背中を向けて俺と清隆は別々の場所に走り出す。救助対象を二つにわけて俺と清隆を分断させることが龍園の作戦であり、こうして背中を向けて走り出すのは彼の思惑通りということになる。
その作戦の裏をかいて回避しようという思考はこちらにも清隆にもない。罠とわかっていながらそれでも真正面から踏み砕くというのがこちらの作戦であった。
いや、作戦ではないな、力で立ち塞がる罠も脅威も磨り潰そうとしているだけだ。ごちゃごちゃ考えるよりもそれが出来る者が結局は強いという結論だ。
清隆グループと軽井沢さんが同時に脅威に晒されているのだから、どうしたって戦力は二つ必要だ。
だが龍園はわかっているのだろうか? こちらの戦力を分断するということは、つまり自分の戦力をわけていることに繋がっていると……まぁ理解しているんだろう。
彼が思い描く黒幕、つまりは清隆なのだが、彼の中では不透明な存在ということだ。清隆を警戒しながらもまさかゴリラが二匹いるとは思っていないらしい。
「あ、堀北先輩ですか? 悪いんですけど今から体育館倉庫に来て第三者の立場で証人になって欲しいんですけど」
『急になんだ?』
「決着を付けないといけない相手がいまして、けれど後々に面倒な雑音を挟みたくないんですよ……お願いできませんか?」
走りながらスマホを取り出して電話をする相手は堀北先輩である。元生徒会長なので証人としての信頼は抜群だろうと思って頼んでいた。
「報酬にポイントを支払います」
『いや、それは不要だ……貸しとしておこう。いずれ返してもらうぞ』
「ではそれで、今すぐ全力で体育館倉庫に来てください。それとできれば誰も立ち入れないように周囲の監視も頼みますね」
通話を切ってスマホを懐に戻した段階で、体育館の入口付近が目の前にある位置までやって来た。彼らが指定した挑戦状にはこの隣にある用具倉庫に来いとあったのでかなり近づいたな。
スマホに送られてきたメールには波瑠加さんと愛理さん、そして怪我を負っていると思われる啓誠と明人の写真が添付されている。
餌であり、人質でもあるのだろう。
女子二人は大丈夫そうだけど、明人と啓誠には怪我があるっぽいな。特に元ヤン疑惑のある明人は激しく抵抗したと思われる。
どのように呼び出したのやら、いや、今はそんなこと考えるべきではないか。
いよいよ二学期も終わって冬休みに入り、人の気配も少なくなった校舎は随分と動きやすかったことだろう。だが条件は同じなのでこちらも動きやすい。
体育館の隣にある倉庫、体育の授業で使う様々な用具や器具などが保管されている大型の倉庫である場所まで辿り着くとさっそく龍園クラスの生徒を発見した。
固く閉じられた金属製の門の前にいる辺り、見張りだろうか?
「笹凪」
よしぶん殴ろうと考えて踏み込もうとする段階で、背後から堀北先輩に声をかけられる。流石に来るのが早い。
「あぁ来てくださったんですね。ありがとうございます」
「状況は?」
「俺の友人が監禁状態にあります」
「そうか、どう対処する?」
「先輩に求めるのはあくまで証言。事が終わった後にくだらない主張や言い分を挟ませない為の証人ですので、手は出さなくても大丈夫ですね……この決着は俺がやらないといけない」
「一人で解決するか……それも良いだろう」
眼鏡のブリッジを押し上げて位置を整える堀北先輩は、あくまで証言者であり目撃者だ。そしてそれ以上の何かを求めるつもりもなく、手を貸して欲しいとも思っていない。
おそらく清隆側も似たような人物に声をかけている筈だ……茶柱先生辺りを動かしているかもしれないな。
「だが契約を忘れるな?」
「わかっていますよ。これは俺から貴方への借りとしておきます。己の名前と矜持に誓って翻したりしません」
「では行ってこい」
保険の証人はこの人に任せておけば良いだろう……後は好きに暴れられるな。
思考が師匠モードに切り替わる。同時に体中の筋肉が蠢くような感覚を覚え、日常生活の中ではセーブしていた拘束を外していく。
そして全ての拘束を外して身軽になった体で、体育館倉庫に進んで行った。
「うッ……き、来たッ……ゴ、ゴリラが……ひッ」
何とも情けない見張り役である。近づいていく度に表情を歪めて後ずさるのだが、鉄製の門に背中が引っ付くと逃げられないと悟ったのか、震えながらもこちらと向かい合う。
「よ、よく来たな、待ちわ――――」
