ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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蛇の舌は長くしつこい

 

 

 

 

 

 

 

 色々と考えなければならないことが多い毎日だが、俺と清隆に出来ることはそう多くない。龍園の動き次第でどう動くのかアドリブを利かせる必要があるので、どうしても受け身になってしまうのだ。

 

 清隆は龍園を食いつかせる気が満々であり、もしかしたら内心ではさっさと来いと思っているのかもしれない。大人しそうに見えて思考は殴って解決すればいいと結論を出すゴリラなので、龍園が可哀想である。

 

 その龍園は今日も変わらずこちらのクラスへの嫌がらせを頑張っていた。須藤が教室に舌打ちと共に入って来ることは日常茶飯事であり、彼以外にも色々と嫌がらせをされているようだ。

 

「龍園くんの動きが読めないね」

 

「平田、悪いんだがこれからも警戒を続けて欲しい」

 

「うん、わかってるよ」

 

 教室で心配そうな顔をしている平田とそんなことを話す。彼には女子生徒を中心に面倒を見て貰っていたのでずっと感謝したかったのだ。

 

「笹凪くん、大丈夫なんだね?」

 

「あぁ、何も心配はいらない」

 

 強い意思と共にそう伝えると、彼はいつも通りの爽やかな笑顔を見せてくれる。これがモテる秘訣なのかもしれないな。

 

 波瑠加さんが言うには、俺は現実感の無い男らしいので付き合う段階まで進むことが難しいらしい。彼のように花のような笑顔を見せればまた異なるのだろうか?

 

 高校生なので普通にモテたくはあるので、今後は平田を参考にするのも良いのかもしれない。

 

「なぁ平田――」

 

 彼にモテる秘訣を聞こうとした時だ。教室の扉が勢いよく開いて龍園たちが姿を現したのは。相変わらず人との語らいを邪魔するのが得意な男である。

 

「なんだオイ、ここはBクラスだぞ」

 

 こういう時、真っ先に反応するのはやはり須藤である。苛立ちながら眉間に皺を寄せて椅子から立ち上がって詰め寄っていくのを、こちらで肩を掴んで制した。

 

「落ち着け須藤」

 

「わかってるっての」

 

 まぁここ最近は須藤にもかなり落ち着きが出て来たので心配はしていない。そして龍園もこんな状況で殴り合うような男でもないだろう。

 

「龍園、どうしたんだい?」

 

「同学年のクラスを訪ねちゃいけない理由があるのか? どこの学校でもあることだろ。友人を訪ねて自分のクラス以外に出向くことは。何をそんなに警戒していやがる」

 

「おいおい、君に友人なんている訳ないだろ……と、言いたい所だが、俺と君は確かに友人だね。もしかして遊びに誘っているのかな? ならラーメンでも食べに行こうか」

 

「お前は黙ってろ、何の用も無いんでな」

 

 じゃあ何しに来たんだと考えていると、龍園はクラス全体を見渡してニヤニヤとした表情を見せた。

 

 平田、鈴音さん、啓誠、明人、須藤に桔梗さん、そして波瑠加さんに愛理さん、最後に俺を見てニヤリと笑う。

 

 以前に絡まれた清隆グループは勿論のこと、クラスメイト全てが警戒したように彼の一挙手一投足を眺めていた。

 

 気の弱い王さんや愛理さんは既に体を震わしているし、明人や須藤などの気が強い男子チームはそんな女子たちを庇うように前のめりになっている。

 

「なぁに、これからは仲良くしようと思ってるんだぜ、色々となぁ」

 

 彼に一番似合わない言葉だ。そう思ったのは何も俺だけじゃないだろう。

 

 誰もが龍園たちの登場に固まる中で、こんな状況でもただ一人我が道を行くのが高円寺六助という男である。

 

 髪をかき上げてやたらと男前の微笑と共に席を立ちあがると、高円寺はそのまま教室を出て行こうとした。そして龍園は正反対の邪悪な笑みと共にその後を仲間と一緒に追いかけていく。狙いはそっちのようだ。

 

「なぁなぁ、なんか龍園のヤツすげえことやりそうなんだけど!! ついていかね!?」

 

「てか、あいつら高円寺に何するつもりなんだろうな!?」

 

 池と山内の会話を聞きながら俺は平田と視線を合わせる。

 

「すまない平田、クラスの皆を落ち着かせといてくれるか?」

 

「うん、任せて。あっちは笹凪くんにお願いできるかな」

 

「あぁ、まぁ龍園は馬鹿じゃない、そうそう面倒なことにはならないさ」

 

