夏休み 1
暑い日差しが今日も降り注ぐ。
夏もど真ん中のこの時期はいつもそうだがやはり熱い。師匠と暮らしていた実家は北の方にあったのでまだマシだったのだがそれでも熱かったのは間違いない。それが東京ともなれば更に熱い。
この学校はどこも冷房完備で室内にいる間はとても涼しいのだが、一歩外に出るとじっとりと汗が肌に浮かぶことになる。
ましてや外での作業ともなればより厳しいものがあるだろう。一応、日差しを遮る為にポイントで購入した足長のテントを設置しているのだが、それでもやっぱり熱い。
「ふぅ……ようやく完成したな」
「あぁ、意外にもやれるものなんだな」
俺は足長テントの中にある美術作品を清隆と並んで眺めていた。
ここは学生寮の前、そして目の前にあるのは仁王像である。因みに二体ある。
筋骨隆々の体に鋭い眼光、右手を前に差し出して僅かに腰を下ろすポーズを取っており、二体一対の姿はとても雄々しく様になっていた。
教科書に載っているあの有名な仁王像を参考にして、少しだけアレンジを加えた二体の仁王像は、美術部である俺の夏休みの課題でもある。
部活の課題で夏の間、何かしらの作品を作れと言われたので。俺は師匠を思い出して仁王像を作ることにしたのだ。
あの人もよく仁王像を作っては俺に担がせていたからな。実は縁のある存在でもある。
通販サイトを調べてみると彫刻用の丸太が売っていたので即日購入。届いた丸太はその日の内に足長テントの下においてさっそく作業開始、そして本日完成した訳なのだ。
力作である。きっと美術部の顧問も百点満点をくれるだろう。
なにせ師匠モードで作ったからな、強い念が宿っているかのような迫力があり、今にも動き出しそうな雰囲気すらあった。
因みに、清隆も何故か手伝ってくれた。どうやら暇をしていたらしく、せっかくなので手を借りて、見事な仁王像がここに完成した。
「ヤバいな、カッコよくないか?」
「迫力はある、今にも動き出しそうだ」
「だよな、これなら顧問の先生も文句無しだろう」
「……驚くだろうけどな」
「ん、どうしてだい?」
「普通、生徒がこんな物を作って来るとは思わないだろう。二メートル越えの仁王像だぞ? しかも二体、絶対に苦笑いする筈だ」
「そうなのか、普通は作らないのか……師匠はよく作ってたんだが」
「常識的に考えろ」
清隆は少し呆れたような顔をしている。
そう言えば、この仁王像を作る作業は学生寮の前でやっていたので、寮から出て来る生徒たちは皆似たような顔をしていたな。美術部の夏休みの課題を作っているだけなのだから、そこまで呆れられることでもないと思うのだが。
「清隆も手伝ってくれてありがとう、顧問の先生から評価を貰ったら片方あげるよ」
「いや……貰ってもな」
「遠慮する必要はないんだよ」
「遠慮はしていない。貰っても絶対に持て余すから拒否しているんだ……想像して見ろ、部屋の中に今にも動き出しそうな仁王像がある生活を」
師匠と暮らしていた神社には色んな彫刻象が置かれていたので、あまり違和感はないんだが……清隆には受け入れがたい光景なのかもしれない。
「そうか、頼もしくていい感じなんだけどな、仁王像って守護神的なあれだから。泥棒が入って来ても安心だ」
「いらないからな……」
そこまで念を押さなくても良いじゃないか。手伝ってくれてる時は何だかんだで楽しそうだったが、いざ作品をどうするかという段階で何故冷めてしまうのか。
「仕方がない、評価を貰った後は学校の玄関にでも置いておくか」
「生徒会か、教師に呼び出されるだろうから止めておけ」
なんでそこまで拒否されるんだろうか? 仁王像は守りの象徴なのに。寧ろ玄関に置いておけば邪悪な者を立ち入らせず無病息災で生徒が暮らせるだろう。
それに何よりカッコいい。師匠もよく仁王のようになれと言っていたからな、俺の琴線に触れるものがあるのだ。
「まぁどうするかは顧問からの評価を貰ってからだな、引き取り手がなかったらひっそりと職員室か理事長室にでも置いておこう、生徒会室でも良いな……いや、龍園の部屋の前にでも飾っておこうか」
「嫌がらせもほどほどにしておくんだ」
