ、あぁ高学歴でしたっけ」

 

「そんななよなよした物を求めるから現代人は弱くなるばかりなんッスよ。いいですか、男はまず握力が最低でも一トン超え、戦車を素手で殴り倒せる体力、そして雄としての征服力が重要なんッスよ!! そう考えると八神のもやしっぷりは頭を抱えたくなるほどにダメダメでやがります!!」

 

「……えぇ~」

 

「……鶚さんは、とても独特な方なんですね」

 

 もの凄く困惑した様子の天沢さんと七瀬さん……本当にすまない、こういう子なんだ九号は。

 

「まず顔がもやしッス、体ももやしッス。あれじゃあ握力は精々八十キロちょっと、それじゃあダメでやがります。ウチの一夏ちゃんの幼馴染を名乗るならせめて五百キロ超えしてからにしやがれです」

 

「……」

 

 天沢さんが助けを乞うような視線をこちらに向けて来る。俺にどうしろと言うんだ。

 

「そしてあれじゃあ戦車を殴りつぶせないッス!! 当然ながら種も薄い!! ダメダメッス。一夏ちゃんもあんなもやしのことを忘れるのが吉ッスよ。男はゴリラじゃないと生きている価値がないッス!!」

 

 うん、まぁ、天沢さんへのフォローは九号に丸投げで良いかもしれないな。パワープレイで強引に引きずって立ち直らせてくれるだろうから。

 

 清隆の心配も杞憂であったということだ。友達のいる天沢さんならば大丈夫だろう。

 

「えっと、まぁ後は九号に任せようかな。天沢さん、七瀬さん、あまり抱え込まずに誰かにちゃんと相談してね……俺と清隆は修学旅行の準備があるからそろそろ帰るよ」

 

「あぁ、そうだな」

 

 清隆も九号をドン引きしながら見ていたので早く帰りたいらしい。男はゴリラであるべきと熱弁する九号を放置して俺たちは寮に帰ることにした。

 

「しかしアレだな、七瀬の本質はまだわからないままか」

 

「まだ疑っているのかい?」

 

「当然だ、アイツの主張は客観的な証拠がどこにもない」

 

「九号が調べた限りでは戸籍関係や背後関係は問題ないようだけど」

 

「かもしれないな、だが戸籍だったり高校に入る前の状況は幾らでも捏造できる。少なくともあの男ならな」

 

 清隆のお父さんか、この学園にいる俺たちでは中学時代の七瀬さんのことはさっぱりわからない。戸籍だったり在籍記録だったりはそれとなく九号に調べて貰っているけど、その辺はどうなるだろうな。

 

 戸籍だったりとか操作されて綺麗に整えられていると流石に難しいか。

 

「まぁ七瀬さんの立ち位置はそこまで警戒する必要はないと思うよ。重要なのは周囲の環境に流されない心構えなんだから」

 

「そうだな、何が来ても殴って黙らせることが重要だな」

 

 俺はそんなことを一言も主張していないんだけどな……清隆も随分と脳筋になったな。これも成長ということか。

 

 まぁ実際にそれはこの世の真理だ。全てを殴り飛ばして最後に立っていればそれは自由であり平和ということである。

 

 師匠曰く、とりあえず面倒事は殴って黙らせてから話を進めろとのこと。つまりゴリラであることが正しいということだな。

 

 それくらいの心構えで生きるのが大切だ。修学旅行も気楽にいこう。

 

 

 

 

 

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