「……だと良いんだけどね」

 

 平田の心配も当然なのでその不安を解消する為に監督役になるとしよう。龍園も内心では黒幕の存在に当たりを付けているだろうに、こうしてわざわざ目立つ行動をしているのは、きっと「お前を追い詰めてる」というアピールなんだろう。

 

 ただし清隆がそれに不安に感じるような男ではないということが、龍園の誤算であった。

 

「天武、どうするつもりだ?」

 

「俺が行くよ、ヤバそうになったら止めるからさ。皆は落ち着いて行動してくれ」

 

 明人にそう答えてから高円寺と龍園たちの後を追って校舎を出ていき、寮との校舎の丁度中間地点にある並木道で追いつくことになる。

 

 背後に清隆が放つ独特の気配を感じるな。どうやら姿を隠してこちらを窺っているらしい。

 

 他には、校舎の窓から覗き込むような気配を感じ取れた。平田と鈴音さんがあちらを押さえてくれているようだ。

 

 仮に喧嘩沙汰になったとしても、俺ならば問題ないだろうという信頼があるのだろう。どうやったら怪我するんだって思われてるだろうし、もしかしたらクラスメイトが心配しているのは高円寺でも龍園でもなく俺がやり過ぎないかという方向かもしれない。

 

「高円寺、俺のことは覚えてるな?」

 

「もちろん覚えているよ。Cクラスの……いや、今はDクラスのヤンチャくんだろう?」

 

「この間は見逃したが今日は付き合ってもらうぜ変人」

 

「すまなかったね。あの日は多忙だったのだよ」

 

 龍園と高円寺の組み合わせは……なんと言えば良いんだろうな。ちょっと驚くほどに食い合わせが悪いように思える。いや、高円寺と相性が良い人は思いつかないんだけれども。

 

「しかし聞き捨てならないねえ。変人、とは私のことかな?」

 

「変人と言ったら、お前とゴリラくらいしかいないだろうが」

 

「いや、俺は変人ではないだろう」

 

「はッはッはッ!!」

 

「鏡を見て来い」

 

 二人の会話にそうやって介入すると、高円寺は何故か笑い飛ばして、龍園からは辛辣な言葉が飛んでくる。

 

 まぁ今は良いだろう……掘り返すようなことでもないのだから。ただ変人と聞いて俺は目の前にいる二人をまず思い浮かべるんだけどね。

 

 龍園と高円寺、あまり絡むことのない二人はそのまま独特の空気と雰囲気を維持したまま話を進めていく。近づく者全てを切り裂くような龍園と、どんな時でも自分のペースを崩さない高円寺、これはこれで面白い組み合わせなのかもしれない。

 

 まぁ龍園もいきなり手鏡を渡されて髪型を整え始めた高円寺には調子を崩しているようだけど。

 

 向かい合っている龍園も、その周囲で包囲網を作る石崎たちも、流石に彼の空気を乱すことはできないらしい。

 

 滅茶苦茶なように見えて、高円寺は太い大樹のような男だからな。

 

 

「何事かと思えば、なかなか面白い組み合わせですね」

 

 

 そしてこの状況に介入してくるのは坂柳さん率いるAクラスの面子である。橋本と鬼頭と神室さんだ。

 

「天武くん、クリスマスのご相談でもされているのですか?」

 

「だとしたら良かったんだけどね、残念なことに今は物騒な感じだ。主に龍園がね」

 

「彼はいつもそうでしょう、おかしくもありません」

 

 そんな会話を続けていると龍園がこちらを睨んで来る。

 

「あら、睨まれてしまいましたね」

 

「坂柳、ここに留まるつもりならゴリラ共々邪魔すんじゃねえぞ」

 

「もちろんです。パーティーの主催者の顔に泥を塗るような真似は致しません」

 

 そう言って彼女はベンチの上に腰かける。手下の三人は彼女を守るように配置された。

 

「天武くんもお隣どうですか?」

 

「ではお言葉に甘えて」

 

 せっかくの誘いなので俺もベンチに腰掛けた。高円寺と龍園のやり取りを肴にして楽しむとしよう。いざとなったら止めればいいだけだ。

 

「寒くなって来たよね」

 

「えぇ、この時期になると急激に冷えますよね。地面に霜が立って凍り付くと、本当に苦労します」

 

 坂柳さんは歩行の補助に杖が必要だからな、滑る地面や雪が積もっていたりすると大変だろう。

 

 ここ最近の観察でわかったのだが、彼女の杖は仕込み刀では無さそうなので、俺も安心できる。これからはもっと積極的に親交を深めて行こう。

 

