ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

34 / 227
坂柳「勝手にローンを増やすの止めてください、私が大変です」


船上試験 4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DクラスはAクラスに対して情報提供を行い、その対価としてAクラスはプライベートポイントをクラス全員分毎月支払う。

 

 両クラスはこの試験で損害を与えないこととして、もしクラスポイントがマイナスになった場合はそのポイントを補填することを約束する。

 

 これらの条件が履行されなかった場合、賠償としてクラスポイントを払うこととする。

 

 この契約をDクラス担任の茶柱、及びAクラス担任の真嶋によって成立を見届け、効力を発揮するものとする。

 

 

 

 

 これが結ばれた契約の主なものだ。他にも細かな物はあるが重要なのがこれらであった。

 

 さっそく葛城と情報を交換してこの試験をどう終わらせるか微調整をしていく、これは言ってしまえばDとAでこの試験で得られるポイントを分け合うことであり、その配分を考えなければならない。

 

 ただこれに関してはそこまで揉めたりはしなかった。勝ちすぎる訳にはいかないので葛城に花を持たせる形である。こちらはマイナスにさえならなければ問題ないだろう。

 

 次に考えなければならないのは、誰に優待者の指名をさせるかということだ。その辺は部屋に戻ってからしっかり考えるとしよう。

 

「お疲れさま、笹凪くん。葛城くんとの話はどうだったかな?」

 

 船内にある部屋に戻ると平田が声をかけてくる。同じ部屋には清隆と幸村、そして高円寺の姿もあった。

 

「問題はないよ。葛城も納得してくれた」

 

「そうか、良かった。ならもう試験を終わらせるのかい?」

 

「そうしたいけれど、調整が色々残ってるから、もうちょっとかかるかな」

 

「調整? 話し合い? なんのことだ?」

 

 そう言えば幸村には何の説明もしてなかったな。たぶん反対するだろうし、後々騒がれても困るのでここで説明しておこうか。

 

「Aクラスと契約を結んだんだ。優待者の情報の代わりにプライベートポイントを毎月支払って貰う形で」

 

「なんだと? いや、待て、優待者の情報を渡したのか? そもそも法則性がわかったのか!?」

 

「落ち着け、幸村」

 

「これが落ち着いていられるか!? 優待者がわかったのならどうして指名しない!! 今ならばAクラスにだってなれるんだぞ!!」

 

 確か幸村もAクラスへの執着が大きい相手だったな。

 

「今、俺たちのクラスがAになって何になる。四月半ばのクラスの様子を思い出せ。あれが俺たちの本来の実力だぞ」

 

「そ、それはそうだが……」

 

「確かに今回は彼らに譲ったが何も不利益ばかりを得た訳ではないさ。代わりに彼らはクラスポイントと同価値分のポイントを毎月こちらに支払うことになっている。それはつまり、絶えずポイントが流出してるってことだ。これは治らない出血みたいなものだよ」

 

「……」

 

 幸村は難しそうな顔をして考え込む。頭が良い男なので俺が言いたいことは理解できている筈だ。

 

「まだ一年の夏だ。この契約は長引けば長引くほどに意味を持つ。それこそ三年の夏頃には、Aクラスと俺たちのクラスの間には、巨大な資金力の差が出来ているだろう。彼らから貰ったポイントによってな」

 

「……だから治らない出血か。よくそんなことを思いつくものだ」

 

「真正面から挑むだけが試験じゃないさ、これもまた戦いの作法の一つだ」

 

「はぁ、わかった、ある程度の理解はできる」

 

 財布とポイントにある程度の余裕があるから意地にならないな。やはり金持ち喧嘩せずということか。

 

「助かるよ。さて高円寺、話は聞いていたかい?」

 

 幸村はこれでいい、次は高円寺だ。

 

「君のことだ、もう優待者の法則はわかっているんだろ?」

 

 何故か高円寺は逆立ちをして腕立て伏せをしていた。仕方が無いので俺も同じように逆立ちをして腕立て伏せで迎え撃つ。

 

「ふッ、もちろんだとも」

 

「ん、それでこそだ」

 

「それで何が言いたいのかなマイフレンド」

 

