ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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章と章の間にある小話となります。


小話集

 

 

 

 

 

 

 

「思っていたよりも稼いでいるらしい」

 

 

 

 

 

 私は今年で33歳になるどこにでもいるサラリーマンです。とあるグループ企業に就職してもう十年以上、幾人かの部下も持ってそれなりに大きな仕事にも関わるようになり、妻と子供にも恵まれてなかなかに幸福ですね。

 

 このまま順風満帆に進んで行けば文句無しなのですが、どうなるのかわからないのがこの時代、サラリーマンに過ぎない私にはいつだってリストラの文字が付きまとう。

 

 もちろん、そうならないようにしっかりと会社で功績を残していますが、未来なんて誰にもわからない。

 

 もうすぐ三人目の子供も産まれる予定なので、蓄えや余裕は多ければ多いほどに嬉しい。

 

 会社から頂いている給金に不満がある訳ではないのですが、それはこれ、これはこれ、株にでも手を出そうかと考えている時に、私にとある仕事が舞い込んできました。

 

 このグループ会社の御曹司である人物がいる学園、そこにマネーロンダリングした資金を注ぎ込むという仕事が。

 

 最初はもしかしたら怪しい仕事なのかと思いましたが、説明を受けて独自に調べている間に、特殊な学校を攻略する為の外部要因とのことでした。

 

 高円寺六助さんのご友人の口座にある資金を、学園にいる彼が作った作品の購入代金とすることで、ポイントに変換する……うん、道義的かどうかの議論はともかく、それが私の仕事ですね。

 

 報酬は、将来の不安を吹き飛ばす程度には貰えました。子供たちがしっかり大学に行って老後に備えられるくらいには。

 

 そして何より、高円寺六助さんが関わっているプロジェクトであることが大きい。もしかしたら将来的な出世に繋がるかもしれない。

 

 報酬と出世、首を縦に振るには十分ですね。

 

 私が任せられた仕事はマネーロンダリング用の会社を滞りなく運営すること、法的にも税金的にもツッコミ所のない……つまりは普通の適切な会社であるように振る舞うこと、そして笹凪天武という人物の口座にある資金を学園に注ぐこと、大雑把に言えばこの二つ。

 

 なので私は今日も会社を運営する。そしてその業務内容と報告を行っていた。

 

 そろそろ肌寒くなって来たこの季節、私は海の真ん中にある埋め立て地の上に立つ学園を眺めることができる海岸で、雇い主の到着を待っております。

 

「ふぅ……そろそろ寒くなってきたな」

 

 時刻は深夜一時、海岸で暫く待っていると海の方からバシャバシャといった音が聞こえて来て、リュックを背負った人物が姿を現しました。

 

 結構な距離がある学園からこの海岸まで泳いで来たそうです。ちょっと意味がわかりません。トライアスロン選手なんでしょうか?

 

 男のような、女のような、そして思わず視線を引きつけられてしまうような存在感を持つ彼が私の雇い主、笹凪天武さんですね。

 

「お疲れ様です。カイロと毛布を用意してありますよ」

 

「あぁ、ご配慮ありがとうございます」

 

「お気になさらず、それが社会人ですので」

 

 もうすぐ冬だというのに海を泳いで来る人です、寒いだろうと差し出したカイロと毛布を受け取って彼は穏やかに微笑みます。

 

 あの学園は外との連絡が出来ないので、業務の報告はいつもこうなってしまう。

 

 まるで監獄みたいな場所ですね、あそこは。私の子供たちには絶対に入学して欲しくありません。

 

「それでは今月の業務報告に移ります。まずは買い取った美術品ですが、海外との貿易に滑り込ませそうです。以前勤めていた会社での縁もあり貿易商との話も済ませました」

 

「へぇ、海外ですか。需要があるものなんですね」

 

「寧ろ国内よりも需要は大きいですね。特に仏像などは仏教圏内で大きな宗教的意味を持ちますので」

 

「なるほど」

 

「宗教的な意味を除いても美術品としてもしっかり価値があります。需要が頭打ちになっている国内よりかは捌き易いほどかと」

 

「利益が出るのは嬉しいですね」

 

 笹凪天武さんは思わず見とれてしまいそうな笑顔を見せました。体は異様に研ぎ澄まされた肉体を持っていますが首から上は美人なので偶にドキリとさせられるのは卑怯です。

 