「それで龍園くんは何を?」

 

「なんでも、ウチのクラスにいる黒幕さんを探してるんだって」

 

「それはそれは、自分の無能を棚に上げて、随分と暇なようですね」

 

 辛辣な物言いである。そんな会話をしているとベンチの周囲で彼女を守る神室さんたちに呆れるような視線を向けられてしまった。

 

 お前たちはこの状況で何を穏やかに会話をしているんだと、そう言いたそうな顔だ。

 

 そんな俺たちの雰囲気を無視して龍園と高円寺の決して交じり合わないやり取りは続いていた。

 

 そもそも龍園だって、内心では黒幕の正体をほぼほぼ確信している筈だ。今は僅かな可能性を潰しているに過ぎず、彼はただ本命を追い詰めていると性格悪く主張しているだけである。

 

 今も少し離れた位置で、こちらを観察している清隆もそれは理解しているだろう。残念ながら彼が怖がることはないのだろうが。

 

 龍園の物言いを独特のテンポと空気で躱す……いや、本人にはそんな気は欠片もないのだろうが、幾度かの言葉のジャブをひらりと避けてから、高円寺は櫛で自らの髪を整える。

 

「俺がここでコイツらにお前を突然リンチさせたらどうする? なんの利もなく、無意味に暴力で支配しようとしたら?」

 

「実にナンセンスな質問だ。君はこの場でその選択を選ばない。ギャラリーも多い中での暴力云々以前に、君たちでは私には勝てないだろうしねえ……脅す相手は選んだ方が良い、ドラゴンボーイ」

 

「ほう、大した自信だ、試してやろうか?」

 

 ドラゴンボーイというあだ名に坂柳さんは口元を隠してニヤついている。意外にもツボに嵌ったらしい。

 

 場の空気がピリピリと張りつめていく。不穏な雰囲気を感じ取ったのか通学路を歩く生徒たちはこちらを眺めながらヒソヒソと話し合い、関わりたくないと距離を取っている。

 

「坂柳さん、そろそろ今年も終わりだけど、振り返ってみてどうかな?」

 

「そうですね……色々と刺激的な一年だったと思いますよ。様々な出会いもありましたので、そちらは?」

 

「俺も同じかな。ん、良い一年だったと思う。なにせ沢山の縁を結べたからね。去年の今頃はこんな生活になるなんて思いもしなかったよ」

 

 確か去年の今頃は師匠の仕事を手伝って色んな国を走り回っていたな。あれはあれで楽しかったけれど、穏やかな時間が流れるこの学園での生活も嫌いではない。

 

「充実しているのなら何よりです。人との縁を大事にされる方ですから、高校生活というのはまさに天武くんに相応しいのかもしれませんね」

 

「もちろん坂柳さんとの縁も大切な一つだよ」

 

「おや、嬉しい言葉ですけど、私は敵でもありますよ?」

 

「大した意味はないよ。敵だろうと仲間だろうと、大切な縁だ。俺にとっては龍園でさえ大切な人だよ」

 

「なかなか心地いい口説き文句ですね……ふふ、だそうですよ、龍園くん?」

 

 何が面白かったのか、坂柳さんはクスクスと笑って龍園にそう問いかける。だが彼はベンチに座っている俺たちなど存在しないかのように振る舞っていた。

 

「どうやらお前は俺とは違った方向に狂った人間。ただそれだけのようだな」

 

「誤解が解けたようで何より」

 

「だが聞かせろ高円寺、お前たちのクラスには性格の悪い策士がいる筈だ。心当たりがあるんじゃないのか?」

 

「さてね、マイフレンド以外は大差のない者たちばかりだが、まぁ答えてあげても良いが――」

 

「少しよろしいですか?」

 

 高円寺の言葉を遮るように坂柳さんが会話に介入した。

 

「面白い話をされていますね、Bクラスにいる策士をお探しとか。しかしドラゴンボーイさんが探している誰かなど、本当に存在するのでしょうか? 私にはDクラスに転落した責任を押し付ける相手を探しているようにも思えますが」

 

「黙ってろと言っただろ坂柳。それとお前が次にその呼び方をしたら殺すぜ?」

 

「ふふッ、気に入りませんでしたか? 素敵なネーミングだと思いますけど」

 

 挑発的に笑う彼女の横顔はとても美しい、しおらしくしているよりも美しいと思う程だ。

 

「そもそも、そんな人物を探し当てたとして何になるというのですか? あぁ、貴方だったのですね、で終わる話ではありませんか」

 

