ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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船上試験
船上試験の始まり


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無人島での試験は幸いなことにDクラスの圧倒的な勝利で幕を閉じた。俺はこの試験のルールと内容を聞かされた瞬間から、どれだけ節約するかの勝負ではなくどれだけ効率的にスポットを占有できるかが重要であると判断して、実際にそれを実行した。

 

 つまりは極めて王道かつ真面目な方法であり、これ以上ない位に正道な攻略方法である。

 

 こちらのリーダーを指名されてしまうとボーナスポイントの全損もありえたので、試験終了直前での変更作戦も上手く噛み合った結果であった。

 

 完全完璧な最適解である。だからとてもスマートで無駄のない美しさすら感じる結果なのだが、不思議なことに一年生全員が俺を見てお利口ゴリラという評価を押し付けて来る。

 

 今も船ですれ違った他クラスの女子生徒が俺を見て友人とコソコソと話し合っており、声は聞こえないが唇の動きでお利口ゴリラという単語を読み取ることができてしまう。

 

 とても悲しいね、どうせ龍園辺りが発生源だろうけど。彼は俺に恨みでもあるんだろうか。

 

 まぁそんな評価はどうでもいい。一度広まってしまったので今更訂正しても意味はないだろうしね。

 

 ゴリラ単品だけでなくお利口がくっ付いてるのが救いと考えよう。

 

 無駄なことは考えないで今はとにかくしっかり休んで英気を養うべきなんだろう。この学校のことだからどうせまた無茶ぶりしてくるだろうし。

 

「体調は大丈夫かい?」

 

「えぇ、薬を飲んでぐっすり寝たもの、何も問題はないわ」

 

 一足早く船に戻って休んでいた堀北さんの体調も回復したらしい。顔色もかなり良くなったのでもう大丈夫だろう。

 

「なら良かったよ」

 

 元気な姿を見せられると、お見舞いに来た身としても嬉しい。これで死にそうな顔をされていると凄く気まずくなったに違いない。

 

「食欲があるようならどこかで食事でもどうだい?」

 

「え?」

 

「ん、嫌なら断ってくれて構わないけど」

 

「そ、そんなことはないわ……えぇ、行きましょう」

 

「ありがとう。病み上がりだから軽めなものにしておこうか」

 

 ベッドから立ち上がった堀北さんと一緒に部屋を出て、この豪華客船の中に無数にある店の一つに向かう。そこまで格式ばった場所でなくてコーヒー片手に寛げるような場所が良いだろう。

 

「綾小路君は呼ばないのかしら?」

 

「あぁ、実は誘ったんだけど茶柱先生に呼び出されてたからね、難しいみたいだ」

 

「……そう、私はその穴埋めなのね」

 

 あ、あれ、堀北さんが不機嫌になった。別に代わりに誘った訳でもないんだけどな。

 

「えっと、別に清隆の代わりとかそういう訳じゃなくてね……なんと言いますか」

 

「……」

 

 駄目だ、凄く不機嫌な様子だ。

 

「あ~、う~ん、おほん……失礼しました。堀北さん、どうかエスコートさせて貰えないでしょうか?」

 

 どうして浮気を疑われたみたいな心境になっているんだろうか? いや、師匠はこういう時は変な言い訳をせずに紳士に振る舞えと言っていたな。

 

 少し大仰な仕草で貴女と過ごしたいと表現すれば良いだろう。俺は決して堀北さんを雑に扱っている訳じゃないと知ってもらわないと。

 

「だから許して欲しいな」

 

「わかった……許してあげるわ」

 

 師匠、貴女の言ったことは正しかったようです。紳士に振る舞えば堀北さんは許してくれました。

 

 機嫌の直った堀北さんと一緒に軽食もできるカフェに入店して席に着く。船の中とは思えない程に施設が充実しているのはありがたいことだと思う。

 

 彼女はコーヒーとサンドイッチ、俺はミルクティーとパンケーキを注文した。

 

「笹凪くん、甘党なのかしら?」

 

「特に意識したことはないけど、言われてみればそうかもね。苦いのや辛いのは苦手かもしれない」

 

「ふふ、意外と子供舌なのね」

 

 何が面白かったのか堀北さんはクスリと笑って見せる……馬鹿にされている気もするが可愛いので許そう。

 

「意外かい?」

 

「えぇ。貴方はなんというか、落ち着いて大人びた雰囲気があるから、少しだけ」

 

「背伸びしてまで苦手な物を飲みたくはないかな。コーヒーもミルクと砂糖たっぷりじゃないと飲める気がしないよ」

 

 そう伝えると堀北さんはまたもやクスクスと笑う。彼女は本当に表情豊かになったと思う。四月頃の彼女に見せてやりたいものだ。そう考えると少しほっこりした気分になる。

 

「……何かしら、その顔は?」

 

「いいや、別に今の堀北さんと四月頃のハリネズミ堀北さんを会わしてみたいなとか思ってないさ」

 

「な!?」

 

「あぁ、でも、もしそれが叶うなら君は笑顔が素敵な女性だと紹介したいね」

 

