ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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お昼休憩 1

 

 

 

 

 

 

 

 二百メートル走でも世界記録を更新したことで、もう数えるのもばからしくなる程に経験した沈黙をグラウンドに残すことになる。

 

 結果は上々、クラスの士気は最高、相手クラスの士気は最悪、結果も残している、文句の付けようがない。

 

 龍園の作戦も完全に空振りに終わってしまったな。騎馬戦で堀北をだいぶ強引に叩き潰そうとしたみたいだが、彼女はそれを正面から叩き潰して勝利をもぎ取った。

 

 小賢しさが通じるのは一定のラインまで、本当の強さにはどうしたって届きはしない。

 

 真面目に勉強しろ、真面目に鍛えろ、真面目に考えろ、その上で小賢しさ発揮して初めてそれが策略となるのだ。どこまで行ってもお前のそれは嫌がらせの範疇でしかなく、戦略とは言えないのだ。

 

 或いはそこを踏まえた上で挫折や絶望を知り、這い上がることが出来たのならば、彼は一つ成長するのかもしれない。

 

 俺が思い描く未来にお前が必要だと、いつかそう言わせてほしいものだ。

 

 まぁ龍園のことは今は良い、それよりもようやくお昼休憩である。どうやら学校側が気を利かせて高級弁当を生徒たちに用意しているようだが、俺はせっかくの体育祭とのことなので自分でお弁当を用意した。

 

「笹凪くん、何で重箱?」

 

 松下さんが俺が広げた重箱を覗き込んでそう言った。どうやら興味があるらしい。

 

「ほら、体育祭と言えば、こうして家で作ったお弁当を広げるのが楽しみの一つらしいからね。気合を入れたんだよ」

 

「あ、口調が穏やかになってる。良かった話しやすくなって」

 

 そこに関しては本当にすまない。お昼休憩に入ってようやく師匠モードが落ち着いたんだ。

 

「一人で作ったんだ、結構なサイズの重箱だけど食べきれるの?」

 

「いや、だいぶ調子に乗ったみたいでね。ちょっと持て余してる、まぁ清隆辺りに幾らか押し付けるよ」

 

「あぁ、綾小路くんかぁ……今更だけど仲いいよね」

 

 松下さんの視線が学校から配布されたお茶のペットボトルを受け取ってテントに戻って来る清隆に向けられる。

 

 少しだけ彼を探るような視線をしていた。彼女なりに思う所があるのかもしれない。観察眼に優れた人なのだろう。

 

「今まで綾小路くんの印象ってあんまり強く無かったんだよね。あんなに運動できるって知らなかったかな」

 

「清隆は運動も勉強も結構出来るよ」

 

「そう? 勉強の方もあんまり印象に残ってないけど」

 

「入学したばかりの頃はそうでもなかったけど、暇な時は俺が勉強を見てるからね」

 

「あ、そうなんだ」

 

 そんな感じのシナリオを清隆と考えている。俺を隠れ蓑にしながらある程度クラスへの影響力や評価を残す方針だ。清隆もテストで高得点を記録しても頻繁に俺に勉強を見て貰っているからと言い訳ができる訳だ。

 

 多分、次のテスト辺りでは七十五点前後で調整してくることだろう。トップクラスではないにしても好成績な感じである。クラスメイトからの印象はまた変わるかも知れないな。

 

 立ち位置としては、クラスのトップ陣から色々命令されて動き回るような感じだろうか。目立ち過ぎず、しかしある程度存在感もある、そんな雰囲気だ。

 

 後、単純にこのまま清隆を放置すると、俺に何もかも丸投げしてフェードアウトしそうな雰囲気があるので、絶対に逃がせない。

 

 一人だけ楽はさせないからな、そこだけは絶対に譲れはしない。

 

「待たせたな」

 

「大丈夫だよ。お茶、持ってきてくれてありがとう」

 

「飯を用意して貰ったからな、これくらいはしたい……随分と豪勢だな」

 

 俺の分のお茶を持ってきてくれた清隆は広げられた重箱を眺めて感心する。前から思ってたけど彼は食への拘りと言うか、好奇心が強いように思える。

 