「それと私からの提案なのですが、これから作られる作品に独自のロゴなどを残していただけないでしょうか?」

 

「ロゴですか?」

 

「えぇ、それかサインでも構いません。その人が作ったと証明する為の物ですね」

 

「何故そのようなことを?」

 

「将来的にはブランド化を目指しておりますので」

 

「ブランド化……なるほど、学生である俺にはない考えだ。やっぱり社会経験があると違うものですね」

 

「これでもサラリーマンですからね、会社に勤めているといつも看板を目にします。そしてそこにある信頼と実績も……そういったわかりやすい形から多くの印象を与えますので、それは美術品も変わりません。この人が作ったんだという信頼と印象は、そのままブランド価値にもなりますから」

 

「けれど無名の高校生の作品ですよ?」

 

「ですので、将来的なことを考えた提案となります。笹凪さんが将来どのような進路に進まれるかわかりませんが、ブランド化に成功すれば未来への可能性も広がります……もちろん、そうした方が当社の運営にも利益となりますので」

 

「わかりました、俺に会社経営や経済戦略はわかりませんが、俺よりも経験豊富な貴方がそう仰られるなら、こちらも当然の努力をしましょう。今度から隅っこの方に笹のマークでも彫っておきます」

 

「よろしくお願いします。では続いて、来月の品評会に関しての打ち合わせを行いましょう。あまり目立たないように小分けとのことでしたので、とりあえず一億で購入できるように調整したいと思います。購入した作品は大陸の方に持っていって上手く転がしましょう」

 

 もちろん、言葉にするほど簡単なことではないが、彼の作る作品には有無を言わせない迫力と引力がある。可能性は低くはない。

 

 資金のある富裕層をターゲットとして上手く転がさないといけません。投機目的で美術品の貿易を行うのがこの会社の表向きの理由なのですから。

 

 こうして私と彼の会議は続いていくことになる。簡単に稼げないような報酬を受け取っているので当然ながら全力を尽くす。

 

 私は別に天才でもなければ誰よりもすぐれた技能を持っている訳ではない。どこにでもいるサラリーマンでしかない。自分が特別な存在じゃないと理解したのはもうずっと前のことである。

 

 けれど社会に出てからこう思うようになった、世の中に一番必要なのは私のような存在なんだと。

 

 普通で平均な誰かが、この社会を円滑に進めているのだと。

 

 だから私は、サラリーマンとして今日を平穏に維持して明日へ贈る。

 

 妻よ、そして子供たちよ、父さんは今日も頑張っているぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「清隆強化計画?」

 

 

 

 

 

 

 オレの目の前にいる天武の雰囲気が切り替わる。思わず身震いするような鋭く冷たい雰囲気は、師匠モードと言うらしい。

 

 極限の鍛錬やトレーニングで鍛えぬいたアスリートや、チェスや将棋などの熟練したプロなどが到達することのできる、ある種の集中状態のことであるとオレなりに分析しているが、詳細は不明だ。

 

 重要なのはただ一つ、この状態になった天武は、手が付けられなくなる。

 

「行くぞ、清隆」

 

「あぁ」

 

 ゾッと、背中を震わせるような気配と共に天武が踏み込んで来た。こちらとの距離は五メートルほどはあった筈だが、こいつの瞬発力を持ってすれば無にも等しい距離だろう。

 

 それを証明するかのように、不吉を纏った掌は目の前にまで一瞬で迫る。

 

 いつかの手合わせと同じ、監視カメラの存在しない桜並木の中で、オレと天武は今日もまた鍛錬を行っていた。

 

 時刻は深夜、誰にも見られないであろう時間に、こうして模擬戦をするのは一度や二度じゃない。

 

 ホワイトルームを出てこの学園に来てからというもの、体はあの場所にいた時よりも鈍っているのは間違いない。なのでこうして定期的に天武とは手合わせをしている。

 

 一つは錆落としの為、もう一つは学習の為だ。

 

 迫る指先を紙一重で躱して……躱したつもりでいたが、頬を掠めてしまう。

 

 あの夜の手合わせの時の動きを参考にして、確実に避けられるように学習していたのだが、計算が合わないのは天武があの時よりも強くなったからだろう。

 

 もし仮に、オレを学習の天才だとするのなら、天武は成長の天才と言えるのかもしれない。

 

