ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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サバイバル試験 3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が今回の試験内容とルールを説明された時、最初に考え付いたのがこのスポット回収作戦である。

 

 リーダーが島中を走り回ってスポットを占有してポイントを得ていくのはあまりにもリスクが大きい。リーダーだと看破されてしまえば大きなペナルティがあるからだ。

 

 ならばそのリスクを排して、極めて効率的かつ安全にスポットを占有するにはどうすれば良いのか?

 

 答えは簡単、物理的な距離を近くしてしまえば良い。

 

 これ以上ないくらいの最適解ではないだろうか。清隆も感心したような顔をしていたし。

 

「天武、あちらにもスポット装置があったぞ」

 

「ん、そっちも引っこ抜くか。これ持っててくれ」

 

 俺は先ほど木造の家の中で引っこ抜いた装置を綾小路に預けて、新しく見つけたスポット装置に向かう。

 

 その装置は俺たちが拠点としている川辺付近にある物と同じように、岩の中に埋め込まれた物であったが、大きな問題はないと判断できる。

 

「装置ごと壊さないようにしろ」

 

「安心してくれ、そんなヘマはしないさ」

 

 思いっきりぶん殴ったり、蹴り飛ばしたりすると装置ごと粉砕してしまうかもしれないので、撫でるように掌を岩にくっ付けると、おもむろに指を立てて岩を少しづつ毟り取っていく。

 

 指を立てる度にポロポロと破片が砕けて落ちていき、十分ほどで岩の中に埋め込まれていたスポット装置はさらけ出されるのだった。

 

 俺はそれを持ち上げて清隆と一緒に歩き出す。彼が持っている装置と合わせてこれで二つのスポット装置を確保できたことになる。

 

「この調子なら、まだまだあるだろうな。贅沢かもしれないけど十個くらい集められたらいいんだけどね」

 

「もしそうなると、一度の更新で10ポイントか。八時間ごとに更新で一日30ポイント、一週間でざっくりと約210ポイント……滅茶苦茶だな」

 

 全ての装置を同時に更新できる訳ではないし、回収した際の時間差で多少のズレは出るだろうけど、大量ポイントは間違いない。

 

「でも効率的じゃないか。リーダーを走り回らせる必要もないし、動かなくて良いから看破されるリスクも最小限に抑えられる……多分、他のクラスの人も一度は考えるんじゃないかな」

 

「かもしれないが、実際に行動に移すのは難しいだろう……こんなことできるのはお前くらいだ」

 

 スポット装置を持ちながら呆れたように清隆はそんなことを言ってくる。俺は最善最短を志しているだけなのに、どうしてそんな視線を向けられてしまうのだろうか、少し悲しい。

 

「まぁまぁ、とりあえずこの二つを持って帰ろうよ。これ以上ない土産になるしさ」

 

「それはそうだろうが……あぁ、そうだ、さっき偵察に出た時の話をしておこう」

 

 俺がクラスの仲裁をして拠点候補まで案内している間、清隆は偵察に出ていつの間にか帰って来ていた。クラスメイトの誰にも気が付かれることもなく。

 

 どうやらその時に洞窟のスポットを占有していたAクラスの葛城と戸塚の二人を発見して、その際のやり取りを教えてくれた。

 

 二人並んでスポット装置を担ぎながら拠点への帰路を進む途中、せっかくなので情報交換も行っておこう。

 

「Aクラスの葛城はどういう男なんだ?」

 

「そこまで詳しくはないけど、伝え聞く噂と前に観察した印象から、堅実で安定感のある人って感じかな。Aクラスの二大巨頭さ」

 

「二大? そう言えば坂柳がどうのこうの言っていたな」

 

「あそこは今、派閥争いで真っ二つって噂だ……もう片方の坂柳さんは、なんて言えば良いのかな、前に観察した印象だと、少し師匠に似た感じがあったかな。怜悧な印象が強かった。どちらも優秀なリーダーなんだけど、個人的には葛城に頑張って欲しいかな」

 

「どうしてだ?」

 

「彼が真面目で堅実で安定感のある男だからさ。龍園とは正反対だ」

 

「なるほどな」

 

「今回の試験で上手く大量ポイントを獲得できれば、一気にBクラスになることもできる……個人的には、それくらいの位置が一番良いと思ってるんだ」

 

「Dクラスの総合力は、学年で最下位だろうからな……仮にここでAクラスに上がったとしても、維持はできないだろう」

 

「あぁ、同意見だ。そう考えると追う立場と追われる立場にあるBクラス辺りが一番成長に繋がりそうな気もするね。後もう少し頑張れば、あともうちょっとで、そんな立ち位置がクラス全体の団結と成長に大きな影響を与えるって考えてる」

 

「……ふむ」

 

 清隆は俺の考えを聞いて考え込む、彼の中にある勝利の道筋に重ね合わせているのかもしれない。

 

「だとしたらAクラスを追い込み過ぎるのも拙いか?」

 

「その辺はどうだろうねぇ、できるだけ派閥争いを長引かせたいとは思ってるけど、今後の流れ次第って感じかな」

 

