ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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ふと思った。私は月城さんや綾小路パパを法も立場も権力も無視して堂々とぶん殴れるような……実際にそれをやれるだけの説得力のあるキャラクターが欲しくて天武くんを作ったんだと。


蛇のような男

 

 

 

 

 

 

 

 幸村グループでは彼主導の勉強会が行われる。長谷部さんと三宅は主に苦手分野を重点的に、佐倉さんは全体的なテコ入れを行うのが基本方針のようだ。

 

 綾小路はその補佐として色々と支援しているらしい。採点の手伝いであったり幸村が作った問題用紙のコピーだったりと、まさに補佐であった。

 

 後は彼自身も勉強をする姿勢を見せている。ただ平均で七十点を超える成績だったのでそこまで不安視はされていないのだろう。幸村は主に三人への助言を行っている。

 

 俺は俺で口を挟まずこのグループの流れに一緒になって勉強を行う。上手く回っているようなので空気を壊さないように幸村を立てる形だ。そもそも俺はマンネリ防止要員なので講師役としてここに来ている訳ではない。

 

 毎日日替わりで色々な所に顔を出しており、このグループの勉強会に参加するのもこれで二度目なので流れもわかっている。やり易くあった。

 

「うん、次はこっちの問題を進めてくれ」

 

「ちょっと休憩しない?」

 

「これが終ったら、一度休憩を挟むつもりだ」

 

 三宅と長谷部が解いた問題を受け取った幸村は、代わりに自分のノートから切り取った紙を差し出した。そこにも苦手分野を中心に問題が作られている。

 

「ゆ、幸村くん、私も終わったよ……」

 

「こっちもだ」

 

「採点をするから、佐倉と綾小路はその間にこっちを頼む」

 

 そして佐倉さんと清隆にも新しい問題集が渡される。

 

「幸村、採点を手伝おう」

 

「すまん、頼めるか。こっちは良いから綾小路と佐倉の採点を任せる」

 

 一人で採点も大変だろうと手伝いを申し出ると、佐倉さんと清隆の問題集がこっちに回って来る。

 

 佐倉さんは全体的に得点が低く器用貧乏といった感じの成績で、清隆はその上位互換といった感じだ。どちらも苦手分野や得意分野がなく、どの教科も平均的な点数となっていた。違いがあるとすれば佐倉さんは平均で60点に届かないくらいで、清隆は80点に届かないくらいに調整しているようだ。

 

 正解と間違いをそれぞれ分けていって、間違った部分には注訳を入れて佐倉さんと清隆に返却していく。

 

「そう言えば、笹凪は綾小路の勉強をよく見ているんだったな?」

 

 長谷部さんと三宅が渡して来た問題集の採点をしている幸村がそんなことを尋ねて来てきた。

 

 確かに、そういう設定で進めているのは間違いない。テストで高得点を取っても俺に勉強を見て貰ったからと言い訳ができる。

 

 そして俺としても、清隆の存在感をある程度まで高めてフェードアウトを防ぐという思惑もあった。一人だけ楽させる訳にはいかない。絶対にだ。

 

「あぁ、ここ最近はその成果が出てきたみたいだね」

 

「確かに綾小路は赤点ラインから遠い位置にいるな。そう言った印象がなかったから少し意外だった。他の三人と違って手がかからなくて助かる」

 

「なにそれ、私たちがバカみたいに聞こえるんですけどぉ」

 

「長谷部、事実だろ」

 

「うぅ……ごめんなさい」

 

「い、いや、そこまでは……すまない、別に貶める為の発言ではなかったんだ。少なくとも三人のやる気は伝わっている」

 

 実際にそのやる気の成果は出ているのだろう。聞いた話では徐々に地力が養われているらしい。

 

 文句を言いながらも長谷部さんに責めるつもりはないらしい。ノートに記されていた問題は次々解いていき、わからない所はしっかりと質問してくるのだ。普段の授業態度も悪い訳ではないので模範的な生徒とさえ言えるだろう。

 

 三宅も似たようなものだ、佐倉さんだって授業態度が悪い訳ではない。そもそもこの三人は四月頃の三馬鹿たちのように騒ぎまわっていたタイプでもないので、根っこの部分が真面目だと思われた。危機感もやる気もある。

 