 こちらは反復と復習による知識と経験の集束、天武は生命体としての性能の純粋な向上、そんな風に思う。

 

 幾度か攻撃を防ぎ、逸らし、その度に体に広がる鈍い痛痒を無視しながら感覚を研ぎ澄ましていく。

 

 薄暗い桜並木の中で続く攻防はもう一時間ほど続いており、体中に流れる汗がその運動量を物語っているかのようだ。

 

 ホワイトルームで様々な相手と戦い経験と学習を蓄積してきたが、目の前にいる相手はその誰よりも強く巨大……だからこそ学習の意味がある。

 

 あそこにはもう俺に勝てる者はいなかったので、それはつまりあの場所で得られる成長と学習の限界であったと言うことに他ならない。

 

「あぁ、以前より反応が早くなった。予測も正確だ。前よりも強くなったね」

 

「そうか?」

 

「ん、君の学習速度は極めて高い。一度見れば基礎となり、二度見れば応用となり、三度見れば盤石、そんな印象を与えるね。模倣と反復と学習が高い位置で絡み合っている。ホワイトルームで育つと皆そうなるのかい?」

 

 確かにそれはオレの本質なのかもしれない。自分より優れた何かを真似て吸収していると言っても良いのだろう。

 

 今も天武の動きを再現しようとしているな。

 

「そうでもない」

 

「う~ん……違うのか。だとしたらホワイトルームが凄いんじゃなくて、単純に清隆が凄いだけになりそうなんだけど、そうなるとその場所が存在する意味が吹っ飛ぶな」

 

 そんな身も蓋も無いことを言われるとは、あそこにいる大人たちが聞いたら奥歯を噛み砕きそうな気がするな。

 

「まぁ俺が考えても仕方がないことか、今はより体を研ぎ澄まそう。清隆はスポンジみたいに吸収するから見ていて楽しいからね、成長期という奴かな」

 

「そういうお前も、前よりも動きが鋭くなっているな」

 

「かもしれないね、特にここ最近はよく研ぎ澄まされていると思うよ……夢が見つかったからかな」

 

「夢?」

 

「ん、人生に大事な一つが見つかったのさ……前にも龍園に同じことを言われたんだけど、その時はあまり響かなかったのに、櫛田さんに言われた時は不思議と納得できてしまった」

 

「よくわからないが、何か理由があるのか?」

 

「義務感からの行動じゃなくて、守りたいものが増えたからかもしれないね」

 

 穏やかな微笑みと共に迫る不吉を孕んだ攻撃を、同じ角度と体幹で迎え撃つ、その繰り返しの先に動きを学習していく。

 

 体幹を、呼吸を、視線を、体捌きを、吸収していく。

 

 オレが知る中で最も強い天武は、つまり最高の教材である。

 

 その動きや技術を知ることはいずれ来るであろうホワイトルームからの刺客や、近い内に行動を起こすであろう龍園との戦いにも役に立つだろう。

 

「しかし意外と言うか、俺が思っていたよりも清隆は努力家なんだね」

 

「ずっとぐうたらしてたら体も錆びるからな、それに近々龍園も動く、しっかり調整しておきたい」

 

「なるほど、けれど清隆は前に龍園相手なら絶対に負けないって言っていたじゃないか」

 

「あぁ。だが、それは備えない理由にはならないし、鍛えない理由にはならないだろ」

 

「ん、まさにその通りだ……鍛錬に終わりはない」

 

 だからオレと天武はまた模擬戦を始める。拳と拳を、足と足を、意思と意思をぶつけ合って体を研ぎ澄ましていく。

 

 ホワイトルームで百人と戦うよりも、天武一人と戦う方が学習と成長が早いな。

 

 あそこにいた頃よりも身体能力が向上しているのは間違いない。恐ろしい事である。

 

 繰り返すこと数十、薄暗い桜並木の中ではいつまでも戦いの音が鳴り止まなかった。

 

 その内、この学園に来るであろう後輩は、もしかしたら驚くかもしれない。ホワイトルームに残されているオレのデータよりも遥かに成長しているのだから。

 

 それでも根本的な身体能力の違いがあるので、オレが再現できるのはせいぜい20パーセントといった所だろう。だがそれで良い、天武の動きを20パーセント再現できるということは、つまり人類の99パーセントに勝利できることになるからだ。