 よくチェスで負けた罰ゲームで晩飯をごちそうするのだが、その時は決まって食べたことのない料理を要求してくる。

 

 食を楽しみ、しっかりと癒しとしているのだ。もしかしたらホワイトルームは食事が不味かったのかもしれない。そう思うと俺から見たその場所の評価は地を這う程に低くなってしまうな、食は生活の基本だというのに。

 

 栄養だけを取れればそれで良しではないのだ。いずれ説教しに行って、ついでに責任者の何人かと話し合わないと。

 

「しかし良かったのか? 学校側も弁当を用意してくれてるけど」

 

「よくある弁当だ、つまらない」

 

 どんな判断基準なんだそれは……まぁ食に好奇心を向けるのは良い事かな。下手したら清隆は必要な栄養さえ取れるならカロリーメイトとゼリーだけで済ましてもおかしくはないから。

 

「松下さんも良ければお好きなものどうぞ」

 

「そう? ならお言葉に甘えて唐揚げ貰っちゃおうかな」

 

「出汁から拘ったから自信作だ、是非味わってくれ」

 

「あ、私も貰って良い?」

 

 佐藤さんもこっちに合流してくる。彼女は学校側が用意した弁当を貰っていたが、こっちの弁当にも興味があるらしい。

 

「どうぞどうぞ、持って行ってくれ」

 

「因みにおすすめとかあるの?」

 

「全部、と言いたいところだが、どうせなら出汁巻き卵をおすすめしようじゃないか」

 

「それじゃあいただきま~す……うまぁ~」

 

 どうやらお口に合ったらしい。喜んでもらえたようで何よりである。

 

「うわ、重箱だ、これって笹凪くんが作ったの?」

 

「笹凪くん、料理上手なんだね。意外、でもないのかな?」

 

 軽井沢さんと平田のコンビも合流してくる、いつの間にか大所帯で昼飯となったな。

 

 そこに須藤と池と山内も加わって、Bクラスのテントはとても穏やかな雰囲気となっていった。

 

 なにせ結果が伴っているからな、やはり心の余裕があるのだろう。良い事だと思う。

 

「ほら堀北さんも、一緒にお昼食べようよ」

 

「えぇ、お邪魔するわね」

 

 そしてそんな集団から少し離れた位置で、しかしこちらをチラチラと窺っていた堀北さんも軽井沢さんに声をかけられてやって来る。

 

「さぁ堀北さんもどうぞ、おすすめは出汁巻き卵となっております」

 

 全部自信作なんだけどね、それでも卵料理は抜群の完成度だと思っている。師匠の好物だったからよく作っていたんだ。

 

「美味しいわね……」

 

 出汁巻き卵を食べた堀北さんはほっこりとした顔になる。入学当初よりもだいぶ表情豊かになった気がするな。

 

 接し易くなったとも言える、最近ではよくクラスメイトと話していたり相談を受けているのも見るようになったからな。

 

「わぁ、凄いね、笹凪くんが作ったんだ?」

 

「良ければどうぞ」

 

 こうしてクラスメイトと交流していると櫛田さんを筆頭に、井之頭さんや王さんもやって来る。

 

 体育祭が始まった頃は、参加表の変更で顔を青ざめさせていた彼女ではあるが、今は気を取り直したのかいつもの愛らしい笑顔である。

 

「ふふ、じゃあ貰っちゃおうかな」

 

 俺と堀北さんの間に座って重箱に箸を伸ばして、彼女は唐揚げを小皿に移した。

 

 堀北さんの視線が少し鋭くなったような気もするが、今はことを荒立てるつもりはないのか何も言うことはないらしい。

 

「笹凪くん、凄い活躍だったね。もうなんか凄すぎて上手く褒められないよ」

 

「ん、ありがとう、そう言って貰えるだけで気分が良くなるよ。誰かにそう思って貰えるのは嬉しいものだ」

 

「午後の二人三脚も笹凪くんとなら安心だね」

 

「あぁ、俺と櫛田さんなら絶対に一位を取れるよ」

 

 そう、男女混合二人三脚で俺は櫛田さんとペアを組んでいる。最初は堀北さんと組む予定だったのだが、須藤が不器用かつ遠回りにごねた結果こうなった。

 

