ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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これでこの章は終わりとなります。小話を挟んで夏休み編、そしてそれが終ったら体育祭編となります……それはつまり、ゴリラが暴れまわると言うことです。


意思と覚悟を問う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数字だけを述べるならこの特別試験はAクラスの圧勝で終わった。クラスポイントもプライベートポイントも大量に会得した上に、他のクラスは優待者を当てられたことで大幅なマイナスとなっている。

 

 唯一、Dクラスだけがクラスポイントの変動がなく、プライベートポイントを150万プラスで終えることができた。

 

 これはDクラスがAクラスの優待者を全て指名したことによる結果だ。そしてAクラスはDクラスの優待者を全て指名した。この時点で両クラスは共に±ゼロとなり、プライベートポイントだけを得ることになる。

 

 同時に、共に優待者を指名したことでどちらのクラスにも優待者がいなくなる。その時点でこの特別試験で絶対にマイナスに陥らないことを意味していた。

 

 残った優待者はCとBの六名のみ、当然そちらも把握しているので談合によってAクラスが全て持っていく形になる。葛城はその六名を指名してクラスポイントを300とプライベートポイントを450万得ることになったということだ。

 

 だが契約によってAクラスはDクラスに対して利益分のポイントを卒業まで支払う契約となっている。葛城に配慮した結果、250ポイント分まで減ってしまったがそれでも十分な額と言えるだろう。

 

 ついでに、その配慮分は今回の試験で得た報酬のプライベートポイントが100万ほど支払われており、既に俺のスマホに振り込まれている状態であった。

 

「以上が、今回の試験でのDクラスの作戦であり、立ち回りよ」

 

 特別試験が終わって数日が既に過ぎている。予定より早く試験が終わったことで残りの時間はバカンスとなっており、生徒たちはそれぞれが思い思いに過ごしたことだろう。

 

 船も本土へと帰還しようと舵を切っており、おそらく明日にはこの船を下りることになるはずだ。

 

 そんな頃合いの中で、船の中にある遊戯室にはDクラスの生徒が集められており、特別試験での作戦や行動が説明されていた。

 

 堀北さんの説明に対する反応は様々である。驚く者や困惑する者、頭の上に?マークを浮かべる者、感心する者によく理解できていない者、本当に色々な反応がある。

 

 この遊戯室には殆ど全てのクラスメイトが集められていた。殆どと表現した理由は高円寺だけがいないからだ。

 

「何か質問はあるかしら?」

 

 堀北さんがクラスメイトを見渡してそう言うと、殆どの者が困惑したような表情を見せた。

 

「優待者の法則が早めにわかってたんだよね? どうして取りにいかなかったの?」

 

 それでも最初に疑問を提示したのは軽井沢さんだった。ここ数日は清隆になにやら振り回されていたようだが、今では俺たちの協力者となった彼女は、予定通りにそう言ってくれた。

 

 清隆の指示だ。クラスを一つに纏める為に上手く動こうとしている。

 

「それは、現時点でAクラスになったとしても、このクラスの総合力では高い確率でその立場を維持することが難しいと判断したからよ」

 

「堀北さん、私らのことバカだと思ってる訳?」

 

 おぉ、軽井沢さんは意外にも演技派なのかもしれない。これも清隆の指示によるものだ。上手くヘイトや不満をコントロールして堀北さんに向けているようだ。

 

 一見、険悪な雰囲気になっているように見えるが、これは言ってしまえば台本通りの動きなのだろう。

 

「いいえ、違うわ」

 

「じゃあ何が言いたいの?」

 

「意思と覚悟を問いかけたいのよ」

 

 そこで堀北さんは遊戯室に集まったクラスメイトを見渡す。

 

「皆の中にはこう思っている人もいるんじゃないかしら……Aクラスになることをもう諦めている人、クラス間の戦いをどこか他人事のように思っている人、或いは自分じゃない誰かが上手くやってくれるんじゃないかと他力本願なことを考えている人もいるかもしれないわね」

 

 その言葉にクラスメイトの何名かは視線を反らしたり、バツの悪そうな顔をする。

 

「それが悪いとは言わないわ。入学当初、私たちは不良品の烙印を押されて学年で最も期待されない立場にあった、その憤りと無力感は私だって知っている……けれど今は違う、まだ距離はあるけど確実にAクラスの背中に近づいたのは間違いないもの」

 

「それは、そうだけど……」

 

「だからこそ今、皆に意思と覚悟を問いかけたいの……思えば私たちは、これまでそれをすることすら出来ないでいたわね」

 

 クラスメイトたちの視線が堀北さんに集まっていく。ここからが踏ん張りどころだな。

 

「私は、Aクラスを目指したい。その為に不断の努力と曲がらない意思を貫くわ……貴方たちはどうかしら?」

 

 強く、そして意思の宿った瞳がそこにあった。四月頃の堀北さんが持っていなかった何かがある。誰かの心に何かを働きかける力とも表現できるだろう。

 

 方向性や、性質が異なるが、同じ瞳を龍園や一之瀬さん、葛城などからも感じ取ることができるものだ。

 

