ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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ざっくりと天武くんの武力が8なら綾小路は2。思考力は師匠モード込みで五分五分。知識面では綾小路が8で天武くんは2くらいとなっております。

なお、優秀な人でもせいぜい0、1くらいな模様。良くて1くらいかな。

坂柳「あれ、もう詰んでるのでは?」


船上試験 2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝、いよいよ特別試験が始まる当日。あともう少しで生徒たちにメールが発信されて誰が優待者なのかわかることになる。つまり俺と清隆の推測が正しいかどうかわかることになる時間だ。

 

 ある程度、優待者に繋がる法則は推測できたのだが、それが実際に正解なのかどうかは誰が優待者に選ばれるのかがハッキリするまでわからないだろう。

 

 なので今、俺と清隆はその時が来るまで朝飯を一緒にしていた。モーニングコーヒーとサンドイッチを注文した清隆に対して、俺はミルクとパンケーキである。

 

「もうすぐ八時だな」

 

「あぁ、推測が正しいかどうかようやくわかるね。やきもきしたよ」

 

 スマホで時間を確認してみると今は7時30分、後もう少しといった所だ。

 

 俺たちの推測が正しいという前提で、これまではどう試験に勝つのではなく、どう終わらせるかを話し合っており、それもある程度は固まっていた。実際に上手く着地させられるかどうかはまだわからないが、大まかな方針は示せたと思う。

 

 さて上手に着地させられるだろうかと考えていると、俺たちが使っているカフェの椅子に座る人物が現れた。

 

「おはよう、堀北さん」

 

「えぇ、おはよう笹凪くん……それに綾小路くんも」

 

 その人物は堀北さんであった。彼女もまたトレイの上にコーヒーと軽食を乗せて机の上に置いている。清隆もそうだがコーヒーを平然と飲めるのは凄く大人な雰囲気があるな。

 

「なんだか眠そうに見えるけど」

 

「少し夜更かしをね……優待者の法則を考えていたのよ」

 

 なるほど、やはり堀北さんも法則を考えてくれていたようだ。そして言い終わった後に自信がありそうな顔を見せるので、これはどうしても期待が高まる。

 

「おぉ、ぜひ聞かせてほしい」

 

「えぇ。ただし、これが正解かどうかはわからないわよ? こじつけだし、証明はまだできないもの」

 

「構わないさ、こっちも色々考えてたから意見を交えよう」

 

 堀北さんは頷いてから持っていたノートを机の上に置いた。そこには大量の文字であったり、数式のような物であったり、メモ書きや推測文字のような物が書き込まれているのが確認できる。

 

 どうやら様々な方向性を模索して、可能な限りの可能性を考え、そして見落としがないか何度も調べていたのだろう。

 

 やっぱり堀北さんは努力の人だよな。そして極めて王道な戦いや思考を好む。結局はこういう人が一番安定感があると言えるだろう。Aクラスの葛城なども似たタイプである。

 

 あとほんの僅かに柔軟な思考と経験を物にできたのなら、強いリーダーになれると思う。

 

「色々と考えて模索したけれど……やはり干支というキーワードがカギになると思ったのよ」

 

 結論は俺たちと同じだ。清隆も机の上で広げられたノートを眺めながら少し驚いたような顔をしている。もしかしたら彼は堀北さんが法則を発見するとは思っていなかったのかもしれない。

 

「うん、わかるよ。干支の順番と五十音順の結びつきだね」

 

 俺がそう言うと堀北さんはきょとんとした顔をして驚いて見せる。普段は見せない顔なので可愛らしいと思った。

 

「どうやら笹凪くんも同じ結論に至ったみたいね」

 

「俺だけでなく清隆もだよ」

 

「……綾小路くんが?」

 

「偶々だ、何となくそうなんじゃないかと思っただけだぞ」

 

 堀北さんの視線が清隆に向かう。何故か敵意を感じる瞳である。

 

「そう、そうなのね……とりあえずは大したものだと言っておきましょうか。さすがは私のライバルね」

 

「……え?」

 

「でもこんな単純な法則が解けたくらいで良い気にならないで頂戴。誰にだって会心の出来というものがあるのだから、次も同じようにできるとは思わないことね」

 

「あ、はい」

 

