ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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船上試験 1

 

 

 

 

 

 

 

 指定された時間まで堀北さんと一緒に読書に勤しんだ後、気合を入れ直して呼び出された部屋へと向かうと、既にそこでは幾人かの生徒が待っていた。

 

「笹凪くん、堀北さん。二人と同じなら心強いよ」

 

「二人もこの時間なんだね」

 

 部屋の前でさっそく声をかけてきたのは平田である。そしてその隣には櫛田さんの姿も確認できた。

 

 こうして見るとやはり意図的な面子に見えるな。他のクラスが誰を選んだのかわからないので断言はできないが。

 

「平田、櫛田さん、宜しく頼むよ。どんな試験になるかはわからないが、上手くやろう」

 

「宜しくお願いするわね」

 

 堀北さんがそう返すと平田と櫛田さんは少し意外そうな顔をする。ただすぐに嬉しそうに微笑んでくれたので彼女の変化を嬉しく感じているらしい。

 

 櫛田さんは少しぎこちない感じではあるが、こちらもまたすぐに微笑んで受け入れている。

 

「今回はどんな試験になるんだろうね?」

 

「無人島みたいな試験ならどうにでもできるんだけどな」

 

「あはは。確かに、笹凪くんみたいな人は他のクラスにいないだろうね」

 

 平田は笑ってくれるが渋面を隠しきれていない。どうやら彼の中でもお利口ゴリラという単語があるらしい。

 

 クラスメイトとこれからの試験がどんなものになるのか話し合っていると、それに割り込むように声をかけてくる人物が現れた。

 

「俺の勘違いでなければ、20時40分組なんじゃないか?」

 

「確かにそうだが、どうやら葛城もそうみたいだね」

 

 声をかけてきたのは葛城である。そして彼の派閥に属する生徒も確認できており、それを見る限りこの組み分けにはやはり意図的なものがあるのだろう。ここに龍園と一之瀬さんが加われば文句なしの面子だな。

 

 葛城は俺を見た瞬間に、一瞬だがチベットスナギツネになりかけるのだが、一瞬で引っ込めて凛々しい表情を作っていく……きっと彼の頭の中にもお利口ゴリラという単語が飛び交っているのだろう。少し悲しい。

 

「やはりな。だとしたら丁度いい、君たちとは一度しっかり話してみたいと思っていた」

 

「そうなのかい? もちろん構わないよ。一度と言わずにお茶でも飲みながらゆっくり話そう。俺もAクラスを率いる君とは話してみたいと思っていたんだよ」

 

「だとしたら光栄だ……正直なことを言わせてもらうなら、俺はこれまでDクラスは眼中にはなかった」

 

「今は違うのかな?」

 

「無人島試験での驚異的な結果を見ればそうもなるだろう。あれほどの無茶を押し通した相手ならば脅威に感じるには十分だ」

 

「無茶なんてしてないさ。俺はルールを聞いた瞬間から、どれだけ効率的にポイントを稼ぐかどうかの試験だと判断したからね。効率を極めて行けば自然とああなったんだ。とても王道な行動だったと思ってる」

 

「そ、そうか……まぁ話したいのはそこではない。君たちを脅威と認めて、これから先はしっかりと対処すると言いたいだけだ。現時点でBクラスとなった相手なのだからな」

 

「そりゃどうも、Aクラスである君にそう言って貰えるのならば、俺たちもようやくスタートラインに立てたってことなのかな。改めて宜しく頼むよ」

 

「あぁ、こちらこそ」

 

「俺たちもAクラスを目指しているからね、いずれ挑ませてもらう」

 

「ほう、Aクラスになれるとでも?」

 

「出来る出来ないじゃない、勝算のある無しでもない、そこに挑むという決意表明をしているのさ」

 

 ここで掌を差し出して握手を求めるのだが、葛城は渋面と冷や汗を引っ込める為に全力を出してきて握手をする気配がない……なんだよ、俺と握手するのはそんなに嫌なのか?