「実は色々と微調整中でな……まぁその辺は君と関係がないからどうでも良いんだけど、できることなら優待者の指名は次の会議まで待って欲しい」

 

「ほう、今この場で終わらせてはいけないと言うのかね?」

 

「あぁ、会議が始まったらメールを送るから、指名するならそのタイミングだ」

 

 勝手に指名されると足並みが揃わなくて葛城に不信感を与えてしまうだろう。それは避けたかった。

 

「ふむ、気が乗らないねぇ」

 

「代わりと言っては何だが、これは貸し一つとしておこう。いつでも返そうじゃないか」

 

「グゥット、ではそれで手を打とうか」

 

「ありがとう、交渉成立だな」

 

 逆立ち腕立て伏せをそこで止めて立ち上がる。すると俺と高円寺の様子を見ていた平田と幸村はこっちを見て呆れたような表情を見せていた。

 

「よく高円寺と話を合わせられるな、変人と変人は引かれあうということか」

 

「ゆ、幸村くん、それはさすがに失礼だよ」

 

「はッ、はッ、はッ!! そこが凡夫と私たちの違いと言うことさ」

 

 高円寺も煽るようなことを言うんじゃない。

 

「平田、度々頼って悪いんだが、各グループで話を通せてこっちの指示に従ってくれそうな奴に今回の作戦を説明してやってほしい」

 

「もちろん、構わないよ」

 

「葛城と足並みを揃えて一斉にメールを送って試験を終わらせるからそのつもりで」

 

「うん。でも良かった。思っていたよりあっさり終わりそうで安心したかな、複雑な試験だったからどんな終わり方になるかハッキリわからなくて」

 

「あぁ、だが着地点を見つけられた……後は、意思と覚悟を問わないとな」

 

 そこが一番重要で、大事なことだ。

 

「ちょっと考えたいから外をぶらついてくるよ」

 

 清隆に視線を送ってからそう言って部屋から出ると、暫くして彼も同じように外に出て来た。

 

「上手く契約は結べたよ。これでAクラスは龍園とウチのクラスに二重の支払いだ。ローン地獄だな」

 

「資金力があるからこその戦略だろう、別に間違ってはいない」

 

「そうだね。Aクラスだからこそできる戦略だ」

 

「まぁ、クラスポイントが1000以下になったら地獄だろうがな」

 

 少しだけ清隆が悪い顔をしている。黒幕って感じの顔であった。

 

「優待者の指名はどうするつもりだ?」

 

「ん……マイナスにならない程度に調整するつもりだ。今回の契約では得たクラスポイントと同価値のプライベートポイントを毎月支払う形だから、Aクラスが得るポイントが大きければ大きいほど支払いも多くなる」

 

「そして、クラスポイントが減る度に、負担が大きく感じる訳か……嫌な契約だな」

 

「そこまでは責任は持てないよ。もしクラスポイントが減ったとしても、それは彼らの責任だ。こちらは関係が無い」

 

「そうだな」

 

 俺と堀北さん、そして清隆が話し合って出たのがこの着地点である。利益を得ながらもしっかりとAクラスに負担を押し付けたのだ。

 

「明日の話し合いですぐに終わらせるつもりだ。清隆もそのつもりでいてくれ」

 

「あぁ、わかった……そうだ、天武、一つ訊きたいことがある」

 

「ん、何かな?」

 

「軽井沢について、お前はどう思っている?」

 

「軽井沢さん? どうって訊かれても困るんだが……」

 

「印象や評価、或いは能力などだ」

 

「そうだねぇ、観察している限りでは女子チームのリーダーで、影響力の大きい子って感じかな。平田と付き合い始めたことでその立場が確定した感じはあるよね……後は、軽度の不安障害のような物も見て取れたかな」

 

「不安障害?」

 

「あぁ。常に誰かからの評価や視線を気にしている。それを気にしながら発言や行動を決定している、不安故に、そんな感じかな……それ自体は誰にだってあるものだけど、軽井沢さんはそれが少しだけ過剰だ」

 

「ふむ……不安障害か」

 

 深く考え込む清隆は、どうやら軽井沢さんが気になっているらしい。

 

「軽井沢さんがどうかしたのかい?」

 

「上手くやればこちらの協力者にできるかもしれない」

 