「そんなつもりはない、全て善意によるものだ……よっこらせっと」
清隆の呆れたような視線を受け流しながら、俺は二体の仁王像を肩に担いで持ち上げる。このまま学生寮の前に置いておいても迷惑になる可能性もあるので、とりあえず美術室まで持っていくとしよう。
「手伝ってくれてありがとうな。こいつらの名前は片方は清隆にしとくよ」
「……頼むから止めてくれ」
シャイな奴だ。そんなに照れなくて良いのに。
寮前で清隆とわかれて仁王像を担いだまま学校へと向かう。夏休み中でも部活動であったり生徒会であったりが活動しているので校舎は開かれており、美術室で作業する部員もいるので空いているだろう。
「笹凪か……」
校舎に入り美術室へ向かう途中だ、堀北先輩が俺に声をかけてきたのは。
「どうも、生徒会長、お久しぶりです」
「あ、あぁ……そうだな」
「さ、笹凪くん、その担いでいる物は一体……」
堀北さんのお兄さん、生徒会長である堀北学先輩は、俺と俺が担いでいる二体の仁王像の間で視線が右往左往している。その隣では生徒会書記の橘先輩もいた。
「どうですか? 自信作なんです」
「……それは美術部の課題か?」
「はい、夏休みに何かしらの作品を作らなくてはならなくて、せっかくなので仁王像を作ろうかと」
「せっかくだから、仁王像? え?」
橘先輩は困惑を隠しきれないといった様子で、頭の上に?マークを浮かべている。
「これなら百点を貰えるかと思いまして」
「確かに、迫力と言うか……強い念のようなものは感じ取れる作品だな」
「ありがとうございます」
褒められるのは嬉しい。師匠モードであったとはいえ、このサイズの作品だったから苦労も大きかった。報われた気分になるな。
「宜しければ評価を貰った後は差し上げますよ」
「いや、不要だ」
「そんな遠慮なさらず。生徒会室に飾ってください」
「もう一度言うぞ、不要だ」
眼鏡を人差し指で上げながら堀北会長はそう断言した。その隣では橘先輩もうんうんと勢いよく頷いている。
悲しい話だ。作ったは良いけどこんなにも拒否されてしまうなんて。
「それより笹凪、丁度良かった。それらを美術室に置いたら生徒会室まで来い」
「俺は別に叱られるようなことはしていませんよ?」
「そのようなつもりはない。だが少し問題もあってな、お前を呼び出して事情を説明しておこうかと思っていた所なんだ」
「なんのことかわかりませんけど、了解です。後で顔を出します」
怒られる訳ではなさそうなので気が楽ではあるが、何の用だろうか……少し考えてみたが答えは出てこない。
とりあえず担いでいた仁王像を美術室に置いてから、待たせるのも悪いと思って生徒会室へ直行する。
部屋の前で師匠に言われた通り、最低限の身だしなみを整えてからノックすると、橘先輩の「どうぞ」という可愛らしい声が届いた。
「笹凪です。入室します」
挨拶は大事、師匠の言葉である。
「よく来た、座れ」
「失礼します」
「笹凪くん、お茶でもいかがですか?」
「ありがとうございます橘先輩」
とても喉が渇いていたので嬉しい配慮である。そのまま仁王像も貰ってくれるという配慮を見せてくれないだろうか。
頂いたお茶で喉を潤して一息つくと、机を挟んで正面に座る堀北会長はこんなことを尋ねて来た。
「特別試験では随分と暴れまわったそうだな」
「え、話ってそれですか?」
「いや、本題は別にある。だがそちらの話も聞いておきたい」
「別に話すのは構いませんけど……というか生徒会って試験の結果や内容まで把握できるものなんですね」
「ある程度はな、お前がやりたい放題したことは把握している……まさかスポット装置を引きちぎって一ヶ所に集めるとは、前代未聞だぞ」
「効率を極めた結果、致し方なく」
「ふッ、おかげで、次に同じ試験が実施される場合は、幾つかのルールが追加されることになりそうだ」
「それが今年じゃなくて良かったです……それで、聞きたいことの本質はそこじゃないでしょう?」
「何が言いたい?」
「妹さん、頑張ってましたよ」
「……」
結局、この人が聞きたいのはそこなんだろう。本人に直接聞けって言うのは野暮なんだろうか?