 

 なかなか失礼な対応をされているなと思っていると、葛城の肩越しにBクラスの生徒たちが見えた。どうやら神崎たちがこの組に選ばれたらしい。

 

「やぁ神崎。君もこの組みたいだね」

 

「そのようだな」

 

 拙いな、出会う生徒全てに引きつった顔をされるようになってしまった。クールな神崎ですら俺を見た瞬間に狐になりかけているじゃないか。

 

「神崎か……一之瀬はいないようだな」

 

「それがどうした?」

 

「他意はない、ただそう思っただけだ」

 

 そこは俺も疑問ではあった。この面子なら彼女がいても不思議ではないし、予想通りならあの男も来るだろうしな。

 

「クク、随分と雑魚が群れてるじゃねえか」

 

 睨み合う神崎と葛城に割って入るかのように傲慢な声が届く、わかってはいたことだが彼もここに来たか。

 

「……龍園か」

 

 葛城も神崎も龍園を見た瞬間に、俺を見た時とは方向性の異なる顔を見せる。彼に向けている評価や考えがよくわかるな。

 

「やぁ龍園、君もこの組みたいだね」

 

「だから気安く話しかけてくんじゃねえよ。ゴリラはあのまま島に残った方が良かったんじゃないか?」

 

「それについては言いたいことがある。船に戻って来てからというものの、俺はお利口ゴリラという評価が付きまとうようになった……君が発生源か?」

 

「それはお前がやりたい放題やった結果だろうが」

 

「「「……」」」

 

 その場にいた全員が納得したような顔をする……お利口ゴリラという評価を払拭することは出来ないと完全に理解した。

 

「まさかお前がこの組とはな……学力が高い生徒が集められているかと思ったが、お前とそのクラスメイトを見る限りではそうではないかも知れないな」

 

 変な方向に脱線しそうになった話を葛城が強引に戻してくれる。

 

「学力だ? くだらねーな。そんなものには何の価値もない」

 

 腕っぷし一つで全てを黙らせようとする師匠ならば頷きそうな言葉であった……まぁあの人は頭も良いんだけど。

 

「それこそ残念な発言だ。学業の出来不出来は将来を左右する最も大切な要素だ。日本が学歴社会と言われていることは知っている筈だが?」

 

「だからお前は駄目なんだよ」

 

 大仰に、そして煽るかのような肩をすくめる龍園は、心の底から葛城を馬鹿にしているかの様子だ。

 

「俺はお前の非道さを許すつもりはない」

 

「身に覚えがねーなぁ。具体的に教えてくれよ」

 

「……まぁいい。今回は同じグループになったとしたら、ゆっくり話す時間もあるだろう」

 

「雑魚と群れるつもりはねぇな」

 

 わかりきっていたことだが、この二人は対極に存在していて相性が最悪だな。

 

「なんだか、凄い組に振り分けられちゃったね」

 

 櫛田さんが俺にそう耳打ちをしてくる。そういうことされると堀北さんの視線が鋭くなるから止めて欲しい……いや、嬉しいんだけども。

 

「まだ試験の内容はハッキリとしていないのに、既に先行きが不安になっている。櫛田さんの笑顔が良い清涼剤になりそうだ」

 

「も、もう……」

 

 照れた櫛田さんは俺の肩辺りに手を当ててグリグリと押してくる。可愛い。

 

 ストレスを溜めやすい人だというのは観察してればわかるので、こんな軽い冗談でちょっとでも負担が軽くなるのなら儲けものだ。

 

 ただ彼女と相性の悪い堀北さんは、逆に物凄く不機嫌になるのだけど。そこが悩みどころである。

 

「揃っているようだな、入室しろ」

 

 20時40分丁度に茶柱先生が姿を現す。他にも先生がいてそれぞれのグループに説明を行うようだ。

 

 Dクラスの説明は真嶋先生が行うらしい。入室すると同時に席についてさっそく説明が始まった。

 

「では今回の特別試験の説明を行う」

 

 真嶋先生は俺を見た瞬間にお決まりであるかのように狐になりかけるのだが、そこはグッと堪えてくれており、頼りになる教員といった感じである。

 

 俺と平田、そして堀北さんと櫛田さんが席に着くと同時に、ルール表が机の上に置かれた。ざっと目を通した感じ、だいぶ複雑な試験となることがこの時点でわかってしまう。

 

 無人島試験のように決められた形のないゴールではないのは難しいな。あれはどれだけポイントを稼げるかという試験であったが、今回の試験はゴールが幾つも用意されている。

 