 須藤と堀北さんペアでも問題なくトップを狙えるだろうし、それは俺と櫛田さんペアでも変わらない。どっちでも良いのならば須藤の願いを聞いても良いだろうとのことでこんな形となる。

 

 まぁ、堀北さんはかなり不機嫌になったのだが、櫛田さんはニコニコとした笑顔で受け流していた。

 

 今も、俺と堀北さんの間にわざわざ座った辺り、二人の確執というか距離感のような物が僅かに透けて見える。

 

 同じ中学出身とのことで、色々とあったのはわかる。

 

 過去に興味がないと言っても、それで安心できるような人でもないということだろう。軽井沢さんとは別方向の不安障害を持っている人だろうからな。

 

 いつか彼女と本当の意味でわかりあえる日が来るのだろうか? 今はまだよくわからなかった。

 

「一緒に頑張ろうね」

 

 耳元に唇を寄せて、囁くようにそう伝えて来る櫛田さん……堀北さんが怖いのでそういうドキッとする行為は止めて欲しい。今もめっちゃ睨まれてる。

 

 ただ悲しきかな男の性、こういうことされるとやる気が出て来るのだ、単純なものであった。

 

「堀北さんも凄い大活躍だったよね、きっと須藤くんとの二人三脚でも一位になれるね。二人って相性ばっちりだもん」

 

「……そうね」

 

「もちろん私と笹凪くんも一位を目指すよ、ふふ、頑張ろうね」

 

 どうしてだろうか、二人の間に火花が飛び散っているようにも見える。

 

 半月ほど前だろうか、櫛田さんと一緒に各クラスの偵察という形のご機嫌取りに付き合って以降、こういう対応が増えたと思う。

 

 俺も師匠モードでだいぶハイになっていた時に、櫛田さんに滅茶苦茶失礼なことをつい口走ってしまったので、謝罪の意味も込めて色々とその時にごちそうしたのだが、こうして普通に接してくれているので少しは機嫌が直ったらしい。

 

 ただまぁ堀北さんと、ことあるごとに不穏になるのは止めて欲しいけどね。

 

 そんなこんなでお昼ご飯を皆で楽しみことになる。俺の隣に陣取った櫛田さんがやけに気安く接してくるのは少し気になったけど……堀北さんも凄く不機嫌になるしで、周りは普通に楽しんでいるのに俺の周囲だけやけに不穏な気配であった。

 

 あまり堀北さんに睨まれたくないので早めに退散するとしよう。クラスメイトの協力もあって空になった重箱を片付けてから顔を洗いに行くと告げて皆と距離を取る。

 

 櫛田さんの考えと言うか、俺との距離感がイマイチわからないな。嫌われている感じではないが、全幅の信頼を寄せられている訳でもない。彼女が常に意識しているのは観察している限りでは堀北さんの方であった。

 

 そして堀北さんもまた櫛田さんを妙に意識している。単純な嫌悪ではなくてもっと複雑な感情だ。俺はそれの名前をまだ知らない、困ったことに。

 

 今この場であの二人をどうこうすることも出来ない以上は、時間経過で変化があるのを期待するしかないな。

 

 宣言通り水道で顔を洗ってからそんな雑な結論を出すと、俺は視界の中にとある女子生徒を発見する。

 

「佐倉さん、お昼はもう食べたのかい?」

 

「さ、笹凪くんッ!? ご、ごめんなさい、まだ食べてなくて」

 

 その人物とは佐倉さんである。学校から配布されたお弁当とお茶を持ってクラスメイトたちがいるテントから離れた位置で右往左往しているので少し目立っていた。

 

「謝る必要はない、俺は怒ってもいないし急かしてもいないからね……俺はそんなに怖いかい?」

 

「い、今は、そこまでは……でも、ちょっと怖い時もあって……ごめんなさい」

 

「そうだね、俺もそこは反省したいと思ってる。体育祭に興奮していたみたいなんだ。けれど決して君を脅したい訳でも怖がらせたい訳でもない、それが本音だよ」

 

 できるだけ穏やかな声色でそう伝えると、彼女から少しづつだが緊張が薄れていくのがわかった。

 

「う、うん、優しい人だって……ちゃんと知ってるから」

 