「か、揶揄わないで……」

 

「ごめんごめん」

 

 ジトッとした目で照れ隠しに睨まれてしまう。少し揶揄いすぎたみたいだ。

 

「この話を続けてると堀北さんが不機嫌になりそうだから話題を変えようか? そうだなぁ、無人島から帰って来てどうだい? クラスメイトからの反応とかさ」

 

「それは、まぁ……多少はね」

 

「気軽に挨拶とかされるようになったみたいだね」

 

「……そこに関しては、少しだけ戸惑っているわ」

 

「ゆっくり慣れて行けばいいよ。皆、君が優秀で責任感のある人だってわかってるんだからさ。少し精神的な距離が近くなればあっという間に人気者になれると思う」

 

「別に私は人気者になりたい訳ではないのだけど……」

 

「でも、堀北さんの言葉に耳を傾けてくれるのは、信頼があることが大前提だ。信頼の形は様々だけど、どんな形であれ相手とのコミュニケーションがどうしても必要になるさ。それは俺もそうだし、君のお兄さんだって同じだ」

 

 生徒会長の存在を出すと堀北さんは露骨に反応する。

 

「ただテストの点数が良かったり運動が凄いからあの人は生徒会長になれたんじゃない。この人に付いていきたいって思えるような生き方をしてきたからこそ、じゃないかな。きっとカッコよく生きているんだよ」

 

「カッコいいって……ま、まぁ、確かに兄さんはそうだけど」

 

 この子のブラコンっぷりも相当だな。生徒会長も似たような感じだったし、似た者兄妹ってことなのか。

 

「容姿って意味じゃないよ? 誰かに憧れて貰えるって意味だ……リーダーの形もまた様々だけど、それが欠落していると根本的に駄目なんじゃないかな」

 

「……」

 

「だから堀北さんは、カッコよく振る舞えば良いと思う。君が誰かに憧れを与えられるような人になれたのなら、きっと周囲には沢山の人がいるよ……うん、斜に構えた人よりも、そういう人の方がずっとカッコいいね」

 

 挨拶をするのはその第一歩なんだと俺は思う。

 

「まぁ偉そうに語ってしまったけど、要は君は今のまま進んで行けばいいんじゃないかな」

 

「急に投げやりになったわね」

 

「だって改善点なんて何もないし……堀北さんは頑張ってるから」

 

「……」

 

 堀北さんは少し照れて視線を反らしてしまった。彼女は褒められ慣れてないのでこういった言葉が効果抜群である。やはり生徒会長は接し方を間違えていた疑惑があるな。褒めて伸ばせ、褒めて。コンクリに叩きつけるのは止めた方が良い。

 

「まぁ、これからもっと頑張って交友を深めていけば良いさ。俺や清隆だけじゃなくてさ……高円寺とかおすすめだよ?」

 

「お、おすすめ? 彼はそういった対象から最も遠い人種に思えるのだけど」

 

「そうかい? 高円寺はとても自由で真っすぐな人物だ。わかりやすいくらいに接し易いじゃないか」

 

「私と貴方は今、同じ人物について話しているのよね?」

 

「高円寺は二人もいないよ」

 

「そ、そう……考えておくわ、機会があればね」

 

 ここまで困惑されるとは……彼女の中で高円寺はどんな人物として受け止められているのだろうか?

 

 せっかくだから堀北さんから見たクラスメイトの印象とか聞いておきたいな、そんなことを思って話を膨らませようとした時だ。船内に事務的な放送が広がったのは。

 

 

 

『生徒の皆さんにお知らせいたします――――』

 

 

 

 どうやらゆっくり和やかにお喋りとはいかないらしい。水を差すのが上手い高校だと本当に思う。

 

 なにやら重要な内容であるらしく、同じように放送を聞いていた堀北さんも集中力を高めているのか鋭い視線になっていた。

 

 俺と彼女が持っているスマホが震えて学校側からメールが送られてきた。同時に内容を確認すると、特別試験の説明をするので各自指定された部屋に時間厳守で来るようにという内容であった。

 

「始まったみたいね……まだ時間があったからもう一つくらいはねじ込んで来るかと思っていたけど」

 

「そうだね……とりあえず清隆に電話かな」

 

 わざわざ時間を指定しているのだから、もしかしたら生徒それぞれに別の課題や条件を示してくる可能性もあるだろう。全員を同時にルールの説明をしないのは少し変に思える。

 

『メールの話か?』

 

 清隆に電話するとすぐに繋がる。多分あっちもそのつもりだったんだろう。

 

「20時40分に集まれって指示だったけど、そっちはどうかな?」

 

『そうなのか、こっちは18時に集まれという内容だった』

 

「わざわざ時間をズラすのはなんでだろうね」

 

『さてな、説明を受けてみないことにはわからない』

 

「そりゃそうか、何かわかったことがあれば連絡してくれ、こっちからもそうするから」

 

『わかった』

 

 そこで俺は電話を切って次に一之瀬さんに連絡を取った。

 