 

 まだまだ成長できる。オレが限界だと思っていた所は、ただの中腹に過ぎなかったということだ。

 

 今度、天武がやっているトレーニングも取り入れてみるか、かなりアレな感じなので適応するには時間がかかるだろうが。学習と成長こそがオレの本質なので楽しみではある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とある防衛省職員のレポート」

 

 

 

 

 

 

「よく来たな、噂は色々と聞いている。優秀だとな」

 

「恐縮です」

 

 防衛省にある一室、部屋の前には「特殊戦力運用室」と書かれた名札が張られた場所である。

 

 ここはこの国の暗部に多少なりとも関わる者ならば一度は耳にしたことがあるだろう。防衛省職員として順調にキャリアを積み上げた私もまた同様である。

 

 特殊戦力運用室……通称、超人対策運用部門。

 

 そう聞くと多くの者が首を傾げるのかもしれない。私だってそれは同様なのだが、何の因果なのか私はここに配属されてしまった。

 

「では訊こう新人、この特殊戦力運用室の目的は?」

 

「はッ!! 国家、社会、経済、政府、国民に対して極めて甚大な被害を齎すとされる個人との交渉、及び抑止です」

 

「その通りだ。だが、どいつもこいつも指折りの人格破綻者だ、基本的には交渉など考えずに、金で釣って動いて貰うことになるだろう……注意点は?」

 

「敵対しない、協力関係を維持して、抑止とする」

 

「宜しい、それさえわかっていればな……とりあえずこの部署に来た新人には、前任者が残したレポートを読み込んで貰うことになる。お前もよく読んでから適切に処理しろ、一応は国家機密に分類される書類だから紛失はしてくれるな。中身を記憶した後、シュレッダーではなく燃やして処理するように」

 

「了解です」

 

 上司となる人物はそう言って分厚い書類の束を机の上に置いた。それを読み込むのが私の最初の仕事になるらしい。

 

 当然ながら私もキャリア官僚の一人、与えられた仕事は完璧にこなすものだ。超人集団の危険性をしっかりと把握しておこう。

 

 このレポートを製作したのは私の前任者、つまりは先輩に当たる人物だ。彼が何を思ってどう行動したのかも理解しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

「特殊戦力一号調査レポート」

 

 氏名▇▇▇▇▇▇ 年齢不明 性別 女性

 

 極めて超人的な肉体を持つ武術家であり、逮捕と拘束が物理的に不可能なので基本方針として敵対は推奨されない。仮にもし逮捕できたとしても一人を捕まえるのに一万人の警官や自衛官を死なせる訳にはいかないので、政府、防衛省職員は十分に対応に注意されたし。

 

 主な略歴として、明治維新の際にその存在を危険視した新政府軍が戦力を派遣した時に、約5000名の将校を単独で殺害しており、それ以降は明治政府との停戦条約が結ばれた。

 

 現在もその条約は日本政府に継続されているが、60年代に条約を変更して、テロ及び特殊犯罪などに協力を求める代わりに報酬を支払う形となる。

 

 前述に記載した通りほぼほぼ逮捕と拘束が物理的に不可能なので敵対は推奨されない。報酬契約という形での現状維持が最も安定的と判断する。特殊戦力案件が発生した場合は最優先で話を通すことを防衛省職員として推奨。

 

 好物はお酒、依頼を持っていく際には必ず用意すること。機嫌が良くなる。

 

 また、特殊戦力第一号が関わった案件に関しては別レポートを熟読すること。加えて特殊戦力七号に師事されており、そちらに関しては七号レポートの熟読を推奨。

 

 

 

 このレポートを読んでいる誰かに忠告を残しておこう。忘れるな、この人が一番怒らせたらダメな人だ。

 

 

 

 

 

 

「特殊戦力二号調査レポート」

 

 氏名▇▇▇▇▇ 年齢42歳 性別 男性

 

 学生時代、アーチェリーとクレー射撃でオリンピック金メダルを取得した後に、自衛隊特殊作戦群に入隊。狙撃手として輝かしい成果と功績を遺す。

 

 特殊な眼球と視力を有しており、観測手を必要とせずに数千メートル級の狙撃を百発百中で成功させることが可能。

 

