ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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夏休み 3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世の中には色々な事故が溢れている。車に轢かれたり凍った地面に足を滑らしたりと、例え注意していても避けられないような状況だってあるだろう。

 

 だから別に事故にあうことは可笑しなことでも無ければ、不思議なことでもないのだ。ましてやそれを笑うことも人の不幸を蜜の味だとか言う必要もないんだ。

 

 

「ふッ……」

 

 

 だから清隆、そんな風に笑うもんじゃない。

 

 

 夏休みを謳歌する日々の中、我慢しきれなかったのか清隆は嘲笑うかのような含み笑いを見せた。中々に珍しい表情である、彼がそんな顔をするとは。

 

 そんな清隆と俺の視線の先では、顔を真っ赤にしてワナワナと震える堀北さんの姿がある。羞恥と悔しさに身を震わせる彼女もまた珍しい姿と言えるだろう。

 

「綾小路くん……今、私を見て笑った?」

 

「いや、そんなことはないぞ……」

 

 いや、笑ってたよ。

 

「くッ……笹凪くん、どうして彼も連れて来たのかしら?」

 

「ごめんね、連絡貰った時にたまたま清隆もいたからさ。もしかしたら人手もいるかと思って付いてきて貰ったんだ」

 

「まさか堀北のこんな姿を見ることになるとはな」

 

「記憶から消してあげるわ、今すぐねッ!!」

 

「おい止めろ、今のお前の拳は冗談にならん」

 

「落ち着いて堀北さん、あんまり激しく動くと手首が圧迫されてしまうよ」

 

 そう、今の彼女の右手に装着されているのは水筒であった。まるで手甲のように拳を固めており、殴ると相応の痛痒を与えることだろう。

 

 どうやら水筒を洗っている時に勢い余って手が入ってしまい、そのまま抜けなくなってしまったらしい。

 

 彼女もなんとか引っこ抜こうと四苦八苦して様々な努力をしていたようなのだが、抜けることなく今に至る。

 

 プライドの高い堀北さんが誰かに頼ろうとすることは素晴らしい成長だと思う。四月頃の彼女を思い出しながら何となく嬉しい気分になった。

 

 堀北さんも成長しているということだろう……右手に水筒が嵌ってるけど。

 

「とりあえず外そうか?」

 

「えぇ……手を貸してくれるかしら? 一人だとどうしても取れなかったのよ」

 

「お任せあれ……とはいえ、あんまり強引にやると堀北さんに怪我させてしまいそうだからなぁ」

 

「それは……そうね」

 

 彼女も俺の膂力を思い出したのか顔を青くしている。大丈夫だよ、傷つけたりなんてしないから。

 

「面白いからもう少しこのままでも良いんじゃないか?」

 

「綾小路くん、邪魔だから今すぐ帰りなさい……じゃないと、わかるわね?」

 

 右手に水筒の嵌った堀北さんが清隆のツボに嵌っているのかもしれない。彼が彼女の醜態をここまで面白がるのはとても意外な反応だった。

 

 どこか機械じみた男である為に、感情を露わにするのは珍しいともいえるな。感情を見せる清隆を発見できたのは嬉しいが、それが堀北さんの姿を笑う為だというのは少しいただけないが。

 

「わかった、天武、ここは任せる。オレにできることはないようだ」

 

 堀北さんに脅されたからだろう。清隆はこっちに丸投げして部屋から出ていく。最後まで面白そうな顔を隠しもしなかった。

 

「あ、あの意地の悪い顔……私を可哀想なものでも見るかのような目だったわねッ……こんな屈辱をッ」

 

「落ち着いて堀北さん、清隆も悪気があった訳じゃ……」

 

「そうじゃなきゃあんな顔はしないわよ」

 

 清隆を何故かライバル視している堀北さんだ、右手に水筒が嵌った姿を見せたくはなかったのかもしれない。不満と苛立ちが見て取れた。

 

「まぁまぁ、今はこれを取り外そう……ん、これってどこまでやっていいかな?」

 

「任せるわ、私一人だと全く取れなくて」

 

「この水筒って、大事な物だったりする? それか代えの効かない物だったりとか?」

 

「そんなことはないけれど……」

 

「ん、なら壊しちゃっていいかな? 強引に引っこ抜くと堀北さんに怪我させちゃいそうだからさ」

 

「どう取り外すのかではなく、どう壊すのかを考えるのは貴方らしいわね……まぁ、良いわ、お願いできるかしら」

 

「はい、じゃあ水筒こっちに向けて」

 