「そう? あまり無理はしないようにね」

 

「そうだな、無理はしない。お前や堀北がいる以上はそこまで重要な戦力でもないからな。ただ、こちらの意向を汲んで動かせる人物がもっと欲しいと思っていた所だったんだ」

 

「佐倉さんはどうだい?」

 

「佐倉? なぜその名前が出て来る?」

 

「いや、清隆と仲良くしてるみたいだから。仲間にできるんじゃないかって思って」

 

「……確かに、親しくはしているな」

 

「協力してくれるように頼んだら、案外あっさりと力になってくれるんじゃないかな?」

 

「……考えておく」

 

「そうするといい」

 

 頑張れ佐倉さん。正直清隆が誰かと付き合っている光景はあまり想像できないけど。当たって砕けなければ何も成せないって師匠が言ってた。

 

「とりあえずデートにでも誘ってみたら良いよ。男女が絆を育むにはそれが一番だ」

 

「そうなのか。わかった、参考にしよう」

 

「でも紳士的にね。変に飾る必要も盛る必要もないさ。凄く慣れてる感じよりも少し緊張して照れてるくらいの方が初々しくて案外可愛いって感じに思われると師匠が言ってたよ」

 

「お前の師匠は何でも知ってるな」

 

「そうさ、人生に必要な全てのことを教えてくれるんだ」

 

 清隆が誰かをデートに誘う光景を思い浮かべてみる……う~ん、どうなんだろう。上手く想像できないけどその時が来たらお祝いしよう。

 

「まぁどう動くかはそっちに任せるよ。正面戦闘は俺が幾らでも引き受けるから、背中は清隆に任せる」

 

「あぁ、わかっている」

 

 拳をコツンとぶつけ合ってから俺たちはわかれた。清隆は色々と調整することがあるらしいので何やら考えるようだ。そしてそれは俺も同じなので夜風に当たりながら今後の展開を頭の中で動かしていく。

 

 最悪マイナスにならなければ、全てのポイントを葛城に提供しても構わない。ただそれにもシビアな調整が必要である。龍園がどう動くか未知数ではあるし、もしかしたらどこかのグループが逸って次の瞬間にはメールを送る可能性もあるのだ。

 

 明日の会議までに状況が動かなければ、その前に葛城と最終確認を行う感じがベストだな。

 

 そんなことを考えていた時だ。デッキの上で一人佇む櫛田さんを発見したのは。

 

「おや、櫛田さん、一人かな?」

 

「え……笹凪くん?」

 

 声をかけると驚いた顔で櫛田さんをこちらを見つめて来た。

 

「珍しいね、君が一人だなんて。いつも誰かと一緒にいるイメージがあったから」

 

「あはは、そうだね。でもこの後にCクラスの人と会う予定があるんだよ。う~ん、それまでの暇つぶしかな。でもちょっと肩身が狭くて……」

 

「周りはカップルばかりだものね」

 

 デッキの上には共に星空を見上げるカップルの姿が多い。もう入学して数カ月、そして無人島試験を終えて豪華客船での生活だ。交際を始める男女も多いだろう。

 

「ふふ、こうして並んでると私たちもそう見られちゃうのかな?」

 

「なるほど、否定はできない。それにそんな噂をされるのも悪くはない。こそばゆいような、嬉しいような、恥ずかしいような、不思議な気分になるね。ましてや相手が櫛田さんなら鼻も伸びそうだ」

 

 凄く青春っぽいよな。師匠が言ってた高校生あるあるだ。

 

「照れたりしないでそう言うのって凄く笹凪くんらしいね」

 

「そうかな?」

 

「うん、なんて言うのかなぁ、大人な対応? それとも女の子慣れしてる? そんな感じだよ」

 

「別にそんなことはないんだけどね」

 

「そうなんだ。笹凪くんてこういうのに慣れてるイメージがあったから」

 

「こういうの?」

 

「女の子を口説くことだよ」

 

「口説いてはいないさ。君のように素敵な女性と交際してるなんて噂が流れて喜ばない男なんていないだろうしね。そう思った本音を口にしているだけだよ」

 

「もう、そういうこと色んな女の子に言ってそうだなぁ、勘違いしちゃう子も多いんだからね」

 

