ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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グループ結成

 

 

 

 

 

 

「それにしても、さっき龍園たちが言っていた隠れた策士って奴、どこまで本気なんだろうな?」

 

 勉強会も終わって今は寮への帰路を進んでいる。その途中で三宅が先程乱入して来た龍園たちの目的を怪しむように口にした。

 

 カフェで龍園とその手下たち、そして椎名さんがこっちに絡んで来た理由の一番は、こちらのクラスにいるとされる策士が誰なのか調べる為であったらしい。

 

 三宅もそうだが、幸村や長谷部さん佐倉さんも同じような表情を浮かべている。龍園たちの行動が理解できないと言った感じだ。

 

「龍園の行動に意味を求めるのもどうかと思うがな」

 

 幸村の龍園に対する評価はとても低いようだ。自然な反応ではあるのだろう。

 

「策士って言うとあれでしょ? 頭の良い人な訳だし、堀北さんとか?」

 

「確かに堀北ならありえるのかもしれないが、別に隠れてはいないだろ。笹凪ともよく話してるしな、そうだろ?」

 

 三宅の言葉に俺は頷きを返す。

 

「そうだな、その通りだ。鈴音さんは別に隠れてはいないな。わざわざ調べる必要なんてない」

 

「お、名前呼びしてる、やっぱり怪しいなぁ」

 

「そこは今、引っかかる所じゃないよ長谷部さん……まぁ話を戻すと、龍園の妄想とか、思い込みとかかもしれないね」

 

「実際にどうなんだ? 笹凪、お前には心当たりがあるんじゃないのか?」

 

 眼鏡のブリッジを上げながら、こちらに観察するような目を向けて来る幸村に、少しおちゃらけたように肩をすくめて見せる。何も知らないとばかりに。

 

「さっぱりだ。そんな相手がいるんならもっと楽が出来てると思うけどね。基本的にこれまでの特別試験では鈴音さんと平田と櫛田さん辺りと相談して、最終的には俺が判断を下していた、それだって綱渡りな部分もあったんだ。寧ろそんな都合の良い相手がいるんなら紹介して欲しいもんだよ」

 

「そう言えば無人島でも船上試験でも、その面子で話し合ったんだったな」

 

「あぁ、色々と参考になる意見もくれるから、とても助かってるよ」

 

 彼は納得したのかレンズの向こうにある瞳から怪訝の色を消し去る。

 

「話し合って出した結論があのスポット独占作戦なのか……」

 

「でもとても効率的だっただろ?」

 

「そうだな、今にして思えば俺の中にある常識や価値観が崩壊した最初の一歩だった」

 

 そして今度は眼鏡のレンズの向こう側にある瞳に諦めの色が混ざる。カルチャーショックを与えてしまったらしい。

 

 それに良い具合に話も横に脱線してくれた。また隠れた策士問題に戻らないようにする為に、帰路の途中にあったコンビニを指し示す。

 

「悪い、ちょっとコンビニ寄っても良いかな?」

 

「良いぞ、俺も買いたいものがある」

 

「あ、私も、皆も行こうよ」

 

「子供だな」

 

 結局、俺たちはそのコンビニでそれぞれ甘味を買うことになった。入学したばかりの頃に清隆と買い食いした時のことを思い出すな。

 

「入学した頃を思い出すな、こうしていると」

 

「須藤がゴミ箱を蹴り飛ばして掃除した日のことか? 確かにな……」

 

「あの時はそのアイスをお礼に渡したんだったか どうやら気に入ったみたいだな」

 

「あぁ、美味いからな」

 

 清隆は買い物を済ませてコンビニの外壁に背中を預けながらあの時と同じアイスを食べている。そう言えば彼の部屋の冷蔵庫にも同じ物が入っていた。期間限定商品から無事にレギュラー入りを果たしたということだろう。

 

「綾小路くんは、何味を買ったの?」

 

 コンビニから長谷部さんと三宅と幸村の三人と一緒に出て来た佐倉さんは、清隆が食べているアイスに興味を示す。

 

「美味いぞ、おすすめだ」

 

「うん……今度、食べてみるね」

 

 緊張しながらも以前よりずっと自然に清隆に喋りかけられるようになっているらしい。勉強会で共にいる時間が多かった影響だろうか、これも良い傾向なのだろう。

 