 どういう形が最善なのか現時点では測り切れないな。

 

 真嶋先生の説明は続いていく。かなり複雑で多角的な試験ではあるが、重要なのはシンキング能力であると言われた。同時にこれまでのクラスの関係を一旦無くして考えてみろとも。

 

 生徒たちをそれぞれ干支と同じ十二のグループに小分けしてそれぞれのクラスが集って話し合いの場を持ち、それぞれのゴールを目指す試験である。

 

 重要なのは優待者の存在だろう。積極的に当てに行くのか、それとも守り切るのか、大まかに分けてそんな形になると思われた。

 

 俺と堀北さん、櫛田さんと平田は、真嶋先生からの説明を受けてそれぞれが深く考え込む。だがどれだけ考えようとも結局は優待者が誰になるのかを知らなければ最初の一歩を刻むこともできない。

 

 清隆と相談が必要だろうな。あっちは少し早く説明を受けただろうから色々と考える時間があっただろうし。

 

「先生、優待者はどのような基準で選ばれるんでしょうか?」

 

「その質問に答えることはできない」

 

 この学校はそういう所が多いよね。まぁ試験の根幹に関わる部分だから答えられないんだろうけど。

 

 真嶋先生の説明を要約するとこうだ。

 

 この試験は生徒たちを干支になぞらえた十二のグループに分けて話し合いをさせる。そのグループの中には優待者と呼ばれる存在が紛れており、要はその人物を探せと言うことである。

 

 ただゴールが多い。結果は主に四つに分けられるのだ。

 

 結果1 グループ全体で答えである優待者を共有して答えを一致させる。この場合は全員に50万ポイントと優待者には100万ポイントが与えられる。

 

 結果2 優待者であることをグループの誰にも看破されずに試験を終えた場合は優待者にのみ50万ポイントが与えられる。

 

 結果3 優待者を見抜いた誰かがメールでそれを指名して正解とする。この場合はクラスポイントが50与えられてプライベートポイントも50万貰える。

 

 結果4 これは優待者を指名したはいいが外してしまった場合だ。これが最悪でクラスポイントがマイナスとなってしまう。

 

 ゴールが四つ、しかもグループは12組、結果次第では滅茶苦茶にポイントが変動するだろう。

 

「複雑な試験みたいだね」

 

 真嶋先生からの説明を聞き終えて俺たちは部屋を退出する。そして開口一番に平田がそう言った。俺も同じ気持ちである。

 

「笹凪くんはどうかな? 何かわかったことはあるかい?」

 

「複雑なのはまさにその通りだと思う。ただ無人島と同じように超えなければならない最低ラインは説明されていたからな」

 

「結果4、優待者を間違えて指名してしまうだよね」

 

「あぁ、最低限そこさえ避ければマイナスにはならない。プラスにもならないが一先ずそこを避けるのが赤点ラインだと思うよ」

 

 逆にそこさえ避けることができれば、他の結果は何かしらの恩恵がある。

 

「堀北さんと櫛田さんはどうかな?」

 

「私は優待者が気になるかなぁ……なんだか凄くお得だよね。優待者に選ばれたら」

 

 櫛田さんの言う通り取れる選択肢が多いだろうから、凄くお得だ。だからこその優待者なのだが。

 

 次に全員の視線が考え込む堀北さんに向かう。

 

「優待者に選ばれる基準が気になるわね。どこかのクラスに偏るようなことがあれば最悪だけれど」

 

「それは無いと思うよ。ルールは公平に作られるものだ。わかりやすい優遇は行わないと思う……多分だけど全てのクラスに平等に振り分けられているんじゃないかな」

 

「……笹凪くんは優待者が選ばれる基準はあると思う?」

 

「ほぼ確実にあるだろうね。ディベートじゃなくてシンキングが試されてるんだから。わざわざ干支になぞらえたりクラスの関係を無視したりとか色々とヒントは出されていた……考えてみるべきだろう」

 

「そうね。もし優待者の法則がわかればそれだけで有利に立てるもの」

 

「まさにそこが肝心だ。そんな訳で平田、悪いんだけどクラス全員に連絡を取って各グループの面子を教えて貰えないかな?」

 