 プンプンと怒って見せる櫛田さんはとても可愛らしい。

 

「櫛田さんは素敵だって言われ慣れてるだろう」

 

「そ、そんなことないよ」

 

 いや、絶対に言われ慣れてる。

 

「もしかして男子からの告白なんかも多いんじゃないかな。さっきCクラスの人に会うって言ってたけど、交際を申し込まれたりするかもね」

 

「普通に遊ぶだけのつもりだから、そうなると困っちゃうなぁ」

 

「困るのか……特定の誰かと付き合うつもりは無いの?」

 

「う~ん、今のところはないかな」

 

「そうなのか、恋多き女性って感じだったんだけど」

 

「え、えぇ……私って、笹凪くんにそんな風に思われてたのかな?」

 

「あぁ、色んな男子に告白されて困っちゃうなぁやれやれって感じの人だと思ってた」

 

「笹凪くん? 怒るからね?」

 

「すいません、調子に乗りました」

 

「もう!!」

 

 右耳を引っ張られてしまった。怒らせてしまったようなのでここは受け入れよう。

 

「じゃあ、笹凪くんはどうなのかな? 誰かと付き合ったりしない? その、堀北さんとか……」

 

「堀北さんか、親しくはしてるけど別に恋慕の感情がある訳じゃないからなぁ」

 

「え、あ、そうなんだ……」

 

「ん、彼女と俺は友人さ」

 

「付き合いたいとかじゃないの?」

 

「今の所はあまりそういうことは考えないようにしてるね。この学校ってそんな余裕があまり作れないし」

 

「……へぇ」

 

 櫛田さんは不思議な反応を見せてくれる。意外に思われたのかもしれないが、事実を言っているだけだからなぁ。こればかりはどうしようもない。

 

「ただ良い機会があれば女性と付き合いたいって気持ちはもちろんあるかな。良いよね、恋人って、憧れるなぁ」

 

 師匠曰く、恋は大切。けれどそれだけでは足りないとのこと。

 

「笹凪くんのえっち」

 

「いやいや、どうしてそうなるのさ、高校生なんだし恋愛を経験してみたいんだ。とても健全なことだと思う」

 

「でもえっちなこと考えてるんだよね?」

 

「……」

 

 おかしいな、旗色が悪い。ここは撤退するべきだろうか?

 

「おほん、どうやら戦局が芳しくない。俺はこの辺で帰るとするよ」

 

 逃げる時は徹底的に逃げるべし、師匠もそう言ってた。

 

 しかしだ、退散しようとデッキから離れようとすると、突然櫛田さんが俺に向かって体を預けてきて、まるで抱きしめるかのような形になってしまう。

 

「どうしたんだい?」

 

「ごめん、なんか急に寂しくなっちゃったのかも……」

 

「そんなこともあるだろう……う~ん、ここで抱きしめたりしたら君はもしかしたら引くかな?」

 

「こ、ここは普通、照れる所じゃないかな」

 

「そうなのか、ただ照れると言うのがよくわからなくてね」

 

 俺がそういうと彼女はスッと離れて距離を取る。

 

「ごめんね、抱き着いちゃったりして……そろそろ時間だから私もう行くね、おやすみなさい」

 

「あぁ、良い夜を」

 

 さっき、清隆に軽井沢さんは軽度の不安障害を抱えていると言ったが、それは櫛田さんも同じなんだろう。方向性こそ違うが彼女もまた周囲からの視線や評価というものを常に気にしている。

 

 それは誰にだってあることではある、あるのだが……それが大きな影響を与えることだってあるのだろう。

 

 せめてもう少し肩の力を抜いて過ごすことができたならばと、思わずにはいられなかった。

 

「軽井沢さんといい、彼女といい、女性は悩みが多いな」

 

 俺も部屋に帰ろう。カップルばかりでここは居心地が良くない。明日にはこの試験を終わらせるつもりだし、最終調整だけ平田とやって寝るとするか。

 

 枕の頭を預けて意識を沈める瞬間に、抱き着いて来た時の櫛田さんの顔を思い出すことになる。

 

 彼女にも憧れや恋や夢が見つかればいいんだが、そんなことを思いながら眠りに落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。