「無人島ではクラスメイトと交流を深めていましたし、船上試験では優待者の法則も見抜いて貢献して、Aクラスと契約する際にも色々と意見もくれましたよ」
「ほぅ……鈴音がな」
とても、それはもうとても意外そうな顔をする堀北先輩、この人にとって妹はどれだけ心配をかける存在に映っているんだろうか、心配性な人である。
「妹さん、褒めた方が伸びるんじゃないか説を俺は押しています……なので褒めてあげたらどうでしょうか?」
「検討はしておこう」
「そうしてください」
堀北さん、喜ぶんじゃないかな。
「さて、本題に入ろうか。橘、例の書類を頼む」
「はい会長」
橘先輩が俺に差し出して来たのは一枚の書類、ざっと目を通すとそこにはコンクールに応募した作品の概要と、それに纏わる問題が書かれていた……うん? おかしいな、とんでもない額が書かれているんだが。
「え~と、会長、これはどういうことでしょうか?」
「お前がコンクールに応募した作品を、買い取りたいという人物が現れた」
師匠モードで描いたあの絵のことだろう。確かにコンクールに出した。
「買い取りたい? すいません、意味が分かりません……コンクールに出したのは間違いありませんけど、オークションに出した訳ではなかったと思いますが」
「だろうな、学校側も困惑している……ただ、コンクールの審査員の一人がいたくお前の作品を気に入ったらしく、審査委員会経由で学校側に交渉を持ちかけて来た」
「奇特な方もいらっしゃるんですね。無名の高校生の作品に金を出すだなんて。しかもこんなバカみたいな額を」
「価値観は人それぞれだ。それだけ出しても惜しくはないとその人物は判断したのだろう」
「……はぁ」
正直、ドン引きであった。確かに師匠モードで描いた作品だから自信作だとは思うし、清隆や堀北さん、そして美術部の顧問の先生からは、良い意味でも悪い意味でも心が揺さぶられる作品だとは言われたけど、大金を払うほどではないと俺は思う。
そこで俺は師匠のことを思い出す。そう言えばあの人が作った作品も高く売れていたと。
別に高い値段を提示している訳でもなかった筈だし、金に執着がある人でもなかったので気まぐれに望む人に提供していたが、返礼に金の延べ棒とか送られてきたな。
「コンクール会場は変な空気に包まれていたらしくてな。その人物が作品を買い取りたいと言った瞬間、対抗するように他の人物も購入を求めたらしい。最終的にはオークションのように値段が吊り上がったそうだ」
「怖い……なんですか、それ」
あの絵には人を狂わせる魔性でも宿ってしまったんだろうか、それこそ師匠の作品みたいに……師匠モードで作ってたから否定しきれないな。
「でもまぁ、大金が入って来るのはとても嬉しいですね……」
なので別に売ってしまうこと自体は問題がない、重要なのはここから先だ。
「因みにですけど、これってプライベートポイントに変換とかできますか?」
本題はそこだ。それができるのならこんな嬉しくて重要なことはない。
俺の質問に堀北会長は視線を鋭くして考え込む。戸惑いも無く完全否定されないということは、可能性はあるようだ。
「そこは、学校側でも議論があった……外部からの資金を変換するのは公平性に欠けるのではないかとな」
「なるほど、公平性ですか」
「あぁ、例えば実家や親類の援助などで大量のプライベートポイントを得られるのならば、やはり問題となるだろう」
そこはどうなんだろうか……高円寺辺りは色々とルールの穴を突いて大量の資金を動かして多くのプライベートポイントを得ているみたいだけど。言い方が悪いかもしれないがマネーロンダリングみたいにすれば学校側もあまり咎めたりしないんじゃないだろうか。
俺が高円寺の戦略を興味本位に訊いた時は、公平性に欠けるというよりも、その手があったかと感心したほどだ。
「ですけど、この場合はそうではありませんよね? 言ってしまえばこれは生徒の実力で得た訳ですから」
「その通りだ……それに前例もある」
「え、そうなんですか?」
俺の質問に答えてくれたのは橘先輩であった。