 ある程度の勉強会を進めていき、一先ず幸村が提示した問題の全てを終えて、間違った箇所の注意と解説を終えてから、宣言通り休憩となった。

 

「んん~、ようやく終わったぁ」

 

「いや、終わってない。休憩を挟んでから笹凪のテストだ」

 

「えぇ~、完全に解散する気分だったんだけど」

 

「すまないね長谷部さん。もう少しだけ付き合って欲しい。代わりにここはごちそうしようじゃないか」

 

「本当? なら頑張ろうかな。テンテンは人の扱いが上手いね~」

 

 現金な人である。可愛いので許す。

 

「笹凪、あんまり甘やかすもんじゃないぞ。コイツすぐに調子に乗る」

 

 三宅の中での長谷部さんの評価はどうなっているのだろうか? そしてどうして俺に呆れたような視線を向けて来るんだ。

 

「まぁ構わないさ。予定に無かったテストを差し込んで悪かったとも思っているんだ。せめてものお詫びだよ。それにこれくらいでやる気を出して貰えるのなら安いものさ……皆も、遠慮せずに注文してくれ」

 

 これくらいでご機嫌になってくれるのなら安いものである。それに急なテストを差し込んだことを悪いと思っているのも事実なので、ここは俺が奢ろう。

 

「すまない。ではごちそうになる」

 

「悪いな」

 

「あ、ありがとう……笹凪くん」

 

「太っ腹だな」

 

 幸村も三宅も佐倉さんも、そして清隆もこちらの配慮を受け入れてくれたのでありがたい。頑なに遠慮されるよりもずっとやり易かった。

 

 それぞれカフェのメニューから好みの物を頼んで休憩に入っていく。師匠曰く緩急は大切なので休む時は全力で休むものである。

 

 そして休憩に入ってすぐだ、長谷部さんがニヤニヤとした顔をして楽しそうにこんな質問をしてきたのは。

 

「それで、テンテンは堀北さんと付き合ったりしてんの?」

 

「いや、そういった関係ではないね」

 

「綾小路くんも即答だったけど、テンテンも即答だね」

 

「清隆も同じ質問を受けたのかい?」

 

「あぁ、ありえないと即答したけどな」

 

「二人とも手慣れた模範解答って感じが怪しいんだよね」

 

 そう言えば長谷部さんは体育祭の昼休憩で話した時も、クラスメイトや同学年の生徒たちの恋愛話やゴシップなんかを話していたっけな。こういった恋愛話が好きなのかもしれない。

 

「でもあれだよね、よく一緒にいるんだし、意識とかはしてるんじゃないの?」

 

「ん、堀北さんは魅力的な女性だと思うよ」

 

「お、おぉ~……こっちから訊いておいてなんだけど、堂々とそう言われるとなんだか恥ずかしくなっちゃうね。もう告白みたいになってるけど」

 

「いやいや、そんなつもりは欠片もないよ。彼女が魅力的な人物なのは客観的な事実で、その他大勢のように俺もまた同じ認識を持っているというだけさ」

 

「客観的な意見であって、恋愛感情ではないってことか……苦しい言い訳だね」

 

「おいおい、まるで刑事か検察官に追及されてる気分になってくるから勘弁して欲しい」

 

「あくまで白を切ると、裁判の時に印象が悪くなっちゃうなこれは」

 

「ふふ、本当に何もないよ」

 

 恋を知りたいとは思うけど、恋人が欲しいと思ったことはないんだよね。誰かと交際することに関しても、その人物を好んでいると言うよりは、恋という分野を知りたいと言う側面が強い。

 

 そう考えると、恋愛というものを学習する必要があると言っていた清隆と、何も変わらないのかもしれないな。

 

「そういう長谷部さんはどうなんだい? 誰かと交際したいとか考えないのかな?」

 

「私はパスかな、色々と面倒だし、理想も高いからね」

 

「なるほど、難しいものだ」

 

 注文した甘めの飲み物を飲んでそんなことを言う長谷部さん。理想が高いのならば平田辺りはおすすめなのだが、既に軽井沢さんと付き合っているから駄目だと判断したのだろうか?

