ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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呼び出しと協力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1-Dクラスの綾小路清隆君、同じく笹凪天武君、担任の茶柱先生がお呼びです。職員室に来てください」

 

 

 放課後になった瞬間にそんな放送が聞こえて来る。綾小路も同様に呼ばれたらしい。

 

「これはあれだな、生徒指導室で折檻とかそんな感じかな」

 

「そうなのか?」

 

「いや、知らないけど、職員室に呼ばれたら教師から怒られるのって学校あるあるらしいからそう思っただけ」

 

「なるほど、あるあるなのか」

 

「一応聞くけど、綾小路はなんか心当たりがあったりするのかい?」

 

「いや、全くない」

 

「ん、俺もだよ」

 

 これからクラスで今後の方針を話し合うつもりだったんだけど、タイミングが悪いな。

 

「笹凪くん、綾小路くん、呼び出されてたみたいだけど」

 

「ん、そうみたいだ。平田、悪いんだけど話し合いは俺たち抜きでやってくれないかな、決まったことがあったらチャットかメールで教えて欲しい」

 

「うん、わかったよ」

 

 教室では平田の呼びかけに応じてこれからどうするのかを話し合う会議が始まろうとしていて、俺もそこに参加するつもりだったのだが、まぁ俺がいてもいなくても平田がどうにでもしてくれるだろう。

 

 結局、日々の生活態度に気を付けて、迫るテストに備えて勉強会を開く感じに落ち着くだろうからな。

 

「俺に手伝えることがあれば何でも言ってくれ、隣人は愛するものらしいからな」

 

「ありがとう、頼りにさせてもらうよ」

 

 平田は微笑む、爽やかな笑顔である。取り巻きの女子生徒たちも頬を染めていた。

 

「それじゃあ綾小路、行こうか?」

 

「あぁ」

 

 こいつも平田のように微笑めば女子人気が出そうではあるが、なかなか難しいのかもしれない。

 

 或いはその肉体を生かしてもっと積極的に前に出れば劇的な変化もありそうではあるが、俺の中ではシャイな男の子に分類されてしまっているので、それもまた難しいのだろう。

 

 そもそも積極的に動く綾小路をどうした訳か想像できない。

 

「失礼します」

 

 職員室の扉を開いて挨拶。師匠曰く挨拶は大事。

 

「あら笹凪くんじゃない~、サエちゃんの呼び出しよねぇ? ふふ、何かやらかしたのかなぁ~」

 

「やだなぁ星之宮先生、俺は優等生であろうと心がけて日々生きてます。教育的指導なんて無縁の生徒ですよ」

 

 職員室に入ってまず声をかけてきたのは甘ったるい喋り方をした教員、星之宮先生である。

 

 年齢は、うん、聞かない方が良いんだろうな。いい歳してとかも禁句だ。師匠曰く配慮は大事。

 

「笹凪はこの先生とも知り合いなのか?」

 

「うん、四月に色々と情報を集めてたんだけど、この先生にも訊ねたんだよね。上手くはぐらかされたけどさ」

 

「それはそうよ~、簡単には教えてあげられないものぉ~」

 

「でも先生とのお喋りは楽しかったですよ。同級生と喋ってるような気がしました」

 

「うふふ、それって私が女子高生みたいってことかしらぁ、嬉しいこと言ってくれちゃってぇ」

 

 星之宮先生が身をくねらせて何やら震えている。褒めるのは大事と言った師匠はやはり正しい。

 

「でも駄目よッ、教師と教え子の禁断の関係なんてッ――イダッ!?」

 

 言葉では否定しつつも指先で俺の腹付近を突いてくる三十手前の女性の頭に衝撃が走る。犯人は背後から近づいて来た茶柱先生だ。

 

「綾小路、そして笹凪、付いて来い……お前は付いてくるな」

 

 星之宮先生も何故かついて来ようとしていたが、それは阻止されてしまった。

 

「1-Ⅾクラス、今年は調子良いみたいねぇ~……もしかして下剋上とか考えてるのかなって思って」

 

「不良品の集まりにそんなことは不可能だ」

 

「そうかしらぁ、期待はしてるんじゃない?」

 

「……ふん」

 

 視線がこちらを舐めまわす。さっきまでのからかい半分の瞳とは違って、鋭く艶めかしいものである。

 

 いい歳して甘ったるい喋り方をして幼さを強調してくるような人ではあるが、見た目通りの人ではないということだろう。

 

 結局、先生は自分が受け持っている生徒が呼んでいることで引き返すことになり、俺と綾小路は生徒指導室まで案内されてしまった。

 

