ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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いよいよゴリラが暴れまわる体育祭編となります。果たして全校生徒全員をチベットスナギツネにできるのか、そこが重要だ。


体育祭編
体育祭準備


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は小学校も中学校も一度たりとも学校に通ったことのない人間だったので、この高校に来てから初の夏休みを体験することになり、中々に充実した日々を過ごせたと思う。学生の夏休みがこんなに楽しいものだとは思っていなかった。

 

 使える時間が沢山あるのは良いことだ。友達と遊びに行ったり、女の子とデートしたり、部屋で仏像を彫ったりと、凄く高校生らしい時間だったと思う。

 

 青春的な日々を謳歌する中で、この学校特有の険しい試験への対策なども話し合えた。清隆と軽井沢さんを交えての作戦会議である。

 

 特に清隆とは櫛田さん関係で色々と深く話し合ったと思う。それに加えて俺はプライベートポイントを稼ぐ為に頑張る方針もあった。

 

 師匠モードで描いた絵がドン引きするくらいの値段で売れたのだ。二匹目のドジョウではないが、同じように外貨を稼いでそれをポイントに変換できないかと考えた訳だ。

 

 とりあえず美術部を通して各種の展覧会や品評会に作品でも出せるかと考えたり、或いはネットオークションに出したりなど出来ないものかと試したのだ。

 

 この学校は私的な物品のやり取りは禁止されているのでもし外に何らかの物を出す場合は必ず学校側を経由しなければならない。葛城の話を聞いて私的な文章や物品の移動が禁止されているのはわかっていたので、学校経由の出品ならどうかと思った次第である。

 

 そう、私的なやり取りではなく、学校を通しての「出品」だ。因みに校則ではそれを禁止する項目はない。

 

 まぁ、このやり取りを悪用して俺が手紙なんかを外に出した場合は、ほぼ確実に罰則が加えられる上に、校則に新しい文章が増えると思われるが、そんなつもりは欠片もないので何も問題はない。

 

 とりあえず、企業が主催している広告コンペであったり、ネットオークションや各地の品評会にでも作った作品を出してみるつもりだ。もちろん学校を通してね。

 

 あの絵のようにドン引きするような値段でなくても良いからちゃんと売れればいいな。夏休みの間に作った小さめの仏像だったりは師匠モードで作ったから自信作なんだ。清隆曰く迫力があるらしいから結果が楽しみである。一万とか二万とかでも全然構わないしね。

 

 重要なのはいかに外貨を稼げるかである。その為の実験という意味もあった。

 

 そんな、金策と遊びと作戦会議で夏休みは終わったことになる。充実していたと胸を張って言えた。

 

 そして夏休み明け、学生あるあるの一つである憂鬱な気分を引き下げながら登校することになる。

 

 これもまた高校生あるあるなのだろう。やりたいことリストが一つ埋まった瞬間であった。

 

「今日から改めて授業が始まったわけだが、これから一カ月体育祭に向けて体育の授業が増えることになる」

 

 新学期初日、教室全体を見渡しながら茶柱先生がそう言った。入学したばかりの頃よりは少しだけ表情が穏やかになったようにも思える。やはり担任しているクラスがBクラスになったのが嬉しいのだろうか?

 

 茶柱先生の説明では体育祭が迫っているらしい。俺は人生で初の体育祭なのでどうしてもテンションが上がってしまう。

 

 なにせ小学校も中学校も一度も行ってないからな。当然ながら体育祭だって未経験である。噂によるとパン食い競走なる苛烈な競技があるとかないとか。

 

「先生、これも特別試験の一つなんですか?」

 

「どう受け取るのもお前たちの自由だ。どちらにせよ各クラスに大きな影響を与えることには違いはないがな」

 

 平田の質問に茶柱先生はそう返す。つまりこの体育祭でもポイントは変動するということだ。

 

 須藤を筆頭に運動をできる面子は楽しそうにしているが、幸村などの運動苦手組はげんなりとしている。

 

 生徒たちが持っているスマホにはこれから行われる体育祭に向けての時間割であったり、詳しい競技やルールなどが記載された文章が送られていた。

 

 ざっと目を通すと、体育祭というよりはスポーツテストのような感じである。応援合戦だったり組体操とかはないんだな。

 