全てを言い終わる前に、右手を鞭のようにしならせてその顎先を拳で打ち抜くと、彼は意識を失ってその場に崩れ落ちる。
まともに殴ると頭が吹き飛んでしまうので、指で顎を撫でるように配慮した。
俺の拳と彼の顎が接触した瞬間に「チッ」という舌打ちのような音が周囲に広がっただけであり、圧倒的な暴力などそこには無かったが、それでも彼は脳震盪の症状に襲われ意識を失ってしまう。
見張りがいなくなった体育館倉庫を前にして、重厚な金属製の引き戸に手をかける。
鍵はかかっていない、頑丈な引き戸は横に動かすとレールに沿って開かれていった。
「やぁ、待たせたね」
中には当たり前のことだが複数人の生徒が待ち受けている。龍園クラスにいる彼が動かせる戦力を軒並み連れて来たかのようだ。石崎と山田に加えて小宮と近藤の姿もあり、それ以外にも何人か……体育館倉庫の一番奥には清隆グループのメンバーもいるな。
明人は怪我をしている。抵抗したのか、それとも女子たちを守ろうとしたのか、どちらにせよ人数差で押し負けてしまったらしい。
啓誠も鼻血の後がある。波瑠加さんと愛理さんは身を寄せ合っているが、無傷のようだな。
「き、来たか笹凪……」
「……」
「石崎、山田……まぁ呼ばれたからね、けれど龍園がいないのは少し残念だ」
「あの人はお前の相手なんてしてる暇はないんだよ」
「なんだっていいさ」
山田と石崎という彼の腹心の姿はあるけれど、龍園本人の姿はない。どうやら彼は軽井沢さんの方にいるらしい。
一度くらいはぶん殴ってやりたかったけど、それは相棒に任せるとしよう。
「皆、無事かい?」
「テンテン……来てくれたんだ」
「……ご、ごめんなさい。巻き込んでしまって」
波瑠加さんと愛理さんは身を寄せ合っている。パッと見は怪我は無さそうなのでそこは安心である。
「……手間をかけさせてしまったな」
「すまん、後は任せる」
代わりに啓誠と明人は怪我があった。鼻血だったり青あざだったりとそこまで重症といった感じではない。
全員の容態は深刻なものでないと確認できたので、後は脅威の排除をするだけだな。
「それで石崎、やるのかい?」
「なんだと?」
「皆を解放するのなら見逃しても良いと言っているんだ」
「はッ……ここまで来てそんなことできるかよ!!」
「山田、君も同じ意見かな?」
「……」
石崎と山田、この場にいる龍園クラスの生徒たちの纏め役と思われる二人の意思は変わらないらしい。そんな両者の態度に引っ張られてか他の生徒たちも意見を曲げることはなかった。
「利益は無いぞ、そして意思を貫くこともできない……この先にあるのは約束された敗北だ」
「もう勝ったつもりでいるのか……調子に乗んじゃねえよ」
「そうじゃないさ……いや、無粋な言葉だったな」
ここで引くようならばそもそも彼らはこんな暴挙に出ることなどありえない。言葉は無用だったな。
「君にも、君たちにも意地と信念がある……こういう時、言葉は無力だとつくづく思うよ」
何度も何度も何度も見て来た。理性でも理屈でもなく、ましてや利益でもない、人は時としてとても愚かで短絡的なことをする……けれどそれを馬鹿だとは思わなかった。
意地をぶつけ合って殴り合い、その先にしか得られない関係もあるのだから。ならばやはり言葉は無粋だろう。
「俺は皆を助けたい、君たちは俺を留めておきたい、お互いに譲るつもりがないのならば、己の我を押し通すしかないだろうね」
体育館倉庫の入口から緩やかに中へ足を進めていく。その瞬間に石崎と山田を中心に龍園クラスの生徒たちには緊張が走った。
「お前ら、やるぞ」
「YES」
石崎が手を伸ばすのはこの倉庫に保管されていたソフトボール用のバットである。なるほど、ここに誘い出したのは監視カメラが無いこともそうだが、武装として使える物が多いと判断してのことだろう。
山田も、小宮も近藤も、それぞれ武器を手に持っていく。
まぁ尤も、凶器で人に暴力を振るうことに慣れていない者が大半なので、あまり意味はないようだが。
蹴ったり殴ったりならばまだ受け入れられるが、凶器を相手に振り下ろすのはそれなりに勇気のいる行為である。そこを振り切って行動できる者は実は少なかったりする。
それでも石崎と山田は武器を持った。俺と戦うにはそれが最低条件だと判断したのだろう。
「卑怯とは言わねえよな?」
バットを握った石崎は挑発するようにそう言ってくるので、俺は頷きと共にこう返す。