 カリスマ、と呼ばれる物なのかもしれない。それはこれまでの堀北さんにはなかったものなのだろう。

 

 遊戯室の隅っこで、あまり目立たないように彼女を観察している清隆が、少しだけ驚いたような顔をしているのが印象的だった。

 

「色々と思う所もあるでしょうね……勉強ができる人、運動が出来る人、逆に欠点があったり能力不足を嘆くことだってあるかもしれない。自信がなかったりする人もいるでしょう。けれど自分じゃない誰かがやってくれると考えるのだけは止めて欲しいの」

 

 既に堀北さんの言葉に耳を傾けていない者はいない。

 

「それぞれが当事者意識を持ち、危機感を共有すること、そして意思を束ねる……それがAクラスを目指す上で必要な最低限の条件よ」

 

 そこで彼女は少し息を吸い込んで心を落ち着かせる。数秒ほど瞼を閉じて瞳を隠すと、力強く、そして誰かを引きつけるような声と共に瞳を再び見せる。

 

 力と意思の宿った瞳は、少し師匠に似ているな。

 

「もう一度言うわ……私はAクラスを目指す、その為に努力は惜しまない。貴方たちはどうかしら?」

 

 あぁ、四月頃の堀北さんは完全にいなくなってしまったんだな。嬉しいような寂しいような、そんな気分になってしまう。

 

 雛鳥の羽ばたきを見るような気分であった。きっとそんなことを言うと怒られるんだろうけど。

 

「俺は堀北に協力するぜ!!」

 

 だから助け船を出そう。そう思った時に誰よりも早く須藤がそう声を上げた。

 

「このまま馬鹿にされ続けるなんてごめんだからよ、見返してやりてえとは思ってたんだ」

 

「須藤くん……意外だわ。まさか貴方が最初にそう言うなんて」

 

「まぁなんだ、鈴音には世話になったからな、恩返しもしたいんだ」

 

「そう、貴方も成長しているということなのね……」

 

「へッ、いつまでもガキのままじゃいられないってことくらい、わかってるっての」

 

「ありがとう、須藤くん……でも馴れ馴れしく名前を呼び捨てにするのは止めなさい」

 

「……お、おぅ」

 

 勇気を出して、そしてどさくさに紛れて名前呼びを定着させようとした須藤は撃沈されてしまう。そんな彼の背中をポンポンと撫でながらこちらも続くようにこう声を張る。

 

「俺も須藤と同意見だ。今こそ、意思と覚悟を束ねて一つの目標に向かうべきだと思う」

 

 俺がそう言うとクラスメイトたちの視線がこちらに集中した。

 

「意識を切り替える時が来たんだ。自分たちにできる訳がないではなく、必ず勝利を目指すんだという思いを共有する時だ」

 

 無人島でやりたい放題して勝利に貢献した俺の言葉と立場は、クラス内で大きな存在感を持っている。そんな俺が堀北さんに賛同したことで一気に流れが変わっていく。

 

 内心では、誰だってAクラスで卒業したいと思ってはいるはずなんだ。けれど過酷な学校の制度やDクラスという立場がそれを阻んで来た。けれど今は違う。

 

「僕も賛成かな。これまではそんな余裕はなかったけれど、こうして皆が一致団結できる時が来たんだ。反対なんてしない」

 

「もちろん私も賛成だよ、一緒に頑張ろうね」

 

 平田と櫛田さんも賛同してくれた。そうなればもう形勢は固まったようなものである。

 

 最後のピースは軽井沢さんになる。女子チームのリーダーであり、一定の発言権と立場を持った彼女の言葉で完成だ。

 

 そして、彼女は台本通りに動いてくれる理由がある。

 

「ま、そこまで言われたら私も賛成かな。あとちょっとでAクラスって考えたら、ここが頑張りどころだろうしさ」

 

 クラスの有力者の全てが堀北さんに賛同したことで、ようやくDクラスは一つになることが出来た。Aクラスを目指す上で最低条件を満たしたことになる。

 

 強い意思と、目標、それは他クラスにはこれまであったことだが、このクラスにはなかったものであった。

 

「皆、ありがとう……一緒に頑張りましょう。もちろん、私は努力を惜しまないわ」

 

「そこは疑わないさ。堀北さんはクラスの為にこれまでも色々頑張ってくれたし、責任感もある人だって皆知ってるよ……今回の試験でもいち早く優待者の法則を見抜いてくれたのも彼女だ」

 

 ここで堀北さんよいしょも忘れない。可能な限り彼女の影響力を高めておこう。

 

「え、そうなんだ、私はてっきり笹凪くんが見抜いたんだって思ってた」

 

「それも正解よ佐藤さん、私と彼で法則を解き明かして今回の作戦を考えたの」

 

 あ、こっちにもよいしょしてくるんだ。予定が狂ったな……しかし堀北さんはどこか自慢するような感じである。水を差すのも悪い気がする。

 