「はい。何年か前の美術部員が、企業が主催した広告コンペに作品を出展して入賞した際に、50万円を賞金で得てそれをプライベートポイントに変換していますね」
なるほど、意図したのかどうかわからないが、俺と同じような状況に立たされた生徒がいたと、そしてその人物は自分の実力で得た賞金をプライベートポイントに変換できたということか。
「だが、額が額だ……学校側でも色々と議論がなされて、最終的には良しとされた。これも実力と言ってしまえば、それまでだからな。ただし最終判断は生徒に任せるとのことだ」
「つまり、俺が決めても良いと?」
「そうだ」
「ではプライベートポイントに変換します」
「即答だな、一度持ち帰って考えても良いんだぞ?」
「この学校だとポイントがあればあるほど有利ですからね。いつになるかわかりませんがポイントを使うことを前提とした試験も行われるでしょうから、そこに備えておきたいんです」
「ほう、そこまで想定しているのか」
「プライベートポイントという制度がある以上は、ほぼ確実だと思っています。そうでしょう?」
「どう解釈するかはお前次第だ……最終確認だが、本当に構わないんだな? 将来に備えて貯金するというのも一つの選択だぞ?」
「何も問題はありません……今は現金よりもポイントの方が重要なので。それに返ってこないとも思っていません」
だって高円寺がルールの穴を突いてやりたい放題しているからな。俺は知っているんだ、一年や二年には卒業時にプライベートポイントは学校側に返還されると説明されているが、実はプライベートポイントは現金に替えることができる。ただしレートは低いらしいが。
そう考えると高円寺は本当に上手く立ち回ってると思う。実家の資金を学校側が咎められない方法で自分のプライベートポイントに変換しているんだから。少なくとも俺には考えつかない方法であった。
「レートは下がるけど、現金にもできる筈です……そうですよね?」
「ふッ……それについては答えることができないと言っておこう」
この学校はその表現が好きだな。まぁ言えないは言っているのと変わらないが。
「ではこの取引は問題ないと判断しよう。良いな?」
「はい、宜しくお願いします」
「わかった、相手側の弁護士が用意した書類があるので。それをしっかり読んで署名しろ。それと学校側からの資金変換に関する書類が用意されている。そちらもしっかり確認してから署名頼む。額が額だ、見落としのないように注意するように」
「了解しました」
橘先輩が幾つかの書類を持ってきて提示した。それを隅から隅までしっかりと読み込んで、最終的に問題がないと判断して署名を残す。後、ハンコが無かったので拇印も。
「おそらく振り込まれるのは来月になるだろう」
「予期せぬ形でしたけど、おかげで色々と戦略が広がりそうです」
「楽しそうだな」
「それくらいが人生を一番謳歌できるらしいですよ」
「かもしれん……さて、本題に入ろう」
「え? 今までは本題では無かったんですか?」
「こちらも本題だ……単刀直入に言うが、笹凪、お前を生徒会に勧誘したい」
「はぁ、生徒会ですか……」
「乗り気ではないようだな」
「正直に言うのならば、その通りです」
何をしているのかよくわからない集団、というのが正直な感想である。
「確かこの学校は生徒会と部活動の両立はできないのでは? 俺は一応美術部員ですよ」
「そうだな、生徒会に入るのならばそちらを退部して貰うことになるだろう」
「なら難しいかと……俺は書類仕事よりも部活動の方が楽しめると思うので」
「色々と便宜もはかれる、それに利益も得られることもある筈だ」
「それは美術部で活躍しても変わりませんよ。現に俺は、今後誰にも超えられないであろう大金を一人で稼ぎましたから」
「確かに、そう考えると生徒会に入ることで得られる恩恵など微々たるものとしか言えないな」
「回りくどい話は結構です。本題をお願いします」
「……今の生徒会副会長、南雲雅という男を知っているか?」
「はい、知っています。遠くから観察したくらいですけど」