「もちろんだ。責めることもなければ、罵ることもしない……なぜならば、数を揃えることも、武器を整えることも、人質を取ることも、罠を用意することも、戦いの作法であると言えるからだ」
だから全てを受け入れよう。彼らの行動の全てが正しく戦いに挑む者の姿勢なのだから。何が何でも勝利を目指そうとする在り方を否定できる筈もない。
「同時に、君たちの行動は大きな意味がある……そうしないと勝てないと思われているのだから、それは俺にとって最高の名誉だ」
彼らの行動の全てがこちらへの警戒であり、畏怖であり、ある種の尊敬でもあるのだ。
師匠曰く、大勢の敵に囲まれるのは戦士にとって最高の名誉とのこと。
戦いの作法に則って大勢で武器を持って挑んで来る、俺はそれだけの戦士であると彼らは認めてくれているのだ。責める言葉も罵るセリフも許されないだろう。
敬意には、敬意を返そう。
「そうかよ……」
石崎はそんな俺の言葉に、何かを諦めたかのような瞳となり、最後の最後まで話が通じない何かから視線を逸らすかのように、バットを力強く握りしめた。
そんな彼らに、思わず穏やかな気持ちになりながら、俺はこう語りかけた。
「良いかい、まずは呼吸を整えろ」
山田もまたバッドに力を込める。
「視野は常に広く」
小宮と近藤はバットを持って右往左往するだけだ。
「数の利を活かせ」
他の生徒たちは倉庫の真ん中まで進んで来た俺の背後に回った。
「覚悟を決めろ」
誰かが喉を鳴らした音が耳に届く。
「自分を信じろ」
今度は深呼吸の音が聞こえた。
「そして掴み取って見せろ……数秒先の栄光を」
何が合図であったのかはわからない。わからないが、彼らは示し合わせたかのように一斉にこちらに突っ込んで来た。
「夢のような時間にしよう」
まずは俺の正面にいる石崎を処理すると決めた。バットを握って頭上から振り下ろそうとしている彼の顎先を指で撫でて脳震盪に追いやる。慣れない武器を使うから大振りになって隙だらけだった。
「え、あれ――」
意識を失ってゆっくりと膝から崩れ落ちていく石崎を尻目に、今度は右斜め後ろから同じくバットを持って襲い掛かって来た山田の顎先に瞬発力の全てを解き放った蹴りを放つ。
「ッ!?」
顎先と靴先が接触すればまたもや「チッ」という舌打ちのような音が響き、彼の巨体も崩れ落ちていく。
次は背後に振り返り、迫るバットをそれぞれ掴み取って握り潰し手前に引き寄せる。すると彼らの体も引き寄せられて体幹をこちらに傾けた。
そんな彼らのこめかみをノックでもするかのように軽快に、しかし独特の振動を与えるように叩くと、細かな衝撃と振動が頭蓋骨の内部で乱反射して彼らの脳を揺らして意識を遠ざける結果となる。
最後に、バットを持った状態で狼狽える小宮と近藤に視線をやって尻餅をつかせたことで、戦いは終わりとなった。
彼らが突っ込んで全滅するのにかかった時間は、きっと五秒にも満たなかっただろう。
一番最初に意識を失った石崎が完全に倒れこむまでに、他の戦力を鎮圧したのだから、本当に一瞬だった。
これはとても自然な結果だ。おかしくも無ければ不思議なことでもない。
約束された敗北に挑んでいるのが彼らであり、約束された勝利を得たのがこちらである。最初からこうなるってどちらも理解していた筈だ。
それでもこうしてわざわざ行動に移したのは、彼らなりのケジメなのかもしれないな。
「終わったよ」
一瞬で龍園クラスの生徒を制圧した俺がそう声をかけると、清隆グループのメンバーは全員がポカンとした顔のままこちらを眺めるだけで、一向に返事はない。
どうやら驚きを通り越して唖然とさせてしまったらしい。
明人も啓誠も、波瑠加さんも愛理さんも、瞼をパチパチ動かすだけである。
そんなメンバーの近くまで歩いていき、膝を突いて目線の高さを合わせた段階でようやく彼らの意識はこちらに戻って来た。
「無事かな?」
「あ、あぁ……何も問題はない」
「啓誠、鼻血の後があるが……」
「少し殴られただけだ。重症というほど、大袈裟なものでもないだろう」
「そうか。明人は頬に青あざがあるが」
「こっちも似たようなもんだ、ツバでも塗ってれば治る」
そんな昭和の治療法ではなく、しっかり冷やしてガーゼでも貼りなさい。
「波瑠加さんと愛理さんはどうかな?」
「だ、大丈夫……です」
「うん、私も何とか大丈夫かな」
「それなら良かった」
グループのメンバーには謝らないといけないな。