 堀北さんは少し怯えながらもこっちに水筒の嵌った手を伸ばしてくる。俺はその水筒の底に指を伸ばして力を込めていく。そこなら彼女の手を巻き込んだりしないと判断したからだ。

 

 指の腹が水筒の底を押しつぶしていき、その圧力が限界に達したのだろう。歪な音を立てて水筒に大きな亀裂が入った。

 

 その隙間に指を突っ込んでしまえば後は簡単だ。画用紙を破るような感じで水筒を破いていけば良い。

 

 全てを破いてしまえば彼女の手は水筒から簡単に抜くことができた。当たり前だな。

 

「貴方の膂力は……その、明らかに異常ね」

 

 水筒を破いた俺を見て堀北さんは戦慄している。

 

「そんなに怖がらないで欲しいかな、悲しい気分になってくる」

 

「怖がっている訳ではないけど……こうして目の前で見るとどうしてもね」

 

 わからなくはない、俺も師匠に出会ったばかりの頃は驚いてばかりだったからな。

 

「それよりもさ、水筒壊しちゃったから弁償するよ」

 

「別に構わないわよ、頼んだのはこちらだもの」

 

「そうもいかないのがこっちの事情なのさ。俺が選んで贈ってもいいけど、やっぱり堀北さんが選んだ物の方が問題ないだろうし……それに、う~ん、デートとかしたいなって、せっかくの夏休みなんだし」

 

「……え?」

 

 そこで彼女は一瞬だけフリーズして心ここにあらずといった雰囲気となり、しかしすぐに我を取り戻してこう言った。

 

「デ、デートって……何を言ってるのかしら、相変わらず軽薄な人ね」

 

「駄目かな? 嫌なら断ってくれて良いんだけど」

 

「……そういう訳では、ないけど」

 

 消えてしまいそうな小さな声でそう言う彼女は、視線を右往左往させながら落ち着かない様子を見せる。

 

「デートが駄目なら、一緒に買物って表現にしようか?」

 

 そう伝えると、彼女は色々なことを呑みこんで納得してくれたのか、照れながらこう言ってくれた。

 

「え、えぇ……わかったわ」

 

 そんな訳で、堀北さんと買い物に出かけることになった訳である。

 

 休日に同級生と買い物に出かける。これぞまさしく高校生あるあるじゃないか。

 

 しかも相手は女子、これで制服を着ていたら文句なしの制服デートである。高校でやりたいことの一つを達成することが出来たということだ。

 

 この調子で他にもやりたいことを埋めていきたいものである。この学校は色々とアレなので普通の学生生活というものが遠いので、中々難しい項目もあるのだが、そこは頑張るしかない。

 

「少し待ってて頂戴、着替えるから」

 

「わかった寮の玄関ロビーで待ってるよ」

 

 俺も着替えておくべきだろうか? でもあんまり流行やオシャレがわからないから、無難な物で固めてしまうんだよな。

 

 機能性と、マナー違反にならない位に雰囲気を整えておけば良いか。

 

 部屋に帰ってすぐさま着替えを終えて玄関ロビーで待つこと数分、外行きの装いに着替えた堀北さんが日差し避けの白い帽子を頭に乗せて姿を現した。

 

「おぉ、似合ってるね堀北さん。凄く美しいよ」

 

 師匠曰く、女性はとにかく褒めるべし。

 

「そ、そうかしら?」

 

 照れた様子の彼女は顔を赤くして視線を彷徨わせており、最終的にはうつむいて帽子で表情を隠してしまった。とても可愛い。

 

「うん、制服のイメージが強かったから私服があんまり想像できなかったけど、夏っぽい涼やかな雰囲気と清楚な感じが凄く良い。後、堀北さんのイメージにピッタリあってる装いだね」

 

 師匠に言われたからではなく、本心で俺はそう思っている。なので口から出て来る言葉を流暢で淀みがなかった。そりゃそうだ、事実しか言ってないんだから。

 

 そしてなにより重要なのは、堀北さんは褒めた方が伸びるんじゃないか説を俺が押しているからだ。お兄さんの代わりに沢山褒めていくとしよう。

 

「制服姿も凛としてて良い、私服もまた雰囲気が変わって良い、つまり堀北さんは最強で無敵ってことだよ」

 

「独特の褒め方は止めなさい」

 

 たしなめるようにそう言ってくるが、やはり顔は赤いままで照れた表情を帽子でなんとか隠そうとしている。悪い気分にはなっていないらしい。

 