「既に目を通して気づいている者もいるだろうが。全学年で紅組と白組に分ける。今回はBクラスとCクラスが白組、DクラスとAクラスが紅組となる」

 

 一之瀬さんクラスと共闘することになる。龍園と組まされるよりはずっと良いな。敵なら敵で面倒だけど。

 

 スマホに送られてきた細かなルールや競技などを確認していき、何かしら抜け穴が無いかと探している間にも茶柱先生の話は進んで行く。

 

 競技やルールに関しては特別目新しいものはなく、何をどうしようが覆しようのないものであった。つまりは純粋な団結力や身体能力が物を言う試験な訳である。

 

 無人島であったり、船上試験の時のように、最初の一撃で勝負を終わらせるようなこともできない。各競技でしっかりと成績を残してポイントを積み上げていくのが大事になるだろう。

 

 もし何か搦め手を繰り出せるのだとすれば、悪質な嫌がらせか競技の参加表を入手しての情報戦くらいのものだろうか、どちらも来るとわかっていれば致命傷になることもない。

 

 だがやるべきことはこれまでの特別試験と変わらない。どう勝つかではなくどう終わらせるかを意識するだけである。戦術的思考より戦略的な思考で動くとしよう。

 

 清隆と堀北さんからも意見を聞いて、細かい所を決めて行かないとな。

 

 

「さてどうしよっか?」

 

 

 茶柱先生の説明が終り、次の時間割は教室での授業ではなく各学年やクラスとの顔合わせの時間となり、俺たちは体育館へと移動することになる。

 

 その途中で俺は相棒である清隆と堀北さんにそう尋ねた。これからのことを固める為に。

 

「このクラスには笹凪くんと須藤くんがいる。それ以外にも運動能力のある生徒がいるから、戦力的に不足している訳ではないわね。運動が出来ない人もいるけれど、それは他のクラスだって同じ筈だもの、決定的とも言える差はないわ」

 

 体育館へ続く廊下を歩きながら堀北さんはそう言った。

 

「そうだね、寧ろ有利なくらいなんじゃないかな」

 

「えぇ、普通にやれば最下位になることは無いと思う……だからこそ、警戒しなければならないのは、搦め手の類でしょうね」

 

「お、冷静だね堀北さん。具体的には何を考えてるの?」

 

「妨害行為や、或いは参加表を入手しての情報戦かしら……ごめんなさい、すぐに思いつくのはそれくらいになるわね」

 

「俺も似たようなもんだよ。そしてその二つは来るとわかっていればそこまで面倒なことでもないしね」

 

「他クラスは、参加表を入手しようとするかしら?」

 

「そりゃするだろうね。龍園なんて絶対にそうする」

 

「彼ならそうするでしょうね」

 

 堀北さんも龍園の危険性はわかっているらしい。侮って下に見るよりはずっと良い対応だ。無人島と船上試験を乗り越えて彼女には余裕というか、ゆとりのような物が生まれたと思う。やはり財布に余裕があると心が穏やかになるということだろう。

 

「ただそう言った搦め手を警戒することもそうだけど、そこだけに注意するのも駄目ね。それぞれの競技でしっかりと成果を積み上げる、結局はそれが一番大事よ」

 

「あぁ、王道な攻略法だ。これ以上の作戦はない」

 

 師匠もよく壁とか突き破って最短距離を進んでいたからな。結局はそれが一番早いのだ。

 

 迷路を突破したい? なら真っすぐ壁を突き破った方が早いだろうとは師匠の言葉だった。

 

「まぁ龍園を警戒しつつも、しっかり体育祭に向けて調整していくしかないね」

 

「そうね、一先ずはクラスメイトたちの運動能力を細かく把握しましょう」

 

 どうやら堀北さんもやる気十分らしい。顔を引き締めながら体育館に入っていった。

 

「清隆、龍園と櫛田さんに関してなんだけど」

 

「そこら辺に関しては心配いらない、こっちで色々動いておく。お前は正面に集中してくれ。競技もそうだがクラスの士気もだ……実際、楽勝だろ?」

 

「わからないよ、もしかしたら凄い生徒が潜んでいるかもしれない」

 