 珍しく清隆が堀北さん相手に引き気味である。そして視線を俺に向けて「ライバル?」と問いかけて来るのだが、俺にだってそれはわからない。

 

 何らかの理由で彼女はライバル視しているのだろう。今も鋭い視線を向けておりとても居心地が悪そうな顔を清隆はしていた。

 

 これはこれで良い傾向なのだろうか? 師匠は人生にライバルが必要だって言っていたから、競い合える相手というのは重要なのだろう。

 

「まぁまぁ堀北さん、落ち着いて。そろそろ八時だからメールが来そうだよ。俺たちの推測が正しいかどうかを確かめよう」

 

「そうね」

 

 ようやく堀北さんの敵意と言うか、ライバル心のような物から解放されたことで清隆はホッと安心したかのような溜息を吐くのだった。

 

 カフェにある時計を眺めているといよいよ八時、メールが来る時間であり、学校側からの予告通り俺たちのスマホは同時に震えだす。

 

 これで三人の内、誰かが優待者に選ばれてしまえば、俺たちの推測の全てが破綻してしまうことになるのだが……。

 

「どうやら、私たちは優待者には選ばれなかったようね」

 

「残念と思うべきなのか、推測が一先ずは外れていないことを喜ぶべきなのか、ちょっとわからないな」

 

 机の上にスマホを置いて届いたメールを見せ合う。きっちり同じ内容が書かれており優待者には選ばれなかったことを証明していた。

 

「この推測が正しい物として考えるとして。重要なのはどう終わらせるかなんだけど……」

 

「まだ推測が正しいと確定した訳ではないわ。慎重に動くべきだと私は思う」

 

「そうだね。確定した訳じゃないから断言はできないか……とりあえずウチのクラスの優待者が推測通りなのか調べておこうか」

 

 こういう時、頼りになるのが平田と櫛田さんである。二人にメールを送って優待者は名乗り出て欲しいと要請すれば、すぐに返答があるだろう。

 

 櫛田さん、南、そして軽井沢さんの三名が優待者候補だ。ただ俺は直感でこの推測が正しいものだと確信しているから間違っているということはないと考えていた。

 

 平田も快く受け入れてくれて、櫛田さんからは自分が優待者だというメールが届く。

 

「櫛田さんは優待者に選ばれたみたいだ。この分なら他の二人も合ってるんじゃないかな」

 

「そう、推測の裏付けにはなると思うけど……可能なら他のクラスの優待者も正解しているのか知りたいわね」

 

「慎重だね、堀北さん」

 

「もしミスがあったらマイナスが多いもの、軽率な行動はできないのよ」

 

「全くもってその通りだ、反論の余地がない……因みに聞いておくけど、君はどう今回の試験を着地させるつもりだい? やりようによっては一気にAクラスになることも可能だけど」

 

「それは……そうね。迷いがないと言えば嘘になってしまうわ」

 

 彼女はAクラスに上がって生徒会長に認めてもらいたい。けれどもう気が付いてもいるのだ、ただそれだけではあの人に認めてもらうには足りないのだと。

 

 Aクラスに上がれる妹を見たいんじゃない、一人の人間として成長した妹を見たい。それを彼女はもう理解していた。

 

「兄さんに認めてもらいたい……それは今も変わらない」

 

「続けて?」

 

「けれど、ただAクラスに上がるだけで達成できるものじゃない……それはもうわかってる」

 

 四月頃の堀北さんと今の彼女を会わせてみたい、ここ最近はそう思うことが多くなったな。

 

 寧ろハリネズミ堀北さんが懐かしくすら感じ始めている。変な感覚だ。

 

「だから今はまだ、力を蓄える時だと思っているの」

 

「ん、何せ色々と足りないものが多いから、ウチのクラスは」

 

「えぇ。そう考えると、無人島で貴方が言っていたBクラスの立ち位置は悪くないわ」

 

「あともうちょっとで、もう少しでAクラス……そしてもっと頑張らないと追いつかれてしまう、そういう空気のことだね」

 

「ずっとDクラスで彷徨っているよりは、効果的なのは間違いないでしょうね」

 

 追う側と追われる側も一度に体験できる訳だからね。その分プレッシャーも大きいだろうが、だからこそとも言えるだろう。

 