 彼女の装いを可能な限り褒めて満足した所で、二人並んでケヤキモールへと赴く。夏休みもど真ん中のこの時期は多くの生徒が利用しており賑わいも大きい。

 

 夏休みだからな、毎日授業やこの学校特有の試験に追われる窮屈感もないので、誰もが開放的になっているのだろう。

 

「堀北さん、夏休みはどんな風に過ごしているんだい?」

 

「主に勉強ね……後は、その」

 

「クラスメイトの誰かから遊びに誘われたりしたんだ」

 

「何かしら、その含み笑いは?」

 

「いいや、別に、ただそんな堀北さんを想像して嬉しくなっただけだよ」

 

「揶揄うのは止めて」

 

 また照れた顔を帽子で隠してしまう。

 

「貴方は船から帰って来てすぐに、妙な物を作っていたわね」

 

「あの仁王像のことなら、美術部の課題だったんだよ」

 

 寮の前で作業してたから、そりゃ堀北さんも知ってるか。

 

「とても真剣に作ったから良い評価が貰えると思うんだけどね」

 

「……迫力のような物は感じられたわね。少し怖いとさえ思ったわ」

 

「誰かの心を揺さぶれるのなら、それはつまり、あの作品は高評価を得られるってことさ」

 

 ただ置き場所に困ってるんだよな、せっかく作ったからゴミ捨て置き場に放り込むなんて勿体ないし、ここはやはり龍園の部屋の前に飾るのがベストだろうか。彼は案外気に入って受け入れてくれそうだし。

 

「さてさて堀北さん、どんな水筒がお好みかな?」

 

 ケヤキモール内にある雑貨店へと辿り着く。日用品を中心に取り揃えられた店内には学生向けの小道具や生活用品などが多数取り揃えられている。

 

「因みに何かこだわりは?」

 

「ないわね、水筒としてしっかり機能するのなら色や形状は気にしないもの」

 

 なるほど、ここで可愛らしい感じの水筒を選ぼうとしないのは実に彼女らしい。

 

「ならこのキャラ物の水筒はどうかな?」

 

「訂正するわ、せめてそういった物は除外しましょう」

 

「確かに、もっと大人な感じのデザインの方が似合ってるだろうね。だとするとこっちかな」

 

 ここに並んでる水筒なんてどれも機能性には大差がない。大きさで値段が変わるくらいの物である。なのでどれを選んでも構わないのだが、せっかくなので堀北さんのイメージにあった奴の方が良いだろう。

 

 指差したのは黒い水筒。極めてシンプルかつ無駄なデザインが一切存在しないそれは、大人びた人物によく似合う。

 

 サイズ的にも堀北さんの手に嵌った奴と大きな差もないので、使いやすくもあるだろう。

 

 それともこっちのデザインは一緒だけどカラーリングが異なる白い水筒だろうか? どちらもイメージにピッタリ合うので判断に迷う所ではあるな。

 

「ふふ」

 

 どちらにすべきか迷っていると、隣にいた堀北さんが小さく笑った。

 

「おや、こっちは真剣に悩んでるのに……」

 

「ごめんなさい、だって自分が使う訳でもない物をあまりにも真剣に選んでるものだから、少しおかしくて」

 

「真剣にもなるさ、どっちが堀北さんに似合うかは重要なことだよ」

 

「笹凪くんはどっちが好みかしら?」

 

「……黒かなぁ」

 

「ならそっちにしましょう」

 

「良いのかい?」

 

「えぇ、それで構わないわ。どちらを選んでも機能性は変わらないでしょう? なら後は好みの色で決めればいいのよ」

 

「そうか、ならこっちにしようか」

 

 黒いシンプルな水筒を手に取ると、それをポイントで購入する。財布には余裕があり、そもそももの凄く高価な商品という訳でもない。

 

 水筒を壊してしまった謝罪と、日々頑張ってる彼女への細やかなプレゼントになれば良いと思って、その水筒を堀北さんに手渡した。

 

「また手を突っ込んだりしないようにね」

 

「もう……怒るわよ?」

 

「ごめんごめん、何だかんだで可愛らしかったからさ、つい揶揄いたくなるんだ」

 

 できればスマホで撮影したかったほどである。やったら絶対怒られるだろうからやらないけど。

 

 できればその写真を生徒会長にも送ってあげたい、あの人はどんな顔をするだろうか?