「ごめん、テンテン……私たち、凄く足引っ張っちゃったかも」
「気にする必要はないと、そう言わせてくれ……そもそも皆はどうやってここに集められたんだい?」
疑問に思ったことを尋ねるとまず波瑠加さんが申し訳なさそうに視線を下げる。
「私の下駄箱に……その、ラブレターが入ってたんだよね。無視するのも悪いと思ってしっかり断ろうと思ってさ」
「なるほど、呼び出し場所に行くと取り囲まれてしまったと」
なんて古典的な、昭和かよ。
「それで、波瑠加ちゃんのアドレスから、わ、私にメールが届いて……ごめんなさい」
同じく愛理さんも呼び出されてしまった。後は二人の身柄を押さえていると明人や啓誠に伝えておびき寄せるだけか。
もしかしたら抵抗しようとしたから怪我を負ったのかもしれないな、できればそうなる前に一報入れて欲しかったけど……いや、龍園たちもそこまで間抜けなことはしないか。真っ先にスマホを奪っただろうし、女子二人を人質に取られていると言われてしまえばどうしたって行動は制限されてしまうだろう。
「すまない天武、まさか龍園がここまで大胆な行動をするとは……人質まで作っておびき寄せてくるなんて」
啓誠は視線を下げて何とも言えない顔になっていた。
「まさかだなんて思う必要はないさ。普通はそんなことしてくるなんて思わないだろうからな。それより、そろそろここを出よう」
「こいつらはどうするつもりだ?」
頬に青あざを作った明人が立ち上がって、倒れ伏している龍園クラスの生徒たちを眺める。
「死んではいないよ。ちゃんと加減したからね……処分については、あの人を交えて話そうかな」
「あの人?」
全員で体育館倉庫の外に出ると、そこでは堀北先輩が待っていた。
「せ、生徒会長!?」
「元、生徒会長だ」
驚くメンバーにそう訂正してから先輩は俺を見つめて来る。
「どうやら無事に終わったようだな」
「えぇ、まぁ」
「中で倒れている連中は……どう処分する?」
「それに関しては……すまない皆、俺に任せてはくれないか?」
「えっと、テンテンはどうするつもりなの?」
「正直に言わせて貰うなら、彼らを退学にまで追い込みたくはない」
清隆グループの反応は、まぁ当然ながら良い物ではない。自分たちをここまで追い詰めた連中に慈悲をかけようというのだから自然な反応でもある。
「馬鹿なことを言っているのは重々承知しているよ、それでもだ」
「だが、落とし前をつけさせない訳にはいかないだろ」
拙いな、明人の言葉に反論の余地がない……。
龍園クラスの生徒たちを退学させたくないというのも、俺の我儘でしかないからな。
「ん……そうだな、この件をきっかけにあちらのクラスに考えを改めさせるよ。俺たちに暴力的に挑むには分が悪いことだってさ。その上で龍園からはしっかりと賠償をもぎ取る、どうかな?」
被害者である皆にそう伝えるのは心苦しくはある。だからせめてポイントなどの賠償で気を紛らわせて欲しかった。
俺の言葉に考え込む四人は、それでも最終的には納得してくれたようだ。もちろん内心では色々と不満もあるだろうが、ここは俺の顔を立ててくれたらしい。
「はぁ……わかった、お前がそう言うのならば、ここは任せよう」
「すまないね」
「しっかりと賠償をもぎ取ってくれ、そうじゃなければ納得はしないからな」
堀北先輩と同じく眼鏡の位置を直しながらそう言ってくる啓誠に頷きを返す。
「そんな訳で堀北先輩、後々龍園クラスと話し合いの場を設けるので、雑音を挟んで来るようなら証言して貰いたいんです。俺たちは被害者側だと」
「わかっている。事実その通りのようだからな、必要があればそう証言しよう」
まぁおそらく、あちらも大人しくはなるから、堀北先輩の出番はないんだろうけど。
「ありがとうございます」
一応、こちらはこれで一区切りがついたことになる。後は清隆が上手くやるかどうかだな。
懐からスマホを取り出して「こっちは片付けた」と清隆にメールを送っておこう。
「テンテン、こんな時に誰にメールしてるの?」
「気にしないで、ちょっとした報告だよ」
このグループのメンバーももしかしたら薄々感づいているのかもしれないな。今回の龍園たちの行動が、以前に黒幕がどうのという形で絡まれた件に繋がっていることを。
啓誠も明人も、こちらを気にしているようにも見える。
けれど言葉にしないのは、確信が持てないからだろうか?