「もしもし一之瀬さん? ごめんね急に電話しちゃって。実はさっきのメールの件で確認したいことがあってさ。今、時間ってあるかな?」

 

『あはは、全然大丈夫だよ』

 

 電話越しに聞こえる一之瀬さんの声は普段通りに穏やかで活力に満ちている。顔が見れないのは少し残念でもあるな。

 

 正面にいる堀北さんの鋭い視線とは正反対の、にこやかな顔をしているだろうから。

 

「メールには20時40分に集合って書かれてたんだけど、俺の友達は別の時間を指定されたんだ」

 

『やっぱりそうなんだ。私の方でも何人かメールを見せて貰ったけど、それぞれ別の時間帯だったよ』

 

「因みに一之瀬さんは何時だったのかな?」

 

『私は18時丁度だね』

 

「そっか……ありがとう。詳しいことは説明を聞いてみないとわからないけど。無人島とはまた一味違った試験になりそうだ。お互いに頑張ろう」

 

『うん!! 無人島ではしてやられちゃったけど、今回は負けないからね』

 

「おや、怖い怖い」

 

『むぅ、余裕な笑みが想像できちゃうな』

 

「そうでもないさ。あの試験はたまたまドンピシャに俺に適していただけだからね。今回はどうなるかさっぱりわからないよ。言えることは頑張ろうってことだけだ」

 

『うん、頑張ろうね』

 

 どうやら一之瀬さんは清隆と同じ時間に集合がかかっているらしい。それを確認したら次は龍園に電話をかける。

 

「やぁ龍園、ご機嫌いかがかな?」

 

 清隆や一之瀬さんとは違って彼の場合は電話に出るまでそこそこの時間がかかったのは何故だろうか? どうした訳かスマホ片手に俺からの着信に答えたくないと渋面を作る龍園が想像できてしまった。

 

 それでもしっかりと答えてくれるあたり、きっと彼はツンデレという生き物なんだろう。

 

『お利口ゴリラが、何気安く連絡してきてんだ』

 

「俺と君は友人なんだから電話くらい良いじゃないか」

 

『……マジで止めろ』

 

「まぁまぁ、さっきのメールで話がしたいんだよ。君は何時に呼ばれたのかな? 因みに俺は20時40分だったよ」

 

『……』

 

 電話の向こうで龍園が渋面を作ってるのが想像できるな。思考の瞬発力が高い男なので様々なことを考えているのだろう。

 

「もしかして君も同じ時間かな?」

 

『ククク、だとしたらどうだってんだ?』

 

「一緒に頑張ればいいさ。友人と一緒なら心細くないだろう」

 

 俺が嘘偽りない本音を伝えると、彼は無言で電話を切ってしまった。解せない。

 

「一之瀬さんは18時、龍園は俺と堀北さんと同じ時間みたいだね」

 

「そう……この振り分けには意味があるのかしら?」

 

「他の面子を見てみないことには何とも言えないな」

 

 もしここで葛城が加わったら意図的な感じになるんだろうけど、そうなったらそうなったで何故一之瀬さんがいないのかという疑問も生まれる。

 

 けれどここでどれだけ悩んでも答えは見つからないんだろう。行ってみないことにはだ。

 

「今回の特別試験、どんな形になるだろうね?」

 

「そうね……無人島ではなく船の中なのだから。そこまで大きく動き回るような形にはならないと思うけど」

 

「力づくでどうにかできる試験なら、どうにでもできるんだけど」

 

「まさか船の上で鬼ごっこやかくれんぼをする訳もないから、無人島のようなことにはならないと思うけど……」

 

「さすがにああはならないか……テストでも受けさせられるかもね」

 

 その言葉に堀北さんは考え込む。やっぱりどれだけ悩んでもハッキリとした答えがでるようなことでもなかった。

 

「まだ時間はあるからさ。色々考えるのは後にしようか。今はリラックスしてその時に備えればいい。緩急は大事だ」

 

「……」

 

 だが堀北さんはずっと考え込んだ状態から帰ってこない……仕方がないとは言え今からこれではまた熱がぶり返しそうな気もするな。

 

「せっかくだからどこかで遊ぼうか? 何か希望とかあるかな?」

 

「え……そ、そうね、読書とか、かしら?」

 

 ここで船の設備で遊ぼうと言わない辺り堀北さんらしいと思う。

 

「良いね、おすすめの本とか教えてよ」

 

「えぇ、わかったわ」

 

 読書が趣味なので色々と面白そうな本を知っているだろう。この船には図書室もあるのでそこで時間が来るまで過ごせる筈だ。

 

 図書室で同級生の女子と本をおすすめして貰う。これはこれで高校生らしいのかもしれない。あまり色気はないけど青春っぽさがほんのりと感じることができる。

 

 青春は人生に必要だ。師匠がそう言ってた。

 

 結局、俺と彼女は時間が来るまで船の中にある図書室で過ごすことになるのだった。堀北さんのおすすめする本は中々面白く、そういった意味でも有意義な時間であったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

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