「笹凪くんも含め、このクラスは決して他クラスに負けない戦力が揃っていると私は思っている。けれどそれはあくまで個人の話、総合力という点で考えればやっぱり見劣りするのは間違いない事実……だからこれからはそれぞれの成長を主軸に考えたいと思っているわ」

 

「具体的にはどうするのよ?」

 

 軽井沢さんの疑問に堀北さんはこう返す。

 

「特別なことは何もしないわよ。勉強も運動も、結局は日々の積み重ねが大事だから、簡単にとはいかないでしょう。けれど日々中途半端な意識で過ごすのと、明確な目標を掲げてそこに向かって努力するのでは大きな違いがある」

 

「ん……重要なのは意識だね」

 

「えぇ、Aクラスを目指すと言う目標をハッキリと掲げて過ごす。普段の勉強も運動も交流も、その意識を持った上で行えば、大きな成長に繋がるわ」

 

 逆に、何の目標も無く惰性で過ごせば何の意味もないだろう。

 

「もし勉強が苦手な人は私の所に来てくれれば幾らでも手を貸す。跳ね除けたりなんてしない。だからこれからは遠慮なく接して欲しいの。そして私の至らない部分は貴方たちの力を貸して頂戴」

 

 多分、今日この日なんだろうな、堀北さんが真の意味でクラスの一員になったのは。

 

「勉強ならば、こちらでも力になれる……」

 

 おずおずと、手を上げてそう言ったのは幸村である。こちらも意外な反応だと思えるな。あまりクラスメイトと積極的に交流を持つタイプではなかったからだ。

 

「俺は無人島試験であまり役には立てなかった、足を引っ張っていたとすら思う……だが勉強の分野でならば何かしらの貢献もできる筈だ」

 

「助かるわ、幸村くん」

 

「だが、俺は運動ではとことん足を引っ張ることになるだろう……その時は――」

 

「大丈夫よ、貴方の苦手な分野を補える人はいるから。そうでしょう? 須藤くん、笹凪くん」

 

「おう、任せてくれ。代わりにそっちも頑張ってくれよな」

 

 凄いな、須藤が頼りになる兄貴風を吹かせる日が来るだなんて。

 

「あぁ、何も心配はいらない」

 

 須藤の運動能力は一年生はおろか二年や三年と比べてもトップレベルだ。そして俺もそれは変わらない。

 

「はいはい!! 運動なら私も得意だよ!!」

 

 元気よく手を上げたのは小野寺さん。女子の中ではクラスでトップの身体能力を持っている子である。

 

 彼女に続いて次々と協力をする声が上がっていき、それは一つのうねりとなって全体に広がっていったことだろう。

 

 自分たちにもそれができるんだと、そう認識して意識を切り替える。簡単なようでいてとても難しいことではあるが、それが今ここで形となっていくのがわかった。

 

「それぞれの長所、短所、特技や知識を束ねて補い合う。今の私たちならそれが出来る……だから、Aクラスを目指しましょう」

 

 最後に堀北さんがそう宣言すれば、力強い返事が遊戯室に広がった。

 

 うん、良い傾向と雰囲気だと思う。四月頃のクラスには存在しなかった力とも言えるだろう。

 

 試験に勝利する、ポイントを稼ぐ、それだけでは足りない何かがここにはある。意思と覚悟と力を束ねて先へ進もうとする団結を得たことで、Dクラスはようやくクラス闘争に挑む体制が出来たということだ。

 

「ようやくスタートラインだな」

 

「あぁ……少し驚いた」

 

「何がだい?」

 

 遊戯室の隅っこで目立たないように成り行きを見守っていた清隆は、感心したような顔をしている。

 

「堀北の言葉と、クラスの雰囲気にだ」

 

「良い言葉だったね。飾らず、曲がらず、己の思ったことを真っすぐ放った……指導者の言葉だったよ」

 

「四月の堀北が懐かしく感じたぞ」

 

「はは、確かにね……けど良い傾向だ、彼女はもう迷わないだろう」

 

「そうかもしれないな……」

 

 清隆はどこか羨ましそうな顔をしている。ここ最近は彼の表情が読み取れるようになったと思う。俺の観察眼が上がったのか、それとも彼の表情が豊かになったのか判断に迷う所ではあるが。

 

「こんな時に無粋かもしれないが、実は櫛田さんのことで相談があるんだけど……」

 

「奇遇だな、オレもだ」

 

 遊戯室の隅っこでそんな会話をする俺たちは、同じように隅っこで堀北さんを中心としたクラスメイトを眺める櫛田さんへと視線を向けていく。

 

 いつものような愛らしい穏やかな笑顔の裏で、奥歯を鳴らすほどに力強く噛みしめていることを必死に隠そうとしている、そんな矛盾した彼女を観察していた。

 

 どうやらまだ、このクラスは完全には一つとなれてはいないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




葛城クラス 1474CP

笹凪クラス 959CP

一之瀬クラス 653CP

龍園クラス 392CP

なお、Aクラスは毎月450ポイント分のローンを龍園と主人公に払わなければならない模様。数字上では独走状態だけど多重債務者となっている。

葛城「もしもし、アディーレ相談事務所ですか?」
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