皆には悪いことをしたかもしれないな、おそらく龍園には俺を動かす為の価値ある人質に見えたのかもしれないし、実際にそうなってしまっている。
「……テンテン?」
寂しい思いに耽っていると、波瑠加さんが心配したような顔で覗き込んできていた。
「もしかしてさ……グループから距離を取ろうと思ってる?」
「……驚いた、波瑠加さんは心が読めるのかい?」
「そんな訳ないじゃん。でもさ、何となくそう考えてるんじゃないかなって思ったの。その様子だと合ってるみたいだね」
「ん、何と言うか、龍園にとって皆が俺をおびき寄せる為の人質として価値があると思われたんだろうね」
そう考えると、ある程度の距離感は大事かもしれないと考えてしまった訳だ。別にこういった手段を使ってくるのは龍園に限った話でもないのだから。
「だからまぁ、距離を取るべきかと考えている」
啓誠と明人、波瑠加さんと愛理さんはとても複雑そうな表情を浮かべているな。
「ごめんね」
俺はもうちょっと配慮するべきだったということだろう。ごく当たり前の高校生活というものに憧れて甘えていたとも言えるのかもしれない。
清隆くらい何もかも壊れ気味な相手ならば何の心配もいらないのだが、この四人はそうではないのだ。
謝罪だけ伝えて彼らとの関係はここで終わりだ。明日から只のクラスメイトに戻るとしよう。変な憧れで荒事に巻き込んでしまったので、それが俺がやるべき最低限のケジメなのだろう。
そんなことを思って皆に別れを伝えて去ろうとすると、後ろから袖を引っ張られた。
振り返ると、そこにいたのは意外にも愛理さんであった。
「だ、大丈夫ですッ……えっと、その……私たちが、もっと頑張って、助けるから」
普段、あまり大きく主張することのない彼女が、言葉を選びながらも絶対に引かないと言わんばかりに袖を握る力を強める。
「もう、足手まといにはならないから、そんな寂しいことを言わないで、欲しい……清隆くんも、きっと寂しがると思うから」
「そうだね、愛理の言う通りだよ……なんかさ、勝手に足手まといみたいに思われるのは困るかな」
そして同調するように波瑠加さんも袖を引っ張って来た。
「そりゃこのグループはかなり緩い感じで、好きにすればいいって集まりだけどさ、そこまで一方的に距離を置かれるのは納得できないって。みやっちも、ゆきむーもそうでしょ?」
男子二人は互いに顔を見合わせてから小さく溜息を吐き、そして俺の肩をポンと叩いて無言で歩き出す。
なんだこいつら、カッコいいじゃないか。
「テンテン、もう一度チャンスをくれたっていいじゃない……今度は足手まといにはならないからさ。私を、私たちを隣に立たせてよ」
「……」
なるほど、そこまで言われると何も言い返せないな。
「そうか、そうだな……ん、俺が間違っていたよ、縁は尊ぶもので断ち切るものじゃない」
俺としたことがそこを誤るとは、師匠に殴られても仕方がないか。
人質として狙われるからどうしたというのだ、そんな思惑すらも磨り潰して突き進めるくらいに強くなればいいだけの話を、わざわざ複雑にする必要もないか。
仮にも正義の味方を目指す者が、こんな弱気で良い筈もないだろう。
改めて他者との縁は尊いものだと、そう思う瞬間であった。
いつも本作品を呼んでくださりありがとうございます。様々な意見や感想などを頂きいつも励みになっております。色々と悩んだ結果、こうなりました。
実は最初は全く逆の展開を考えていたんですけど、それはそれで軽井沢の扱いに困ると言いますか、勿体ないと言いますか、けれどせっかくの二次小説なんだから綾小路と佐倉の関係を深めても良いじゃないかとか考えて……この二次小説で一番悩んだ所かもしれません。
そこで考えました、佐倉を覚醒させて軽井沢と綾小路を取り合わせれば良い、清隆リア充ルートこそ私なりの正解だと。
いつも感想や評価などありがとうございます。これからもよろしくお願いします。