「そうか」

 

 そんなことを話しながらDクラスのベースキャンプに進んでいると、突如として頭上の木々が揺れて葉を降らす。

 

「おや、高円寺か」

 

「そうとも私だ……この美しい自然を堪能している最中さ」

 

 樹上で爽やかに髪をかき上げる高円寺は、俺と清隆が持っているスポット装置を見て不敵に笑って見せる。

 

「なるほど、力技もそこまで行けばいっそ清々しい。流石と言っておこうか、マイフレンド」

 

「ありがとう。高円寺はそろそろリタイアするのかい?」

 

「ふ、私は私さ」

 

 答えになってないぞ。

 

「しかし私がリタイアするとしても、君は止めないだろう?」

 

「そうだね、俺は君を縛るつもりもないし、命令するつもりもないさ。好きに生きて好きに振る舞えば良い、君に不自由は似合わないしね」

 

「グゥット、それでこそ天武だ」

 

「あぁでも、リタイアする前に見かけたスポットを教えてくれたら嬉しいかな」

 

 返事はない、ニヤリと笑うだけの彼はそのまま樹上を走り抜けていくのだった。

 

「良かったのか?」

 

「いいさ、彼みたいな人間が世の中にはもっと必要だ」

 

「……よくわからない理屈だな」

 

「勿論、リタイアしないのならそれが嬉しいけどね」

 

 そこまでは彼を縛ることはできない。世の中にはもっと自由な人が必要だ。

 

 高円寺を見送った俺たちはスポット装置を運びながらベースキャンプに帰って来る。そこでは平田が拠点の設営をしており、池を上手く使ってテントなどを既に組み上げていた。

 

「平田、これお土産」

 

「ええっと……これは、もしかしてスポット装置かな?」

 

「あぁ、引っこ抜いて持ってきた」

 

「……」

 

「平田、その気持ちはよくわかるぞ」

 

 眉間に寄った皺を揉み解す平田に清隆がそんなことを言って労わるように肩を叩いている……君たちちょっと失礼じゃないかな?

 

「学校側に怒られないかな? ペナルティとか……」

 

「これは環境汚染でも、他クラスへの器物破損や暴力行為でもないから問題ないだろ……そうですよね、茶柱先生?」

 

 監督役の先生に尋ねればその辺はよくわかるだろうと思って引っこ抜いたスポット装置を見せつけると、茶柱先生は先ほどの清隆と同じようにチベットスナギツネみたいな顔となった。

 

「仮にもし俺を咎めるのならば、ルールに明記すればよかったんですよ。スポット装置を動かしてはならないって、そうでしょう?」

 

「た、確かに……ルールにはスポットを移動させてはならないと明記はしていないが……」

 

 茶柱先生は呆れ交じりの溜息を吐いており、頭痛を抑えるかのように額に指を押し当てている。

 

「はぁ……問題ないだろう」

 

 そして最後には溜息交じりにそう言うのだった。

 

「よし、なら他のスポットも回収していくか……平田、これが俺の提示する勝利への作戦だ」

 

「う、うん、確かに凄い作戦だと思うよ……ビックリしたけど」

 

 平田はそこで手に持っていたノートをこちらに提示してきた。どうやら俺と清隆以外の班も島を走り回って色々な情報を持ってきていたらしい。平田はそれをノートに書き込んで地図を作っていたのだろう。

 

「小野寺さんと須藤くんの組がスポット装置を二つ、三宅くんと本堂くんの組も一つ見つけたみたいだ。他の組は発見できなかったようだけど、トウモロコシだったりスイカだったりを見つけてる。今、手が空いてる人たちに取って来てもらってるよ」

 

「そりゃ凄い、思ってたよりも食料は充実するかもしれないね」

 

「そうだね、そこは助けられたよ……あぁ、それと、笹凪くんと綾小路くんがいない間にざっくりと一週間を過ごすのに必要な物資を計算したんだけど、意見を聞かせてくれないかな」

 

 女子たちが絶対に必要と主張していたトイレ、そして個室のシャワー、後は食料と細々とした物資類がノートに書き込まれている。集団を維持する為にある程度の余裕を残しつつ、真っ当に一週間を暮らそうと思えばこれくらいは必要だろうというラインを正確に判断しているのがわかった。

 

「うん、良いと思うな……というか、これ以上は無理だ。良いラインだと思う」

 

「そうだな」

 

 清隆も反対意見はないらしい。

 

「なら良かった」

 

 平田もホッとした様子である。

 

「それともう一つ相談事があって……実は枝を集めてくれていた山内君が、Cクラスの生徒を見つけて保護したんだ」

 

「Cクラスの生徒?」

 

 ざっと拠点を見渡してみると、端っこの方で木に背中を預ける見慣れない女子生徒を発見した。頬に殴られた跡を確認できてしまう。

 

「どうやらクラスの方針で揉めて追い出されてしまったみたいで……」

 

「なるほどね、平田はどうしたいんだ?」

 

「僕としては放置はしたくないかな。でも笹凪くんの意見も聞いておきたかったんだ」

 