「もちろん構わないよ」

 

「櫛田さんはクラスメイトに他のクラスの人たちのことを教えてあげて欲しい。もしかしたら名前や顔を知らない人もいるだろうからさ」

 

「うん、任せて」

 

 優待者が誰であるのか発表されるのは明日の八時である。まだまだ時間がかかるのでそれまでは色々と考えておこう。優待者の法則がわかればどう勝つかではなくどう終わらせるかに思考が移るのでとても動きやすくなる。それこそ無人島試験のように。

 

「私にも写しを貰えないかしら?」

 

「堀北さんも考えてみるのかい?」

 

「えぇ、明日の八時まで時間はまだあるもの」

 

「うん、なら頑張ろうか」

 

 最近の堀北さんは心の余裕というか落ち着きのようなものが出て来たので。考えに集中できるかもしれないな。案外、あっさりと法則を見つけてしまうかもしれない。

 

 そうなったらいよいよクラス内での立場が確固としたものになるだろう。そこまで来たらクラスメイトたちにそろそろ覚悟と意思を問うても良いだろう。

 

 俺も法則を考えてみるか……いや、その前に清隆と相談だな。

 

 彼にメールを送ってみるとすぐに返信があった。せっかくなので相談と作戦会議もかねながら船の施設で遊ぶとしよう。

 

 そんな訳で船の中にある遊戯室に彼を呼び出してから俺もそちらに向かう。ダーツだったりビリヤードであったり、あるいはボードゲームであったりと様々な娯楽品があるその場所に向かうと既に清隆は待っていた。

 

「やぁ待たせたかい?」

 

「あぁ、一時間も待ったぞ」

 

「嘘つけ、メールを送ったのはついさっきだぞ」

 

「冗談だ」

 

 まさか彼から冗談を聞かされる日が来るとは。何故か感慨深いものがあるな。

 

「さっき真嶋先生から試験の説明を受けてたよ。干支になぞらえた12のグループに分かれて話し合って、主に四つの結果に導くって奴だけど、そっちはどうだい?」

 

「こちらも同じ内容だ……さてどうしたものか」

 

「せっかくの遊戯室なんだから遊びながら話そうか。ビリヤードとかやったことある?」

 

「いや、無いな。ルールは知っているが経験はない」

 

「俺もだ、だからやってみよう」

 

 清隆はビリヤード台を見つめながら「ふむ」と考え込む。どうやら興味はあるらしい。

 

 試しに幾度か練習して感触を確かめてみると、これが意外にも難しい。

 

「思っていたよりも難しいな」

 

 彼が弾いた球はビリヤード台の上を転がって行き幾つかの球を穴に落としていく。言ってる事と出した結果が一致してないんだが?

 

「確かに難しいね……ボールを突き壊しちゃいそうだ」

 

 鉄製の球って訳じゃないから力加減を間違うとビリヤードキューで突いたボールが粉々に壊れちゃいそうなんだよね。

 

「……そっちの難しいなのか」

 

 清隆は呆れ顔である。彼のこういった顔も最近では見慣れたものになってきたと思う。仲良くなってきた証拠なんだろう。

 

「お、来たな」

 

 そのままビリヤードで遊んでいるとスマホがメールの受信を知らせる。内容を確認してみると平田と櫛田さんが集めてくれた各グループの面子が記されていた。

 

 12のグループ、それぞれの面子、そして干支になぞらえた番号。俺はそれをコピーして堀北さんに送った後に、ブレイクショットを決めた清隆に見せる。

 

「おそらく優待者の法則みたいなのがあると思うんだけど、どうかな?」

 

「そうだな……」

 

 ビリヤードキューを片手に考え込む清隆は、そのまま十秒ほど固まってしまい。ようやく動き出したかと思えば軽い調子でこう言うのだった。

 

「現時点で断言はできないが、おそらく法則らしき物は見えた」

 

 ヤバいよ、十秒かそこらで法則見つけちゃったよ。思考の瞬発力と柔軟性が高校生じゃないって。

 

 あれ、もしかして清隆が一人いればもうそれで良いんじゃないか説すらある?