 

「三宅や幸村はどうなんだ? そういった相手はいないのかな?」

 

「今の所は考えたこともない。部活も忙しいしな」

 

「そもそもこの学校の生徒にそんな余裕があるのか? クラス闘争もあって日々の課題や勉強もあるんだ、簡単なことじゃないだろう」

 

「佐倉さんはどうかな?」

 

「そ、そういうのは、ちょっと……考えられない、かな……今は」

 

 そう言いながらも視線はチラチラと隣の席に座っている清隆に向いている辺り、きっと意識はしているんだろうな。

 

 清隆は相変わらず無表情である。しかし佐藤さんであったり佐倉さんであったりと、俺は彼がモテることを知っている。

 

 あれ、もしかしてこの中で一番リア充なのは清隆なのでは?

 

「まぁ幸村の言う通り、この学校だとなかなか難しいのかもしれないね」

 

「あ、でも私が聞いた話だと、最近カップルが誕生したって……Dクラスの吉本くんっているじゃない? みやっちわかるよね?」

 

「吉本巧節のことか? 弓道部の」

 

「そうそう。その吉本くん。二年生の先輩と付き合い始めたんだって。知ってた?」

 

「知らなかった。ただ最近妙に帰るのが早いと思ってた。そういうことか」

 

 そう言えば三宅も弓道部だったな。

 

「年上と交際か、それは凄いね」

 

「将来結婚するって息巻いてるみたいだよ。男って単純馬鹿よね~」

 

「確かに単純だ。まぁ気持ちはわからなくはないけど」

 

 そして羨ましい話である。俺も恋が知りたいのに。誰か恋人になってくれる人はいないだろうか?

 

「誰が誰と付き合おうと関係ないし将来を語るのも自由だが、そろそろ休憩は終わりにして笹凪のテストを進めるぞ。時間は限られているんだからな」

 

「おっと、そうだった、それじゃあ皆に配ろうかな」

 

 鞄の中から作成したテスト様子を取り出して皆の前に配っていく。

 

「一応、本番のテストを意識して時間制限を設けよう。別にお喋りはしても良いけど答えを教え合ったり助言するのは駄目って感じかな」

 

「あ、その前におかわり取って来ていいかな?」

 

「構わないよ」

 

「また砂糖マシマシか? あんな檄甘よく飲むよな」

 

「おや、三宅は甘いの駄目なのかい?」

 

「あぁ、舌が受け付けない……笹凪も随分と甘党みたいだな」

 

「子供舌なんだろうね、苦いものや辛いものがどうにも合わないみたいだ」

 

「テンテンもおかわりいる? ついでだし貰ってくるけど」

 

「ありがとう長谷部さん、それなら俺のも砂糖マシマシでお願いしようかな」

 

 カフェの席から立ち上がった長谷部さんにプラスチックカップを渡すと、彼女はすぐにおかわりを取りに歩き出す。

 

 しかしその途中で足元に置いていた鞄に躓いてしまい、体勢を僅かに崩して手に持っていたカップを落としてしまうのだった。

 

「あ、ごめ――」

 

 床を転がったカップはそのまま近くを通っていた男の爪先にぶつかってしまう。それだけならば別に怒るようなことでもなく、長谷部さんも素直に謝罪の言葉を口にしようとするのだが、それよりも早くその生徒はカップを踏みつぶしてしまう。

 

 おい、俺のカップがぺちゃんこになってしまったじゃないか。

 

「何よあんたら……」

 

「やぁ、龍園、あまり紳士的とは言えない行動だね。こういう時はカップを拾って笑顔で気にしてないと言うものだよ」

 

 いつものニヤニヤ顔と、もうすぐ冬なのに胸元が覗く奇抜なファッションの彼は、寒くないのだろうかと思ってしまう。

 

「ちょっと、なんでカップ踏んじゃった訳? 事故じゃないよね?」

 

 流石に長谷部さんも苛立ちを露わにしていた。とても自然な反応だろう。

 

「足元に転がって来たから捨てたと思ったんだよ。手間を省く為に踏んでやったのさ」

 

「俺のカップなんだけど……」

 

「ゴリラがなに人間のフリして茶なんざ飲んでやがる。まるで似合ってねえぞ、バナナでも食っとけ」

 

 彼の悪態も日に日に鋭さが増しているような気がする。俺は友人にそんなことを言われると傷つく普通の男子高校生であると龍園は知るべきだと思う。

 

「おい龍園。前々から言いたかったけどね、そういう態度はいい加減やめろよ」

 