「ちょっと肌寒くなってきた時に食べるアイスも美味しいよね」

 

「美味いよね、流石にこれ以上寒くなるとちょっと厳しいけど」

 

「でもねテンテン、真冬でも炬燵に入りながら食べるアイスは悪くないよ」

 

「ほう、なるほど。確かに反論の余地がない」

 

 師匠もよく炬燵に入ってミカンとか食べてたな。ついでに俺は酒の肴をよく作らされていた。

 

 そんなアイス談義に花を咲かしている俺たちとは対照的に、幸村はアイスのパッケージを眺めながら難しい顔をしているのが印象に残る。

 

「保存料と着色料のオンパレードだな」

 

「そんなこと気にしてたら、何も食えないだろ」

 

「食べる物には拘りたいんだ、そもそもコンビニは単価が高い」

 

 真っ青な色をしたアイスを睨む幸村と、そんな彼を呆れたように眺める三宅、この二人も勉強会を通じて気安い関係になったらしい。

 

「もしかしてゆきむーって原価厨?」

 

「ずっと気になっていたんだが、ゆきむーってなんだよ」

 

「幸村くんだからゆきむー、天武くんだからテンテン、三宅くんだからみやっち、それから綾小路くんだからあやのん。佐倉さんは……う~ん、サクサク?」

 

「そう言えば、長谷部さんはあだ名で呼びたがるよね」

 

 俺もテンテンと初めて呼ばれた時は驚いたものだ。そんな呼ばれ方をしたのは初めてだったからくすぐったい気持ちにもなった。

 

「まぁね、仲良くなりたいって思ったら、そういうのも悪くないかなって……あ~、でも、あやのんとサクサクはイマイチ合わないかな」

 

 俺はそこで清隆と佐倉さんを眺める……あやのんとサクサクか、うん、あまり似合わないな。いや、こっちのテンテンも大差はないんだろうけど。

 

「あ、あの、あだ名もいいけど、できれば名前で、呼んでほしいかな……」

 

「あ、じゃあ愛理で良いかな?」

 

「オレもあやのんよりは名前が良いぞ」

 

「いやいや、あやのんはあやのんでしょ……それかきよぽんかなぁ、うん、こっちの方が合ってるかも」

 

「名前という選択肢はないのか……」

 

 少し困惑した様子の清隆に、俺は笑いかけた。

 

「良いじゃないかきよぽん、なんか可愛らしい響きでさ」

 

「そういうものか? テンテン程じゃないと思うけどな」

 

 確かにテンテンというあだ名も可愛らしい響きだと思う。まぁ俺は嫌な訳ではないので嬉しかったりするのだが。

 

「私があだ名で呼ぶのはさ、悪くないかもって思った訳、こういう関係も」

 

「あだ名で呼ぶ関係がか?」

 

「いやさ、私もみやっちも、結構一人でやってきた系じゃない?」

 

「ま……そうだな。否定はしない」

 

「いざこうして集まってみたら思いのほか居心地が良かったて言うか。この面子でグループでも作れたらって思った。皆はどう?」

 

 少し意外な提案であった。長谷部さんはあまりなれ合いというか、群れることを好まない人だと思っていたからだ。体育祭で話した時も皆から離れた位置で一人で昼食を取っていたしね。

 

 ただこうして誰かとの関わりを求めることは、きっといい傾向なのだろう。

 

「良いんじゃないかな、ここにいる人たちは変に気を使わなくて楽だしね」

 

「あぁ、笹凪の言う通りだ。というか自分でも驚くほどこのグループに馴染んでる気はする。須藤たちとは馬が合わない。平田は少し別枠って感じだしな。基本女子に囲まれてるし」

 

「俺は平田や須藤とも別枠なのかな?」

 

 そんな質問に三宅は少しだけ考え込み、こんな言葉を返す。

 

「別枠というかは、別次元って感じだな」

 

「あはは、なるほどね」

 

「別に嫌ってる訳じゃない、というか、尊敬すらしてる、色々とクラスの為に頑張ってくれているからな」

 

「そう素直に言われると、くすぐったいものがあるね」

 

 全員が納得して頷く評価であった。それでも批判的な感じではないのは嬉しいことである。

 

