ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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修学旅行 6

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと問題なく報酬を得ることはできた。最初に一番遠い観光スポットを目指して旅館に近寄りながら他のスポットで集合写真を撮る作戦は上手く行ったということである。

 

 時間ギリギリでもなくそれなりの余裕をもって旅館に帰り、撮ってきた集合写真を茶柱先生に提出すると無事合格であった。

 

 報酬は3万プライベートポイントだけであるが、金田が言うように無いよりもあった方が良い。リスクなく手に入れられる額としては上等な部類なのかもしれない。

 

 もしかしたら今回の件がOAAにも影響を与えるかもしれないしな。そう考えると報酬はプライベートポイントだけではない可能性もあるな。

 

 何であれほぼ一日中観光する間もなく動き回っていたのでグループは疲労が濃いようだ。荷物を旅館の部屋に置くとそのまま温泉に直行することになった。

 

 露天風呂もいいものだ、サウナもいい、相変わらず風呂場では他の男子に警戒されるのだけれど、それにももう慣れた。

 

 夕食は大盛りの海鮮丼である。刺身に蟹に、魚介が豊富なのは北海道らしいのかもしれない。

 

 不思議と旅行先で食べる物は平時と比べて美味しく感じるので不思議であった。東京でも海鮮丼は食べられるのにこっちの方が美味しい……思い込みという奴なのだろうか。

 

「思い込みね」

 

 一緒に旅館の食堂で夕食を楽しんでいた鈴音さんはばっさりだ。ちょっと悔しかったので揶揄っておこう。

 

「いやいや、旅行だから美味しく感じるのさ。それに鈴音さんと一緒だから余計にね」

 

「……そう」

 

 少し照れた様子でそっぽを向いた。

 

「うんうん、旅行先で恋人と食事だからより美味しく感じるんだろう、間違いない」

 

 こうやって揶揄っていると鈴音さんは頬を染めてまた耳を引っ張って来るので可愛らしいと思う。

 

「それよりも明日の予定を立てましょう」

 

「ん、何かまた課題を差し込んできそうかな」

 

「それはわからないけれど、どちらにせよ予定は必要よ。何もなければ橋本くんが言っていたようにゆったりと観光でもしておきたいわね」

 

「都市部を散策するのも悪くないか。あ、でもスキーとかもいいと思うよ」

 

「そうね……忘れていたわ、まだ決着がついていないことを」

 

 スキーと聞いて鈴音さんの瞳に闘志の炎が宿る。どうやら初日のスキー勝負を思い出したらしい。

 

 最近の鈴音さんは闘争心が高すぎてちょっと怖いと思う。いや、そういう所も魅力的ではあるんだろうけど。

 

「明日の朝に他のメンバーの都合や要望を聞いて、問題がないようならばスキーにしましょうか」

 

「それでいいんじゃないかな。でも勝負だけじゃなくてゆったりするのも忘れちゃいけないよ?」

 

「問題ないわ、白黒つけた後はそうするつもりよ」

 

 何故だろうか、むきになってずっとバチバチにやりあっている女子チームの姿が思い浮かんだ……まぁ楽しそうなので問題はないか。

 

「卓球のケリもつけないとね」

 

「まだやるのかい? 昨日は最終的には帆波さんに負けていたけれど」

 

「負けていないわ」

 

「え?」

 

「負けていないわ、あれは勝ちを譲ってあげたのよ。だから敗北した訳ではないの。そもそも一之瀬さんは伊吹さんに負けていたし、その伊吹さんに私は勝った……つまり私は負けていない、わかるわね?」

 

「あ、ハイ」

 

「今日はそんな配慮はしない、完全勝利を見せてあげるからしっかり応援しなさい」

 

 気合を込めて鈴音さんは海鮮丼を完食すると、瞳に闘志の炎を宿して今日もまた卓球場へ向かうことになる。なんだかんだで旅行を楽しんでいるようで俺は嬉しいよ。

 

 せっかくだし俺も卓球に興じようか? 旅行先の旅館で卓球するのはある種のお約束だと聞いたことがある。見識を広める為にも旅行あるあるを体験しておこうか。

 

 ただの遊びだし適当に誰か誘って……なんてことを考えながら決戦場へ向かう鈴音さんの後を追っていると、その途中で茶柱先生と星ノ宮先生を発見することになる。

 

 二人は旅館に備え付けられていたマッサージチェアに身を委ねて疲れを解しているようだ。小刻みに揺れてだらしなく脱力していた。

 

 あれもまた旅行あるあるなのだろうか、学校にはない器具なので興味深くはあるな。

 

「あれ、堀北さんに笹凪くんじゃな~い、二人でどうしたの? あ~、はいはい、恋人だもね、あんまり羽目を外しちゃだめよぉ」

 