 

「せっかくここまで来たんだし、すぐに解散も寂しいからもう少し歩こうか?」

 

「それは良いけど、どこか行きたい場所があるの?」

 

「う~ん、占いとかはどうかな? 清隆が言うには何やら人気があるらしいんだけど」

 

「笹凪くん、占いに興味があるのね……意外にロマンチストと言うか、運命めいた物に興味を惹かれるタイプなのかしら」

 

「そうだね、もしかしたらそうなのかもしれない」

 

 だって師匠に出会えたからな。あんな奇跡は確率論では語れない。運命的な何かを信じるには十分だ。

 

 だってあの人に出会えた幸運は、きっとこれからの人生でどれほどの不幸が舞い込んだとしてもおつりが来るだろう。それを運命と言わずになんと表現するか俺は知らない。

 

「堀北さんはどうかな? 占いとか興味ある?」

 

「そうね……運命的な何かは信じていないけど、占い師という職業そのものには少し興味があるわね」

 

「へぇ、そうなんだ。どうやって未来を視ているとか気になるの?」

 

「違うわよ、そんな力がある筈ないもの。ただ、占い師は膨大な人のデータを元に結果を示す。その手腕や観察力という点は興味深いの」

 

「なるほどね、確かに誰かを観察するという点では、とても優れた職業なのかもしれないな」

 

 どうやら彼女も興味が皆無という訳ではないらしい。なので俺たちは噂の占い師の店に足を運ぶのだった。

 

 ケヤキモールに店を構える占い師はどうやら人気があるらしく。多くの人が列を作っているのが確認できる。

 

 どちらかと言えば女性が多いだろうか、おそらくここにいる男の大半が彼女の付き添いで来ているものと思われた。

 

 列に並んで暫くするとようやく俺と堀北さんの番になる。どこか不気味な雰囲気のあるテントの中に入ると、占い師と言えば定番とも言える水晶玉の前に腰かけた老婆が出迎えてくれる。

 

 薄暗い店内はそういった雰囲気を高めることを手伝っており、この人はタダ者ではないと思わせる為の手段の一人なのだろう。暴力を得意とする者がわかりやすく傲慢に振る舞っているのと同じ手法だな。

 

「何を占って貰えるのかしら?」

 

 席について堀北さんがそう切り出した。彼女は占いに緊張してどんな言葉を投げかけられるか期待していると言うよりも、目の前の人物がどのように他者を観察しているのかを知りたがっているようにも見えた。

 

「学業、仕事……あぁ、君なら恋愛などはどうかな?」

 

「れ、恋愛……」

 

 さっそく占い師の観察眼に翻弄され始める堀北さん……なるほど、こうやって相手を揺さぶって自分の話術に取り込んでいくのか。

 

 人を見る職業というのは伊達ではないらしい。

 

 どうやら今言った三つは基本プランに組み込まれているらしく、それ以外にも様々なプランが用意されている。堀北さんは試しとばかりに基本プランを選択して、俺はせっかくなので自分の人生の最後まで見て貰うことにした。

 

「ではまずそちらのお嬢さんから、名前は?」

 

「堀北鈴音よ」

 

「私の占いは相手の顔、手、そして心を見る。その中でアナタが見られたくないものも見えることがあるが?」

 

「構わないわ」

 

「ふむ、ではまず手相から……」

 

 そう言うと魔女っぽい老婆は堀北さんの掌を観察していく。そこから様々な情報を読み取っているのだろう。

 

 沢山勉強したからなのか、ペンだこのような物が出来ており、爪先も僅かに変形の跡が見られる。ピアニストの爪が平らになるように生活習慣によって人の体は様々な変化があるのだ。

 

 努力する人の手、俺は彼女の掌をそう読み取った。

 

「生命線は長く長生きするだろう。大病も今の所は見えていない……」

 

 おそらくはお決まりのセリフではあるんだろうな。学生なのですぐに死んだりはしないので当たり前のことではある。これで相手が明らかに顔色が悪かったりすればそれ専用のセリフがあると思われる。

 

「次に学業……ふむ、極めて順調だと見えるな、ただ張りつめるだけでなく僅かなゆとりも感じ取れる。よい未来だ」

 

 ペンだこを見ればそうなるだろう。この人は沢山の努力をしているのだと。

 

「恋愛に関しては……」

 

 そこで占い師はどうした訳か堀北さんではなく俺を横目で観察してくる。占いの相手は俺ではないんだけどな。

 

「う~む……こちらは前途多難と出ておるな」

 

「それは……何故かしら?」

 