「隠れゴリラか……いたとしても、お前ほど人間を辞めているような相手はいない筈だ」

 

 ここ最近、清隆は俺を人間扱いしなくなった気がするな、ゴリラだから楽勝だろうと雑に片付けるのだ。誠に遺憾である。

 

 まぁ、突っ込んで暴れろという指示は悪くない。俺はそれが一番強いだろうからな。

 

「問題なのは櫛田さんなんだよねぇ」

 

「暫くは泳がせておけばいい。スパイだとわかっているんだ、利用するくらいで行こう。ある程度、言い逃れできない状況を作って首輪を付ければそれで終わりだ」

 

 スパイだとわかってるスパイなんて何も怖くはないか、櫛田さんから齎される情報で逆に龍園を翻弄するとしよう。

 

 そんな大雑把な結論を出してから俺と清隆も体育館の中へと入っていった。

 

 一つの学年だけでなく全校生徒が集まるのは珍しいこととも言えるだろう。それこそ入学式や終業式くらいのものである。流石にこれだけ集まると賑やかである。

 

 一応、この学校の生徒は全員頭に入っている。入学してすぐに観察したからな。それでも改めて変化や見落としが無いかと観察しておくとするか。

 

 もしかしたら、とんでもなく擬態の上手いゴリラがいるかもしれない。坂柳さんだって脆そうに見えて、実はあの杖は仕込み刀で抜刀術の使い手だという可能性を俺はまだ捨てていない。

 

 油断した瞬間、バッサリと首を落とそうとしてくる坂柳さん……ありえなくはないか?

 

 体育館ではその坂柳さんの姿もある。椅子に座って取り巻きの生徒に囲まれているのが見えた。

 

「やぁ坂柳さん、調子はどう?」

 

 せっかくなので声をかける。坂柳さんの近くにいた生徒の何人かは「あ、ゴリラだ」といった視線を向けて来る辺り、俺の学年全体での評価はいよいよ固まりつつあるのかもしれない。

 

「天武くん。お久しぶりですね。調子は悪くありませんよ」

 

 カフェで色々と話し合ってチェスをしている時に見せた好戦的な顔ではなく、どこか儚げで深窓の令嬢であるかのような雰囲気を纏う坂柳さんは、俺を見てクスクスと笑った。

 

「ただ少し憂鬱ではありますね。私はこういった催しは楽しめないので」

 

 今も椅子に座っている坂柳さん、確かに彼女の体幹は観察していて不安になるほどである。演技じゃなければだけど。

 

 坂柳さん、実は抜刀術の達人説を捨てきれない内は、杖の射程に入るのは止めておこう。

 

「そちらは自信のほどはどうでしょうか?」

 

「あるよ、MVPを目指すつもりだ」

 

「ふふ、では応援しておきましょう」

 

 そんな会話を終えて離れると、どうした訳か俺はクラスメイトたちから囲まれてしまう。

 

「笹凪ィ!! お前いつのまにあんな可愛い子とお近づきになったんだよ!?」

 

「何だかんだで女っ気がないから油断してたけど、ちゃっかりしやがって!! どうすりゃいいんだ!?」

 

 池と山内が特に大きな反応を見せた。

 

 確かに坂柳さんは可愛らしく美しい人だけど、下手したら抜刀術の達人だぞ? 油断だけはできない相手だ。

 

「落ち着け、ちょっとした縁があっただけだよ」

 

「どうやったらそんな縁ができるのかがわからねぇよ」

 

「山内、努力あるのみだ」

 

「そ、そうなのか」

 

 雑な助言を伝えながら男子たちを遠ざけていると、今度は女性陣が、というか堀北さんが視線鋭く近づいてきてこう言った。

 

 どうした訳か、苛立ちが見える。

 

「名前で呼ばれていたわね……」

 

「え? あぁ、そう言えばそうだったね。別に嫌でもないから全然構わないさ」

 

 確かに坂柳さんは俺を名前で呼んでいたな。あまりにも自然にそう言っていたので、普通に納得して受け入れていた。

 

「そう……なら――」

 

 納得いってないような、少しの苛立ちがあるような、そんな表情で堀北さんが考え込む。そして最終的には何やら意を決して口を開こうとした瞬間に、俺たちに声を掛けられる。

 