「……随分とゆったりしてるんですね」

 

 星ノ宮先生のセクハラジャブを軽く躱してから鈴音さんは少し呆れたような視線を向けた。

 

「そりゃもうねぇ~、私たち教師もようやく休息ですぅ。これくらいだらけても罰は当たらないよ~」

 

「そう言えば先生方は観光する余裕もなかったですね」

 

 今日行われた課題の設置であったり、他にも見えない所で先生たちは動いているということか。生徒は修学旅行だが教師はそうもいかないのだろう。

 

「そうそれ、ほんと羨ましいわ~……しかも真嶋くんが入院中だから余計に手が足らなくて忙しくてねぇ。はぁ、楽じゃないわ教師なんて」

 

「そうだな」

 

 茶柱先生も同意する所なのか、マッサージチェアに揺られながら大きく頷く。実際に教師を体験している二人だからこそ納得できるのだろうか。

 

 情熱をもって挑んでも教職は楽ではない、まぁこの学校は特に心労も多そうではある。

 

「歳をとるとマッサージが欠かせなくなる、若いお前たちにはわからないだろうがな」

 

「はぁ」

 

 確かに鈴音さんはよくわからないといった顔をする。そんな彼女を見て茶柱先生と星ノ宮先生は眩しい物を見たかのように瞼を細めるのだった。

 

 若かりし頃を思い出したのか少し悔しそうな顔をする星ノ宮先生……いや、この二人だってまだそこまで歳という訳ではないと思うんだけど。

 

 本人たちにしかわからない何かがあるのだろう。星ノ宮先生は話題を変えるかのようにこう話を切り出すのだった。

 

「それよりも堀北さん、すっかりリーダーっぽくなっちゃって。やっぱりBクラスは居心地良い? なんて元Bクラスの担任が聞いてみたりして」

 

「DでもBでも大差はありません。私が目指しているのはAクラスなのでここは通過点に過ぎません」

 

「言うようになっちゃって」

 

 マッサージチェアに揺らされながら星ノ宮先生はつまらなそうな顔をする。やはり内心では穏やかではないらしいな。

 

「でもどうなのかしらね、確かに堀北さんのクラスは成長著しいけどさ、色々とズルいと思う所もあるのよねぇ」

 

「チエ、余計なことを言うな」

 

「別にいいじゃないサエちゃん」

 

「思ったことをそのまま口にしていい訳ではないぞ」

 

「構いません、言ってください」

 

 他クラスの担任からの印象というのは客観的で別角度からの情報だと判断したのか、鈴音さんが先を促した。

 

「じゃあ遠慮なく。私はさ、クラスを受け持つ担任として常々思ってることがある。AクラスからDクラスまでの先生たちもまた、同じように競いあっている訳。例えて言うなら先生同士でトランプの大富豪をしていると思ってくれていいかな」

 

「大富豪……ですか」

 

「ルールはわかるよね?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「配られた手札を使って、一位から最下位までを三年間で決めるわけなんだけど、大富豪は1から13までのカードを出し合うじゃない? 基本的には数字が大きければ強くて小さければ弱いわけでしょ? 3の数字しか持たない生徒が6の数字を持つ生徒と戦っても基本的には勝てない、そうだよね?」

 

「そうですね」

 

「真嶋くんのクラスなんかは最初からいいカードが揃ってる感じかなぁ、そしてDクラスになるにつれて弱いカードになっていく、まぁこれは学校のこれまでの通例みたいなものなんだけどさ」

 

 本当にそうなのだろうか? いや、確かに初期のDクラスは酷いものだったけど、纏まりが無かっただけで基礎的なスペックや成長率はもの凄く高かったように思える……なんて考えは、順調な今だからこそ言えることなのかもしれない。

 

「勿論生徒たちは日々成長していく、3や4の生徒たちだって場合によっては格上を倒せるかもしれない。それは推奨されることだし、だからこそクラス替えという制度がある……でも重要なのは平等に戦うことじゃない?」

 

「平等、ですか? この学校で最も縁遠い言葉のように思えますけど、まず最初に平等など存在しないと教えられた気がするのですが」

 

 そりゃそうだ、格差こそ教育というのがこの学校の在り方である。平等なんて入学する前から存在しない。

 

「もし本当に星ノ宮先生の言う通り平等な戦いが大切だと言うのならば、初期のクラス分けは能力を平等なるように配分すべきです」

 

「それを言われたらその通りだけど、これまではそれが通例だったのよねぇ。それに仮にそうなってもジョーカーの扱いに困っちゃうでしょ?」

 

「ジョーカー?」

 

「そ、なんにでも勝てるズルい札、それだけでルールやバランスが壊れちゃうようなカードがあれば、たとえ平等に振り分けても格差が生まれちゃうでしょ? その辺の所、笹凪くんはどう思うかな?」