「なに、不幸に満ちているような未来ではない。誰かとの縁などそんなものだ。紆余曲折を得て、様々な困難を乗り越えてこそだろう」

 

「……そう」

 

「だが決して悪いことではない。より良い未来を得たいのならば、誰かに寄り添うことを、そして誰かの孤独を埋められる者となることだ。さすれば道は開かれる」

 

 別に堀北さんに限った話ではなく、そんな人は普通にモテると思う。

 

「さて次は……」

 

 占い師の姿勢と瞳がこちらに向けられる。

 

「う~む……」

 

 だが困惑するばかりで全く未来を読んではくれない。そこまで口にするのが難しい相手なのだろうか、俺は。

 

「まず手相だが……何をどうしたらこんな手になるのやら。占い師泣かせだ、いい加減にしろ」

 

 なんで手を視られただけでドン引きされて怒られてしまうのだろうか。

 

「うむ、お主の手に触れた瞬間、虎の口に手を突っ込んだかのような気分になった」

 

 師匠に鍛えられたからな。右手に虎を、左手に竜をがあの人の流派の教えだ。掴んだら必ず壊す、それをするためには様々な努力が必要だった。

 

「だがとてつもない生命力を持つということはよくわかる。お主は長生きするだろう」

 

「ありがとうございます」

 

「学業に関しても問題は無い……あちら側の人間だろうな」

 

 どっちだよ、怖い表現をしないで欲しい。

 

「恋愛に関しては……う~む、見通すのが難しいな。保留としておこう」

 

「占い師がそれで良いんですかね」

 

「とても複雑で、読みにくいのだ……お主はこれからも多くの縁を繋いでいくだろう。未来は枝葉のように複雑にわかれている、それ故にな」

 

「そうですか」

 

「後はお主の人生に関してだが……どうやら星を持って生まれたようだな。それも大きく力強い星を」

 

「星、ですか?」

 

「うむ、極稀にお主のような者が生まれることがある。様々な運命を引き寄せて、幸運と才能に愛されて、それこそ神の寵愛が深いような、そんな星の下に生まれるものがな」

 

「はぁ」

 

 べた褒め過ぎるんじゃないだろうか、確かに師匠と出会えたのはとんでもない奇跡と幸運だとは思っているけど。

 

「だが油断は禁物だ。そういった者は決まって複雑怪奇な人生を歩むことになる。使いきれぬほどの幸運と、ありえないほどの困難が付きまとう、そんな人生となるだろう……覚悟することだ」

 

 師匠はまさにそんな感じの人だ、神様みたいな人なのにずっと色んな問題の解決に走り回っている。面倒事はあの人に丸投げしとけばだいたい解決するとか思われている人だからな。それなのに死なないんだから、きっと師匠はこの占い師の言う星を持って生まれたんだろう。

 

 そんな人に憧れてしまった俺は、きっと同じような人生を歩むのかもしれない。

 

「何も問題はありません。最後までカッコつけて死ぬつもりです」

 

「うむ、ならば良し、言うべきことはなにもない。そのまま進むが良い」

 

 こうして占いは終わった。色々と言いたいこともあるのだが、気晴らしにはなったのかもしれない。

 

 占い館から出て二人してケヤキモールを歩く。隣にいる堀北さんは顎に手を当てて何やら考え込んでいる様子だ。

 

「どうだった、占いは満足いった?」

 

「まぁ、あんなものでしょうね」

 

「気晴らしにはなったかな」

 

「えぇ。占いが一つの職業として、そして娯楽の一つとして広まっていることには納得できたわ。良い占いも悪い占いも、本当に未来を透視できる訳ではないのだから、気にするだけ無駄と確信もできた。結局は、己の努力と意思次第」

 

 確かに堀北さんの言う通りだ。占いは結局一つの娯楽であり、数多くある道標のほんの一つに過ぎない。深刻にならずに楽しむくらいで良いんだろう。

 

 俺も星とか運命とか言われてもよくわからないので「そうなのかへぇ」くらいの感覚で受け入れるのが一番だ。

 

 よし、なら切り替えて行こう。せっかくこうして堀北さんと遊びに来ているんだ、今はそれを楽しもう。

 

「堀北さん、この後ランチでもどう? 何かご要望は?」

 

「そうね……これといった物はないけれど、敢えて言うなら、魚の気分かしら」

 

「ならそれで行こうか」

 

 夏休みはもうすぐ終わりなのだ、今は将来のことよりもこの時間を楽しむべきである。学生にはそれが何よりも重要だと俺は思う。

 

 だって夏休みだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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