「あ? お前は誰に向かって口利いてんだ?」

 

 三宅の正当な主張に龍園の後ろにいた取り巻きの一人である石崎が苛立ったように反応した。

 

 石崎の態度はともかく、三宅の態度は少し意外である。怯む訳でもなく怯える訳でもなく強く睨みつけており、どこかの漫画に出て来る不良キャラのようになってしまっている。

 

「やめろ石崎、こんなところで暴力沙汰でも起こすつもりか」

 

 睨み合う二人の間に入るのは龍園だ。そんな配慮が出来るのなら最初からやって欲しかった。

 

「感情だけで先走る馬鹿は嫌いじゃないが、今は大人しくしてろ」

 

「はい……」

 

 流石に龍園もこんな人目と監視カメラのあるカフェのど真ん中で殴り合いを始めるつもりは無いのだろう。そこまで行けば狂犬ではなく只の愚か者である。それがわからないような男でもない。

 

 龍園のどこか蛇を思わせる瞳がカフェの席に座ったままの俺たちを順繰りに見つめて来る。何を思ってどんな印象を抱いているのかわからないが、向けられる側にとっては気分の良いものではないのは間違いない。

 

 三宅、長谷部さん、佐倉さんへと視線が移ろい、最終的には幸村と清隆に固定された……どうして俺だけ無視するのかな?

 

「贈り物は届いたか?」

 

「一体何の話だ……」

 

 彼が言いたいのは清隆に送ったメールのことだろう。何をどう推理してその結果になったのかはわからないが、龍園の中では幸村と清隆が容疑者となっているらしい。

 

 そして現に清隆が容疑者の中に入っているのだから、やはり思考力や推理力があるということだ。

 

 また注意深く観測するような瞳がこちらを俯瞰するように向けられた。ピリピリとした雰囲気が俺たちの間で広がっていき、それを恐ろしく感じたのか佐倉さんは清隆の背中にそっと身を隠して、三宅は長谷部さんを庇うかのように前のめりになっていく。

 

 そんな緊張感が店内全体に伝播したのか、怖がってこちらを見て来る生徒たちも見える。

 

「どうだ、ひより。何か引っかかることはないか?」

 

 そのまま緊張が高まっていくかと思われたが、空気を変えたのは龍園の背後から姿を現した一人の女子生徒であった。

 

 小柄で、愛らしく、どこか儚げな姿は……正直なことを言わせて貰えば荒々しく刺々しい龍園とはとても不似合であり、水と油とさえ思えるほどに距離があるように思える。

 

 確か名前は椎名ひよりさん。龍園クラスにいる秀才であった。

 

「どうでしょう。現時点ではなんとも申し上げられません。どちらも印象の薄い顔で、すぐ忘れてしまいそうです」

 

 龍園と合わないという評価は前言撤回しよう。儚げな容姿と反して発する言葉は挑発的である。

 

 しかし悪気があるような雰囲気ではなく、本音っぽいのがまた何とも言えない。人によっては煽られていると思うこともあるだろう。

 

「人の顔は覚えにくいです。皆同じに見えてしまいますので……幸村さん、綾小路さん、高円寺さん、ゴリラさん、後はどなただったでしょうか」

 

「平田です、平田」

 

 石崎の言葉に椎名さんは「あぁ」と独特の柔らかな口調で何かを思い出す。

 

「そうでした。平田さんでした。どうしてこう、顔と名前は憶え難いんでしょうか」

 

 恐ろしいことに、ここから観察している限りでは、椎名さんの発言に悪気はない。煽る訳でもなく挑発する訳でもなく、本心でそう言っているらしい。

 

「流石に高円寺とゴリラのことだけは覚えたようだな」

 

「高円寺さんも、ゴリラさんも、独特の存在感なので覚えやすかったですね」

 

「あ~……椎名さん」

 

「はい、どうしましたゴリラさん?」

 

「そのゴリラさんという呼び方だが、止めにしてもらえないだろうか? 俺は笹凪天武と言います、どうかよろしくお願いします」

 

「あぁ……ゴリラさんはゴリラさんでは無かったんですね。こちらのクラスでは誰もがそう呼ぶので、それが本名なのかと」

 

「え、俺はそっちのクラスでは名前で呼ばれることって無いのか……」

 