 

「さぁ、どうでしょう。戦う相手がどれだけ強くても挑むことも勝つ為に全力を尽くすことは変わりませんから。まぁ、戦力過剰だと思うのならば、いっそそのジョーカーだけ隔離して一人だけのクラスを作るとかどうですか?」

 

「もし君がたった一人だけのクラスに振り分けられたらどうするのよ?」

 

「別に何も、今も言いましたがやることは何もかわりません……寧ろ、刺激的で楽しそうだと思います」

 

 大勢の敵に囲まれるのは、笹凪流にとってとても名誉なことだ。もし全クラスが敵になるとするのならば、それはきっと心躍る状況だ。

 

「ね? こんなカードがあるクラスはズルいと思わない? こっちがどれだけ頑張ってもそれ一枚だけでひっくり返っちゃう。しかも堀北さんクラスは一枚どころじゃなくて下手すれば複数枚あるよね、勝てるわけないよ」

 

「お前の発言の是非は別として、Dクラスの生徒に聞かれたらどうするつもりだ?」

 

 茶柱先生の言うことはまさにその通りだ。星ノ宮先生は自分のクラスの生徒たちを見限っているとも受け取られかねないだろう。

 

「……そうね、ごめんごめん。ちょっとお酒回っちゃったのかも。ジョーカーが幾つも手に入ったのはサエちゃんや堀北さんがラッキーだったから。それを使ってAクラスに到達しても、ズルなんかじゃないよね」

 

「嫌味な言い分ですね、こちらのクラスの苦労も知らないで」

 

「え~、でも事実じゃない?」

 

 鈴音さんは小さな溜息を吐く。

 

「確かに恵まれたクラスであることは認めます。きっと私一人ではここまでこれなかった。そう思わせてくれるだけで良い環境だと思います……ズルいと言われても否定できない部分もありますが、だからといって私たちのクラスの努力を全否定されても困ります。少なくとも、その言葉に憤りを覚えるくらいの努力は積み重ねてきました」

 

「……」

 

「私たちは私たちで色々な物を積み上げてここにいる。それはここにいる天武くんの力であり、他のクラスメイトの努力でもある。隣の庭は青く見えるのかもしれませんが、ただ自堕落に過ごして他人任せにしてきたわけではありません」

 

「そうね……ちょっと言いすぎたわ」

 

「それに……心配しなくても、一之瀬さんは必ず私たちの前に立ちふさがってきます」

 

「え?」

 

「まだ何も終わっていない。諦めているのは教師だけという話をしているんです」

 

 ちょっと棘のある言い方をしてから鈴音さんは再び瞳に闘志を宿してその場を後にする。目指すのは卓球場であった。

 

「はぁ~……若いって凄いね」

 

 星ノ宮先生は懐かしむようにそう愚痴る。老人全開な発言である、まだそこまでの歳でもないというのに。気分が落ち込むと急激に老いるのだろうか。

 

 私はああはなれない、そう思った段階で成長が止まって大人になるのかもしれないな。

 

「笹凪くんはどう思う?」

 

「帆波さんのことですか? それに関しては鈴音さんと同意見です。まだ何も終わってはいませんよ。これは余裕とか、そういう話じゃなくて、当人のやる気と情熱の話ですけどね。そしてこれは坂柳さんクラスや龍園クラスも同じことが言えます」

 

「へぇ」

 

「あ、信じてませんね? まぁ見ててくださいよ、俺たちも帆波さんたちも、坂柳さんや龍園たちだって……胸に情熱を秘めています」

 

「でも勝てるかどうかは別問題じゃない?」

 

「えぇ、けれど挫折して卒業するのと、全てを出し切って卒業することは大きく違います」

 

「私たちはそうはなれなかったわぁ」

 

「そうですか」

 

 茶柱先生もそうだけど、星ノ宮先生も色々と屈折した思いがあるということか。学生時代の三年間にずっと縛られるとか俺は絶対にごめんだけど、そんな風に思える人間ばかりではないか。

 

 人生の3パーセントに、残りの97パーセントを引きずられるなんて、少し哀れに思えてしまう。なんて考えも、誰もが割り切れるものではないのかもしれないな。

 

 俺たちの世代は悔いなく卒業を迎えられるだろうか?

 

 そんなことを思うのだが、結局、俺は一人前になる為に必要な三つは見つけられたので、後はやりたいようにやるだけなので気にするようなことではなかった。

 

 誰が挫折しようとも、もう無理だと泣いても、強引にケツを蹴り飛ばすだけなのだから。

 

 師匠曰く、もう無理だと泣き始めてからが本番らしい。

 

 

 

 

 

 

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