 注意点として、自衛隊としての職務以外でも狙撃能力を運用している疑惑がある。また、独自の世界観と正義感を持っており、彼の中にある秩序に反する者を排除する傾向があることを留意。

 

 二号が関わったと推測される狙撃案件は判明しているだけで三十六件、反秩序的な存在のみに限定されていた。

 

 一号と異なり狙撃能力以外は常識的ではあるが、逮捕や拘束は推奨されない。一度でも距離を離されてしまえば彼が持つ弾丸の数だけの死傷者が出ると思われる。

 

 紆余曲折を経て現在は特殊戦力運用室の特別顧問として任務に就いている。一号と連絡が取れない場合は二号に案件を任すことを推奨。

 

 無類の煙草好きなので、外国の珍しい品を贈ると機嫌が良くなる。

 

 本人曰く、俺の狙撃は命中させるのではなく、当たったという未来に弾丸を追いつかせるとのこと……意味は不明。

 

 各種狙撃案件に関しては別レポートを熟読すること。

 

 

 

 

 

 

「特殊戦力三号レポート」

 

 氏名▇▇▇▇▇▇ 年齢17歳 性別男性

 

 極めて高度なハッキング技術を持ったハッカー。幼少期からその技術や才能は突出しており、独自にスマホアプリやネットウイルスを製作するなど問題行動も多かった。中央省への頻繁な無断アクセスや、中央銀行への不正侵入は確認されているだけでも127件あり、軍事技術や国家機密を頻繁に回覧していたと推測。

 

 エシュロン3へのアクセスを行うなどアメリカ政府からも危険視されており、重度危険因子として七号により拘束された後、司法取引で保釈されて現在はネット犯罪対策顧問として防衛省に勤務。

 

 露天風呂を覗く為に軍事衛星をハッキングするような人物であることから、24時間の監視を行うべし。また注意点として、他国から身柄を攫われる可能性もあるので監視と同時に護衛も随伴させることを公安より打診されている。

 

 何らかの方法で監視と護衛から逃れた場合は、特殊戦力案件として一号か二号に対処依頼することを推奨している。

 

 私見ではあるが頭の良い馬鹿といった感じの人物なので、煽てて調子に乗らせるぐらいが一番良い。

 

 彼が関わった各種案件は別資料にあるので熟読しておくこと。

 

 

 

 

 

 

 

「特殊戦力四号レポート」

 

 氏名▇▇▇▇▇ 年齢不明 性別不明

 

 端的に評価するのならば変装の達人。高度な変声技能や模倣技術を有しており、ある程度の情報を与えれば完全に他人に成りすますことができる。この変装は男女や年齢を問わない。

 

 その変装技術を使って他人に成りすまして生活することを続けており、外務省特殊職員として外交任務に就いている。

 

 現在は一号と七号案件によって逮捕された議員の影武者として大臣役を偽装しており、来年度に表向きは引退することでこの案件は秘密裏の処理とされる予定。

 

 個人的には好感の持てる人物であるが、変装の達人にそういった感情を向けることは間違っており、好意的な感情を向けられるように誘導されていると思われるので注意が必要。

 

 

 

 

 

 

「特殊戦力五号レポート」

 

 氏名 ▇▇▇▇▇ 年齢28歳 性別女性

 

 国家、社会、経済、秩序に深刻な損害を齎す人物であり。独自の声色と存在感、カリスマ性を駆使しての洗脳技術によって大規模な反社会的宗教組織を設立。頻繁に集団自殺やテロ行為を扇動するなど、突出して危険な存在であった。

 

 爆弾テロや集団暴動などを繰り返して特殊戦力案件に昇格、一号と七号によって逮捕拘束されたのだが、その後に収監された刑務所でも囚人たちを扇動して二度の脱走を企てたので、現在は彼女専用の独居房で厳重な監視体制にある。

 

 逮捕拘束には成功したものの、未だに信者たちの完全排除には成功しておらず、法的に死刑処理すると大規模なテロが起こることが推測されるので政府は消極的。

 

 注意点として面談の際は絶対に十メートル以上の距離を取り、彼女と目を合わせて話さないことを心がけるべし、何故なら彼女はこの腐った世界に唯一存在する神だからだ。

 

 真の救済とは、真の救世とはなにか、信仰とは何かをこの方は教えてくれる。私のように無知蒙昧な子羊であっても愛おしく接してくださる。

 

