ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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サバイバル試験 6

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍園は面白い男だよね」

 

「面白い? あれは愚かと言うのよ」

 

 Cクラスの偵察を終えてその帰り道、色々と衝撃的な光景を見せられた俺たちの意見は正反対なものであった。

 

「この試験は工夫と団結と忍耐を競うものなのに、あんなことをしてしまえば意味がないわ」

 

「そうでもないよ。あれは龍園なりに出したこの試験に挑む上での答えなんだと思う」

 

「ポイントを好きなだけ使うことが答えだというの?」

 

「あぁ、この試験が始まる前にクラスで共有した三つの目標があっただろ? その内の第一目標を思い出してほしい」

 

「……クラス間の団結や信頼を崩壊させないこと」

 

 堀北さん自身が言ったことだし、忘れている筈がないか。

 

「そう、それ。少なくとも龍園の作戦はその第一目標を超えることのできるものだ。つまりテストの赤点ラインは超えることができる。一部から反対はあったようだけど大部分が納得して楽しんでいるのなら完全な誤りとは言えないさ」

 

「だとしても、他のクラスとの差は明らかに広がる」

 

「ただその状況を楽しむだけならそうだろうね。けど俺の知る龍園は賢い男だ……アレで良しとした根拠があるんだろう」

 

「……」

 

 堀北さんは振り返って浜辺付近でバカンスを楽しむCクラスを眺める。そして深く考え込んだ。

 

「勝利に貪欲で、執着して、意思と覚悟もある、頭だって悪くない……それは愚かから最も遠い男ってことなんだと俺は思う」

 

「あの無礼な男を評価しているのね……意外だわ」

 

「一之瀬さんとは方向性の違うリーダーだとは思ってるよ。Aクラスの葛城とも異なる……どんな形であっても集団を率いる人間には何らかの才能、器があるんだ。曲がりなりにも一つのクラス、社会を引っ張っている時点で警戒に値するとも」

 

 能力の良し悪しや考えの左右はあんまり関係が無い。結局の所、リーダーに求められるのは利益を得られるかどうかだけなのだから。

 

 逆に言えばどれだけ優秀でも利益を生み出せないのならば、その時点でリーダー失格なのだろう。

 

 心技体、結果、全てが揃った理想の指導者は中々生まれることはない。

 

「一之瀬さんの名前が出て思い出した、せっかくだからこのままBクラスの様子も偵察しよう。場所はわかってるから付いてきて」

 

 そこも高円寺から受け取った情報に残されていた。樹上を飛び移っていたことと言い、忍者のような男であった。

 

 堀北さんと一緒に整備された森の中を歩くこと十分ほど、Bクラスが拠点としているベースキャンプが見えて来る。どうやら一之瀬さんは井戸が近くにある場所を拠点と定めたらしい。

 

 飲み水を節約できる場所、なるほど、良い拠点なのかもしれないな。

 

「あれ、笹凪くんだ!! お~い!!」

 

「やぁ一之瀬さん、こんにちは」

 

「こんにちは、そっちの子は確か……堀北さんだったよね」

 

「え、えぇ」

 

 にっこりと笑った一之瀬さんは堀北さんの両手を握って大袈裟なほどに握手を繰り返す。

 

 見る度に思うが眩い人だと思う。堀北さんもタジタジであった。

 

「Bクラスはどうしてるのかなって様子を見に来たんだ」

 

「むむ、偵察ってことだね」

 

「そうなってしまうね、都合が悪いようなら出直すよ」

 

「大丈夫だよ、別に隠すようなこともないしね。それに他クラスの人たちとも話がしてみたかったんだ。この試験にどんな感じで挑んでるのか、みたいに」

 

「色々と難しい試験だよね。考えなきゃ駄目なことが多いし、ストレスとか信頼関係とかさ」

 

「うん、凄くわかるかな。いきなり無人島でサバイバルだもんねぇ、いくらポイントがあるって言っても、湯水のようには使えないしね」

 

「でも、Bクラスは統率が取れているように思えるわ。このクラスは貴女が纏めているのよね?」

 

「一之瀬さんはクラスの委員長らしいよ」

 

「委員長?」

 

「にゃはは、別に学校にそういった制度がある訳じゃないんだけどね、やっぱりそういうのも必要かなって思って、皆で話し合って決めたんだよ」

 

 堀北さんはBクラスの拠点をぐるりと見て回る。誰もが真面目かつ真剣に働いているのが確認できる。ただ緊張ばかりではなく楽しそうに会話しているのがわかった。

 