「スパイの可能性はあるだろうけど、問題ないんじゃないか」

 

「良いのかい?」

 

「放置もできないさ……それに、もし本当に追い出されたんならこちらで保護した方が良い」

 

「うん、ありがとう。笹凪くんならそう言ってくれると思ってたよ」

 

「しかし、ある程度拠点内での行動に制限を掛けた方が良いだろうな」

 

「それはそうだね」

 

 俺は視線の先にいるCクラスの生徒に近寄っていく。細身ではあるがしっかりと鍛えられた体をしており体幹も良い、もしかしたら格闘技でもやっていたのかもしれないと、パッと見の印象を与えてくれる女子である。

 

「初めまして、俺は笹凪天武です。宜しくお願いします。そちらの名前は?」

 

「アンタが、あの笹凪か……私は、伊吹澪」

 

 あのってなんだろ、最近は屋上から飛び降りたことで変な噂が広がってるので、それ関係だろうか。

 

「そうか、伊吹さん。今、平田と相談したんだけど、君をここで保護することを決めた。幾つかの条件はあるけど、ゆっくりしていて欲しい」

 

「……随分とお人好しだな」

 

 木に背中を預けて座り込む伊吹さんと視線を合わせるように俺もしゃがみこむ。視線が同じ高さになったことで見つめ合う形となり、互いをよく観察することができた。

 

 その瞳を覗き込むと、きっと向こうも同じように俺の瞳を覗いているのだろう。

 

 そんな時間が数秒過ぎ去ると、伊吹さんは気まずくなったのか少しだけ頬を赤くしてプイっと視線を逸らしてしまうのだった。

 

「そうだよ、お人好しさ」

 

「何の利益もないだろ、私を受け入れたって」

 

「かもしれないね、けれど利益や不利益の話は最初からしてないよ。重要なのはカッコいいか否かだ」

 

「……はぁ? カッコいい?」

 

「あぁ、ここで君を受け入れた方がカッコいいだろ」

 

「意味がわからない、そんな理由で受け入れるっての?」

 

「重要な理由さ、カッコよく生きるっていうのは、とても重要だ……あぁ、別にこれは容姿や性差の話じゃないよ、生き方の話だ」

 

「……」

 

 伊吹さんはもの凄く怪訝な顔をしている。俺の言葉が意味不明に感じたらしい。

 

「オレはカッコよく生きたいと思ってる。カッコよさっていうのは、つまり誰かに憧れを与えられる生き方ってことさ……ここで君を追い出すような男は、カッコ悪いだろう?」

 

「はぁ……なるほどね。噂通りとんでもない馬鹿って訳だ」

 

 何かを納得した様子の伊吹さんは、大きく溜息を吐いてこちらを呆れたように見つめるのだった。

 

 そして申し訳ないかのように、小さく掠れるような声でこう伝えて来る。

 

「……ありがと」

 

「どういたしまして、ゆっくりしていってね」

 

 まぁ、この子はスパイなんだろうけど、そこは心配だな。

 

「それより、訊きたいことがあるんだけど……」

 

「ん、何かな?」

 

「……アンタが持ってきたあの装置って」

 

「あぁ、あれはスポット装置だよ。リーダーを島中走らせる訳にもいかないから、こっちに持ってきた」

 

「どうやってさ?」

 

「引き抜いて」

 

「……」

 

 どうして皆、チベットスナギツネみたいな顔になるんだろうか? 凄く良い作戦だと思うのに。

 

 まぁ伊吹さんの反応はどうだっていい。この作戦を継続するだけだ。

 

 俺は伊吹さんから離れて平田から受け取った地図を眺めながら、今日中に発見した全てのスポットを回収する為に動き出す。

 

「清隆、伊吹さんのことなんだけど」

 

「あのCクラスの女子か」

 

「スパイだ、警戒よろしく」

 

「あぁ、わかった」

 

「さっさと残りのスポットを回収しておこうか」

 

「そうだな」

 

 今わかってるのは三つ、そこまで大きく距離を離れておらず、他のクラスに奪われると手が出せなくなるので、動くのは素早い方が良いだろう。

 

 岩に嵌っていたり、鎖やボルトナットで固定されているくらいなら何の問題も無い。多分壁とかに埋まっていても引きずり出せる筈だ。

 

 そして集めれば集めるほど有利になる。やはり完璧すぎる作戦である。

 

 この日、合計で五つの装置を拠点に持ち帰ることに成功して、元々この拠点にあった岩に収まったスポットと合わせて六つの装置を独占することに成功するのだった。

 

 単純計算で八時間おきに6ポイントが手に入る。二十四時間で三回更新ができて、つまり一日18ポイントになる。一週間でざっくりと126ポイントを確保できる訳だ。

 

 明日以降も新しいフリーのスポット装置を発見できれば更に有利になる。

 

 試験初日のスタートダッシュとしては、百点満点の動きだろう。

 

 圧倒的な力でぶん殴る、これに勝る作戦なんて存在しないということだ。

 

 

 

 

 

 

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