「笹凪くん、一つ訊きたいのだけど」

 

「何かな?」

 

「仮に今の状態を維持してクラスの総合力が上がったとして……どのタイミングでAクラスを超えようと思っているのかしら?」

 

「総合力は一日二日で向上するものでもないから何とも言えないけど……Aクラスになる最低限の条件というか、ラインのようなものは、意思と覚悟を問いかけて固めてからだと思ってる」

 

「意思と覚悟?」

 

「ん、Aクラスに挑む意思と、その立場を守る覚悟、そして雰囲気だ……クラスの中にはもしかしたらそこまでAクラスに上がることに熱心じゃない人もいるかもしれないしね」

 

「そんな人物がいるのかしら?」

 

「いるかもよ……或いは、どうせ無理だからと思っている人とかね。もしくはクラス間の競い合いをどこか他人事のように感じている人だって中にはいるだろう。もしかしたら自分じゃない誰かが勝手にやってくれると考えてるか。そういった人たちも全部ひっくるめてクラスが一つの戦力として纏まることが重要だと思ってる」

 

「だから、意思と覚悟なのね」

 

「あぁ、今にして思えば、俺たちはそもそもAクラスを目指すという目標を掲げることも、その意思があるのかと問いかけることもしなかった……それをなすことが、俺はAクラスに挑む最低条件だと思ってる」

 

 そんな俺の発言に堀北さんは考え込む。

 

「なるほど……笹凪くんの考えはわかったわ」

 

「もちろんだけど、意思と覚悟だけでは足りないだろう……けれど、それが無いと話にもならない。もしAクラスになれたとしても、絶対に長く続かない」

 

「課題は多いわね」

 

「まぁあくまで俺の考えであり理想でしかない。もしかしたらAクラスが大ポカやらかして予期せぬ形でこっちが上がる可能性もあるんだ。できたらいいな位に考えておいてよ」

 

 そこで俺は机の上に広げられていたノートを閉じて中身を隠す。面倒な客が近寄って来たからね。

 

「ようお利口ゴリラ」

 

「やあ龍園、君も朝食かい? 良ければ席にどうぞ。一緒に仲良く食べようじゃないか。特別試験のことで他クラスの人からも印象を聞いてみたかったんだ。何だったらここは奢るよ? パンケーキで良かったかな?」

 

「気安く接してくんじゃねぇ」

 

「伊吹さんも遠慮なくどうぞ。好きなもの頼んでよ……あ、ほっぺたは大丈夫かい? 腫れは引いたかな?」

 

「……あ、あぁ」

 

 龍園と一緒に姿を現した伊吹さんは俺を見て少したじろいでいる。ゴリラに気遣われて変な気分になっているみたいだ。悲しい反応だね。

 

 それでもこの二人は椅子に座って向かい合ってくれるのだから、きっと絡みに来てくれたのだろう。

 

「よお鈴音、ゴリラと金魚の糞を引き連れて随分と良いご身分だなぁ。お前がゲテモノ趣味だとは知らなかったぜ」

 

「気安く名前を呼ばないで龍園くん……それから猫を被っていたことを見破られたら、あっさりと行動を共にするのね伊吹さん。付き合う友人はしっかり選んだ方が良いわよ。貴女、男の趣味が悪いのね」

 

「だとよ、伊吹」

 

 ギリッと、奥歯を噛みしめる伊吹さんは。堀北さんと龍園を睨みつけながら凄くご立腹な様子である。

 

「龍園、君にもメールが届いただろう? 優待者にはなれたのかい?」

 

「テメエに教える訳がないだろ。それともお前は尋ねられたら教えてくれるのか?」

 

「構わないよ、優待者に選ばれたのは俺だ」

 

「クク、舌の回るゴリラだ。それを信用する訳がないだろう」

 

「だろうね、言ってみただけさ」

 

 龍園はだらしなく椅子に座って俺たちを眺めて来る……さっきから清隆の気配が無いと思っていたが、彼は可能な限り目立たないように存在感を消してコーヒーを啜っていた。俺は壁ですとでも主張しているのかもしれない。

 

「君はこの試験をどう思う?」

 

「さてな」

 