 

「えぇ……早すぎるだろ。引くわ」

 

「やめてくれ、お利口ゴリラのお前だけはそれを言うな」

 

 清隆からスマホを返される。俺もメールの内容を確認しようとすると、こんなことを言われてしまった。

 

「天武はどうだ? 優待者の法則はわかりそうか?」

 

 その言葉は清隆にしては珍しく、どこか挑発しているかのような雰囲気である。珍しい顔をするものだと思いながら笑みを返す。

 

「やれやれ、そう挑発されるとやる気が出て来るな。ちょっと待ってて、俺も考えてみよう」

 

 素面で考えると多分それなりに時間がかかると思うので、ここは師匠モードで行くとしよう。

 

 集中力を高めていくと、それが一定ラインを超えた瞬間に頭の奥で何かが千切れるような音が広がり、同時に視界で火花が飛び散る。そうなると不思議なものであらゆる感覚が研ぎ澄まされて思考もまた加速したような状態になる。

 

 空でも飛べるのではと思えるような万能感が体中に広がるのだ。実際に飛べるわけでもないけど。

 

 視界から入って来る情報量は激増して、目に映る全てのものが緩やかに動いているようにも見えてしまう。数年前まではこの師匠モードになる度に吐いていたことを思い出すな。

 

 それがマシになったのは思考の速度に体が付いていけるようになった頃だ。そう考えると俺も成長したということだろう。

 

 メールに記された内容と各グループの面子、そして干支という大きなヒント。それら全ての情報を組み合わせて加速した思考の中で一つの答えを弾きだした瞬間に、師匠モードは波が引くように消えて行くのだった。

 

「ん……こっちもだいたいわかった。明日のメールで誰が優待者になるか現時点ではわからないけど、推測通りなら干支の順番と名前の五十音順に結び付けられそうだな。わざわざ干支だなんて括りを使ったんだからちゃんと意味があるんだろう」

 

 こじつけで、妄想で、かつ何の確証もない推測でしかないけど。俺はこれが優待者の法則だと思う。明確な証拠もなく実証も現時点ではできないが……直感がそう告げている。

 

 言ってしまえば単純な法則だったので別に素面でも良かったかもしれない。試験という緊張を強いられる環境ではなく、テレビ番組のなぞなぞクイズのように出題されればもっと簡単に解けただろう問題だ。

 

「同意見だ」

 

 どうやら清隆の考えと一致していたらしい。これで外れていれば大恥をかく所だったな。

 

 この推測が正しいか否かはわからない。俺と清隆の推理と直感でしかない。だが明日の八時に答え合わせとなる誰が優待者に選ばれたかを証明するメールが来る筈なので、それ待ちになるだろうな。

 

「天武、お前のそれは何というか……二重人格のようなものなのか?」

 

「そんな訳ないだろう。ただ憧れの人を真似てカッコつけてるだけさ」

 

「ある種の自己暗示による極まった集中状態ということか……一部のプロスポーツ選手などは試合中は性格が変わったりするらしいが、それと似ているのかもしれないな」

 

 清隆が師匠モードに変な推測をしている。ただそれっぽく振る舞ってるだけで俺が俺であることは変わらないんだが……。

 

「清隆もやってみるかい? 案外慣れると楽に行き来できるものだよ」

 

「因みに何をすればそうなれるんだ?」

 

「師匠は俺を何度も急な傾斜の山の上から突き落としたっけな……何度も何度もだ、気が付いたらあらゆることに集中できるようになってた。死と生の狭間に活路を見出すんだ」

 

 死にたくないからあらゆる物にしがみ付いたり指を引っ掛けたりしながら、なんとか転げ落ちる勢いを殺したものだ。何度かそれを繰り返していると集中力が凄く高まったと思う。やっぱり師匠は凄い。

 

「お前の師匠は人権という文字と意味を学んだ方が良いと思うぞ」

 

「その言葉は師匠よりも先にホワイトルームとやらを作った連中に言いなよ」

 

「あそこの大人にそんなことを説明しても理解できる筈がないだろ」

 

「師匠だってそれは同じだ……はぁ、言葉は無力だなぁ」

 

 やはり力か、この世はそれが全てなのか……悲しい事実だ。

 

「そうだな」

 

 もしかしたら俺と彼は似ているのかもしれない。そんなことを思う夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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