「はッ、間抜け全開な発言だな。坂柳、お前はこれから戦う相手の戦力すら不明な状態で挑むっていうのか? そこのゴリラを潰すにしても、まずは手札の確認だ」

 

「なるほど、ドラゴンボーイさんはそれほどまでに天武くんを怖がっているようですね。やはり勝てない言い訳作りではないですか」

 

 二度目のドラゴンボーイ発言で龍園は無言でこちらに踏み込んで来るが、俺はそれを事前に阻止する。

 

 彼の重心がこちらに向いて、その体幹と筋肉の動きから右足での蹴りであると判断した瞬間に、そうなる前に座っていたベンチから駆けだして彼の靴先を踏みつけた。

 

「チッ、瞬間移動じみたことしてんじゃねえぞ。下がってろゴリラ、邪魔するな」

 

「はいわかりましたと、言う筈がないことくらいはわかってるだろう? 暴力はダメだよ」

 

 問答無用で月城さんを制圧した俺が言って良い言葉ではないけど、師匠曰く棚上げも時に大事とのことなので問題はないだろう。

 

 龍園の靴先を踏みつけながら、彼の鋭い視線を笑顔で封殺していると、ようやく無駄だとわかったのか緊張を解いたので、こちらも足を退かす。

 

「ありがとうございます、天武くん……ふふ、こういうシチュエーションも悪くはありませんね」

 

「どういたしまして、けれど坂柳さんもあんまり挑発しちゃダメだからね。龍園は冗談が通じない男だから」

 

「余裕がないのですよ、笑顔で受け流して欲しいものですね」

 

 だから挑発を止めなさい。また龍園が蹴りかかって来るかもしれないだろうに。

 

「話し合いは終わったかな? 君たちはじゃれ合いが好きなようだね。それを否定するつもりはないが、これ以上私の邪魔をすることだけは止めて貰えないだろうか。無意味な時間は好みではないのだよ」

 

「あぁそうだね。六助、龍園に構わず帰ってくれていいよ。彼に関わるべきじゃない」

 

 俺が最も避けたいのはこの往来のど真ん中で龍園と彼が殴り合うことである。可能性としては低いが絶対に起こらないと言い切れないので、物理的に距離を離すしかない。

 

 それに龍園も、僅かな可能性を潰す為だけに高円寺に絡んでいるだけだ。それも達成したので長々と引き留めたりはしないだろう。

 

「待てよ最後に聞かせろ。高円寺、お前には本当に心当たりはないのか?」

 

「悪いが君の楽しみを奪おうとするほど無粋ではないのだよ。私はそんなことよりも美しい女性たちと様々な恋に落ち、己の美を追求し続ける。それだけさ」

 

「つまり、お前はクラス同士の抗争に参加しないと?」

 

「その通りさ。そんなものは私の中では既に終わっているものだからねえ。そもそも最初から興味も無かったさ」

 

 そりゃそうだ。高円寺にはマネーロンダリング用の会社を作る為の色々と手伝ってくれたので、お礼として大量のポイントを渡している。彼は既にAクラスでの卒業を確定させているだけでなく、それすらも補って余りあるポイントを持っている。しかも個人契約は今も継続させている。多分、この学校で俺の次に資金が潤沢な生徒だろう。

 

「残念だよドラゴンボーイ、君やリトルガールでは私の退屈を紛らわせることができないようだ」

 

 その言葉に龍園というよりも、石崎や山田などの取り巻きたちが苛立ち前に出ようとするが、それを龍園は手で制した。

 

「高円寺さん、でしたか。そのリトルガールというのはもしかして私に言っているのでしょうか? だとしたら貴方は英語の使い方を間違っていますよ? 私は幼女ではありません」

 

「ふッ、ふッ、ふッ。それを決めるのは君ではなく私なのだよ。間違った用法ではないさ。君がレディと呼ぶにふさわしい年齢と体型になれば、そう呼ばせてもらうだけだからねぇ」

 

「ククッ、リトルガールか、中々良いネーミングセンスじゃねえか」

 

「ドラゴンボーイさんほどではありませんよ。ふふふ」

 

 この人たちは誰かを煽らなきゃ生きていけない人種なのだろうか? どうしてもっと平和的に生きられないんだ。俺のように。

 

 三者三様の笑顔を浮かべる彼ら彼女たちを眺めていると、自然に溜息が出て来る。

 

 師匠、人間が三人いれば平和が無くなるという貴女の言葉は正しかったようです。

 

「おほん。これ以上話し合っても互いに得るものは無いんじゃないかな? そうだろ六助?」

 