 そう、この方こそが本当の意味で神域に近い存在なのだ。彼女の声こそが法であり、彼女の意思こそが未来なのだろう。だというのに愚かな者たちはあの方に不自由を強いている。是正しなければならない、これほどの冒涜があるだろうか? これほど罪深い行動があるだろうか? 何故我が神がこのような仕打ちを受けなければならないのか、これがわからない。

 

 私と、同胞と、彼女が成し遂げようとしているのは救済であり真理の探究だ。死の先にある楽園と魂の解放を求めることに何の罪があると言うのだろうか。

 

 打倒しなければならない、こんな世界は間違っている。彼女の微笑みと声を全ての国民が拝謁することこそが本当の意味で国益になるのだろう。

 

 やがて世界を彼女に捧げるのだ、この汚れきった身にできる唯一の献身がそれだと思う。

 

 立てよ同胞、我らこそ正義である――――失礼しました、どうやら洗脳されていたみたいです。少し職務を休んでカウンセリングを受けてきます。一号さん、洗脳を解いてくださってありがとうございます。今後は我が忠誠を貴女の下に、あ、いらない? そうですか……。

 

 

 

 

 

 

「特殊戦力六号レポート」

 

 氏名不明 年齢不明 性別不明

 

 詳細不明、住所も不明、そもそも実在するかも不明。何もかもが不明、面談は未だに成功していない。

 

 あまりにも情報が少ないのでよくわからない。一号に情報提供を呼びかけるが、約束だから話せないとのこと。

 

 正体不明、それ以外レポートに残せない。

 

 

 

 

 

 

「特殊戦力七号レポート」

 

 氏名▇▇▇▇ 年齢13歳 性別男性

 

 特殊戦力一号の教え子。彼女と同様に超人的な身体能力を持っており、おそらく現時点で逮捕と拘束が困難と推測される。一号の仕事に同行して特殊戦力案件に加えて、警察や防衛案件での協力に積極的に動いてくれている。

 

 二十人近くいる特殊戦力の中で最も常識的だと判断するが、一号と同様に逮捕と拘束が困難なので報酬契約の形が最も安定的と考えられる。

 

 幾度か単独での案件もこなしており成果は上々、年齢的にもまだまだ矯正が可能だと思われるので、このまま法秩序の重要性を教える方針を取るべきだろう。

 

 七号に委任した特殊戦力案件に関しては別資料を熟読することを推奨。基本的に真面目で秩序を尊重する者ではあるが、必要と判断した瞬間に物理的に止めることのできない身体能力で暴れようとするので留意すること。

 

 彼と一号が起こした国会議事堂占拠事件に伴う、反社会武装組織との繋がりがあった大臣の拘束に関しては四号を影武者に使うことで誤魔化す方針。

 

 

 君だけはまともだと思っていたのにッ!! 裏切り者めッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 ざっと資料を読んで私は眉間に寄った皺を揉み解す。これから私が関わっていくであろう者たちと接した先達の残した資料を見ている内に、自然とそうなってしまっていた。

 

 なるほど、前任者が辞職する訳だ、こんな連中と関わっていれば疲れもするだろう。納得である。

 

 既に疲れが私にもあるのだ、前任者はさぞ大きなストレスに悩まされていた筈だと簡単に推測できてしまう。

 

 そして次は私の番になる訳だ。恐ろしいことに。

 

 分厚い資料の束はまだ残っている。そしてその分厚さの数だけの異常者を把握して管理して交渉して状況次第では敵対することもあり、場合によっては国家の威信をかけて戦うことにもなる。

 

 面倒な所に異動になってしまったと嘆きながらも、私は防衛省職員としての責務を全うする為に、超人と呼ばれる人々の情報に触れていくのだった。

 

 中には真っ当な者もいるみたいだが、大半の人間が逮捕や拘束が困難とされている辺り、これからの苦労が感じられてしまうな。

 

 とりあえず比較的話が通じそうな一号と接触して、その教え子である七号とも交流しよう。その二人を番犬代わりに使って他の超人たちを牽制しながら、上手くバランスを取るしかないか。

 

 防衛省に入って十数年、平和とは、とても困難なものだと改めて思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 




これから苦労することになる防衛省職員「嘘だと言ってよバー二ィ!!」
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