「龍園くんがよくゴリラさんと呼んでいますから。毎日毎日、ゴリラがどうのと、どうゴリラなのかと、まるで恋でもしているかのようによく口にされています」

 

「龍園……そんなに俺を意識するなんて、君は俺のことが好きだったのか。けれどすまない、俺は女の子の方が好きなんだ。後ろにいる石崎か山田と仲良くして欲しい」

 

「殺すぞゴリラがッ!! ひより、お前も下らんことを話すんじゃねぇ!!」

 

「まぁまぁそう慌てるもんじゃないよ。愛とは千差万別で多種多様だ、決して恥ずかしがることはないんだ」

 

「そうですね。古くから本の題材にもなっております……人類の永遠のテーマとさえ言えますね」

 

「椎名さんは本をよく読むのかな?」

 

「はい、古今東西様々なジャンルを、笹凪くんはどうでしょうか?」

 

「俺も本は読むよ、と言っても哲学書が主で物語はあんまりなんだけど」

 

 因みに、図書室には100年ほど前に師匠が出版した本の現代翻訳版があったりする。師匠は何歳なんだと思わなくもないけど、人類を完全に超越した肉体を持つ人だからな、何も不思議ではない、うん。

 

「哲学書ですか、私も幾つか手を出したことがありますね。特に印象に残ったのは図書室で発見した星を思うでしょうか。独特の意思や世界観を持った方の言葉でして、不思議と心に入り込んで来る本でした」

 

 おぉ、椎名さんも師匠の本を読んだことがあるのか、その時点で俺の高評価が天元突破することになる。

 

「その本は俺も知ってるからよくわかるよ、言葉の一つ一つが染み入るように響くんだ」

 

「はい、あまり有名な方の作品ではありませんが、だからこそ隠れた名作に出会えたように思えて嬉しかったと記憶しています」

 

 この子、良い子ッ!! 師匠の作品をそんなに高評価してくれるとか、完璧じゃないか。もう俺の中では天使みたいな位置になってるぞ。

 

 龍園クラスなんて止めてこっちに来ない?

 

「いい加減にしろひより!! いつまで話を脱線させるつもりだ」

 

 椎名さんと師匠の本で意気投合していると突然に龍園が怒りだした。彼はそういう所を直した方が良いと思う。

 

「あ、龍園、まだいたのか、もう帰っても良いよ」

 

「お前はもう黙ってろゴリラ」

 

「そもそも君はどういった用件でここに来たんだい?」

 

「はッ、何もねえよ、今日はただの挨拶だからな……近い内に改めて会おうってな」

 

「どういう意味かな?」

 

 そんな問いかけを無視して彼は取り巻きたちと共にカフェを去っていく、牽制と挑発と様子見に来たということだろう。

 

 近々、動きを見せそうだな。彼の瞳は獲物を狙う蛇のそれである。

 

 その獲物側である清隆は、食らいつかせる気が満々なのが質が悪い。肉食獣が兎のフリをしているようなものなのだから、彼の努力と執念が報われないと思う。

 

「こちらでよろしければどうぞ」

 

 龍園と一緒に帰ったかと思っていた椎名さんは、すぐに戻って来て俺に二つのカップを渡してくる。

 

「砂糖は多めに入れておきました」

 

「ありがとう椎名さん、配慮に感謝するよ」

 

「お気になさらず、龍園くんが悪いことは間違いないので」

 

「ついでに訊くけど、結局龍園の目的は何だったんだい?」

 

「何でもそちらのクラスにいる隠れた策士を探すとか、実は私も彼の考えを完全には理解していないんです」

 

 そう言って椎名さんはぺこりと頭を下げてからカフェを去っていく。

 

 荒々しい者が多い印象の龍園クラスとは思えない女子である。この場に連れて来たということは龍園も彼女の能力を一定以上は評価しているということなのだろう。

 

 暴力こそ至高の力だと断言するような男ではあるが、別に知識や知力を軽視している訳ではないということだ。

 

 今にして思えば、暴力的な印象ばかりだった龍園クラスの戦力を完全に理解して把握している訳でもないと言える。

 

 穏やかながらも怜悧な印象を与える椎名さんを見て、俺は今一度、警戒を強める必要があると認識するのだった。

 

 

 

 

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