「そう思ってくれてとても嬉しいよ。それよりも清隆に何か用事があったんじゃないのかい?」

 

「そ、そそそ、そんなことは……」

 

「そうなのかい? なんだか声を掛けたそうにしていたけど」

 

「それは、その……うぅ」

 

 もしかしたら清隆と一緒にお昼ご飯を食べたかったのかもしれない。だとしたら悪いことをしたかもしれないな。彼女も誘えばよかった。

 

「お~い、清隆、悪いんだがこっちに来てくれるか?」

 

「さ、笹凪くんッ!?」

 

 ただそれは今からでも遅くはない、清隆も空になった重箱を名残惜しそうに眺めていたからな、大半をクラスメイトに奪われてしまったのでもしかしたら物足りないかもしれない。

 

 俺は清隆が来る前に学校側からお弁当を受け取ってそれを佐倉さんの手に渡した。これで二つの弁当を彼女が持つことになる。

 

「どうした?」

 

「いや、佐倉さんが二つ貰ったみたいで持て余してるみたいなんだ。手伝ってあげてよ」

 

「まぁまだ腹は膨れていないから構わないが……どう間違えれば弁当を二つ貰うんだ?」

 

「お腹が減ってて二つくらい行けると思ったみたいだよ。でも冷静になったら無理そうってなったらしい」

 

「そうか……わかった、片方は俺が引き受けよう」

 

「お茶でも飲んでゆっくりすると良いよ」

 

 佐倉さんはこれで良いだろう。緊張で固くなっているようだが清隆のエスコートに任せておけば問題は無い。

 

 グラウンドに端っこで腰を下ろして食事を始める二人から離れていくとしよう。俺は邪魔者だからな。

 

 師匠曰く、気遣いは大事。

 

「テンテン、気遣い上手なんだ」

 

 そんな俺に声をかけてきたのはこれまであまり接することが無かった人物である。佐倉さんと同じくクラスメイトの輪から離れた位置で、ベンチに腰かける美人さんは長谷部さんである。

 

 彼女と接する機会はこれまであまり無かった。朝に下駄箱で会ったりすれば軽い挨拶するくらいだ。

 

 そして彼女自身もあまりクラスメイトと親しく接するタイプの人間ではない。別にそれは入学当初の堀北さんみたいな感じという訳ではなく、単純に人付き合いを浅くしているのが理由である。

 

 挨拶すれば返してくれるし、必要があれば話もする、けれど一定以上の距離は踏み込んで来ないまま一線を意識する。そんな人であった。

 

 だから、そんな彼女から変なあだ名で呼ばれたり、こうして向こうから声をかけられるのは意外でもあると言えるだろう。

 

「まぁ気遣いは大事って教えられて来たからね」

 

「何それ~、アレだけスパルタで男子たちを苛めてた人の言葉とは思えないんだけど」

 

「ん、アレは本当に悪かったと思ってる、ちょっと悪酔いしてたみたいだ……」

 

 ただし必要なことであったとは確信している。反省は幾らでもするけど闘争心を植え付ける必要があったんだ。そんな言い訳をさせて欲しい。

 

 長谷部さんは俺がした男子チームへのスパルタ特訓を思い出したのか、笑みを浮かべている。

 

「それより、気になってたんだけど、テンテンって言うのは俺のあだ名かい?」

 

「うん、天武くんだから、テンテン……それともゴリゴリの方が良い?」

 

「テンテンでお願いします。さすがにゴリゴリは嫌かな」

 

「じゃあテンテンだ、はい決定」

 

「テンテンかぁ……あだ名で呼ばれるのってなんか変な感じがするね」

 

「今までそういうことは無かったんだ?」

 

「あぁ、一度もない。だからなんて言うか……ん、新鮮な感じがする、案外こういうのも悪くないと思えるよ」

 

「気に入って貰えたようで何より、名付けた方も悪い気にならないしさ」

 

 そこで長谷部さんはまた笑った。俺が思っていた以上に表情豊かな人なのかもしれない。

 

「しかし少し意外だな、君はあまりそういった接し方をしてこない人だと思っていたからさ」

 

「まぁ基本ぼっちだしね。今も一人寂しくお昼休憩だし」

 