「ここが生徒指導室、教育的指導が行われる場所かぁ……鬼のような教頭先生に殴られるのが学校あるあるらしい」

 

「だとしたら恐ろしい場所だな」

 

「馬鹿なことを言っていないでこっちに来い、給湯室で騒がず待機していろ」

 

「ところで俺と綾小路は何で呼ばれたんでしょうか?」

 

「黙ってじっとしていろ、破れば退学だ」

 

 そんな理不尽な。

 

 綾小路に視線を向けてみると、彼も僅かに首を振って大人しくしているべきだと主張する。

 

 二人してお茶を啜っていると隣にある生徒指導室から会話が聞こえて来た。話は筒抜けなのか。

 

「それで、私に話があるそうだな、堀北」

 

「えぇ、なぜ私がDクラスに配属されたのかを説明して貰いたいです。先生は優秀な生徒ほど上に、そして劣等生ほど下に配置されると説明されましたよね、どうして私がDクラスに配属されたのでしょうか?」

 

「率直な疑問だな、それに対する返答は、お前はなるべくしてDクラスになった、だ」

 

 堀北さんの視線が鋭くなったのが簡単に想像できるな。

 

 反論として入試での手ごたえであったり面接での受け答えにも問題がなかったと説明しているが、うん、まぁ、頭も良いし度胸もあるんだろうけど、彼女はかなり特殊な部類の人間だ。

 

 俺はどうだろうかと考えてみると……うん、大差ないな。小学校も中学校もまともに通っていない上に、師匠が学園長や理事たちにごり押しして入学させたって話だから、Dクラス配属も妥当である。

 

 憧れだけを知っている人間は未熟者、恋と夢を見つけて一人前を目指さないとダメだろう。

 

「綾小路、笹凪、こっちに来い」

 

「……笹凪、呼ばれてるぞ」

 

「ん? あぁ、行こうか」

 

 師匠のことを思い出していると茶柱先生に呼ばれた。わざわざ堀北さんを巻き込む辺り遠回しなことを好むらしい。

 

「……貴方たち、なんでここに」

 

 すぐさま堀北さんの視線が鋭くなって先生を突き刺す。そりゃそうだ、自分の内情を他人に聞かれるなんて喜ぶようなことでもないのだから。

 

「どういうことですか?」

 

「まぁ待て堀北、これが必要だと判断したまでだ、お前も聞いておいて損はないぞ? まずは綾小路、お前からだな。お前は面白い生徒だな、えぇ?」

 

「茶柱、なんて苗字の先生ほど面白い男じゃありませんよ、オレは」

 

「全国の茶柱さんに頭を下げさせるぞ……はぁ、お前は入試の結果、国語、数学、英語、社会、理科、全ての科目が50点、この間おこなったテストも50点だったな?」

 

「偶然って怖いっすね」

 

 全てを百点で揃えるよりも難しいかもね。オリンピックメダリストみたいな徹底的な肉体といい、独特な気配といい、綾小路は不思議な男である。

 

「貴方は……どうしてこんな訳のわからないことをしたの?」

 

「偶然だっての。隠れた天才とか、そんな設定はないぞ」

 

「どうだかなぁ。ひょっとしたら堀北、お前よりも頭脳明晰かもしれんぞ」

 

 煽るような言い方に堀北さんはムッとした顔を見せた。

 

「そして笹凪、お前はまた変わった生徒だなぁ。小学校も中学校も不登校だというのに、入学試験は満点、どこで勉強を教わった?」

 

「とりあえず個人情報の暴露止めません?」

 

 綾小路と堀北さんは信じられないといった表情でこちらを見て来るのが辛い。お前まともに学校通ってなかったのかよと馬鹿にされている気分になってしまう。

 

「まぁあれですよ、ホームスタディって奴です。俺に生き方の全てを教えてくれた師匠は完璧超人だったので、茶柱先生よりも教えるのが上手い人だったんじゃないですかね」

 

 間違いなくウチの師匠は茶柱先生よりも教師に向いている。やっぱ師匠はすげえよ!!