 ニヤニヤと俺たちを見てくれる龍園は、きっと挑発と観察をしに来たのだろう。思考の瞬発力はある男なので、観察力にも優れているのかもしれない。

 

「あ、そうだ。一つ訊きたいことがあるんだけど、君は無人島でAクラスと取引したんだよね?」

 

「だとしたらどうなんだ?」

 

「いや、ちょっと気になって。どういう形の契約に落ち着いたのか知りたいからさ。例えば提供した物資のポイント分、プライベートポイントで支払うとかなら、Aクラスは大変だなぁと他人事のように思う訳だ」

 

「なんだ、わかってるんじゃないか」

 

「因みにどれくらいの額なんだい? 毎月2万ポイントをクラス全員からとかなら、毎月君の懐には80万ポイントが入って来ることになるけど」

 

 その言葉に堀北さんはピクッと眉を揺らす。龍園が無人島で行った戦略を知って思う所があったのだろう。結果だけ見ればDクラスの圧勝だったが、彼はそんな状態でもしっかりと利益を確保していたのだ。

 

 彼女から見た龍園の評価はわからないけど、これで大したことのない相手だとは思わなくなった筈だ。

 

「しかしAクラスは凄いな、そんな契約を結べるほど資金力があるんだからさ」

 

 龍園のニヤニヤした顔はもう消えている。ただ鋭い視線でこちらを観察してくるだけだ。

 

「お利口ゴリラ、お前から見た葛城はどんな男に見える?」

 

「優秀な人だと思うよ」

 

「おいおい、心にもないことを言うんじゃねえよ」

 

「いやいや、本音だって。このままずっとリーダーを続けて欲しいくらいだ」

 

「そいつは葛城がリーダーの方が都合が良いとも聞こえるぜ」

 

「実際にその通りだ。君みたいなタイプの相手が何人もいられたら絶対に困る。君だってゴリラが沢山いる学校なんてごめんだろう」

 

「そりゃそうだ。そう言われると何の反論もできねえな」

 

「そんな訳で、個人的には彼を応援しているのさ」

 

「アイツもここまで舐められてると知れば、多少は面白味も出て来るかもなぁ」

 

 彼はそこで椅子から立ち上がって俺たちを見下ろした。

 

「無人島ではお利口ゴリラがやりたい放題やったみたいだが。次は同じような手が通じるとは思わないことだ……せいぜい頑張れよ」

 

 確かに、スポット引っこ抜き作戦はここでは意味がない。閃きや観察力が物を言うのでもしかしたら俺たち以外にも法則に気が付く人もいるかもしれないな。

 

 去っていく龍園と伊吹さんを見送りながらそんなことを考えていると、これまでずっと気配を消していた清隆がようやく喋りだす。

 

「こっちの動きを監視してたのかもな」

 

「タイミングが良すぎるか、それだけこっちを意識してるってことなんだろうけどね」

 

「侮られるよりはずっとマシと考えましょう」

 

 堀北さんがコーヒーを飲んでそう言った。確かに警戒の表れとも取れる行動だ。

 

「それより笹凪くん、さっき言ったプライベートポイントをAクラスから受け取っている話、事実なのかしら?」

 

「ほぼほぼ間違いないと思うよ。無人島でCクラスは早々にリタイアしたけど。物資はそのままAクラスに横流しされていた筈だからさ」

 

「その報酬としてポイントを受け取っているのね。結果だけ見れば彼らは大敗していたけど……」

 

「龍園は侮れない男だろう?」

 

「……愚かであるとは言わないわ」

 

「そんな男がこうして立ち塞がって来てるんだ、きっと俺たちは幸運なんだろう」

 

「幸運? どういうことかしら?」

 

「困難をそれだけ楽しめるってことさ。順風満帆よりはずっと良い」

 

 男の人生はそれで良いって師匠が言ってた。

 

「まぁ、とりあえず今は俺たちの推測が正しいって前提で、この試験をどう乗り越えるかを考えようか。二人は何か意見があるかい?」

 

 どう勝つかはもうわかってる。だから大事なのはどう終わらせるかだ。これは無人島でもそうだったな。

 

 今後のクラスの方針や士気にも繋がることなので、しっかりと相談しておいたほうが良いだろう。

 

 一回目の話し合いまで時間はまだある。しっかりと展開を詰めておかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

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