「今は俺がいるじゃないか? もうこっちはお昼を済ませたけど、お茶くらいなら付き合おう」

 

「え? あ~……まぁ良いか、テンテンってあんまりそういう感じはしないしね」

 

「そういう感じ?」

 

「なんていうのかな~……清潔感というか、いやらしさ? 後は平田くんみたいにいつも女の子に囲まれてるタイプでもないしね」

 

「紳士でありたいとは思っているよ」

 

「あはは、じゃあ座りなよ」

 

 そう言って長谷部さんは自分が腰かけているベンチの隣をポンポンと叩く。

 

「ではお言葉に甘えて」

 

 まさか長谷部さんとこうしてベンチでお茶を飲むことになるとは、予想外の展開である。人との距離感に敏感な人だからな、長谷部さんは。

 

「訊きたいんだけど、さっきのあの二人ってどんな感じなの?」

 

「さぁ、親しくしている関係だと思うよ、今の所はね」

 

「へぇ~、今の所はね~」

 

「クラスメイトの恋愛事情なんかに興味があるのかい?」

 

「そりゃ気になるよ、他人の恋愛事情は自分には何の関係もないから面白く見られるしね~。後は色々なゴシップとかランキングとかさ」

 

「ランキング? あぁ、学校の掲示板でやってるアレか、イケメンランキングとか可愛い子ランキングとか、確かに眺めてる分には面白いのかもしれないな」

 

「でしょ、因みにテンテンは色々なランキングに名前が挙がってたりするよ~……絶対に人を殺したことがある部門とか、バグキャラ部門とかさ」

 

 何その部門、前半は俺も知っているが、後半のバグキャラ部門は初耳である。

 

「変わり種だと女装が似合いそうランキングとか、人間辞めてるランキングでも一位だね」

 

「嫌なランキングだね全く、もう少し好意的な感じの部門で一位になりたいもんだ」

 

「でも私は何だかんだで納得しちゃうんだよね~。無人島とか体育祭であれだけ暴れまわってたら、そりゃ人間辞めてるって思われるって」

 

 その評価は師匠にこそ相応しいんだけどな。

 

 そこからは誰と誰が付き合ってるとか、もしかしたら既に隠れカップルが学年で誕生しているのではないかとか、そんな話を長谷部さんとお茶を飲みながら続けることになる。

 

 俺が知らない生徒の関係性であったり、恋模様などを知れたのは面白かったと思う。同級生とこういった話をして時間を潰すのも悪くないのかもしれないな、これはこれで高校生っぽさを満喫できているのかもしれない。

 

 ある程度お話して満足したのか、長谷部さんはベンチから立ち上がって軽く背伸びをした。

 

「んん~……話聞いてくれてありがと、テンテンは聞き上手だね」

 

「有意義な時間を提供できたのならこちらも嬉しいよ。普段、あまり話すことのない人との会話は新鮮な感じで楽しいからね」

 

「偶には良いかもね~、こういうのもさ」

 

「でも意外でもあったよ。君はクラスメイトと一線を引いていると思っていたから」

 

「まぁね~、色々と面倒なことも多いし、一人の方が気が楽っていうのもあるから……ただまぁ、最近のクラスの雰囲気とか悪くないし、ちょっとくらいはね。それにテンテンって、私的には、あ~……」

 

 そこで彼女は言い淀んでしまう。どう言葉にすべきか悩んでいる様子だ。

 

「何だかんだで話しやすいしね……時々凄く怖くなるけど、今はそうでもないし」

 

「なら、気が向いたらまた声をかけてくれ、長谷部さんとのお茶なら大歓迎だ」

 

「なにそれ、もしかして口説かれてるの?」

 

「他意はないよ、男なら皆そう思うってだけさ」

 

「う~ん、下心が見えないのは凄いね」

 

「純粋にそう思っているだけだからな」

 

 長谷部さんはクスッと笑ってくれた。どうやら気持ち悪いとは思われなかったらしい。

 

 満足したとばかりに去っていく彼女を見送って、俺もまたベンチから立ち上がって当てもなくブラつき始めた。まだ午後の部が開始されるまで時間はありそうなので、色々と見て回るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

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