「Dクラスはやっぱり笹凪くんが纏めてるのかな?」

 

「主に平田とか櫛田さんかな、俺も力になっているけどね」

 

「あ、そうなんだ、私はてっきり笹凪くんがそうなのかって思ってたけど」

 

「その辺はだいぶ曖昧かな」

 

 俺は別にリーダーだって主張したことは一度もない。

 

 Bクラスのベースキャンプで使われているものはDクラスとそこまで大きな差はないらしい。ポイント使用の内訳を聞いてみると、やはり似たり寄ったりな感じである。

 

「Dクラスも同じような使い方みたいだね」

 

 こちらの使用内訳を説明してみると、そんな感想が一之瀬さんから返って来た。

 

「一之瀬さん、貴女はこの試験をどう乗り越えようとしているのかしら?」

 

「そこが難しいよねぇ、あんまり無茶してクラスがギスギスしちゃっても大変だろうし、ほどほどにポイントを使いながら、節約できる所は節約して……後はどれだけスポットを占有できるかがカギになるんだろうけど。思ってた以上にスポットが少なく感じるんだよ」

 

「そ、それはそうね……」

 

 堀北さんの視線がこちらに向かう。目立つスポットは俺が引っこ抜いて持ち去ってしまったからね、少ないんじゃなくて場所が変わってしまっているんだ。

 

「私は、もっとこう、スポットをどれだけ上手く占有できるかっていう試験になるって思ってたんだけど、でも想像より少なかったから拠点製作の方に力を入れたかな」

 

「確かに、とても充実しているようにも思えるわね」

 

 だよね、タダで貰えるビニールをテントの下に敷き詰めてクッション替わりにするとか、工夫と努力が垣間見える。

 

 これが一之瀬さんが出したクラスの信頼や団結を崩壊させない答えなのだろう。やはり龍園とは異なる方向性のリーダーのようだ。

 

「だね、Cクラスとはまた違った充実さだ」

 

「Cクラス? そっちも見て来たの?」

 

 俺は一之瀬さんにCクラスの状況と龍園の方針を伝えると、彼女はやはり驚いて見せる。

 

 ポイントを躊躇なく使ってバカンスを楽しむという考えや方針は、この試験では常識外れと見るべきなのだろう。

 

「はぁ~……なんていうか、凄い考えだね」

 

「今後どうするかはさっぱりだけどね」

 

「発想が凄いかな。私はこの試験をどう節約するか考えてたのに、龍園くんはそんな方針だなんて」

 

「反対もあったみたいだけど……実はその方針に反対したCクラスの生徒を保護してるんだ」

 

 伊吹澪さん、Cクラスから保護した人物、そしてほぼほぼ確実にスパイである。

 

 そこで俺はBクラスの拠点を見渡して目的となる人物を探し出す。以前に観察した時に他クラスの人たちの顔は覚えているので、すぐに発見することができた。

 

「そっか、そうなんだ……実はBクラスも同じようにCクラスの生徒を保護してるんだけど」

 

「一応、訊いておくけど、スパイだってわかった上で受け入れたんだよね?」

 

「それは、うん、そうだね……でも放っておけなかったんだ」

 

 彼女も一つのクラスを率いる立場なんだ。当然ながらそういうことは考える。考えた上で受け入れたんだろう。

 

「わかるよ」

 

「え?」

 

「俺も同じだったからね。困ってる人がいると手を差し伸べてしまうんだ……善悪や利益不利益は後に考えてしまう」

 

 俺は別に伊吹さんがスパイであるかどうか、それが真実であるか否かはどうでも良かったりする。重要なのはそこではないのだから。

 

「まぁ、もしスパイだっていうなら、リーダーがバレないように頑張ればいいさ、そうだろう?」

 

「うん、もちろんそのつもりだよ」

 

 吊り下げたハンモックに腰かけて穏やかに笑う一之瀬さん、龍園は彼女の爪の垢を煎じて飲んだ方が良いと思う。伊吹さんを殴って怪我さしてる場合じゃないだろ。

 

「そうだ、一之瀬さん。俺たちとBクラスの協力関係ってまだ続いてる認識で良いのかな?」

 

「私はそう思ってるよ……え? 違ったかな?」

 

「そんなことはないさ、寧ろそうじゃないと苦労した意味がない」

 

「む~、あの時は大した事してないって言ってたのに……やっぱり苦労してたんだ?」

 

「黙秘します」

 

「もうッ」

 