「ゆきむーはどう? テンテンとみやっちはこう言ってるけど」

 

「元々、お前たちの勉強を見る為に集まったグループだ。試験が終われば解散するのが自然だろう……だがまぁ、これからもテストや試験はあるだろうから、効率化の為に認めても構わない」

 

「幸村はツンデレという奴なのかな?」

 

「誰がツンデレだッ!?」

 

「男のツンデレって誰が得するんだか……でも、ありがと」

 

 次に長谷部さんの視線は佐倉さんと清隆に向かった。

 

「二人はどう?」

 

「私はッ……凄く、凄く嬉しいよ……憧れてたから、こういうの」

 

「でしょ? きよぽんは、仲良くしてるテンテンも一緒だし気楽なんじゃない?」

 

「オレも反対意見はない、クラスでも話すのは天武くらいだからな、ぶっちゃけこのグループに入らないと本格的に孤立するかもしれない……それに、ここなら気楽に接することができる」

 

 もしかして清隆は堀北さんと接することにプレッシャーでも感じていたのだろうか?

 

「なら決まりだね。テンテンは大丈夫? 堀北さんから恨まれたりしない?」

 

「俺と彼女は別に互いを束縛するような関係じゃないよ、もちろん恋人でもない。敢えて言うのなら同じ目的に向かって進む同士といった感じかな。鈴音さんは俺の交友にとやかく言う人じゃないし、そしてそれは俺も同様だ」

 

「そっか、じゃあこれで決まり。これから私たちはグループってことで」

 

「そうだね、清隆グループってことにしよう」

 

「なんでオレの名前で作るんだ?」

 

 そりゃ、フェードアウト阻止の為に少しでもクラス内での存在感を大きくしておきたいからだよ。全部こっちに丸投げして一人だけ楽することだけは絶対にダメだからな。

 

「いいじゃん、きよぽんグループ、可愛い感じでさ」

 

「異議なしだ。勝手に幸村グループと名乗られても迷惑だしな」

 

 俺と長谷部さん、そして幸村が賛成すれば三宅や佐倉さんも反対はしないだろう。

 

「ならこれからは堅苦しい名字は禁止にしようよ」

 

「禁止にするのは勝手だが、俺はみ、みやっちとか、テンテンとか、きよぽんとか呼べないぞ。恥ずかしい。それ以前に馬鹿みたいだろ」

 

「じゃあせめて下の名前ね。因みに私は波瑠加、呼びたいように呼んでくれていいよ。みやっちは下の名前はなんだっけ?」

 

「明人だ」

 

 幸村もあだ名ではなく名前呼びならば許容できるのだろう。暫く考えた後に納得したかのように頷いた。

 

「それならまぁ、明人だな、綾小路は清隆で、笹凪は天武だったよな?」

 

「俺はテンテンでも構わないよ」

 

「恥ずかしくて呼べる訳ないだろう」

 

「確かにね……幸村は輝彦だったかな?」

 

 清隆といい、輝彦といい、古風な名前がこのクラスには多いと思う。

 

「下の名前で呼ぶのは構わないが、輝彦と呼ぶのは止めてくれ」

 

「何か理由があるのかい?」

 

「つまらない意地だ、だが捨てきれないものでもある……輝彦というのは母親が付けた名前でな、色々と思う所があるんだ」

 

 幸村はそこで過日を思い出したかのように目を細める。しかしすぐに隠してしまう。

 

 誰にでもあることだが、彼もまた色々な何かを経験してここにいるということだろう。

 

「だから呼ぶのなら輝彦ではなく啓誠で頼む。こちらは父親が付けようとしてくれた名前だ」

 

「そうか、啓誠か、古風でカッコいいじゃないか」

 

「あぁ俺もそう思う」

 

 すると幸村は僅かに笑顔を浮かべて見せた。彼が笑った顔は初めて見たかもしれない。清隆の次くらいに珍しい表情かもしれないな。

 

「まぁ俺はあだ名で呼ぶのは流石に恥ずかしい。問題無いようならこれからは名前で呼ばせて貰おう。明人、清隆、波瑠加、愛理、天武だな」

 

 そう言えば俺を名前呼びしてくる人は思っているよりも少ないな。清隆と鈴音さん、そして櫛田さんくらいだ。

 