「観察か、どうしてそんなことをしたんだ?」
「この学校に入学してすぐに、脅威となるくらいに強い人がいるかどうかの確認の為に、全校生徒を観察していました」
南雲先輩も観察対象の一人ではあったが、清隆以外はあまり興味を引かれなかったと思い出す。
彼に対する印象はどうだろう……脆そう? いや、それはこの学校にいる全ての人間に共通することだからな。
「因みに訊いておくが、どういう意味での脅威だ?」
「ええっと……」
これは伝えて良いのだろうか? 引かれるような気がするが……いや、俺はこの人の眼鏡を粉砕した過去があるからな、今更かもしれない。
「その、なんと言いますか……壊せるか、壊せないかという意味です」
「そ、そうか……」
やっぱり引かれてしまったらしい。生徒会長はごまかすように眼鏡の位置を直している。
「それで、その副会長がどうしましたか?」
「……南雲は優秀な男だ。だが、危うい所もある」
「生徒会長は彼を危険視されていると、そういうことですか」
「端的に言えばそうなるな……卒業してからは南雲が生徒会長となり、そうなれば大きな混乱を招くことになるかもしれん」
「つまり俺をその対抗勢力にしたいと」
「そうだ」
「何故、俺を? 南雲先輩に対抗させる為なら同じ学年の生徒の方が相応しいと思いますけど」
「それは難しい。南雲の影響力は学年全体に及んでいる。二年生にも優秀な生徒はいるんだがどうしてもな……」
「でしたら貴方が処理なされれば良い。後輩に任せるよりかはずっと適任だと思いますよ」
「出来る事ならばそうしただろう。しかし俺はもう生徒会引退間近だ、時間がない」
それで頼りにならない二年よりも一年生か、だいぶ無茶ぶりしてると思う。
「う~ん……難しいですね、今はクラス闘争に集中したいので。俺たちのクラスはようやくスタートラインに立ったばかりですから、余計なことに力を注ぎたくない」
「南雲の影響が強まればお前たち一年にも影響が出る筈だ」
「具体的には?」
「前代未聞の、退学者が出るかもしれない」
「なるほど……そう聞くと、余計に関わりたくなくなりますね。目を付けられないようにひっそり大人しく過ごすべきだ」
「馬鹿を言え、現時点でお前は南雲が注目する一年の筆頭だ。どうせすぐに絡まれるだろう」
「あぁ、そうですか……ん、どうしましょうか? 生徒会よりも美術部員として活動するほうが楽しそうなんですけど。それにそんな面倒そうな先輩と毎日顔を合わせたくはありません」
「難しいか……」
「ご期待に応えられず、申し訳ありません」
「いや、構わん。無茶ぶりしている自覚もあるからな」
少し残念そうな堀北先輩は、深く考え込むように瞼を閉じて腕を組む。
「まぁその南雲先輩がこちらにちょっかいかけて来るのなら、その時にまた考えますよ。笑って済ませられるくらいならいいんですけどね」
「わかった、今はそれで構わない」
もし笑って済ませられない時はどうしようか……今は未来の俺に丸投げだな。
ただまぁ、困難を楽しむくらいで良いんだろう。男の人生はそれで良しと師匠が言ってたしな。
「では俺はこれで」
「あぁ、時間を取らせたな」
「お気になさらず」
一礼してから生徒会室を後にする。ありえないくらいのプライベートポイントが手に入るのがわかったので気分は良かった。
それに外で得た現金をプライベートポイントに変換できることもわかったのだ、それが一番の収穫であったと思う。高円寺のマネーロンダリングを参考にしてこっちでも色々できるかもしれない。
だが、これからのことを考えながら寮に帰ろうとすると、背後からこんな声をかけられてしまう。
「よう一年。今、生徒会室から出て来たよな? 何か用があったのか?」
先程、堀北先輩が危うい存在だと言っていた南雲雅先輩が振り返った先にいたことで、大金を稼いで上機嫌だった俺は水を差されるのだった。
堀北兄「南雲、止めておけ。そいつはゴリラだ」
橘先輩「止めておいた方が良いです。その子はゴリラです」
南雲(ゴリラ? なんでそんなあだ名を付けられてるんだこいつは?)