 プリプリと怒った様子を見せて来る一之瀬さん、正直とても可愛らしかった。

 

「ミステリアスな男はモテるらしい作戦はまだ実践中でね……まぁそんなことはどうでもよくて、協力関係を結んでいるからできれば互いのリーダーを指名するのを止めないかなって話がしたいんだ」

 

「もちろんオッケーだよ。こっちからお願いしたいくらいかな」

 

 リーダーが指名されるとそれだけで大きなペナルティーだからな。ボーナスも一気に吹き飛ぶ。1クラスでも警戒から外れるならアリだろう。

 

「ありがとう、これで少し楽になったよ」

 

「どういたしまして、助けられたのは私たちなんだしもっと頼ってくれて良いんだよ? 少しでも恩返しがしたいからね」

 

「そう深く考えることもないさ。隣人は愛するものだと俺は教わったから、そうしているだけなんだ」

 

「ありがとう。そのおかげで助かったかな。1クラスだけでも警戒しなくて良いなら少しだけ気も楽になるしね」

 

 そう言った一之瀬さんはハンモックの上で少しだけ体を解す、寝不足なのか背伸びをして眠気を振り払うかのような動作だ。

 

「お疲れみたいだね。まぁこんな試験に放り込まれたらそうなるか」

 

「だね、でも弱音は吐けないよ」

 

「委員長だからって何もかもを一人で背負う必要はないと思うよ」

 

「え?」

 

「頼るべき時は頼る、任せるべき仕事は任せる、リーダーが完璧超人である必要はないって話さ。何もかもを一人で背負わないで、誰かに頼ることもまたリーダーの資質の一つだと俺は思う……だからまぁ、あまり無理はしないようにね」

 

「……うん、わかった」

 

 一之瀬さんとそんな会話を続けていると、隣にいた堀北さんが俺の袖を掴んでクイッと引っ張って来る。そちらに視線を向けてみると、何とも言えない瞳をして迎え撃たれてしまう。

 

 少し不機嫌な様子にも見えた。どうやら一之瀬さんとの会話は長く続けられないらしい。

 

「それじゃあ俺たちはそろそろ移動するよ。ついでにAクラスも見に行きたいからね」

 

 高円寺から渡されたメモにはその辺の情報も書かれていた。清隆も洞窟のスポットを占有していたのを見たって言うから間違いないんだろう。

 

「場所はわかるかな?」

 

「大丈夫、それらしい場所に目星がついてるから」

 

 そこで一之瀬さんとBクラスとは離れることになった。C、Bと来たので次はAクラスの偵察だな。

 

 森の中を歩いて十分ほど、開けた場所に出てその先にあるそれなりの傾斜にぽっかりと空いた洞窟、それがAクラスの拠点なのだが、どうやらビニールを何枚も繋ぎ合わせてカーテンを作って入口を完全に塞いでしまっているようだ。

 

 やっぱり拠点一つ、雰囲気一つとってみてもリーダーの特色というか性格が現れるよな。

 

「ここからじゃ中の様子はわからないわね……」

 

「あまり見せたくないんだろうさ」

 

 何でかは、まぁわからなくはないけど……Dクラスもスポット装置が幾つも並んでいるような状況だし。

 

 ビニールで作ったカーテンに近づいていくと、すぐにこちらに気が付いた生徒がいた。確か船の上でパントマイムを披露した生徒、名前は戸塚弥彦だったか。

 

「なんだお前ら。どこのクラスだ」

 

 あれ、もしかして俺のこと覚えてない? あれだけ迫真のパントマイムだったのに。

 

「偵察に来たのよ、何か問題がある? Aクラスを名乗るからにはさぞ賢い生活をしていると思ったけれど……」

 

 堀北さんの瞳が洞窟を塞ぐビニールのカーテンに向けられる。そして呆れたように溜息を吐く。

 

 姑息なやり方だとでも言わんばかりに。

 

 確かに、豪快さにかけるよね。Aクラスなんだからスポット装置を引きちぎって持って帰るくらいの大胆さを見せて欲しいもんだ。

 

「チッ、不良品の分際で随分と偉そうだなおい」

 

 相手も苛立った様子でこちらを睨んで来る。そんな時だ、カーテンの向こうからAクラスのリーダーが現れたのは。

 

「何をしている。客人を呼んでいいと許可した覚えはないぞ」

 

「葛城さん!! こいつら偵察に来たみたいで、汚い連中です!!」

 

 姿を見せたのはAクラスの現リーダー、そして二大派閥の片割れを率いる男子生徒の名前は葛城。龍園とは色々な意味で正反対の人物である。

 