 

「それで、結局、茶柱先生は何がしたいんです? わざわざ生徒の個人情報まで暴露して、遠回しなことなんてせずにさっさと目的を聞かせてください。察しろ、なんてのは古い考えだと俺は思います……ぶっちゃけ不愉快ですよ」

 

「ふッ……別に他意はないさ、何もな」

 

 ならなんでこんなことをしたんだよ、俺だけじゃなくて綾小路や堀北さんも同じように思ってるのは間違いない。

 

「話は以上だ、出ていけ」

 

 言いたいだけ言って、暴露したいだけして、茶柱先生は俺たちを追い出してしまう。

 

「ん……終わったみたいだし帰ろうかな。放課後は部活に汗を流すものらしいからさ。綾小路、堀北さん、また明日」

 

「あぁ」

 

「待ちなさい」

 

 首根っこを捕まれて引き戻そうとする堀北さんではあるが、残念ながらこちらの体幹はピクリとも揺るがない。

 

「なんだい?」

 

「まだ話は終わっていないわ」

 

「ん、聞こうじゃないか」

 

 振り返って堀北さんと向かい合うと、彼女は鋭い目つきでこちらを見つめて来る。

 

 少しの焦りが感じ取れるのは、自分がDクラスに配属されたことによるものだろうか。

 

「貴方は納得できるの? 入試試験で満点らしいけど、それでも不良品扱いされてしまったのよ?」

 

「学校側の評価にはあまり興味はないかな。それに茶柱先生も言ってたけど、俺は小学校も中学校も通ってなかった。確か籍だけはあった筈だけどマジで一度たりとも登校してないんだ……入試の結果を帳消しにして余りある事実じゃないかな」

 

「それは……そうだけど、悔しくはないのかしら?」

 

「堀北さんは何が言いたいのかな? 茶柱先生にもさっき伝えたけど、遠回しなことはせずに目的を話して欲しい」

 

「私は、Dクラスに配属されたことに納得していない……けれど学校側に何を言っても無駄ってことはわかる」

 

「続けて」

 

「Aクラスを目指す……そして証明するの、私は――」

 

「ん、良いんじゃない、手伝うよ」

 

「……随分と従順ね」

 

「やるからには勝つ、半端な真似は許されない。学校側がそれを目指せって言ってゴールを置いたなら誰よりも早くそこに辿り着く、勝負事に中途半端な気持ちで挑むつもりは無い。だから手伝えって言うんなら当然手伝うとも」

 

 師匠曰く、惰性は不要。やるからには全てを凌駕して勝つことが大事。

 

 次に堀北さんの視線は綾小路に向かうのだが、彼は露骨に顔を背けて距離を取ろうとする。

 

「待ちなさい、貴方にも話があるわ」

 

「断る」

 

「綾小路くん、貴方の唯一とも言える友人はこちらの軍門にくだっているけど? まさかこれから毎日一人で寂しくお昼休みを過ごすつもりなのかしら?」

 

「くッ……それは、卑怯だろ」

 

 はい、綾小路も陥落しました。

 

「だが出来ることと出来ないことはあるぞ、頼るなら笹凪を頼れ」

 

 こいつ、シレッと俺に仕事の分配を押し付けやがった。

 

「……貴方にも問いただしたいことは山ほどあるけど」

 

 堀北さんの瞳が疑念の色で染まっていく。やはり全ての教科を50点で揃えるのは目立ってしまう。

 

「どうして貴方は――」

 

「はいそこまで。堀北さん、人には色んな事情があるんだ、踏み込むべきではない所はある、君だってそうだろう?」

 

「……笹凪くんは気にならないのかしら?」

 

「テストで100点取ろうが50点だろうが、彼が彼であることに変わりはないさ。君にとって重要なのはAクラスに上がること、その為に俺と綾小路が手伝う、それ以上に何を求めるというんだい」

 

「……」

 

 疑念の色は消えない。だが今はそこに集中している場合でもないと理解したのだろう。

 

「まぁ、今後どうするのか話し合おうよ。Aクラスを目標にするのなら意思と認識と目標の共有が必要だからね」

 

「……今はそれで良いわ」

 

「その辺はお前たちで頼む」

 

 あまり協力的ではない態度にまたもや堀北さんの視線が鋭くなった。

 

「とりあえず、協力関係を記念して連絡先交換しない? 今後の打ち合わせの為にもさ」

 

「そうだな」

 

 今、思えば堀北さんの連絡先って知らないな。そしてもしここで教えてくれるのならば、櫛田さんに続いて女子の連絡先を知れることになる。俺のスマホに女子生徒の連絡先が増えるのだ、こんなに嬉しいことはない。

 

 堀北さんもその必要性を理解したのだろう、しっかりと教えてくれた。

 

 嬉しいな、どうやら友人が増えたみたいだ。

 

 この人は独特でだいぶ特殊な人だけど、その分とても面白く感じる。何より美人なのが凄く重要である。

 

 憧れを知るだけでは未熟者、恋を知って半人前、夢を見つけてようやく一人前、そんな師匠の言葉を思い出す。

 

 この子は俺に恋を教えてくれるだろうか? そんな期待を抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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