「笹凪くん、堀北さん、体育祭は一緒の組みたいだし、宜しくね!!」

 

 声の主は一之瀬さんである。彼女の背後にはクラスメイトたちの姿がある。こちらを観察している神崎もいるな。

 

「あぁ一之瀬さん、宜しくね」

 

「うん、笹凪くんが一緒ならすっごく頼りになるよ。須藤くんもいるしちょっとそっちのクラスは戦力過剰だよね」

 

「個人だけの成績ではどうしようもできない部分もあるよ。なんにせよ一緒に頑張ろう」

 

「もちろん。堀北さんも宜しくね」

 

「えぇ……こちらこそ」

 

 こちらの組は大きな問題も無く進められるだろう。一之瀬さんクラスに関しては団結力や協調性は文句なしだから何も問題は無い。信頼と言う点では学年一だろう。

 

 これで組む相手が龍園クラスであれば疑心暗鬼と不信感で最悪なことになる。味方よりは敵として接した方がまだ楽である。

 

 実際に、それを証明するかのように、葛城と龍園は向かい合いながら険悪な様子となっているのが確認できた。

 

「協力するつもりはないと?」

 

「おいおい、こっちは善意で言ってやってるんだぜ? どうせ最初から信頼なんてねえんだ、勝手にやった方がまだ楽だろうよ」

 

「これは我々だけの問題ではない、上級生も巻き込む話だ」

 

「はッ、興味がねえな」

 

 そう言って龍園は葛城だけでなく上級生たちすら鼻で笑って見せる。何人かは眉を顰めていた……すいません、先輩方、これが彼の基本的な対応なんです。

 

「あっちの組は大変そうだね」

 

「そうだね一之瀬さん、こっちはそんな心配はなさそうだからそこは安心だよ」

 

 ただあちらは総合力で一番のAクラスが固まっているからな、総合優勝は簡単ではないかもしれない。

 

「とりあえず団体競技について色々話そうか? 合同の練習とかもしたいしさ」

 

「うん、その辺はしっかり合わせておきたいね」

 

 こっちの組には懸念事項が幾つかあるけれど、裏方は清隆が引き受けてくれているので、俺は正面戦闘に集中するとしよう。

 

 まずやるべきなのはクラスメイトたちの実力の細かな把握だろうな。体育の授業である程度は把握しているのだが、完璧ではない。

 

 一カ月後の本番に向けて体育の授業もあるので時間は幾らでもあるだろう。それに加えて士気も高めていかなければならないな。

 

 師匠モードになって全員を戦士に導くとしよう。体力面はどうしようもないが、心構えだけは一カ月もあればどうにかできるか?

 

「人を戦士にするにはどうすれば良いんだろうな……ここはやはり師匠を参考にして」

 

「やめておけ、常識的な行動を心がけるんだ」

 

 ぼそりと呟いた言葉を拾い上げたのは清隆である。どうした訳か彼は俺を疑うような目で見て来る。

 

「もちろん、俺は真面目にやるつもりだよ。いつだってそうしてきた」

 

「……ほどほど、という言葉を忘れるんじゃないぞ」

 

 清隆の疑い深い視線がいつまでも消えない。俺はただ体育祭の勝利する為にクラスメイトに心構えを教えたいだけなのに。

 

 清隆から雑な扱いを受けていることは、少しだけ不満であった。

 

 こいつは非常識なゴリラだから雑に扱っても大丈夫だろうという考えがあるように思えるのだ。別に俺は無敵の存在でもないというのに。

 

 このままだとかなりの無茶ぶりをいつかされるかもしれない……まぁ別にホワイトルームを潰せとか言われるくらいなら構わないんだが。清隆曰く、随伴歩兵付きの戦車を動かせるような権力や戦力があるような相手でもないらしいしね。それくらいなら問題はない。

 

 ただそれ以上となるとなかなか難しい。友達の頼みなので可能な限り引き受けたくはあるんだが……まぁその時に考えよう。

 

 なんであれ今は体育祭だ、俺にとっては人生初の学校行事、勝利することもそうだが楽しみたいという気持ちも大きい。

 

 楽しむことは重要だ、師匠もそう言ってた。

 

 

 

 

 

 

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