「はい、じゃあ次は愛理の番だね、頑張って」

 

「えッ、わ、私が?」

 

 波瑠加さんに背中を押されるように前にでた愛理さんは、視線を右往左往させながら最終的に清隆を見つめる形となる。

 

 そして清隆は小さく頷きだけを返す。頑張れと伝えるかのように。

 

「呼び捨ては流石に難しいよ……だ、だから、て、天武くん、明人くん、啓誠くん、波瑠加ちゃん……き、き、きよピヨッくん!?」

 

 鼻の伸びるあの人形の亜種だろうか? 最後の最後で躓いてしまったが、これでも初期の彼女を知っていると大きく進歩していることがわかる。

 

 俺なんて初めて話しかけた時は初手で謝罪だったからな、そう思うと名前呼びされるとか奇跡に近い。

 

 以前の彼女ならばここで顔を真っ赤にして俯いてしまったのだろう、けれど今は違う。愛理さんは大きく深呼吸をしてから小さく震えるようにこう言った。

 

「清隆くん」

 

「あぁ……えぇーっと、愛理、で良いんだよな?」

 

「は、はいッ」

 

 微笑ましい関係と言えるのかもしれない。波瑠加さんも満足そうな顔をしている。もしかしたら彼女は体育祭での二人の様子を見て気遣ったのかもしれないな。

 

「テンテンはどうするの? 呼び捨てにする?」

 

「いいや、俺は恩師から他者と接する時は敬意を払えと教えられている。特に女性にはね。だからさん付けが限界かな」

 

「ん~、まぁ愛理もそうだし、それでいっか」

 

「波瑠加さん、愛理さん……そして清隆に啓誠に明人だね。改めて宜しく頼むよ。なんだかこうして名前で呼ぶ相手が増えるというのは嬉しいものだね。俺はこの学校に来るまで友人がいなかったから、とても心地いい気分になるな」

 

「そうなのか? あまりイメージできないな、中学でも天武ならば慕う者も多かったと思うが」

 

 明人の言葉に俺は苦笑いと共に首を横に振る。

 

「いやいや、俺は中学は一度も通ったことがない、というか小学校も同じだ」

 

 そう伝えると全員が意外そうな顔をした。予想外の言葉であったらしい。

 

「テンテン、不登校だったの?」

 

「いや、不登校というか、そもそもただの一度も学校に行ったことがない。俺は恩師の下でずっと勉強を教えて貰っていたからな、その人の仕事を手伝いながら面倒を見て貰っていたんだ。別にこれはネガティブな意味じゃなくて、ホームスタディって奴だよ」

 

「なるほど、それでか……」

 

 啓誠が納得したかのように大きく頷いた。

 

「以前から疑問だったんだ。この学校は生徒の能力でクラス分けを行うが、運動も勉強もコミュニケーション能力もあるお前が、どうしてDクラスにいるのかとな……ずっとホームスタディだけで学校に行っていなかったのならば、そもそも判断基準すらも学校側に無かったのかもしれないな」

 

「かもしれないね。けれど俺はDクラスに振り分けられて良かったと思っているよ。最初は恩師に言われたからこの学校に来ただけだったが、こうしてクラスメイトと過ごす内に、大きな意味を持つようになったと思ってる」

 

 食べ終わったアイスの棒を、コンビニに併設されているゴミ箱に入れながら俺はこう言った。

 

「友人というものは、とても尊く大切なものだ」

 

 師匠からそう教えられて来た、そしてそれが常識なのだと信じていた。けれどそれはただの知識でしかなく、経験が伴わないのでどこか現実味も薄かったと思う。

 

 だがこうして今、経験が積み重なったことで知識と混ざり合い、そこに重みが加わることになった。

 

 師匠の命令だからここに来た、それまでの俺にとって学生というのは存在は知っていてもあまり身近に感じることはなかったのだと思う。それこそテレビに出ている芸能人と大差がない。

 

 高校生なんて遠い存在だと思っていたが、こうして過ごしていると悪い物ではなかった。

 

 まぁもう少し普通の高校であったらと、思わなくはないが。

 

 けれど、ここじゃなければ皆とは出会えなかったのだろう。縁とは面白いものだと考えるしかなかった。

 

 

 

 

 

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