「別にそれくらい構わないでしょう、ルールで禁止されている訳ではないもの」

 

 そうだ、スポット装置を持って帰るのだってルールで禁止されてないもんな。何も問題はない筈だ。

 

「だったら遠慮せずに中を見てみれば良い。その代わり覚悟はしておくことだ。指一本でも触れた瞬間、俺は他クラスへの妨害行為として学校側に通告する。その結果Dクラスがどうなるかは保証しない」

 

「これは独占行為よ」

 

 凄いな堀北さん、俺というかDクラスがやってることを完全に棚に上げてしまっている。

 

「確かにその通りだ。しかしこれは暗黙のルールのようなものだと俺は考える。お前たちも拠点にあるスポットを占有して半ば独占するように占有地を囲い生活している筈だ。そこに誰かが踏み込み強引な手段を取ったか?」

 

 堂々と、そして力強さを感じる論調だ。安定感のある男という評価は間違いではないんだろう。

 

「この占有スポットをAクラスが押さえた。そしてそこに付随した権利やポイントをAクラスが得る。試験終了までその場所を守り通すことに何の問題がある。確かに独占はしているが決して批判されるようなことではない」

 

「そこまで言うのならば……例えば私たちDクラスが同じようにスポットを独占したとしても、Aクラスは批判しないと判断するけれど?」

 

 なるほどね、そういう言質が欲しかった訳か。

 

「当然だ。何もスポットに限った話ではなく。この島で得た様々な物資や権利にも同じことが言えるだろう。例えば食料を発見して持って帰ったのならば、それは君たちが有する権利がある。それを寄こせと言ったり、ルール違反等と騒ぎ立てるつもりはない」

 

「その言葉、忘れないで頂戴」

 

「二言はない」

 

 スポット装置を持って帰っても彼は批判もしないし騒いだりもしないということだ。だってあれって俺の考えだとトウモロコシとかスイカと大して変わんない物だし、見つけて持って帰ったら俺たちの物だと葛城は認めてくれるらしい。とても懐の深い人物である。

 

「行きましょ、笹凪くん」

 

「あぁ、わかった」

 

「ん? お前が笹凪か?」

 

「そうだけど、その反応だと俺を知っているのかい?」

 

「色々と噂は聞いている。今年度の主席入学者だからな……それと、変わり者だとも」

 

「そんなことはないと思うけど……どんな噂を聞いたのかな?」

 

「……屋上から飛び降りたと聞いたが」

 

 うん、飛び降りたね。やっぱりその辺の噂ってちゃんと広まってるのか。会長からも釘を刺されたからな。

 

「あんまり噂は気にしないでくれ」

 

「そうだな、根も葉もない噂だ。気にするだけ無駄だろう」

 

 根も葉もあるし、何だったらしっかり火もあるからがっつり煙も出るんだよな。

 

「それじゃあ俺たちはもう行くよ、厳しい試験だけどお互いに頑張ろう」

 

「あぁ、そちらの健闘を期待している」

 

 彼は俺がスポット装置を引っこ抜いてると知ればどんな顔をするんだろうか? ちょっと見てみたくはある。

 

 Aクラスの拠点から離れて再び森の中に戻っていく。隣にいる堀北さんは少しだけ緊張を解して疲れた様子を見せていた。

 

「これで言質は取れた」

 

「ん、良い論調だと思うよ。これでAクラスが何を言って来たって、お前たちも同じことしてるだろって言い返せる」

 

 実際は全く同じではないけどね。でも葛城はスポットの独占は当然の権利だって主張だから、俺たちだって同じことをするだけだ……DクラスとAクラスで違う所があるとすれば、それはスポットの数と距離が違うことだけである。

 

 うん、何も問題は無いな。

 

 だから新しく発見したスポットも持って帰るとしよう。

 

「堀北さん、新しいスポットがあったよ。アレも持って帰ろう」

 

 帰り道の途中で発見したスポットは木々に隠されて巧妙にカモフラージュされていたが、人の手が入っているのがよく観察すれば簡単に見抜けた。見つけてみろとでも言わんばかりの配置だ。

 

「Aクラスも認めてくれたことだし、何も問題はないわね」

 

 あ、ちょっと堀北さんが嘲笑うような意地悪な顔をしている。珍しい表情だな。

 

「そうそう。スポットの独占、これは彼も認めてくれた正当な権利なんだ」

 

 なので俺はそのスポット装置を引っこ抜くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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