「その通りだよマイフレンド。私はこの辺りで去らせてもらうとしようじゃないか、シーユー」

 

 髪をかき上げて実に良い笑顔でそう言った彼は、高笑いと共に去っていく。最後の最後まで自分のペースを崩さないのは見事と言うべきなのかもしれない。

 

「坂柳さんも、変人たちに付き合う必要はないさ。違うかな?」

 

「そうですね、守っていただいたことですし、ここは天武くんの顔を立てましょうか」

 

 やっと坂柳さんも帰ってくれるらしい。これで爆弾の二つ目を遠ざけることが出来た。

 

「三学期を楽しみにしとけよ坂柳」

 

「残念ですがそうはなりませんよ」

 

 不敵な笑みを浮かべて坂柳さんとその配下たちは緩やかに立ち去っていく。後に残るのは最大の爆弾だけである。

 

「龍園、楽しそうじゃないか」

 

「クク、そりゃそうだろ、ようやくここまで来たんだ……お前も楽しみにしていろ」

 

「なぁ……ここで引くという選択肢はないのか?」

 

「はッ、ここで? ありえねえだろうが」

 

「そうかな、お互いに適度な距離を保ちつつ、平和的に生きられると思うけどね」

 

「クソみてえな考え方だな。平和だ? お前から最も遠い言葉に聞こえるがな」

 

「君は俺を何だと思っているんだ」

 

「いざとなったらぶん殴って何もかも解決しようとするゴリラだろうが」

 

 この野郎、俺はいつだって平和で穏やかな世界を祈っているというのに。去年の大晦日も神社にお参りした時は大真面目に世界平和を祈ったんだからな?

 

「それにだ、まさか今更引けるとでも思っているのか……俺たちとお前たちは、それで納得できるのか? できる訳がないだろ」

 

「ん……なるほどね。まぁ確かに、限界までやりあった先にしか得られない関係もあるか」

 

 ケジメ、とでも言うべき何かが必要なのかもしれない。それはきっとこちらにとってもそうだし、龍園たちにとっても同じだ。

 

 以前に、俺は櫛田さんに立てなくなるまで喧嘩した先にしか得られない関係があると言ったことを思い出す。きっと龍園たちと俺たちの関係もそれに近いのだろう。

 

 その先にしかお互いに腹を割って話せないし、認め合うことも出来ないんだと思う。

 

 そうか、ならばもう何も言うまい……立ち向かってくる何もかもを叩き潰して、その瞬間に俺たちは対等になれるのだと考えるしかなかった。

 

 

「お前も楽しみにしておけ」

 

「そうさせて貰うよ」

 

 

 わざわざそんなことを言う必要はない、それでも彼は敢えてそう言った。これからお前を殴りに行くと宣戦布告を行った。黙って後ろから殴り掛かれば良いのに。

 

 きっと俺たちは、その先にしか分かり合えないと、彼もまた理解しているのだろう。

 

 

 

「あぁ……決着を付けよう」

 

 

 

 遠ざかっていく龍園たちの背中に小さくそう言った。届いたかどうかはわからないが、この角度から見えない彼の顔は笑っているものだと何となくわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな龍園からの宣戦布告から数日、二学期もいよいよ終わって明日から冬休みとなる日、俺と清隆が持つスマホには二つのメールが送られてきた。

 

 一つは軽井沢さんからのSOS。

 

 もう一つは清隆グループを写した画像であった。

 

 これは龍園からの宣戦布告。かかって来いという誘い。決着を付けようという決意表明なのだろう。

 

「清隆」

 

「天武」

 

 その二つのメールを受け取った俺たちは、互いに視線を合わせて頷き合う。

 

 龍園の考えはわかりやすくてシンプルだ。どれだけ強い個がいようとも、同時に二カ所には存在出来ないのだから彼の狙いである黒幕を孤立させられると考えているのだろう。別々の場所に呼び出して分断してから一人になった所を叩くつもりのようだ。単純だが効果的な策である。

 

 だってこの作戦は、俺どころか師匠にすら有効なのだから。

 

 下手な駆け引きなんて必要ない。やるべきことはただ一つ、己の我を押し通すだけだ。

 

 清隆もそれはわかっているのか、或いは軽井沢さんに配慮してか、下手に長引かせずに行動を開始した。

 

 

 

「「そっちは任せたぞ」」

 

 

 

 同じセリフを互いに言ってから、背中を向けて同時に別々の場所に走り出す。

 

 さぁ龍園、決着を付けようか。

 

 

 

 

 

 

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